説明

ポリエステル樹脂

【課題】1,6−ヘキサンジオールを主成分とするポリマーでありながら、重合性に優れ、操業性よく生産することができ、かつ色調にも優れ、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することができるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上とするジオール成分とからなるポリエステルであって、チタン化合物を含有し、チタン原子(二酸化チタン粒子中のチタン原子を除く)の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜2.0×10−3モル、かつゲルマニウム化合物を含有し、ゲルマニウム原子の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜1.0×10−3モルであり、融点が100〜150℃であるポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,6−ヘキサンジオールを多く含有する低融点のポリエステル樹脂であって、重合性に優れ、操業性や生産性、色調に優れるポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル系樹脂において低融点化したものの要求が高く、繊維化してバインダー繊維として用いたり、接着剤等に用いられている。このような用途には、一般に共重合ポリエステルが用いられており、例えば、特許文献1にはバインダー繊維に好適なポリマーとして、ポリマー組成がいくつか提案されている。
【0003】
しかしながら、これらの共重合ポリエステルは、明確な結晶融点を示さないものが多く、通常90〜200℃で軟化する。明確な結晶融点を示さないポリマーを用いて繊維を製造する場合、紡糸、延伸、熱処理工程において繊維の融解、繊維同士の膠着が生じやすく、また、それぞれの製造工程において装置への繊維の溶着も生じやすく、操業性に劣るものであった。
【0004】
そこで、上記の問題を解決するには、共重合ポリエステルは明確な結晶融点を示すことが望ましい。特許文献2には、酸成分が芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンからなり、ジオール成分が脂肪族ジオール成分からなり、結晶性が良好なポリエステルも提案されている。
【0005】
しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、接着成分として溶融させて用いる際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0006】
また、特許文献3には、1,6−ヘキサンジオールをジオール成分に用いた共重合ポリエステルからなる繊維が記載されている。1,6−ヘキサンジオールを主成分とする共重合ポリエステルは、融点を150℃以下にすることができ、明確な結晶融点も示しやすいものである。しかしながら、1,6−ヘキサンジオールは沸点が250℃と高いことから、重合の際に発生する1,6−ヘキサンジオールが系外へと抜けにくく、重合性が悪くなり、操業性、生産性に問題が生じる場合があった。さらには、重合性を向上させるために多量の触媒を使用すると、色調の悪い樹脂となるという問題があった。
【特許文献1】特開平7-34327号公報
【特許文献2】特開平9-12693号公報
【特許文献3】特開昭63-112723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするポリマーでありながら、重合性に優れ、操業性よく生産することができ、かつ色調にも優れ、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することができるポリエステル樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上とするジオール成分とからなるポリエステルであって、チタン化合物を含有し、チタン原子(二酸化チタン粒子中のチタン原子を除く)の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜2.0×10−3モル、かつゲルマニウム化合物を含有し、ゲルマニウム原子の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜1.0×10−3モルであり、融点が100〜150℃であることを特徴とするポリエステル樹脂を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであるが、重合性に優れ、操業性、生産性よくチップ化することができる。さらには、色調にも優れており、低融点で結晶性も高いため、バインダー繊維をはじめ、各種の接着用途に好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とするものであり、ジオール成分が1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上とするものである。
【0013】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸(以下、TPAとする)が60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0014】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0015】
ジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などを用いてもよい。
【0016】
また、ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などを用いてもよい。
【0017】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体として、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などを用いてもよい。
【0018】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)を50モル%以上とするものであり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0019】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。HDとEGを用いる場合、HDとBDを用いる場合、HDとEGとBDを用いる場合が挙げられる。HDとともにBDを用いると重合性が向上する傾向がある。
【0020】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0021】
また、グリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどを用いることができる。
【0022】
さらに、環状エステルとして、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどを用いることができる。
【0023】
そして、本発明のポリエステル樹脂の融点は、100〜150℃であり、中でも105〜140℃、さらには110〜130℃であることが好ましい。ポリエステルの融点が100℃未満であると、熱安定性が悪くなるため、チップ化したり繊維化する際の操業性や生産性も低下する。一方、融点が150℃を超えると、接着用途に用いる際に、高温での熱処理が必要となりコスト的に不利となる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、重縮合触媒として、チタン化合物(二酸化チタン粒子を除く)とゲルマニウム化合物の両者を用いるものである。
【0025】
チタン化合物は、エステル化およびエステル交換反応の両方に触媒として機能するものである。しかしながら、HDを多量に含んだ組成の場合、重合後半においてHDが反応系外へ排出されにくくなるため、重合性が低下することがある。また、チタン化合物は分解反応の活性も強く、目標とする極限粘度が高い場合には到達できないこともある。
【0026】
そこで、触媒としてチタン化合物とゲルマニウム化合物の両者を用いると、ゲルマニウム化合物は分解活性が小さいため、チタン化合物による分解反応が始まる前に重合度を上げることが可能となる。
【0027】
チタン化合物としては、二酸化チタン粒子を除くものを用いることができ、中でも、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、アセチリアセトンチタネート、四塩化チタン、蓚酸チタニルカリウム等が好ましい。
【0028】
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム 、四塩化ゲルマニウム 、ゲルマニウムテトラエトキシド等を用いることができ、中でも重合触媒活性、得られるポリエステルの物性及びコストの点から、二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は、触媒としてチタン化合物とゲルマニウム化合物を含有しており、チタン原子の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して、1.0×10−4〜2.0×10−3モルであり、ゲルマニウム原子の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜1.0×10−3モルである。
【0030】
チタン原子の含有量が1.0×10−4モル未満であると、重合度を十分に上げる効果が不十分となる。含有量が2.0×10−3モルを超えると得られるポリエステル樹脂の色調が悪くなる。
【0031】
ゲルマニウム原子の含有量が1.0×10−4モル未満であると、上記したような重合度の向上効果が不十分となる。一方、ゲルマニウム原子の含有量が1.0×10−3モルを超えると、得られるポリエステル樹脂の色調が悪くなる。
【0032】
また、触媒として、上記のチタン化合物、ゲルマニウム化合物の他にも、その効果を損なわない範囲であれば、スズ、アンチモン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物を用いることができる。
【0033】
また、本発明のポリエステル樹脂は、極限粘度が0.6以上であることが好ましく、中でも0.7以上であることが好ましい。極限粘度が0.6未満のものでは、ポリマーの溶融粘度が不十分であり、操業上、特にストランドをカッティングしてチップ化する工程において、フィードローラまたはカッターブレードへのポリマーの巻き付きやストランド間の密着による切断されずに連続したチップの発生等により、カッターの運転が困難となる。一方、極限粘度が高すぎても溶融粘度が高くなるため、押出が困難になったり、また繊維とする際には、溶融粘度を下げるべく紡糸温度を上げると、ポリエステルの熱分解が顕著になり紡糸が困難になることから、実用上1.5以下であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明のポリエステル樹脂は、重縮合触媒としてチタン化合物とゲルマニウム化合物を用いるものであることから、色調に優れるものである。そして本発明のポリエステル樹脂は、日本電色工業社製の色差計ND-Σ80型を用いて測定し、ハンターのLab表色計で表されるb値が15.0以下であることが好ましく、本発明のポリエステル樹脂を使用する製品が外観に影響を及ぼす場合は、6.0以下であることが好ましく、中でも5.0以下であることが好ましい。b値が15.0を超えると黄色味が強くなり、本発明のポリエステル樹脂を使用する製品の着色の度合いが大きくなり、品位に劣るものとなる。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂は、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上共重合した組成であることにより、ある程度は結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによってさらに結晶性が向上するものであり、降温時の結晶化速度を向上させることができる。そして、後述する(1)式を満足することができるものとなり、チップ化したり繊維化する際の加工性に優れるものとなる。
【0036】
結晶核剤の含有量は、0.01〜5.0質量%とすることが好ましく、中でも0.5〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0037】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、本発明のポリエステル樹脂は後述する(1)式を満足することが困難となる。
一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、本発明のポリエステル樹脂の加工性が悪化し、例えば繊維にする際には、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。
【0038】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、本発明のポリエステル樹脂は後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0039】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0040】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0041】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0042】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0043】
そして、本発明のポリエステル樹脂は、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線において、b/aが0.05(mW/mg・℃)以上であることが好ましく、中でも0.06以上であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
【0044】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0045】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、降温時の結晶化速度が遅いため、チップ化する際にローラやカッターへの巻き付きが生じたり、2つ以上のチップが溶着した連チップの発生が生じる。また、チップの貯蔵、運搬及び乾燥工程においてチップ同士の溶着や壁面への溶着が生じる。さらに、繊維化する際には紡糸、延伸、熱処理工程において繊維の融解、繊維同士の膠着が生じやすく、各工程において装置への繊維の溶着等も生じるものとなる。
【0046】
なお、上記したように、b/aはポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0047】
本発明における融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分で測定するものである。
【0048】
さらに、本発明のポリエステル樹脂中には、目的を損なわない範囲内で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0049】
次に、本発明のポリエステル樹脂の製造方法について、一例を用いて説明する。
【0050】
ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行うことにより本発明のポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0051】
具体的には、重縮合反応は通常 0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度で所定の極限粘度のものが得られるまで行う。また、重縮合反応は、チタン化合物、ゲルマニウム化合物の触媒存在下で行われる。結晶核剤や各種添加剤(本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる)は、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
【0052】
そして、重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
〔ポリエステル樹脂〕
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)ポリマー組成
ポリエステルを重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(d)色調(b値)
日本電色工業社製の色差計ND-Σ80型を用いて測定した。色調の判定は、ハンターのLab表色計で行った。b値は黄−青系の色相(+は黄味、−は青味)を表す。
(e)操業性
(重合性)
重縮合反応において、反応途中で重合性が飽和してしまい極限粘度が0.6に到達しなかった場合を×、重合性が飽和することなく極限粘度が0.6以上となった場合を○とする。
(チップ化)
ポリエステル樹脂をAUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化する際、フィードローラまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の溶着により2つ以上のチップが溶着したものの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、溶着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○とした。
〔無機系微粒子〕
(f)平均粒径
島津社製粒度分布測定装置(SALD-2000)を用いて、エチレングリコール中の試料の平均粒径の値を測定した。
(g)比表面積
BET法により測定した。
〔重合触媒〕
(h)チタン原子、ゲルマニウム原子の含有量
ポリエステル樹脂中の二酸化チタン粒子等無機粒子を除去するために、下記の前処理をした上で、ポリエステル樹脂を円盤状に溶融成形し、リガク社製のX線スペクトロメーター3270を用いて蛍光X線法により測定した。
前処理:ポリエステル樹脂をオルソクロロフェノールに溶解(溶媒100gに対してポリエステル樹脂5g)し、このポリエステル樹脂溶液と同量のジクロロメタンを加えて溶液の粘性を調製した後、遠心分離器で粒子を沈降させる。その後、傾斜法で上澄み液のみを回収し、上澄み液と同量のメタノール添加によりポリエステルを再析出させ、そのあと3G3のガラスフィルター(IWAKI社製)で濾過、濾上物をさらにメタノール洗浄と濾過を2回繰り返した後、室温で12時間真空乾燥し、更に150℃で16時間真空乾燥してメタノールを除去した。
【0054】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEG(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物40kgを重縮合反応缶に移送し、HD28kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。
次に、艶消し剤として酸化チタンを34質量%含有するEGスラリーを0.6kg、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを10質量%含有するEGスラリーを4.0kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するEG液を1.3kg、二酸化ゲルマニウムを0.7質量%含有するEG液を2.4kg、これらを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約5時間行い、常法によりストランド状に払出し、AUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化し、ポリエステル樹脂を得た。
【0055】
実施例2〜3、比較例1〜4
テトラブチルチタネートを含有するEG液、二酸化ゲルマニウムを含有するEG液の投入量を変更し、表1に示す含有量となるようにした以外は実施例1と同様にして実施した。
【0056】
実施例4
エステル化反応缶に、PBT39kg、HD31kgを供給し、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを0.4kg添加し、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で4時間撹拌し解重合反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、艶消し剤として酸化チタンを34質量%含有するEGスラリーを0.5kgと重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するBD液を1.2kg、二酸化ゲルマニウムを0.7質量%含有するBD液2.3kgとを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、AUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化し、ポリエステル樹脂を得た。
【0057】
比較例5
HDの投入量を変更し、表1に示すポリマー組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0058】
比較例6
TPAとEGの反応物の投入量を24kgとし、イソフタル酸(IPA)を5kg、エチレングリコール(EG)を10kg投入し、表1に示すポリマー組成となるようにした以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0059】
実施例1〜4、比較例1〜6で得られたポリエステル樹脂の特性値及び操業性の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、実施例1〜4のポリエステル樹脂は、低融点でありながら結晶性が高いものであり、重合性、色調ともに良好であり、操業性よく得ることができた。
一方、比較例1のポリエステル樹脂は重合触媒としてチタン触媒のみを含有するものであったため、b値の高い(黄色味の強い)ものとなり、品位に劣るものとなった。比較例2のポリエステル樹脂は重合触媒としてゲルマニウム化合物のみ含有するものであったため、また比較例3のポリエステル樹脂はチタン原子の含有量が少なかったため、いずれも重合性が悪く、ポリマーの極限粘度が0.6以上とならなかった。そして、特にストランドをカッティングしてチップ化する工程において、フィードローラまたはカッターブレードへのポリマーの巻き付きやストランド間の密着による連チップの発生等により、カッターの運転を中断し、チップ化することが困難であった。比較例4のポリエステル樹脂は、チタン原子の含有量が多すぎたため、b値の高い(黄色味の強い)ものとなり、品位に劣るものとなった。比較例5のポリエステル樹脂は、HDが40モル%のものであったため、融点が170℃と高く、チップ化時の操業性にも劣るものであった。比較例6のポリエステル樹脂は、IPAの共重合量が多かったため、融点がDSCでは確認できず、結晶性を有しておらず、熱安定性が悪くてチップ化できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明におけるDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを50モル%以上とするジオール成分とからなるポリエステルであって、チタン化合物を含有し、チタン原子(二酸化チタン粒子中のチタン原子を除く)の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜2.0×10−3モル、かつゲルマニウム化合物を含有し、ゲルマニウム原子の含有量がポリエステルの酸成分1モルに対して1.0×10−4〜1.0×10−3モルであり、融点が100〜150℃であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1記載のポリエステル樹脂。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。


【図1】
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【公開番号】特開2009−191158(P2009−191158A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33151(P2008−33151)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】