説明

ポリエステル樹脂、並びに熱接着性複合バインダー繊維、不職布及び固綿

【課題】 バインダー繊維に使用して高温雰囲気下での実用に耐え得るとともに、アンチモンをはじめとする重金属系の触媒を使用することなく製造できるために環境に対する負荷が小さい熱接着性のポリエステル樹脂を提供し、並びに、そのようなポリエステル樹脂を用いてなる複合バインダー繊維、不職布及び固綿を提供する。
【解決手段】 テレフタル酸を主たる酸成分とし、物質量比80/20〜30/70のエチレングリコールと1,4−ブタンジオールとを主たるジオール成分とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が100〜190℃であることを特徴とする低融点ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着バインダー樹脂として用いることのできるポリエステル樹脂、並びに熱接着性複合バインダー繊維、不職布及び固綿に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ルーフィング資材、自動車用内装材、カーペットの基布等に用いる不織布、枕やマットレス等の寝装用品の詰め物、キルティング用の中入れ綿等の繊維構造物において、構造物の主体をなす繊維(以下、主体繊維という。)相互間を接着する目的で、熱接着性バインダー繊維(以下、単に「バインダー繊維」という。)が広く使用されている。
【0003】
そして、主体繊維としては、比較的安価で、優れた物性を有するポリエステル繊維が最も多く使用されており、これを接着するバインダー繊維もポリエステル系が好ましく、種々のポリエステル系バインダー繊維及びこれらを用い接着したポリエステル繊維構造物が提案されている。
【0004】
ポリエステル系のバインダー繊維としては、通常、90〜200℃程度で軟化する熱接着性ポリエステル樹脂からなるものが用いられ、主体繊維の融点未満の温度範囲で熱処理をして主体繊維相互間を接着するものである。しかし、そのような熱接着性ポリエステル樹脂は、コポリエステルであるために明確な結晶融点を示さないものが多く、当該熱接着性ポリエステル樹脂のガラス転移点以上の高温雰囲気下に曝される産業資材用の繊維製品にバインダー繊維として使用された場合、高温雰囲気下で接着強度が低下し、製品の強度低下、嵩高保持性の低下等が起こるという問題があった。
【0005】
このため、近年では、明確な結晶融点を有するポリエステル樹脂を用いたバインダー繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
ところで、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステルの重縮合触媒としては、安価で、かつ優れた触媒活性を有することから、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物が広く用いられている。上記したようなバインダー繊維用の熱接着性ポリエステル樹脂の場合も、通常はアンチモン化合物が重合触媒として使用されているため、アンチモンが含有されたポリエステル樹脂となっている。
【0007】
しかし、最近になって、環境面からアンチモンの安全性に対する問題が欧米をはじめ各国で指摘されている。このため、最近ではアンチモン化合物を触媒に用いないアンチモンフリーのポリエステル樹脂が求められている。そこで、三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒として、テトラアルコキシチタネートやゲルマニウム化合物などが実用化されてきているが、テトラアルコキシチタネートを用いたポリエステルは、著しく着色し、かつ熱分解を容易に起こす問題があり、ゲルマニウム化合物は、非常に高価であるばかりか、反応中に系外へ溜出しやすく、反応系の触媒濃度が変化し、反応の制御が困難になるといった問題がある。
【特許文献1】特開平10−298828号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の現状に鑑み、本発明の課題は、バインダー繊維に使用して高温雰囲気下での実用に耐え得るとともに、アンチモンをはじめとする重金属系の触媒を使用することなく製造できるために環境に対する負荷が小さい熱接着性のポリエステル樹脂を提供すること、並びに、そのようなポリエステル樹脂を用いてなる複合バインダー繊維、不職布及び固綿を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するもので、その要旨は、次の通りである。
(1)テレフタル酸を主たる酸成分とし、物質量比80/20〜30/70のエチレングリコールと1,4−ブタンジオールとを主たるジオール成分とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が100〜190℃であることを特徴とするポリエステル樹脂。
(2)低融点樹脂と高融点樹脂とから構成され、低融点樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように成形された熱接着性複合バインダー繊維であって、低融点樹脂としては、請求項1に記載のポリエステル樹脂が用いられ、高融点樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂が用いられていることを特徴とする熱接着性複合バインダー繊維。
(3)上記(2)の熱接着性複合バインダー繊維からなる繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(A)と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(B)とが、質量比(A)/(B)=10/90〜50/50の割合で用いられて成形された不職布。
(4)上記(2)の熱接着性複合バインダー繊維からなる繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(A)と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(B)とが、質量比(A)/(B)=10/90〜50/50の割合で用いられて成形された固綿。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アンチモン等の重金属を実質的に含まないために環境負荷が小さく、熱接着性に優れ耐熱性も具備したポリエステル樹脂が得られる。また、本発明のポリエステル樹脂を用いれば、熱延伸法により低コストで操業性良くバインダー繊維を製造することができる。したがって、そのような本発明のポリエステル樹脂を用いて構成される本発明の熱接着性複合バインダー繊維は、環境負荷の小さい耐熱性のバインダー繊維として、高温雰囲気下での実用に供される繊維構造物に好適に使用できる。また、本発明の不職布及び固綿は、環境負荷が小さく、高温雰囲気下でも接着強力の低下や型崩れなどの外観変形が生じにくいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂において、ポリエステルを構成する酸成分としては、主としてテレフタル酸である。テレフタル酸は、PETの酸成分として知られているように、ポリエステル一般に共通の好ましい物性を与えるのに寄与する。
一方、ジオール成分としては、主としてエチレングリコールと1,4−ブタンジオールであり、また、両者の物質量比(いわゆるモル比)が80/20〜30/70(エチレングリコール/1,4−ブタンジオール)となっている必要がある。この範囲を外れて1,4−ブタンジオールの量が少なすぎると、ポリエステルの結晶性が悪くなり、繊維構造物に用いた場合に熱変形しやすく、耐熱性が不足することになる。逆に多すぎると、重縮合反応中にテトラヒドロフランが多量に生成してポリエステルの熱安定性が悪くなり、紡糸時に糸切れが多発するなど操業性が低下する。
【0013】
また、ポリエステルを構成する成分としては、本発明の目的を損なわない範囲において、上記したテレフタル酸、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオールに加えて、他の成分が共重合されていてもよい。そのような他の成分としては、例えば、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ジエチレングリコール。プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタエリスリトール、4−ヒドロキシ安息香酸、アジピン酸、ナフタレンジカルボン酸、ビスフェノールA、ビスフェノールS等が挙げられる。
【0014】
なお、上記したポリエステルを構成する成分としてのテレフタル酸、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び他の成分には、それらのエステル形成性誘導体が概念として含まれる。共重合成分として併用してもよい。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂は結晶融点を有するものであり、その結晶融点としては、100〜190℃である。結晶融点が100℃未満であると、耐熱性が不足し、バインダー繊維として不職布や固綿等の繊維構造物に用いた場合、高温雰囲気下で接着強度が低下したり、型崩れが生じたりするおそれがある。逆に、190℃を超えると、熱接着の際に繊維構造物の主体繊維の融点に近い高温にしなければならないため、主体繊維の物性や繊維構造物の風合いを損なうおそれがある。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂には、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体が100〜400ppm含有されている。このアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体は、本発明のポリエステル樹脂の製造過程において重縮合触媒として使用されたものが残存しているものであるため、通常、ポリエステル樹脂中の含有量は使用量に応じた量となっている。また、本発明のポリエステル樹脂は、その製造過程において従来のアンチモン化合物を重縮合触媒として使用しないので、実質的にアンチモンを含まないものである。したがって、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体の含有量が100ppm未満の場合、重縮合触媒としての作用が不足するため、本発明の共重合ポリエステルの重合度が十分に高められず、繊維に紡糸することが困難となる。一方、400ppmを超えると、ポリエステル樹脂の色調が悪化したり、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体がポリエステル樹脂中で凝集して粗大粒子となり、紡糸に用いた際にノズルパックの異常昇圧や糸切れといったトラブルの原因となる。
【0017】
本発明に用いられるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体とは、それぞれの化合物が均一に溶け合った固体である。この固溶体において、アルミニウム元素とマグネシウム元素の物質量(モル)比としては、アルミニウム/マグネシウムの比が0.1〜10.0であることが好ましく、0.2〜5.0がさらに好ましい。
【0018】
上記した固溶体を構成するアルミニウム化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム等のカルボン酸塩が挙げられ、また、
塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等の無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド等のアルミニウムアルコキサイドが挙げられ、また、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテートまた、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物及びこれら有機アルミニウム化合物の部分加水分解物が挙げられ、また、酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩と無機酸塩が好ましく、これらの中でも水酸化アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウムが特に好ましい。
【0019】
一方、マグネシウム化合物としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、マグネシウムアセチルアセトネート、酢酸以外のカルボン酸等が挙げられ、中でも、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが特に好ましい。
【0020】
なお、本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体としては、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物のいずれか一方もしくは両者において2種類以上が選択されて構成されたものであってもよい。
【0021】
また、本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体には、必要に応じて、マグネシウム、アルミニウム以外の金属(他の金属)の化合物が固溶していてもよいが、その場合には、当該固溶体の質量の70%以上がアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とで占められていることが好ましい。他の金属としては、亜鉛、チタン、錫、コバルト、マンガン、ニオブ、タンタル、タングステン、インジウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、鉄、ニッケル、ガリウム等が挙げられる。
【0022】
本発明におけるアルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体のうち、特に好適なものとしては、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなる固溶体が挙げられる。また、これに少量の酸化亜鉛が固溶したものも好適である。
【0023】
また、本発明のポリエステル樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、蛍光剤、染料のような色調改良剤、耐光剤等の添加物が含有されてもよい。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、例えば次のような方法により製造することが出来る。
【0025】
まず、温度230〜250℃で窒素ガス制圧下、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート又はその低重合体の存在するエステル化反応槽に、エチレングリコール(以下、EGと略記することがある。)とテレフタル酸(以下、TPAと略記することがある。)とからなり、両者の物質量(モル)比が1.1〜2.0のスラリーを連続的に添加し、滞留時間7〜8時間で平均重合度10以下のエステルオリゴマーを連続的に得る。次に、このエステルオリゴマーを重縮合反応缶に移し、1,4−ブタンジオール(以下、BDと略記することがある)をEG/BDの物質量比が80/20〜30/70の範囲内となる量で加え、さらに重縮合触媒として、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物からなる固溶体を重縮合して得られるポリエステルの量に対して100〜400ppmとなる量で添加した後、重縮合反応缶の温度を180〜250℃に昇温し、0.01〜13.3hPaの減圧下にて、所定の極限粘度となるまで重縮合反応を行う。このようにして所定の条件で重縮合反応を行って製造された本発明のポリエステル樹脂は、ガス圧を利用してノズルから押出すことにより多数の棒状に払い出され、カットされてチップ状の形態として得られるのが普通である。
【0026】
上記において、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を添加する方法としては、特に限定されるものではないが、上記固溶体を分散媒中に分散させたスラリーとして添加することが好ましい。このとき、スラリー中の固溶体の含有量としては、0.5〜3.0質量%とするのが好ましい。0.5質量%未満では、スラリーの添加量が多くなり、重合時に多量の溜出物が生成し、コストアップにつながりやすいので好ましくない。一方、3.0質量%を超えると、系にスラリーを添加した際に、固溶体の凝集が起こりやすく、ポリエステル中で固溶体が粗大粒子となり、ポリエステル繊維を紡糸する際にパック圧の上昇や糸切れといったトラブルを生じる原因となりやすいので好ましくない。
【0027】
上記した固溶体のスラリーに用いる分散媒としては、EG、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、DEG、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3ーブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等が挙げられ、これらの中でもEGが特に好ましい。
【0028】
また、固溶体が凝集して粗大粒子となることを防止するうえで、EG等の分散媒に所定量の固溶体を添加して撹拌混合した後、超音波処理を行うことが好ましい。このときの超音波の周波数は通常の周波数領域でよく、例えば、20kHz程度から100kHzの範囲での処理が採用できる。超音波を発生させる発振源としては、公知の手段でよく、例えば、水晶を用いた圧電振動子、ニッケルやフェライトを用いた電歪発振子等が挙げられる。また、超音波処理の時間としては、0.5〜5.0時間の範囲が好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は、熱接着性のバインダー繊維用として好適なものであり、これを用いて通常の方法で溶融紡糸することにより、バインダー繊維とすることができる。そのようなバインダー繊維としては、本発明のポリエステル樹脂のみで構成されたものでもよいが、他のポリエステル樹脂を併用した複合バインダー繊維であってもよい。すなわち、低融点樹脂と高融点樹脂とから構成される熱接着性複合バインダー繊維において、本発明のポリエステル樹脂を低融点樹脂として用いることができる。そのような熱接着性複合バインダー繊維の好ましい態様としての、本発明の熱接着性複合バインダー繊維について次に説明する。
【0030】
本発明の熱接着性複合バインダー繊維(以下、本発明のバインダー繊維と略記することがある)は、低融点樹脂と高融点樹脂とから構成され、低融点樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように成形された複合繊維である。 複合の形態としては、低融点樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるものでさえあれば特に限定されるものではない。例えば、同心もしくは偏心の芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型等の形態を採用できる。あるいは、紡糸パック内に静止混合素子を挿入して紡糸した高融点樹脂が層状もしくは筋状に分散した複合形態も採用できる。これらの複合形態から、目的に応じて適当な複合形態を選択すればよいが、同心の芯鞘型を採用すると製糸性が特に良好となり、偏心の芯鞘型やサイドバイサイド型を採用すると潜在捲縮性の繊維とすることができる。
【0031】
低融点樹脂と高融点樹脂との複合比としては、質量比で40/60〜60/40が好ましい。この範囲を外れて低融点樹脂の割合が少なすぎると、接着強度が不十分となり、逆に低融点樹脂の割合が多すぎると、複合繊維化が困難になる。
【0032】
この本発明のバインダー繊維の構成において、低融点樹脂としては、上記した本発明のポリエステル樹脂が用いられ、バインダー繊維としての熱接着性に寄与する。
【0033】
一方の高融点樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂が用いられる。そのような高融点樹脂としてのポリエステル樹脂としては、PETが好ましい。ただし、通常のアンチモン系の触媒を用いて重縮合されたものでは、アンチモンを含むことになるので、上記した本発明のポリエステル樹脂と同様、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を触媒として重縮合して得られるポリエステル樹脂が用いられる。したがって、高融点樹脂としてのポリエステル樹脂もまた、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有しているのであり、この構成によって、全体としても実質的にアンチモン等の重金属を含まない環境負荷の小さい複合バインダー繊維となっているのである。
【0034】
本発明のバインダー繊維の製造方法の一例として、不職布等に用いることのできる捲縮を有する短繊維の好ましい製造方法の例を簡単に説明する。まず、上記したような、高融点樹脂としての本発明のポリエステル樹脂と、低融点樹脂としてのポリエステル樹脂とを、公知の適当な複合溶融紡糸機に供給し、紡糸速度700〜1000m/分程度で複合紡糸して未延伸糸を得る。これをトウ状に集束し、60〜80℃程度の加熱ローラを使用して3〜5倍程度に延伸し、130〜150℃の熱板上を通過させ、さらにクリンパーに導入して捲縮をかけた後、カッタ−で切断して短繊維とする。この際、カッターに入る前のスライバーの温度を80℃以下にするのが好ましく、クリンパー上では、カッター内部での繊維の融着状態を見てスチームブローを調節することが好ましい。
【0035】
なお、本発明のバインダー繊維の繊度(単糸繊度)としては、1〜20dtexが好ましい。繊度が1dtex未満であると、紡糸時に単糸同士が密着したり、単糸が細すぎるため、糸切れが多発するなどして操業性が悪い傾向にあり好ましくない。逆に、繊度が20dtexを超えると、熱接着させるときの繊維同士の接触点が少なくなる傾向にあり、特に固綿に用いる場合には固綿の形態が崩れやすくなるので好ましくない。
【0036】
本発明のバインダー繊維は、PET繊維に代表されるエチレンテレフタレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維の接着に好適であり、したがって、そのようなポリエステル繊維を主体繊維とする繊維構造物に好適に用いることができる。
【0037】
本発明のバインダー繊維を用いた繊維構造物の好ましい態様のひとつとしては、不職布が挙げられ、特に好ましいのは短繊維からなる不職布である。短繊維からなる不職布とする場合、本発明のバインダー繊維としては、繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維として用いることが好ましい。繊維長が30mm未満であると、カードをかける際にカードから短繊維が落綿しやすいので好ましくない。逆に繊維長が100mmを超えると、カードに短繊維が絡み付き、ウェブの均一性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0038】
上記の不職布において、主体繊維しては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、上記したアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊維が好ましい。また、短繊維からなる不職布とする場合、主体繊維もバインダー繊維と同様に、繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維として用いることが好ましい。
【0039】
上記の短繊維からなる不職布を成形するに際して、バインダー繊維の短繊維(A)と、主体繊維の短繊維(B)とを用いる割合としては、(A)/(B)=10/90〜50/50の範囲とすることが好ましい。この範囲よりもバインダー繊維の割合が少ないと、主体繊維を十分に接着することが困難な傾向にあり好ましくない。逆に、上記範囲よりもバインダー繊維の割合が多いと、不職布の風合いが硬くなる傾向にあり好ましくない。
【0040】
上記の短繊維からなる不職布を成形する方法としては、特に限定されるものではないが、乾式法が好ましい。例えば、短繊維(A)と短繊維(B)とを所定の割合で混綿し、カードをかけた後、目付を目標とする製品に合わせて30〜120g/m程度に調節した後、バインダー繊維を構成する低融点樹脂の融点以上の温度、好ましくは当該融点よりも5〜10℃高い温度の熱風を1〜2分間当てればよい。
【0041】
本発明のバインダー繊維を用いた繊維構造物のもうひとつの好ましい態様としては、固綿が挙げられる。固綿とする場合、本発明のバインダー繊維としては、繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維として用いることが好ましい。繊維長が30mm未満であると、カードをかける際にカードから短繊維が落綿しやすいので好ましくない。逆に繊維長が100mmを超えると、カードに短繊維が絡み付き、ウェブの均一性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0042】
上記の固綿において、主体繊維しては、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、上記したアルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊維が好ましい。また、主体繊維もバインダー繊維と同様に、繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維として用いることが好ましい。
【0043】
固綿を成形するに際して、バインダー繊維の短繊維(A)と、主体繊維の短繊維(B)とを用いる割合としては、(A)/(B)=10/90〜50/50の範囲とすることが好ましい。この範囲よりもバインダー繊維の割合が少ないと、主体繊維を十分に接着することが困難な傾向にあり好ましくない。逆に、上記範囲よりもバインダー繊維の割合が多いと、固綿の風合いが硬くなる傾向にあり好ましくない。
【0044】
上記の固綿を成形する好ましい方法を説明すると、まず、短繊維(A)と短繊維(B)とを所定の割合で混綿し、カードをかけてウェブとする。次に、そのウェブを、目付の合計が300〜3000g/m程度となるように複数枚積層する。そして、その積層ウェブを、目標とする厚み、通常は5〜50mm程度となるように厚み調節しつつ、加熱接着して成形すればよい。このときの加熱接着にはキャタピラ型熱接着機を用いるのが好適であり、バインダー繊維を構成する低融点樹脂の融点以上の温度、好ましくは当該融点よりも5〜10℃高い温度に設定して行うのが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明する。 なお、各種物性等については、次に示す方法により評価した。
(1)極限粘度([η])
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(2)融点(T
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7型)を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
(3)ポリエステル樹脂の熱安定性
ポリエステル樹脂を単独で溶融紡糸し、紡糸前のポリエステル樹脂の[η]と紡糸後の繊維の[η]との差により、その差が0.07以内の場合は○、0.07を超える場合は×として評価した。
(4)不織布の強力
不織布を巾25mm、長さ100mmの試料となし、定速伸長型引張試験機(オリエンティック社製UTM−4−100型)を用い、引張速度100mm/分で測定した。
【0046】
加熱下の強力としては、さらに引張試験機用恒温装置(オリエンティック社製TKC−3−B)を用いて、試料設置部を所定の雰囲気温度に90秒間保ったうえで測定した。
(5)固綿の耐熱性
固綿を縦300mm、横300mm、厚さ10mmの試料となし、この試料を、3mm厚の板を図1に示すような一辺200mmの正方形状に組んだ高さ50mmの木枠に載せ(このとき、図2に示すように、木枠からはみ出す部分が各辺でほぼ均等になるように載せる)、さらに当該試料上の中央部に重さ200gの鉄球を載せた状態で、温度70℃または110℃のオーブン内で2時間保持したときの、試料中央部のたわみ量(図3に示すh)を測定した。たわみ量が5mm以内の場合は○、たわみ量が5mmを超える場合は×と評価した。
【0047】
(参考例1)
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、TPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のエステルオリゴマーを連続的に得た。
【0048】
このエステルオリゴマー52.1kgに、重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムとからなり、アルミニウム/マグネシウムの物質量(モル)比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の含有量がポリエステルに対して250ppm)を加え、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で、3.5時間重縮合反応を行い、常法により払い出してチップ状のポリエステル樹脂(高融点樹脂)を得た。このポリエステル樹脂は、[η]=0.57、T=256℃という特性を有するものであった。
【0049】
(参考例2)
上記の参考例1で得られたポリエステル樹脂のチップを常法により乾燥してから、溶融紡糸装置に投入し、孔径0.3mm、孔数720の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、紡糸速度900m/分、吐出量360g/分の紡糸条件で溶融紡糸し、その後、引き揃えて12万dtexの未延伸トウを得た。次いで、このトウを加熱ローラ温度65℃で、3.3倍に第一延伸した後、加熱ローラ温度60℃で、1.1倍に第二延伸した。その後、ヒートドラムで温度190℃で熱セットし、機械捲縮を付与してから切断することにより、繊度2.0dtex、長さ51mmの短繊維(B)を得た。
【0050】
(実施例1)
ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体の存在するエステル化反応缶に、TPAとEGとのモル比1/1.6のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%のエステルオリゴマーを連続的に得た。このエステルオリゴマー60.3kgを重縮合缶に仕込み、BDを、EGとBDとのモル比が55/45となる量(16.2kg)添加し、さらに、重縮合触媒として、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムと炭酸マグネシウムからなり、アルミニウム/マグネシウムのモル比が0.4である固溶体(堺化学工業社製HT−P)の濃度が1.5質量%に調製されたEGスラリー0.8kg(固溶体の含有量がポリエステルに対して250ppm)を添加し、徐々に減圧して、最終的に圧力0.9hPa、温度280℃で、4時間重縮合反応を行い、常法により払い出してチップ状のポリエステル樹脂(低融点樹脂)を得た。このポリエステル樹脂は、[η]=0.67、T=181℃という特性を有するものであった。
【0051】
次に、このポリエステル樹脂(低融点樹脂)と、参考例1で得られたポリエステル樹脂(高融点樹脂)とを用いて複合バインダー繊維を製造した。すなわち、それぞれのポリエステル樹脂チップを常法により乾燥してから、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、吐出孔数225の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、紡糸速度700m/分、吐出量227g/分、複合比50/50の紡糸条件で溶融紡糸し、その後、引き揃えて10万dtexの未延伸トウを得た。そして、このトウを延伸温度62℃、延伸倍率3.2倍で延伸し、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した後に切断して、繊度4dtex、繊維長51mmであるバインダー繊維の短繊維(A)を得た。
【0052】
また、上記の短繊維(A)と、参考例2で得られた短繊維(B)とを、(A)/(B)の質量比が30/70となるように混綿し、カードに通して50g/mのウェブとした後、170℃に設定した回転乾燥機で2分間の熱処理を施すことにより、短繊維不織布を得た。
【0053】
また、上記の短繊維(A)と、参考例2で得られた短繊維(B)とを、(A)/(B)の質量比が30/70となるように混綿し、カードに通して100g/mのウェブとした。このウェブを8枚積層して、キャタピラ型熱接着機を用いて、厚みを制御しながら170℃で加熱接着成形することにより、厚みが10mmの固綿を得た。
【0054】
(実施例2〜3及び比較例1〜4)
ポリエステル樹脂(低融点樹脂)を製造する際のBD及び重縮合触媒の添加量、並びに、不織布及び固綿を製造する際の短繊維(A)と短繊維(B)とを混綿する質量比を、下記表1及び表2に示すような値としたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂、バインダー繊維、不織布及び固綿を得た。なお、ポリエステル樹脂(低融点樹脂)についての製造時の仕込み条件及び樹脂特性を下記表1に示す。また、不職布及び固綿の製造条件及び特性を下記表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1及び表2からわかるように、実施例1〜3では、本発明の構成を充足していることにより、ポリエステル樹脂、バインダー繊維、不織布及び固綿ともに良質なものが得られた。しかもそれらは、アンチモンのような重金属系の触媒を用いずに製造できたものであり、環境面から見ても良好なものであった。
【0058】
これに対して、比較例1では、BDの添加量が少なかったため、ポリエステル樹脂(低融点樹脂)におけるEG/BDが本発明の範囲外となって結晶性が悪くなった結果、不織布及び固綿の耐熱性が不足していた。
【0059】
比較例2では、BDの添加量が多かったため、ポリエステル樹脂(低融点樹脂)におけるEG/BDが本発明の範囲外となって熱安定性が悪くなった結果、紡糸時に粘度低下が生じて糸切れが多発し、操業性が悪かった。
【0060】
比較例3では、重縮合触媒たる固溶体の添加量が少なすぎたため、ポリエステルの重合性が極めて悪かった。
【0061】
比較例4では、重縮合触媒のたる固溶体の添加量が多すぎたため、ポリエステルの色調が極めて悪く、かつ、固溶体に起因すると見られる粗大粒子のため、紡糸時に糸切れが多発して、繊維を得ることが出来なかった。
【0062】
(比較例5)
実施例1で得られた短繊維(A)と、参考例2で得られた短繊維(B)とを、(A)/(B)の質量比が5/95となるように混綿し、カードに通して50g/mのウェブとした後、170℃に設定した回転乾燥機で2分間の熱処理を施すことにより、短繊維不織布を得た。また、同様に混綿し、カードに通して100g/mのウェブとしたウェブを8枚積層して、キャタピラ型熱接着機を用いて、厚みを制御しながら170℃で加熱接着成形することにより、厚みが10mmの固綿を得た。
【0063】
(比較例6)
混綿の際の質量比(A)/(B)を60/40としたこと以外は、比較例5と同様にして不織布及び固綿を得た。
【0064】
比較例5,6で得られた不織布並びに固綿の製造条件及び評価結果を下記表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3からわかるように、比較例5では、バインダー繊維が少なすぎて、不織布、固綿ともに繊維の接着が不十分であった。
【0067】
比較例4では、バインダー繊維が多すぎて、不織布、固綿ともに風合いが硬かった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】固綿の耐熱性を評価する際に用いる木枠の形状を説明するための斜視図
【図2】固綿の耐熱性を評価する際の試料の設置方法を説明する上正面図
【図3】固綿の耐熱性を評価する際のたわみ量を説明する断面図
【符号の説明】
【0069】
1 木枠
2 固綿の試料
3 鉄球
h たわみ量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主たる酸成分とし、物質量比80/20〜30/70のエチレングリコールと1,4−ブタンジオールとを主たるジオール成分とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が100〜190℃であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
低融点樹脂と高融点樹脂とから構成され、低融点樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占めるように成形された熱接着性複合バインダー繊維であって、低融点樹脂としては、請求項1に記載のポリエステル樹脂が用いられ、高融点樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有し、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂が用いられていることを特徴とする熱接着性複合バインダー繊維。
【請求項3】
請求項2に記載の熱接着性複合バインダー繊維からなる繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(A)と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(B)とが、質量比(A)/(B)=10/90〜50/50の割合で用いられて成形された不職布。
【請求項4】
請求項2に記載の熱接着性複合バインダー繊維からなる繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(A)と、エチレンテレフタレートを主たる構成単位とし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物とからなる固溶体を100〜400ppm含有してなり、結晶融点が220℃以上であるポリエステル樹脂から成形された繊度1〜20dtex、繊維長30〜100mmの短繊維(B)とが、質量比(A)/(B)=10/90〜50/50の割合で用いられて成形された固綿。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−2126(P2007−2126A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185016(P2005−185016)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】