説明

ポリエステルチップ

【課題】表面粗面化、表面結晶化工程における装置への粘着やおこしの問題がほとんどなく、続く高温乾燥でも壁面への粘着が起こらないポリエステルチップを提供する。
【解決手段】示差熱量分析(DSC)において、昇温速度が5℃/minでの結晶融解熱量が0〜5mJ/mgであるポリエステルAと10〜100mJ/mgであるポリエステルBを少なくとも含んでなり、ポリエステルAとポリエステルBの総和に対するポリエステルBの重量分率が5重量%以上50重量%以下であり、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minで210〜270℃の温度範囲における結晶融解熱量が5.1〜40mJ/mgであるポリエステルチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルチップに関するものである。更に詳しくは、低屈折率用ポリエステルチップに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略することがある)は、汎用性に優れた樹脂であるが、PETに要求される特性も高度化しており、ホモPETのみでは達成できない場合もある。その特性としては例えば、強靱性、柔軟性、低屈折率、耐薬品性、耐加水分解性、低温サイクル性、生分解性などであり、その場合、ポリエステルを構成するジオール成分、ジカルボン酸成分を一部別の置換基に置き換えて、ランダム共重合させて上記特性を付与する方法が広くとられる。
【0003】
しかしながら、共重合は、ポリエステル主鎖の配列を乱すため、結晶性が著しく低下し、ある範囲の共重合量では完全に非晶性となる。非晶性ポリエステルは以下の点で問題がある。第1の問題として、予備結晶化が難しいために高温真空乾燥が実施できないこと。第2に、非結晶性であるため、長期間保管時に経時変化が起こりやすい問題が指摘されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
第1の問題を解決する方策として、例えば高温真空乾燥を行わず、ポリエステルのガラス転移点温度(以下Tgと略することがある)以下で、不活性ガスや除湿空気雰囲気(例えば窒素、アルゴン等)に置くことにより、チップ中の水分量をほぼ問題ないレベルまで脱水することができる。または、ポリエステルチップを予備乾燥または予備結晶化を行わずに溶融押出する方法として、高真空下で水分を除去しつつ溶融押出する二軸スクリュー押出機(TWIN SCREW EXTRUDER)の存在が知られている。しかしながら、除湿空気雰囲気による乾燥は時間がかかり、高温真空乾燥の2倍以上の時間が必要とされるため、生産スピードの歩留まり悪化の原因となる。また、高真空下で水分を除去しつつ溶融押出する二軸スクリュー押出機は、乾燥がいらないため生産性に非常に優れているが、わずかな時間ではあるが、吸水した状態でポリエステルが溶融されているため、乾燥チップと比べて、固有粘度の低下と分解モノマーの発生が多い(特許文献3)。
【0005】
本発明のポリエステルチップは、低屈折率用の原料として好適であり、PETを主体とした多層干渉反射フィルム用のポリエステルとして有用であるが、乾燥不足の場合のポリエステル原料の固有粘度低下は、積層状態を乱して反射率むらとなるため好ましくない。
【特許文献1】特開平09−241360号公報。
【特許文献2】特開平08−165339号公報。
【特許文献3】特開平11−268098号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このように高温乾燥ができないがために発生する問題を解決し、さらには、非晶性に由来する経時変化による問題も解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の積層フィルムは以下の構成からなる。
【0008】
すなわち、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minでの結晶融解熱量が0〜5mJ/mgであるポリエステルAと10〜100mJ/mgであるポリエステルBを少なくとも含んでなり、ポリエステルAとポリエステルBの総和に対するポリエステルBの重量分率が5重量%以上50重量%以下であり、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minで210〜270℃の温度範囲における結晶融解熱量が5.1〜40mJ/mgであるポリエステルチップである。
【0009】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、ガラス転移温度が60℃以上であり、屈折率が1.575以下である。
【0010】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、ポリエステルAを構成するジオール成分が、エチレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、フルオレンからなる群から選ばれる2種類以上含まれてなる。
【0011】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、ポリエステルAを構成するジカルボン酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸からなる群から選ばれる2種類以上含まれてなる。
【0012】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、リン系化合物が0.03〜3%含まれてなる。
【0013】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、結晶融解温度が235℃以下である。
【0014】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、ポリエステルAとポリエステルBを剪断速度10s−1以上で、0.5〜40分間溶融混練されることにより製造されてなる。
【0015】
また、本発明のポリエステルチップの好ましい態様によれば、表面粗面化もしくは表面結晶化工程を施こされている。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、従来高温乾燥ができなかったポリエステルチップを高温乾燥することができる。また、本発明によって得られたポリエステルチップは低屈折率用ポリエステルとして有用であり、例えば干渉反射フィルムの低屈折率層として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリエステルチップは、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minの時の結晶融解熱量が、0〜5mJ/mgであるポリエステルAと10〜100mJ/mgであるポリエステルBを少なくとも含んでなり、ポリエステルAとポリエステルBの総和に対する、ポリエステルBの重量分率が5重量%以上50重量%以下であり、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minの時、210〜270℃の温度範囲における結晶融解熱量が、5.1〜40mJ/mgでなければならない。このような構成をとることにより、従来、非晶性であった共重合ポリエステルに結晶性を持たせることができ、予備結晶化と高温乾燥を行うことができるようになるものである。通常、ポリエステル同士をコンパウンドすると溶融混練中にエステル交換反応が進み、最終的には両者の中間の特性を持った反応物が得られる。しかし、溶融混練初期の場合、両者はあまり分散されていない状態のため、非晶性ポリエステルAと結晶性ポリエステルBのコンパウンドにおいて、ポリエステルBの結晶性と配合比をうまく調整することにより、コンパウンド物が結晶性を持つようになることを見出したものである。また、フィルム状で延伸熱処理を行った際の、経時による物性低下も抑制されるものである。
【0019】
ポリエステルAの結晶融解熱量が5mJ/mgを超える場合、結晶性が高くなりすぎ、延伸時に屈折率の上昇が大きくなるため好ましくない。より好ましい結晶融解熱量は、0〜2.5mJ/mgである。また、ポリエステルBの結晶融解熱量は10〜100mJ/mgであることが必要であり、10mJ/mg未満であると、ポリエステルチップが結晶性を持つことができず、結晶化工程において融着を生じる。逆に結晶融解熱量が100mJ/mgよりも大きいポリエステルは、結晶性が高すぎるために、延伸性が悪くなったり、延伸時に屈折率の上昇が大きくなるため好ましくない。より好ましい結晶融解熱量は、15〜70mJ/mgである。また、ポリエステルAとポリエステルBの総和に対する、ポリエステルBの重量分率が5重量%未満であると、結晶性成分が少なく、得られたポリエステルチップが結晶性を持つことができない。また、重量分率が50重量%より大きいと、結晶性が高くなりすぎ、延伸時に屈折率の上昇が大きくなるため好ましくない。より好ましい重量分率は8重量%以上30重量%以下である。また、得られたポリエステルチップの210〜270℃の温度範囲における結晶融解熱量が、5.1〜40mJ/mgでなければならない。5.1mJ/mg未満であると、結晶化工程において装置への融着が生じやすいとともに、経時によるフィルム物性の変化が大きくなる。40mJ/mgは、結晶性が高くなりすぎ、延伸時に屈折率の上昇が大きくなるため好ましくない。より好ましい結晶融解熱量は、5.5〜20mJ/mgである。
【0020】
本発明におけるポリエステルとは、ジカルボン酸誘導体とジオール誘導体との重縮合体であるポリエステル樹脂を含み、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートなどを用いることができる。特にポリエチレンテレフタレートは、安価であるため、非常に多岐にわたる用途に用いることができ、効果が高い。また、これらの樹脂はホモ樹脂であってもよく、共重合体またはブレンド体であってもよい。
【0021】
本発明のジカルボン酸誘導体としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレン酸、1,5−ナフタレン酸、2,6−ナフタレン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸などが挙げられ、またそれらをエステル化したものなどが挙げられる。また、ジオール誘導体としては1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0022】
本発明のポリエステルチップは、ガラス転移温度が60℃以上であり、屈折率が1.575以下であることが好ましい。ガラス転移温度が60℃未満である場合、PETとの共延伸性が悪くなり、延伸ムラや破れを生む可能性がある。また、屈折率が1.575よりも大きいと、PETとの屈折率差が小さくなり、高性能な干渉反射フィルムを得ることができなくなる。より好ましい屈折率は1.570以下である。
【0023】
低屈折率化するための処方として、ポリエステルAを構成するジオール成分が、エチレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、フルオレンから2種類以上含まれてなることが好ましい。さらに、ポリエステルAを構成するジカルボン酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸から2種類以上含まれてなることが好ましい。これらの成分を好ましくは10mol%以上共重合することにより、屈折率を1.575以下にすることが可能となる。また、これらの成分は共重合することにより、ガラス転移温度が低下するものが多く、ガラス転移温度を60℃以上に保つために、ジオール成分とジカルボン酸成分をうまく調整する必要がある。例えば、ブチレングリコールやセバシン酸などアルキル鎖が長鎖になるほどにTgは低下するため、ジオール成分にシクロヘキサンジメタノールやスピログリコールなどを導入してTgの低下を抑える方法が好ましい。また、より低屈折率化するためには、芳香環を持つテレフタル酸などを脂環族脂肪酸で置き換えることが好ましいが、耐熱性が悪化するため、テレフタル酸の置換は30mol%以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルチップは、リン系化合物が0.03%〜3重量%含まれていることが好ましい。低屈折率化するためには、ポリエステルのジオール成分やジカルボン酸を脂環属に置き換えることが必要であるが、その分、耐熱性に劣るため、重合中や溶融混連中、そして成型中に劣化が進行して異物や色目の発生が多くなる。このため、劣化防止剤を添加することが好ましいが、筆者の検討結果によれば、種々の劣化防止剤の中でもリン系の酸化防止剤を0.03〜3重量%の範囲添加することが分かった。さらに、0.05〜0.5重量%の範囲で添加することがより好ましい。
【0025】
このようなリン化合物としてはリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィンオキサイド、亜ホスホン酸、亜ホスフィン酸、ホスフィン、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネートおよびホスフィネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。具体的な化合物としてはリン酸、トリメチルリン酸、エチルジエチルホスホノアセテート、フェニルジプロピルホスホネートなどが好ましい。本発明に用いられるリン系酸化防止剤としては、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイトなどが挙げられる。
【0026】
これらリン化合物を含有していることにより、異物を生成せずに耐熱性を改善することができる。リン系酸化防止剤は、ポリエステルAの重合中に添加してもよいが、重合活性が低下して重合時間が長引いてしまうことから、好ましくは重合完了後に後添加する方法が好ましい。特に、ポリエステルAとポリエステルBの溶融混練時に添加する方法が、分散性も改良されることから好ましい。
【0027】
本発明のポリエステルチップは、結晶融解温度が235℃以下であることが好ましい。このような構成をとることによって、延伸によって生じた配向結晶化を、235℃以上の熱処理によって緩和することができ、よりPETとの屈折率差をつけることができる。一方で、熱処理温度が235℃より大きい場合、配向緩和が起きにくいため、延伸熱処理後の屈折率が大きくなるため好ましくない。より好ましい熱処理温度は225℃以下である。
【0028】
本発明のポリエステルチップは、ポリエステルAとポリエステルBを剪断速度10s−1以上で、0.5〜40分間溶融混練していることが好ましい。このようにすることにより、ポリエステルAとポリエステルBは、半相溶の状態で分散し、結晶性を発現することができる。剪断速度が10s−1未満であるか、混練時間が0.5分未満であると、ポリエステルAとポリエステルBはほとんど分散されないため、結晶性を持たない。なお、さらに好ましい溶融混練状態は、剪断速度が50s−1以上500s−1以下であり、溶融混練時間が2〜20分間であることが良い。
【0029】
両者は、種々公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合した後、スクリューを有する押出機にて溶融混練することが好ましいが、このときに、上述した酸化防止剤であるリン化合物も混合添加しておくことが好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルチップは、表面粗面化もしくは表面結晶化工程を施こされていることが好ましい。ポリエステルAとポリエステルBが上述の条件で分散されているとき、本発明のポリエステルチップは結晶性を持つが、結晶化速度は非常に遅いため、そのまま高温乾燥を行うと、乾燥装置への強固な付着が生じることがある。そのため、攪拌羽根によるミキシング装置やカットディスク(CD)ドライヤなどで、表面を粗面化もしくは表面結晶化を行うことが好ましい。これらの条件は特に限定されないが、表面粗面化の場合、Tg以上100℃以下の温度で1〜10分間行うことが好ましい。また、表面粗面化の場合、100〜結晶化温度の範囲で行うことが1〜5時間行うことが好ましい。
【実施例】
【0031】
本発明に使用した物性値の評価法を記載する。
【0032】
(物性値の評価法)
(1)ガラス転移温度(Tg)・融点(Tm)・結晶融解熱量
示差熱量分析(DSC)を用い、JIS−K−7122(1987年)に従って測定・算出した。吐出後、すぐに10℃以下の冷水で冷却した溶融混練ポリエステルチップを、25℃から290℃まで5℃/minで昇温した。このとき、結晶融解時のピークトップを融点とし、ベースラインからの積分値を結晶融解熱量とした。また、ガラス転移温度や融点が二つ以上見られた場合は、高い方の温度を採用した。
装置:セイコー電子工業(株)製”ロボットDSC−RDC220”
データ解析”ディスクセッションSSC/5200”
サンプル質量:5mg。
【0033】
(2)屈折率
ポリエステルチップを、120℃・5時間真空乾燥後、溶融押出機にてフィルム状に押し出した。得られた約100μmのフィルムを、長さ3×2cmの寸法で切り出し、アッベ屈折率計4T(アタゴ(株)製)を用いて屈折率を求めた。光源は、ナトリウムD線 波長589nmを用いた。なお、浸液には、ヨウ化メチレン、テストピースの屈折率は、1.74のものを用いた。
【0034】
(3)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、算出した。また、溶液粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示した。なお、n数は3とし、その平均値を採用した。
【0035】
(4)表面粗面化・表面結晶化・高温乾燥
カワタ製スーパーミキサー(SMC−100)を用いて、表面粗面化を行った。このときの条件は100℃・9分間である。表面結晶化は熱風オーブンの中に140℃3時間の条件で静地した。その後、150℃・3時間回転式真空乾燥機で高温乾燥を行った。
【0036】
(5)延伸熱処理フィルムの屈折率
ポリエステルチップを、120℃・5時間真空乾燥後、溶融押出機にてフィルム上に押し出した。得られた約100μmの未延伸フィルムを、10cm×10cmの寸法に切り出し、二軸延伸装置(東洋精機(株))を用いて両軸方向に3.3倍×3.3倍で逐次延伸を行い、さらに、得られた延伸フィルムを金枠に貼り付け、トンネルオーブン(秦伸製作所製)を用いて235℃、30秒間の熱処理を行った。なお、熱処理後にフィルムが溶融する場合は、100μmのポリイミドフィルムで両側を挟みこんだ状態で熱処理を行った。このフィルムの屈折率を同様にして求めた。
【0037】
(6)b値
ポリエステルチップを、120℃・5時間真空乾燥後、溶融押出機にてフィルム上に押し出した。得られた約100μmのフィルムの表面色を、日本電色(株)製色調計SE2000型を用いて測定し、b値を求めた。b値が1.5未満のものを○、1.5以上のものを×とした。
【0038】
(7)延伸熱処理フィルムの径時変化
上記(5)の二軸延伸フィルムを、40℃の雰囲気温度の中で3カ月間保持した。このサンプルを、引張試験機(オリエンテック株式会社製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”)を用いて、25℃、65%RHの環境下にてJIS−K7127(1989年制定)に従って、幅10mmの試料フィルムを、試長間100mm、引張り速度200mm/分の条件で引張り、破断伸度を求めた。このとき、保持前と保持後の伸度を比較し、伸度低下が3%以内であったものを◎、5%以内であるものを○、5%より大きいものを×とした。
【0039】
(実施例1)
ポリエステルAとして、エチレングリコールに対しシクロヘキサンジメタノールを30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート[イーストマン製 PETG6763]を、ポリエステルBとして固有粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを用いた。その製造方法としては、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとを酢酸リチウムを触媒として定法に従いエステル交換反応を行い、エステル交換反応終了後、三酸化アンチモンを触媒として引き続き定法に従い重縮合反応を行って得られた。これらを82:18の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、100℃における表面粗面化および表面結晶化においても、顕著なおこしにはならないため、続いて150℃以上で高温乾燥を行ったが壁面への粘着は認められなかった。
【0040】
(実施例2)
ポリエステルAとして、PETG6763を、ポリエステルBとして、エチレングリコールに対しシクロヘキサンジメタノールを10mol%共重合したポリエチレンテレフタレート[イーストマン製 PET9921]を用いた。これらを70:30の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。
【0041】
(実施例3)
ポリエステルAとして、のテレフタル酸に対しアジピン酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/A30)を用いた。その製造方法としては、反応缶にテレフタル酸100部、アジピン酸50部、エチレングリコール150部を仕込み、4時間かけて230℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつ第1エステル化反応を行った。その後、固有粘度が0.4dl/g以下のオリゴマーを180℃以下に冷却し、アジピン酸を8部仕込み、30分かけて180℃まで徐々に昇温し、第2エステル化反応を行った。続いて、前記の重縮合触媒溶液を、リン化合物のエチレングリコール溶液およびアルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液をポリエステル中の酸成分に対してリン原子として0.02モル%を、アルミニウム原子として0.03モル%となるように添加した後、1時間かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うとともに270℃まで上昇し、さらに1mmHg以下で後重合を行い、固有粘度0.7のポリエステルAを得た。ポリエステルBとして、固有粘度0.65のPETを用いた。これらを90:10の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、延伸熱処理後でも屈折率の上昇が少なかった。
【0042】
(実施例4)
ポリエステルAとして、エチレングリコールに対しスピログリコールを20mol%、テレフタル酸に対しシクロヘキサンジカルボン酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/SPG20/CHDC30)を用いた。その製造方法としては、テレフタル酸ジメチルを67.6重量部、シス/トランス比率が72/28である1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルを17.4重量部、エチレングリコールを48重量部、スピログリコールを25重量部、酢酸マンガン四水塩を0.04重量部、三酸化アンチモンを0.02重量部それぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込んだ。内容物を150℃で溶解させて撹拌した。次いで、撹拌しながら反応内容物の温度を235℃までゆっくり昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、トリメチルリン酸を0.02重量部含んだエチレングリコール溶液を添加した。トリメチルリン酸を添加した後10分間撹拌してエステル交換反応を終了した。その後エステル交換反応物を重合装置に移行した。次いで重合装置内容物を撹拌しながら減圧および昇温し、エチレングリコールを留出させながら重合をおこなった。なお、減圧は90分かけて常圧から133Pa以下に減圧し、昇温は90分かけて235℃から285℃まで昇温した。重合装置の撹拌トルクが所定の値に達したら重合装置内を窒素ガスにて常圧へ戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリマーを水槽へ吐出し、固有粘度0.78のポリエステルAを得た。
【0043】
ポリエステルBとして、固有粘度0.65のPETを用いた。これらを75:25の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。
【0044】
(実施例5)
ポリエステルAとして、エチレングリコールに対しスピログリコールを20mol%、テレフタル酸に対しシクロヘキサンジカルボン酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/SPG20/CHDC30)を、ポリエステルBとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を12mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I12)を用いた。これらを75:25の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、延伸熱処理後でも屈折率の上昇が少なかった。
【0045】
(実施例6)
ポリエステルAとして、PETG6763を、ポリエステルBとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を12mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I12)を用いた。これらを75:25の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、延伸熱処理後でも屈折率の上昇が少なかった。
【0046】
(実施例7)
ポリエステルAとして、エチレングリコールに対しスピログリコールを20mol%、テレフタル酸に対しシクロヘキサンジカルボン酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/SPG20/CHDC30)を、ポリエステルBとして、固有粘度0.65のPETを用いた。また、この両チップに加え、リン系酸化防止剤であるPEP36(アデカ製)を、75:25:0.3の重量比で回転ブレンダーにてよく混合し、ベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、酸化防止剤の添加により、b値の上昇も抑えられた。
【0047】
(実施例8)
ポリエステルAとして、エチレングリコールに対しスピログリコールを20mol%、テレフタル酸に対しシクロヘキサンジカルボン酸を30mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/SPG20/CHDC30)を、ポリエステルBとして、固有粘度0.65のPETを用いた。また、この両チップに加え、リン系酸化防止剤であるPEP36(アデカ製)を、65:35:0.05の重量比で回転ブレンダーにてよく混合し、ベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、酸化防止剤の添加により、b値の上昇も抑えられた。
【0048】
(実施例9)
ポリエステルAとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を25mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I25)を、ポリエステルBとして、固有粘度1.2のポリブチレンテレフタレート(PBT)であるトレコン1200S(東レ製)を用いた。これらを92:8の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。また、延伸熱処理後でも屈折率の上昇が少なかった。
【0049】
(実施例10)
ポリエステルAとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を25mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I25)を、ポリエステルBとして、ポリブチレンテレフタレート(PBT)であるトレコン1200S(東レ製)を用いた。これらを55:45の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。
【0050】
(実施例11)
ポリエステルAとして、PETG6763を、ポリエステルBとして、DN003[イーストマン製]を用いた。これらを52:48の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。
【0051】
(実施例12)
ポリエステルAとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を17mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I17)を、ポリエステルBとして、固有粘度1.1のポリプロピレンテレフタレート(PPT)を用いた。これらを80:20の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかった。
【0052】
(比較例1)
ポリエステルAとして、PETG6763を、ポリエステルBとして、PETを用いた。これらを85:15の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、表面粗面化および表面結晶化で強固におこしとなり、装置への粘着も大きかった。また、延伸熱処理フィルムの経時変化も大きかった。
【0053】
(比較例2)
ポリエステルAとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を25mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I25)を、ポリエステルBとして、トレコン1200Sを用いた。これらを45:55の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、実施例1と同様に表面粗面化および表面結晶化、高温乾燥しても壁面への粘着は認められなかったものの、延伸熱処理後の屈折率の上昇が大きかった。
【0054】
(比較例3)
ポリエステルAとして、テレフタル酸に対しイソフタル酸を25mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET/I25)を、ポリエステルBとして、トレコン1200Sを用いた。これらを96:4の重量比でベント付きの一軸押出機にて溶融混練し、吐出物を冷水にて固化し、カットしてポリエステルチップを得た。このポリエステルチップの物性は表1に示すとおりである。このポリエステルチップは、表面粗面化および表面結晶化で強固におこしとなり、装置への粘着も大きかった。また、延伸熱処理フィルムの経時変化も大きかった。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差熱量分析(DSC)において、昇温速度が5℃/minでの結晶融解熱量が0〜5mJ/mgであるポリエステルAと10〜100mJ/mgであるポリエステルBを少なくとも含んでなり、ポリエステルAとポリエステルBの総和に対するポリエステルBの重量分率が5重量%以上50重量%以下であり、DSCにおいて、昇温速度が5℃/minで210〜270℃の温度範囲における結晶融解熱量が5.1〜40mJ/mgであるポリエステルチップ。
【請求項2】
ガラス転移温度が60℃以上であり、屈折率が1.575以下である請求項1に記載のポリエステルチップ。
【請求項3】
ポリエステルAを構成するジオール成分が、エチレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、フルオレンからなる群から選ばれる2種類以上が含まれてなる請求項1または2に記載のポリエステルチップ。
【請求項4】
ポリエステルAを構成するジカルボン酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸からなる群から選ばれる2種類以上が含まれてなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルチップ。
【請求項5】
リン系化合物が0.03〜3重量%含まれてなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルチップ。
【請求項6】
結晶融解温度が235℃以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルチップ。
【請求項7】
ポリエステルAとポリエステルBを剪断速度10s−1以上で0.5〜40分間溶融混練することによって製造されてなる請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルチップ。
【請求項8】
表面粗面化もしくは表面結晶化工程を施こされてなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステルチップ。

【公開番号】特開2007−254720(P2007−254720A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34424(P2007−34424)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】