説明

ポリエステルポリオール中の無機充填剤の懸濁液及び製造方法

本発明は、ポリエステルポリオール中の無機充填剤の懸濁液及びこの懸濁液の製造方法に関する。より特定的には、本発明は、液状媒体としてのポリエステルジオール化合物及び分散粒子としての0.8〜8%の範囲の重量濃度の無機粒状充填剤を含む安定な懸濁液に関する。かかる懸濁液は、例えばポリウレタンフォームや熱可塑性ポリウレタンのようなポリウレタンの製造に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルポリオール中の無機充填剤の懸濁液及びこの懸濁液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルポリオール、特にポリエステルジオールは、ポリウレタンの製造の分野において用いられる原料である。実際、これらポリウレタンはイソシアネート官能基を有する化合物及びポリエステルジオールのようなヒドロキシル官能基を有する化合物による反応によって得られる。
【0003】
これらのポリエステルジオールは、ポリエステルを製造するための慣用の方法により、グリコール又はポリエステルジオールのようなジオール化合物と1種又はそれより多くの二酸とを反応させることによって得られる。かかる方法は一般的に、エステル化工程及び続いての重縮合工程を含む。
【0004】
ポリウレタンのある種の特性を変性するために、無機粒状化合物のような補強用充填剤を添加するのが有用な場合があることが知られている。これらの充填剤はポリウレタンを導く反応を実施する前にポリエステルジオール又はイソシアネート化合物に添加するということが一般的に報告されている。
【0005】
しかしながら、これらの比較的高粘度の化合物中に充填剤を分散させることは非常に困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、ポリエステルジオール中の無機充填剤の安定な懸濁液を提供して、無機充填剤が均質態様で分散されたポリウレタン物品を製造することを可能にし、良好な特性及び良好な外観を得ることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的で、本発明は、液状媒体としてのポリエステルジオール化合物及び分散粒子としての0.8〜8%の範囲の重量濃度の無機粒状充填剤を含む安定な懸濁液(以下においては分散体とも言う)を提供する。
【0008】
本発明の別の目的に従えば、前記の安定な分散体は、ポリエステルポリオールをエステル化するための反応媒体又は重縮合工程開始時の反応媒体に前記粒子を添加することによって得られる。
【0009】
従って、無機充填剤は、ジオールとのプレミックスの形又は本発明の好ましい具体例に従えば二酸の少なくとも一部とのプレミックスの形で、媒体に直接添加することができる。
【発明の効果】
【0010】
この方法を実施することによって、ポリエステルジオール中の無機充填剤粒子の非常に良好な分散体及び懸濁液が得られ、この懸濁液を用いてポリウレタンフォーム中における非常に良好な分散が得られる。
【0011】
さらに、本発明の方法、特に二酸との混合物の形で無機充填剤を導入する方法は、安定な懸濁液を得ることを可能にする。従って、本発明の方法により、ポリエステルジオールをベースとする懸濁液を調製することができ、ポリウレタンを製造するためにそれらを使用する前にそれらを貯蔵することが可能となる。
【0012】
この方法はまた、より高濃度の無機充填剤の安定な分散体を得ることをも可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にとって好適な充填剤としては、例えばアルミノケイ酸塩粉末、シリカ粉末、酸化チタン粉末、タルク粉末、カオリン粉末又は炭酸カルシウム粉末を挙げることができる。
【0014】
本発明の1つの好ましい具体例に従えば、シリカ、より特定的には特に沈降によって得られるシリカが好ましい充填剤である。
【0015】
本発明の好ましい具体例においては、二酸顆粒又は粉末と無機充填剤粒子とを例えば周囲温度又は周囲温度〜120℃の範囲の温度において混合することによって、充填剤と二酸との混合物を得ることができる。
【0016】
また、無機充填剤粒子を二酸群の一部でコーティングすることも可能である。このコーティングは、混合物を二酸の融点又は軟化点より高い温度に加熱することによって得られる。
【0017】
この具体例においては、5個若しくはそれ未満の炭素原子数を有する二酸(例えばグルタル酸)又は5個若しくはそれより少ない炭素原子を有する二酸を含有する二酸の混合物(例えばAGSと称される二酸の混合物)で無機充填剤粒子をコーティングするのが有利である。
【0018】
本発明にとって好適なジオールとしては、2〜10個の炭素原子、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するグリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリトリトール、ジグリセロール、デキストロース、ソルビトール、ビスフェノール、ヘキシレングリコール又は同等物を挙げることができる。これらのジオールはまた、混合して用いることもできる。
【0019】
ジカルボン酸の例としては、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びピメリン酸のような脂肪族二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフテン酸のような芳香族酸、並びにマレイン酸、フマル酸及びイタコン酸のような不飽和脂肪族酸を挙げることができる。これらの二酸は、個別に用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい具体例に従えば、ポリエステルジオールの生成のために用いられる二酸は、アジピン酸とAGSと称される二酸の混合物(これは、シクロヘキサノール及び/又はシクロヘキサノンの酸化によるアジピン酸の製造方法において副生成物として得られ、アジピン酸、コハク酸及びグルタル酸を含む)との混合物から成るのが有利である。
【0021】
また、これらの二酸の誘導体、例えばジエステル(アルコールから由来する残基が1〜4個の炭素原子を有するもの)、酸無水物及び酸クロリドを用いることも可能である。
【0022】
本発明に従えば、無機充填剤を含有するポリエステルジオールの分散体は、第1工程のエステル化及び第2工程の重縮合の2つの工程を含む方法に従って得られる。
【0023】
エステル化工程は、二酸とジオール(例えばエチレングリコール及びジエチレングリコールの混合物)とを1.2〜1.5の範囲のジオール/二酸モル比で混合することによって実施される。
【0024】
この第1工程における反応温度は、反応が進行するにつれて徐々に高められる。例えば、反応の開始は160℃の温度において行われ、反応終了時には220℃の温度に達する。
【0025】
本発明に従えば、前記のように無機充填剤との混合物として二酸を添加するのが有利である。
【0026】
第2工程の重縮合は、チタン酸テトラブチル(TBT)のような触媒を、例えば用いる二酸の重量に対して0.001〜0.010%の範囲の重量濃度で添加することによって実施される。重合温度は10〜20ミリバールの範囲の圧力において200℃である。
【0027】
得られるポリエステルジオールは、ヒドロキシル価(IOH)(これは、ヒドロキシル官能基をアルコラートに転化させるためのポリオール1g当たりの水酸化カリウムのミリグラム数に対応する)及び酸価(IA)(これは、ポリオール1gを中和するのに必要なKOHのミリグラム数を表わす)によって特徴付けされる。
【0028】
ポリエステルジオールはまた、粘度及びその分子量によっても特徴付けされる。
【0029】
従って、ポリエステルポリオールは、5000〜8000の範囲、好ましくは6000〜7000の範囲の数平均分子量を有するのが有利である。
【実施例】
【0030】
本発明のその他の利点及び詳細は、単に指標として与えた実施例を読めばより一層はっきりするだろう。
【0031】
例1(比較例)
【0032】
下記の表1に示した商品名でRhodia社より販売されている、示した主要特性を有するシリカを、約7000の分子量を有するポリエステルジオールに添加することによって、これらのシリカの懸濁液を調製した。ULTRA-TURRAXタイプの機械式ミキサーを用いて約5分間の間でシリカの分散体が得られた。
【0033】
【表1】

【0034】
得られた懸濁液の特徴を下記の表2に与える。
【0035】
【表2】

【0036】
懸濁液1a及び1bを用いて、下記の表3に記載した配合に従ってポリウレタンフォームを製造した。
【0037】
【表3】

【0038】
これらの懸濁液を用いて得られたフォームは、シリカが凝集体を形成してフォームの特性を下落させたので、好適ではなかった。
【0039】
例2:
【0040】
本発明に従うポリエステルジオール中のシリカの懸濁液を、次の手順に従って得た。
【0041】
第1工程において、TIXOSIL T365の商品名でRhodia社より販売されているシリカ6%と混合されたアジピン酸(ADOH)を、エチレングリコール(MEG)とジエチレングリコール(DEG)とのMEGを70重量%含有する混合物に添加した。
【0042】
アルコールと二酸との間のモル比は1.2〜1.5の範囲だった。
【0043】
この混合物を160℃に1時間加熱し、次いで温度を15℃ずつ段階的に215℃まで上昇させることによって、反応を実施した。この反応は、不活性雰囲気下、例えば窒素雰囲気下で実施した。
【0044】
得られたエステル化化合物を第2工程において、添加した二酸の量を基準として0.003%の重量濃度のチタン酸テトラブチル(TBT)を添加した後に重縮合させた。
【0045】
この重合は、15〜18ミリバールの減圧下で200℃において実施した。
【0046】
得られたポリエステルポリオールを、OH価(IOH)、酸価(IA)及び粘度によって以下に示したように特徴付けした。
・ADOH/SiO2(質量比):94/06
・MEG/DEG(モル比):70/30
・IOH:KOH55.86mg/ポリオール1g
・IA:KOH0.43mg/ポリオール1g
・粘度:34℃において6500mPa・s
【0047】
この方法で得られた懸濁液は安定であり、70℃において5日間の貯蔵の後にも沈降を何ら示さなかった。
【0048】
これは、ポリウレタン製造のための成分として、ポリウレタン製造のための通常の方法に従って用いることができた。
【0049】
例として、低密度ポリウレタンフォームの製造のためのこの懸濁液の使用例を以下に記載する。
【0050】
下記の表4に示した化合物を示した割合で用いることによって、ポリウレタンフォームを得た。
【0051】
【表4】

【0052】
得られたフォームの特性は次の通りだった。
・密度:0.21±0.01g/cm3
・硬度(Ascher C):49±1
・破断時引張応力:26.6±1.1kg/cm3
・破断点伸び:280±8%
・引裂き伝播抵抗:2.34±0.17kg/cm
・引裂き抵抗:9.9±0.5kg/cm
・変形抵抗(圧縮永久歪み):3.8±0.4%
【0053】
フォームの特性は、以下に示した方法に従って測定した:
・密度(見掛け密度とも称される)は、ASTM規格D−3574(A)(気泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定、ISO規格845に対応)に従って測定した。
・硬度は、NBR規格14455(Ascher C)(気泡材料、靴底及び靴の部品用の材料、DIN規格53543に対応)に従って測定した。
・フォームの引裂き抵抗は、ASTM規格D−3574(F)に従って測定した。
・破断点伸びは、ASTM規格D−412(C)に従って測定した。
・破断時引張応力は、ASTM規格D−412に従って測定した。
・成形収縮は、SATRA規格TM−70(気泡汚染の熱収縮)に従って測定した。
・荷重下永久変形(圧縮永久歪み)は、ASTM規格D−395(B)(軟質気泡ポリマー材料、ISO規格1856に対応)に従って測定した。
【0054】
例3:
【0055】
アジピン酸、6重量%のAGSと称される二酸の混合物及び6重量%のシリカを含有する二酸とシリカとの混合物を用いたことを除いて、例2を繰り返した。例3において用いた混合物は、3つの成分を機械的に混合することによって得た。
【0056】
得られたポリエステルポリオール懸濁液の特徴は次の通りだった。
・ADOH/SiO2/AGS(質量比):88/06/06
・MEG/DEG(モル比):70/30
・IOH:KOH51.8mg/ポリオール1g
・IA:KOH0.70mg/ポリオール1g
・粘度:34℃において10850mPa・s。
【0057】
この懸濁液は安定であり、70℃において5日間の貯蔵の後にも沈降を何ら示さなかった。
【0058】
例2についてと同様に、例2に与えた手順及び割合に従って低密度ポリウレタンフォームを製造した。
【0059】
得られたフォームは次の特徴を有していた。
【0060】
密度:0.20±0.01g/cm3
硬度(Ascher C):56±2(マニュアル)/52±2(標準)
破断時引張応力:23.00±1.70Kg/cm3
破断点伸び:293±23%
引裂き伝播抵抗:2.83±0.34kg/cm
引裂き抵抗:10.1±0.7kg/cm
変形抵抗(圧縮永久歪み):5.6±0.8%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルジオール化合物及び0.8〜8%の範囲の重量濃度の粒状無機充填剤を含む安定な懸濁液。
【請求項2】
請求項1に記載の懸濁液の製造方法であって、第1工程のエステル化工程においてジオール化合物と二酸とを反応させ、得られたヒドロキシエステルを所望の重合度まで重縮合させることによって得られること、及び前記無機充填剤をエステル化反応媒体又は重縮合反応媒体中に分散させることを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
前記無機充填剤をエステル化工程に添加する前の前記ジオールと予備混合することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記無機充填剤をエステル化工程に添加する前の前記二酸(群)と予備混合することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記無機充填剤がアルミノケイ酸塩、シリカ、酸化チタン、タルク及び炭酸カルシウムを含む群から選択されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記無機充填剤が沈降シリカであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記二酸がアジピン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸のような脂肪族二酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフテン酸のような芳香族酸、並びにマレイン酸、フマル酸及びイタコン酸のような不飽和脂肪族酸を含む群から選択されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記二酸がアジピン酸及びアジピン酸/AGS混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ジオールがエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリトリトール、ジグリセロール、デキストロース、ソルビトール又は同等物のような2〜10個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するグリコールを含む群から選択されることを特徴とする、請求項2〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ポリエステルジオールが5000〜8000の範囲の数平均分子量を有することを特徴とする、請求項2〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項2〜10のいずれかに記載の方法によって得られたポリエステルジオール中の無機充填剤の懸濁液の、ポリウレタンの製造における使用。

【公表番号】特表2007−501872(P2007−501872A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522371(P2006−522371)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002053
【国際公開番号】WO2005/019294
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(598051417)ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ (14)
【Fターム(参考)】