説明

ポリオレフィン樹脂組成物及びそれを用いた電線

難燃性、機械的特性に優れ、かつ耐磨耗性にも優れたポリオレフィン樹脂組成物及びそれを用いた電線を提供する。 難燃剤として、表面の一部に高級脂肪酸が結合し、該高級脂肪酸が結合していない部分に反応性を有するシリコーンオイルが結合した水酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とするポリオレフィン樹脂組成物、並びに前記ポリオレフィン樹脂組成物からなるシース層を備えることを特徴とする電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂組成物及びそれを用いた電線に関する。詳細には、難燃性、機械的特性に優れ、かつ耐磨耗性にも優れたポリオレフィン樹脂組成物及びそれを用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線被覆材等の樹脂組成物の技術分野において、水酸化マグネシウムは無毒性、低発煙性、非腐食性の優れた難燃剤として、従来のハロゲン系難燃剤に代わり、近年、その使用量が増加している(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、水酸化マグネシウムがその難燃性を発揮するにはポリマーに対して約60wt%もの高濃度の添加が要求され、このような高濃度の水酸化マグネシウムを添加したプラスチック複合体は、その機械的物性や成形特性が低下してしまうという問題がある(例えば、特許文献2参照。)。これは水酸化マグネシウムの多量添加によるポリマーの相対量の減少と、水酸化マグネシウム自体の親水性に起因している。
また、これらの問題を解決するために、高級脂肪酸等による水酸化マグネシウム表面の疎水化や、各種の助剤の混合による水酸化マグネシウム添加量の低減が試みられている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、このような試みを行なっても、十分満足できる樹脂組成物を得ることはできなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平2000−63583号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平2001−288313号公報(第2頁)
【特許文献3】特開平2002−128966号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、上記の従来の技術の問題点を解決し、難燃性、機械的特性に優れ、かつ耐磨耗性にも優れたポリオレフィン樹脂組成物及びそれを用いた電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、使用する水酸化マグネシウムの表面処理を工夫することにより、従来の水酸化マグネシウムの添加量を少なくできることを見出し、本発明を成すに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の構成からなるものである。
(1)難燃剤として、表面の一部に高級脂肪酸が結合し、該高級脂肪酸が結合していない部分に反応性を有するシリコーンオイルが結合した水酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とするポリオレフィン樹脂組成物。
(2)難燃剤として、表面に高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウム粒子を併用することを特徴とする上記(1)記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(3)高級脂肪酸及び反応性を有するシリコーンオイルの両方が結合した水酸化マグネシウム粒子の量が、表面に高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウム粒子との合計量の5〜15重量%であることを特徴とする上記(2)記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(4)高級脂肪酸がステアリン酸であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(5)反応性シリコーンオイルがメチルハイドロジェンシリコーンオイルであることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(6)ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物を混合したことを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(7)ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂(PO)とナイロン極細繊維(Ny)との重量比が5:5〜9:1(PO:Ny)であることを特徴とする上記(6)記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(8)ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂(PO)とナイロン極細繊維(Ny)との重量比が8:2(PO:Ny)であることを特徴とする上記(7)記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(9)メチル基で表面処理されたシリカ粒子を含有することを特徴とする上記(1)〜(8)の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
(10)上記(1)〜(9)の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物からなるシース層を備えることを特徴とする電線。
【0007】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の作用としては、明確ではないが、高級脂肪酸及び反応性を有するシリコーンオイルの両方が結合した水酸化マグネシウム粒子が樹脂中に良好に分散することで、該ポリオレフィン樹脂組成物の難燃性、機械的特性が向上するものと推測される。
【0008】
また、本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、高級脂肪酸及び反応性を有するシリコーンオイル(以下、「反応性シリコーンオイル」という)の両方が結合した水酸化マグネシウム粒子(以下、「高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム」という)と、高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウム粒子とを併用することで、難燃性及び機械的特性が更に向上する。
【0009】
また、本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、更にナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物またはメチル基で表面処理されたシリカ粒子を配合することで、耐磨耗性が向上する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムが樹脂中に良好に分散することで、難燃性及び機械的特性により優れたものとなる。更に、ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物やメチル基で表面処理されたシリカ粒子を配合することで、耐磨耗性にも優れたものとなる。
【0011】
また、本発明の電線は、シース層を前記ポリオレフィン樹脂組成物で形成したため、難燃性及び機械的特性に優れ、更に耐磨耗性にも優れたものとなる。しかも、所望の難燃性を得るために、従来の難燃性よりも少ない添加量で済むため、伸び等の機械的特性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明において難燃剤として使用する高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの概念図である。
【図2】試験−2において伸び率を測定した結果を示すグラフである。
【図3】試験−2においてエージング後伸び率を測定した結果を示すグラフである。
【図4】試験−2において消炎時間を測定した結果を示すグラフである。
【図5】試験−2においてスクレープ特性を測定した結果を示すグラフである。
【図6】試験−3において伸び率を測定した結果を示すグラフである。
【図7】試験−3において消炎時間を測定した結果を示すグラフである。
【図8】試験−3において引張弾性率を測定した結果を示すグラフである。
【図9】試験−3においてスクレープ特性を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0013】
1 高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム
2 水酸化マグネシウム粒子
3 高級脂肪酸
4 反応性シリコーンオイル
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
図1に概念図として示されるように、本発明のポリオレフィン樹脂組成物に難燃剤として含有される、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム1は、水酸化マグネシウム粒子2の表面の一部に高級脂肪酸3が結合し、高級脂肪酸3が結合していない表面には反応性シリコーンオイル4が結合したものである。
より詳細には、部分的に存在する高級脂肪酸3は、水酸化マグネシウム粒子2に対してエステル基で表面に結合・存在し、反応性シリコーンオイル4は、脱水素した状態で、高級脂肪酸3のない部分に広がって存在していると考えられる。
【0016】
水酸化マグネシウム粒子2には制限がなく、市販品をそのまま用いてもよく、合成により作製してもよい。また、その粒径にも制限がないが、一般的な難燃剤用の水酸化マグネシウム粒子は数μm程度である。
【0017】
高級脂肪酸3としては、特に限定されないが、ステアリン酸等が挙げられる。
【0018】
水酸化マグネシウム粒子2の表面に高級脂肪酸3を結合させる方法として、溶液で処理する湿式方法がある。
【0019】
なお、水酸化マグネシウム粒子2に対する高級脂肪酸3の表面処理量は、特に限定されないが、0.1〜10.0重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%の範囲であれば、ポリオレフィン樹脂組成物からなる成形品、本発明においては更に電線の伸び率が向上する。
【0020】
このように高級脂肪酸3で処理された水酸化マグネシウム粒子2は、市場からも入手でき、例えば協和化学工業株式会社製キスマ5、アルベマール社製マグニフィンH5C、神島化学工業株式会社製 マグシーズN4等が挙げられる。
【0021】
一方、反応性シリコーンオイル4としては、特に限定されないが、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、シラノール基含有シリコーンオイル、アルコキシ基含有シリコーンオイル等のケイ素官能型シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーン、カルビノール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル等の炭素官能型シリコーンオイルが挙げられる。
【0022】
上記の反応性シリコーンオイル4は、それ自身が持つ官能基によって、水酸化マグネシウム粒子2の分散性を向上させる。また、これらの反応性シリコーンオイル4は焼成時にガラス成分(SiO)となり、難燃性を向上させる作用も有する。
【0023】
上記高級脂肪酸3が一部表面に結合した水酸化マグネシウム粒子2を、さらに反応性シリコーンオイル4により表面処理する方法は、特に限定されず、溶液で表面処理する湿式方法、極僅かな溶液を用いる乾式方法、等により行なわれる。
【0024】
溶液で表面処理する方法としては、高級脂肪酸3が一部表面に結合した水酸化マグネシウム粒子2を、反応性シリコーンオイル4を含む溶液に浸漬して粒子全体を反応性シリコーンオイル4で覆った後、乾燥させ、更に100〜200℃の温度で数分から2時間の範囲で反応させる方法がある。
【0025】
極僅かな溶液を用いる乾式方法は、一般的な方法として噴霧法、等が挙げられる。
【0026】
なお、水酸化マグネシウム粒子2に対する反応性シリコーンオイル4の表面処理量は、特に限定されないが、0.1〜10.0重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%の範囲であれば、成形品、本発明では更に電線の伸び率が向上するため好ましく、さらに好ましくは0.5〜3重量%の範囲である。
【0027】
上記の高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム粒子1は、従来の難燃剤に比べて優れた難燃性を付与できる。従って、同等の難燃効果を得るためには、従来の難燃剤に比べて少ない配合量で済むことから、機械的特性において有利となる。例えば、電線のシース層は、難燃剤の配合量が多くなるほど伸びや柔軟性が低くなるため、難燃剤の配合量を低減できることは、伸びや柔軟性の向上をもたらす。
【0028】
また、本発明のポリオレフィン樹脂組成物においては、難燃剤として、上記の高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム粒子1と、高級脂肪酸のみで表面処理された水酸化マグネシウム粒子とを併用することができる。併用する場合の高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム粒子の量は、所望する難燃性、機械的特性、あるいはコスト等を考慮して選択されるが、両者の合計量において5〜15重量%とすることが好ましい。高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム粒子の量が15重量%を越えても効果が飽和し、コスト増を招くだけである。
【0029】
一方、本発明のポリオレフィン樹脂組成物に用いられるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、80〜250℃の範囲の融点のものが好ましい。このような好適な例としては、炭素数2〜8のオレフィンの単独重合体や共重合体及び、炭素数2〜8のオレフィンと酢酸ビニルとの共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体、炭素数2〜8のオレフィンとメタアクリル酸或いはそのエステルとの共重合体、及び炭素数2〜8のオレフィンとビニルシラン化合物との共重合体が好ましく用いられるものとして挙げられる。
【0030】
具体例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンブロック共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1、ポリヘキセン−1、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸プロピル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン・アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体、エチレン・ビニルトリメトキシシラン共重合体、エチレン・ビニルトリエトキシシラン共重合体、エチレン・ビニルシラン共重合体などがある。また、塩素化ポリエチレンや臭素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンなどのハロゲン化ポリオレフィンも好ましく用いられる。
【0031】
これらポリオレフィンのなかで特に好ましいものとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレンブロック共重合体(EPBC)、エチレン・プロピレンランダム共重合体(EPRC)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)及びエチレン・ビニルアルコール共重合体が挙げられ、中でもメルトフローインデックス(MFI)が0.2〜50g/10分の範囲のものが最も好ましいものとして挙げられる。これらを1種のみ用いてもよく、2種以上を組合せてもよい。
【0032】
また、これらのポリオレフィンを酸無水物により変性されたポリオレフィンを用いてもよい。
【0033】
また、本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物またはメチル基で表面処理されたシリカ粒子が混合または含有させることにより、耐磨耗性を向上させることができる。
該ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物(以下、単にNy−POとも略記する)に用いられるナイロン繊維のナイロン成分としては、特に限定されず、主鎖中にアミド基を有する熱可塑性ポリアミド(以下、ポリアミド)であり、融点135〜350℃の範囲のものが用いられ、しかも前記ポリオレフィンの融点より20℃以上高いものであり、中でも融点160〜265℃の範囲のものが好ましい。かかるポリアミドとしては、押出し及び延伸によって強靱な繊維を与えるものが好ましいものとして挙げられる。
【0034】
ポリアミドの具体例としてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−ナイロン66共重合体、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、キシリレンジアミンとアジピン酸との重縮合体、キシリレンジアミンとピメリン酸との重縮合体、キシリレンジアミンとスペリン酸との重縮合体、キシリレンジアミンとアゼライン酸との重縮合体、キシリレンジアミンとセバシン酸との重縮合体、テトラメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、オクタメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、デカメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、ドデカメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体、テトラメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、オクタメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、トリメチルヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、デカメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、ウンデカメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体及びドデカメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体などが挙げられる。
【0035】
これらのポリアミドの内、特に好ましい具体例としては、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン12(PA12)、ナイロン6−ナイロン66共重合体などが挙げられる。これらの1種又は2種以上でもよい。これらのポリアミドは、10,000〜200,000の範囲の分子量を有していることが好ましい。
【0036】
該ナイロン繊維の繊維径としては、特に限定されないが、5μm以下である。
該ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物に用いられるポリオレフィンとしては、前述の樹脂組成物の主要成分として挙げたポリオレフィンと同じものである。
【0037】
上記Ny−POにおける、ポリオレフィン樹脂(PO)とナイロン極細繊維(Ny)の重量比としては、特に限定されないが、5:5〜9:1(PO:Ny)が好ましく、より好ましくは7:3〜9:1(PO:Ny)であり、最も好ましくは8:2(PO:Ny)である。
【0038】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物におけるNy−POの使用量としては、特に限定されないが、該樹脂組成物100重量部に対して100重量部以下が好ましく、より好ましくは50重量部以下であり、さらに好ましくは2〜20重量部である。
【0039】
メチル基で表面処理されたシリカ粒子を用いると、樹脂とシリカの密着性が向上され、耐磨耗性が向上し、さらに難燃性も向上する。シリカ粒子の含有量は2〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0040】
本発明のポリオレフィン樹脂組成物の製造方法(粒子と樹脂の複合化方法)としては、特に限定されないが、2軸ロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、1軸、2軸混練機等の一般的に用いられる加工機械を使用することができる。
【0041】
また、本発明は、上記ポリオレフィン樹脂組成物からなるシース層を備える電線に関する。シース層を形成するには、公知の方法でかまわず、導体を被覆するように上記ポリオレフィン樹脂組成物を押出成形すればよい。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、勿論本発明の範囲は、これらによって限定されるものではない。
【0043】
(試験−1)
ステアリン酸で表面処理された水酸化マグネシウム粒子(協和化学工業株式会社製キスマ5、平均粒径0.6〜1μm)を、メチルハイドロジェンシリコーンオイル(MHS)含有処理液に浸漬し、乾燥後、加熱してMHSの結合量が1重量%となるように表面処理を施し、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを調整した。
次いで、ポリプロピレン〔融点165℃,MFR=70(g/10min)〕100重量部に、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム60重量部を配合し、2段ロールミルにより混練してコンパウンドAを調製した。また、比較のために、ステアリン酸で表面処理された水酸化マグネシウム粒子(キスマ5)を用いた以外は上記と同様にしてコンパウンドBを調製した。
そして、コンパウンドA及びコンパウンドBについて、JIS K 7201−2に従い酸素指数を測定したところ、コンパウンドBでは23.8%であったのが、コンパウンドAでは24.4%に向上した。
【0044】
(試験−2)
試験−1で作製した高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムと、ステアリン酸で表面処理された水酸化マグネシウム粒子(キスマ5)とを混合比率を変えて混合し、難燃剤とした。
次いで、ポリプロピレン〔融点165℃,MFR=70(g/10min)〕100重量部に上記で調製した難燃剤60重量部を配合し、2段ロールミルにより混練してコンパウンドを得た。
そして、各コンパウンドを0.7mmφの銅線上に厚さ0.2mmとなるように押出成形してシース層とし、0.35sqの試験電線を作製し、試験電線についてJIS K 7113に従い伸び率を、ISO 6722、項目12の電線難燃性試験に従い消炎時間を、ISO 6722、項目9.3のスクレープ試験に従いスクレープ特性を、それぞれ測定した。
図2に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量と伸び率との関係を、図3に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量とエージング後の伸び率との関係を、図4に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量と消炎時間との関係を、図5に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量とスクレープ特性との関係を、それぞれグラフ化して示す。各図とも、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量が増すのに伴い各性能が向上する傾向にあるが、3phr(即ち、難燃剤全量(60phr)の5重量%)以上で高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム無添加の場合よりも何れの性能も向上し、5phr(難燃剤全量の8.3重量%)でピークとなり、9phr(難燃剤全量の15.0重量%)を越える添加量では高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム無添加の場合と同等以下となる。これらのことから、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムと、高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウムとを併用する場合、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを全量の5〜15重量%とすることが好ましいことがわかる。
【0045】
(試験−3)
試験−2と同様に、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムと、ステアリン酸で表面処理された水酸化マグネシウム粒子(キスマ5)とを用い、混合比率及び両者の合計添加量を変えてコンパンドを調製した。尚、両者の合計添加量を40phr、50phr、60phrとし、何れも高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの添加量を5phr(難燃剤全量の8.3〜12.5重量%)とした。また、比較のために、ステアリン酸で表面処理された水酸化マグネシウム粒子(キスマ5)を40phr、50phrまたは60phr添加してコンパウンドを調製した。
そして、各コンパウンドについて試験−2と同様にして伸び率、消炎時間、スクレープ特性を測定し、更にJIS K 7161「引張特性の試験方法」に従い、試験開始直後の材料弾性領域における応力−歪曲線の傾きから引張弾性率を測定した。図6に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの混合比率及び添加量と伸び率との関係を、図7に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの混合比率及び添加量と消炎時間との関係を、図8に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの配合比率及び添加量と引張弾性率との関係を、図9に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムの配合比率及び添加量とスクレープ特性との関係を、それぞれグラフ化して示す。尚、各図において、横軸Aは、(高級脂肪酸結合水酸化マグネシウム)/(高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウム)比である。
これらの結果から、添加量が多い場合は差が小さいものの、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを併用することにより、何れの性能も向上することがわかる。また、例えば図7をみると、高級脂肪酸結合水酸化マグネシウムのみを使用した場合、50phr添加した場合の消炎時間は約30秒であるが、高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを併用することで、添加量が40phrでも略同等の消炎時間とすることができ、このことから難燃剤の使用量を低減できることがわかる。
【0046】
(試験−4)
ポリオレフィンとして低密度ポリエチレン〔融点110℃,MFR=5.0(g/10min)〕80重量部に、シランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0重量部と酸化防止剤のイルガノックス1010を0.5重量部及び過酸化物としてジ−α−クミルパーオキサイド(濃度40%)を0.5重量部混合して170℃に加熱した45φの二軸押出機に投入し混練してペレット化したシラン変性ポリエチレンを得た。得られたシラン変性ポリエチレン全量と、ナイロン6(融点215〜225℃)20重量部と、0.5重量部のイルガノックス1010とを235℃に設定した3mmφのダイスを付けた二軸押出機に投入して混練、ダイスよりストランド状に押し出し、空気で冷却して引取りロールでドラフト比7で引取り、5インチロール間で室温にて1.5倍延伸してペレタイズすることにより、ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物を得た。
そして、このナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物2重量部と、ポリプロピレン98重量部とを混練し、混練物100重量部に対し高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを60重量部添加してコンパウンドCを調製した。また、比較のためにポリプロピレン100重量部に高級脂肪酸/反応性シリコーンオイル結合水酸化マグネシウムを60重量部添加してコンパウンドDを調製した。
コンパウンドC及びコンパウンドDを用いて試験−2と同様の試験電線を作製し、スクレープ特性を測定したところ、コンパウンドDが480回であったのに対し、コンパウンドCは600回まで向上しており、ナイロン極細繊維を分散した効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃剤として、表面の一部に高級脂肪酸が結合し、該高級脂肪酸が結合していない部分に反応性を有するシリコーンオイルが結合した水酸化マグネシウム粒子を含有することを特徴とするポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項2】
難燃剤として、表面に高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウム粒子を併用することを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項3】
高級脂肪酸及び反応性を有するシリコーンオイルの両方が結合した水酸化マグネシウム粒子の量が、表面に高級脂肪酸のみが結合した水酸化マグネシウム粒子との合計量の5〜15重量%であることを特徴とする請求項2記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項4】
高級脂肪酸がステアリン酸であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項5】
反応性シリコーンオイルがメチルハイドロジェンシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項6】
ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物を混合したことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項7】
ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂(PO)とナイロン極細繊維(Ny)との重量比が5:5〜9:1(PO:Ny)のであることを特徴とする請求項6記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項8】
ナイロン極細繊維分散ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂(PO)とナイロン極細繊維(Ny)との重量比が8:2(PO:Ny)であることを特徴とする請求項7記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項9】
メチル基で表面処理されたシリカ粒子を含有することを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載のポリオレフィン樹脂組成物からなるシース層を備えることを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【国際公開番号】WO2005/103138
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−512568(P2006−512568)
【国際出願番号】PCT/JP2005/007544
【国際出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】