説明

ポリエステル組成物の製造方法およびエチレングリコールスラリー

【課題】平均粒径の小さなシリカ粒子が局所的に大きな凝集を形成するのを抑制し極めて凝集が少なく均一に分散されたポリエステル組成物の製造方法の提供。
【解決手段】重縮合反応によって芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とからなり、シリカ粒子を含有するポリエステル組成物の製造する方法において、
平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーに、シリカ粒子の重量を基準としてアルカリ金属分アルカリ金属元素量が、0.05〜10重量%となるようにアルカリ金属化合物を添加し、加熱処理を行い、該加熱処理したエチレングリコールスラリーを、ポリエステルの重合反応が完了するまでの間に、得られるポリエステル組成物に対して、シリカ粒子の含有量が0.001〜5.0重量%の範囲となるように添加するポリエステル組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、シリカ粒子が均一に分散されたポリエステル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートに代表される芳香族ポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有し、磁気テープ、電気絶縁材料、コンデンサー、写真フィルムまたは包装材等などのフィルム用途に広く用いられている。
【0003】
このようなポリエステルをフィルムなどに用いる場合、得られるフィルムに優れた巻き取り性を付与する目的で、不活性粒子が添加されている。そして、このような不活性粒子の中でも、アルコキシド法や水ガラス法によって得られる形状が真球状のシリカ粒子は、粒度分布がシャープであることから、フィルム表面に突起を均一に形成しやすく好適に用いられている。
【0004】
ところで、近年のフィルムへの要求はますます高度になり、例えば従来よりも高度な表面平坦性が要求されてきている。特に、局所的に発生するシリカ粒子の凝集、具体的にはシリカ粒子同士やシリカ粒子と触媒として添加する金属成分との凝集は、フィルム成形時にフィッシュアイなどといった欠点となってくる。そのため、ポリエステル組成物には、平均粒径の比較的小さなシリカ粒子を、凝集を抑制しつつ均一に分散させることが望まれていた。
【0005】
このようなシリカ粒子などの不活性粒子の凝集抑制技術としては、例えばポリエステルの重合反応中に不活性粒子を形成する方法が特許文献1(特開平7−216068号公報)で、不活性粒子を添加してから重縮合反応を開始するまでの間に、温度が150〜260℃で圧力が0.05〜0.3MPaの高温加圧処理する方法が特許文献2(特開2003−238671号公報)で、シリカ粒子をシラン系、チタネート系、アルミニウム系のカップリング剤で処理する方法も特許文献3(特開昭63−312345号公報)で提案されている。しかしながら、これらの方法でもその凝集抑制効果は充分ではなく、さらなる改善が望まれていた。
【0006】
また、シリカ粒子の凝集を抑制するために、重合触媒としてチタン触媒を用い、カルボキシ基を含むホスホネート化合物を使用する方法が特許文献4(特開2005−239940号公報)で提案されている。しかしながら、特許文献4で具体的に評価されているシリカ粒子は平均粒径が2.0μm以上という比較的大きなものだけで、平均粒径の小さなシリカ粒子の凝集抑制効果としては充分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−216068号公報
【特許文献2】特開2003−238671号公報
【特許文献3】特開昭63−312345号公報
【特許文献4】特開2005−239940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はかかる従来技術の問題点を解消し、平均粒径の小さなシリカ粒子が局所的に大きな凝集を形成するのを抑制し、極めて均一にシリカ粒子分散されたポリエステル組成物を効率的に製造できる製造方法およびそれに使用するシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、シリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーを特定の条件で処理し、添加することによりシリカ粒子の分散性が飛躍的に向上し、局所的に発生するシリカ粒子同士の大きな凝集を減少させることを見出し本発明に到達したものである。
【0010】
かくして本発明によれば、本発明の目的は、芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とからなり、シリカ粒子を含有するポリエステル組成物の製造方法において、
平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーに、シリカ粒子の重量を基準としてアルカリ金属元素量が、0.05〜10.0重量%となるようにアルカリ金属化合物を添加し、加熱処理を行い、該加熱処理したエチレングリコールスラリーを、ポリエステルの重合反応が完了するまでの間に、得られるポリエステル組成物に対して、0.001〜5.0重量%の範囲となるように添加するポリエステル組成物の製造方法によって達成される。
【0011】
また、本発明の好ましいポリエステル組成物の製造方法の態様として、シリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーとアルカリ金属化合物を120〜230℃で加熱処理を行うこと、ポリエステルの重合が、エステル化反応もしくはエステル交換反応し、その触媒としてチタン化合物が用いられること、ポリエステルの重合が、エステル交換反応を経由し、加熱処理したエチレングリコールスラリーが、エステル交換反応率が80%に達する前に添加されること、得られたポリエステル組成物がフィルムに用いられることの少なくともいずれかひとつを具備するポリエステル組成物の製造方法も提供される。
【0012】
さらに本発明では、平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子を含有するエチレングリコールスラリーであって、アルカリ金属化合物を、シリカ粒子の重量基準として、アルカリ金属元素量で0.05〜10重量%の範囲で含有するポリエステル組成物用のシリカ粒子スラリーも提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シリカ粒子をアルカリ金属化合物とエチレングリコール中で加熱処理させることにより、ポリエステル組成物中のシリカ粒子の局所的に発生する大きな凝集を防止できるとともに均一に分散でき、極めて表面平坦性が求められるフィルムなどの原料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とからなるポリエステルで、フィルムなどへの製膜性を有するものであれば特に制限はされない。そのようなポリエステルの中でも、力学的特性の観点などから、全繰り返し単位の85mol%以上がエチレンテレフタレート単位またはエチレン−2、6−ナフタレート単位からなるポリエステルが好ましい。もちろん、本発明の効果を損なわない範囲で、例えばポリエステルの全繰返し単位に対して、15モル%以下で、好ましくは10モル%以下で、他の第3成分を共重合した共重合体であっても良い。第3成分(共重合成分)としては、テレフタル酸(エチレン−2、6−ナフタレート単位の場合)、2,6−ナフタレンジカルボン酸(エチレンテレフタレート単位の場合)、2,7−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の如き脂環族ジカルボン酸、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコールが例示でき、これらは単独で使用しても二種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明で使用するシリカ粒子は、平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子である。好ましい平均粒径の上限は1.0μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。なおシリカ粒子の平均粒径の下限については、特に制限されないが、取扱い性などの観点から0.01μm以上であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明におけるシリカ粒子の好ましい態様について詳述する。まず、シリカ粒子の形状は、真球状であることが好ましい。本発明における真球状とは、後述の体積球状係数(f)が0.4〜π/6といった粒子を意味する。なお、前述の体積球状係数(f)は、走査型電子顕微鏡により、用いたシリカ粒子のサイズに応じた倍率にて各粒子の写真を撮影し、画像解析処理装置ルーゼックス500(日本レギュレーター社製)を用い、投影面最大径(D)(μm)および面積円相当径から球として算出したときの粒子の体積(V)(μm)を測定し、VをDで割ることにより算出したものである。また、本発明におけるシリカ粒子は、フィルムとしたときに比較的均一な突起高さの突起を形成しやすい球状の形状を有する粒子が好ましいことから、シリカ粒子の長径の平均値(D)を、シリカ粒子の短径の平均値(D)で割った粒径比(D/D)が1.0〜1.2の範囲にあることが好ましい。さらに、本発明におけるシリカ粒子は、不活性粒子自体に含まれる粗大粒子の少ないものが好ましく、積算粒子数70%の粒子径(D70)を積算粒子数30%の粒子径(D30)で割った値(D70/D30)が1.1〜2.0、さらに1.2〜1.5の範囲にあることが好ましい。
【0017】
本発明では、シリカ粒子はエチレングリコールスラリーとして取り扱う。エチレングリコールスラリー中のシリカ粒子の濃度は、シリカ粒子の分散安定性とポリエステル組成物に添加した後の副生物の発生を抑制する関係から、エチレングリコールスラリーの重量を基準として、2〜30重量%の範囲が好ましく、さらに5〜25重量%の範囲、特に8〜20重量%の範囲が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法の特徴は、このシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーを、アルカリ金属化合物と加熱処理することにある。この処理により、ポリエステル組成物中のシリカ粒子の凝集を防止できるとともに、均一にシリカ粒子を分散することが可能となる。このような処理によって、分散性が向上する理由は定かではないが、この処理によりシリカ粒子中に残存しているシラノール基が不活性化され、ポリエステル組成物への添加後のシリカ同士の凝集、またシリカ粒子と触媒金属化合物との反応に起因する凝集を防止させる効果が発現しているためではないかと考えられる。
【0019】
本発明における上述のアルカリ金属化合物としては、リチウム、カリウム、ナトリウムの酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩などのアルカリ金属塩または水酸化物が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールへの溶解性が高いことから酢酸塩が好ましい。そして、シリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーに添加するアルカリ金属化合物の添加量は、アルカリ金属元素量で見たとき、シリカ粒子の重量を基準として、0.05〜10.0重量%の範囲である。好ましい添加量は、0.1〜2.5重量%である。前記添加量が下限より少ないと、前述のシリカ粒子の凝集を抑制する効果が不十分になりやすく、他方、また前記添加量が上限より多くなると、シリカ粒子の凝集を抑制する効果は飽和状態となって変化せず、逆に得られるポリエステル組成物の熱安定性が悪化しやすくなる。
【0020】
さらに、本発明の製造方法では、このシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーとアルカリ金属塩の混合物を加熱処理することが必要である。加熱処理温度は120〜230℃の範囲が好ましく、さらに150〜195℃の範囲で行うことが好ましい。加熱処理の時間は添加したアルカリ金属化合物の種類や量、さらに加熱温度によって適宜調整すればよいが、十分に処理を行う観点から60分以上行うことが好ましい。他方、加熱処理時間の上限は特に制限されないが、生産性や加熱によるジエチレングリコールなどの副生物の発生の点から5時間以下であることが好ましい。
【0021】
この加熱処理を行ったシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーは、ポリエステル組成物に添加する前に、エチレングリコールスラリー中に含まれる凝集粒子やわずかに含まれる粗大粒子を除去することを目的にフィルターにてろ過処理することが好ましい。使用されるフィルターの目開きはシリカ粒子の粒径によって決められる。
【0022】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、エステル交換法もしくは直接エステル化法を経由し、それらで得られた低重合体を重縮合反応させる溶融重合法である。
エステル交換反応を経由する場合のエステル交換反応触媒としては、特に制限されないが、既知のマンガン、マグネシウム、カルシウムの酢酸塩、チタンアルコキシドまたはその化合物を使用し、エステル交換反応開始時から存在するように添加するのが好ましい。これらの中でも、添加量が比較的少なく、フィルムにしたときの表面性をより平坦にしやすい点より、チタン化合物を使用することが好ましい。
【0023】
また、上述の加熱処理を行ったシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーは、ポリエステル組成物に対して、シリカ粒子の重量で、0.001〜5.0重量%の範囲となるように添加することが必要である。好ましい添加量の範囲は、0.01〜2.5重量%、さらに0.05〜1.0重量%の範囲である。シリカ粒子の添加量が下限未満では、シリカ粒子を添加したことによる滑り性などの改善効果が乏しくなりやすく、他方上限を超えると、シリカ粒子の凝集が増加してくる。
【0024】
このシリカ粒子を添加する時期については、ポリエステルの重合反応が完了するまでならいつでも良い。好ましくは、ポリエステルの重合がエステル交換反応を経由する場合、さらにシリカ粒子の分散性を高める目的で、エステル交換反応におけるポリエステル前駆体のエステル交換反応率が80%に達する前に、アルカリ金属化合物を添加して加熱処理を行ったシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーをポリエステル前駆体に添加することが好ましい。エステル交換反応率は、例えば芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸ジメチルや2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルの場合、発生してくるメタノールの量とトータル発生するメタノールの量の比により把握することができる。さらに好ましい添加時期は、エステル交換反応率が60%に達する前である。
【0025】
他方、ポリエステルの重合が、エステル交換反応を経由しないエステル化反応のみを経由する場合は、エステル化反応の途中で添加するとシリカ粒子が発生する水により加水分解して凝集の原因となる活性基が発生しやすくなるため、アルカリ金属塩を添加して加熱処理を行ったシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーはエステル化反応終了後に添加することが好ましい。
【0026】
ところで、本発明の製造方法では、エステル交換反応またはエステル化反応が終了してから重縮合反応を開始するまでの間に、熱安定剤としてリン化合物を添加することが好ましい。使用するリン化合物の種類については特に制限されず、既知のものが使用できる。好ましいリン化合物としては、下記式(I)で示されるホスホネート化合物が挙げられる。
【0027】
【化1】

上記式(I)中、RおよびRは、それぞれ炭素数が1〜4のアルキル基であり、Xは−(CH)m−又は−CH(Y)−(mは0以上4以下の整数、Yはフェニル基)を表す。
【0028】
このような式(I)で示されるホスホネート化合物を添加することで、シリカ粒子の分散性をより高めることができる。式(I)で示されるホスホネート化合物について特に好ましく用いられるものとして、ジエトキシホスホノ酢酸エチル、ジエトキシホスホノ酢酸メチルが例示される。リン化合物の添加量は、エステル交換反応またはエステル化反応の違い、使用するエステル交換反応触媒の種類および添加量によって変化するが、全酸成分のモル数を基準として、リン元素量で5〜150mmol%、8〜120mmol%、特に10〜80mmol%とするのが好ましい。このような範囲にすることで、得られるポリエステル組成物の熱安定性を保ちつつ、シリカ粒子の分散性をより高めることができる。
【0029】
ところで、該リン化合物の添加方法としては、よりシリカ粒子の凝集を抑制しやすいことから、エチレングリコール溶液の状態で添加するのが好ましい。エチレングリコール溶液中のリン化合物の濃度は特に指定されないが、凝集抑制の面からはできるかぎり濃度が低い方が好ましい。ただし、過度に濃度が低くなると、過剰にエチレングリコールを添加することになり、ポリエステル組成物中のジエチレングリコール量が増加させるといった問題がある。そのため、エチレングリコール溶液中のリン化合物の割合は、エチレングリコール溶液の重量を基準として、0.5〜30重量%、さらに1〜20重量%の範囲で添加するのが好ましい。なお、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0030】
このようにして、リン化合物を添加した後、所望とする固有粘度になるまで重縮合反応を行う。使用する重縮合反応触媒については特に制限はしないが、より使用する触媒の量を少なくすることができることから前述のエステル交換反応で説明したチタン化合物が好ましい。さらに、本発明の製造方法は、要すれば固相重合などを行ってもよい。なお、得られるポリエステル組成物の固有粘度は、フィルムとしたときの強度や耐摩耗性などの観点から、0.40dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.45〜1.0dl/gの範囲であることが好ましい。
【0031】
以上、説明してきた本発明の製造方法を用いれば、シリカ粒子のポリエステル組成物中での分散性を向上でき、結果としてシリカ粒子が凝集することなく均一に分散されたポリエステ組成物を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル組成物の特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0033】
(1)固有粘度(IV)
ポリマーサンプルを35℃の温度下で、オルソクロロフェノールに溶解して測定した。
【0034】
(2)シリカ単粒子の分散率
フィルムサンプルをエイコーエンジニアリング(株)製スバッターリング装置(1B−2型イオンコーター装置)を用いてフィルム表面に下記条件にてイオンエッチング処理を施す。条件は、シリンダージャー内に試料を設置し、約6.65Pa(5×10-2Torr)の真空状態まで真空度を上げ、電圧0.45kV、電流5mAにて約15分間イオンエッチングを実施する。更に同装置にてフィルム表面に金スパッターを施した。そして走査型電子顕微鏡(日立製S-2150)を用いて、測定倍率5千〜2万倍で1×10−2mmの範囲にある全一次粒子数及び凝集粒子の数をカウントし、下記式より求めた。なお、ここで、2ケ以上のシリカ粒子が集まっているものを凝集粒子とし、2個の一次粒子からなる場合は凝集粒子数は2個、3個の一次粒子からなる場合は凝集粒子数は3個といったようにカウントした。
[数1]
凝集粒子率(%)=凝集粒子数÷全一次粒子数×100
【0035】
(3)シリカ粒子の大凝集数
フィルムサンプルを(2)と同様にイオンエッチングおよび金スパッターを行った後に走査型電子顕微鏡にて測定倍率2千〜1万倍で、10個以上の一次粒子が凝集している大凝集物を1mmの範囲でカウントした。なお、大凝集物の数は、それを形成する個々の一次粒子の数ではなく、集合体としての数をカウントした。
【0036】
[参考例1]
平均粒径0.12μmの真球状シリカ粒子の10重量%エチレングリコールスラリー5kgおよび、酢酸カリウムをシリカ粒子に対し2.5重量%(12.5g)を撹拌付きのステンレス反応器内に仕込んだ。その後、撹拌を行いながら、170℃まで昇温し、全還流状態で2時間保持させた。このようにして得られたエチレングリコールスラリーをスラリーA、そして該スラリーに含有されるシリカ粒子をシリカAと以下で称することがある。
【0037】
[参考例2〜8]
表1に示す通り、シリカ粒子の粒径、アルカリ金属の種類や添加量、加熱処理の温度や時間を変更した以外は、参考例1と同様な操作を繰り返して、表1に示すスラリーB〜HとシリカB〜シリカHを製造した。
【0038】
[参考例9]
エチレングリコールスラリー(平均粒径0.12μmの真球状シリカ粒子を10重量%含有)5kgおよび、メチルトリメトキシシランをシリカ粒子に対し2.5重量%(12.5g)を撹拌付きのステンレス反応器内に仕込んだ。その後、撹拌を行いながら、150℃まで昇温し、全還流状態で2時間保持させた。このようにして得られたエチレングリコールスラリーをスラリーI、そして該スラリーに含有されるシリカ粒子をシリカIと以下で称することがある。
【0039】
【表1】

【0040】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(NDCM)100モルとエチレングリコール(EG)200モル、酢酸マンガン四水和物0.03モルとをエステル交換反応槽に仕込み、190℃まで昇温した。次いでスラリーAを、得られるポリエステルの重量を基準として、シリカAの含有量が0.4重量%となるように添加した。その後、250℃に昇温しながらメタノールを除去しエステル交換反応を終了した。
続いて、三酸化二アンチモン0.02モルとジエトキシホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液を、リン元素量で0.04モルとなるように添加した。
得られた反応生成物を重合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度300℃、100Paの真空下で重縮合を行った。目標の攪拌動力となった時点でポリエステル組成物を取り出した。
【0041】
このようにして得られたポリエステル組成物を180℃で4時間乾燥した後、290℃で溶融状態とし、回転しているキャスティングドラムに溶融状態のポリエチレンー2、6―ナフタレート樹脂組成物を押出して、厚さ350μmの未延伸シート状物を得た。次いでこの未延伸シートを二軸延伸装置にて150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ3.75倍で同時二軸延伸し、厚さが25μmのフィルムサンプルを作成した。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
【0042】
[比較例1]
表2に示すとおり、スラリーAの代わりにスラリーHを使用し、かつその添加時期をエステル交換反応終了後に変更した以外は実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
【0043】
[実施例2]
2,6−ナフタレンジメチルエステル(NDCM)100モルとエチレングリコール(EG)200モルとをエステル交換反応槽に仕込み、170℃まで昇温した。次いでトリメリット酸チタン(テトラブトキシチタンとトリメリット酸をモル比1:2で、175℃で90分反応させた化合物)を0.008モル添加し、スラリーBを、得られるポリエステル組成物の重量を基準として、シリカBの含有量が0.4重量%となるように添加した。その後エステル交換反応槽全体を0.10MPaへ加圧して230℃でエステル交換反応を実施した。エステル交換反応槽内温が250℃に到達後、放圧し、ジエトキシホスホノ酢酸エチルの10重量%エチレングリコール溶液を、リン元素量で0.015モル添加した。得られた反応生成物を重合反応槽へと移行し、昇温しつつ重縮合反応槽内の圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度300℃、100Paの真空下で重縮合を行った。目標の攪拌動力となった時点でポリエステル組成物を取り出した。
このようにして得られたポリエステル組成物を実施例1と同様な操作を繰り返して、フィルムサンプルとした。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
【0044】
[実施例3〜8、比較例2〜3]
表2に示すとおり、使用するスラリーの種類、シリカ粒子の添加量、添加時期を変更したこと、触媒添加量を変更したこと以外は実施例2と同様な操作を繰り返した。得られたポリエステル組成物の特性を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2中のKは酢酸マンガン、Lはトリメリット酸チタン(テトラブトキシチタンとトリメリット酸を1:2のモル比で加熱反応させた化合物)、Mはジエトキシホスホノ酢酸エチル、Nは三酸化アンチモンを示す。また、添加時期は、エステル交換反応において、スラリーを添加するときのエステル交換反応率(%)を示す。また、実施例2〜8ならびに比較例2および3は、重縮合触媒とエステル交換反応触媒を兼用している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、ポリエステル組成物に凝集を起こしやすい平均粒径の小さなシリカ粒子を均一に分散させることができ、それをフィルムに用いた場合、極めて表面平坦性の優れたフィルムとすることができ、例えば磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸成分とエチレングリコール成分とからなり、シリカ粒子を含有するポリエステル組成物の製造方法において、
平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーに、シリカ粒子の重量を基準としてアルカリ金属元素量が、0.05〜10重量%となるようにアルカリ金属化合物を添加し、加熱処理を行い、該加熱処理したエチレングリコールスラリーを、ポリエステルの重合反応が完了するまでの間に、得られるポリエステル組成物に対して、シリカ粒子の含有量が0.001〜5.0重量%の範囲となるように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【請求項2】
シリカ粒子を含むエチレングリコールスラリーとアルカリ金属化合物を120〜230℃で加熱処理を行う請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項3】
ポリエステルの重合が、エステル化反応もしくはエステル交換反応を経由し、その触媒としてチタン化合物が用いられる請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項4】
ポリエステルの重合が、エステル交換反応を経由し、加熱処理したエチレングリコールスラリーが、エステル交換反応率が80%に達する前に添加される請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項5】
得られたポリエステル組成物が、フィルムに用いられる請求項1記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項6】
平均粒径が1.5μm以下のシリカ粒子を含有するエチレングリコールスラリーであって、アルカリ金属化合物を、シリカ粒子の重量基準として、アルカリ金属元素量で0.05〜10重量%の範囲で含有することを特徴とするポリエステル組成物用のシリカ粒子のエチレングリコールスラリー。

【公開番号】特開2010−254804(P2010−254804A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106457(P2009−106457)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】