説明

ポリエステルの製造方法

【課題】脂環族ジオールのゲル化物、特にバッチ式の生産方式における連続生産時のゲル化物を抑制したポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含むポリエステルを製造するに際し、脂環族ジオール成分をスラリーとして、缶内温度が100℃以下の反応缶に供給した後、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続生産時のゲル化物の発生を抑制した、脂環族成分含有ポリエステルの製造方法である。さらに詳しくは、脂環族ジオールをスラリー化し、特定の温度の反応缶に添加した後にエステル化反応またはエステル交換反応を行うことで連続生産時のゲル化物の発生を抑制するポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂環族成分を含有するポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(以下PET)などの芳香族ポリエステルとは異なった光学特性、結晶化特性、機械特性を有しており、該ポリエステル単独で、または芳香族ポリエステルと組み合わせて使用される。しかしながら、脂環族成分の一つである脂環族ジオールは高温、水分または酸に晒されることにより開環し、得られるポリエステルにゲル化物が生成するという問題がある。
【0003】
ゲル化物の発生を抑制する方法としては、例えば、特許文献1では、リン系酸化防止剤等を配合させたポリエステルが、特許文献2ではエステル交換反応時のカルボキシル基濃度および水分率を制御する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、前述の方法では、反応缶への仕込み時に脂環族ジオールが高温、水分および酸に晒されることによる脂環族ジオールの開環を防ぐことができず、ゲル化物の抑制効果が十分でない。また、反応缶への仕込み時に脂環族ジオールの飛散が生じて反応缶の缶壁および撹拌軸への付着が生じることにより、バッチ式の生産方式において、連続して生産を行った場合、付着した脂環族ジオールが高温下に晒され、ゲル化物が発生する原因となってしまう。
【特許文献1】特開2004−67830号公報
【特許文献2】特開2005−314643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の課題を解決し、脂環族ジオールのゲル化物、特にバッチ式の生産方式における連続生産時のゲル化物の発生を抑制したポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した、本発明の目的は、少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含む下記式(1)、(2)を満足するポリエステルを製造するに際して、脂環族ジオール成分をスラリーとして、缶内温度が100℃以下の反応缶に供給した後、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステルの製造方法によって達成される。
【0007】
65℃≦示差走査熱量測定によるガラス転移点温度≦90℃・・・(1)
1.500≦ナトリウムD線での屈折率≦1.570・・・(2)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脂環族ジオールの添加時の飛散および高温、水分、酸によるゲル化物の発生を抑制したポリエステルを製造することができる。
【0009】
本発明によるポリエステルの製造方法は、液晶ディスプレイに好適な低光弾性係数を有したポリエステルフィルムを得ることができ、また光反射性に優れた積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエステルの製造方法は、少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含む下記式(1)、(2)を満足するポリエステルを製造するに際して、脂環族ジオール成分をスラリーとして、缶内温度が100℃以下の反応缶に供給した後、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステルの製造方法である。
【0011】
65℃≦示差走査熱量測定によるガラス転移点温度≦90℃・・・(1)
1.500≦ナトリウムD線での屈折率≦1.570・・・(2)
本発明の製造方法によるポリエステルは、ガラス転移点温度(以下Tg)が65℃から90℃の範囲にあることが必要である。
【0012】
Tgが65℃未満の場合、耐熱性が不足するため、得られるポリエステルまたはその成形体の光学特性が経時変化しやすく、またPET等と積層製膜する目的に使用する際には積層樹脂間のTg差が大きくなるために積層ムラ等が発生し、製膜安定性が損なわれる。積層フィルムとする場合、本発明の製造方法によって得られるポリエステルのTgを積層ポリマーのTgと合致させることが好ましく、積層ポリマーのTg(Tg1)と本発明におけるポリエステルのTg(Tg2)の差(|Tg1−Tg2|)が10℃以内、さらには5℃以内であることが好ましい。
【0013】
Tgが90℃を超える場合には、PET等を積層する際にTg差が大きくなりすぎるために、上記同様、積層ムラ等発生し、製膜安定性が損なわれ、またポリエステルの屈折率を低くすることが困難になってくる。よって本発明におけるポリエステルのTgは、70〜87℃の範囲が好ましく、さらには75〜85℃の範囲が好ましい。
【0014】
本発明の製造方法によって得られるポリエステルの屈折率については、1.500〜1.570の範囲にあることが必要である。屈折率を1.500未満とすることはポリエステルでは困難であり、1.570を超える場合には、積層ポリマーとの屈折率差が小さくなるため、得られた積層フィルムの光反射性が小さくなる。さらに本発明の製造方法によって得られるポリエステルの屈折率は、1.510〜1.560の範囲であることが好ましい。なお、本発明における屈折率は、23℃の条件にてナトリウムD線を用いて測定した屈折率を指す。
【0015】
本発明の製造方法では、前記した特性を与えるために、ポリエステルは少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含むことが必要である。ポリエステルに含まれる芳香環はTgを高める効果があるが、同時に屈折率を高め、光弾性係数を高める効果がある。
光弾性係数が大きい場合、フィルムに応力が作用した際に位相差が大きく変化するため、液晶ディスプレイ用途のフィルムには不適当である。
【0016】
そこで、本発明では、この芳香環成分を脂環族ジカルボン酸成分や脂環族ジオールで置換することにより、屈折率や光弾性係数を低減させている。本発明における脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロヘキサンジカルボン酸成分やデカリンジカルボン酸成分等を挙げることができる。特に入手の容易性や重縮合反応性の観点からはシクロヘキサンジカルボン酸成分が好ましい。シクロヘキサンジカルボン酸成分は、シクロヘキサンジカルボン酸やそのエステルを原料として用いることができる。
【0017】
なお、シクロヘキサンジカルボン酸成分など脂環族成分には立体異性体として、シス体、トランス体が存在するが、本発明ではトランス体比率が40%以下であることが好ましい。トランス体比率が高いと光弾性係数が大きくなるため劣る傾向にある。また、トランス体は、シス体に比べ、融点が高いため、トランス体比率が高くなると、室温程度で保管、または、輸送中等に、容易に凝固し、沈降してしまい、不均一となり反応性が悪くなるだけでなく、取り扱い上においても作業性が悪くなる。よって、トランス体比率は、好ましくは、35%以下、より好ましくは、30%以下である。
【0018】
本発明における脂環族ジオールとしては、スピログリコール成分やイソソルビド成分が好ましく、特に得られるポリエステルの色調の観点からスピログリコール成分が好ましい。ここでスピログリコールとは3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを指す。
【0019】
本発明において、例えばPETの場合、テレフタル酸成分(芳香環成分)をシクロヘキサンジカルボン酸等で置換するとTgが低下する。そこでスピログリコール成分やイソソルビド成分など脂環族ジオール成分をエチレングリコール成分に置換することでTgが上昇し、結果として本発明のポリエステルと積層するPETと同程度のTgに調整することができる。Tgを上昇させる効果はスピログリコール成分やイソソルビド成分において顕著である。
【0020】
本発明の製造方法では、ゲル化物の抑制の観点から、脂環族ジオールをスラリーとして反応缶へ供給した後、エステル化またはエステル交換反応を行う必要がある。脂環族ジオールをスラリーとせずに仕込んだ場合、温度、水分および酸の影響による脂環族ジオールの開環により、得られるポリエステルにゲル化物が発生したり、仕込み時に脂環族ジオールが飛散することにより反応缶の缶壁および撹拌軸に脂環族ジオールが付着して高温下に晒され、連続生産時にゲル化物が発生する。なお、ここで言うゲル化物とは、ポリエステル樹脂組成物を窒素雰囲気下、300℃×2.5hrの条件で加熱処理後、ポリエステルをオルト−クロロフェノールに溶解させた際の不溶物のことである。ゲル化物が多いポリエステルの場合、例えば、重縮合後、ストランド状に吐出する際に、形状がフシ糸状となって、カッターでカッティングできなくなることや製膜する際のフィルター濾過工程で多量のゲル化物により濾圧が異常に上昇したり、積層フィルムの表面欠点が増加したり、多層積層フィルムの積層厚みが変動する等の問題を生じることがある。本発明では、脂環族ジオールをスラリーとして供給することで、脂環族ジオールの高温、水分、酸による影響を軽減し、また脂環族ジオールの飛散による反応缶等への付着を防止することにより、ポリエステルのゲル化物の発生を抑制することが可能となる。
【0021】
脂環族ジオールをスラリー化するための分散媒は、特に限定されないが、ポリエステルを製造する際に使用する脂肪族ジオールを用いることが好ましく、ポリエステルがPET系である場合にはエチレングリコールであることが好ましい。また、脂環族ジオールスラリーの濃度については特に限定されないが、スラリー化および反応缶への供給時の取り扱いの点から、50重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
ポリエステルの製造において、一般的に反応缶はエステル化またはエステル交換反応缶と重縮合反応缶から成り、このような工程において連続生産を行った場合は、前バッチの余熱によりエステル化またはエステル交換反応缶が高温となっており、供給された脂環族ジオールが熱の影響で開環することによりゲル化物が発生してしまうため、反応缶に脂環族ジオールスラリーが供給される際の缶内温度が100℃以下である必要がある。好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。ここで言う缶内温度とは、反応缶内の缶壁および内容物の温度のことである。缶内温度が100℃を超えると熱による脂環族ジオールの開環が起き、得られるポリエステルにゲル化物が発生する。
【0023】
本発明における脂環族ジオールスラリーは、ゲル化物の抑制の観点から、アルカリ化合物を含有することが好ましい。アルカリ化合物の含有量としては特に限定されないが、ゲル化物の抑制への効果およびポリエステルの物性への影響の点から、脂環族ジオールスラリーに対して5〜50ppmであることが好ましい。アルカリ化合物を含有させることにより、脂環族ジオールへの、テレフタル酸等のジカルボン酸成分や酢酸マンガン等のエステル交換反応触媒のような酸の影響を緩和して、ゲル化物の発生を抑制することができる。使用するアルカリ化合物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0024】
本発明における脂環族ジオールスラリーは、脂環族ジオールへの水分の影響を抑制するため、水分率が1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下である。スラリーの水分率が1000ppmを超えると、脂環族ジオールがスラリー中の水分の影響により開環し、ゲル化物が発生する場合がある。
【0025】
本発明のポリエステルは、重縮合触媒として、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる、少なくとも1種を用いることが好ましく、特にゲル化物の抑制の観点から、チタン化合物を用いることが好ましい。
【0026】
本発明のポリエステルの製造方法において、重縮合触媒としてチタン化合物を使用する場合は、チタン化合物として、置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基の少なくとも1種であるチタン化合物が好ましく用いられる。
【0027】
具体的なアルコキシ基には、テトラエトキシド、テトラプロポキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシド、テトラ−2−エチルヘキソキシド等のチタンテトラアルコキシド、アセチルアセトン等のβ−ジケトン系官能基、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸等のヒドロキシ多価カルボン酸系官能基、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル系官能基が挙げられ、特に脂肪族アルコキシ基が好ましい。また、フェノキシ基には、フェノキシ、クレシレイト等が挙げられる。また、アシレート基には、ラクテート、ステアレート等のテトラアシレート基、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸またはそれらの無水物等の多価カルボン酸系官能基、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ二酢酸、カルボキシメチルイミノ二プロピオン酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、トリエチレンテトラミノ六酢酸、イミノ二酢酸、イミノ二プロピオン酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二プロピオン酸、メトキシエチルイミノ二酢酸等の含窒素多価カルボン酸系官能基が挙げられ、特に脂肪族アシレート基が好ましい。また、アミノ基には、アニリン、フェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。また、これらの置換基を2種含んでなるジイソプロポキシビスアセチルアセトンやトリエタノールアミネートイソプロポキシド等が挙げられる。
【0028】
本発明のポリエステルは、ゲル化物の抑制および重合活性の観点から、ポリエステル中のチタン原子量が重量基準で0.5ppm以上100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5〜70ppm、さらに好ましくは10〜50ppmである。100ppmを超える場合は、含有する金属量が増えることでゲル化が促進される場合がある。また、0.5ppm未満の場合は、重合活性が十分でないため、目標のポリマの溶液粘度(IV)まで到達しないことや結果的に高温下での滞留時間が長くなることでゲル化が促進される場合があるため好ましくない。
【0029】
本発明の製造方法において、前記チタン触媒は、重合反応器内の減圧を始める前に反応系へ添加させることが好ましい。しかしながら、ジカルボン酸成分とジオール成分からエステル交換反応やエステル化反応によって低重合体を製造する段階においては、チタン触媒は存在させない方が好ましい。低重合体を得る反応前または反応中にチタン触媒を添加した場合、チタン触媒に起因した微細粒子が発生し、得られたポリエステルに濁りが発生するため好ましくない。チタン触媒の添加時期は、低重合体を得るエステル交換反応やエステル化反応が実質的に終了した後から反応容器内を減圧する前の間を選択することが最も好ましい。
【0030】
本発明の製造方法では、3価のリン元素を含む耐熱安定剤を添加することが、ゲル化物発生を抑制する効果がより得られる傾向にあり好ましい。前記した3価のリン元素を含む耐熱安定剤としては、市販の耐熱安定剤を適用することができ、このようなリン化合物として、例えば亜リン酸エステル、ジアリール亜ホスフィン酸アルキル、ジアリール亜ホスフィン酸アリール、アリール亜ホスホン酸ジアルキル、アリール亜ホスホン酸ジアリールを挙げることができ、具体的にはトリフェニルホスファイト、トリス(4−モノノニルフェニル)ホスファイト、トリ(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス[2,4−(ビス1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、3,9―ビス(2,4−ジクミルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、フェニル−ネオペンチレングリコール−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4―ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラ(C12〜C15アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0031】
本発明のポリエステルの製造方法においては前記の3価のリン元素を含む耐熱安定剤以外のリン化合物を使用しても良く、例えばリン酸系、亜リン酸系、ホスホン酸系、ホスフィン酸系化合物等を挙げることができ、中でもこれらのエステル化合物が、3価のリン化合物と併用して好ましく使用される。
【0032】
本発明のポリエステルは、ゲル化物の抑制の観点から、ポリエステル中のリン原子量が重量基準で70ppm以上300ppm以下であることが好ましく、より好ましくは90〜270ppm、さらに好ましくは100〜250ppmである。70ppm未満である場合、ポリエステルの熱安定性は不足しており、重縮合反応中に熱劣化異物を発生させたり、長期間におよんで製膜する際に熱劣化物がフィルム欠点として発生する場合がある。一方、300ppmを超える場合、反応触媒等と反応して内部粒子を生成し、フィルムの欠点となってしまう場合がある。
【0033】
本発明において、重縮合反応時のポリエステルの熱劣化、着色抑制の観点から重縮合温度は260〜290℃の出来るだけ低温で実施することが好ましい。重縮合温度とは、通常、230〜240℃から徐々に温度を上げていき、ある目標の温度に到達した後は一定の温度で重縮合するため、その最終の一定温度のことである。290℃より高い場合は、重縮合反応は促進されるものの、熱劣化物が発生しやすく、また、260℃より低い場合は、重合活性が落ち、重合時間が遅延することで熱劣化物が発生しやすいために好ましくない。
【0034】
本発明において、ポリエステルは、屈折率や光弾性係数を低下させるために、ポリエステル1kg中に含有される芳香環モル数を4.8モル以下とすることが好ましく、より好ましくは4.0モル以下、さらに好ましくは2.0モル以下である。4.8モルを超える場合には屈折率や光弾性係数が増大する傾向にあるため好ましくない。なお、本発明における芳香環モル数とはベンゼン環モル数を基本単位としている。本発明における定義をPETとポリエチレンナフタレート(以下PEN)を例にして説明する。
【0035】
PETの場合、基本繰り返し単位の分子量は192であるため、ポリマー1kg当たりの基本繰り返し単位数は5.2となる。基本繰り返し単位中にテレフタル酸成分(ベンゼン環1個相当)は1モル含まれるため、PETの芳香環モル数は5.2と計算される。一方、PENの場合、基本繰り返し単位の分子量は242であり、ポリマー1kg当たりの基本繰り返し単位数は4.1である。基本繰り返し単位中にナフタレンジカルボン酸成分は1モル含まれるが、ナフタレン環はベンゼン環2個に相当するため、PENの芳香環モル数は8.2モルと計算する。
【0036】
本発明において、ポリエステルは、少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含むが、その他ジカルボン酸成分としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分から選択される少なくとも一種のジカルボン酸成分を全ジカルボン酸成分に対して20〜95モル%含有することが好ましい。またグリコール成分については、エチレングリコール成分をジオール成分として20〜95モル%含有することが好ましい。前記した芳香族ジカルボン酸成分が20モル%未満の場合、Tgを65℃以上にすることが難しくなったり、例えばPETやPENと積層する際にはこれらのポリエステルとの層間接着性が悪化してくる。同様にエチレングリコール成分が20モル%未満の場合、PETやPENと積層した際、これらのポリエステルとの層間接着性が悪化してくる。一方、芳香族ジカルボン酸成分が95モル%を超える場合、屈折率や光弾性係数を低減することが難しくなり、エチレングリコール成分が95モル%を超える場合にはTgを65℃以上にすることが難しくなる。
【0037】
本発明のポリエステルにおいて、脂環族ジカルボン酸成分、脂環族ジオールの含有量は、前記記載よりそれぞれ5〜80モル%の範囲が好ましく、さらに8〜50モル%が好ましい。
【0038】
本発明において、ポリエステルは、非晶性であることが好ましく、また前記した共重合範囲では実質的に非晶性である。本発明における非晶性とは、DSC測定において融解熱量が4J/g以下であることをいう。このような非晶性のポリエステルはフィルム製造においてその光学特性が変化しにくく、好ましい。
【0039】
一方、このような非晶性ポリエステルは乾燥によって熱融着し、塊を作りやすい傾向がある。そこで、結晶性ポリエステルを5〜50重量%含ませることで乾燥による塊形成を抑制することができる。そのような結晶性ポリエステルとしては、示差走査熱量測定における結晶融解熱量が4J/g以上であることが好ましい。
【0040】
結晶性ポリエステルを含ませる方法としては、ベント式押出機による溶融混練が好ましい。すなわち、結晶性ポリエステルと本発明のポリエステルをベント式押出機で溶融混練してペレットを得る方法である。結晶性ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートやこれらの共重合体を挙げることができるが、ポリエチレンテレフタレートが一番好ましい。
【0041】
本発明におけるポリエステルに含有される芳香族ジカルボン酸成分は、前記した種類から少なくとも選択されるが、屈折率や光弾性係数の観点からテレフタル酸成分やイソフタル酸成分が好ましく、これらは同時に使用しても構わない。特にテレフタル酸成分はその他ポリエステルとの接着性等の観点から主に使用することが好ましい。その他ジカルボン酸成分としては、特性の許す限り従来公知のものを共重合しても構わない、グリコール成分についても同様である。このような成分としては、例えばアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やそのエステル、4,4’−ビスフェニレンジカルボン酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸やそのエステル、ジエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール成分を挙げることができる。さらに無機粒子、有機粒子、染料、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、ワックス等を含有させても構わない。
【0042】
本発明において、ポリエステルは、金属成分としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn、Co、Mnから選択される元素を含有することが好ましい。これらの金属元素を含有することでポリエステルをフィルム成形する際の静電印加性が向上する。なおアルカリ金属の場合、Naはポリエステルを黄色く着色しやすいので、Kがより好ましい。アルカリ土類金属ではCaは異物を形成し易いので、Mgがより好ましい。Zn、Co、MnではMnが異物や色調の点から好ましい。このなかでもMgとMnが樹脂の透明性の観点から好ましく、特にMnが好ましい。
【0043】
前記した金属化合物は、エステル交換反応触媒を兼ねても構わない。特にマンガン化合物はエステル交換反応での活性が強く、好ましい。金属化合物はポリエステルに可溶なものが好ましく、水酸化物や塩化物、酢酸塩が好ましく、特に酢酸塩が好ましい。
【0044】
次に本発明のポリエステルおよびフィルムの各製造方法について詳しく説明する。
【0045】
本発明のポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸とジオールとをエステル化させて低重合体を合成し、次いでこれを重縮合する方法とジカルボン酸エステルとジオールとをエステル交換反応させて低重合体を合成し、次いでこれを重縮合する方法を採用することができる。スピログリコールは酸成分によって分解しやすいため、分解を避けるためにエステル交換反応によって重合することが好ましい。
【0046】
エステル交換法の場合、原料として例えばテレフタル酸ジメチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル、エチレングリコール、エチレングリコールを分散媒としてアルカリ化合物を含有するスピログリコールのスラリーを所定のポリマー組成となるように、缶内温度が100℃以下の反応缶へ仕込む。この際には、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加すれば反応性が良好となる。これらを150℃程度で溶融したのち酢酸マンガンなどをエステル交換反応触媒として添加する。150℃では、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。次いで反応容器内を235℃まで昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。このようにしてエステル交換反応が終了した後トリメチルリン酸等のエステル交換反応触媒失活剤を添加する。
【0047】
次いでクエン酸チタンキレートや三酸化アンチモン等の重縮合触媒を添加する。重縮合触媒の添加が終了したら反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度をゆっくり285℃まで昇温しながら装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧する。重縮合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定の撹拌トルクとなった時点で反応を終了し、重合装置からポリエステルを水槽へ吐出する。吐出されたポリエステルは水槽で急冷して、カッターでチップとする。
【0048】
このようにしてポリエステルを得ることができるが、上記は一例であって、モノマーや触媒および重合条件はこれに限定されるわけではない。
【0049】
このようにして得られたポリエステルは、光弾性係数が低く、液晶ディスプレイ用フィルムとして好適である。また本発明のポリエステルとPET等とを交互に積層したフィルムは光反射性に優れ、反射材用途に好適である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
(1)ポリエステルの熱特性(ガラス転移点、結晶融解熱量)
測定するサンプルを約10mg秤量し、アルミニウム製パン、パンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC7型)によって測定した。測定においては窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温した後液体窒素を用いて急冷し、再び窒素雰囲気中で20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温する。この2度目の昇温過程でガラス転移点を測定した。
【0052】
また、結晶融解熱量は、2度目の昇温過程で現れる結晶融解ピークの面積から算出した。
(2)ポリエステルの屈折率
ポリエステルを溶融押し出しすることで厚さ100μmの未延伸シートを得る。ついで光源としてナトリウムD線を用い23℃の温度条件にて株式会社アタゴ製 「アッベ式屈折率計 NAR−4T」で屈折率を測定した。
(3)固有粘度
固有粘度はオルトクロロフェノールを溶媒とし、25℃で測定した。
(4)脂環族ジオールスラリーの水分率
カールフィッシャー式水分測定装置(京都電子製、MKF−12)で、スラリー0.3mlの水分量を測定した。
(5)ポリエステルのゲル化物量
ポリエステル1gを凍結粉砕して直径300μm以下の粉体状とし真空乾燥する。この試料を、オーブン中で、窒素雰囲気下、300℃で2.5時間熱処理する。これを、50mlのオルトクロロフェノール(OCP)中、80〜150℃の温度で0.5時間溶解させる。続いて、ブフナー型ガラス濾過器(最大細孔の大きさ20〜30μm)で濾過し、洗浄・真空乾燥する。濾過前後の濾過器の重量の増分より、フィルターに残留したOCP不溶物の重量を算出し、OCP不溶物のポリエステル樹脂組成物重量(1g)に対する重量分率を求め、ゲル化物量(%)とした。
【0053】
ゲル化物量10重量%以下を合格とした。
(6)シクロヘキサンジカルボン酸のシス、トランス体比率
試料をメタノールで5〜6倍に希釈し、その希釈溶液0.4μlを液体クロマトグラフィーで下記条件にて測定した。
装置:島津製LC−10ADvp
カラム:キャピラリーカラム Agilent Technologies社製DB−17(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)
昇温条件:初期温度110℃、初期時間25分、昇温速度6℃/min、最終温度200℃
(7)ポリエステル中のチタン元素、リン元素、アンチモン元素、ゲルマニウム元素の含有量
堀場製作所製蛍光X線装置(型番MESA−500W)を用い、ポリマの蛍光X線の強度を測定した。この値を含有量既知のサンプルで予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算した。
(8)光弾性係数(×10−12Pa−1
短辺1cm長辺7cmのサンプルを切り出した。このサンプルの厚みをd(μm)とする。このサンプルを(株)島津製作所社製TRANSDUCER U3C1−5Kを用いて、上下1cmずつをチェックに挟み長辺方向に1kg/mm(9.81×10Pa)の張力(F)をかけた。この状態で、ニコン(株)社製偏光顕微鏡5892を用いて位相差R(nm)を測定した。光源としてはナトリウムD線(589nm)を用いた。これらの数値を光弾性係数=R/(d×F)にあてはめて光弾性係数を計算した。
【0054】
光弾性係数が100未満の場合を合格とした。
(9)反射率
日立製作所製 分光光度計(U−3410 Spectrophotometer)にφ60積分球130−0632((株)日立製作所)および10°傾斜スペーサーを取り付け反射率のピーク値を測定した。なお、バンドパラメーターは2/servoとし、ゲインは3と設定し、187nm〜2600nmの範囲を120nm/min.の検出速度で測定した。また、反射率を基準化するため、標準反射板として付属のBaSO板を用いた。なお、本評価法では相対反射率となるため、反射率は100%以上となる場合もある。
(10)剥離性
JIS K5600(2002年)に従って試験を行った。なお、フィルムを硬い素地とみなし、2mm間隔で25個の格子状パターンを切り込んだ。また、約75mmの長さに切ったテープを格子の部分に接着し、テープを60°に近い角度で0.5〜1.0秒の時間で引き剥がした。ここで、テープにはセキスイ製セロテープ(登録商標)No.252(幅18mm)を用いた。評価結果は、格子1つ分が完全に剥離した格子の数で表した。また、試験フィルムの厚みが100μmより薄い場合には、厚さ100μmの二軸延伸PETフィルム(東レ製“ルミラー”T60)に試験フィルムを接着剤で強固に貼りあわせしたサンプルを剥離試験に用いた。この際には、試験サンプルを貫通しないように試験サンプルの面に格子を切り込んでテストを実施した。剥離個数が4個以下を合格とした。
【0055】
なお、以下に触媒の合成方法を記す。
【0056】
参考例1(触媒A.クエン酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた3Lのフラスコ中に温水(371g)にクエン酸・一水和物(532g、2.52モル)を溶解させた。この撹拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.00モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を真空下で蒸留した。その生成物を70℃より低い温度まで冷却し、そしてその撹拌されている溶液にNaOH(380g、3.04モル)の32重量/重量%水溶液を滴下漏斗によりゆっくり加えた。得られた生成物をろ過し、次いでエチレングリコール(504g、80モル)と混合し、そして真空下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(Ti含有量3.85重量%)を得た。
【0057】
参考例2(触媒B.乳酸キレートチタン化合物の合成方法)
撹拌機、凝縮器及び温度計を備えた2Lのフラスコ中に撹拌されているチタンテトライソプロポキシド(285g、1.00モル)に滴下漏斗からエチレングリコール(218g、3.51モル)を加えた。添加速度は、反応熱がフラスコ内容物を約50℃に加温するように調節された。その反応混合物を15分間撹拌し、そしてその反応フラスコに乳酸アンモニウム(252g、2.00モル)の85重量/重量%水溶液を加えると、透明な淡黄色の生成物(Ti含有量6.54重量%)を得た。
【0058】
実施例1
(ポリエステルの合成)
エチレングリコールを分散媒とし、スピログリコール(以下、SPG)を35重量%含有する、水分率100ppmのスラリーを57重量部(スピログリコール成分として20重量部)エステル交換反応装置の缶内温度を80℃に保ちながら仕込んだ後、テレフタル酸ジメチルを67.6重量部、シス/トランス体比率が75/25である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(以下、CHDA)を17.4重量部、エチレングリコールを17重量部、酢酸マンガン四水塩を0.04重量部をそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。内容物を150℃で溶解させて撹拌した。
【0059】
撹拌しながら反応内容物の温度を235℃までゆっくり昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールを留出した後、トリエチルホスホノアセテート(以下、TEPA)を0.02重量部(P元素として28ppm)含んだエチレングリコール溶液を添加しエステル交換反応を終了した。トリエチルホスホノアセテートを添加した後10分間撹拌してチタン触媒Aをチタン原子として5ppmとなるように添加した。その後エステル交換反応物を重合装置に移行した。
【0060】
次いで重合装置内容物を撹拌しながら減圧および昇温し、エチレングリコールを留出させながら重縮合反応を行った。なお、減圧は90分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は90分かけて235℃から285℃まで昇温した。
【0061】
重合装置の撹拌トルクが所定の値に達したら重合装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、チップを得た。
【0062】
1バッチ目の重合が完了した後、重合装置の温度を初期状態に戻し、そのまま再度原料を仕込んで2バッチ目の重合を実施した。得られたポリエステルのゲル化物量は2.0%と良好であった。
【0063】
得られた2バッチ分のポリエステルを均等に混合し、ポリエステルAを得た。
【0064】
同様にテレフタル酸ジメチルを100重量部、エチレングリコールを64重量部用いる以外は前記と同様にしてPET樹脂を重合した。得られたPET樹脂の固有粘度は0.65でありTgは80℃であった。
【0065】
(単層2軸延伸フィルムの製膜)
ポリエステルチップを前記ベント式二軸押出機に供給し、溶融後、金属不織布フィルターによって濾過した後、Tダイから溶融シートとして押し出した。溶融シートは静電印加法(電極は直径0.15ミリのタングステンワイヤーを使用)によって表面温度が25℃に制御された鏡面ドラム上で冷却固化され、未延伸シートとなった。該未延伸シートを用いて光弾性係数を測定した。光弾性係数は85×10−12Pa−1であった。
【0066】
(積層ポリエステルフィルムの製膜)
前記ポリエステルAおよびPET樹脂をそれぞれ2台のベント式二軸押出機に供給した。
【0067】
ポリエステルAおよびPET樹脂は、それぞれ、押出機にて溶融状態とし、ギヤポンプおよびフィルタを介した後、101層のフィードブロックにて合流させた。このとき、積層フィルムの両表層がPET樹脂層となるようにし、積層厚みはポリエステルA層/PET樹脂層が1/2となるように交互に積層した。すなわちポリエステルA層は50層、PET層は51層となるように交互に積層した。
【0068】
このようにして得られた101層からなる積層体を、ダイに供給し、シート状に押し出し、静電印加(直流電圧8kV)にて表面温度25℃に保たれたキャスティングドラム上で急冷固化した。
【0069】
得られたキャストフィルムは、ロール式縦延伸機に導き、90℃に加熱されたロール群によって加熱し、周速の異なるロール間で長手方向に3倍に延伸した。縦方向に延伸が終了したフィルムは、次いでテンター式横延伸機に導いた。フィルムはテンター内で100℃の熱風で予熱し、横方向に3.3倍に延伸した。延伸されたフィルムはそのままテンター内で200℃の熱風にて熱処理した。このようにして厚さ50μmのフィルムを得ることができた。得られたフィルムを用いて反射率を測定した。反射率は98%であった。
【0070】
得られたポリエステルとフィルムの特性を表1、2に示す。本発明のポリエステルフィルムは光弾性係数が85×10−12Pa−1であり、屈折率も1.550と低いために積層フィルムとした際には優れた光反射性を有していた。
【0071】
実施例2
水酸化カリウム20ppmを含有したスラリーを使用し、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共に旭電化工業(株)製ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)0.15重量部(P元素として147ppm、以下、PEP36)を添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。水酸化カリウムおよびPEP36の添加によって、よりゲル化物量が低減された。
【0072】
実施例3
水酸化リチウム20ppmを含有したスラリーを使用し、チタン触媒Bをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。水酸化リチウムおよびPEP36の添加によって、よりゲル化物量が低減された。
【0073】
実施例4
CHDA、SPGの量比の変更および水分率300ppmのスラリーを使用し、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。ゲル化物量は少なく良好であったが、芳香環モル数が大きいために光弾性率が若干増加した。
【0074】
実施例5
CHDA、SPGの量比の変更および水酸化カリウム20ppmを含有したスラリーを使用し、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。屈折率が十分低いために優れた光反射性を示したが、共重合成分量が増加したためPETとの相溶性が低下し、層間剥離性が弱く、SPGの共重合量が多いためゲル化率が若干高くなった。
【0075】
実施例6
水酸化カリウム20ppmを含有したスラリーを使用し、二酸化ゲルマニウムをゲルマニウム原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。ゲル化物量は少なく良好であり、物性の変化もほとんど見られなかった。
【0076】
実施例7
水酸化カリウム20ppmを含有したスラリーを使用し、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。ゲル化物量は少なく良好であり、物性の変化もほとんど見られなかった。
【0077】
実施例8
CHDAのシス、トランス体の比が、トランス体40%のものを使用し、水酸化カリウム20ppmを含有した水分率200ppmのスラリーを使用し、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。重合時にトランス体の析出により仕込み配管等が若干詰まり気味になり、得られたフィルムもトランス体が多いことから若干光弾性係数が高くなった。
【0078】
実施例9
CHDAの代わりにデカリン酸ジメチル25mol%に変更し、水酸化カリウム20ppmを含有した水分率500ppmのスラリーを、エステル交換反応装置の缶内温度を100℃に保ちながら仕込み、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。水分率およびスラリー仕込み時の缶内温度の影響により、若干ゲル化物量が多めであった。
【0079】
実施例10
SPGの代わりにイソソルビド10mol%に変更し、水酸化ナトリウム20ppmを含有した水分率1000ppmのスラリーを、エステル交換反応装置の缶内温度を90℃に保ちながら仕込み、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合した。さらに実施例1で重合したPET樹脂を用い、同様の条件で積層フィルムを得た。結果を表1、2に示す。水分率およびスラリー仕込み時の缶内温度の影響により、若干ゲル化物量が多めであった。
【0080】
比較例1
実施例1のポリエステルの重合において、スラリーをエステル交換反応装置の缶内温度を110℃に保ちながら仕込み、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加し、TEPAと共にPEP36を0.15重量部添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、スラリー供給時の缶内温度が規定の範囲外であったため、2バッチ目のゲル化物量は不良であった。
【0081】
比較例2
実施例1のポリエステルの重合において、SPG粉体および水酸化カリウム20ppmをスラリーとせずに計量した後、エステル交換反応装置に仕込み、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、SPGをスラリーとせずに供給したため、2バッチ目のゲル化物量は不良であった。
【0082】
比較例3
実施例1のポリエステルの重合において、SPG粉体をスラリーとせずに計量した後、エステル交換反応装置に仕込み、チタン触媒Aをチタン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、SPGをスラリーとせずに供給したため、2バッチ目のゲル化物量は不良であった。
【0083】
比較例4
実施例1のポリエステルの重合において、CHDAの代わりにイソフタル酸を15mol%共重合し、スピログリコールは共重合せず、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、ゲル化物量は少なく、脂環族ジカルボン酸成分、脂環族ジオール成分のいずれも含有しないために屈折率、光弾性係数が大きく、積層フィルムの反射率も小さいものであった。
【0084】
比較例5
実施例1のポリエステルの重合において、CHDAは共重合せず、SPGの代わりにエチレングリコールでスラリー化したシクロヘキサンジメタノール成分を30mol%共重合して、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、ゲル化物量は少なく、屈折率は低下したものの、若干光弾性係数が大きく、積層フィルムの反射率も若干劣るものであった。
【0085】
比較例6
実施例1のポリエステルの重合において、CHDAは共重合せず、エチレングリコールでスラリー化したSPGを45mol%共重合して、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、Tg、ゲル化率が非常に高く、積層フィルムの剥離性も劣るものであった。また、重縮合反応中に低分子量物の飛沫が多く、真空回路を少し閉塞し、真空度不良が発生した。
【0086】
比較例7
実施例1のポリエステルの重合において、CHDAを25mol%共重合し、SPGは共重合せず、三酸化アンチモンをアンチモン原子として20ppmとなるように添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステルを重合し、積層フィルムを得た。結果を表1、2に示すが、ゲル化物量は少なく、屈折率は目標範囲内であるが、Tgが下がり、積層フィルムの剥離性に劣り、反射率も小さいものであった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも脂環族ジカルボン酸成分および脂環族ジオール成分を含む下記式(1)、(2)を満足するポリエステルを製造するに際して、脂環族ジオール成分をスラリーとして、缶内温度が100℃以下の反応缶に供給した後、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、引き続き重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステルの製造方法。
65℃≦示差走査熱量測定によるガラス転移点温度≦90℃・・・(1)
1.500≦ナトリウムD線での屈折率≦1.570・・・(2)
【請求項2】
脂環族ジオールスラリーがアルカリ化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
脂環族ジオールスラリーの水分率が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
脂環族ジオール成分がスピログリコール成分であり、全ジオール成分中5〜80モル%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
重縮合触媒として、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物から選ばれる、少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
重縮合触媒として、アルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基および水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有しているチタン化合物を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
チタン化合物のアルコキシ基がβ−ジケトン系官能基、ヒドロキシカルボン酸系官能基およびケトエステル系官能基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
ポリエステル中のチタン原子量が、0.5ppm以上100ppm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項9】
3価のリン系耐熱安定剤を添加することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項10】
ポリエステル中のリン原子量が、70ppm以上300ppm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項11】
脂環族ジカルボン酸成分がシクロヘキサンジカルボン酸成分であり、全ジカルボン酸成分中5〜80モル%含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項12】
シクロヘキサンジカルボン酸成分として立方異性体のシス、トランス体を含有し、トランス体の含有量が40%以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項13】
ポリエステルの繰り返し単位に含まれる芳香族モル数がポリエステル1kg当たりに換算して4.8モル以下である請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−1669(P2009−1669A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163892(P2007−163892)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】