説明

ポリエステル樹脂及びプリフォームの製法

【課題】 低温成形による成形が可能であり、透明性及び香味保持性に優れた容器を提供できるポリエステル樹脂を提供することである。
【解決手段】 樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満であり、重量平均分子量(Mw)が47000g/mol以下であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温成形が可能なポリエステル樹脂に関し、より詳細には、低温成形により香味保持性及び透明性に優れた容器を提供可能なポリエステル樹脂及びこのポリエステル樹脂を用いたプリフォームの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、特にポリエチレンテレフタレートから成る二軸延伸ブロー成形容器は、優れた透明性と適度なガスバリヤー性とにより、液体洗剤、シャンプー、化粧品、醤油、ソース等の液体商品、食品、或いはビール、コーラ、サイダー等の炭酸飲料や、果汁、ミネラルウォーター等の他の飲料等の容器として広く使用されている。
【0003】
一般に容器の成形に用いられるポリエチレンテレフタレートの融点(Tm)は250〜265℃の範囲にあり、かかるポリエチレンテレフタレートを用いて透明性に優れた二軸延伸ブロー成形容器を成形するには、融点(Tm)よりも25〜40℃以上高い温度でプリフォームを成形する必要がある。しかしながらこのような高温に曝されることにより、ポリエチレンテレフタレートが熱分解し、アセトアルデヒドやオリゴマー等が副生することになる。かかるポリエチレンテレフタレート容器中に残留するアセトアルデヒドは、ボトルの香味保持性を低下させる原因になり、特に内容物としてミネラルウォーター等の水を充填する場合には、少量のアセトアルデヒドでも香味保持性に影響を与えるため問題となる。
【0004】
従来ポリエステル容器の残存アセトアルデヒド濃度を低減させる方法としては、例えば、ポリエステル樹脂を脱気処理しながら溶融混練する方法(例えば、特許文献1)や或いはポリエステル樹脂を熱水処理した後用いること等が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−117819号公報
【特許文献2】特開2001−31750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された方法は、ポリエステル樹脂を用いて成形する際に樹脂中のアセトアルデヒド濃度を低減させるものであるがその低減量には限界がある。また上記特許文献2に記載された方法では、ポリエステル樹脂に後処理を施す必要があり、生産性に劣っている。
またポリエステル容器のアセトアルデヒド濃度を低減させる方法としては、低温で成形を行うことが考えられるが、現在容器の成形に用いられている一般的なポリエチレンテレフタレートでは、低温で成形することは困難であり、成形できたとしても白化して透明性が著しく低下するという問題を有していた。
【0007】
従って本発明の目的は、低温成形による成形が可能であり、透明性及び香味保持性に優れた容器を提供できるポリエステル樹脂を提供することである。
本発明の他の目的は、低温での射出成形等により、透明性及び香味保持性に優れたプリフォームの製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満であり、重量平均分子量(Mw)が47000g/mol以下であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下であることを特徴とするポリエステル樹脂が提供される。
本発明のポリエステル樹脂においては、
1.上記ポリエステル樹脂が溶融重合で合成されていること、
2.Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)及び剪断速度2000sec−1における溶融粘度が100乃至240Ns/mの範囲にあること、
が好ましい。
【0009】
本発明によればまた、上記ポリエステル樹脂を、Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)の範囲の樹脂温度で射出成形することを特徴とするプリフォームの製法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂によれば、低温での射出成形が可能であり、成形品中のアセトアルデヒド濃度を低減することができ、香味保持性に優れた成形品を提供することが可能となる。
また本発明のポリエステル樹脂によれば、低温成形、特に射出成形でプリフォームを成形しても白化することがなく、透明性及び香味保持性に優れたプリフォームを得ることが可能となる。
更に本発明のポリエステル樹脂によれば、溶融法によるポリエステルのチップへの固化、固相重合、プリフォームへの成形のための再溶融等を省略できるので、工程を簡略化し、エネルギーコストを節約できるなどの利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のポリエステル樹脂は、樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満であり、重量平均分子量(Mw)が47000g/mol以下であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下であることが重要な特徴である。尚、本発明における固有粘度は、重量比1:1のフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用い、30℃にて測定したものである。
【0012】
前述した通り、ポリエステル樹脂からプリフォーム等の成形物を成形する場合、一般的にはポリエステル樹脂の融点(Tm)よりも20℃以上高い温度、特に射出成形の場合には、35℃以上高い温度で樹脂を溶融混練する必要があり、この際樹脂の熱分解を生じてアセトアルデヒドやオリゴマーの副生による金型汚れにより、容器の香味保持性や透明性が低下するという問題が生じていた。
本発明においては、このような観点からポリエステル樹脂の融点(Tm)、溶融ポリエステル樹脂の温度(T)を基準として、Tm≦T≦Tm+20℃の温度範囲の低温で成形することが可能なポリエステル樹脂を提供するものであり、本発明のポリエステル樹脂によれば、成形された容器中に残存するアセトアルデヒド量が著しく低減されているため、香味保持性に優れていると共に、低温成形に特有の容器の白化も防止されているのである。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂においては、樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、特に110乃至230ppmの範囲にあることにより、低温成形の重大な問題点である成形品の白化を有効に抑制することが可能となるのである。
樹脂中に含有される金属は、主としてポリエステル樹脂の製造に際して配合される金属触媒の残渣や安定剤等の各種添加剤に含有されている金属であり、このような金属はポリエステル樹脂を溶融する際の熱分解促進に関与すると共に、ポリエステル樹脂中で結晶核剤として作用するため、特にポリエステル樹脂の結晶化速度に影響を与え、成形品の白化の原因になるのである。
【0014】
このことは後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下である本発明のポリエステル樹脂は、優れた香味保持性及び透明性を有しているのに対して(実施例1〜5)、樹脂中の金属の合計量が上記値よりも大きい場合には、後述する重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mz/Mn)が本発明の範囲にある場合であっても、透明性に劣っているのである(比較例2)。
尚、本発明における金属とは、Fe,Ti,Mn等の遷移金属元素、Ca,Mg,Al等の典型金属元素及びGe等の半金属元素を指す。
【0015】
また本発明のポリエステル樹脂においては、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満、特に0.56乃至0.68dL/gであり、その重量平均分子量(Mw)が47000、特に30000乃至47000であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下、特に3.1乃至3.4であることにより、低温(Tm≦T≦Tm+20℃)で成形するため必要な溶融粘度を呈することが可能となる。
すなわち後述する実施例から明らかなように、固有粘度、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mz/Mn)が上記範囲にある本発明のポリエステル樹脂では、Tm≦T≦Tm+20℃の温度域における、剪断速度2000sec−1下の溶融粘度が100乃至240Ns/mの範囲であり、低温(Tm≦T≦Tm+20℃)で成形性よく成形できるのに対し(実施例1〜5)、固有粘度、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mz/Mn)の何れか一つでも本発明範囲を外れることにより、溶融粘度が大きくなって樹脂の流動性が悪く、成形しにくいために、射出速度を非常に速くする必要があったり(比較例3)、樹脂の流れに沿った白化(比較例1、2)、或いは樹脂が射出成形金型内に充分に射出されないためにおこるショートやひけの発生(比較例3、5)、シワや気泡の発生(比較例4)が見られ、成形性に劣っていることが明らかである。
【0016】
尚、本発明で規定する分子量分布(Mz/Mn)は、特にポリエステル樹脂中の高分子量成分の分布の影響が端的に表され、この分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下、特に3.1乃至3.4の範囲にあることにより、本発明のポリエステル樹脂は、溶融粘度が上記範囲にある一般的なポリエステル樹脂よりも絡み合い点間重合度よりも大きい高分子量成分を多く含有すると共に、からみあい重合度よりも小さい低分子量成分をも多く含有するため、成形性に関与する溶融粘度が低く維持され、低温での成形が容易で、且つ成形品の白化を抑制し得るという特性を有するのである。
【0017】
(ポリエステル樹脂の合成)
本発明のポリエステル樹脂は、樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満であり、重量平均分子量(Mw)が47000g/mol以下であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下である限り、従来公知のポリエステル樹脂の製造法により調製することができる。
ポリエステル樹脂の製造方法としては、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体とを主体とする原料を、エステル化反応或いはエステル交換反応を経て重縮合させることにより得られたものであることが好ましい。
【0018】
以下、ポリエチレンテレフタレートの合成を例にとって説明する。
ポリエチレンテレフタレートの合成は一般に、高純度テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)とを直接反応させてポリエチレンテレフタレート(PET)を合成する方法により行われ、通常2つの工程に分けられており、(A)TPAとEGとを反応させて、ビス−β−ヒドロキエチルテレフタレート(BHET)又はその低重縮合体を合成する工程、(B)BHET又はその低重縮合体からエチレングリコールを留去して重縮合を行う工程から成っている。
【0019】
BHET又はその低重縮合体の合成はそれ自体公知の条件で行うことができ、例えばTPAに対するEGの量を1.1〜1.5モル倍として、EGの沸点以上、例えば220〜260℃の温度に加熱して、1〜5kg/cm の加圧下に、水を系外に留去しながら、エステル化を行う。
この場合、エステル化触媒として、例えば酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、金属マグネシウム等を用いることが公知であるが、TPA自体が触媒となり、しかも本発明においては樹脂中の金属の合計量を240ppm以下に抑制する必要から、触媒を用いないことが望ましい。
【0020】
第二段階の重縮合工程では、第一段階で得られたBHET又はその低重縮合体にそれ自体公知の重縮合触媒を加えた後、反応系を260〜290℃に保ちながら徐々に圧力を低下させ、最終的に1〜3mmHgの減圧下に撹拌し、生成するEGを系外に留去しながら、反応を進行させる。反応系の粘度によって分子量を検出し、所定の値に達したら、系外に吐出させ、冷却後ペレタイズして、樹脂ペレットとすることもできるし、溶融状態のまま射出成形機や圧縮成形機に供給して直接成形することもできる。
重縮合触媒としては、一般にゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物等が使用されるが、本発明においては、触媒濃度として0.01乃至0.03mol/mol(BHET)の範囲にあることが好ましい。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度は0.55dL/g以上0.7dL/g未満、特に0.57乃至0.68dL/gの範囲にあることが望ましく、このような範囲の固有粘度を有するため、本発明のポリエステル樹脂は上述したように、溶融重合のみで合成することができるが、溶融重合によるポリエステル樹脂中には固相重合を経たポリエステル樹脂に比してアセトアルデヒドや低分子量成分が多く含有されているため後述する処理を行うことが好ましい。
すなわち、一般にポリエステル溶融物中に含まれるアセトアルデヒドの抜けやすさは、ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)と密接に関連し、固有粘度(IV)が高いほど抜けにくくなるが、本発明のポリエステル樹脂は固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満と低いため、後述する処理を行うことにより、固有粘度を上昇させることなく、効率よくアセトアルデヒドを除去することが可能となる。
【0022】
例えば、得られたポリエステル樹脂を短時間加熱し、アセトアルデヒドや環状三量体等の低分子量成分を低減させることもできる。すなわち、溶融重合後の樹脂ペレットを170℃内外に温められた予備結晶化漕で空気或いは窒素等の不活性化ガスと0.5時間ほど処理したのち、200℃から230℃に加熱された加熱漕へ送り、真空ないし不活性ガスを流しながら非常に短時間加熱することにより、固有粘度を上昇させること無しにペレット中に含まれる不純物、主に低分子量成分を取り除くことが可能となる。
【0023】
更に溶融重合後の樹脂をペレタイズする際の押出機中にベントを設けて減圧雰囲気にすることで樹脂中のアセトアルデヒドを低減することができる。
更にまた、溶融重合後の樹脂ペレットに水処理を行うことで、樹脂中のアセトアルデヒド、環状三量体等の低分子量成分を減らすことができる。水処理は、樹脂ペレットを水、水蒸気、水蒸気含有ガス或いは水蒸気含有空気等と接触させることにより行うことができ、樹脂ペレットと水との接触は、40〜100℃の水に3分〜5時間、特に好ましくは50〜100℃の熱水に5分間〜3時間浸積することにより行うことができる。また50〜110℃の水蒸気又は水蒸気含有ガスと樹脂ペレットを通常5分間〜14日間、好ましくは10分間〜2日間、特に好ましくは20分間〜10時間接触させることにより行うことができる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂の合成に用いられるジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸成分の50%以上、特に80%がテレフタル酸であることが機械的性質や熱的性質から好ましいが、テレフタル酸以外のカルボン酸成分を含有することも勿論できる。テレフタル酸以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸,1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸等を挙げることができる。
【0025】
ジオール成分としては、ジオール成分の50%以上、特に80%以上がエチレングリコールであることが、機械的性質や熱的性質から好ましく、エチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹脂用配合剤、例えば着色剤、抗酸化剤、安定剤、各種帯電防止剤、離型剤、滑剤、核剤、増粘剤等を配合することが可能であるが、本発明のポリエステル樹脂においては樹脂中の金属量が240ppm以下であることから、この範囲を損なわないように公知の処方に従って配合することができる。
【0027】
(プリフォームの成形)
本発明のポリエステル樹脂を用いたプリフォームの成形は、射出成形又は圧縮成形の何れの方法によっても成形することができるが、本発明のポリエステル樹脂は特に射出成形に有利に用いることができる。
すなわち、射出成形では圧縮成形に比してポリエステル樹脂が長時間高温に曝されることから樹脂の熱分解が生じやすいという問題を有しているが、本発明のポリエステル樹脂は、前述した通り、Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)及び剪断速度2000sec−1における溶融粘度が100乃至240Ns/mの範囲にあるため、Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)の範囲の樹脂温度で射出成形が可能であることから、樹脂の熱分解による分子量の低下、アセトアルデヒドやオリゴマーの副生を有効に抑制することができ、透明性、香味保持性に優れたプリフォームを成形することが可能となるのである。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂を用いてプリフォームの成形をする場合、前述した通り、溶融重合後ペレット化せず、溶融ポリエステル樹脂をそのまま直接射出成形機或いは圧縮成形機に供給することもできるし、樹脂ペレットを押出機で溶融混練して射出成形機或いは圧縮成形に供給することもできる。
射出成形による場合では、溶融ポリエステル樹脂を射出して、最終容器に対応する口頸部を備えた前記形状のプリフォームを非晶質の状態で製造する。樹脂温度(射出温度)以外の射出条件は、特に限定されないが、一般に30乃至60kg/cmの射出圧力で成形することが好ましい。また所望により、得られたプリフォームに耐熱性及び剛性を与えるべく、プリフォームの段階で螺合部、嵌合部、支持リング等を有する口頚部を熱処理により結晶化し白化させることもできる。
【0029】
圧縮成形による場合は、合成樹脂供給装置に供給された溶融ポリエステル樹脂が、溶融樹脂塊に切断され、保持されて、雄型及び雌型から成る圧縮成形機に供給されて圧縮成形され、射出成形の場合と同様にプリフォームを非晶質の状態で製造する。
圧縮成形の場合においても、溶融ポリエステル樹脂の溶融押出温度が、射出成形の場合と同様にTm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点)の範囲にあることにより、一様な溶融押出物を形成できると共に、樹脂の熱劣化やドローダウンを防止することが可能となる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームは、延伸ブロー成形されることにより、ボトル、広口カップ等の延伸成形容器に成形される。
延伸ブロー成形においては、本発明の圧縮成形用ポリエステル樹脂を用いて成形されたプリフォームを延伸温度に加熱し、このプリフォームを軸方向に延伸すると共に周方向に二軸延伸ブロー成形して二軸延伸容器を製造する。
尚、プリフォームの成形とその延伸ブロー成形とは、コールドパリソン方式の他、プリフォームを完全に冷却しないで延伸ブロー成形を行うホットパリソン方式にも適用できる。
得られたポリエステル容器は、それ自体公知の手段で熱固定することもできる。熱固定は、ブロー成形金型中で行うワンモールド法で行うこともできるし、ブロー成形金型とは別個の熱固定用の金型中で行うツーモールド法で行うこともできる。
【実施例】
【0031】
本発明を次の例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に規制されるものではない。
【0032】
1.[金属含有量の測定]
ポリエステル樹脂試料1.0gを、硫酸存在下に硝酸で常法により灰化、完全分解後、蒸留水にて100mlに定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(日本ジャーレル・アッシュ株式会社製 ICAP−88)を用いて各金属元素含有量を定量した。
【0033】
2.[固有粘度[η]の測定]
ポリエステル樹脂試料0.20gを精秤し、重量比1:1の1,1,2,2−テトラクロロエタン−フェノール混合溶媒20mlに、120℃20分間攪拌して完全に溶解させた。溶解後常温まで冷却し、グラスフィルターを通した溶液を用いて、30℃に温調されたウベローデ粘度計(株式会社草野科学機会製作所製)により固有粘度を求めた。
【0034】
3.[重量平均分子量および分子量分布の測定]
ポリエステル樹脂試料0.5gを精秤し、重量比1:1のクロロホルム−ヘキサフルオロイソプロパノール混合溶媒に溶解させた溶液を用い、ゲルパーミッションクロマトグラフィー(システム:旭テクネイオン株式会社製 Integrated System For GPC/SEC、カラム:TSK G5000HHR+4000HHR、検出器:VISCOTEC社製 Triple Detector Module TriSEC Model302、溶媒:クロロホルム、注入量:100μL)により重量平均分子量Mwを求めた。また、同様にして得られた数平均分子量Mnとz平均分子量Mzより、分子量分布(Mz/Mn)を求めた。
ここで、z平均分子量Mzとは、ΣW/Wで与えられる平均分子量であり、Wは分子種の重量、Mは分子量をそれぞれあらわす。
【0035】
4.[溶融粘度の測定]
キャピログラフ(東洋精機株式会社製)を用い、キャピラリーL/D=10/1(mm)、シリンダー温度265℃におけるポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。得られた溶融粘度曲線から歪み速度2000sec−1における溶融粘度を読みとった。
【0036】
5.[アセトアルデヒド(AA)濃度の測定]
凍結粉砕した成形プリフォーム1gをバイアル瓶に精秤し、超純水5mlを加えて蓋をした。超純水と試料を良く振り混ぜてから、あらかじめ120℃に設定した電気オーブンにて60分加熱した。加熱後、氷冷して静置し、上澄みを1ml取り出して0.1%2,4−ジニトロフェニルヒドラジン・リン酸溶液0.2mlを加えてキャップを閉め、30分以上室温で放置した。高速液体クロマトグラフィー(東ソー株式会社製 高速液体クロマトグラフィーシステム:CCP&8020システム、カラム:TSK−GEL ODS−80Ts 4.6mm×250mm、検出器:UV、360nm、溶媒:蒸留水:アセトニトリル=0.47:0.53混合溶媒、注入量:50μL)を用いて、得られた試料溶液からAA含有量を定量した。
【0037】
[実施例1]
固有粘度:0.62dL/g、重量平均分子量Mw:40400g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.2、金属含有量:195ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:201Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機により射出速度30mm/secでプリフォームを成形し、プリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0038】
[実施例2]
固有粘度:0.68dL/g、重量平均分子量Mw:46990g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.2、金属含有量:228ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:195Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、実施例1と同様にプリフォームを成形し、プリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0039】
[実施例3]
固有粘度:0.64dL/g、重量平均分子量Mw:43920g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.2、金属含有量:159ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:224Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、実施例1と同様にプリフォームを成形し、プリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0040】
[実施例4]
固有粘度:0.58dL/g、重量平均分子量Mw:31130g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.2、金属含有量:157ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:157Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、実施例1と同様にプリフォームを成形し、プリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0041】
[実施例5]
固有粘度:0.61dL/g、重量平均分子量Mw:39480g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.4、金属含有量:218ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:191Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、実施例1と同様にプリフォームを成形し、プリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0042】
[比較例1]
固有粘度:0.71dL/g、重量平均分子量Mw:61190g/mol、分子量分布Mz/Mn:2.8、金属含有量:360ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:239Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機によりプリフォームを成形したところ、射出速度を上げて成形を行わねばならなかった。
実施例1と同様に、このプリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0043】
[比較例2]
固有粘度:0.68dL/g、重量平均分子量Mw:46690g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.4、金属含有量:266ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:206Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機によりプリフォームを成形したところ、射出速度を上げて成形を行わねばならなかった。
実施例1と同様に、このプリフォームの成形状態を確認すると共に、得られたプリフォームのアセトアルデヒドの含有量を測定した。
【0044】
[比較例3]
固有粘度:0.75dL/g、重量平均分子量Mw:48340g/mol、分子量分布Mz/Mn:2.8、金属含有量:238ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:250Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機によりプリフォームを成形しようとしたところ、射出速度を上げても、樹脂が金型内に充分に射出されずにショートが発生し、プリフォーム成形が困難であった。
【0045】
[比較例4]
固有粘度:0.50dL/g、重量平均分子量Mw:35420g/mol、分子量分布Mz/Mn:2.0、金属含有量:226ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:90Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機によりプリフォームの成形を試みたが、ノズル先端の樹脂だれが激しく、プリフォーム中に気泡やしわが生じ、プリフォーム成形が困難であった。
【0046】
[比較例5]
固有粘度:0.64dL/g、重量平均分子量Mw:45740g/mol、分子量分布Mz/Mn:3.5、金属含有量:230ppm、剪断速度2000sec−1における溶融粘度:260Ns/m(温度:265℃)のポリエステル樹脂を用い、バレル温度を270℃に設定した射出成形機によりプリフォームの成形を試みたが、射出速度を上げても、樹脂が金型内に充分に射出されずにショートが発生し、プリフォーム成形が困難であった。
【0047】
以上の実施例、比較例の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に含有される金属の合計量が240ppm以下、固有粘度が0.55dL/g以上0.70dL/g未満であり、重量平均分子量(Mw)が47000g/mol以下であると共に、分子量分布(Mz/Mn)が3.4以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
上記ポリエステル樹脂が溶融重合で合成されている請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)及び剪断速度2000sec−1における溶融粘度が100乃至240Ns/mの範囲のある請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のポリエステル樹脂を、Tm≦T≦Tm+20℃(Tmはポリエステル樹脂の融点、Tは溶融ポリエステル樹脂の温度)の範囲の樹脂温度で射出成形することを特徴とするプリフォームの製法。

【公開番号】特開2006−176614(P2006−176614A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370473(P2004−370473)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】