説明

ポリエーテルゴムの製造方法

【課題】 電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するゴム架橋物に用いられるポリエーテルゴムの製造方法を提供すること。
【解決手段】 エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、特定量の窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、特定温度で反応させることを特徴とする、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有している特定の単位を、特定割合含有するポリエーテルゴムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルゴムの製造方法に関する。特に、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有しているポリエーテルゴムの製造方法に関する。更に、本発明は、前記ポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴムを用いたゴム組成物の製造方法、およびゴム架橋物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、電子写真複写機、およびファクシミリ装置などの画像形成装置において、半導電性が必要とされる機構には、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材が用いられている。
【0003】
このような導電性部材は、その用途に応じて、所望の範囲の導電性(電気抵抗値とそのばらつき、環境依存性、電圧依存性)、非汚染性、低硬度、および寸法安定性などの種々の性能が要求されている。
【0004】
このような導電性部材の一部を構成するゴムに導電性を付与する方法としては、カーボンブラック、または金属酸化物などの導電性付与剤をゴム中に少量練りこみ、分散させることにより、導電性部材の電気抵抗を制御する方法が周知である。しかし、この方法では、練りこむ少量の導電性付与剤の分散性をコントロールすることが難しく、また、成形・架橋時のゴム流動によって、導電性付与剤の分散状態が変化し、その結果、電気抵抗値がばらつき、鮮明な画像を得にくいという問題があった。
【0005】
そこで、電気抵抗値のばらつきを解決する方法として、導電性付与剤を配合しなくてもゴム自体に半導電性を有する、ポリエーテルゴムなどが導電性部材用途に用いられてきた。しかしながら、近年、画像形成装置においては高速化が要求され、導電性部材、特に、導電性ロールには更なる低電気抵抗化が望まれている。電気抵抗値を低くする方法としては、ポリエーテルゴムの構成単位の一つであるエチレンオキサイド単位量を増やすことが有効であるが、エチレンオキサイド単位量を増やすと、ゴム自体が水溶性になり、製造が困難になる場合がある。また、感光体への汚染を引き起こすという問題があった。そのため、従来の方法では、ポリエーテルゴム中のエチレンオキサイド単量体単位をある一定量までしか増加することができず、低電気抵抗化の要求を十分満たすことができなかった。
【0006】
また、従来より、導電性部材に電圧を印加すると、連続使用により導電性部材が通電劣化し、導電性部材の電気抵抗値が上昇し、これにより、画像品質が低下するという問題があった。この問題に対し、特許文献1では、特定の導電剤を用い、導電部材表面の静摩擦係数を特定の値にすることにより、導電部材の連続使用時における抵抗変化を抑えられることが開示されている。しかしながら、導電性付与剤(導電剤)を添加することなく、近年の導電性部材に求められている低電気抵抗化、かつ、連続使用時における抵抗変化抑制といった特性を満たすには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−166563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するゴム架橋物に用いられるポリエーテルゴムの製造方法を提供することにある。更に、本発明の目的は、前記ポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴムを用いたゴム組成物の製造方法、およびゴム架橋物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、特定量の窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、特定温度で反応させることを特徴とする、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有している特定の単位を、特定割合含有するポリエーテルゴムの製造方法により、前記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明によれば、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、前記エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、0.02〜50モルの窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、40〜160℃で反応させることにより、前記ハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することを特徴とする、下記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴムの製造方法が提供される。
【化1】

(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。該カチオン性含窒素芳香族複素環中の窒素原子の1つは、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【0011】
前記窒素原子含有芳香族複素環式化合物が、五員複素環式化合物または六員複素環式化合物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、前記いずれかに記載のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対し、0.1〜10重量部の架橋剤を配合する工程を有する、ゴム組成物の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、前記ゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物を架橋する工程を有する、ゴム架橋物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエーテルゴムの製造方法によれば、導電性付与剤(導電剤)を添加しなくても、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するゴム架橋物に用いられるポリエーテルゴムが得られる。更に、本発明のゴム組成物の製造方法、およびゴム架橋物の製造方法に従い、上記ゴム架橋物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリエーテルゴムの製造方法は、下記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴムの製造方法である。下記一般式(1)で表される単位は、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中の、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基(以下、「オニウムイオン含有基」と記す場合がある。)に置換することで得られる。具体的には、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、前記エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、0.02〜50モルの窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、40〜160℃で反応させることにより、前記ハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することができる。
【化2】

(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。該カチオン性含窒素芳香族複素環中の窒素原子の1つは、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【0016】
本発明に用いるエピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムは、溶液重合法または溶媒スラリー重合法などにより、エピハロヒドリン単量体を開環重合することにより得ることができる。なお、後述するように、本発明に用いるエピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムは、エピハロヒドリン単量体以外に、エチレンオキサイド単量体、不飽和オキサイド単量体を開環重合した共重合体であることが好ましい。
【0017】
エピハロヒドリン単量体単位を構成するエピハロヒドリン単量体としては、特に限定されないが、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、エピフルオロヒドリンなどが挙げられ、これらのなかでも、エピクロロヒドリンが好ましい。エピハロヒドリン単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
重合触媒としては、一般のポリエーテル重合用触媒であれば、特に限定されない。重合触媒としては、例えば、有機アルミニウムに水とアセチルアセトンを反応させた触媒(特公昭35−15797号公報);トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒(特公昭46−27534号公報);トリイソブチルアルミニウムにジアザビアシクロウンデセンの有機酸塩とリン酸とを反応させた触媒(特公昭56−51171号公報);アルミニウムアルコキサイドの部分加水分解物と有機亜鉛化合物とからなる触媒(特公昭43−2945号公報);有機亜鉛化合物と多価アルコールとからなる触媒(特公昭45−7751号公報);ジアルキル亜鉛と水とからなる触媒(特公昭36−3394号公報);トリブチル錫クロライドとトリブチルホスフェートとからなる触媒(特許第3223978号公報);などが挙げられる。
【0019】
重合溶媒としては、不活性溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n−ペンタン、n−へキサンなどの直鎖状飽和炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状飽和炭化水素類;などが用いられる。これらのなかでも、溶液重合法により開環重合する場合は、ポリエーテルゴムの溶解性の観点から、芳香族炭化水素を用いることが好ましく、トルエンがより好ましい。
【0020】
重合反応温度は、20〜150℃が好ましく、50〜130℃がより好ましい。重合様式は、回分式、半回分式、連続式などの任意の方法で行うことができる。
【0021】
エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムは、ブロック共重合、ランダム共重合のいずれの共重合タイプでも構わないが、ランダム共重合体が好ましい。
【0022】
エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムを溶媒から回収する方法は、特に限定されないが、例えば、凝固・ろ別・乾燥方法を適宜組合わせることにより行う。ポリエーテルゴムが溶解している溶媒から、ポリエーテルゴムを凝固させる方法としては、例えば、常法であるスチームストリッピングや貧溶媒を用いた析出方法などを用いることができる。また、ポリエーテルゴムを含むスラリーから、ポリエーテルゴムをろ別する方法としては、必要に応じて、例えば、回転式スクリーン、振動スクリーンなどの篩;遠心脱水機;などを用いる方法などを挙げることができる。更に、ポリエーテルゴムの乾燥方法としては、例えば、ロール、バンバリー式脱水機、スクリュー押出機式脱水機などの圧縮水絞機を用いて脱水する方法;スクリュー型押出機、ニーダー型乾燥機、エキスパンダー乾燥機、熱風乾燥機、減圧乾燥機などの乾燥機を用いる方法;などを挙げることができる。これらの圧縮水絞機および乾燥機は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0023】
本発明に用いる窒素原子含有芳香族複素環式化合物(以下、「オニウム化剤」と記す場合がある。)は、窒素原子含有芳香族複素環式化合物であれば、特に限定されず、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、ピロール、1−メチルピロール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソオキサゾールなどの五員複素環式化合物;ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、2,6−ルチジンなどの六員複素環式化合物;キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プリン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾールなどの縮合複素環式化合物;などを挙げることができる。これらのなかでも、五員複素環式化合物および六員複素環式化合物が好ましく、反応後の物質安定性の観点から、1−メチルイミダゾールがより好ましい。
【0024】
オニウム化剤の使用量は、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中の、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、0.02〜50モルであり、より好ましくは0.03〜10モル、さらに好ましくは0.05〜2モルの範囲である。オニウム化剤の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のオニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴム(以下、「カチオン化ポリエーテルゴム」と記す場合がある。)が得られなくなるおそれがあり、一方、オニウム化剤の量が多すぎると、得られるカチオン化ポリエーテルゴムから未反応のオニウム化剤を除去することが困難になるおそれがある。
【0025】
また、オニウム化剤として、ピロールのような環状第2級アミン類(本願において、環状第2級アミン類とは、窒素原子含有芳香族複素環式化合物であって、環中の窒素原子に水素原子が1つ結合しているものを言う。以下、同様。)を使用する場合、オニウム化剤の使用量は、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中の、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜2モル、好ましくは0.02〜1.5モル、より好ましくは0.03〜1モルの範囲である。環状第2級アミン類の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、環状第2級アミン類の量が多すぎると、ハロゲン原子に対して過剰量となっている未反応の環状第2級アミン類の影響により、カチオン化ポリエーテルゴム中のオニウムイオン含有基の置換率の制御が困難になるおそれがある。
続いて、必要に応じて、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している環中の窒素原子と結合している水素原子を、所望の基に置換することもできる。ポリエーテルゴムと環状第2級アミン類との反応後、次に、塩基を混合し、窒素原子と結合しているプロトンを脱離させ、更に、例えば、ハロゲン化アルキルを混合し付加させることにより、下記一般式(3)のように、所望の置換基を導入することが出来る。
【化3】

(上記一般式(3)中、R’は炭素数1〜10のアルキル基を示し、X’はハロゲン原子を表す。)
【0026】
エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴム中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、オニウムイオン含有基に置換する方法としては、従来より、溶媒を用いたオニウム化反応が行なわれている。具体的には、特開昭50−33271号公報、特開昭51−69434号公報、および特開昭52−42481号公報などに開示されている。しかし、上記溶媒を用いた方法では、窒素原子含有芳香族複素環式化合物をオニウム化剤として用いる場合、反応条件によってはオニウム化反応が進行しにくいことがある。
【0027】
そこで、本発明においては、エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、前記エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、0.02〜50モルの窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、40〜160℃で反応させる。オニウム化反応は、実質的に溶媒を介さずに行なう。オニウム化反応を実質的に溶媒を介さずに行なうことにより、窒素原子含有芳香族複素環式化合物をオニウム化剤として用いる場合でも、オニウム化反応が進行し易く、反応時間を短縮することができる。また、反応に用いるポリエーテルゴムおよびオニウム化剤を溶媒に溶解させる必要がなく、作業性に優れる。なお、本明細書において、「オニウム化反応を実質的に溶媒を介さずに行なう」とは、溶媒を一切使用しないでオニウム化反応を行なうという限定的意味ではなく、ポリエーテルゴムとオニウム化剤とを混練できる程度に、溶媒が使用されていてもよいことを含んだ意味である。
【0028】
反応に用いるポリエーテルゴムとオニウム化剤との混練方法は、特に限定されないが、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、二軸混練機などの任意の乾式混練機を一つまたは複数組合わせて、均一に混合することが好ましい。
【0029】
エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、オニウム化剤とのオニウム化反応は、混練と同時に行なってもよいし、混練後に別途行なってもよい。別途反応させる場合は、上述した任意の乾式混練機をそのまま継続して用いてもよいし、オーブン、プレス成形機などの加熱機を用いて反応させてもよい。
【0030】
反応時の温度は、40〜160℃であり、好ましくは60〜150℃、より好ましくは80〜140℃である。反応温度が低すぎると、置換反応が遅く、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、反応温度が高すぎると、用いるポリエーテルゴムの分解やオニウム化剤の揮発が起こるおそれがある。また、反応時間は、特に限定されず、通常、1分〜10日、好ましくは5分〜1日、より好ましくは5分〜5時間である。反応時間が短すぎると、反応が不完全となり、所望の組成のカチオン化ポリエーテルゴムが得られなくなるおそれがあり、一方、反応時間が長すぎると、用いるポリエーテルゴムの分解が起こるおそれがある。
【0031】
オニウム反応後、または反応の最中に、必要により、未反応のオニウム化剤や揮発性の生成物を脱揮や洗浄により除去してもよい。
【0032】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有する。そのため、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムから得られるゴム架橋物は、電気抵抗値値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制する。
【0033】
上記一般式(1)で表される単位中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。カチオン性含窒素芳香族複素環中の窒素原子の1つは、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムの側鎖の炭化水素基である上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している。カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基中のカチオン性含窒素芳香族複素環における含窒素芳香族複素環は、環中に窒素原子を有し、芳香族性を有するものならば、特に限定されない。例えば、複素環中に、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合する窒素原子以外に、別の窒素原子を有していてもよいし、酸素原子、硫黄原子など、窒素原子以外のヘテロ原子を有していてもよいし、一部が置換されていてもよい。また、二環以上が縮合した多環構造をとっていてもよい。このような含窒素芳香族複素環の構造としては、例えば、イミダゾール環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環などの五員複素環;ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環などの六員複素環;キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、プリン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイソオキサゾール環などの縮合複素環;などが挙げられる。これらのなかでも、五員複素環および六員複素環が好ましく、イミダゾール環がより好ましい。上記一般式(1)で表される単位中のAは、それぞれ独立しており、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中には、2種以上の、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基が存在していてもよい。
【0034】
上記含窒素芳香族複素環の置換基としては、特に限定されないが、例えば、アルキル基;シクロアルキル基;アルケニル基;アリール基;アリールアルキル基;アルキルアリール基;アルコキシル基;アルコキシアルキル基;アリールオキシ基;アルカノール基;水酸基;カルボニル基;アルコキシカルボニル基;アミノ基;イミノ基;ニトリル基;アルキルシリル基;ハロゲン原子;などが挙げられる。
【0035】
本発明において、上記一般式(1)中のAで表されるカチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基としては、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【化4】

(上記一般式(2)中に表されているN−は、上記一般式(1)において、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している。また、上記一般式(2)中に表されているRは、水素原子、または炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0036】
上記一般式(2)中に表されているRは、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0037】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、上記一般式(1)で表される単位の含有割合は、全単量体単位中、0.1モル%以上30モル%未満であり、0.5モル%以上25モル%未満であることが好ましく、0.7モル%以上12モル%未満であることがより好ましい。上記一般式(1)で表される単位の含有割合が前記範囲内にあると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪率が小さく、電気抵抗値が低く、かつ、体積固有抵抗値の通電上昇を抑制可能なゴム架橋物を与えることができるポリエーテルゴムが得られる。一方、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が高くなり、連続して電圧を印加した場合に電気抵抗値が上昇する場合がある。また、上記一般式(1)で表される単位の含有割合が多すぎると、カチオン化ポリエーテルゴムが硬くなり、ゴム弾性体としての特質が失われる場合がある。
【0038】
上記一般式(1)のXで表される任意の対アニオンとは、イオン結合にて、Aと結合している負の電荷を有する化合物または原子であり、負の電荷を持つこと以外は特に限定されない。対アニオンは、電離性のイオン結合であるため、公知のイオン交換反応により、少なくとも一部を、任意の対アニオンにアニオン交換することが出来る。オニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテルゴムとを混練し、かつ、反応が終了した段階においては、上記一般式(1)のXはハロゲン原子であるが、Aの対アニオンであるハロゲン原子に対し、公知のアニオン交換反応を行っても良い。アニオン交換反応は、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムに対し、電離性を有するイオン性化合物を混合することで行うことが出来る。アニオン交換反応を行う条件は、特に限定されないが、用いるイオン性化合物やオニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムの構造、目的とするAの対アニオンの置換率などに応じて決定すれば良い。反応は、イオン性化合物と、オニウムイオン含有基を有するポリエーテルゴムとのみで行っても構わないし、有機溶媒などのその他の化合物を含んだ状態で行なっても構わない。イオン性化合物の使用量は、特に限定されないが、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01〜100モル、好ましくは0.02〜50モル、より好ましくは0.03〜10モルの範囲である。イオン性化合物の量が少なすぎると、置換反応が進行しにくくなるおそれがあり、一方、多すぎると、イオン性化合物の除去が困難になるおそれがある。
【0039】
アニオン交換反応時の圧力は、通常、0.1〜50MPaであり、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.1〜5MPaである。反応時の温度は、通常、−30〜200℃、好ましくは−15〜180℃、より好ましくは0〜150℃である。反応時間は、通常、1分〜1000時間であり、好ましくは3分〜100時間であり、より好ましくは5分〜10時間であり、さらに好ましくは5分〜3時間である。
【0040】
対アニオンのアニオン種は、特に限定されないが、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;亜硫酸イオン;水酸化物イオン;炭酸イオン;炭酸水素イオン;硝酸イオン;酢酸イオン;過塩素酸イオン;リン酸イオン;アルキルオキシイオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン;ヘキサフルオロリン酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオン;などが挙げられる。
【0041】
上記一般式(1)で表される単位の、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中の含有割合(以下、「オニウムイオン単位含有率」とも記す。)を調べる方法としては、公知の方法を用いればよい。オニウムイオン単位含有率を簡便かつ定量的に求めるためには、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムをH−NMR測定することにより、オニウムイオン含有基の含有量を定量することができる。具体的には、まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出する。次に、オニウムイオン含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出する。導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、以下の一般式(4)により算出することが出来る。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1・・(4)
また、用いるオニウム化剤が、上述した反応条件において、オニウムイオン含有基の置換反応以外の反応で消費されない場合には、オニウム化剤の消費モル量は、ハロゲン原子のオニウムイオン含有基の置換モル量と等しくなる。そのため、オニウム化剤の消費モル量を、反応開始前の添加モル量A1から反応終了後の残留モル量A2を減じることにより算出し、これをオニウム化剤と反応させる前のポリエーテルゴムの全単量体単位のモル量Pにて除することにより、オニウムイオン単位含有率を、以下の一般式(5)により算出することも出来る。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×(A1−A2)/P・・(5)
消費モル量の測定に関しては、公知の測定方法を用いて構わないが、例えば、その反応率をキャピラリーカラムと水素炎イオン化型検出器(FID)とを装備したガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定することが出来る。
【0042】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位を必須とし、上記一般式(1)で表される単位、[エピハロヒドリン単量体単位、および/または不飽和オキサイド単量体単位]を含有する共重合体であることが好ましく、上記一般式(1)で表される単位、エチレンオキサイド単量体単位、[エピハロヒドリン単量体単位および/または不飽和オキサイド単量体単位]を含有する共重合体であることがより好ましく、上記一般式(1)で表される単位、エチレンオキサイド単量体単位、エピハロヒドリン単量体単位、および不飽和オキサイド単量体単位を含有する共重合体であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、架橋性単量体単位を含有することが好ましい。架橋性単量体単位としては、エピハロヒドリン単量体単位および/または不飽和オキサイド単量体単位が好ましい。
【0044】
エピハロヒドリン単量体としては、上述したエピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムに使用することができるエピハロヒドリン単量体を用いることができる。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、99.9〜0モル%であることが好ましく、78.5〜10モル%であることがより好ましく、57.3〜15モル%であることが特に好ましい。エピハロヒドリン単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、体積固有抵抗値の通電上昇を抑制可能なゴム架橋物を与えることができるポリエーテルゴムが得られる。一方、エピハロヒドリン単量体単位の含有割合が多すぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が上昇する場合があり、少なすぎると、得られるゴム架橋物の架橋が不十分となり、ゴム架橋物の形状維持が困難になる場合がある。
【0045】
不飽和オキサイド単量体単位を形成する不飽和オキサイド単量体としては、分子内に少なくとも一つの炭素−炭素不飽和結合(芳香環の炭素−炭素不飽和結合は除く)と、少なくとも一つのエポキシ基とを含有する化合物であれば、特に限定されないが、例えば、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテルなどのアルケニルグリシジルエーテル類;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド類;などが挙げられる。これらのなかでも、アルケニルグリシジルエーテル類が好ましく、アリルグリシジルエーテルがより好ましい。不飽和オキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、15〜0モル%であることが好ましく、12〜1モル%であることがより好ましく、10〜2モル%であることが特に好ましい。ポリエーテルゴム中における、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、架橋性に優れたポリエーテルゴムが得られる。一方、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪が悪化する場合がある。また、不飽和オキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、重合反応中に、ポリマー分子中あるいはポリマー分子間のゲル化反応(3次元架橋反応)などを起こし易くなって、成形加工性が低下するおそれがある。
【0046】
また、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムを導電性部材、特に導電性ロールの材料として用いる場合、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、低電気抵抗性の観点から、エチレンオキサイド単量体単位を含有していることが好ましい。
【0047】
エキレンオキサイド単量体単位は、エチレンオキサイド単量体により形成される単位である。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、90〜0モル%であることが好ましく、80〜20モル%であることがより好ましく、75〜40モル%であることが特に好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が前記範囲内にあると、低電気抵抗性に優れたポリエーテルゴムが得られる。一方、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が少なすぎると、得られるゴム架橋物の電気抵抗値の低減効果が得難くなる。また、エチレンオキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、ポリエーテルゴムの製造が困難になるおそれがある。
【0048】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムは、上記一般式(1)で表される単位、エピハロヒドリン単量体単位、不飽和オキサイド単量体単位、エチレンオキサイド単量体単位に加えて、必要に応じて、上記一般式(1)で表される単位および前記単量体単位と共重合可能なその他の単量体単位を含有する共重合体であってもよい。その他の単量体単位のなかでも、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位が好ましい。エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位を形成するアルキレンオキサイド単量体としては、特に限定されないが、例えば、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−4−クロロペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサン、1,2−エポキシイソブタン、2,3−エポキシイソブタンなどの直鎖状または分岐鎖状アルキレンオキサイド;1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカンなどの環状アルキレンオキサイド;ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどのアルキル直鎖または分岐鎖を有するグリシジルエーテル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどのオキシエチレン側鎖を有するグリシジルエーテル;などが挙げられる。これらのなかでも、直鎖状アルキレンオキサイドが好ましく、プロピレンオキサイドがより好ましい。これらアルキレンオキサイド単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることがさらに好ましい。ポリエーテルゴム中における、エチレンオキサイドを除いたアルキレンオキサイド単量体単位の含有割合が多すぎると、得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値が上昇するおそれがある。
【0049】
また、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテルなどのアリールエポキシド類;などが挙げられる。本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム中における、アルキレンオキサイド単量体を除く、その他の共重合可能な単量体単位の含有割合は、全単量体単位中、20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムの重量平均分子量は、20万〜200万であることが好ましく、40万〜150万であることがより好ましい。重量平均分子量が高すぎると、ムーニー粘度が高くなり、成形加工が難しくなるおそれがある。一方、重量平均分子量が低すぎると、得られるゴム架橋物の圧縮永久歪が悪化するおそれがある。
【0051】
本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー粘度・ML1+4,100℃)は、10〜120であることが好ましく、20〜90であることがより好ましい。ムーニー粘度が高すぎると、成形加工性に劣り、導電性部材用途への成形がし難くなる。更に、スウェル(押し出し成形時にダイの径より押出物の径が大きくなること)が発生し、寸法安定性が低下するおそれがある。一方、ムーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがある。
【0052】
本発明のゴム組成物の製造方法は、本発明のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対し、0.1〜10重量部の架橋剤を配合する工程を有する。
【0053】
本発明で用いる架橋剤としては、上述した架橋性単量体単位の有無、およびその種類などにより適宜選択すればよいが、本発明のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴムを架橋可能なものであれば、特に限定されない。このような架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;s−トリアジン−2,4,6−トリチオールなどのトリアジン系化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;などが挙げられる。これらのなかでも、硫黄、含硫黄化合物、トリアジン系化合物が好ましく、架橋性単量体として、不飽和オキサイド単量体を用いる場合は、硫黄、含硫黄化合物がより好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。架橋剤の配合割合は、本発明のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対し、0.1〜10重量部であり、0.2〜7重量部がより好ましく、0.3〜5重量部がさらに好ましい。架橋剤の配合量が少なすぎると、架橋速度が遅くなり、得られるゴム架橋物の生産性が低下したり、ゴム架橋物を研磨して使用する場合に研磨性が低下したりするおそれがある。一方、架橋剤の配合量が多すぎると、得られるゴム架橋物の硬度が高くなったり、架橋剤がブルームしたりする可能性がある。
【0054】
架橋剤として、硫黄または含硫黄化合物を用いる場合には、架橋促進助剤、および架橋促進剤を併用することが好ましい。架橋促進助剤としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸などが挙げられる。架橋促進剤としては、特に限定されないが、例えば、グアニジン系;アルデヒド−アミン系;アルデヒド−アンモニア系;チアゾール系;スルフェンアミド系;チオ尿素系;チウラム系;ジチオカルバミン酸塩系;などの各架橋促進剤を用いることができる。架橋助剤および架橋促進剤は、それぞれ1種を単独で使用してもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0055】
架橋促進助剤および架橋促進剤の各使用量は、特に限定されないが、本発明のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対して、0.01〜15重量部が好ましく、0.1〜10重量部がより好ましい。架橋促進助剤および架橋促進剤の使用量が多すぎると、架橋速度が早くなりすぎたり、得られるゴム架橋物の表面にブルームしたりするおそれがある。一方、少なすぎる場合は、架橋速度が遅くて生産性に劣ったり、架橋が十分に進行せず、得られるゴム架橋物の機械的特性が劣るおそれがある。
【0056】
また、本発明の製造方法により得られるゴム組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、およびこれらゴムの部分水素添加物(例えば、水素化ニトリルゴム)などのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテル系ゴム(本発明のポリエーテルゴムを除く)、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどのジエン系ゴム以外のゴム;オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリ塩化ビニル、クマロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂;を含有していても良い。これらのゴム、熱可塑性エラストマー、および樹脂は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、これらの合計含有量は、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対して、100重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましく、20重量部以下が特に好ましい。
【0057】
さらに、本発明の製造方法により得られるゴム組成物には、上述した添加剤以外に、公知のゴムに通常配合されるその他の添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、特に限定されないが、例えば、充填剤;受酸剤;補強剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;耐光安定剤;粘着付与剤;界面活性剤;導電性付与剤;電解質物質;着色剤(染料・顔料);難燃剤;帯電防止剤;などが挙げられる。
【0058】
本発明の製造方法により得られるゴム組成物は、本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムに、架橋剤、更には必要に応じて用いられる各添加剤を、所望の方法により調合、混練することにより調製することができる。例えば、架橋剤および架橋促進剤を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとを混練後、その混合物に架橋剤および架橋促進剤を混合して、ゴム組成物を得ることができる。調合、混練に際しては、例えば、ニーダー、バンバリー、オープンロール、カレンダーロール、押出機など任意の混練成形機を一つあるいは複数組み合わせて用いて混練成形してもよい。架橋剤および架橋促進剤を除く添加剤と、ポリエーテルゴムとの混練温度は、20〜200℃が好ましく、20〜150℃がより好ましく、その混練時間は、30秒〜30分が好ましく、混練物と、架橋剤および架橋促進剤との混合温度は、100℃以下が好ましく、0〜80℃がより好ましい。
【0059】
本発明のゴム架橋物の製造方法は、本発明の製造方法により得られるゴム組成物を架橋する工程を有する。
【0060】
本発明の製造方法により得られるゴム組成物を架橋する方法は、特に限定されないが、成形と架橋を同時に行っても、成形後に架橋してもよい。成形時の温度は、20〜200℃が好ましく、40〜180℃がより好ましい。架橋時の加熱温度は、130〜200℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。架橋時の温度が低すぎると、架橋時間が長時間必要となったり、得られるゴム架橋物の架橋密度が低くなったりするおそれがある。一方、架橋時の温度が高すぎると、成形不良となるおそれがある。架橋時間は、架橋方法、架橋温度、形状などにより異なるが、1分以上、5時間以下の範囲が架橋密度と生産効率の面から好ましい。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、およびマイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。
【0061】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋を行う際における、加熱温度は、100〜220℃が好ましく、130〜210℃がより好ましい。加熱時間は、30分〜5時間が好ましい。
【0062】
本発明の製造方法により得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値は、温度23℃、湿度50%とした測定環境にて、印加電圧を1000Vとし、電圧印加開始から30秒後の値において、通常、1×105.0〜1×109.5Ω・cmであり、好ましくは1×105.2〜1×108.0Ω・cmであり、より好ましくは1×105.5〜1×107.5Ω・cmである。ゴム架橋物の体積固有抵抗値が前記範囲内にあると、低電気抵抗性に優れた導電性部材が得られる。一方、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が高すぎると、同じ電流を流すためにより高い電圧を印加しなければならず、消費電力量が多くなることから導電性部材には不向きである。また、ゴム架橋物の体積固有抵抗値が低すぎると、電圧印加方向以外の意図しない方向に電流が流れてしまい、導電性部材としての機能を損ねるおそれがある。
【0063】
本発明の製造方法により得られるゴム架橋物の体積固有抵抗値の通電上昇値は、前記体積固有抵抗値の測定条件において、電圧印加開始から10分後のlog(体積固有抵抗値)から、電圧印加開始から30秒後のlog(体積固有抵抗値)を減じたものにおいて、0〜0.5の範囲にあることが好ましい。
【0064】
本発明の製造方法により得られるゴム架橋物は、上述した本発明の製造方法により得られるポリエーテルゴムを用いているため、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するものである。
【0065】
本発明の製造方法により得られるゴム架橋物は、その特性を活かして、各種工業ゴム製品用材料として有用であり、例えば、複写機や印刷機などに使用される、導電性ロール、導電性ブレード、導電性ベルトなどの導電性部材;靴底やホース用材料;コンベアーベルトやエスカレータのハンドレールなどのベルト用材料;シール、パッキン用材料;などとして用いることができる。特に、本発明の製造方法により得られるゴム架橋物は、電気抵抗値のばらつきが少なく、電気抵抗値が低く、かつ、連続使用した場合でも電気抵抗値の上昇を抑制するものであるため、複写機や印刷機などに使用される導電性部材、特に、導電性ロールに好適に用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0067】
各種の物性については、以下の方法に従って評価した。
[オニウムイオン単位含有率]
実施例におけるオニウムイオン単位含有率の測定は、核磁気共鳴装置(H−NMR)を用いて、以下のように行った。オニウム化反応後、凝固乾燥して得られたカチオン化ポリエーテルゴム30mgを、1.0mlの重クロロホルムに加え、1時間振とうすることにより均一に溶解させた。この溶液を、H−NMR測定することによりオニウムイオン単位含有率を算出した。まず、カチオン化ポリエーテルゴムの主鎖であるポリエーテル鎖に由来するプロトンの積分値から、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1を算出した。次に、オニウム含有基に由来するプロトンの積分値から、導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を算出した。導入されているオニウムイオン単位(上記一般式(1)で表される単位)のモル数B2を、ポリマー中の全単量体単位(オニウムイオン単位を含む)のモル数B1で除することにより、オニウムイオン単位含有率を、以下の一般式(4)により算出した。
オニウムイオン単位含有率(モル%)=100×B2/B1・・(4)
[ムーニー粘度]
ムーニー粘度は、JIS K6300に従って、100℃で測定した。
[体積固有抵抗値(23℃、50%RH)]
ゴム組成物を温度160℃、30分間のプレスによって成形、架橋し、縦15cm、横10cm、厚さ2mmのシート状のゴム架橋物(シート状試験片)を得た。そして、得られたシート状のゴム架橋物を用いて、体積固有抵抗値を測定した。なお、体積固有抵抗値の測定は、K6271の2重リング電極法に準拠して行い、測定条件は、温度23℃、湿度50%とし、印加電圧は1000Vとし、電圧の印加を開始してから30秒後の値を測定した。
[体積固有抵抗値の通電上昇値(23℃、50%RH)]
体積固有抵抗値の通電上昇値は、上記の体積固有抵抗値の測定条件にて、電圧の印加を開始してから10分後のlog(体積固有抵抗値)から、電圧の印加を開始してから30秒後のlog(体積固有抵抗値)を減じたものとした。
通電上昇改善率は、以下の一般式(6)で定義した。
通電上昇改善率(%)=100×[(オニウム化剤と反応させる前のポリエーテルゴムの体積固有抵抗値の通電上昇値)−(カチオン化ポリエーテルゴムの体積固有抵抗値の通電上昇値)]/(オニウム化剤と反応させる前のポリエーテルゴムの体積固有抵抗値の通電上昇値)・・(6)
【0068】
[圧縮永久歪率の測定]
ゴム組成物を温度160℃、30分間のプレスによって成形、架橋し、直径29mm、高さ12.7mmの円柱型のゴム架橋物(円柱型試験片)を得た。そして、JIS K6262に従い、得られたゴム架橋物を25%圧縮させた状態で、70℃の環境下で22時間放置した後、圧縮を解放して圧縮永久歪率を測定した。圧縮永久歪率は、数値が小さいほど、ゴム弾性を保持しており、ゴムとして優れている。
【0069】
(製造例1、重合触媒の製造)
密閉した耐圧ガラス容器を窒素置換して、トルエン200部およびトリイソブチルアルミニウム60部を供給した。このガラスボトルを氷水に浸漬して冷却後、ジエチルエーテル230部を添加し、攪拌した。次に、氷水で冷却しながら、リン酸13.6部を添加し、さらに攪拌した。この時、トリイソブチルアルミニウムとリン酸の反応により、容器内圧が上昇するので適時脱圧を実施した。得られた反応混合物は60℃の温水浴内で1時間熟成反応して触媒溶液を得た。
【0070】
(製造例2、ポリエーテルゴムAの製造)
オートクレーブにエピクロロヒドリン223.5部、アリルグリシジルエーテル27.5部、エチレンオキサイド19.7部、トルエン2585部を入れ、窒素雰囲気下で攪拌しながら内溶液を50℃に昇温し、上記で得た触媒溶液11.6部を添加して反応を開始した。次に、反応開始からエチレンオキサイド129.3部をトルエン302部に溶解した溶液を5時間かけて等速度で連続添加した。また、反応開始後30分毎に触媒溶液6.2部ずつを5時間にわたり添加した。次いで、水15部を添加して攪拌し、反応を終了させた。ここに更に、老化防止剤として4,4’−チオビス−(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の5%トルエン溶液45部を添加し、攪拌した。スチームストリッピングを実施してトルエンを除去し、上澄み水を除去後、60℃にて真空乾燥し、ポリエーテルゴムA 400部を得た。このポリエーテルゴムAの単量体組成比は、エピクロロヒドリン単量体単位40モル%、エチレンオキサイド単量体単位56モル%、アリルグリシジルエーテル単量体単位4モル%であった。また、ムーニー粘度は60であった。
【0071】
〔実施例1〕
(カチオン化ポリエーテルゴム1の製造)
25℃のオープンロールに、ポリエーテルゴムA100部と、1−メチルイミダゾール5.0部とを投入し、5分間混練した後、その混合物を、100℃に加熱したオーブンにセットし、24時間反応させた。その後、オーブンから、カチオン化ポリエーテルゴム1を、収量105部にて回収した。得られたカチオン化ポリエーテルゴム1を、上述した方法に従って、H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。得られたカチオン化ポリエーテルゴム1のオニウムイオン単位含有率は3.23モル%、ムーニー粘度は53であった。
【0072】
(ゴム組成物1、およびゴム架橋物1の製造)
バンバリーミキサーに、上記にて得られたカチオン化ポリエーテルゴム1 100部、充填剤としてカーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)10部、架橋促進助剤としての亜鉛華1号(ZnO#1、正同化学社製)5部、架橋促進助剤としてのステアリン酸0.5部を投入し、50℃で5分間混練後、バンバリーミキサーからゴム組成物を排出させた。次いで、50℃のオープンロールに、このゴム組成物と、架橋剤としての硫黄(サルファックスPMC、鶴見化学工業社製)0.5部、架橋剤としてのモルホリンジスルフィド(バルノックR、大内新興化学工業社製)1部、架橋促進剤としての、テトラエチルチウラムジスルフィド(ノクセラーTET、大内新興化学工業社製)1部およびジベンゾチアジルジスルフィド(ノクセラーDM、大内新興化学工業社製)1.5部とを投入し、10分間混練後、ゴム組成物1を調製した。このゴム組成物1を、160℃で30分間プレス架橋してゴム架橋物1(試験片1)を作製し、この試験片1について、体積固有抵抗値(23℃、50%RH)などの物性評価を行った。表1にその結果を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
〔実施例2〕
(カチオン化ポリエーテルゴム2の製造)
25℃のオープンロールに、ポリエーテルゴムA100部と、1−メチルイミダゾール7.4部とを投入し、5分間混練した後、その混合物を、100℃に加熱したオーブンにセットし、24時間反応させた。その後、オーブンから、カチオン化ポリエーテルゴム2を、収量107部にて回収した。得られたカチオン化ポリエーテルゴム2を、上述した方法に従って、H−NMR測定することにより、オニウムイオン単位含有率を算出した。得られたカチオン化ポリエーテルゴム2のオニウムイオン単位含有率は4.75モル%、ムーニー粘度は50であった。
【0075】
(ゴム組成物2、およびゴム架橋物2の製造)
カチオン化ポリエーテルゴム1 100部を用いる代わりに、カチオン化ポリエーテルゴム2 100部を用いた以外は実施例1と同様に行い、ゴム組成物2、およびゴム架橋物2(試験片2)を調製および作製し、この試験片2について、体積固有抵抗値(23℃、50%RH)などの物性評価を行った。表1にその結果を示す。
【0076】
〔比較例1〕
(ゴム組成物3、およびゴム架橋物3の製造)
カチオン化ポリエーテルゴム1 100部を用いる代わりに、ポリエーテルゴムA 100部を用いた以外は、実施例1と同様にして、ゴム組成物3、およびゴム架橋物3(試験片3)を調製および作製し、この試験片3について、体積固有抵抗値(23℃、50%RH)などの物性評価を行った。表1にその結果を示す。
【0077】
表1に示すように、本発明の製造方法により得られたポリエーテルゴムを用いたゴム架橋物1および2(実施例1および実施例2)は、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基を有していないベースポリエーテルゴムを用いたゴム架橋物3(比較例1)に対し、体積固有抵抗値が低下しており、また、体積固有抵抗値の通電上昇値も抑制されていた。更に、本発明の製造方法により得られたポリエーテルゴムを用いたゴム架橋物1および2(実施例1および実施例2)は、圧縮永久歪率も小さいことから、ゴム弾性を保持しており、導電性部材用途に適していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピハロヒドリン単量体単位を含有するポリエーテルゴムと、前記エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、0.02〜50モルの窒素原子含有芳香族複素環式化合物とを混練し、かつ、40〜160℃で反応させることにより、前記ハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基に置換することを特徴とする、下記一般式(1)で表される単位を、0.1モル%以上30モル%未満含有するポリエーテルゴムの製造方法。
【化1】

(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性含窒素芳香族複素環を含有する基である。該カチオン性含窒素芳香族複素環中の窒素原子の1つは、上記一般式(1)に示す2の位置の炭素原子と結合している。Xは任意の対アニオンである。)
【請求項2】
前記窒素原子含有芳香族複素環式化合物が、五員複素環式化合物または六員複素環式化合物である、請求項1に記載のポリエーテルゴムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリエーテルゴムの製造方法により得られるポリエーテルゴム100重量部に対し、0.1〜10重量部の架橋剤を配合する工程を有する、ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物を架橋する工程を有する、ゴム架橋物の製造方法。

【公開番号】特開2012−107230(P2012−107230A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236678(P2011−236678)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】