説明

ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法

【課題】ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】複合金属酸化物触媒の存在下で、ワンステップアルコキシ化工程によって、アルキル脂肪酸エステル化合物をアルキルエポキシドと反応させ、モノエステルの含有量の高い式(II)のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルを生成する。


(Rは、炭素数3〜40のアルキル基又はアルケニル基であり、Rは、炭素数2〜8のアルキル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、nは1〜50の正の整数である。)前記複合金属酸化物触媒は、複合金属塩基性炭酸塩水和物を、溶剤なしに、700℃〜900℃で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理を行わないで得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性界面活性剤の製造方法に関し、特に、複合金属酸化物触媒を用いて、ワンステップアルコキシ化(one−step alkoxylation)工程によって、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
界面活性剤は、一般に、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤(nonionic surfactant)に分けられる。脂肪酸エステル(fatty acid ester)は、エステル型(ester−type)非イオン性界面活性剤の一種である。その内、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(fatty acid ester of polyoxyalkylene alkyl ether)非イオン界面活性剤は、高清浄度、低起泡性、希釈容易性を有し、生物分解性に優れる。そして、このような脂肪酸エステルは、原料の源として、天然のヤシ油又はパーム油を採用することができ、人体に対する毒性が低く、石油化学工業によるシントールの使用量を削減することができ、環境保全にも貢献する。
【0003】
脂肪酸エステルは活性水素を有しないため、一般には、従来のアルカリ金属触媒又は酸触媒を用いて、アルキルエポキシドを脂肪酸エステルと直接に反応させることで、モノエステルの含有量の高いポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルを合成することは困難である。そして、従来のアルカリ金属触媒又は酸触媒は、反応に用いられた後、リサイクルすることが難しく、環境にも負担となる。
【0004】
従来、共沈技術によって複合金属酸化物触媒を製造することがあるが、この方法で触媒を製造すれば、以下の問題がある。まず、共沈技術によって触媒を製造すれば、時間が長く、廃水量が多く、その品質を制御することが困難であるため、コストが高くなる。そして、共沈技術によって製造された複合金属酸化物触媒は、アルコキシ化工程に用いられる場合、使用量が多く、約1.0重量百分率(重量%)〜3.0重量%程度であり、反応した後で濾し難くなり、製造コストが高くなり発生した廃棄物の量も増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑みて、従来の工程の上述の欠点を克服するポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのため、本発明の一態様は、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、ワンステップアルコキシ化工程によって、モノエステルの含有量の高い非イオン性界面活性剤を調製することを特徴とするポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を提供する。本発明の一態様によれば、モノエステルの収率を向上させ、触媒を繰り返し使用することが可能となり、更に、環境負荷を低減させることができる。
【0007】
本発明の上記態様によれば、ワンステップアルコキシ化工程からなることを特徴とするポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を提供する。一実施例において、ワンステップアルコキシ化工程では、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、式(I)で示されるアルキル脂肪酸エステル化合物(A)をアルキルエポキシド(C)と前記ワンステップアルコキシ化反応させることで、式(II)のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を得る。
【化1】


【化2】

【0008】
一例示において、式(I)中、Rは、炭素数3〜40のアルキル基又はアルケニル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、前記アルキルエポキシド(C)は、炭素数2〜8のアルコキシ化合物である。式(II)中、nは1〜50の正整数である。別の例示において、複合金属酸化物触媒(B)は、式(III)で示される複合金属塩基性炭酸塩水和物を、溶剤なしに、700℃〜900℃で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理が行わないで得る。式(III)中、Mはアルカリ土類金属であり、MはIIIA族金属であり、yに対するxの比率は、1〜5であり、m、q、zは、それぞれ0〜20であり、
1x・2y・(OH)m・(COq・zHO (III)
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)とアルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100.0重量%であること対して、前記複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量%〜0.5重量%である。
【0009】
本発明の一実施例によると、前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(IV)に示される構成を有し、
nMgOAl3・pHO (IV)
但し、式(IV)中、nは1〜20であり、pは0〜20の正整数である。
【0010】
本発明の一実施例によると、前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、モノエステルの含有量が90.0%を超える。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を応用すれば、それにより製造されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、ワンステップアルコキシ化工程によって得ることができる。本発明により得られるポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、非イオン性界面活性剤として、従来の工程の時間とコストを節約し、モノエステルの収率を向上させ、のみならず、触媒を繰り返し使用することが可能で、更に、環境負荷を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例のマグネシウムアルミニウムオキシド触媒のX線回折分析図である。
【図2】本発明の一実施例のMg−Alハイドロタルサイトの異なる焼成温度での熱重量分析を示すチャートである。
【図3】合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルの異なる濃度で測定した表面張力を示す曲線図である。
【図4】合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルと比較例1のポリエチレングリコールラウリルアルコールエーテルの発泡高さ及び消泡高さを示す棒グラフである。
【図5】合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルと比較例1のポリエチレングリコールラウリルアルコールエーテルの0.1重量%水溶液で測定した浸透力を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述のように、本発明は、ワンステップアルコキシ化工程によって、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、モノエステルの含有量の高い非イオン性界面活性剤を調製するポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)の製造方法を提供する。以下、これについて詳しく説明する。
【0014】
(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル)
本実施の形態のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、ワンステップアルコキシ化工程によって、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、式(I)で示されるアルキル脂肪酸エステル化合物(A)をアルキルエポキシド(C)とワンステップアルコキシ化反応させることで直接に得ることができる。一実施例において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、式(II)で示される構成を有することができる。
【化3】


【化4】

【0015】
式(I)中、Rは、炭素数3〜40のアルキル基又はアルケニル基であり、Rは、炭素数1〜4のアルキル基である。ここで、「アルキル基」又は「アルケニル基」とは、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基を指す。別の例示において、Rは、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基であり、アルキル脂肪酸エステル化合物(A)の具体例としては、例えば、オクタン酸メチル、オクタン酸エチル、オクタン酸プロピル、オクタン酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸ブチル、ヘキサデカン酸メチル、ヘキサデカン酸エチル、ヘキサデカン酸プロピル、ヘキサデカン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチルなどが挙げることができる。
【0016】
一実施例において、アルキルエポキシド(C)は、複合金属酸化物触媒(B)の触媒作用によって、アルキル脂肪酸エステル化合物(A)末端のエステル基に挿入することで、モノエステルの含有量の高いポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を得ることができる。一例示において、前記アルキルエポキシド(C)は、炭素数2〜8のアルコキシ化合物である。別の例示において、アルキルエポキシド(C)は、炭素数2〜4のアルキルエポキシドであることが好ましく、その具体例としては、例えば、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドを挙げることができる。
【0017】
注意すべきなのは、一実施例において、前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(III)で示される複合金属塩基性炭酸塩水和物を、溶剤なしに、700℃〜900℃で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理を行わないで得られることである。式(III)中、Mはアルカリ土類金属の何れか一つであり、MはIIIA族金属の何れか一つであり、yに対するxの比率は、1〜5であり、m、q、zは、それぞれ0〜20の整数であり、
1x・2y・(OH)m・(COq・zHO (III)
アルキル脂肪酸エステル化合物(A)とアルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100.0重量%であることに対して、複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量%〜0.5重量%である。好ましくは、0.1重量%〜0.3重量%である。この実施例において、得られた複合金属酸化物触媒(B)は、式(IV)に示される構成を有し、
nMgOAl3・pHO (IV)
上記式(IV)中、好ましくは、nが1〜20の正の整数、pが0〜20の整数である複合金属酸化物触媒(B)である。
【0018】
他の実施例において、前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(III’)で示される水酸化アルミニウムマグネシウム炭酸塩水和物(Aluminium Magnesium Carbonate Hydroxide Hydrate)を、溶剤なしに、700℃〜900℃の温度で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理が行わないで得る。式(III’)中、yに対するxの比率は、1〜5であり、m、q、zは、それぞれ0〜20の整数であり、
Mgx・Aly・(OH)m・(COq・zHO (III’)
式(III’)で示される水酸化アルミニウムマグネシウム炭酸塩水和物が焼成された後、得られた複合金属酸化物触媒(B)は、上記式(IV)で示される構成を有する。
【0019】
注意すべきなのは、式(III)で示される水酸化アルミニウムマグネシウム炭酸塩水和物を、溶剤あり、又は700℃以下の温度で焼成させれば、得られたマグネシウムアルミニウムオキシド製造物には、依然として二酸化炭素(CO)及び結晶水が残留しており、アルキル脂肪酸エステル化合物(A)とアルキルエポキシド(C)を効果的に触媒してワンステップアルコキシ化反応させることで、式(II)のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を製造することができなくなる。
【0020】
ワンステップアルコキシ化反応を行う場合、本発明の複合金属酸化物触媒(B)は、従来の触媒の使用量よりかなり少ない量だけで、アルキルエポキシド(C)をアルキル脂肪酸エステル化合物(A)末端のエステル基に効果的に挿入することができる。一実施例において、アルキル脂肪酸エステル化合物(A)とアルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100.0重量%であることに対して、複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量%〜0.5重量%であり、好ましくは、0.1重量%〜0.3重量%である。
【0021】
一実施例において、アルキルエポキシド(C)とアルキル脂肪酸エステル化合物(A)は、複合金属酸化物触媒(B)の触媒作用で、120℃〜190℃の温度及び窒素の存在下で、1大気圧〜5大気圧の圧力下で、ワンステップアルコキシ化反応を行う。別の実施例において、アルキルエポキシド(C)とアルキル脂肪酸エステル化合物(A)は、複合金属酸化物触媒(B)の触媒作用で、160℃〜190℃の温度及び窒素の存在下で、また、約4大気圧の圧力下で、ワンステップアルコキシ化反応を行う。
【0022】
一実施例において、これにより得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、モノエステルの含有量が90.0%を超える。前記モノエステルの含有量は、ピーク面積パーセント(面積 %)から算出して行った。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を説明するが、それは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様な変更や修正を加えることができる。
【0024】
(実施例1:複合金属酸化物触媒(B)の調製)
実施例として、複合金属酸化物触媒(B)を調製した。まず、構造式Mg6・Al2・(OH)16・(CO4HOのMg−Alハイドロタルサイト(Mg−Al hydrotalcite)800gを匣鉢(箱サヤ)に入れた。続いて、Mg−Alハイドロタルサイトを含有する匣鉢を高温炉に入れ、溶剤なしに、700℃〜900℃又は800℃に昇温させ、温度を保って5時間焼成させた後、室温まで冷却して、マグネシウムアルミニウムオキシド触媒(B)を得た。
【0025】
本発明の一実施例のマグネシウムアルミニウムオキシド触媒のX線回折(X−ray diffraction;XRD)分析図である図1を参照した。その結果は、市販のXRDシステム、例えば、X線回折計(注:RIGAKU Corporation社製、機種番号:D/MAX、日本)によって分析された。図1において、横軸は、ハイドロタルサイト又は触媒の回折角(diffraction angle;2θ)であり、縦軸は、異なる焼成温度でのハイドロタルサイト又は触媒のX線回折の信号強度(intensity;任意単位(arbitrary units;a.u.)である。図1の結果から、Mg−Alハイドロタルサイトを700℃〜900℃で焼成させると、マグネシウムアルミニウムオキシド触媒が形成されることが判明した。
【0026】
また、本発明の一実施例のMg−Alハイドロタルサイトの異なる焼成温度での熱重量分析(thermogravimetry analysis;TGA)を示すチャートである図2を参照した。その結果は、市販の熱重量分析計、例えば、熱重量分析計(TA、機種番号Q50、アメリカ)によって分析された。図2において、横軸は温度(℃)であり、縦軸は、重量百分率(重量%)である。図2の結果から、Mg−Alハイドロタルサイトを700℃以下の温度で焼成させ、得られたマグネシウムアルミニウムオキシド製造物には、依然として二酸化炭素(CO)及び結晶水が残留することが判明した。但し、Mg−Alハイドロタルサイトを、溶剤なしに、700℃〜900℃の温度で焼成させると、二酸化炭素及び結晶水は残留しなかった。
【0027】
(実施例2:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)の調製)
[合成例1]
ラウリン酸メチルエステル(lauryl methyl ester;358g、1.62mole)、及び実施例1により得られたマグネシウムアルミニウムオキシド触媒(3g)を反応槽に置いた。この反応槽は、高温高圧に耐えるステンレス製であってもよい。続いて、反応槽における空気を窒素に置換した後、昇温工程を行い、反応槽内の温度を160℃〜190℃にした。その後、圧力が約4大気圧に制御された反応槽に、エチレンオキシド(642g、14.59mole)をゆっくりと導入し、エトキシ化(ethoxylation)反応を行った。2時間熟成した後で降温させ、得られた製造物を濾過して触媒を濾した後、ポリエチレングリコールラウリン酸メチル[D−1、エチレンオキシド(EO)付加数が9であり、曇点(1.0重量%水溶液)が53.4℃であり、収率>90.0%である。]を得た。その結果を表1に示す。
【0028】
[合成例2〜3]
合成例2〜3においては、アルキル脂肪酸エステル化合物(A)の種類及びエチレンオキシド付加数を変えた以外、合成例1のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの合成方法と同様にした。得られた製造物が濾過された後、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を得た。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
化合物
A−1:ヘキサン酸メチル
A−2:オクタン酸メチル
A−3:カプリン酸メチル
A−4:ラウリン酸メチル
A−5:ヘキサデカン酸メチル
B−1:マグネシウムアルミニウムオキシド触媒(6MgOAl3・pHO)
C−1:エチレンオキシド
*:曇点(1.0重量% in 5v/v% BC)(℃)
【0031】
(実施例3:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)の評価)
この実施例は、実施例2により得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を用いて、非イオン界面活性剤としての効果を評価した。
【0032】
1.表面張力の評価
この実施例では、市販の表面張力測定システム、例えば、表面張力測定器(surface tensiometer)(協和界面科学株式会社製(Kyowa Interface Science Co.,Ltd.)、機種番号:CBVP−A3、日本)によって、合成例1〜3により得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの表面張力(γ;dyne/cm)及び臨界ミセル濃度(critical micelle concentration;CMC)を測定した。得られた結果は、表1及び図3に示す。
【0033】
合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチル(D−1、EO付加数が9である。)の異なる濃度で測定した表面張力を示す曲線図である図3を参照した。横軸は、重量百分率(重量%)であり、縦軸は、表面張力(γ;dyne/cm)である。図3の結果から、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルの表面張力(γ、0.01重量%水溶液)は、約30dyne/cmであることが判明した。合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルは、水の表面張力を低下する特性に優れることが明らかになった。
【0034】
2.消泡力の評価
この実施例では、ロスマイルス法(Ross−Mile test;ISO−696−1975)によって消泡力を測定した。簡単に言えば、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチル(D−1、EO付加数が9である。)を、濃度0.1重量%の供試水溶液に調製し、例えば、1000mLを取って、25℃の恒温槽に30分置いた。続いて、恒温処理された供試水溶液を200mL取り、Ross−Mile管柱を洗浄して潤してから排出し、また、供試水溶液を50mL取り、泡なしに、Ross−Mile管柱に入れた。その後、恒温処理された供試水溶液を200mL取り、Ross−Mile管柱の上端から注入して、20秒〜25秒以内で注入を完了し、注入された溶液の泡高(即ち、発泡高さ)を記録して、時間を計り始め、5分後、泡高(即ち、消泡高さ)をもう一度観察して記録した。溶液を注入して発泡高さと消泡高さを記録する工程を、少なくとも3回繰り返して、その平均値を計算し、得られた結果は表1と図4に示す通りである。全ての結果は、p<0.05で統計的有意性を有することを示す。
【0035】
合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルの発泡高さと消泡高さを示す棒グラフである図4を参照する。横軸は、異なるグループであり、縦軸は、発泡高さと消泡高さ(センチメートル)である。図4の結果から、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルは、発泡高さ(約10センチメートル)が比較例1の発泡高さ(約11センチメートル)に接近するが、合成例1の消泡高さ(約3センチメートル)が比較例1の消泡高さ(約10センチメートル)より遥かに低いため、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルが、良好な消泡力を提供することが明らかになった。
【0036】
3.水への溶解度の評価
まず、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチル(D−1、EO付加数が9である。)を、25℃で異なる濃度の供試水溶液(例えば10.0重量%〜90.0重量%)に調製して、水への溶解度を観察した。得られた結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果から、比較例1に比べ、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルは、水への溶解度が約90.0重量%に達することができることが判明した。合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルは、水への良好な溶解度を提供することが明らかになった。
【0039】
4.浸透力の評価
まず、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチル(D−1、EO付加数が9である。)を、濃度0.1重量%の供試水溶液に調製し、例えば、80mLを取って、100mLのビーカーに入れ、25℃で30分静置した。続いて、ピンセットで一枚の書道毛布(例えば、直径が約2.5センチメートルで、厚みが約0.3センチメートルで、角欠けのない円形の書道毛布)を挟み、上述の供試水溶液の表面に泡なしに、その上に軽く置いた。その後、浸透時間として、書道毛布が異なる濃度の供試水溶液において、液面からビーカーの底まで降下した時間を記録した。各濃度の供試水溶液の時間は、少なくとも3つのサンプルを得て、その平均値を算出した。得られた結果を、表1と図5に示す。全ての結果は、p<0.05で統計的有意性を有することを示す。
【0040】
合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチル(D−1、EO付加数が9である。)と比較例1のポリエチレングリコールラウリルアルコールエーテル(polyethylene glycol lauryl alcohol ether)の0.1重量%水溶液で測定した浸透力を示す棒グラフである図5を参照した。横軸は、異なるグループであり、縦軸は、書道毛布の浸透時間(秒)である。図5の結果から、合成例1により得られたポリエチレングリコールラウリン酸メチルの浸透時間(約7.5秒)と比較例1の浸透時間(約5.0秒)とは、統計学的に顕著な相違はないことが判明した。
【0041】
(比較例1)
また、ポリエチレングリコールラウリルアルコールエーテル(EO付加数が7であり、曇点(1.0重量%水溶液)が53.0℃である。)を比較例として、上述の各評価方式によって評価したところ、得られた浸透時間は約5.0秒であり、発泡高さは約11センチメートルであり、消泡高さは約10センチメートルであった。上述の実施例に比べ、比較例1のポリエチレングリコールラウリルアルコールエーテルの消泡力及び水への溶解度は、何れも本発明の合成例1により得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(ポリエチレングリコールラウリン酸メチル)に及ばなかった。
【0042】
上述の実験例により得られたデータは、何れも市販の統計ソフトウェアによって統計分析されたものである。各グループのデータは、少なくとも3つのサンプルによって得られた平均値である。全ての結果は、p<0.05で統計的有意性を有することを示す。
【0043】
以上をまとめて言えば、本発明は、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、ワンステップアルコキシ化工程によって、非イオン性界面活性剤又はその他の応用として利用することが可能な、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を得るためのポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を提供する。ここで補足すべきことは、本発明は、特定の組成物、特定の分析方式、特定の試験、特定の反応条件、又は特定の設備等を例示することによって、本発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法を説明したが、当業者であれば分かるように、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の精神と領域から逸脱しない限り、本発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル之製造方法は、他の組成物、他の分析方式、他の試験、他の反応条件、相当する等級の他の材料又は他の設備等を用いて行うことも可能である。
【0044】
本発明の上述実施例から分かるように、本発明のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法の長所の1つは、複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、ワンステップアルコキシ化工程によって、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルを得られることにある。得られたポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、非イオン性界面活性剤に適し、従来の製造工程の時間とコストを節約し、モノエステルの収率を向上させ、のみならず、触媒を繰り返し使用することが可能で、更に、環境負荷を低減させることができる。
【0045】
本発明では実施例を前述の通りに開示したが、これは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と領域から逸脱しない限り、多様な変更や修正を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、下記特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワンステップアルコキシ化(one−step alkoxylation)工程からなるポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法であって、
複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、式(I)で示されるアルキル脂肪酸エステル化合物(A)を、アルキルエポキシド(C)とワンステップアルコキシ化反応させることで、式(II)で示されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)を得て、
【化1】


【化2】

式(I)中、前記Rは、炭素数3〜40のアルキル基又はアルケニル基であり、前記Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、
前記アルキルエポキシド(C)は、炭素数2〜8のアルコキシ化合物であり、
式(II)中、前記nは1〜50の正の整数であり、
前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(III)で示される複合金属塩基性炭酸塩水和物を、溶剤なしに、700℃〜900℃で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理が行わないで得られたものであり、
式(III)中、Mは、アルカリ土類金属の何れか一つであり、Mは、IIIA族金属の何れか一つであり、yに対するxの比率は、1〜5であり、m、q、zは、それぞれ0〜20の整数であり、
1x・2y・(OH)m・(COq・zHO (III)
かつ、前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100.0重量百分率(重量%)であることに対して、前記複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量%〜0.5重量%であることを特徴とするポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記Rは、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基である請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記アルキルエポキシド(C)は、炭素数2〜4のアルキルエポキシドである請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記アルキルエポキシド(C)は、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(IV)で示される構成を有し、
nMgOAl3・pHO (IV)
式(IV)中、nは1〜20の正の整数であり、pは0〜20の整数である請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)は、120℃〜190℃の温度で反応する請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)は、窒素の存在下で、1大気圧〜5大気圧の圧力下で反応を行う請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100.0重量%であることに対して、前記複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量%〜0.3重量%である請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項9】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステル(D)は、モノエステルの含有量が90.0%を超える請求項1に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項10】
ワンステップアルコキシ化工程からなるポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法であって、
複合金属酸化物触媒(B)の存在下で、式(I)で示されるアルキル脂肪酸エステル化合物(A)を、アルキルエポキシド(C)と反応させて、式(II)の前記ポリエチレングリコールエーテル脂肪酸エステル(D)を得て、
【化3】



【化4】

式(I)中、前記Rは、炭素数3〜40のアルキル基又はアルケニル基であり、前記Rは、炭素数1〜4のアルキル基であり、
前記アルキルエポキシド(C)は、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドであり、
式(II)中、前記nは1〜50の正の整数であり、
前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(III’)で示される複合金属塩基性炭酸塩水和物が、溶剤なしに、700℃〜900℃の温度で焼成させ、焼成させた前後に表面改質処理を行わないで得られたものであり、式(III’)中、yに対するxの比率は、1〜5であり、m、q、zは、それぞれ0〜20であり、
Mgx・Aly・(OH)m・(COq・zHO (III’)
かつ、前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)との使用量の合計が100重量百分率であることに対して、前記複合金属酸化物触媒(B)の使用量は0.1重量百分率〜0.3重量百分率であることを特徴とするポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項11】
前記Rは、炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基である請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項12】
前記複合金属酸化物触媒(B)は、式(IV)に示される構成を有し、
nMgOAl3・pHO (IV)
但し、式(IV)中、nは1〜20であり、pは0〜20の正整数である請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項13】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)は、120℃〜190℃の温度で反応する請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項14】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)は、160℃〜190℃の温度で反応する請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項15】
前記アルキル脂肪酸エステル化合物(A)と前記アルキルエポキシド(C)は、窒素の存在下で、1大気圧〜5大気圧の圧力下で反応を行う請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。
【請求項16】
前記ポリエチレングリコールエーテル脂肪酸エステル(D)は、モノエステルの含有量が90.0%を超える請求項10に記載のポリオキシアルキレンアルキルエーテル脂肪酸エステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75897(P2013−75897A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−211057(P2012−211057)
【出願日】平成24年9月25日(2012.9.25)
【出願人】(512249168)中日合成化學股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】