説明

ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法

【課題】 混用布帛を精練処理し染色処理することにより製造される混用染色布帛における不良品発生を低減させる。即ち、プレセット時や染色処理時におけるポリウレタン繊維の脆化によるパワーダウンやポリウレタン切れを防止し、さらに、精練工程での油分等の付着成分の除去を十分に行うことにより、伸縮パワーや均染性等の劣る不良品の発生を防止する。
【解決手段】 ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛を精練処理した後に染色処理を行ない混用染色布帛を製造する方法において、界面活性剤と金属イオン封鎖剤とを含有する処理用水でもって精練処理を行うことにより、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛を製造する。精練処理は連続的に行ない、回収した処理用水中に未反応の金属イオン封鎖剤が残存するように、過剰な量の金属イオン封鎖剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法に関する。さらに詳しくは、油汚れなどによる脱油、汚れ除去を効果的に行い、均染性に優れ、かつポリウレタン繊維の脆化によるパワーダウンやポリウレタン切れを改善した染色布帛を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン繊維は快適な伸縮特性、形態保持性、フィット性、成型性、防シワ性、独特の風合いなどの多くの優れた特性を有することから、ショーツ、ボディースーツなどのインナー用途、水着、レオタード、ウエットスーツなどのスポーツ用途やアウターウエアなど多くの分野の衣料製品で使用されている。インナー用途、スポーツ用途など直接肌に触れる用途においては、柔軟でソフトな肌触りが要求されるため、主に編地形態で使用されることが多い。
【0003】
また、このポリウレタン繊維を用いた衣料製品の場合、ポリウレタン繊維のみでは所望の特性を得ることができないので、他の繊維を混用した混用布帛にして用いられている。例えば、ポリウレタン繊維とともに用いる混用素材としては、インナー用途ではポリアミド繊維が使用されることが多く、また、水着、レオタード、ウエットスーツなどのスポーツ用途ではポリエステル繊維が用いられることが多い。
【0004】
この混用布帛は、衣料製品に要求される所望の色相に染色され、混用染色布帛にして用いられる。即ち、ポリウレタン繊維と他の繊維とを用いて製編織を行い混用布帛を製造した後、精練処理し、次いで染色処理し、染色混用編地が製造される。ここで染色前に行われる精練処理は、繊維に付着している油分を除去するためのものであり、この精練には、非イオン界面活性剤、またはアニオン界面活性剤、両性界面活性剤を含有させた水(処理用水)が一般的に用いられている。また、界面活性剤を含む水に、さらにソーダ灰やカセイソーダなどのアルカリを添加し、精練効果を高める方法も一般的に行われている。
【0005】
しかし、これら従来の処理用水で精練を行っても、繊維に付着している油分が数%以上のように極めて多い場合には、付着油分を十分に除去することは困難である。そこで、付着油分が極めて多い混用布帛を精練処理する方法として、エチレンオサイドを付加させた非イオン界面活性剤を高濃度で含む処理液を用い低浴比で前処理した後、次いで、同じ非イオン界面活性剤を低濃度で含む処理液を用い高浴比で精練する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
この方法によると、付着油分の極めて多い混用布帛であっても、精練処理によって付着油分を十分に低減させることができ、付着油分に起因する染色斑や油染みの発生を低減させることができる。
【0007】
ところが、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の場合、染色処理する前の精練処理によって付着油分を十分に低減させたときでも、染色処理して得られた混用染色編地中に、脆化によりパワーダウンしたポリウレタン繊維やポリウレタン繊維切れが生じていることが多く、伸縮パワーが劣る不良品が生じ易いという問題があった。さらに、この混用染色布帛の場合は染め斑を十分に防止することができないという問題もあった。
【特許文献1】特開2000−80562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、混用布帛を精練処理し染色処理することにより製造される混用染色布帛における不良品発生を低減させることである。即ち、プレセット時や染色処理時におけるポリウレタン繊維の脆化によるパワーダウンやポリウレタン切れを防止し、さらに、精練工程での油分等の付着成分の除去を十分に行うことにより、伸縮パワーや均染性等の劣る不良品の発生を防止することであり、本発明は、そのために有効な混用染色布帛の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、前記目的を達成するため、以下の方法によってポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛を製造する。
【0010】
すなわち、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛を精練処理した後に染色処理を行ない混用染色布帛を製造する方法において、界面活性剤と金属イオン封鎖剤とを含有する処理用水でもって精練処理を行うことにより、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛を製造するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明法によってポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛を製造すれば、処理工程中におけるポリウレタン繊維のパワーダウンや糸切れを防止することができ、しかも染め斑がなく均染性に優れた混用染色布帛が得られる。従って、本発明法によれば、伸縮パワーや均染性が水準以下の不良品の発生率を大幅に低減させることができ、染色工程における収率を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明で用いるポリエステル繊維は、主としてポリエステルからなる繊維である。ここで、ポリエステルは特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート単位、ポリプロピレンテレフタレート単位、ポリブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリマーが挙げられる。ただし、他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で、好ましくは10モル%以下の割合で含まれるものでもよい。共重合可能な化合物として、例えば、スルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸エチル、硫酸ジエチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸、ポリエチレングリコール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が好ましく使用される。必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてのヒンダードフェノール誘導体などが添加されていてもよい。
【0014】
また、ポリエステル繊維は組成の異なるポリエステルが、サイドバイサイド型や偏芯シースコア型に複合されたポリエステル複合繊維であってもよい。
【0015】
一方、本発明におけるポリウレタン繊維としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートを主体として合成されたイソシアネートと多官能水素化合物とを反応させて得られるポリウレタン重合体を紡糸して得られたものが好ましい。
【0016】
ここでのポリウレタン重合で用いるポリマージオールとしては、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレンエーテルグリコールのようなポリエーテルグリコール類、エチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類の少なくとも一種と、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、β−メチルアジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸の少なくとも一種を反応させて得られるポリエステルグリコール類、ポリカプロラクトングリコール、ポリヘキサメチレンカーボネートグリコールのようなポリマージオールの一種または二種以上の混合物または共重合物が例示できる。
【0017】
また、有機ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのような有機ジイソシアネートの一種または二種以上の混合物が例示できる。さらにトリイソシアネートを少量併用してもよい。
【0018】
さらにまた、多官能性水素化合物としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、1,4−ジアミノピペラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水などの一種またはこれらの二種以上の混合物が例示できる。所望により、これら化合物に、モノアミン、モノアルコールのような停止剤を少量併用してもよい。
【0019】
また、2,6−ジテトラブチルパラクレゾール、亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、ヒドロキシベンゾフェノン系またはヒドロキシエンゾチアゾールなどの光または紫外線吸収剤、1,1’−ジアルキル置換セミカルパジド、ジチオカルバミン酸塩などのガス黄変劣化防止剤、および酸化チタン、酸化亜鉛などの白色顔料を適宜使用してもよい。
【0020】
前記ポリウレタン重合体をポリウレタン溶液とし、通常の方法で、乾式、湿式または溶融紡糸してポリウレタン繊維を製造する。乾式紡糸や湿式紡糸するためにポリウレタン重合体を溶解させる溶媒としては、ポリウレタン重合体の溶解性が高い溶媒が用いられ、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ビニルピロリドンなどを用いることが好ましい。紡糸させる際のポリウレタン溶液の濃度は特に限定されるものではないが、通常25重量%以上80重量%以下の範囲が好ましい。より好ましくは35重量%以上55重量%以下の範囲である。25重量%に満たないと溶媒蒸発に必要な熱量が多くなるため紡糸が困難となる傾向がある。一方、80重量%を越えると溶液の安定性を悪くし、その結果、紡糸性が悪化する。なお、溶液の安定性を向上させるためポリマーの重合度を下げると糸質が低下する傾向がある。
【0021】
このポリウレタン繊維は、被覆弾性糸の製造時にカバリング糸として使用され、また、ポリウレタン繊維のみからなる糸(裸糸)で製編織に供される。これら使用時のポリウレタン繊維糸の繊度は、用途により適宜選択されるが、通常5〜100デシテックスの範囲が適当であり、さらに好ましくは10〜80デシテックスである。
【0022】
本発明における混用布帛は、布帛構成糸条中にポリウレタン繊維とポリエステル繊維とが含まれる布帛であり、この混用布帛中におけるポリウレタン繊維とポリエステル繊維との混用比率は特に制約を受けないが、布帛中のポリウレタン繊維の比率は1〜50重量%の範囲が好ましく、他の天然繊維、合成繊維が混入されていてもよい。
【0023】
本発明におけるポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛は、トリコット、ラッセルなどの経編、丸編、緯編などの編地であっても、織物または不織布であってもかまわない。好ましくは編地であり、さらに好ましくは経編である。特にトリコットは細繊度のポリウレタン繊維を用いることが多いため、本発明法を適用するのが好ましい。
【0024】
本発明法における精練処理では、処理用水中に、界面活性剤と金属イオン封鎖剤とが含有されていることが必要である。金属イオン封鎖剤は、精練処理時に消費される量よりも多く配合する。即ち、精練後の処理用水中に未反応の金属イオン封鎖剤が残存するような量を配合する。精練後の処理用水中に残存する未反応の金属イオン封鎖剤の量は処理用水中に1ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。
【0025】
精練処理時の処理用水中に配合する金属イオン封鎖剤は、金属イオン封鎖機能を有する化合物であれば特に制約ないが、ピロリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸などの無機系の金属イオン封鎖剤が好ましく、なかでも、金属イオン封鎖能の高いエチレンジアミン四酢酸[EDTA系、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸[HEDTA系]、ジエチレントリアミン五酢酸[DTPA系]、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸[HEDTA系]、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸[DHEDDA系]、1,3プロパンジアミン四酢酸[1,3PDTA系]、トリエチレンテトラミン六酢酸[TTHA系]、ニトリロ三酢酸[NTA系]、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸[HIMDA系]などの窒素を有する有機系金属イオン封鎖剤がより好ましい。さらに分散剤としてポリリン酸が配合されたものが、金属キレート物の分散性を向上させ、金属キレート物の布帛への再付着を防止し、かつ沈殿防止するという観点から好ましい。
【0026】
本発明における精練処理で使用する処理用水は、金属イオン封鎖剤の他に、界面活性剤を含有している。この界面活性剤は、通常の精練処理で用いる非イオン界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤であり、さらに、カセイソーダ、ソーダ灰などのアルカリ剤を含むことも好ましい。また、用いる金属イオン封鎖剤の種類や布帛に付着した汚れ成分の金属の種類により、適正なpHに処理用水を調整することが、精練効率向上の面から好ましい。
【0027】
精練処理の方式には、1回ごとに処理用水を使い切ってしまうバッチ式と、布帛を処理用水中に連続的に送り込んで処理する連続式とがある。バッチ式での精練は処理時間を長くとれるため、精練効率の面では優れているが、連続式の精練に比べて、精練工程時間が長くかかるため、生産性、コスト面からは劣る。連続式の精練は通常、オープンソーパー、ソフサーなどの連続式精練装置が用いられる。連続式精練装置には通常、2以上5以下の複数の処理槽から構成されている。
【0028】
ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛の精練処理工程においては、一般的に、精練処理以外にリラックス処理も併せて実施される。従って、この場合、布帛が最初に投入される第1槽よりも、第2槽、第3槽と、後の槽ほど高い温度に設定することが好ましい。例えば、前記連続精練装置において、布帛が順に第1槽、第2槽、第3槽と送り込まれて精練処理される場合、第1槽内の温度を50℃、第2槽内の温度を60℃、第3槽内の温度を70℃のように、順に高く設定することが好ましい。処理温度は40℃以上98℃以下の範囲が好ましく、精練効果向上の観点からは60℃以上がより好ましい。
【0029】
精練処理工程の次に染色処理を行ってもよいが、精練処理工程と染色処理との間にプレセットを行うことが好ましい。精練処理工程の後、かつ、染色処理の前に行うプレセット(熱セット)は、温度を190℃以下、時間を60秒以内の条件で行う。かかるプレセットは熱熱で行うことが好ましい。また、プレセットは187℃以下、45秒以内とするのがより好ましい。プレセット温度が190℃を越えるか、プレセット時間が60秒を越えると、ポリウレタン繊維の熱酸化が進行し、脆化による糸切れが促進するため好ましくない。プレセットの幅出し率は、精練後の布帛幅に対して40%以下とするのが好ましく、30%以下とするのがより好ましい。
【0030】
また、プレセットの伸長率は、精練後の布帛長さに対して5%以下とするのが好ましく、0%以下とするのがより好ましい。ここで、プレセットの伸長率とは、プレセット時の布帛長さ方向の伸長率を意味し、精練後の布帛長さに対して5%以下とは、伸長率が5%以下であることを意味する。
【0031】
プレセットの後、染色処理し、仕上げ処理が行われる。染色処理や仕上げ処理は通常の方法で行えばよい。例えば、染色温度は、用いるポリエステル繊維の種類により異なるが、通常100℃から135℃の範囲が好ましい。
【0032】
本発明法によると、プレセット工程や染色処理工程におけるポリウレタン繊維の脆化を防止することができ、伸縮パワーや均染性の劣る不良品の発生を防止することができるが、これは次のような作用効果によるものと考えられる。
【0033】
ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛において用いられるポリエステル繊維は、ポリアミド繊維に比べて硬く、製編時に編針の摩耗が大きいため、金属摩耗抑制および編成性向上の面から、一般にポリエステル繊維製造時に原糸油剤としてオレイン酸などの不飽和脂肪酸を付着させている。該オレイン酸などの不飽和脂肪酸は比較的低温でも熱酸化を受けやすく、この熱酸化は銅、鉄などの金属が混在する場合に著しく促進される傾向にある。
【0034】
また、原糸油剤に由来してポリエステル繊維表面に付着しているオレイン酸などの不飽和脂肪酸等の油分は、製糸工程や加工工程で機械を通過するうちに、金属を含有した編機オイル等を介して、金属分を含む油分となり易い。
【0035】
従って、従来の方法で精練処理した後にプレセットや染色処理を行った場合、プレセット工程や染色工程で熱を受けることにより、金属分を含む付着油分の熱酸化、特にオレイン酸などの不飽和脂肪酸等の熱酸化が著しく促進される。熱酸化された不飽和脂肪酸等の油分はポリウレタン繊維の脆化を誘発するので、プレセット工程や染色処理工程においてポリウレタン繊維の脆化が生じるものと考えられる。特にポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛の場合は、ポリアミド繊維を含む混用布帛の場合よりも高い染色温度がとられるので、不飽和脂肪酸等の油分の熱酸化が促進され易く、ポリウレタン繊維の脆化が促進されるものと考えられる。
【0036】
これに対し、本発明法では、プレセットや染色処理する前の精練処理工程において、付着している油分を除去するとともに、付着している金属分も十分に除去するので、プレセット工程や染色処理工程で熱が加わっても、残存油分の熱酸化が生じ難くなり、この結果、ポリウレタン繊維の脆化が防止されるものと考えられる。そして、ポリウレタン繊維の脆化の防止により、ポリウレタン繊維のパワーダウンやポリウレタン繊維切れを防止することができ、不良品の発生を防止できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
[実施例1]
フロントに、56デシテックス24フィラメントのカチオン可染ポリエステル繊維(タイプFS92:東レ(株)製)を使用し(混率82%)、バックに、22デシテックスのポリウレタン繊維(タイプ127:オペロンテックス(株)製)を使用し(混率18%)、通常の方法で2ウェイトリコットを編み立てた。この混用トリコット編地には、製糸工程や加工工程で繊維に付与された油剤等に由来して、2.3重量%の油分が付着していた。また、編立て機等の機械の付着オイルが移染したとみられる油汚れがみられた。
【0038】
この混用トリコット編地を、3槽式の連続リラックス精練機で精練し、次いで、ピンテンターでプレセットした後、次いで、液流染色機を用いて染色処理した。これら処理時の条件は次のとおりであった。
【0039】
精練処理: 処理用水として、全硬度10ppmの軟水に、”サンモール”BL650(日華化学(株)製非イオン界面活性剤)2g/L、”アクロマー”DH700(ナガセケムテックス(株)製EDTA系金属イオン封鎖剤)1500ppmを添加した溶液を調製し、この処理溶液で90℃で1分間の処理をした。精練処理後の未反応の金属イオン封鎖剤濃度は300ppmであった。
【0040】
プレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0041】
染色処理: ”Kayacryl Black”FB−ED(日本化薬社製カチオン染料)の染料を用い、8%owfで125℃で60分間、染色した。
【0042】
得られた混用染色トリコット編地について、ポリウレタン繊維切れの有無、及び染め斑の有無を目視により判定したところ、ポリウレタン繊維切れも染め斑もみられず、伸縮パワー及び均染性ともに優れたものであった。
【0043】
また、精練前の混用トリコット編地の油汚れがない部分の表面の所々に、酢酸銅水溶液(銅濃度が1000ppm)を綿棒で付着させ、風乾させ、金属分が付着した混用トリコット編地とした。この混用トリコット編地について、前記同様に精練処理し、プレセット処理し、染色処理した。得られた混用染色トリコット編地についても、ポリウレタン繊維切れも染め斑もみられず、伸縮パワー及び均染性ともに優れたものであった。
【0044】
[実施例2]
実施例1において編み立てた後に金属分を付着させた混用トリコット編地について、3槽式の連続リラックス精練機での精練、次いで、ピンテンターでプレセットし、次いで、液流染色機を用いての染色処理を行った。これら処理時の条件は、精練処理条件を次のように変更した以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0045】
精練処理: 処理用水として、全硬度10ppmの軟水に、”サンモール”BL650(日華化学(株)製非イオン界面活性剤)2g/L、”クレワット”DP80(ナガセケムテックス(株)製EDTA系金属イオン封鎖剤)1500ppmを添加した溶液を調製し、この処理溶液で90℃で1分間の処理をした。精練処理後の未反応の金属イオン封鎖剤濃度は280ppmであった。
得られた混用染色トリコット編地は、金属分を付着させた部分でもポリウレタン繊維切れも染め斑もみられず、伸縮パワー及び均染性ともに優れたものであった。
【0046】
[実施例3〜7]
実施例1において編み立てた後に金属分を付着させた混用トリコット編地について、3槽式の連続リラックス精練機での精練、次いで、ピンテンターでプレセットし、次いで、液流染色機を用いての染色処理を行った。これら処理時の条件は、プレセット条件を次のように変更した以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0047】
実施例3でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、185℃、45秒間プレセットした。
【0048】
実施例4でのプレセット: 幅出し率15%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0049】
実施例5でのプレセット: 幅出し率50%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0050】
実施例6でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、伸長率5%(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率5%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0051】
実施例7でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、伸長率10%(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率10%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0052】
得られた混用染色トリコット編地は、いずれも、金属分を付着させた部分でも、ポリウレタン繊維切れも染め斑もみられず、伸縮パワー及び均染性ともに優れたものであった。
【0053】
[比較例1]
実施例1において編み立てた混用トリコット編地、及び編み立て後に金属分を付着させた混用トリコット編地について、3槽式の連続リラックス精練機での精練、次いで、ピンテンターでプレセットし、次いで、液流染色機を用いての染色処理を行った。これら処理時の条件は、精練処理条件を次のように変更した以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0054】
精練処理: 処理用水として、全硬度10ppmの軟水に、”サンモール”BL650(日華化学(株)製非イオン界面活性剤)2g/Lを添加した溶液を調製し、この処理溶液で90℃で1分間の処理をした。
【0055】
得られた混用染色トリコット編地にはポリウレタン繊維切れが多くみられ、また、均染性に劣るものであった。特に油汚れ部分や金属分を付着させた部分においてポリウレタン繊維切れや染め斑が特に多くみられた。
【0056】
[比較例2〜5]
実施例1において編み立てた後に金属分を付着させた混用トリコット編地について、3槽式の連続リラックス精練機での精練、次いで、ピンテンターでプレセットし、次いで、液流染色機を用いての染色処理を行った。これら処理時の条件は、精練条件を比較例1と同様にし、プレセット条件を次のように変更した以外は、実施例1と同じ条件で行った。
【0057】
比較例2でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、185℃、45秒間プレセットした。
【0058】
比較例3でのプレセット: 幅出し率15%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0059】
比較例4でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、伸長率10%(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率10%)で、190℃、45秒間プレセットした。
【0060】
比較例5でのプレセット: 幅出し率30%(精練後の布帛幅に対して30%幅出し率)、有長(精練後の布帛長さと同じ長さ:伸長率0%)で、195℃、45秒間プレセットした。
【0061】
得られた混用染色トリコット編地にはポリウレタン繊維切れが多くみられ、また、均染性に劣るものであった。特に油汚れ部分や金属分を付着させた部分においてポリウレタン繊維切れや染め斑が特に多くみられた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明法は、ポリエステル繊維とポリウレタン繊維とが混用された布帛を染色処理する場合に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛を精練処理した後に染色処理を行ない混用染色布帛を製造する方法において、界面活性剤と金属イオン封鎖剤とを含有する処理用水でもって精練処理を行うことを特徴とするポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法。
【請求項2】
精練処理を連続的に行ない、かつ、処理液中の金属イオン封鎖剤は精練処理時に全量は消費されず、回収した処理用水中に未反応の金属イオン封鎖剤が残存する量で金属イオン封鎖剤を処理液中に配合することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用布帛を精練処理した後、温度190℃以下、時間60秒以内の条件でプレセットし、その後、染色処理し、仕上げ加工することを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法。
【請求項4】
プレセットする際の幅出し率を、精練後の布帛幅に対して40%以内とすることを特徴とする請求項3に記載のポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法。
【請求項5】
プレセットする際の伸長率を、精練後の布帛長さに対して5%以内とすることを特徴とする請求項3に記載のポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された方法で製造されたポリエステル繊維とポリウレタン繊維との混用染色布帛。

【公開番号】特開2006−97172(P2006−97172A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283666(P2004−283666)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(502179282)オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】