説明

ポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含むタイヤ

【課題】高い寸法安定性を有することにより、乗車感を向上させることができる、ポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含む空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】本発明によるポリエチレンテレフタレートタイヤコードは、下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下のタイヤコードである。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L−L)/L×100
(上記計算式1において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含む空気入りタイヤに関する。より詳細には、本発明は、高い寸法安定性を有することにより、乗車感を向上させることができる、ポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、繊維−スチール−ゴム複合体であり、図1に示すような構造からなるのが一般的である。すなわち、スチールおよび繊維コードは、ゴムを補強する役割を果たし、タイヤ内で基本骨格構造を形成する。つまり、人体で言うならば、いわば骨のような役割を果たす。
タイヤ補強材としてコードに求められる性能は、耐疲労性、剪断強度、耐久性、反発弾性、およびゴムとの接着力などである。このため、タイヤに求められる性能に応じて適切な素材のコードを採用する。
【0003】
現在、一般的に用いられているコード用素材としては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、スチール、およびアラミドなどがあり、レーヨンおよびポリエステルは主にボディープライ(body ply)(あるいは「カーカス(carcass)」ともいう)(図1の「6」)に、ナイロンは主にキャッププライ(cap ply)(図1の「4」)に、スチールおよびアラミドは主にタイヤベルト部(図1の「5」)にそれぞれ使用される。
【0004】
それでは、図1に示したタイヤの構造およびその特性を簡単に説明する。
トレッド(tread)1:路面と接触する部分であって、制動および駆動に必要な摩擦力を与えるとともに、耐摩耗性が良好で、外部の衝撃に耐えて、発熱が少なくなければならない。
ボディープライ(あるいはカーカス)6:タイヤ内のコード層であって、荷重を支持して、耐衝撃性、走行中の屈伸運動に対する耐疲労性が強くなければならない。
【0005】
ベルト(belt)5:ボディープライの間に位置しており、主に鋼線(steel wire)からなって、外部の衝撃を緩和させるのはもちろん、トレッドの接地面を広く維持して、走行安定性を向上させる。
サイドウォール(side wall)3:ショルダー2の下部からビード9までの間のゴム層をいい、内部のボディープライ6を保護する役割を果たす。
【0006】
ビード(bead)9:鋼線にゴムを被覆した四角形状または六角形状のワイヤバンドル(wire bundle)であって、タイヤをリム(rim)に載置して固定する役割を果たす。
インナーライナー(inner liner)7:チューブの代わりにタイヤの内側に位置して、空気漏れを防止して、空気入りタイヤを可能にする。
【0007】
キャッププライ4:一部の乗用車用ラジアルタイヤのベルト上に位置する特殊コードファブリックであって、走行時のベルトの動きを最小化する。
アペックス(apex)8:ビードの分散を最小化し、外部の衝撃を緩和することにより、ビードを保護して、成形時に空気の流入を防止するために用いられる三角形状のゴム充填材である。
【0008】
最近、乗用車の高級化に伴い、高速走行に適したタイヤの開発が求められており、これにより、タイヤの高速走行安定性および高耐久性が非常に重要な特性として認識されている。また、前記特性を満たすためには、キャッププライ用コードの素材の性能が重要であると認識されている。さらに、タイヤ内のボディープライ、すなわちカーカスは、自動車の全体的な荷重を支持して、タイヤの形状を維持する核心的な補強材であるため、このボディープライ用コードの素材の性能も同じく重要であると認識されている。
【0009】
まず、キャッププライは、タイヤ内でスチールベルトの動きを最小化する役割を果たす。より具体的には、タイヤ内に存在するスチールベルトは、一般的に斜線方向に配置されているが、高速走行時には、このスチールベルトが遠心力によって円周方向に動く傾向があり、この時に、とがったスチールベルトの終端部分がゴムの切断やクラックを発生させ、ベルト層間の分離やタイヤの形態変形をもたらす恐れがある。キャッププライは、このようなスチールベルトの動きを抑制することによって、層間の分離やタイヤの形態変形を抑制し、高速耐久性および走行安定性を増進させる。
【0010】
一般的なキャッププライ用コードには、主にナイロン66コードが適用されている。しかし、前記ナイロン66コードの場合、180℃の硬化温度で高い収縮力を発現することにより、スチールベルトを囲んでベルトの動きを抑制する効果を示すが、モジュラス(modulus)および寸法安定性が低いため、車両の走行および停車過程で発生するタイヤ内の急激な温度変化やタイヤおよび自動車の自重などによって部分的な変形が生じることがあり、これにより、走行中にがたついて乗車感を低下させることがある。
【0011】
一方、ボディープライは、自動車の全体的な荷重を支持して、タイヤの形状を維持する役割を果たす。このボディープライ用コードには、再生繊維であるビスコースレーヨンまたはナイロンが主に適用されており、最近では、ポリエステル系素材を適用することが検討されたり、試みられたりしている。特に、ポリエステル系素材からなるタイヤコードの場合、ビスコースレーヨンなどに比べて高い価格競争力を有するだけでなく、強力な力によりタイヤの耐久性を向上させることができるという点から、ボディープライなどへの適用が多角的に検討されている。
【0012】
しかし、前記ナイロンまたはポリエステル系素材などからなるタイヤコードの場合、ビスコースレーヨンなどのセルロース系タイヤコードに比べて熱による寸法安定性が低い。そのため、前記ナイロンまたはポリエステル系タイヤコードをボディープライに適用した場合、タイヤの形態変形が非常に大きくなることがあり、タイヤの形状の均一性を維持するのが非常に困難になる。特に、車両の走行および停車過程で発生する温度や荷重などの変化により、ボディープライまたはタイヤの形態変形がさらに大きくなって、タイヤの性能に多大な悪影響を及ぼしかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、高い寸法安定性を有することにより、キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどに好適に使用可能で、乗車感を向上させることができる、ポリエチレンテレフタレートタイヤコードを提供することを目的とする。
また、本発明は、前記タイヤコードを含み、変形が生じにくく、乗車感を向上させることができる、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下であるポリエチレンテレフタレートタイヤコードを提供する。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L−L)/L×100
(上記の計算式1において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。)
また、本発明は、前記タイヤコードを含む空気入りタイヤを提供する。
【0015】
以下、本発明の具体的な実施例によるポリエチレンテレフタレートタイヤコードおよびこれを含むタイヤについてより詳細に説明する。ただし、これは本発明の一実施例を示すものであって、これにより本発明の権利範囲が限定されるものではなく、本発明の権利範囲内で実施例の多様な変形が可能であることは、当業者に自明である。
また、本明細書全体において、特別な言及がない限り、「含む」または「含有する」という用語は、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なく含むことを表し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除外するものと解釈されない。
【0016】
本発明の一実施例により、ポリエチレンテレフタレート(poly(ethyleneterephthalate))(以下、「PET」という)タイヤコードが提供される。このPETタイヤコードは、下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下のタイヤコードである。より具体的には、前記PETタイヤコードは、フラットスポット指数が1.0〜5.0%であり、2.0〜4.0%であるのが好ましい。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L−L)/L×100
上記計算式1において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。
【0017】
タイヤは、車両の走行中に、高温、膨張、または高圧状態などにさらされ、タイヤコード(例えば、キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなど)に高い荷重がかかるため、前記コードが変形することがある。これに対し、駐車時には、このように変形した状態で冷えて、タイヤの地面との接地部分に位置するコードと、残りの部分に位置するコードとで受ける張力が異なる。つまり、タイヤの地面との接地部分に位置するコードには、車両やタイヤの自重により継続して高い荷重がかかるため、走行時に発生した形態変形が元の状態に回復せず、残りの部分に位置するコードは、荷重の解消により形態変形が回復するため、これら両部分のタイヤコード間で形態変形の差が発生することがある(いわゆる「フラットスポット」現象)。
【0018】
このようなフラットスポット現象により、車両を駐車した後に再び走行させると、車両ががたつくことがあり、これにより乗車感が低下する。
しかし、本発明の一実施例によるPETタイヤコードは、上記計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下であり、これは、走行中の車両を駐車した時に、走行時に発生した形態変形が回復しないタイヤの接地部分におけるタイヤコードの長さLと、形態変形が回復した残りの部分におけるタイヤコードの長さLとで大差がないことを意味する。したがって、このタイヤコードを用いる場合には、これら両部分のタイヤコード間で形態変形の差が大きくないため、車両を駐車した後に再び走行させた時に、乗車感に影響を与えるほど車両ががたついたりすることがない。
【0019】
これに対し、前記フラットスポット指数が5.0%を超えるタイヤコードを用いると、車両を駐車した後に再び走行させた時に、上述したフラットスポット現象の影響により、車両ががたついて乗車感が低下することがある。
したがって、本発明の一実施例によるタイヤコードは、高い寸法安定性を有することにより、フラットスポット現象による車両のがたつきを抑制し、乗車感を向上させることができて、空気入りタイヤのキャッププライ用コードなどに非常に好適に使用可能である。
【0020】
これに加えて、本発明の一実施例によるタイヤコードは、上述した高い寸法安定性を有し、さらに、既知のナイロンまたは他のポリエステル系タイヤコードに比べても非常に優れた寸法安定性を有する。特に、このようなタイヤコードは、低いフラットスポット指数を示すことからもわかるように、非常に重い荷重がかかった状態や、熱または荷重などの急激な変化によっても、形態変形がほとんど生じない優れた寸法安定性を示す。したがって、このようなタイヤコードは、自動車の全体的な荷重を支持しながらも、形態変形がほとんど生じることなく、タイヤの形状の均一性を維持することができる。そのため、本発明の一実施例によるタイヤコードは、空気入りタイヤのボディープライ用などにも好適に使用され、かつて使用されていたビスコースレーヨンに相応するか、それよりも優れた性能を示すことができるため、タイヤの性能の向上または経済性に大きく寄与することができる。
【0021】
一方、本発明の一実施例によるPETタイヤコードは、下記の計算式2で定義される長さ変形率が3.0%以下となる。
[計算式2]
長さ変形率(%)=(L−L)/L×100
上記計算式2において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。
【0022】
このようなPETタイヤコードは、高温および高荷重の状態でも形態変形がほとんどなく、タイヤの優れた走行性能を維持する。特に、車両を駐車した後に再び高速走行させることによって前記タイヤコードに高い荷重がかかった場合でも、前記PETタイヤコードは、3.0%以下の長さ変形が生じるだけで、形態変形はほとんど生じることがない。したがって、前記PETタイヤコードは、優れた寸法安定性を有することにより、タイヤの優れた高速走行性能を保障し、乗車感をさらに向上させることができる。そのため、前記PETタイヤコードは、キャッププライ用コードとして好適に使用可能で、上述した優れた寸法安定性によって車両の全体的な荷重を支持して、タイヤの形態を維持するボディープライ用コードなどとしても好適に使用可能である。
【0023】
一方、前記PETタイヤコードの形態は特に限定されず、通常のキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどと同等の形態を有することができる。より具体的には、前記PETタイヤコードは、通常のキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどの形態により、コードあたりの総繊度が1000〜5000デニール(d)、プライ数が1〜3、撚数が200〜500TPMであるディップコードの形態を有することができる。
【0024】
また、前記タイヤコードは、5〜8g/d、好ましくは5.5〜7g/dの強度、1.5〜5.0%、好ましくは2.0〜3.5%の荷重伸び(@4.5kg)、および10〜25%、好ましくは15〜25%の破断伸びを示すことができる。前記タイヤコードは、前記範囲の強度または伸び率などの諸物性を示すことにより、キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどに好適に使用可能である。
【0025】
そして、前記タイヤコードは、空気入りタイヤのキャッププライ用コードなどとして適用可能である。このようなタイヤコードをキャッププライ用コードとして適用したタイヤは、車両の走行速度が変化して、前記キャッププライ用コードにかかる荷重が大きく変化しても、前記キャッププライ用コードの優れた寸法安定性により、形態変形がほとんど生じることがないため、前記キャッププライ用コードおよびタイヤの形態変形による車両のがたつきを抑制することができる。したがって、前記タイヤは、車両の調整性または乗車感をさらに向上させることができる。また、前記タイヤコードは、キャッププライ用コードとして好適に使用可能な高い強度または伸び率などの諸物性を示すため、このようなキャッププライ用コードが適用されたタイヤは、安定した高速走行性能を示すことができる。
【0026】
また、前記タイヤコードは、上述した優れた寸法安定性を示すことにより、ボディープライ用コードとしても好適に使用可能である。このようなタイヤコードがボディープライ用コードとして適用されたタイヤは、車両の全体的な荷重を安定的に支持しつつ、走行中の温度や荷重の急激な変動下でも形態変形がほとんど生じることがなく、タイヤの形状の均一性を維持することができる。また、前記タイヤコードは、強度または伸び率などの物性も優れているため、このようなボディープライ用コードが適用されたタイヤは、優れた性能および経済性を有することができる。
【0027】
ただし、以上では、本発明の一実施例によるPETタイヤコードがキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードとして使用された場合を主に想定して説明したが、前記PETタイヤコードの用途はこれに限られず、他のタイヤコードまたはゴムベルトなど、その他のゴム製品の補強材などの他の用途にも使用できることはいうまでもない。
一方、前記PETタイヤコードは、PETを溶融紡糸して未延伸糸を製造し、前記未延伸糸を延伸して延伸糸を製造し、前記延伸糸を合撚糸した後、接着剤に浸漬する方法によって製造されて、ディップコード形態を帯びる。この時、これら各段階の具体的な条件や進行方法が最終的に製造されたタイヤコードの物性に直接・間接的に反映されて、上述した物性を示すPETタイヤコードが製造可能である。
特に、前記PETの溶融紡糸条件を調整することにより、結晶化度が25%以上で、非晶配向指数(Amorphous Orientation Factor)(以下、「AOF」という)が0.15以下であるポリエチレンテレフタレート未延伸糸を得て、これから所定の延伸条件下で延伸糸を製造して用いることにより、フラットスポット指数が非常に小さく、寸法安定性が優れた本発明の一実施例によるPETタイヤコードを製造することができることが明らかになった。
【0028】
PETは、基本的に、一部が結晶化された形態を帯びており、結晶領域と非結晶領域とからなる。しかし、調整された溶融紡糸条件下で得られた前記PET未延伸糸は、配向結晶化現象により、既知のPET未延伸糸に比べて結晶化度が高く、25%以上、好ましくは25〜40%の高い結晶化度を示す。このような高い結晶化度により、前記PET未延伸糸から製造されたPET延伸糸およびタイヤコードは、高いモジュラスなどを示すことができる。
【0029】
これとともに、前記PET未延伸糸は、既知のPET未延伸糸に比べてはるかに低い0.15以下、好ましくは0.08〜0.15の非晶配向指数を示す。ここで、非晶配向指数とは、未延伸糸内の非結晶領域に含まれているチェーンの配向程度を示すものであり、前記非結晶領域のチェーンのもつれが増加するほど、低い値を有する。一般的には、前記非晶配向指数が低くなると無秩序度が増加し、非結晶領域のチェーンが緊張した構造でなく弛緩した構造からなるため、未延伸糸から製造された延伸糸およびタイヤコードは低い収縮率を有するという利点がある一方で、低い収縮応力を有するという欠点も併せ持つ。しかし、調整された溶融紡糸条件下で得られた前記PET未延伸糸は、これをなす分子チェーンが紡糸工程中に滑ることにより、微細なネットワーク構造を形成して、単位体積あたりより多くの架橋結合を含む。このため、前記PET未延伸糸は、非晶配向指数が大きく低下しながらも、非結晶領域のチェーンが多くの架橋結合によって緊張した構造を形成することができ、これにより、発達した結晶構造および優れた配向特性を示す。
【0030】
したがって、このような高い結晶化度および低い非晶配向指数を有するPET未延伸糸を用いることにより、低い収縮率とともに高い収縮応力およびモジュラスを同時に有するPET延伸糸およびタイヤコードを製造することができる。さらに、前記PET未延伸糸を用いることにより、本発明の一実施例による諸物性(例えば、小さいフラットスポット指数)を示すとともに、優れた寸法安定性およびモジュラスを有するPETタイヤコードを提供することができる。
【0031】
以下、前記PETタイヤコードの製造方法を各段階ごとに説明する。
前記タイヤコードの製造方法では、まず、PETを溶融紡糸し、上述した高い結晶化度および低い非晶配向指数を有するPET未延伸糸を製造する。
この時、上述した結晶化度および非晶配向指数を満たすPET未延伸糸を得るために、より高い紡糸張力下で前記溶融紡糸工程を行うことができる。例えば、前記溶融紡糸工程は、0.85g/d以上、好ましくは0.85〜1.25g/dの紡糸張力下で行うことができる。また、例えば、前記PETを溶融紡糸する速度を3800〜5000m/minに調整することができ、好ましくは4000〜4500m/minに調整することができる。
【0032】
実験の結果、このような高い紡糸張力および選択的に高い紡糸速度下でPETの溶融紡糸工程を行うことにより、PETの配向結晶化現象が現れて結晶化度が高くなり、PETをなす分子チェーンが紡糸工程中に滑りながら微細なネットワーク構造を形成し、上述した結晶化度および非晶配向指数を満たすPET未延伸糸が得られることが明らかになった。ただし、前記紡糸速度を5000m/min以上に調整することは現実的に実現が容易でなく、過剰な紡糸速度によって前記冷却工程を行うのも困難である。
【0033】
また、このようなPET未延伸糸の製造工程では、0.8〜1.3の固有粘度を有して、90モル%以上のポリエチレンテレフタレートからなるチップを前記PETとして使用することができる。
上述したように、前記PET未延伸糸の製造工程では、より高い紡糸張力および選択的により高い紡糸速度の条件を与えることができるが、この条件下で前記紡糸工程を好適に行うためには、前記チップの固有粘度が0.8以上であるのが好ましい。また、前記チップの溶融温度の上昇に応じた分子チェーンの切断および紡糸パックからの吐出量による圧力の増加を防止するためには、固有粘度が1.3以下であるのが好ましい。
【0034】
そして、前記チップは、モノフィラメントの繊度が2.0〜4.0デニール、好ましくは2.5〜3.0デニールになるように考案された口金を通して紡糸されるのが好ましい。つまり、紡糸中の糸切れの発生および冷却時の相互干渉による糸切れの発生可能性を低減させるためには、モノフィラメントの繊度が2.0デニール以上にならなければならず、紡糸ドラフトを高めて十分に高い紡糸張力を与えるためには、モノフィラメントの繊度が4.0デニール以下であるのが好ましい。
【0035】
また、前記PETの溶融紡糸後は、冷却工程を行って前記未延伸糸を製造することができるが、この冷却工程は、15〜60℃の冷却風を加える方法で行うのが好ましく、それぞれの冷却風の温度条件において、冷却風量を0.4〜1.5m/sに調整するのが好ましい。これにより、本発明の一実施例による諸物性を示すタイヤコードをより容易に製造することができる。
【0036】
一方、前記紡糸工程により上述した結晶化度などを満たすPET未延伸糸を製造した後には、この未延伸糸を延伸して延伸糸を製造するが、この延伸工程は、1.0〜1.55以下の延伸比条件下で行うことができる。前記PET未延伸糸は、結晶領域が発達しており、非結晶型領域のチェーンも配向程度が低くて、微細なネットワーク構造を形成している。したがって、1.55を超えた高い延伸比条件下で前記延伸工程を行うと、前記延伸糸に糸切れまたは毛羽立ちなどが発生することがあるため、これから製造されたタイヤコードも好適な物性を示すのが困難である。そして、比較的低い延伸比下で延伸工程を行うと、これから製造されたPETタイヤコードの強度が一部低くなることがある。ただし、1.0以上の延伸比下では、例えばキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどへの適用に好適な優れた強度を有するPETタイヤコードの製造が可能になるため、前記延伸工程は1.0〜1.55の延伸比条件下で好適に行うことができる。
【0037】
そして、前記延伸工程では、前記未延伸糸を約160℃以上240℃未満の温度で熱処理することができ、好ましくは、前記延伸工程を適切に行うために、200℃以下の温度で前記未延伸糸を熱処理することができる。
前記延伸糸の製造後は、この延伸糸を合撚糸した後、接着剤に浸漬してディップコードを製造するが、この合撚糸工程および浸漬工程は、通常のPETタイヤコードの製造工程の条件および方法と同様である。
【0038】
このように製造されたタイヤコードは、総繊度が1000〜5000デニール、プライ数が1〜3、撚数が200〜500TPMの形態を有し、上述した優れた諸物性、例えばより低いフラットスポット指数、低い長さ変形率、および優れた寸法安定性などを示すことができる。
一方、本発明の他の実施例により、上述したPETタイヤコードを含む空気入りタイヤが提供される。より具体的には、このような空気入りタイヤは、前記PETタイヤコードをキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードとして含むことができ、これを除く残りの構成は、通常の空気入りタイヤの構成と同様である。
【0039】
このようなタイヤは、車両の全体的な荷重を安定的に支持しながらも、優れた寸法安定性を示して、急激な速度および荷重の変化にも形態変形がほとんど生じないタイヤコード、例えばキャッププライ用コードまたはボディープライ用コードなどを含むことにより、優れた高速走行性能を有して、乗車感をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】一般的なタイヤの構成を示した部分切開斜視図である。
【図2】実施例1により製造されたタイヤコードの温度および荷重の変化による長さ変形およびフラットスポット指数を示したグラフである。
【図3】比較例1により製造されたタイヤコードの温度および荷重の変化による長さ変形およびフラットスポット指数を示したグラフである。
【図4】比較例2により製造されたタイヤコードの温度および荷重の変化による長さ変形およびフラットスポット指数を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の好ましい実施例により、発明の構成および作用をより詳細に説明する。ただし、この実施例により本発明の権利範囲が限定されるのではなく、これは一実施例を示したものに過ぎない。
実施例1
固有粘度が1.05のPETポリマーを用い、1.15g/dの紡糸張力下、4500m/minの紡糸速度で常法によりPETポリマーを溶融紡糸し、冷却して、未延伸糸を製造した。この未延伸糸を1.24の延伸比で延伸し、熱固定および巻き取って、PET延伸糸を製造した。
【0042】
このように製造された総繊度が1000デニールの延伸糸を430TPMでZ撚した下撚糸2本を同じ撚数のS撚に合撚糸し、RFL接着剤溶液に浸漬および通過させた後、乾燥および熱処理して、実施例1のPETタイヤコードを製造した。
前記RFL接着剤溶液の組成、および乾燥および熱処理条件は、通常のPETコードの処理条件と同一にした。
実施例2〜6
PET延伸糸の製造工程中に、紡糸速度、紡糸張力、延伸比、または固有粘度の条件を下記の表1に示すように変更したことを除けば、実施例1と同一な方法によりPET延伸糸をそれぞれ製造し、このように製造されたPET延伸糸を実施例1と同一な方法により合撚糸し、接着剤溶液に浸漬した後、乾燥および熱処理して、実施例2〜6のPETタイヤコードをそれぞれ製造した。
【0043】
【表1】

【0044】
比較例1(高弾性低収縮(HMLS)繊維を用いたタイヤコードの製造)
未延伸糸を製造するために、固有粘度が1.05のPETポリマーを紡糸速度3000m/minおよび紡糸張力0.52g/dで溶融紡糸し、延伸糸を製造するために、未延伸糸を延伸比1.8で延伸したことを除けば、実施例1と同一な方法により比較例1のタイヤコードを製造した。
比較例2(ナイロン66繊維を用いたタイヤコードの製造)
相対粘度が3.3のナイロン66ポリマーを紡糸速度600m/minで溶融紡糸し、冷却して、未延伸糸を製造し、この未延伸糸を延伸比5.5で延伸し、熱固定および巻き取って、ナイロン66繊維を用いた延伸糸を製造した。
【0045】
このように製造された総繊度が840デニールの延伸糸を310TPMでZ撚した下撚糸2本を同じ撚数のS撚に合撚糸し、RFL接着剤溶液に浸漬および通過させた後、乾燥および熱処理して、ナイロン66繊維を用いた比較例2のタイヤコードを製造した。
前記RFL接着剤溶液の組成、および乾燥および熱処理条件は、通常のナイロン66コードの処理条件と同一にした。
【0046】
まず、実施例1〜6、比較例1および2から得られた未延伸糸の結晶化度および非晶配向指数(AOF)を次の方法により測定し、測定結果を下記の表2にまとめた。

−結晶化度:CI、n−ヘプタンを用いて密度勾配管を製造した後、密度を測定し、下記の計算式により結晶化度を測定した。
【0047】
【化1】

【0048】
(上記式で、PETの場合には、ρ=1.336およびρ=1.457の定数である。)

−AOF:偏光顕微鏡を用いて測定された複屈折率およびXRDで測定された結晶配向指数(COF)を用いて、下記の式によりAOFを算出した。
【0049】
AOF=(複屈折率−結晶化度(%)×0.01×結晶配向指数(COF)
×0.275)/((1−結晶化度(%)×0.01)×0.22)
【0050】
【表2】

【0051】
前記表2を参照すると、高い紡糸張力および紡糸速度下で製造された実施例1〜6の未延伸糸は、高い結晶化度および低い非晶配向指数などを有して、発達した結晶構造および優れた配向特性を示しているのに対し、比較例1および2の未延伸糸は、このような特性を満たしていないことが確認された。
次に、前記実施例1〜6、比較例1および2により製造されたタイヤコードに対して、高温高荷重状態から低温高荷重状態に転換した時のコードの長さLの変化と、高温高荷重状態から低温低荷重状態に転換した時のコードの長さLの変化とを測定した。前記長さの変化は、ASTM D4974基準の収縮率の試験方法に基づき、収縮挙動試験機(Testright社製、MK−V)を用いて測定した。
【0052】
より具体的には、測定に用いられたタイヤコード試料の初期長さLは270mmであった。
また、高温高荷重状態の条件は、走行中にタイヤコードに加えられる温度および荷重の条件を想定したものであって、120℃の温度で切断強度の13%に相当する荷重をタイヤコード試料に5分間持続的に加えた。
【0053】
そして、低温高荷重状態の条件(Lの測定条件)は、走行後の駐車時にタイヤの接地部分に位置するタイヤコードに加えられる温度および荷重の条件を想定したものであって、前記高荷重を維持したまま、タイヤコード試料の温度を24℃に下げて、3分間持続的に加えた。
また、低温低荷重状態の条件(Lの測定条件)は、駐車時にタイヤの接地部分を除く残りの部分に位置するタイヤコードに加えられる温度および荷重の条件を想定したものであって、高温高荷重状態から温度および荷重をそれぞれ24℃および0.01g/dに下げて、3分間持続的に加えた。
【0054】
実施例1、比較例1および2のタイヤコードに対して測定された長さの変化のグラフを図2〜図4に示しており、実施例1〜6、比較例1および2のタイヤコードに対して測定されたフラットスポット指数および長さ変形率の値を下記の表3にまとめた。
【0055】
【表3】

【0056】
前記表3および図2〜図4を参照すると、実施例1〜6のタイヤコードは、他種の通常のPET繊維(HMLS繊維)からなる比較例1のタイヤコードまたはナイロン66繊維からなる比較例2のタイヤコードに比べてはるかに低いフラットスポット指数および長さ変形率を示していることが確認された。
これより、実施例1〜6のタイヤコードは、他種のPET繊維またはナイロン66繊維からなるタイヤコードに比べて形態変形がほとんど生じることなく、優れた寸法安定性を有することが確認された。特に、実施例1〜6のタイヤコードは、走行中の車両が駐車する時に、走行時に発生した形態変形が回復しないタイヤの接地部分における長さLと前記形態変形が回復した残りの部分における長さLとで大差がないことが確認された。
【0057】
結果として、実施例1〜6のタイヤコードは、高い寸法安定性を有し、フラットスポット現象による車両のがたつきを抑制して、乗車感を大きく向上させることができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の計算式1で定義されるフラットスポット指数が5.0%以下であることを特徴とする、ポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
[計算式1]
フラットスポット指数(%)=(L−L)/L×100
(上記計算式1において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、0.01g/dの荷重だけを残した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。)
【請求項2】
前記フラットスポット指数が2.0〜4.0%であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
【請求項3】
下記の計算式2で定義される長さ変形率が3.0%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
[計算式2]
長さ変形率(%)=(L−L)/L×100
(上記計算式2において、Lは、タイヤコードの初期長さであり、Lは、120℃の温度でコードの切断強度の13%に相当する荷重を5分間加えて、前記荷重を維持した状態で、24℃に冷却した後に測定したタイヤコードの長さである。)
【請求項4】
5〜8g/dの強度、1.5〜5.0%の荷重伸び(@4.5kg)、および10〜25%の破断伸びを有することを特徴とする、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
【請求項5】
総繊度が1000〜5000デニール、プライ数が1〜3、および撚数が200〜500TPMであることを特徴とする、請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
【請求項6】
キャッププライ用コードまたはボディープライ用コードであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のポリエチレンテレフタレートタイヤコード。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタイヤコードを含むことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記コードをキャッププライまたはボディープライに適用したことを特徴とする、請求項7に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−529140(P2011−529140A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519991(P2011−519991)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004069
【国際公開番号】WO2010/011086
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(597114649)コーロン インダストリーズ インク (99)
【Fターム(参考)】