説明

ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム

【課題】フィルムや繊維などの成形品にしたときに実用に耐えうる平滑な表面を有し、かつヤング率を高められるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の提供。
【解決手段】平均直径(D)が0.01〜1.0μm、平均長さ(L)が0.1〜10μmおよび平均アスペクト比(L/D)が4〜50の針状ケイ酸カルシウム粒子が、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物の重量を基準として、0.1〜20重量%分散されたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、高ヤング率のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムやポリエチレン−2,6−ナフタレート繊維を得ることができるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびそれを用いたポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂は、優れた成形性と機械特性とを有することから、ポリエステルフィルムやポリエステル繊維等に用いられている。
【0003】
これらのうち、ポリエステルフィルムは、磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。磁気記録媒体のベースフィルムには、例えばデータストレージなどで磁気記録媒体を薄膜化して、同一容積中の磁気記録媒体の長さを長尺化できることと、記録密度をより高密度化できることが要求されている。この要求を満たすには、ベースフィルムに高いヤング率と優れた表面平坦性を具備させる必要がある。また、高ヤング率は、ポリエステル繊維に対しても要求される。
【0004】
ポリエステル樹脂の強度や寸法安定性を向上させる方法として、繊維状ワラステナイトおよび板状充填材を配合したポリエステル樹脂組成物が提案されている(特開平6−128466号公報)。また、ポリアルキレンテレフタレートに特定の繊維長を有するガラス繊維を高割合で配合したポリエステル組成物が提案されている(特開平1−144452号公報)。
【0005】
しかしながら、これらのポリエステル樹脂から得られるポリエステルフィルムは、その表面が粗らく、磁気記録媒体などの平坦性が求められるベースフィルムには使用できなかった。また、これらのポリエステル樹脂をポリエステル繊維の製造に用いると、紡糸の際に断糸が多発するなどの問題もあった。
【0006】
この他、カーボンナノチューブを含有させたポリエステル樹脂も提案されている(特開2003−82202号公報)が、やはり得られるフィルムの表面が粗かったり、また、紡糸の際に断糸が多発するなどの問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平6−128466号公報
【特許文献2】特開平1−144452号公報
【特許文献3】特開2003−82202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題を解消し、得られるフィルムや繊維などの成形品に、高ヤング率と表面平坦性を具備させることができるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の問題を解決するため研究を重ねた結果、ポリエチレン−2,6−ナフタレートに特定形状のケイ酸カルシウム粒子を特定割合で配合することにより課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
上記課題を解決する本発明は以下に記載するものである。
【0010】
〔1〕 ケイ酸カルシウム粒子を0.1〜20重量%含有するポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物であって、該ケイ酸カルシウム粒子が平均直径(D)0.01〜1.0μm、平均長さ(L)0.1〜10μmおよび平均アスペクト比(L/D)4〜50の針状ケイ酸カルシウム粒子であり、且つ、示差走査熱量計により測定されるポリエステル樹脂組成物の昇温結晶化温度(Tci)が160〜195℃であるポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物。
【0011】
〔2〕 ケイ酸カルシウム粒子が、ゾノトライト粒子である〔1〕に記載のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物。
【0012】
〔3〕 〔1〕に記載のポリエステル樹脂組成物からおよびなる二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。
【0013】
〔4〕 少なくともフィルムの製膜方向および幅方向のいずれか一方のヤング率が6〜20GPaの範囲にある〔3〕に記載の二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。
【0014】
〔5〕 厚みが2〜10μmである〔3〕または〔4〕に記載の二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物は、それを用いてフィルムや繊維等を成形することにより、表面平坦性に優れ、高ヤング率の成形品が得られる。特に、本発明のポリエステル樹脂組成物から、表面平坦性と高ヤング率を具備する二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができ、その工業的価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物]
本発明のポリエチレン−2,6−ナフタレート(以下PENと称することがある。)樹脂組成物は、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とするPENとケイ酸カルシウム粒子とを含み、PEN樹脂組成物中のケイ酸カルシウム粒子の含有割合が0.1〜20重量%である。ケイ酸カルシウム粒子を上記割合でPEN樹脂組成物に含有させることにより、PEN樹脂組成物を用いて得られるPEN成形品のヤング率と表面平滑性を優れたものにすることができる。
【0017】
PEN樹脂組成物中のPENの含有割合は、80〜99.9重量%の範囲である。PEN樹脂組成物の構成成分としては、PENとケイ酸カルシウム粒子のみであっても良いが、PENとケイ酸カルシウム粒子の含有割合が上記の範囲であり、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、後述する添加剤等が含まれていても良い。
【0018】
また、本発明のPEN樹脂組成物の示差走査熱量計(DSC)により測定される昇温結晶化温度(Tci)は、160〜195℃であることが必要である。上記Tciは、PEN樹脂組成物をDSCにて20℃から昇温速度20℃/minで300℃まで昇温させた後20℃まで急冷し、更に5℃/minで300℃まで昇温させた際に観察される昇温結晶化ピーク温度(単位:℃)である。
【0019】
Tciが前記範囲を外れると、従来のPEN樹脂組成物のように結晶化が遅かったり、あるいは結晶化が過度に速すぎるため、針状ケイ酸カルシウム粒子によるヤング率向上効果が乏しくなったり、寸法安定性が低下したり、さらには表面の平坦性が損なわれたりする。Tciを前記範囲にするには、針状ケイ酸カルシウム粒子をPEN樹脂組成物に含有させ、かつその添加量や形状によって調整することが有効である。
【0020】
[PEN]
本発明におけるPENは、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とする。このPENは、エチレン−2,6−ナフタレートの単独重合体であってもよく、エチレン−2,6−ナフタレートを構成する成分以外の成分が、本発明の効果を損なわない範囲で、20モル%以下の割合で共重合されたエチレン−2,6−ナフタレート共重合体であっても良い。
【0021】
本発明におけるPENは、全ジカルボン酸成分の80モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールからなる。PENは、全ジカルボン酸成分の85モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の85モル%以上がエチレングリコールからなることが更に好ましい。更に、全ジカルボン酸成分の90モル%以上が2,6−ナフタレンジカルボン酸、全グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなることが特に好ましい。
【0022】
PENが共重合体の場合、共重合成分は、ジカルボン酸成分として例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムジカルボン酸を、またグリコール成分として例えば、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。なお、これらの共重合成分は1種のみでなく2種以上を併用してもよい。これら共重合成分は全ジカルボン酸成分の20モル%未満、および/または全ジオール成分の20モル%未満の範囲で使用される。
【0023】
本発明におけるPENの固有粘度は、オルトクロロフェノール溶媒下、35℃で0.4dl/g〜0.8dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.5dl/g〜0.7dl/gである。固有粘度が0.4dl/g未満の場合は、本発明のPEN樹脂組成物をフィルムに製膜後、各製品に使用する際に要求される機械強度が不足することがある。他方、固有粘度が0.8dl/gを超える場合は、溶融重合工程およびフィルム製膜工程における溶融混練時の生産性が損なわれることがある。
【0024】
なお、本発明のPEN樹脂組成物には、フィルムを製造する際にフィルムの巻取り性やフィルムの搬送性等を良くするため、滑剤として有機または無機の不活性粒子を含有させることができる。
【0025】
[針状ケイ酸カルシウム粒子]
本発明においては、フィルムや繊維等の成形品のヤング率を高めるため、また成形品の表面を平滑にするため、PEN樹脂組成物中に針状ケイ酸カルシウム粒子を配合する。
【0026】
本発明者らの研究によると、特定の針状ケイ酸カルシウム粒子をPEN中に分散させ、それを二軸方向に延伸したフィルムや、一軸方向に延伸した繊維は、驚くべきことに、針状ケイ酸カルシウム粒子を分散させなかったPENからなるフィルムや繊維に比べ、同一製膜または製糸条件において、より高い強度を示すことが判明した。
【0027】
上記の効果を発現させるためには、以下に述べる特定な形状のケイ酸カルシウム粒子を特定の割合で配合することが必要である。
【0028】
すなわち、本発明におけるケイ酸カルシウム粒子は、平均直径(D)が0.01〜1.0μm、平均長さ(L)が0.01〜10μm、平均アスペクト比(L/D)が4〜50の針状ケイ酸カルシウム粒子であることが必要である。また、針状ケイ酸カルシウム粒子のPEN樹脂組成物中の割合は0.1〜20重量%であることが必要である。なお、ここでいうPEN樹脂組成物中の割合とは、成形品が単層フィルムの場合、フィルム全体を構成するPEN樹脂組成物中の割合を意味し、成形品が2層以上の層からなる積層フィルムの場合、針状ケイ酸カルシウム粒子を含有する層を構成するPEN樹脂組成物中の割合を意味する。
【0029】
針状ケイ酸カルシウム粒子の平均直径(D)が下限未満であると、成形品の十分なヤング率向上は発現できない。一方、平均直径(D)が上限を超えると、フィルム表面が粗面化し、磁気記録媒体にしたとき、磁気記録媒体の電磁変換特性が低下する。上記理由により、針状ケイ酸カルシウム粒子の平均直径(D)は、0.01〜0.5μm、特にフィルムに用いる場合、0.01〜0.1μmの範囲であることが好ましい。
【0030】
針状ケイ酸カルシウム粒子の平均長さ(L)が下限未満であると成形品の十分なヤング率向上は発現できない。一方、平均長さ(L)が上限を超えると、フィルム表面が粗面化し、磁気記録媒体にしたとき、電磁変換特性が低下する。上記理由により針状ケイ酸カルシウム粒子の平均長さ(L)は、0.01〜5μmであることが好ましい。
【0031】
なお、本発明のPEN樹脂組成物をPENフィルムの製造に用いる場合は、針状ケイ酸カルシウム粒子の平均長さ(L)が、0.01〜3μm、特に0.01〜1.0μmの範囲であることが特に好ましい。
【0032】
針状ケイ酸カルシウム粒子の平均アスペクト比(L/D)が下限未満であると成形品の十分なヤング率向上は発現できない。一方、平均アスペクト比(L/D)が上限を超えると針状ケイ酸カルシウム粒子の分散が不均一になり易く、成形品の十分なヤング率向上は発現できない。上記理由により、針状ケイ酸カルシウム粒子の平均アスペクト比(L/D)は、4〜30、特に4〜20の範囲であることが好ましい。
【0033】
なお、PEN樹脂組成物中の針状ケイ酸カルシウム粒子の添加量が下限未満であるとフィルムや繊維等の成形品の十分なヤング率向上は発現できない。一方、添加量が上限を超えると、針状ケイ酸カルシウム粒子による効果が飽和状態になる。更に、製膜や製糸工程が不安定化になる。上記理由により、PEN樹脂組成物中の針状ケイ酸カルシウム粒子の含有割合は、0.1〜10重量%、特に0.1〜5重量%の範囲であることが好ましい。
【0034】
針状ケイ酸カルシウム粒子は、前記の特性を満足するものであれば特に限定はされないが、ゾノトライト粒子であることが本発明の効果を発現しやすいことから好ましい。
【0035】
このように、本発明のPEN樹脂組成物は、二軸配向PENフィルムや配向PEN繊維に有利に適用できる。即ち、針状ケイ酸カルシウム粒子の形状を本発明の範囲内で選択し、かつ延伸することによって、成形品の強度や寸法安定性をより高度に発現できる。
【0036】
[PEN樹脂組成物の製造方法]
本発明のPEN樹脂組成物は、溶融状態のPEN中に、前記形状の針状ケイ酸カルシウム粒子をPEN樹脂組成物中の含有割合が0.1〜20重量%となるよう分散させることにより得ることができる。
【0037】
針状ケイ酸カルシウム粒子をPENに分散含有させる方法は、例えば、針状ケイ酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に分散させたスラリーとしてPEN製造工程中で添加する方法、単軸や二軸の混練押出機を用いて、重縮合して得られたPENに、直接針状ケイ酸カルシウム粒子を添加し混練分散させる方法、前記いずれかの方法で高濃度の針状ケイ酸カルシウム粒子含有PENを作成し、単軸や二軸の混練押出機を用いて粒子を含有しないPENと混合・混練し、任意の濃度のPEN樹脂組成物を得る方法等を好ましく用いることができる。このとき、針状ケイ酸カルシウム粒子の分散性を高めるために、ホモゲナイズやサンドグラインダーなどの分散処理と、濾過フィルターによる濾過とを併用することが好ましい。
【0038】
特に好ましくは、針状ケイ酸カルシウム粒子を均一に分散できることから、高濃度の針状ケイ酸カルシウム粒子含有PENを単軸や二軸の混練押出機を用いて粒子を含有しないPENと混合混練し任意の濃度のPEN樹脂組成物を得る方法である。
【0039】
[二軸配向PENフィルム]
本発明の二軸配向PENフィルムは、本発明のPEN樹脂組成物からなり、製膜方向(以下、縦方向と称することがある。)およおよびそれに直交する面内方向(以下、幅方向または横方向と称することがある。)の二軸方向に配向されたPENフィルムである。二軸方向に配向されていないと、針状珪酸カルシウム粒子によるヤング率向上効果が発現されない。
【0040】
本発明の二軸配向PENフィルムは、フィルムを構成するPEN樹脂組成物中に針状ケイ酸カルシウム粒子を0.1〜20重量%の割合で含有する。針状ケイ酸カルシウム粒子はフィルム全体に含有されていてもよいが、フィルムが2層以上の積層フィルムである場合、少なくともその内の1つの層が針状ケイ酸カルシウム粒子を含有していればよい。例えば、針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しない層と針状ケイ酸カルシウム粒子を含有する層(針状ケイ酸カルシウム粒子含有層)との2層構造、針状ケイ酸カルシウム含有層とその両表面に針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しない層が積層された3層構造、針状ケイ酸カルシウム粒子含有層が針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しない層の両表面に積層された3層構造、およびこれらの層構造に、さらに針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しない層または針状ケイ酸カルシウム粒子含有層を設ける3層以上の層構造を挙げることができる。
【0041】
本発明の二軸配向PENフィルムを磁気記録媒体のベースフィルとして用いる場合、フィルムの少なくとも片方の露出面の表面粗さ(Ra)が0.1〜10nmであることが好ましい。表面粗さが上限を越えると、該表面に磁性層を設けて磁気テープとしたときに、磁性層面が粗化し、電磁変換特性が低下するので好ましくない。一方、表面粗さが下限未満の場合、フィルム−フィルム間の滑り性が低下し、フィルムの巻取り性が悪化するので好ましくない。この表面粗さは、上記理由により0.5〜5nmであることが更に好ましい。
【0042】
このような表面粗さを本発明の二軸配向PENフィルムに具備させる手段としては、二軸配向PENフィルムに含有させる針状ケイ酸カルシウム粒子の種類、形状、サイズおよび添加量を調整する他に、更に不活性粒子を添加し、その不活性粒子の種類、形状、サイズおよび添加量によっても調整できる。また、本発明の二軸配向PENフィルムの少なくとも一方の表面に、微細凹凸を形成する表面処理、例えば易滑塗剤のコーティング処理によっても調整できる。不活性微粒子としては、例えば周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機微粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等)、シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン等の如き耐熱性の高い高分子よりなる微粒子等を挙げることができる。
【0043】
不活性微粒子を二軸配向PENフィルムに含有させる場合、微粒子の平均粒径は0.05〜1.0μm、更には0.1〜0.8μmであることが好ましい。また、不活性微粒子の含有量は、二軸配向PENフィルムを構成するPEN樹脂組成物の重量を基準として、に0.05〜0.5重量%、更には0.1〜0.3重量%であることが好ましい。また、不活性粒子は、種類、形状或はサイズの異なる2種類以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の二軸配向PENフィルムは、製膜方向(縦方向)および幅方向(横方向)のいずれか一方のヤング率が6GPa以上であることが好ましい。縦方向および横方向のヤング率がいずれもが下限未満であると、例えば二軸配向PENフィルムを磁気記録媒体用テープのベースフィルムに用いたときに、張力変化や温度・湿度の変化によって寸法安定性が損なわれ、トラックずれなどの問題が発生し易くなる。また、針状ケイ酸カルシウム粒子を添加したことによる効果も発現し難くなる。上記理由で、二軸配向PENフィルムのいずれか一方のヤング率は、8GPa以上であることが更に好ましく、10GPa以上であることが特に好ましい。
【0045】
また、二軸配向PENフィルムの縦方向のヤング率が6GPa以上、更に8GPa以上、特に10GPa以上であると、磁気テープにしたときの長手方向の張力変化による幅方向の寸法変化が抑制できることから好ましい。一方、横方向のヤング率は、6GPa以上、更に8GPa以上、特に10GPa以上であることが、温湿度変化によるテープの幅方向の寸法変化を抑制できることから好ましい。
【0046】
なお、縦方向および横方向のヤング率の上限は特に制限されないが、通常20GPa以下であることが、直交する方向にも十分なヤング率を付与できることから好ましい。
【0047】
また、PENフィルムの縦方向と横方向のヤング率の和は12GPa以上、更に15GPa以上、特に17GPa以上であることが好ましい。このような高ヤング率は、針状ケイ酸カルシウム粒子の添加により、従来の針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しないフィルムに比べ、より低倍率の延伸で得ることができる。なおなお、縦方向および横方向のヤング率の和の上限は特に制限されないが、通常は高々30GPaである。
【0048】
本発明のPENフィルムの厚みは、使用する用途によって適宜調整されるが、磁気記録媒体用テープのベースフィルムに使用する場合は、2〜10μm、更に3〜8μm、特に4〜6μmであることが好ましい。厚みが下限未満であるとテープ強度が不足し、走行開始時の張力などでテープ幅収縮が生じること、トラックと磁気ヘッドのズレを生じることなどにより記録の再生エラーが避けられない。また、厚みが上記の上限を超えると、カートリッジに収納するテープ長さが短くなり、所望の記憶容量が得られなくなる。
【0049】
[二軸配向PENフィルムの製法]
本発明の二軸配向PENフィルムは、例えば以下のような方法に準じて製造することができる。
【0050】
先ず、針状ケイ酸カルシウム粒子を高濃度含有するPEN樹脂組成物のペレットと針状ケイ酸カルシウム粒子を含有しないPEN樹脂組成物のペレットとを所定の割合で混合し、乾燥後、例えば、溶融温度280℃〜330℃で押出機よりTダイを経てフィルム状に押出し、冷却ドラム上に流延し冷却固化させて未延伸フィルムを作成する。この未延伸フィルムを縦方向に100〜170℃の温度で3〜8倍の倍率で延伸し、次いで横方向に115〜180℃の温度で3〜7倍の倍率で延伸して二軸配向PENフィルムを得ることができる。なお、必要に応じて縦方向および/または横方向の延伸を2段階以上に分割実施してもよい(縦多段延伸、縦−横−縦の3段延伸、縦−横−縦−横の4段延伸等)。また同時二軸延伸にて実施してもよい。二軸配向PENフィルムを製造する際の全延伸倍率は、面積延伸倍率として10〜60倍、更には20〜50倍が好ましい。また二軸配向PENフィルムは二軸延伸後、更に180〜250℃の温度で熱固定することが好ましく、特に200〜230℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0051】
また、本発明の二軸配向PENフィルムが積層フィルムの場合は、2台の押出機を用い、少なくとも1台には針状ケイ酸カルシウム粒子を含有するペレットを送って溶融し、2層または多層ダイから積層フィルムとして押出し、積層未延伸フィルムを作成する。更に、この積層未延伸フィルムを、上記単層の二軸配向PENフィルムの場合と同様な操作を行って二軸配向積層PENフィルムを製造できる。
【0052】
[磁気記録媒体]
本発明の二軸配向PENフィルムは、優れたヤング率、寸法安定性、平担性、滑り性、巻取り性等を有する。このような特性を有するので、本発明のPENフィルムは高密度磁気記録媒体のベースフィルム、特にディジタル記録型磁気機記録媒体のベースフィルムとして好ましく用いられる。
【0053】
本発明の二軸配向PENフィルムをベースフィルムに用いた磁気記録媒体は、例えば、下記の方法により得ることができる。本発明の二軸配向PENフィルムの片側表面(積層の場合は平坦側表面)に、磁性層を形成させ、或は真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の方法により、鉄、コバルト、クロムまたはこれらを主成分とする合金もしくは酸化物より成る強磁性金属薄膜層を形成させ、また、その表面に、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、更に磁性層と反対側の表面にバックコート層を設けることにより磁気記録媒体を作成することができる。
【0054】
[PEN繊維]
本発明のPEN樹脂組成物を用いてPEN繊維を製造する場合、製造方法はそれ自体公知のものを適宜採用できるが、針状珪酸カルシウムによるヤング率向上効果を発現させるために、一軸方向(紡糸方向)に分子配向させることが必要である。一軸方向(紡糸方向)に分子配向させるには、紡糸速度を速めたり、延伸処理することが有効である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。
【0056】
(1)ヤング率
東洋ボールドウイン(株)の引張試験機「テンシロン」を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において、フィルムを製膜方向および幅方向に沿って試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分でフィルムの製膜方向および幅方向に引張り、得られる荷重−伸び曲線の立ち上り部の接線より、フィルムの製膜方向および幅方向のヤング率をそれぞれ計算する。
【0057】
(2)針状ケイ酸カルシウム粒子の平均直径、平均長さ
PEN樹脂組成物中の針状ケイ酸カルシウム粒子の直径および長さを透過電子顕微鏡(TEM)で観察し、それぞれ100個の針状ケイ酸カルシウム粒子の測定結果を平均して求める。
【0058】
(3)不活性粒子の平均粒径
島津製作所製CP−50型セントリフュグルパーティクルサイズアナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線をもとに算出する各粒径の粒径とその存在量との累積曲線から、50マスパーセント(mass percent)に相当する粒径を読み取り、この値を上記平均粒径とする。
【0059】
(4)フィルムの表面粗さ(中心線平均粗さ:Ra)
中心線平均粗さ(Ra)はJIS−B601に準じて測定する。本発明では(株)小坂研究所の触針式表面粗さ計(SURFCORDER SE,30C)を用い、次の条件で測定して求める。
(a)触針先端半径:2μm
(b)測定圧力 :30mg
(c)カットオフ :0.08mm
(d)測定長 :8.0mm
(e)データのまとめ方:同一試料について6回繰り返し測定し、最も大きい値を1つ除き、残り5つのデータを用いて平均値として中心線平均粗さ(Ra)を求める。この中心線表面粗さ(Ra)が10nmを超えるものは表面が粗すぎるため、磁気記録媒体としての使用は不可能と判定する。
【0060】
(5)固有粘度
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した値である。単位はdl/gである。
【0061】
(6)昇温結晶化温度(Tci)
サンプル10mgを示差走査熱量計(TA社製、Thermal Analyst2200型)に装着し、このサンプルを昇温速度20℃/minで300℃まで昇温させ、その後、20℃まで急冷することで非晶サンプルを得る。この非晶サンプルを用い、5℃/minで300℃まで昇温した際に観察される結晶化発熱ピークを昇温結晶化温度(Tci、単位℃)とする。
【0062】
[実施例1]
平均直径0.05μm、平均長さ0.4μmの針状ケイ酸カルシウム粒子(ゾノトライト粒子)を3.0重量%含有した固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.60のポリエチレン−2,6−ナフタレートを180℃で5時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給し、300℃で溶融し、T型押出ダイを用いて、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物からなる未延伸フィルムを得た。
【0063】
この未延伸フィルムを120℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して縦方向に5.4倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて横方向に4.8倍延伸した。更に引き続いて225℃で3秒間熱固定し、厚み4.5μmの二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを得た。
得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
固有粘度0.60のポリエチレン−2,6−ナフタレートに、平均直径0.05μm、平均長さ0.4μmの針状ケイ酸カルシウム粒子(ゾノトライト粒子)を3.0重量%含有させたA層用ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物、固有粘度0.60のポリエチレン−2,6−ナフタレートに平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.01重量%含有させたB層用ポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物をそれぞれ180℃で5時間乾燥した後、別々の押出機ホッパーに供給し、それぞれ溶融温度300℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出しダイを用いてA層とB層を積層し、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、積層未延伸フィルムを得た。各層の厚みは、A層が60%、B層が40%である。
【0065】
このようにして得られた積層未延伸フィルムを120℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱して縦方向に5.9倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて横方向に4.5倍、更に170℃にて横方向に1.15倍に延伸し、トータル横方向に5.2倍延伸した。更に引き続いて225℃で3秒間熱固定し、厚み4.5μmの積層二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを得た。
得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。
【0066】
[実施例3〜5]
針状ケイ酸カルシウム粒子およびその添加量を表1に示すとおり変更する以外は、実施例1と同様にポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。
【0067】
[比較例1]
針状ケイ酸カルシウム粒子を添加せず、平均粒径0.6μmの炭酸カルシウム粒子を0.02重量%、平均粒径0.1μmのシリカ粒子を0.2重量%含有したポリエチレン−2,6−ナフタレートを180℃で5時間乾燥した後、押出機ホッパーに供給した以外は実施例1と同様にしてポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および厚み4.5μmの二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。
【0068】
[比較例2〜4および実施例6]
針状ケイ酸カルシウム粒子を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および厚み4.5μmの二軸配向フィルムを得た。得られたポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物および二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルムの特性を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1中のPENはポリエチレン−2,6−ナフタレートを示し、含有量は樹脂組成物中の粒子含有量を示す。なお、炭酸カルシウムおよびシリカの直径は平均粒径を示し、形状はほぼ球形であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸カルシウム粒子を0.1〜20重量%含有するポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物であって、
該ケイ酸カルシウム粒子が平均直径(D)0.01〜1.0μm、平均長さ(L)0.1〜10μmおよび平均アスペクト比(L/D)4〜50の針状ケイ酸カルシウム粒子であり、且つ、示差走査熱量計により測定されるポリエステル樹脂組成物の昇温結晶化温度(Tci)が160〜195℃の範囲にあることを特徴とするポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
ケイ酸カルシウム粒子が、ゾノトライト粒子である請求項1に記載のポリポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のポリポリエチレン−2,6−ナフタレート樹脂組成物からおよびなる二軸配向ポリポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。
【請求項4】
少なくともフィルムの製膜方向および幅方向のいずれか一方のヤング率が6〜20GPaの範囲にある請求項3に記載の二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。
【請求項5】
厚みが2〜10μmである請求項3またはまたは4のいずれかに記載のポリエチレン−2,6−ナフタレートフィルム。

【公開番号】特開2006−1991(P2006−1991A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178095(P2004−178095)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】