説明

ポリエステル樹脂組成物およびその硬化物

【課題】グリシジル基含有メトキシシラン部分縮合物を用いることなく、ポリエステル樹脂の本来の性能である加工性や柔軟性等を維持しつつ、耐熱性に優れ、しかも硬度や耐溶剤性、プラスチック基材への密着性、透明性等に優れたゾル−ゲル硬化物を形成できる、新規なポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】水酸基価が35〜110である、芳香族環構造を有する分岐状ポリエステル樹脂(A)、および一般式(I):RSi(OR4−m(式中、mは0または1の整数を、Rは炭素数8以下のアルキル基またはアリール基を、Rはメチル基を示す。)で表されるポリメトキシシラン類の部分縮合物(B)を含有する、ポリエステル樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、アクリル系樹脂やエポキシ樹脂等と比較して加工性や柔軟性が良好であるため、従来、コーティング剤や塗料、接着剤等の用途において賞用されている。また、かかる特長を維持しつつ、その欠点であった耐熱性や硬度、耐溶剤性等を向上させる手段として、ポリエステル樹脂中にトリメトキシシシラン類の部分縮合物を分散させてなるポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化させることが知られている。
【0003】
ゾル−ゲル硬化型のポリエステル樹脂組成物として、本出願人は既に、カルボキシル基末端ポリエステル樹脂とグリシジル基含有メトキシシラン部分縮合物とを反応させてなるシラン変性ポリエステル樹脂組成物、を提案している(特許文献1を参照)。しかし、カルボキシル基とグリシジル基とを反応させるためには反応温度を高く設定する必要があり、その熱エネルギーに相当する分、製品の高コスト化や、環境への高負荷を招く。また、当該反応は通常、高沸点の有機溶剤(メトキシプロピルアセテート等)中で行う必要があるが、得られたシラン変性ポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化反応させる際に当該有機溶剤が硬化物から離脱し難いという問題もある。そのため、所望の耐熱性や硬度、耐溶剤性等を有するゾル−ゲル硬化物を短時間で得ることが困難である。
【0004】
一方、カルボキシル基末端ポリエステル樹脂と、グリシジル基を含有しないメトキシシラン部分縮合物とを組み合わせることも考えられるが、得られるゾル−ゲル硬化物はシリカ粒子が過度に凝集した状態であり、その耐熱性や硬度、耐溶剤性、透明性等が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−211000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グリシジル基含有メトキシシラン部分縮合物を用いることなく、ポリエステル樹脂の本来の性能である加工性や柔軟性等を維持しつつ、硬度や耐溶剤性、透明性、各種基材への密着性、加工性、および耐熱性等に優れたゾル−ゲル硬化物を形成できる、新規なポリエステル樹脂組成物を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、特定の水酸基価を有する分岐状のポリエステル樹脂と、トリメトキシシシラン類の部分縮合物とを含有する組成物を用いることにより、前記課題を達成できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、水酸基価が35〜110である、芳香族環構造を有する分岐状ポリエステル樹脂(A)、および一般式(I):RSi(OR4−m(式中、mは0または1の整数を、Rは炭素数8以下のアルキル基またはアリール基を、Rはメチル基を示す。)で表されるポリメトキシシラン類の部分縮合物(B)を含有する、ポリエステル樹脂組成物、ならびに、当該ポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化反応させてなる硬化物、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂組成物によれば、ポリエステル樹脂の本来の性能である加工性や柔軟性等を維持しつつ、硬度や耐溶剤性、透明性、耐熱性、各種基材(特にプラスチック基材)への密着性、加工性、および耐熱性等に優れた硬化物を形成することができる。
【0010】
また、当該ポリエステル樹脂組成物は、原料としてグリシジル基含有メトキシシラン部分縮合物を用いないので、当該グリシジル基含有メトキシシラン部分縮合物を製造する際に必要とされる熱エネルギーや、高沸点溶剤を不要にすることもできる。
【0011】
また、当該ポリエステル樹脂組成物が希釈溶剤として、特に沸点が60〜130℃のものを使用する場合には、当該ポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化反応させる際に当該有機溶剤を硬化物から離脱させやすいため、所期の性能を有する硬化物を短時間で得ることができる。
【0012】
また、当該ポリエステル樹脂組成物がさらにアミノ基含有アルコキシシラン類を含有する場合には、該ゾル−ゲル硬化反応をより速やかに進行させることができ、しかも耐熱性や皮膜硬度、皮膜耐溶剤性等が一層良好な硬化物を得ることができる。
【0013】
また、当該ポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化させてなる硬化物(硬化皮膜)は、微細なシリカ粒子が良分散してなるものであり、耐熱性や硬度、耐溶剤性、各種基材への密着性、透明性等に優れる。
【0014】
かかる効果を有する本発明のポリエステル樹脂組成物は塗料等の種々の用途に供し得るが、特に、高温環境に付されるコーティング剤や接着剤(例えば、自動車内装用接着剤等)等として好適である。
【0015】
なお、本発明に係るポリエステル樹脂組成物が所期の効果を達成できる理由は定かではないが、恐らく、ポリエステル樹脂(A)が芳香族環構造を有する分岐状の高分子であって、しかも特定の水酸基価を有しているためと考えられる。特に、ポリエステル樹脂(A)が有する多数の水酸基(−OH)と、前記メトキシシラン類(B)に由来するシラノール残基(−Si−OH)とが、水素結合を介して相互作用を生じていることが一因であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記したように、水酸基価が35〜110である、芳香族環構造を有する分岐状ポリエステル樹脂(A)(以下、(A)成分という)、および、一般式(I):RSi(OR4−m(式中、mは0または1の整数を、Rは炭素数8以下のアルキル基またはアリール基を、Rはメチル基を示す。)で表されるポリメトキシシラン類の部分縮合物(B)(以下、(B)成分という)を含有するものである。
【0017】
(A)成分は、分子内に芳香族環構造を有し、しかも分岐状である点に特徴がある。(A)成分が非分岐状であったり、芳香族環を有しなかったりすると、ゾル−ゲル硬化物の硬度や耐溶剤性、耐熱性等が不十分となる。
【0018】
(A)成分としては各種公知のものを特に制限なく用い得る。具体的には、例えば、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸類(a1)(以下、(a1)成分という)、アルキル側鎖含有ジオールを含むジオール類(a2)(以下、(a2)成分という)、およびトリオール類(a3)(以下、(a3)成分という)の脱水縮合反応物が好適である。
【0019】
(a1)成分に含まれる芳香族ジカルボン酸とは、分子内に芳香族環構造を有するジオール化合物をいい、(A)成分に分岐構造を導入するために用いる。具体的には、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、および、これらの酸無水物等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。(a1)成分に該芳香族ジカルボン酸を含ませることより、ゾル−ゲル硬化物の耐熱性や硬度、プラスチック基材に対する密着性、加工性等が良好になる。
【0020】
また、(a1)成分には、該芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸として、肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸を含ませることができる。該脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等が挙げられる。また、該脂環族ジカルボン酸としては、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。また、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゾル−ゲル硬化物のプラスチック基材に対する密着性や、加工性の観点より、該脂肪族ジカルボン酸、特にアジピン酸が好ましい。
【0021】
(a1)成分における該芳香族ジカルボン酸の含有量は特に限定されないが、ゾル−ゲル硬化物の耐熱性や硬度の観点より、通常、70〜95モル%程度である。また、該芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸の含有量は、通常、5モル〜30モル%程度である。
【0022】
(a2)成分に含まれるアルキル側鎖含有ジオールとは、具体的には、炭素数1〜6程度のアルキル基を分子内に少なくとも1つ有するジオール化合物をいう。例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。(a2)成分がアルキル側鎖含有ジオールを含むことにより、ゾル−ゲル硬化物中のシリカ粒子の分散性や、プラスチック基材に対する密着性および加工性等が良好になる。
【0023】
また、(a2)成分には、該アルキル側鎖含有ジオール以外のジオールとして、直線状脂肪族ジオール、脂環族ジオール、および芳香族ジオールを含ませることができる。該直線状脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。また、該脂環族ジオールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物等が挙げられる。また、該芳香族ジオールとしては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等が挙げられる。また、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(a2)成分における該アルキル側鎖含有ジオールの含有量は特に制限されないが、通常50〜100モル%程度である。また、他のジオール類の含有量は、通常、50〜0モル%程度である。
【0025】
(a3)成分は、(A)成分に特定の水酸基価を付与し、かつ、分岐構造を導入するために用いる。(a3)成分としては、各種公知の脂肪族トリオール類や芳香族トリオール類を特に制限なく用い得る。該脂肪族トリオール類としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール等が挙げられる。また、該脂環族トリオール類としては、シクロヘキサントリオール等が挙げられる。また、該芳香族トリオール類としてはピロガロール、フロログルシノール等が挙げられる。また、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、(a1)成分および(a2)成分との相溶性や反応性、本発明に係る硬化物の耐熱性や硬度等の観点より、該脂肪族トリオール類が、特に入手が容易である点をも考慮すると、トリメチロールプロパンが好ましい。なお、(a3)成分を用いない場合には、ゾル−ゲル硬化物の硬度や耐溶剤性、耐熱性等が不十分になる傾向にある。
【0026】
また、(a3)成分とともに、(A)成分に特定の水酸基価を付与し、かつ、分岐構造を導入する目的で、各種公知の4官能以上のポリオール(a4)(以下、(a4)成分という)を併用することもできる。具体的には、例えば、エリスリトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等のテトラオールが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(a1)成分、(a2)成分、および(a3)成分、ならびに必要に応じて用いる(a4)成分の各使用量は特に限定されないが、通常は、順に、44〜49.5モル%程度、49.5〜44モル%程度、1〜10モル%程度、0〜2モル%程度である。
【0028】
(A)成分の製造法は特に限定されず、各種公知の方法を利用できる利用できる。具体的には、例えば、(a1)成分、(a2)成分、および(a3)成分、ならびに必要に応じて用いる(a4)成分をワンポットにて脱水縮合反応させる方法や、(a1)成分と(a2)成分を脱水縮合反応させたのち、さらに、(a3)成分および必要に応じて(a4)成分を反応させる方法等が挙げられる。
【0029】
(A)成分の製造の際の反応条件は特に限定されないが、通常、反応温度が150〜250℃程度、反応時間が5〜10時間程度であり、また、反応は常圧下または減圧下で行うことができる。なお、当該反応は後述の有機溶剤の存在下で行ってもよい。
【0030】
また、(A)成分の製造の際には、各種公知の触媒を用いることもできる。具体的には、例えば、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn−ブトキシド、三酸化アンチモン、酸化ジブチルスズ、酢酸亜鉛(2水和物)、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、チタニウムテトラブトキサイド等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
こうして得られた(A)成分は、前記したように水酸基価が通常35〜110(mgKOH/g)程度であり、好ましくは60〜90(mgKOH/g)である。これが35未満であると、ゾル−ゲル硬化物の硬度や耐溶剤、プラスチック基材への密着性、および耐熱性が不十分となる。また、110を超えると、当該硬化物の加工性が不十分になる。なお、該水酸基価はJIS−0070に準じて測定した値である。
【0032】
(A)成分の他の物性は特に限定されないが、例えば数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算値)は、通常1000〜10000程度、好ましくは2000〜5000である。
【0033】
(B)成分としては、一般式(I):RSi(OR4−m(式中、mは0または1の整数を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基、Rはメチル基を示す。)で表されるポリメトキシシラン類の部分縮合物であれば、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0034】
該ポリメトキシシラン類としては、具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゾル−ゲル硬化物中でシロキサン結合に由来する高次網目構造を形成しやすく、当該硬化物の耐熱性や硬度、耐溶剤性等を得やすいことから、テトラメトキシシランが好ましい。
【0035】
なお、(B)成分である部分縮合物としては、(B)成分のゾル−ゲル反応(硬化反応)の進行が容易となることから、下記一般式(II)(式中、nは2〜100程度(好ましくは4〜20)の整数を表す。)で示されるものが好ましい。
【0036】
【化1】

【0037】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、さらに各種公知の有機溶剤(C)(以下、(C)成分という)、および必要に応じてアミノ基含有アルコキシシラン類(D)(以下、(D)成分という)等を含有させることができる。
【0038】
(C)成分としては、(A)成分および(B)成分を溶解できるものであれば特に制限されず、各種公知の芳香族炭化水素系有機溶剤、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、非プロトン性極性有機溶剤、およびアルコール系溶剤等を利用できる。該芳香族炭化水素系有機溶剤としては、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150(いずれもエクソン化学(株)製)、トルエン、キシレン等が挙げられる。また、該エステル系有機溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ぎ酸エチル、プロピオン酸ブチル、メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート等が挙げられる。また、該ケトン系有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。また、該エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、該非プロトン性極性有機溶剤としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、該アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等が挙げられる。また、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
なお、(C)成分としては、後述のゾル−ゲル硬化物(皮膜)が短時間で得られることから、沸点が通常60〜130℃程度のものが好ましい。具体的には、前記エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エーテル系有機溶剤およびアルコール系溶剤から選ばれる1種であって、沸点が130℃未満のものを用いると、タックフリーであって、かつ、皮膜硬度や耐溶剤性等に優れるゾル−ゲル硬化物が得られる。具体的には、酢酸エチル、メチルエチルケトンおよび1−プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、(C)成分が当該沸点のアルコール系溶剤(特に1−プロパノール等)を含む場合には、本発明のポリエステル樹脂組成物の保存安定性(粘度安定性)が良好になる。
【0040】
(D)成分は、これを用いることにより、後述のゾル−ゲル硬化反応を比較的低温で進行させることができ、耐溶剤性等に優れたゾル−ゲル硬化物(皮膜)をより短時間で得ることができる。
【0041】
(D)成分としては、具体的には、一般式(III):HN−R−(NHR−)−Si(R(OR3−l(式中、RおよびRは炭素数2〜6の、直線状、分岐状または環状のアルキレン基を、Rはメチル基またはエチル基を、kは1または0を、lは1または2を示す)で表される、第1級アミノ基含有アルコキシシラン類が好ましい。
【0042】
第1級アミノ基含有アルコキシシラン類の具体例としては、kが0のものとして、例えば、3―アミノプロピルトリメトキシシラン、3―アミノプロピルトリエトキシシラン、3―アミノブチルトリメトキシシラン、3―アミノブチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3―アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、kが1のものとして、N−(2−アミノエチル)−3―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3―アミノプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
また、一般式(III)で表されるもの以外のアミノ基含有アルコキシシシラン類としては、N−シクロヘキシル−3―アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−3―アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3―アニリノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、後述のゾル−ゲル硬化反応(脱メタノール反応)を促進する目的で、各種公知のゾル−ゲル硬化反応促進触媒(E)(以下、(E)成分という)、例えば、三級アミン類、有機ホスフィン類、テトラフェニルボロン塩、および水を利用できる。該三級アミン類としては、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。また、該イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等が挙げられる。また、該有機ホスフィン類としては、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等が挙げられる。また、該テトラフェニルボロン塩としては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等が挙げられる。また、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物には、さらに、各種公知の添加剤(F)(以下、(F)成分という。)を含有させることができる。具体的には、例えば、架橋剤、充填剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、粘度調節剤、可塑剤、抗菌剤、防黴剤、レベリング剤、消泡剤、着色剤、安定剤等が挙げられ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、該架橋剤としては、例えば、尿素、メラミン、ベンゾグアナミンのホルマリン付加物等のアミノ樹脂、脂肪族系、芳香族系の各種ポリイソシアネート化合物、当該ポリイソシアネート化合物の三量体、当該ポリイソシアネートを用いたブロック化イソシアネート等が挙げられる。
【0046】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記各成分を各種公知の方法で混合することにより得ることができる。また、該ポリエステル樹脂組成物における、各成分の含有量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部(固形分換算)に対し、(B)成分が2〜100重量部(固形分換算)程度(好ましくは10〜60重量部)、(C)成分が0〜1200重量部程度(好ましくは60〜1100重量部程度、一層好ましくは100〜900重量部)、(D)成分が0〜12重量部程度(好ましくは3〜6重量部)、(E)成分が0〜10重量部程度(好ましくは0.1〜5重量部)である。(F)成分が0〜5重量部程度(好ましくは0.1〜3重量部)である。
【0047】
なお、本発明のポリエステル樹脂組成物は、取扱いの観点より、通常、固形分濃度が10〜60重量%程度の溶液として、各種用途に供するのが好ましい。溶媒としては前記(C)成分を用いることができる。
【0048】
本発明の硬化物は、本発明のポリエステル樹脂組成物を各種公知の方法でゾル−ゲル反応(脱メタノール反応)させたものである。具体的には、例えば、当該ポリエステル樹脂組成物を各種基材に塗工し、通常80〜120℃程度の温度で、5〜60分程度加熱することより得ることができる。
【0049】
該ゾル−ゲル反応は、当該ポリエステル樹脂組成物における、前記(B)成分の加水分解反応と、それにより生じたシラノール基の間における縮合反応という素反応とを主な内容としている。また、得られる硬化物は、ケイ素−酸素結合を繰り返し単位とする三次元架橋構造(シリカゲルマトリックス)を有する。本発明では、前記(A)成分の存在下で前記(B)成分のゾル−ゲル反応を進行させることにより、微細なシリカ粒子が良分散してなる硬化物が得られる。
【0050】
なお、ゾル−ゲル硬化物における、(B)成分および(D)成分に由来するシリカ分の含有量は、通常、1〜30重量%程度、好ましくは5〜20重量%である。当該数値範囲であることにより、当該硬化物の耐熱性や硬度、耐溶剤性等が良好になる。
【0051】
塗工方法は特に限定されないが、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター等が挙げられる。また、プラスチック基材への塗工量は特に限定されないが、通常は、乾燥固形分として0.01〜10g/m程度である。
【0052】
また、基材も特に限定されないが、例えば、プラスチック、当該プラスチックからなるフィルム、金属、およびガラス素材等が挙げられる。
【0053】
該プラスチックとしては、アクリル、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ナイロン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。また、該金属としては、鉄、ティンフリースチール、銅、アルミニウム等が挙げられる。また、該ガラス素材としては、ガラス板、ガラスクロス等が挙げられる。これらの中でも、硬化物の密着性の点より、特にアクリル基材が好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%はそれぞれ重量部およびモル%を示す。数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(製品名「HLC−8120GPC」、東ソー(株)製)により測定した値である。
【0055】
製造例1
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管、還流脱水装置を備えたフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170部、ネオペンチルグリコール493.8部、トリメチロールプロパン142.2部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約105mgKOH/g、数平均分子量が約1500の分岐状ポリエステル樹脂(A−1)を得た。
【0056】
製造例2
製造例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170部、ネオペンチルグリコール474.1部、トリメチロールプロパン136.5部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約88mgKOH/g、数平均分子量が約1800の分岐状ポリエステル樹脂(A−2)を得た。
【0057】
製造例3
製造例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170部、ネオペンチルグリコール454.3部、トリメチロールプロパン130.8部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で2時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約68mgKOH/g、数平均分子量が約2600の分岐状ポリエステル樹脂(A−3)を得た。
【0058】
製造例4
製造例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170部、ネオペンチルグリコール454.3部、トリメチロールプロパン130.8部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約38mgKOH/g、数平均分子量が約4600の分岐状ポリエステル樹脂(A−4)を得た。
【0059】
比較製造例1
製造例1と同様のフラスコに、テレフタル酸ジメチル171.5部、ネオペンチルグリコール65.7部、2−n−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオール240部、エチレングリコール39.2部、トリメチロールプロパン10.3部および酢酸亜鉛0.1部を仕込み、原料が溶融した時点で撹拌を開始し、170℃から210℃まで3時間かけて徐々に昇温させた。なお、その際に生成するメタノールは系外へ留去した。次に、イソフタル酸66.3部、セバチン酸76部およびヘキサヒドロ無水フタル酸85.2部を仕込み170℃から210℃まで3時間かけて徐々に昇温させ240℃で3時間保温を続けた。この時生成する水は系外へ留去した。次に、三酸化アンチモン0.08部を仕込み、250℃に昇温し5mmHgの減圧下4時間30分重縮合反応を行った。こうして、水酸基価が約28mgKOH/g、数平均分子量が約11000の分岐状ポリエステル樹脂(イ)を得た。
【0060】
比較製造例2
製造例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170.0部、ネオペンチルグリコール515.4部、トリメチロールプロパン23.4部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約18mgKOH/g、数平均分子量が約3300の分岐状ポリエステル樹脂(ロ)を得た。
【0061】
比較製造例3
製造例1と同様のフラスコに、アジピン酸739.1部、ネオペンチルグリコール454.3部、およびトリメチロールプロパン130.8部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約58mgKOH/g、数平均分子量が約2700の分岐状ポリエステル樹脂(ハ)を得た。
【0062】
比較製造例4
製造例1と同様のフラスコに、テレフタル酸ジメチル121.2部、ネオペンチルグリコール145.2部、2−n−ブチル−2−エチルー1,3−プロパンジオール40.7部、エチレングリコール55.1部、および酢酸亜鉛0.07部を仕込み、原料が溶融したら撹拝を開始して、70℃から210℃まで3時間かけて徐々に昇温させた。この時生成するメタノールは系外へ留去した。次に、イソフタル酸175部、およびセバチン酸55.2部を仕込み170℃から210℃まで3時間かけて徐々に昇温させ240℃で3時間保温を続けた。この時生成する水は系外へ留去した。次に、三酸化アンチモン0.06部を仕込み、250℃に昇温し5mmHgの減圧下で4時間、重縮合反応を行った。190℃に冷却の後、無水トリメリット酸3.4部を仕込み1時間末端酸編成反応を行った。こうして、水酸基価が約0mgKOH/g、数平均分子量が約19000の分岐状ポリエステル樹脂(ニ)を得た。
【0063】
比較製造例5
実施例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232.2部、アジピン酸170.0部、ネオペンチルグリコール605.8部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で2時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約45mgKOH/g、数平均分子量が約2700の非分岐状ポリエステル樹脂(ホ)を得た。
【0064】
比較製造例6
製造例1と同様のフラスコに、イソフタル酸386.5部、無水フタル酸232部、アジピン酸170部、ネオペンチルグリコール669部を仕込んだ。次いで、原料を加熱し、生成水を系外に留去しながら、215℃で4時間、脱水縮合反応を行った。次いで、反応系にキシレンを少量加え、水を系外に留去しながら、215℃で5時間キシレン還流を行った。次いで、真空減圧装置を用いて、200℃、6kPaで20分間減圧を行い、反応系内のキシレンを除去した。こうして、水酸基価が約120mgKOH/g、数平均分子量が約1200の非分岐状ポリエステル樹脂(ヘ)を得た。
【0065】
【表1】

【0066】
表1中、
IPA:イソフタル酸
PAA:無水フタル酸
TPADM:テレフタル酸ジメチル
AA:アジピン酸
SEB:セバチン酸
NPG:ネオペンチルグリコール
HHPA:ヘキサヒドロ無水フタル酸
EG:エチレングリコール
BEPG:2−n−ブチル−2−エチル−1、3−プロパンジオール
TMP:トリメチロールプロパン
TAA:無水トリメリット酸
OHV:水酸基価
Mn:数平均分子量
【0067】
実施例1
前記(A−1)成分1200部、酢酸エチル1323.4部、および1−プロパノール567.2部を加えてよく混合し、(A−1)成分溶液とした。次いで、製造例1と同様のフラスコに、当該溶液2484.7部、および、テトラメトキシシラン部分縮合物(三菱化学(株)製、商品名「MKCシリケート51」、Siの平均個数(n)は4)302.0部を仕込み、均一になるまで撹拌し、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。
【0068】
実施例2
実施例1において、(A−1)成分を(A−2)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0069】
実施例3
実施例1において、(A−1)成分を(A−3)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0070】
実施例4
実施例1において、(A−1)成分を(A−4)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0071】
比較例1
実施例1において、(A−1)成分を前記(イ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0072】
比較例2
実施例1において、(A−1)成分を前記(ロ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0073】
比較例3
実施例1において、(A−1)成分を前記(ハ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0074】
比較例4
実施例1において、(A−1)成分を前記(ニ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は白濁していた。
【0075】
比較例5
実施例1において、(A−1)成分を前記(ホ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0076】
比較例6
実施例1において、(A−1)成分を前記(ヘ)成分に変更した他は同様にして、ポリエステル樹脂組成物の溶液とした。なお、外観は透明であった。
【0077】
<(D)成分の使用>
実施例5
実施例1で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部に、アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名「KBM−903」、信越化学(株)製)7部を配合し、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0078】
実施例6
実施例2で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例5と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0079】
実施例7
実施例3で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例5と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0080】
実施例8
実施例4で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例5と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0081】
比較例7
比較例1で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は白濁していた。
【0082】
比較例8
比較例2で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0083】
比較例9
比較例3で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0084】
比較例10
比較例4で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0085】
比較例11
比較例5で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0086】
比較例12
比較例6で得たポリエステル樹脂組成物溶液342部について、実施例4と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、外観は透明であった。
【0087】
(硬化皮膜の作製)
実施例1で得たポリエステル樹脂組成物溶液を、ガラス板にバーコーター#2を用いて塗工した。次いで、このガラス板を順風乾燥中で乾燥(120℃、20分)させることにより、硬化皮膜を作成した。他の実施例よび比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして硬化皮膜を作成した。各硬化皮膜は、前記(ヘ)成分を用いた硬化皮膜を除き、指触によるべたつきを感じない状態(タックフリー)であった。なお、該(ヘ)成分を用いた硬化皮膜は以後の評価に供しなかった。
【0088】
<皮膜硬度試験>
各硬化皮膜について、JIS−K−5400に準じ、三菱鉛筆「ユニ」を用いて、硬度(傷付き性)試験を実施した。結果を表2および3に示す。
【0089】
<耐溶剤性試験>
実施例1に係る硬化皮膜を、メチルエチルケトンを染み込ませた綿棒で擦ることにより、耐溶剤性試験を実施した。他の実施例よび比較例に係る硬化皮膜についても同様にして、硬度試験を実施した。素地が露出するまでのラビング回数(1往復を1回とする)を表2および3に示す。
【0090】
<透明性評価>
実施例1で得たポリエステル樹脂組成物溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(製品名「E5100」、東洋紡(株)製)に、バーコーター#2を用いて塗工し、得られたPETフィルムを、順風乾燥機の中で乾燥(120℃、20分)させることにより、硬化皮膜を備えたPETフィルムを得た。次いで、PETフィルムの硬化皮膜について、全光線透過率およびヘイズ値をカラーへイズメーター(製品名「ヘイズメーターHM150」、村上色彩技術研究所(株)製)を用いて測定した。なお、ブランク試験はポリエステル樹脂を塗工していないPETフィルムについて実施した。また、他の実施例および比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして光線透過率およびヘイズ値を測定した。結果を表2および3に示す。
【0091】
<密着性試験>
実施例1で得たポリエステル樹脂組成物溶液を、アクリル板(製品名「アクリル透明」、日本テストパネル(株)製)に、バーコーター#2を用いて塗工し、得られたアクリル板を、順風乾燥機の中で乾燥(120℃、20分)させることにより、硬化皮膜を備えたアクリル板を得た。他の実施例よび比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして、硬化皮膜を備えたアクリル板を得た。次いで、各アクリル板について、(JIS−K−5600−5−6)に準じて碁盤目剥離試験を実施した。塗膜の残存率を100分率で評価した。結果を表2および3に示す。
【0092】
アクリル板をアルミ板(製品名「A1050P」、日本テストパネル(株)製、厚さ0.8mm)にかえた他は同様にして、実施例1に硬化皮膜を備えたアルミ板を得た。他の実施例よび比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして、硬化皮膜を備えたアルミ板を得た。次いで、各アルミ板について、(JIS−K−5600−5−6)に準じて碁盤目剥離試験を実施した。結果を表2および3に示す。
【0093】
アクリル板をティンフリースチール板(製品名「ティンフリースチール」、日本テストパネル(株)製、厚さ0.3mm)に変更した他は同様にして、実施例1に硬化皮膜を備えたアルミ板を得た。他の実施例よび比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして、硬化皮膜を備えたティンフリースチール板を得た。次いで、各ティンフリースチール板について、(JIS−K−5600−5−6)に準じて碁盤目剥離試験を実施した。結果を表2および3に示す。
【0094】
<加工性試験>
バーコーター#6を用いて、実施例1のポリエステル樹脂組成物溶液を、アルミ板(製品名「A1050P」、日本テストパネル(株)製、厚さ0.8mm)に、塗工し、得られたアルミ板を、順風乾燥機の中で乾燥(150℃、20分)させることにより、硬化皮膜を備えたアルミ板を得た。他の実施例よび比較例に係るポリエステル樹脂組成物溶液についても同様にして、硬化皮膜を備えたアルミ板を得た。
【0095】
次いで、各アルミ板について、エリクセン試験機にて7mm張り出し加工試験を実施し、加工部の割れ、剥がれの度合いを50倍ルーペにて観察した。結果を表2および3に示す。
○…割れ・剥がれなし
△…若干の割れあり
×…大きな割れ、剥がれあり
【0096】
<耐熱性試験>
アプリケーター(膜厚設定が150μm)を用いて、実施例1のポリエステル樹脂組成物溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(製品名「E5100」、東洋紡(株)製)の未処理面に塗工した。次いで、室温にて6時間乾燥させた。さらに80℃において6時間硬化させた。他の実施例および比較例のポリエステル樹脂組成物溶液について硬化皮膜を作成した。
【0097】
次いで、実施例に係る硬化皮膜をPETフィルムから剥ぎ取り、該硬化皮膜を150℃で6時間加熱した。他の実施例および比較例に係る硬化皮膜についても同様にした。そして、各硬化皮膜の加熱後の外観および触感を以下の基準で評価した。結果を表2および3に示す。
○…形状変化なし。また、指触によるタックなし。
△…形状に若干変形が認められる。また、指触によるタックを感じる。
【0098】
【表2】

【0099】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基価が35〜110である、芳香族環構造を有する分岐状ポリエステル樹脂(A)、および一般式(I):RSi(OR4−m(式中、mは0または1の整数を、Rは炭素数8以下のアルキル基またはアリール基を、Rはメチル基を示す。)で表されるポリメトキシシラン類の部分縮合物(B)を含有する、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸類(a1)、アルキル側鎖含有ジオールを含むジオール類(a2)、およびトリオール類(a3)の脱水縮合反応物である、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分の数平均分子量が1000〜10000である、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分が、下記一般式(II)(式中、nは2〜100の整数を表す。)で示される部分縮合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

【請求項5】
さらに有機溶剤(C)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分の沸点が60〜130℃である、請求項5に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
さらにアミノ基含有アルコキシシシラン類(D)を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物をゾル−ゲル硬化反応させてなる硬化物。

【公開番号】特開2009−263628(P2009−263628A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51953(P2009−51953)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】