説明

ポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛

【課題】洗濯を繰返しても撥水性能の低下が少ない、優れた撥水性能を有し、かつ実用に耐えうる十分な強度や伸度などの機械的物性を有する合成繊維の提供。
【解決手段】片末端に2つの官能基を有するエステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物からなる繊維であって、ポリエステル組成物の重量を基準として、シリコーン化合物の含有量が2.0〜20.0重量%の範囲にあり、ポリエステル組成物の固有粘度が0.61dl/g以上であるポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステル極細繊維に関し、特に優れた撥水性と機械的特性とを有するソフトな風合いのポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を含有する分散液等で布帛を処理して布帛表面にこれらの樹脂を付着せしめて、撥水処理を施すことは広く行われている。しかしながら、これらの加工処理で得られた布帛には撥水性はあるものの、耐久性が低く、布帛の使用に伴って処理した樹脂が、その表面から脱落して撥水性を失い易いという欠点を有している。一方、十分な撥水耐久性を付与する程の量を処理すると布帛の風合いが硬くなるという問題点があった。そのためにポリエステル極細繊維のスポーツウェア分野等撥水耐久性と風合いが共に要求される分野への応用が大きく制限されていた。
【0003】
これに対して、特開昭62−238822号公報(特許文献1)にはフッ素系樹脂を溶融混練して得られた撥水性繊維が提案され、特開平2−26919号公報(特許文献2)にはフッ素系重合体微粒子を練り込んで得られた撥水性繊維が提案されている。また、特開平9−302523号公報(特許文献3)および特開平9−302524号公報(特許文献4)ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフルオリドの共重合体を撥水成分としてポリエステルに含有した撥水性繊維が提供されている。しかしながら、フッ素樹脂は一般に融点と分解点が近いため、長期のランニングでは分解熱劣化したポリマーが影響して、安定して良好な糸質の繊維を得ることが困難である。また、加熱によるフッ化水素の発生により装置を劣化させてしまう危険性がある。
【0004】
また、特開平3−74459号公報(特許文献5)では、エステル反応性シリコーン化合物とポリエステルのオリゴマーとを作成し、それをポリエステルに含有させるとき、平坦性と走行性とに優れるフィルムが得られることが開示され、そのようなポリエステルはフィルムだけでなく繊維にも使用できることが開示されている。しかしながら、繊維に成形して十分な撥水性を発現させようとすると、紡糸工程、さらに布帛への織りや編みの工程、さらに布帛にした後の工程や実際に使用する際に糸切れが発生し、使用に耐えないことが判明した。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−238822号公報
【特許文献2】特開平2−26919号公報
【特許文献3】特開平9−302523号公報
【特許文献4】特開平9−302524号公報
【特許文献5】特開平3−74459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、撥水性能と強度や伸度などの機械的物性とを高度に兼備するポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、下記一般式(1)
【化1】

[上記式(1)中、R1、R2、R3は同一若しくは異なっても良く、一部若しくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。R4、R5、R7は同一若しくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。R6は炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基及び水酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であり、nは1〜100である。]で示されるエステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物からなる繊維であって、ポリエステル組成物の重量を基準として、該シリコーン化合物の含有量が2.0〜20.0重量%の範囲にあり、ポリエステル組成物の固有粘度が0.61dl/g以上であるポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛が提供される。
【0008】
また、本発明の好ましい態様として、エステル反応性シリコーン化合物のうち、ポリエステルと共重合しているものが、変性シリコーンの重量を基準として、20〜50重量%の範囲であるポリエステル極細繊維およびそれを含む布帛が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、撥水性能と強度や伸度などの機械的物性とを高度に兼備するポリエステル極細繊維およびそれを用いた布帛が提供され、得られる布帛を衣服とした場合、着用や洗濯を繰返しても撥水性能の低下が少なく、しかも強度などの機械的特性も十分あることから破れなどの生じがたい耐久性の優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエステル極細繊維は、下記式(1)の構造を有する変性シリコーン化合物を、ポリエステル組成物重量を基準として、2.0〜20.0重量%含有させたポリエステル組成物からなる。含有量が2.0重量%未満では、得られるポリエステル極細繊維を布帛としたときに十分な撥水性が発現されがたく、他方20.0重量%を越えると、得られるポリエステル極細繊維の強度が乏しくなり、糸切れが発生しやすくなる。好ましい変性シリコーン化合物の含有量は、5.0〜15.0重量%、さらに7.0〜12.0重量%の範囲である。
【0011】
【化2】

[上記式(1)中、R1、R2、R3は同一若しくは異なっても良く、一部若しくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。R4、R5、R7は同一若しくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。R6は炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基及び水酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であり、nは1〜100である。]
【0012】
ここでエステル反応性シリコーンを含有するポリエステルとは、エステル反応性シリコーンがポリエステルに対して化学結合により分子鎖に取り込まれて共重合されている状態とポリエステルとは化学結合せずブレンド状態で存在する両方を意味する。共重合していない成分はブレンド状態でポリエステル組成物中に安定に存在し、繊維化での悪影響を及ぼさない。これはエステル反応性シリコーン共重合ポリエステルが未反応のエステル反応性シリコーン部分を安定化するのではないかと推定している。
【0013】
本発明で使用されるエステル反応性シリコーン化合物は、前述の式(1)で示されるものであり、上記式(1)中、R1、R2、R3は同一若しくは異なっても良く、一部若しくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。また、R4、R5、R7は同一若しくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。R6は炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基または水酸基を表し、nは1〜100である。
【0014】
公知のエステル反応性シリコーン化合物には、上記の片末端二反応性官能基変性型構造のほかに、長鎖状に延びているシロキサン構造の両末端にそれぞれ1個のカルボキシル基又はヒドキシル基等のポリエステル原料と反応しうる官能基を有する両末端変性型、同シロキサン構造の片末端に1個の上記の官能基を有する片末端一反応性官能基変性型、側鎖に複数個の官能基を有する側鎖変性型があるが、両末端変性型はポリエステル主鎖に直線上に組み込まれるため、成形した際にポリエステル成形品表面に撥水機能を有する官能基が現れにくいことから、望むべき撥水性を得ることができない。また、片末端一反応性官能基変性型及び側鎖変性型は、重縮合反応に関与する官能基と、エステル反応性シリコーン化合物の末端又は側鎖と反応するため、重縮合反応を阻害することがある上、ポリエステルと相溶性が悪く、均一にブレンドすることが困難であるため、製糸時の断糸発生や、毛羽の原因となり好ましくない。さらにブリードアウトしやすいという問題を有しているため好ましくない。
【0015】
また、上記一般式(1)においてR1〜R7が上記のような官能基でない場合には、望むべき撥水性を得ることができなかったり、エステル反応性シリコーン化合物がポリエステルと充分に混和しないことがある。また混合できても、当該ポリエステル組成物を紡糸した繊維を染色他加熱加工、洗濯処理をしている間にエステル反応性シリコーン化合物がポリエステル組成物からブリードアウトしたりする事があるので好ましくない。これらの官能基の中でもR1〜R3は置換されていない炭素数1〜6個のアルキル基であること、R4、R5、R7は置換されていない炭素数1〜4個のアルキレン基であること、R6は炭素数4個以下のアルキル基であることが好ましい。
【0016】
ところで、該エステル反応性シリコーン化合物の数平均分子量は10000以下が好ましく、更に好ましくは300以上8000以下、特に好ましくは500以上6000以下である。数平均分子量が上限より大きい場合は、ポリエステルとの相溶性が悪化し、ポリエステル中に均一にブレンドすることが困難であり、ポリエステル極細繊維とした場合に断糸、毛羽、ブリードアウトなどの問題を有しており好ましくない。
【0017】
また、ポリエステル組成物中に含有されているエステル反応性シリコーン化合物は、エステル反応性シリコーン化合物の重量を基準として、20〜50重量%が、ポリエステルに共重合されていることが好ましい。共重合されているエステル反応性シリコーン化合物の量が20%より少ないとポリエステル組成物中でブレンドされているエステル反応性シリコーン化合物の分散性が悪化しやすく、他方50%より多い場合は得られるポリエステルの強度などの機械的物性が、同じ含有量対比では低くなりやすい。好ましい共重合されているエステル反応性シリコーン化合物の割合は、25〜40重量%の範囲である。
【0018】
共重合されているエステル反応性シリコーン化合物とブレンド状態にあるエステル反応性シリコーン化合物の量および構造は後述のように、1H−NMR測定により区別・特定する事ができる。また上述の片末端二反応性官能基変性型、すなわち変性シリコーン化合物のシロキサン構造の片末端に2つの反応性官能基がある構造であることは、特開2002−48777号公報に記載されているように分子中に3個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとを反応させて得られるポリウレタン樹脂反応物をゲル浸透クロマトグラフィーにて分析することなど確認することができる。
【0019】
本発明のポリエステル極細繊維を構成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステルを好ましく挙げることができ、これらのなかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートが好ましい。なお、これらのポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。例えば、共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムイソフタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはペンタエリスリトールなどを挙げることができる。また、トリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物、p−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸などを共重合してもよい。
【0020】
本発明におけるポリエステルの製造方法としては、公知の任意の方法で合成すればよい。例えば、ジカルボン酸成分がテレフタル酸の場合、テレフタル酸とアルキレングリコールとを直接エステル化反応させる方法、テレフタル酸ジメチルのようなテレフタル酸の低級アルキルエステルとアルキレングリコールとをエステル交換反応させる方法、またはテレフタル酸とアルキレンオキサイドを反応させる方法によってテレフタル酸のグリコールエステルを生成させる第一段の反応を行い、引続いて重合触媒の存在下に減圧加熱して所望の重合度になるまで重縮合させる第二段の反応によって製造できる。なお、上述の変性シリコーン化合物の添加時期は、前述のような共重合の割合を満足させる観点から、このポリエステルの重縮合反応の前から重縮合反応の終了以前に行なうのが好ましく、複数回に分けて添加しても良い。そして、この添加時期や添加量によって上記共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の割合を調整することができる。
【0021】
尚、第一段階の反応がエステル交換反応の場合、反応温度は180〜230℃であり、反応圧力は常圧〜0.3MPaの範囲が好ましく、また第二段階の反応(重縮合反応)時の反応温度は200〜260℃、反応圧力は60〜0.1kPaの範囲であることが好ましい。このようなエステル交換反応および重縮合反応は一段で行っても、複数段階に分けて行っても良い。
【0022】
これらの反応段階で用いるエステル交換触媒としては、ナトリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、チタン、亜鉛またはマンガン等の金属化合物を使用するのが好ましい。重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物またはスズ化合物を使用するのが好ましい。触媒の使用量は、エステル交換反応、重縮合反応を進行させるために必要な量であるならば、特に限定されるものではなく、また複数の触媒を併用することも可能である。また第一段階の反応が直接エステル化反応の場合、触媒を用いなくでも直接エステル化反応を進行することもできるが、必要に応じて上記の触媒を用いても良い。
【0023】
また、第一段階の反応の途中、第二段階の反応の途中若しくは反応終了後のいずれかにおいて安定剤を添加することも好ましい。その安定剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類、メチルアシッドホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート等の酸性リン酸エステル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、若しくはポリリン酸等のリン化合物、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0024】
重縮合段階においては溶融粘度のモニターすること等の手法により目的とするポリエステルの重合度(分子量、固有粘度)であることを確認できるまで、上記の条件にて重縮合反応を行う。そして目的とする分子量に到達したことを確認した後、重縮合反応を終了し、反応槽から吐出し冷却後チップ状にカットすることによりポリエステルを得ることができる。そのチップを乾燥後、後述のポリエステル極細繊維等の製造に用いる事ができる。また一旦チップ状に成形することなく、重縮合反応終了後のポリエステルからそのままポリエステル極細繊維を製造しても良い。
【0025】
ところで、本発明のポリエステル極細繊維は、繊維とした状態での固有粘度(溶媒:1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒)が0.61以上であることが必要である。好ましい固有粘度の下限は0.63dl/g以上である。他方、固有粘度の上限は特に制限はされないが、紡糸安定性などの点から0.80dl/g以下であることが好ましく、さらに固相重合などの追加の固有粘度を高くする工程を省略または時間を短縮できることから0.70dl/g以下であることが好ましい。そして、本発明の特徴の一つは、固有粘度を下限以上にすることで、前述のエステル反応性シリコーン化合物を含有させたことによる強度などの機械的物性の低下を抑制でき、実用に十分な、すなわち製造工程や使用時の糸切れなどを防ぐのに十分な強度などを得られる繊維に具備させたことにある。このような繊維とした状態での固有粘度を満足させるには、一つには繊維状に押出す際の溶融押出機での温度をなるべく低くし、かつそこでの滞留時間を短くして、ポリマーの固有粘度の低下を小さくすることが挙げられるが、そのような条件を採用したとしても0.2〜0.3dl/gの固有粘度は低下は避けられないことから、さらに使用するポリマーの固有粘度を繊維とした状態での固有粘度よりも0.3dl/g以上高いものとすることが好ましい。
【0026】
本発明に係るポリエステル極細繊維は、取り扱い上海島複合繊維を布帛にした後に海ポリマーを溶解させることで島成分からなるポリエステル極細繊維ハイマルチフィラメントとすることが好ましい。極細繊維の単糸直径は100nm以上、3.5μm未満が好ましく、風合い向上の点からは200nm以上、2μm未満、さらには300nm以上1.5μm未満がより好ましい。3.5μm以上では強度は充分であるが、風合いに劣る。また、100nm未満では強度が低く、紡糸後の取扱いが困難になる。極細繊維化前の海島複合繊維は、通常、総繊度が10〜60dtex、好ましくは20〜50dtex、フィラメント数は5〜40フィラメント、好ましくは6〜24フィラメントである。
【0027】
海ポリマーの島ポリマーに対する溶解速度の比率(減量速度差)は、30〜5000倍であることが好ましい。より好ましくは、100〜4000倍である。30倍未満の場合には、繊維断面表層部の分離した島成分の一部が溶解されて、繊維断面中央部にある海成分まで溶解されないという問題が起こり易くなる。これにより、島成分の太さ斑が発生し、品位が低下する傾向にある。一方、5000倍を超えると、減量斑による色むらが生じるため、商品の品質が悪くなる傾向にある。
【0028】
かかる海島型複合繊維を構成するポリマーとして、海成分ポリマーは、島成分との溶剤溶解速度差が30倍以上であれば、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよく、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどいずれのポリマーでも良い。例えば、アルカリ水溶液減量性ポリマーの場合は、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール系共重合ポリエステル、5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。また、ナイロン6はギ酸に溶解し、ポリスチレンはトルエンなど有機溶剤に溶解する。
【0029】
ところで、本発明のポリエステル極細繊維は、前述のとおり、エステル反応性シリコーン化合物を含有することにより優れた撥水性を有する。ただ、布帛とした際に、十分な撥水性を発現させる観点からは、ポリエステル極細繊維の表面の水との接触角は120°以上、さらに好ましくは130°以上である。このような高い接触角をポリエステル極細繊維自体に具備させることで、布帛にしたときに水滴に対して優れた撥水性を発現することができる。
【0030】
つぎに本発明の布帛は、上述の本発明のポリエステル極細繊維から形成されたものであり、公知の方法で得られる織物、編物、不織布のいずれの形態であっても良い。好ましくは布帛にしたときの撥水性をより発現しやすいことから、編物である。また、本発明の布帛は、布帛にしたときの撥水性をより発現しやすくするため、布帛の一方の表面は、表面にある繊維の面積を投影面積で見たとき、全繊維の投影面積を基準として、50%以上、さらに70%以上が本発明のポリエステル極細繊維で占められていることが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(1)固有粘度:
1,1,2,2−テトラクロルエタン40重量%とフェノール60重量%の混合溶媒中に試料を溶解して定法に従って35℃にて測定した。
【0033】
(2)減量速度測定
海・島ポリマーの各々を孔径0.3mmのランド長0.6mmの丸孔押出ノズルホールを24個を有する紡糸口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が25〜50%の範囲になるように延伸して、75dtex/24filのマルチフィラメントを作成した。これを各溶剤にて溶解しようとする濃度、および温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。減量速度差は(海ポリマーの減量速度/島ポリマーの減量速度)で算出される。
【0034】
(3)強度・伸度
20℃、65%RHの雰囲気下で引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強度および伸度を測定した。測定数は10とし、その平均をそれぞれの強度および伸度とした。
【0035】
(4)接触角:
後述の(6)撥水性の試験において、海ポリマーを溶解した後の試験片から口金一錘分の極細繊維を採取し、協和界面科学(株)社製自動微小接触角測定装置「MCA−2」を使用し、蒸留水500ピコリットルを使用して単糸表面の接触角を測定した。接触角が大きいほど、撥水性に優れると判断した。
【0036】
(5)含有シリコーン化合物量:
1H−NMR法にてポリエステル組成物中に含有しているエステル反応性シリコーン量を定量した。更にポリエステル試料を適切な溶媒に溶解させて貧溶媒を加えて再沈殿操作を行い、濾過により得られた固形物についても1H−NMR測定を行った。後者の再沈殿操作後の測定結果の値からポリエステル中に共重合しているエステル反応性シリコーン化合物の量を定量し、前者の再沈殿前の測定結果の値と、後者の測定結果の値との差からブレンドしているシリコーン化合物量を定量した。またエステル反応性シリコーン化合物の化学構造においてはブレンドしている成分については再沈殿操作の溶媒中の成分を回収成分を、共重合されている成分については再沈殿後のポリエステルを加水分解後の残渣成分を測定することにより行うことができる。
【0037】
(6)撥水性:
各実施例および比較例で得られた海島型複合繊維を経糸及び緯糸に使用して、平織物を製織し、この布帛を常法により精錬、海ポリマー溶解、乾燥したのち、180℃でヒートセットした。このようにして得られた海ポリマー溶解後の布帛を、JIS−L−1092(スプレー法)(1992)により測定した。その測定後の布帛の状態から該JIS規格に記載の以下の基準で0〜100点の点数で評価を行った。
100点:表面に湿潤や水滴の付着が無いもの。
90点:表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示すもの。
80点:表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示すもの。
70点:表面の半分以上に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示すもの。
50点:表面全体に湿潤を示すもの。
0点:表面及び裏面が全体に湿潤を示すもの。
【0038】
[実施例1]
島成分としてテレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM−DA11、重量平均分子量:1000)2重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応を実施してポリエステル組成物を得た。このポリエステル組成物の固有粘度を測定した所、0.654dl/gであった。また、該ポリエステル組成物中の含有エステル反応性シリコーン化合物量は2重量%であった。
【0039】
海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸2モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として上記のポリエステル組成物を用いて乾燥させた後、二元一軸押出機にて島ポリマーを285℃、海ポリマーを275℃で溶融し、公知の海島複合繊維口金を用いて島数440、溶解速度比;島:海=1:50、島/海(重量比)=70:30、総繊度30dtex、6フィラメント、沸水収縮率10%の海島型複合繊維マルチフィラメントを得た。フィラメントを製織し、水酸化ナトリウム3.5%溶液で55℃で10分処理し海ポリマーを溶解除去し極細繊維とした。このときの極細繊維の直径は880nmであった。得られたポリエステル組成物、ポリエステル極細繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0040】
[実施例2および3、比較例1および2]
エステル反応性シリコーン化合物の含有量を表1に記載の量となるようにエステル反応性シリコーン化合物(FM−DA11)の添加量を調整したこと以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル極細繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0041】
[比較例3]
実施例1において、エステル反応性シリコーン化合物として分子鎖の末端に1官能のカルボン酸基を有するエステル反応性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−3710)に変更し、その含有量が10重量%になるように添加量を変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られたポリエステル組成物、ポリエステル極細繊維および布帛の特性を表1に示す。
【0042】
[比較例4]
実施例1において、エステル反応性シリコーン化合物として分子鎖の両末端に2官能のカルボン酸を有するエステル反応性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−162C)に変更し、その含有量が10重量%になるように添加量を変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。
【0043】
[実施例4および5]
実施例2において、ポリマーの固有粘度を0.672dl/gおよび0.615dl/gとした以外は、実施例2と同様な操作を繰り返した。
【0044】
[実施例6]
実施例2において、エステル反応性シリコーンとして平均分子量が5000のエステル反応性シリコーン化合物(チッソ株式会社製、商品名:FM−DA21(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=約63である化合物:チッソ(株)社製、重量平均分子量5,000))とした以外は、実施例2と同様な操作を繰り返した。
【0045】
[実施例7]
実施例2において、エステル反応性シリコーン化合物の添加量を5重量部とした以外は、実施例2と同様な操作を繰り返した。
【0046】
[比較例5]
実施例2において、ポリマーの固有粘度を0.602dl/gとした以外は、実施例2と同様な操作を繰り返した。
【0047】
[比較例6]
実施例1において、島成分としてテレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、酢酸マンガン4水塩0.031部を反応器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で3時間かけて140℃から240℃まで昇温して、生成するメタノールを系外に留出しながらエステル交換反応を行い、エステル交換反応を終了させた後、安定剤としてリン酸0.024部及び重縮合反応触媒として三酸化アンチモン0.04部を添加した後、285℃まで昇温して、減圧下で重縮合反応を実施してポリエステル組成物を得た以外実施例1と同様な操作を繰り返した。このポリエステル組成物の固有粘度を測定した所、0.641dl/gであった。
【0048】
[比較例7]
比較例6において、ポリマーの固有粘度を0.605dl/gとした以外は、比較例6と同様の操作を繰り返した。
【0049】
[実施例8]
実施例3において、海ポリマーをナイロン6、溶融温度を265℃、海ポリマー溶解溶媒をギ酸とした以外は、実施例3と同様な操作を繰り返した。
【0050】
表1中の、エステル反応性シリコーン化合物の種類、
Aはエステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=約9である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM−DA11、重量平均分子量:1000)、
Bは分子鎖の末端に1官能のカルボン酸基を有するエステル反応性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−3710)、
Cは分子鎖の両末端に2官能のカルボン酸有するエステル反応性シリコーン化合物(信越化学株式会社製、商品名:X22−162C)、
Dはエステル反応性シリコーン化合物(一般式(1)で示され、Xが水酸基、R1乃至R3がメチル基、R4がトリメチレン基、R5及びR7がメチレン基、R6がエチル基、n=約63である化合物:チッソ株式会社製、商品名:FM−DA21、平均分子量:5000)を意味する。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、着用、洗濯を繰返しても撥水性能の低下が少ない優れた撥水性を示し、かつ実用に耐えうる十分な強度や伸度などの機械的物性を有する極細ポリエステル繊維を得ることができ、耐久撥水性が要求される衣料用途、産業資材用途の素材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるエステル反応性シリコーン化合物を含有するポリエステル組成物からなる繊維であって、ポリエステル組成物の全重量を基準として、該シリコーン化合物の含有量が2.0〜20.0重量%の範囲にあり、ポリエステル組成物の固有粘度が0.61dl/g以上であり、単糸直径が100nm〜3.5μmであることを特徴とするポリエステル極細繊維。
【化1】

[上記式(1)中、R1、R2、R3は同一若しくは異なっても良く、一部若しくは全部がハロゲン原子で置換されていても良い炭素数18個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表す。R4、R5、R7は同一若しくは異なっても良い炭素数10個以下のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基又はアルキルアリーレン基を表す。R6は炭素数10個以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルアリール基を表わし、Xはカルボキシル基及び水酸基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基であり、nは1〜100である。]
【請求項2】
上記エステル反応性シリコーン化合物のうち、ポリエステルと共重合しているものが、エステル反応性シリコーンの重量を基準として、20〜50重量%の範囲である請求項1記載のポリエステル極細繊維。
【請求項3】
ポリエステル極細繊維が海島型複合繊維の海成分を溶解除去した後の島成分からなる極細繊維である請求項1〜2いずれかに記載のポリエステル極細繊維。
【請求項4】
海島型複合繊維の島数が25〜1000で、海成分の溶解速度が島成分の溶解速度に対して30〜5000倍である請求項3記載のポリエステル極細繊維。
【請求項5】
海島型複合繊維の海成分と島成分の重量比率が90:10〜10:90である請求項3、4いずれかに記載のポリエステル極細繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載のポリエステル極細繊維を含む布帛。

【公開番号】特開2009−144257(P2009−144257A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319546(P2007−319546)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】