説明

ポリエチレン樹脂および製品の溶融特性を改質するための固体状態法

ポリエチレン樹脂の溶融特性を改善するための方法を提供する。該方法は、ポリエチレン樹脂粉末を樹脂の融点より低い温度で少量の遊離ラジカル開始剤と接触させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ポリエチレン樹脂を改質して、溶融特性を改変するための方法に関する。より具体的には、本発明は、遊離ラジカル開始剤を利用したエチレンコポリマー粉末の固体状態改質のための方法、および当該改質によって製造された改良品に関する。
【0002】
(発明の背景)
遊離ラジカル開始剤を使用して溶融状態のポリエチレン樹脂を改質することが知られている。ポリエチレンフィルムを製造するための1つの当該方法が、米国特許第5,962,598号に記載されている。該方法は、バブル安定性を改善するのに十分な量の遊離ラジカル開始剤の存在下で、少なくとも180℃の温度で直鎖状コポリマーを溶融押出する。しかし、この種類の溶融相法は、制御が困難であり、望ましくない量のゲルをしばしば生成させる。
【0003】
遊離ラジカル開始剤、特に過酸化物は、乳化性製品を製造するためのポリエチレン樹脂の固体状態酸化にも利用されてきた。当該方法は、米国特許第3,322,711号;同第4,459,388号;同第4,889,897号;同第5,064,908号および同第5,401,811号に記載されている。これらの反応は、微粒子ポリエチレン樹脂に対して遊離ラジカル開始剤を利用するが、典型的には、高い酸価を有するポリエチレンが製造されるような条件下で実施される。
【0004】
流動床反応器でポリエチレンを酸化するための1つの方法(米国特許第4,459,388号)において、高密度ポリエチレン粉末を酸素の不在下で500から20000ppmの遊離ラジカル形成化合物と混ぜ合わせ、高密度ポリエチレンの軟化点未満で加熱して、それが酸化される流動床反応器に導入する前に開始剤を分解する。このようにして高レベルの遊離ラジカル開始剤を利用するポリエチレンの処理は、一定の用途、すなわち水乳化性用途に対する有用性を制限する低分子量の化学種を生成する。
【0005】
同時係属出願第10/930,295号では、1から4500ppmの量の遊離ラジカル開始剤を利用して、多段重合反応器で製造された高および低分子量成分を混合することによって得られた複合ポリエチレン粉末を固体状態で改質している。この方法に従って改質された複合ポリエチレン樹脂は、ダイスウェルを低減させ、溶融強度を高めた。
【0006】
他のポリエチレン樹脂を少量の過酸化物により固体状態で改質して、それらの溶融特性の1種または複数を向上させることが可能であれば極めて有利である。
【0007】
(発明の概要)
ポリエチレン樹脂を固体状態改質して、それらの溶融特性を改善するための方法を提供する。該方法は、エチレンコポリマー粉末を、有機遊離ラジカル開始剤の開始温度より高く、エチレンコポリマーの融点より低い温度で有効量の有機遊離ラジカル開始剤と接触させて、改質樹脂のERを少なくとも10パーセント増加させる工程を含む。本発明に従って改質された粉末は、典型的には、5から2000ミクロン、より好ましくは75から1500ミクロンの平均粒径を有する。
【0008】
有利に改質されるポリエチレン樹脂は、0.89から0.965g/cm3の密度を有する、エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1およびオクテン−1からなる群から選択されるα−オレフィンコモノマーとのコポリマーである。極めて有用な実施形態において、0.915から0.935g/cm3の密度を有する直鎖状低密度ポリエチレン樹脂粉末を改質する。本発明の固体状態法に従って改質された直鎖状低密度樹脂を使用して、溶融特性および収縮性が改善された極めて有用なフィルムを得る。
【0009】
該方法に採用される遊離ラジカル開始剤は、有機過酸化物、有機ヒドロ過酸化物およびアゾ化合物からなる群から選択される。有機過酸化物、特に、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよびt−アミルペルオキシピバレートからなる群から選択される有機過酸化物が該方法に特に有利である。使用される遊離ラジカル開始剤の量は、一般には、0.5から450ppmであるが、1から350ppmの遊離ラジカル開始剤量が好ましい。
【0010】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリエチレン(PE)樹脂を改質して、それらの溶融特性を改善するための方法である。最も広い意味で、該方法は、遊離ラジカル開始剤を樹脂粉末に混入させた後に、混合物を樹脂の溶融点未満で制御加熱して、樹脂の1種または複数の溶融特性を変化させることによる、本明細書ではベース樹脂とも称するPE樹脂粉末の固体状態改質を含む。観察された溶融特性向上としては、溶融強度の改善、溶融弾性の改善および加工性の改善を挙げることができる。さらに、これらの改善は樹脂を著しく酸化させることなく、また樹脂の分子量または分子量分布を著しく変化させることなく達成される。
【0011】
該方法に利用されるポリエチレン樹脂粉末は、約5から2000ミクロンの平均粒径を有する、スラリーまたは気相重合法によって広く製造される樹脂粉末である。より典型的には、該粉末の平均粒径は、約75から1500ミクロンである。本発明の特に有用な実施形態において、ポリエチレン樹脂粉末の平均粒径は、100から約1200ミクロンである。
【0012】
遊離ラジカル開始剤をポリエチレン樹脂粉末と混ぜ合わせ、そこに均一に分布させ、粉末粒子に吸着させる。遊離ラジカル開始剤を粉末容量全体に分布させ、粉末粒子に均一に吸着させる任意の好適な混合手段を採用することができる。当該方法としては、撹拌、圧延、混転および流動化などを挙げることができる。
【0013】
粉末が重合反応器から出るとき、または粉末処理/回収/保管過程の任意の段階で遊離ラジカル開始剤を粉末に直接添加することができる。その結果、遊離ラジカル開始剤および樹脂粉末を混ぜ合わせ、混合する温度が広範囲に変動し得る。この点における唯一の要件は、遊離ラジカル開始剤が粉末中に均一に分布される前に改質効果がなくなるまで遊離ラジカル開始剤を分解させるほど温度が高くないことである。そのような場合、遊離ラジカル開始剤の添加の前に粉末の温度を下げること、および/またはより高い開始温度を有する遊離ラジカル開始剤を使用することが必要になる。
【0014】
遊離ラジカル開始剤を好適な溶媒と混ぜ合わせて、樹脂粉末中の分布を促すことができる。溶媒を使用すると、固体の遊離ラジカル開始剤を使用することも可能になる。溶媒を使用する場合は、混合および/または次の加熱時に揮発するように十分に低い沸点を有する有機炭化水素が好ましい。
【0015】
該方法に採用される遊離ラジカル開始剤としては、ポリエチレン樹脂の溶融点より低い温度で分解する有機過酸化物、有機ヒドロ過酸化物およびアゾ化合物が挙げられる。好適な有機過酸化物の例は、過酸化ジクミル、過酸化ジ−t−ブチル、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、t−アミルペルオキシピバレートおよび1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等である。代表的なヒドロ過酸化物としては、ジ−t−ブチルヒドロペルオキシドおよびt−ブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。好適なアゾ化合物としては、2,2’−アゾ−ジイソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシル−バレロニトリルおよび2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0016】
有機過酸化物が最も有利に使用され、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよびt−アミルペルオキシピバレートは、本発明の改質法に特に有用な有機過酸化物である。
【0017】
本発明の固体状態改質法に従って有利に改質されるポリエチレン樹脂粉末は、エチレン−α−オレフィンコポリマーである。エチレンとブテン−1、ヘキセン−1およびオクテン−1とのコポリマーが特に有利である。コポリマーは、知られている重合手順によって製造され、典型的には、0.1から7.5重量パーセント(wt%)のコモノマーまたはコモノマーの混合物を含み、約0.89から0.965g/cm3の密度を有する。この密度範囲内のコポリマーは、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂を包括する。規定範囲内の粒径を有する樹脂粉末を製造することが可能な方法、最も好ましくはスラリーまたは気相法にチーグラー、フィリップスまたはメタロセン技術を方法中に利用して上記種類の樹脂を得ることができる。0.910から0.955g/cm3、より好ましくは0.915から0.945g/cm3の密度を有するコポリマーは、本発明の方法による固体状態改質に特に好適である。本明細書で言及される密度は、ASTM D1505に従って測定されたものである。
【0018】
改質は、遊離ラジカルが吸着された樹脂粉末を樹脂の融点より低い温度に、溶融特性の所望の変化を生じさせるのに十分な時間にわたって維持することによって実現される。該温度および時間は、改質される樹脂、使用される遊離ラジカル開始剤の量および種類、粉末粒径および他の要因に応じて異なる。しかし、概して、40℃から115℃の範囲内の温度が採用される。より好ましくは、温度は、50℃から110℃、最も好ましくは75℃から105℃の範囲に維持される。
【0019】
たいていの操作、特に大規模操作では、改質時間は、開始剤の半減期の数倍である。これは、最大の改質をもたらすとともに、改質樹脂に望ましくない開始剤が残留する可能性を最小限にする。少量の未分解開始剤は弊害をもたらさないが、改質樹脂粉末中に大量の未反応開始剤が残留すると、改質樹脂の後の処理/加工中にゲルの形成および他の望ましくない効果をもたらし得る。
【0020】
使用される遊離ラジカル開始剤の量は異なり得るが、大量の開始剤は弊害をもたらし、所望の改質、すなわち溶融特性の改善をもたらさない。このため、粉末と混ぜ合わされる遊離ラジカル開始剤の量は、一般には、約0.5から450ppmである。遊離ラジカル開始剤は、より好ましくは、約1から350ppmの量で利用され、特に有用な実施形態において、約2ppmから200ppmの遊離ラジカル開始剤が採用される。後者の範囲は、有機過酸化物開始剤が採用される場合に特に有用である。樹脂の改質を行うために、開始剤のすべてを分解する必要はないが、以上に指摘したように、過剰量の未分解開始剤は、一般には、望ましくないと考えられる。
【0021】
先に指摘したように、遊離ラジカル開始剤を反応器の粉末、すなわち1つまたは複数の重合反応器から出る樹脂、またはある時間にわたって保管された粉末に直接添加することができる。第1の場合は、粉末を十分に加温し、すなわち有機開始剤の開始温度以上に維持して、さらに加熱することなく樹脂の改質を行うことができる。例えば、反応器からのポリエチレンスラリーをフラッシュドラムに送り、そこで溶媒および望ましくないモノマーを除去し、粉末を1つまたは複数の乾燥機で乾燥させるスラリー、すなわち粒子形態重合法では、フラッシュドラム内で遊離ラジカル開始剤をポリエチレン粉末と混合し、乾燥機の中で改質を行うことができる。他の製造操作では、開始剤を加温ポリエチレン粉末と混ぜ合わせてから、保存サイロに移し、改質を行うのに十分な時間にわたって混合物を保持することができる。
【0022】
樹脂が改質前に長時間にわたって保存される場合にそうであるように、樹脂が室温または遊離ラジカル開始温度を十分に下回る温度に維持される場合は、さらなる加熱が必要とされ得る。この場合、好ましくは樹脂粉末への有機開始剤の混入/均一分布後に、混合物の温度を遊離ラジカル開始剤の開始温度より高く、ポリエチレン樹脂の溶融点より低い温度まで上昇させて、改質を行う。本明細書で採用されるように、開始温度は、開始剤が分解し、遊離ラジカルを生成し始める温度を指す。
【0023】
少量の遊離ラジカル開始剤、特に有機過酸化物を使用して、上記種類のPE樹脂粉末を固体状態で改質すると、ポリマーの分子量または分子量分布(MWD)を実質的に変化させることなく、または望ましくないゲルを生成させることなく、樹脂の溶融特性が著しく改善される。
【0024】
固体状態改質樹脂の溶融特性の向上は、未改質のPEベース樹脂と本発明に従って改質された樹脂とについて生成された様々な動的な流動学的データを比較することによって実証される。これらのデータは、レオメトリックメカニカルスペクトロメーター型式605または705あるいはレオメトリックスダイナミックアナライザーRDA2またはARES分析装置の如き、一定範囲の周波数にわたるポリマー溶融物の動的機械特性を測定することが可能な任意の流動計を使用して生成される。
【0025】
より具体的には、本発明に従って改質されたPE樹脂は、予想外に、著しく改善された流動多分散性を示す。溶融樹脂に対して実施される流動学的測定から求められ、分枝、連鎖延長および他の分子間および分子内相互作用の種類および量に影響される流動多分散性は、溶融弾性の変化を示すために広く用いられ、「ER」は、当該技術分野で認識された流動多分散性の測度の1つである。ERは、貯蔵弾性率(G’)対損失弾性率(G”)のプロットから求められ、高分子量末端多分散性の測度である。R.ShroffおよびH.Mavridis、「New Measures of Polydispersity from Rheological Data on Polymer Melts.」、J.Applied Polymer Science 57(1995)1605に記載されているように、ERは、簡便に求められる。その教示が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,171,993号および第5,534,472号をも参照されたい。
【0026】
この方法に従って、樹脂粉末を少量の遊離ラジカル開始剤と固体状態で接触させることによって改質されたPE樹脂は、少なくとも10パーセント、場合によっては数百パーセントまでのERの増加を示す。好ましくは、本発明に従って改質されると、PE粉末のERは、20%以上増加する。さらに、このERの増加は、ゲルを形成することなく、溶融処理に好適な重量平均分子量(Mw)、例えば30000を超える分子量を維持しながら達成される。たいていの場合に、重量平均分子量を著しく変化させることなく改質を達成できることがさらに確認された。押出改質手順に少量の遊離ラジカル開始剤を使用して、流動多分散性(ER)のある程度の改善を達成することは可能であり得るが、改善の度合いは著しく小さく、多くの場合、ERの増加は、ゲルの形成および/または分子量もしくは分子量分布の著しい変化を伴う。
【0027】
PE樹脂の溶融弾性(ER)を増加させる能力に加えて、たいていの場合は、低周波数、すなわち低剪断における対応する複素粘性率(η*)の増加も実現される。典型的には0.1ラジアン/秒(rad/sec)の周波数で測定されるこれらの複素粘性率は、本明細書において低剪断粘性率と称する。高周波数、すなわち高剪断における複素粘性率の減少によって証明される改質ポリエチレン樹脂の加工性の改善も得られる。典型的には100rad/secの周波数で測定される後者の複素粘性率は、本明細書では高剪断粘性率と称する。
【0028】
また、上記改質は、PE樹脂の著しい酸化を伴わずに、すなわち樹脂の酸価を実質的に変化させずに達成される。
【0029】
上記固体状態手順に従って改質されたポリエチレン樹脂は、ベース、すなわち未改質樹脂を使用できる任意の用途に有利に利用される。しかし、それらは、押出コーティング、熱成形、ブロー成形および発泡処理の如く優れた溶融特性が望ましい用途に特に有利である。それらは、フィルム、シート、パイプおよびプロファイルの製造に極めて有用である。本発明の改質ポリエチレン樹脂は、押出の容易さおよびバブル安定性が主要な関心事であるインフレートフィルム用途に特に有用である。
【0030】
特に有用な実施形態において、LLDPEを改質して、極めて望ましい収縮特性を有するフィルムに加工することが可能な、溶融特性が改善された樹脂を提供する。LLDPE、最も顕著には、0.915から0.935g/cm3の密度および0.1から2.5g/10分のメルトインデックス(MI)を有する、エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1およびオクテン−1とのコポリマーが、インフレートフィルムの製造に広く使用される。これらのフィルムは、良好な靭性、引張性および環境応力亀裂に対する抵抗性を示すが、いくつかの良く知られた欠点としては、低溶融強度、溶融破壊のしやすさおよび低収縮が挙げられる。本発明の方法に従って製造された固体状態改質LLDPE樹脂を使用して得られたフィルムは、他の望ましいフィルム特性に著しく影響することなく、LDPEフィルムで得られたものと比較して、多くの場合、収縮特性が著しく改善されている。本明細書で言及されるメルトインデックスは、ASTM D1238−01、条件190/2.16に従って測定された。
【0031】
以下の実験室規模の実験は、本発明を例示するが、本発明の主旨および請求項の範囲内の多くの変更を当業者なら認識するであろう。
【0032】
(流動学的測定および計算)
動的な流動学的データを周波数掃引モードで測定するASTM4440−95aに従って流動学的測定を実施した。レオメトリックスARES流動計を使用した。特に指定がない限り、窒素環境中にて、平行板モード(板直径50mm)において190℃で流動計を動作させて、1.2〜1.4mmおよび歪み振幅10%の平行板構造における空隙によりサンプルの酸化/劣化を最小限にした。周波数は、0.0251から398.1rad/secであった。
【0033】
当業者が認識するように、本明細書で言及される具体的な複素粘性率データは、一連の具体的な条件下で得られるため、未改質のベース樹脂と比較して本発明の改質樹脂について確認された改善を実証するためにのみ提示され、限定することを意図するものではない。異なる条件、例えば、温度、歪み率、板構成等を用いて得られた流動学的データは、報告された値より高い、または低い複素粘性率値をもたらし得る。本明細書で報告されているη*値は、ポアズ単位である。
【0034】
ERをShroffらの方法によって測定した(前出米国特許第5,534,472号、第10欄、20〜30行も参照のこと)。貯蔵弾性率(G’)および(G”)の損失を測定した。9つの最低周波数点を用い(周波数ディケード毎に5点)、一次方程式を最小自乗回帰によってlog G’対log G”に適合させた。次いで、G”=5000dyn/cm2の値におけるER+(1.781×l0-3)×G1からERを計算した。
【0035】
当業者が認識するように、最小G”値が5000dyn/cm2を超える場合は、ERの測定に外挿が必要である。そこで、計算されるER値は、log G’対log G”プロットにおける非直線性に依存することになる。温度、板直径および周波数範囲は、最小G”値が、流動計の分解能の範囲内で、5000dyn/cm2に近くなるか、またはそれ未満になるように選択される。
【0036】
(分子量測定)
混合床GPCカラム(B−LSと混合されたPolymer Labs)が装備されたWaters GPC2000CV高温測定器を使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(MWD)を求めた。6mgのPE樹脂を2.75mlの1,2,4−トリクロロベンゼンに溶解させることによってサンプルを調製した。1.0ml/minの公称流速および145℃の温度で移動相を使用した。
【0037】
適切なMark−Houwink定数およびWaters Empowerソフトウェアを用い、ナローポリスチレン較正曲線を使用して分子量を計算した。Mark−Houwink定数Kおよびアルファは、ポリエチレンではそれぞれ0.000374および0.728であり、ポリスチレンではそれぞれ0.0001387および0.7であった。
【0038】
(実施例1)
回転成形用途に利用される市販の中密度PE樹脂粉末(密度0.940g/cm3、MI3.6g/10分;融点125℃)を本発明に従って改質した。使用したPE樹脂は、エチレンとヘキセン−1のコポリマーであり、粉末は、平均粒径が約1000ミクロンであった。PE粉末を10ppmの2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンと混ぜ合わせ、均一な分布および過酸化物の樹脂粉末粒子への吸着を確保するために25℃で15分間混転した。次いで、樹脂粉末をオーブンに仕込み、20時間にわたって100℃に維持した後、過酸化物の実質的にすべてを分解させた。
【0039】
改質樹脂および未改質ベース樹脂粉末の流動性を測定し、表1に報告されている。分子量データも示されている。
【0040】
改質樹脂は、著しく高い(未改質ベース樹脂より160%高い)ERによって証明されるように溶融特性が顕著に改善され、低剪断粘性率が実質的に改善され、η*@0.1rad/secがベース樹脂のそれより106%増加した。さらに、溶融強度および溶融弾性の上記改善は、高剪断粘性率の減少、すなわち100rad/secにおけるより低い動的複素粘性率によって証明される樹脂の溶融加工性を改善しながら達成される。
【0041】
上記改善のいずれもがゲルの形成を伴わずに達成されることをさらに留意されたい。光学ゲルカウンタを使用して、固体状態改質樹脂および未改質ベース樹脂のキャスト膜をゲルについて走査した。150ミクロン以上のゲルについては、それら2つの樹脂は差を示さず、流動学的効果が架橋の結果でないことが確認された。
【0042】
改質樹脂のMwは、本来のMwの16%以内であり、MWDは、著しく変化していなかった。
【0043】
(実施例2)
実施例1に記載した方法と同様にして、本発明に従って、市販の高密度PE粉末に固体状態改質を施した。使用したHDPEは、エチレンとブテン−1のコポリマーであり、0.9435g/cm3の密度および0.7g/10分のMIを有していた。この種類の樹脂は、ワイヤおよびケーブル絶縁体の押出に広く使用される。粉末の平均粒径は、約850ミクロンであった。使用した過酸化物の種類および量ならびに処理手順は、実施例1について記載したものと同じであった。改質の結果として、ゲルの形成は観察されなかった。改質HDPE粉末の流動学的データおよび分子量データが、対照、すなわち未改質HDPEベース樹脂のデータとともに表1に報告されている。板直径が25mmであり、歪み振幅が20%である点を除いては、上記の通りに流動学的データが得られた。
【0044】
改質樹脂および未改質樹脂は、本質的に同様の高剪断粘性率を示すが、改質樹脂は、流動多分散性が著しく改善され(ERが26%増加)、低剪断粘性率が32%増加していた。改質樹脂および未改質樹脂のMwは、実質的に同じであった。
【0045】
(実施例3)
該改質方法の汎用性および広範な応用性を実証するために、実施例1の一般的手順に従って、市販のLLDPE粉末を改質した。LLDPE樹脂は、0.930g/cm3の密度、0.8g/10分のMIおよび125℃の融点を有するエチレンとヘキセン−1のコポリマーであった。この種類の樹脂は、インフレートフィルムの製造に広く使用される。粉末の平均粒径は、約100ミクロンであった。10ppmの2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンを粉末と混ぜ合わせ、混合物を20時間にわたって100℃に維持した。得られた改質LLDPEは、実質的にゲルがなく、検出可能な過酸化物残留物は存在しなかった。
【0046】
改質条件下で著しい酸化が生じないことを実証するために、LLDPEベース樹脂および改質樹脂のサンプルを滴定によって分析して、酸価を測定した。その手順について、二重ブランク溶媒およびサンプル溶液を、0.1014NのKOH溶液を使用して滴定した。二重ブランク溶媒分析に対する滴定液の平均容量は、0.090ml(サンプル1g当たり酸価0.009に相当)であった。サンプル分析についての滴定液容量からブランクについての平均滴定液容量を引くことによって、各サンプル分析の酸価を計算した。得られた滴定液容量に滴定液の規定度を掛け、サンプル重量で割って、サンプル1グラム当たりのCOOHのミリ当量の酸価を求めた。改質樹脂と未改質樹脂の酸価は、実質的に同じであり、それぞれ0.0013および0.0017であったが、それは、この手順の実験誤差の限度内であると考えられる。
【0047】
改質LLDPEおよび未改質ベース樹脂について得られた流動学的データおよび分子量データが、表1に示されている。流動計を150℃で動作させ、板直径が25mmであり、歪み振幅が20%であった点を除いては、先述と同様にして流動学的測定を実施した。
【0048】
改質LLDPEおよび未改質LLDPEベース樹脂の分子量(Mw)、MWDおよび高剪断粘性率は同等であったが、改質樹脂では溶融弾性(ERが600%以上増加)および溶融強度(低剪断粘性率が400%増加)の顕著な改善が確認された。
【0049】
上記改善の有意性を実証するために、改質LLDPE樹脂およびベース樹脂を使用して4ミルのフィルムをブロー成形し、比較した。その主要構成要素が、2’’滑腔押出機、マドック混合部を備えたL/D比24:1のバリアスクリュー、0.060’’ダイギャップを備えた直径4’’のスパイラルマンドレルダイ、およびデュアルリップエアーリングを含む実験用インフレートフィルムラインでフィルムを製造した。フィルム製造条件は、出力速度が60 lb/hr、溶融温度が410〜430°F、ブローアップ比(BUR)が2.5、フロストライン高さが11’’であった。改質LLDPEおよび未改質LLDPEからブロー成形されたフィルムの特性が表2に示されている。本発明の方法に従って改質されたLLDPE樹脂を使用して製造されたフィルムが、高度な収縮性を発揮し、LLDPE樹脂がこれまで典型的に採用されなかった収縮フィルム用途に適するようになるのはデータから明らかである。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
(実施例4および比較例5)
本発明の固体状態過酸化物改質方法と溶融状態で実施される過酸化物改質との差を実証するために、両方の技術を用いてLLDPEを改質した以下の比較例を示す。両方の手順に同じLLDPE樹脂を使用した。それは、エチレンとブテン−1のコポリマーであり、0.919g/cm3の密度、1.0g/10分のMIおよび125℃の融点を有していた。一実施例(実施例4)を実施例3に記載の手順に従って改質した。別のサンプル(比較例5)を10ppmの同一の過酸化物と室温で1時間にわたって混転し、そのまま押し出し、二軸押出機を使用して造粒した。以下の表3の結果は、それら2つの方法が同じ効果をもたらさないことを明確に示している。
【0053】
【表3】

【0054】
本発明の固体状態改質樹脂では、溶融弾性(ER)の165%の増加が達成されたが、溶融状態で同量の過酸化物に接触された樹脂のERは、21%増加しただけであった。
【0055】
(比較例6)
固体状態改質法に少量の遊離ラジカル開始剤を利用することが必要であることを実証するために、市販のHDPE粉末(エチレン−ブテン−1コポリマー:密度0.950g/cm3;MI0.05g/10分)および2000ppmの過酸化物を使用して実施例1を繰り返した。結果は、以下の通りであった。
【0056】
【表4】

【0057】
それらのデータは、多量の過酸化物を使用すると、不利な結果がもたらされることを明確に証明している。改質樹脂の溶融弾性が低下し、分子量が著しく変化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン樹脂の溶融特性を改質するための方法であって、エチレンコポリマー樹脂粉末を、有機遊離ラジカル開始剤の開始温度より高く、エチレンコポリマー樹脂の融点より低い温度で有効量の有機遊離ラジカル開始剤と接触させて、改質樹脂のERを少なくとも10パーセント増加させる工程を含む方法。
【請求項2】
エチレンコポリマーが、0.89から0.965g/cm3の密度を有する、エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1およびオクテン−1からなる群から選択されるα−オレフィンコモノマーとのコポリマーであり、この粉末は、5から2000ミクロンの平均粒径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遊離ラジカル開始剤の量が、0.5から450ppmである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
遊離ラジカル開始剤が、有機過酸化物、有機ヒドロ過酸化物およびアゾ化合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有機遊離ラジカル開始剤が、有機過酸化物であり、1から350ppmの量で利用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
有機遊離ラジカル開始剤が、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよびt−アミルペルオキシピバレートからなる群から選択される有機過酸化物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
エチレンコポリマーが、0.910から0.955g/cm3の密度を有し、この粉末は、75から1500ミクロンの平均粒径を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
エチレンコポリマーが、0.915から0.945g/cm3の密度を有するエチレン−ブテン−1−コポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エチレンコポリマーが、0.915から0.945g/cm3の密度を有するエチレン−ヘキセン−1−コポリマーである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の溶融特性を改質するための方法であって、0.915から0.935g/cm3の密度を有する、エチレンと、ブテン−1、ヘキセン−1およびオクテン−1からなる群から選択されるα−オレフィンとのコポリマーの直鎖状低密度粉末を、有機過酸化物、有機ヒドロ過酸化物およびアゾ化合物からなる群から選択される0.5から450ppmの遊離ラジカル開始剤と、遊離ラジカル開始剤の開始温度より高く、直鎖状低密度コポリマー樹脂の融点より低い温度で接触させて、ERを少なくとも10パーセント増加させる工程を含む方法。
【請求項11】
遊離ラジカル開始剤が、過酸化ジクミル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンおよびt−アミルペルオキシピバレートからなる群から選択される有機過酸化物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
遊離ラジカル開始剤が、1から350ppmの量で利用され、温度が、50℃から110℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法によって製造された改質直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を使用して得られたフィルム。

【公表番号】特表2009−519373(P2009−519373A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545573(P2008−545573)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/031826
【国際公開番号】WO2007/070121
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(501391331)エクイスター ケミカルズ、 エルピー (30)
【氏名又は名称原語表記】Equistar Chemicals,LP
【Fターム(参考)】