説明

ポリエステル樹脂組成物及び成形体

【課題】絶縁性(耐トラッキング性等)の電気特性に優れ、難燃性、耐金型汚染性、機械的特性及び流動性に優れるポリエステル樹脂材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウム(B)を2〜20質量部含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物及び成形体に関するものであり、さらに詳しくは、耐トラッキング性等の電気特性に優れ、難燃性、耐金型汚染性、機械的特性及び流動性に優れるポリエステル樹脂組成物、及び、それを成形してなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的強度、耐薬品性及び電気絶縁性等に優れており、また優れた耐熱性、成形性、リサイクル性を有していることから、電気、電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に広く用いられている。
【0003】
電気電子機器分野では、火災に対する安全を確保するため難燃性が重要であり、また電気的負荷による発火に対する安全性の確保のため、電気的特性の一つである耐トラッキング性に優れていることが必要である。
そして、近年、電気電子部品や電装部品は、機器自体の小型化傾向から薄肉小型化されてきており、その結果、絶縁距離が小さくなり、これら部品(成形品)の耐トラッキング性等への要求スペックは、高度化してきている。絶縁材料は、通電中に装置から発生した熱により乾燥し帯電するため、絶縁材料の表面には埃が付着しやすい傾向がある。そのため、その絶縁材料から形成される部品は、装置停止中にその表面に埃が付着しやすく、その埃が空気中の水分を吸収し、吸収された水分により材料の表面抵抗が低下し、漏洩電流が増加する。一般に、電気部品は多かれ少なかれこのような状況にさらされており、絶縁材料の耐トラッキング特性が重要視されている。
【0004】
電気電子部品は、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ社のUL94規格の難燃性や比較トラッキング指数(CTI:Comparative Tracking Index)等の要求事項を満たさねばならず、0.30mm厚みにてV−0以上の難燃性と、CTIがPLC(Performance Lebel Category)2レベル(250V≦CTI<400V)以上を満足することが望ましい。
【0005】
耐トラッキング性を改良する手段としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の硫酸塩が有効であることが知られており、特許文献1には、ポリブチレンテレフタレートに充填材として硫酸バリウムを配合したものが耐トラッキング性を改良することが開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル樹脂にIIa亜族元素の硫酸塩とグリシジル基含有エチレン共重合体および臭素化難燃剤を配合した難燃性ポリエステル樹脂が開示されている。
しかしながら、本願発明者の検討によると、単に通常の硫酸バリウムを配合しただけでは、CTIでPLC2を達成するのは容易ではなく、PLC3(175V≦CTI<250V)程度に留まること、あるいはPLC2に到達した場合も難燃性がUL94でV−0に到達することは容易ではないことが確認された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭60−10053号公報
【特許文献2】特開平07−145304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐トラッキング性等の電気特性に優れ、難燃性、耐金型汚染性、機械的特性及び流動性に優れるポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、熱可塑性ポリエステル樹脂に、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウムを特定量含有するポリエステル樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、以下のポリエステル樹脂組成物及びそれを成形した成型品が提供される。
【0009】
[1]熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウム(B)を2〜20質量部含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
[2]前記有機化合物が、アミン化合物であることを特徴とする上記[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[3]前記無機化合物が、水酸化アルミニウム及び/又はシリカ水和物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[4]硫酸バリウム(B)が、無機化合物で表面処理した後、有機化合物で表面処理したものであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[5]硫酸バリウム(B)の平均粒径が、0.1〜2μmであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[6]硫酸バリウム(B)のDBP吸油量が、8〜28ml/100gであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【0010】
[7]さらに、難燃剤(C)を、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、5〜40質量部含有することを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[8]難燃剤(C)が、臭素系難燃剤であることを特徴とする上記[7]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[9]さらに、難燃助剤(D)を、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.5〜30質量部含有することを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[10]熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の主成分が、ポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする上記[1]〜[9]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【0011】
[11]上記[1]乃至[10]のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
[12]成形体が、電気電子機器部品であることを特徴とする上記[11]に記載の成形体。
[13]成形体が、コネクター、リレー、スィッチ及び電気電子機器部品の筐体からなる群より選ばれるものである、上記[11]又は[12]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐トラッキング性等の電気特性に優れ、難燃性、耐金型汚染性、機械的特性及び流動性に優れる。
このため、本発明のポリエステル樹脂組成物は、電気電子機器用の絶縁部品として、例えば、コネクター、リレー、スィッチ、センサー、アクチュエーター、ターミナルスイッチ等に好適に使用することができる。
無機化合物又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウムが、表面処理なしの硫酸バリウムに比べ、このような優れた効果を発現しているかについては、未だ十分な解析はなされていないが、ポリエステル樹脂組成物中に、硫酸バリウムがより微分散するため、炭化導電経路形成が遅延されるためではないかと考察している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施例で使用した渦巻き状長尺樹脂成形品を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.発明の概要]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウム(B)を2〜20質量部含有することを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定して解釈されるものではない。なお、本願明細書において、「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
[2.熱可塑性ポリエステル樹脂(A)]
本発明のポリエステル樹脂組成物の主成分である熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とは、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0017】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2、2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3、3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4、4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4、4’−ジカルボン酸、1、2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボン酸、アントラセン−2、5−ジカルボン酸、アントラセン−2、6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4、4’−ジカルボン酸、ピリジン−2、5−ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0018】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用しても良い。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0019】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1、3−ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1、4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1、3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合せしめてもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0020】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0021】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0022】
なかでも好ましいのは、酸性分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートである。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1.4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、主成分がポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0023】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、0.5〜2dl/gであるのが好ましい。成形性及び機械的特性の点からして、0.6〜1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる樹脂組成物が機械的強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。なお、熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、1,1,2,2−テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0024】
[3.硫酸バリウム(B)]
本発明のポリエステル樹脂組成物が含有する硫酸バリウム(B)は、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理(表面被覆)された硫酸バリウムである。
硫酸バリウムを表面処理(表面被覆)するための無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO・nH0で表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。
また、硫酸バリウムを表面処理(表面被覆)するための有機化合物としては、アミン化合物が好ましく、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物がより好ましい化合物として例示することができる。
【0025】
硫酸バリウムの製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造することができるが、微粒子状の硫酸バリウムを得る方法として、例えば、硫酸ナトリウム水溶液と硫化バリウム水溶液とを反応させる際に、硫酸ナトリウム水溶液中に特定のメタリン酸塩を共存させ、硫化バリウムに対する硫酸ナトリウムのモル比を化学量論的に過剰量存在させて反応させる方法(特開昭47−31898号公報)、硫化バリウム水溶液と硫酸水溶液とを硫化バリウム濃度が過剰となるように連続的にポンプ等の反応槽に導き、撹拌下で反応を行う方法(特開昭57−51119号公報)、硫酸水溶液と特定のバリウム塩水溶液とを正確な化学量論比で別々にかつ同時に噴霧装置に供給して反応させ、生成した沈殿物を含む媒質をあらかじめ濃縮した後に噴霧乾燥する方法(特開平2−83211号公報)等を挙げることができる。
【0026】
硫酸バリウムを表面処理(表面被覆)する方法は、種々のものが考えられるが、例えば、上記のようにして得られた硫酸バリウムを水等に懸濁させ、その表面に上記した無機化合物(又はそのアルカリ水溶液等)あるいは有機化合物(アミン化合物等)で表面処理を施して被着する方法、硫化バリウム水溶液と硫酸水溶液とを硫酸に対して硫化バリウムを過剰に存在させ、水溶性ケイ酸アルカリやアルミン酸アルカリ等の水溶性金属化合物の水溶液を加え、水溶性金属化合物の種類に応じてアルカリ又は酸で中和して、硫酸バリウムの表面に含水酸化物を沈着させる方法、また沈着された含水酸化物を更に焼成する方法等を採用することができる。
硫酸バリウム(B)としては、無機化合物で表面処理(表面被覆)した後、有機化合物で表面処理したものが好ましく、特に、水酸化アルミニウム及び/又はシリカ水和物で表面処理(表面被覆)した後、有機化合物で表面処理(表面被覆)したものが好ましい。
【0027】
表面処理層(表面被覆層)の厚さは、特に限定されないが、0.05〜0.5μmであることが好ましく、更に好ましくは、0.05〜0.2μmである。
【0028】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム中の無機化合物の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.1〜5質量%であることがさらに好ましい。また、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム中の有機化合物の含有量は、0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.8質量%であることがより好ましく、0.01〜0.5質量%であることがさらに好ましい。このような表面処理量とすることにより、ポリエステル樹脂組成物中により微分散し、耐トラッキング特性が向上する傾向にあり好ましい。
また、特に、無機化合物として水酸化アルミニウムを使用する場合は、水酸化アルミニウムの含有量が、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム中の0.1〜6質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがさらに好ましい。また、無機化合物としてシリカ水和物を使用する場合は、シリカ(SiO)含有量が、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム中の0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜5質量%であることがより好ましく、0.3〜3.5質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)中の硫酸バリウムの含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましく、88〜99質量%であることがより好ましく、90〜98質量%であることがさらに好ましい。このような硫酸バリウム含有量とすることにより、ポリエステル樹脂組成物中により微分散し、耐トラッキング特性が向上する傾向にあり好ましい。なお、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)の硫酸バリウム含有量は、JIS K5115により測定される。
【0030】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)の平均粒子径は、0.1〜2μmであることが好ましく、0.15〜1.5μmであることがより好ましい。硫酸バリウム粒子(B)の平均粒子径を上記範囲のような大きさとすることにより、機械的特性と耐トラッキング特性とのバランスに優れたポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
また、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)のDBP吸油量は、5〜50ml/100gが好ましく、8〜28ml/100gであることがより好ましく、10〜25ml/100gであることがさらに好ましい。なお、DBP吸油量は、JIS K5101により測定される。
【0031】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)中の水分率は、1.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。1.5質量%を超えると熱可塑性ポリエステル樹脂が加水分解しやすく、機械的特性が低下する場合がある。なお、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)中の水分率は、JIS K5101により測定される。
【0032】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)の水溶分は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%であることがより好ましい。水溶分が1質量%を超えると耐トラッキング特性が低下する場合がある。なお、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)中の水溶分は、JIS K−5101により測定される。
【0033】
表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)のpHは、5〜10であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。pHをこのような範囲とすることにより、熱可塑性ポリエステル樹脂が分解し、機械的強度が低下するのを抑制しやすい傾向にある。なお、表面処理(表面被覆)された硫酸バリウム(B)のpHは、JIS K5101により測定される。
【0034】
硫酸バリウム(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、硫酸バリウム(B)を2〜20質量部含有する。熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、硫酸バリウム(B)が2質量部を下回ると、PLC2レベル以上の耐トラッキング性を満足することが困難となり、モールドデポジットの発生が顕著となる。硫酸バリウム(B)が20質量部を超えると、機械的強度が低下する。硫酸バリウム(B)の含有量は、3〜15質量部であるのが好ましく、4〜13質量部であるのがより好ましい。
【0035】
[4.難燃剤(C)及び難燃助剤(D)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、難燃剤(C)を含有することが好ましい。
難燃剤(C)としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤を含有することができ、ハロゲン系難燃剤又はリン系難燃剤を含有することが好ましい。
ハロゲン系難燃剤の好ましい具体例としては、臭素化ポリカーボネート樹脂、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、臭素化イミド(臭素化フタルイミド等)等が挙げられ、中でも、臭素系難燃剤が好ましく、臭素化ポリカーボネート樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、耐衝撃性の低下を抑制しやすい傾向にあり、より好ましい。
【0036】
リン系難燃剤としては、例えば、エチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛等の、(ジ)ホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミンに代表されるメラミンとリン酸との反応生成物、リン酸エステル、環状フェノキシホスファゼン、鎖状フェノキシホスファゼン、架橋フェノキシホスファゼン等のホスファゼン等が挙げられ、中でも、(ジ)ホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン、ホスファゼンが熱安定性に優れる点から好ましい。
【0037】
難燃剤(C)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、5〜40質量部であることが好ましい。難燃剤(C)が5質量部未満では、十分な難燃性が得られにくく、40質量部を超えると耐トラッキング特性の向上が認められない場合がある。難燃剤(C)のより好ましい含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し6〜35質量部、さらに好ましくは7〜35質量部である。
【0038】
さらに本発明のポリエステル樹脂組成物は、難燃剤(C)と共に、難燃助剤(D)を含有することが好ましい。難燃助剤(D)としては、例えば、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、アンチモン化合物、硼酸亜鉛等が挙げられ、2種以上併用してもよい。これらの中でも、難燃性がより優れる点からアンチモン化合物、硼酸亜鉛が好ましい。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。特に、ハロゲン系難燃剤を用いる場合、難燃剤(C)との相乗効果から、三酸化アンチモンを併用することが好ましい。
ハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物を併用する場合は、ポリエステル樹脂組成物中のハロゲン系難燃剤由来のハロゲン原子と、アンチモン化合物由来のアンチモン原子の質量濃度が、両者の合計で5〜16質量%であることが好ましく、6〜15質量%であることがより好ましい。5質量%未満であると難燃性が低下する傾向にあり、16質量%を超えると機械的強度や耐トラッキング特性が低下する場合がある。また、ハロゲン原子とアンチモン原子の質量比(ハロゲン原子/アンチモン原子)は、0.3〜5であることが好ましく、0.3〜4であることがより好ましい。
【0039】
難燃助剤(D)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは0.7〜18質量部、さらに好ましくは1〜15質量部である。
【0040】
また、本発明においては、特に、ハロゲン系難燃剤を使用する場合、難燃助剤(D)として、上述したアンチモン化合物と硼酸亜鉛を併用してもよい。硼酸亜鉛は、アンチモン化合物と同様に難燃性を向上させる他、さらに比較トラッキング指数(CTI)を向上させ、絶縁性を改善するという効果を有する。
硼酸亜鉛を使用する場合の含有量は、ハロゲン系難燃剤に対し、硼酸亜鉛を0.3〜1(質量比)の割合で用いるのが好ましく、0.4〜0.8の割合で用いるのがさらに好ましい。
【0041】
[5.無機充填材(E)]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、無機充填材(E)を含有させてその機械的特性を向上させることができる。無機充填材(E)としては常用のものをいずれも用いることができる。具体的には例えば、ガラス繊維、炭素繊維、鉱物繊維などの繊維状無機充填材が挙げられるが、中でもガラス繊維を用いることが好ましい。本発明においては、無機充填材(E)は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、100質量部以下、中でも20〜80質量部を含有させることが好ましい。
【0042】
[6.滴下防止剤(F)]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、滴下防止剤(F)を含有させることも好ましい。滴下防止剤(F)としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、フィブリル形成能を有し、樹脂組成物中に容易に分散し、かつ樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。ポリテトラフルオロエチレンの具体例としては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より市販されている商品名「テフロン(登録商標)6J」又は「テフロン(登録商標)30J」、ダイキン化学工業(株)より市販されている商品名「ポリフロン」あるいは旭硝子(株)より市販されている商品名「フルオン」等が挙げられる。
滴下防止剤(F)の含有割合は、好ましくは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1〜20質量部である。滴下防止剤(F)が0.1質量部未満では難燃性が不十分になりやすく、20質量部を超えると外観が悪くなりやすい。滴下防止剤(F)の含有割合は、より好ましくは、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.5〜10質量部である。
【0043】
[7.離型剤(G)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、更に、離型剤(G)を含有することが好ましい。離型剤(C)としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、金属膜密着性を阻害しにくいという点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましい。
【0044】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、質量平均分子量が、700〜10,000、更には900〜8,000のものが好ましい。
【0045】
脂肪酸エステル系化合物としては、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物などが挙げられ、中でも、炭素数11〜28、好ましくは炭素数17〜21の脂肪酸で構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。具体的には、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン−12−ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート等が挙げられる。
【0046】
また、シリコーン系化合物としては、ポリエステル樹脂との相溶性などの点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/又は片末端に有機基を導入したシリコーンオイルなどが挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基などが挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0047】
離型剤(G)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜2質量部であることが好ましい。0.05質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下する傾向があり、一方、2質量部を越えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下し、また成形品表面に曇りが見られる場合がある。離型剤(G)の含有量は、好ましくは0.07〜1.5質量部、更に好ましくは0.1〜1.0質量部である。
【0048】
[8.安定剤(H)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、さらに安定剤(H)を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性及び色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でもホスファイト、ホスホナイトが好ましい。
【0049】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0050】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0051】
また、ホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0052】
フェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0053】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0054】
安定剤(H)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1.5質量部以下、好ましくは1質量部以下である。0.01質量部未満では安定剤としての効果が不十分であり、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、また1.5質量部を越えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。
【0055】
[9.その他含有成分]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0056】
また、本発明におけるポリエステル樹脂組成物には、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を、本発明の効果を損わない範囲で含有することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0057】
[10.樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フイーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、ポリエステル樹脂の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りのポリエステル樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。
なお、無機充填材としてガラス繊維などの繊維状のものを用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフイーダーから供給することも好ましい。
【0058】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220〜300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、不透明化の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。混練り時や、後行程の成形時の分解を抑制する為、酸化防止剤や熱安定剤の使用が望ましい。
【0059】
[11.成形体]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して成形体として用いる。この成形体の形状、模様、色、寸法等に制限はなく、その成形体の用途に応じて任意に設定すればよい。
成形体の製造方法は、特に限定されず、ポリエステル樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
【0060】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、電気特性に優れ、難燃性、耐金型汚染性、機械的特性及び流動性に優れるポリエステル樹脂材料であるので、薄肉あるいは複雑な形状を必要とする用途にも広く採用することができ、電気機器、電子機器あるいはそれ等の絶縁性部品として特に好適である。
絶縁性部品としては、金属接点、銅版などと組み合わせることにより、リレー、スイッチ、コネクター、ターミナルスイッチ、センサー、アクチュエーター、マイクロスイッチ、マイクロセンサーおよびマイクロアクチュエーター等の有接点電気電子部品や、電気電子部品の筐体として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0062】
以下の実施例および比較例において、使用した成分は、以下の表1及び表2の通りである。
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
(実施例1〜14、比較例1〜8)
以下の表3〜5に記載の各成分を表に記載の配合割合(質量部)になるように配合し、2軸押出機(スクリュー径35mm)を用いて、バレル設定温度250℃、回転数200rpmで押出し樹脂組成物のペレットを作った。得られたペレットの特性は、射出成形機(住友重機械工業(株)製、ネスタールSG75−SYCAP−M3A)を用いてシリンダー温度260℃で、下記(1)、(2)及び(4)の評価用試験片を射出成形した。なお、成形に際して、樹脂組成物はその直前まで120℃にて6〜8時間乾燥した。
【0065】
<評価方法>
各評価方法は、以下のとおりである。
(1)難燃性(UL94)
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、5本の試験片(厚み;0.30mmと0.75mm)を用いて難燃性を試験した。難燃性は、UL94記載の評価方法に従って、V−0、V−1、V−2に分類した。V−0が最も難燃性が高い。
【0066】
(2)絶縁特性(適用規格:UL746A 23項、耐トラッキング性試験方法はASTM D3638に準拠)
厚さ3.0mm、50φの円板の試験片を用い、試験法UL746A 23項で規定されている耐トラッキング性試験方法はASTM D3638に準拠して測定した。装置のノズルから電解液(塩化アンモニウム0.1%水溶液、23℃で抵抗率385Ω・cm)を30秒間隔で滴下させ、両白金電極間に600V以下(25Vステップ)の電圧を印加し、トラッキングが発生するまでの電解液滴下数を測定し、5回の平均値が50滴未満となる電圧を求めた。なお、数値が高いほど耐トラッキング性が良好であることを意味する。
PLC(Performannce Lebel Category)の判定基準は、PLC2が、250V≦CTI<400V、PLC3が、175V≦CTI<250Vである。
【0067】
(3)金型汚染性(モールドデポジット)
射出成形機として住友重機械工業(株)製SE50を用い、射出圧力50MPa、射出速度80mm/sec、シリンダー温度270℃、射出時間3sec、冷却8sec、金型温度80℃、ザックバック3mmの条件で、長さ35mm、幅14mm、厚さ2mmの樹脂成形品を、ピンゲート金型を用いて製造した。
この条件で連続的に射出成形し、1000ショット実施後、金型に付着しているモールドデポジットの状態(金型汚染性)を肉眼で観察し、次の判定基準に従って評価した。
◎:モールドデポジットがほとんど認められない。
○:モールドデポジットがうっすらと認められる。
×:モールドデポジットがはっきりと認められる。
【0068】
(4)曲げ強度、曲げ弾性率
ISO178に準拠して、ISO多目的試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で、曲げ弾性率(単位:GPa)、曲げ強度(単位:MPa)を測定した。
【0069】
(5)流動性
ポリエステル樹脂組成物のスパイラルフロー長さを、射出成形機として住友重機械(株)製SE50を用いて評価した。射出圧力170MPa、射出速度100mm/sec、シリンダー温度270℃、射出時間2sec、冷却7sec、金型温度80℃、サックバック1mmの条件とした。また評価した樹脂成形品の形状は、断面が肉厚1mm、幅5mm(ゲート部は肉厚1.0mm、幅1.5mm)の、長尺状樹脂成形品であり、渦巻き状となったものである。この渦巻き状長尺樹脂成形品の大きさは、長尺状樹脂成形品の中心間距離として、90mm×105mmである。この渦巻き状長尺樹脂成形品を図1に示す。
以上の評価結果を、以下の表3〜表5に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
表3〜5より以下のことが明白となる。即ち、比較例の樹脂組成物は、難燃性、絶縁性(PLC、CTI)、モールドデポジット、機械的特性(曲げ弾性率、曲げ強度)又は流動性の何れかが劣っており、物性バランスがよくない。これに対し、本発明のポリエステル樹脂組成物は、難燃性、絶縁性、曲げ弾性率、曲げ強度、流動性の全てに優れ、モールドデポジットも認められないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、優れた難燃性、絶縁性、機械的特性及び流動性を有している。また、モールドデポジットの発生も殆ど無く、生産性に優れている。したがって本発明のポリエステル樹脂組成物は、電気電子機器部品、例えばコネクター、リレー、スイッチ、電気電子機器部品の筐体などの広範囲の部品に特に好適に適用でき、産業上の利用性は非常に高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、無機化合物及び/又は有機化合物で表面処理した硫酸バリウム(B)を2〜20質量部含有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機化合物が、アミン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機化合物が、水酸化アルミニウム及び/又はシリカ水和物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
硫酸バリウム(B)が、無機化合物で表面処理した後、有機化合物で表面処理したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
硫酸バリウム(B)の平均粒径が、0.1〜2μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
硫酸バリウム(B)のDBP吸油量が、8〜28ml/100gであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、難燃剤(C)を、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、5〜40質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
難燃剤(C)が、臭素系難燃剤であることを特徴とする請求項7に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、難燃助剤(D)を、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.5〜30質量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の主成分が、ポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項12】
成形体が、電気電子機器部品であることを特徴とする請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
成形体が、コネクター、リレー、スィッチ及び電気電子機器部品の筐体からなる群より選ばれるものである、請求項11又は12に記載の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−53259(P2013−53259A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193470(P2011−193470)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】