説明

ポリカーボネート樹脂成形体

【課題】ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を配合したポリカーボネート樹脂組成物の射出成形体における耐衝撃性及び表面外観の低下の問題を解決する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂成分と、エラストマーとを含むポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなるポリカーボネート樹脂成形体。ポリカーボネート樹脂で構成される海相内にエラストマーの粒子が分散しており、エラストマー粒子の周囲にアクリル樹脂が偏在する相構造を有する。ポリカーボネート樹脂の海相内で樹脂の流動方向に延在するアクリル樹脂の島相が、エラストマー粒子で分断されることにより、界面剥離や界面での光の反射が低減され、この結果、耐衝撃性及び表面外観が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂を配合することにより表面硬度を高めたポリカーボネート樹脂組成物の射出成形体において、アクリル樹脂を配合したことによる耐衝撃性及び表面外観の低下の問題を改善したポリカーボネート樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、特に芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車、電気・電子機器、住宅等の幅広い分野において、各種の部材の構成材料として利用されており、特に、コンピューター、ノート型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器の筺体の構成材料として重視されている。
【0003】
これらコンピューターやテレビ、プリンター等の電気・電子機器部材、特に筺体に用いられる材料においては、家電火災等に配慮し、高度な難燃性が要求されているが、一方で、近年の環境に対する配慮やコストダウンの観点から、塗装を行うことなく製品化することが望まれている。
このため、これらの用途にあっては、塗装によるハードコート層や意匠層を形成することなく、十分な表面硬度(耐傷付き性)や表面外観を呈する成形体が要求されている。
【0004】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂成形体は、その優れた耐熱性や機械物性、電気特性、表面外観を有する反面、表面硬度が低い。このため、表面硬度の改善を目的として、アクリル樹脂を配合することが行なわれている(例えば特許文献1)。即ち、ポリカーボネート樹脂単独の成形体ではその表面硬度は、鉛筆硬度で2B程度であるが、アクリル樹脂成形体の鉛筆硬度は2H程度と高硬度であり、ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を配合してなる複合樹脂成形体であれば、表面硬度が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−63652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とは相溶性がないため、ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を配合した複合樹脂成形体は、ポリカーボネート樹脂の海相にアクリル樹脂の島相が形成された海島構造の相構造を有するものとなる。特に射出成形体にあっては、その射出成形時の樹脂の流動方向に長く延びた扁平形状のアクリル樹脂相が形成される。そして、この長く延在するアクリル樹脂相とポリカーボネート樹脂の海相との界面で界面剥離が起き易く、このことが耐衝撃性の低下を引き起こす原因となる。
また、この長く延在する扁平形状のアクリル樹脂相とポリカーボネート樹脂相との界面で光が反射することにより、成形体表面にパール状の光沢が表れ、表面外観が劣るものとなるという問題もある。
【0007】
本発明は、このようにポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を配合したポリカーボネート樹脂組成物の射出成形体における耐衝撃性及び表面外観の低下の問題を解決する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エラストマーを配合することにより、ポリカーボネート樹脂の海相内で樹脂の流動方向に延在するアクリル樹脂の島相が、エラストマー粒子で分断され、この結果、上記の界面剥離や界面での光の反射が低減され、耐衝撃性及び表面外観が改善されることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂成分と、エラストマーとを含むポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなるポリカーボネート樹脂成形体であって、該ポリカーボネート樹脂で構成される海相内に該エラストマーの粒子が分散しており、該エラストマー粒子の周囲に該アクリル樹脂が偏在する相構造を有することを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0011】
[2] [1]において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂の合計100質量部におけるアクリル樹脂の割合が5〜40質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0012】
[3] [1]又は[2]において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有量が5〜30質量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0013】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のエラストマーの含有量が前記樹脂成分100質量部に対して1〜10質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0014】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記ポリカーボネート樹脂組成物が更に難燃剤を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0015】
[6] [5]において、前記難燃剤がリン酸エステル系難燃剤であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0016】
[7] [5]又は[6]において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中の難燃剤の含有量が前記樹脂成分100質量部に対して1〜50質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0017】
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記エラストマー粒子について、下記方法で測定される(DL)/(DS)比が1.1以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
<(DL)/(DS)比の測定>
透過型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における任意の20個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、(DL)/(DS)の値を求め、20個の粒子について平均値をとり、これを(DL)/(DS)比とした。
【0018】
[9] [1]ないし[8]のいずれかにおいて、前記エラストマー粒子が多層構造重合体粒子であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0019】
[10] [9]において、前記多層構造重合体粒子の最外核層の構成材料のSP値と前記アクリル樹脂のSP値との差が±2(cal/cm31/2以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0020】
[11] [1]ないし[10]のいずれかにおいて、前記ポリカーボネート樹脂組成物が更に無機顔料を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【0021】
[12] [11]において、前記無機顔料がカーボンブラックであることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、表面硬度が高く、かつ耐衝撃性及び表面外観に優れたポリカーボネート樹脂成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】表4中のサンプル1のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図2】表4中のサンプル2のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図3】表4中のサンプル3のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図4】表4中のサンプル4のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図5】表4中のサンプル5のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図6】表4中のサンプル6のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図7】表4中のサンプル7のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図8】表4中のサンプル8のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図9】表4中のサンプル9のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【図10】表4中のサンプル10のSEM−反射電子像(50,000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明のポリカーボネート樹脂成形体の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂成分と、エラストマーとを含むポリカーボネート樹脂組成物(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂組成物」と称す場合がある。)を射出成形してなるポリカーボネート樹脂成形体であって、該ポリカーボネート樹脂で構成される海相内に該エラストマーの粒子が分散しており、該エラストマー粒子の周囲に該アクリル樹脂が偏在する相構造を有することを特徴とする。
【0026】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を用いることができるが、中でも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらのポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が挙げられる。反応に用いる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシビフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性をさらに高める目的で上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物や、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することもできる。
【0028】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、通常14,000〜30,000の範囲であり、好ましくは15,000〜28,000、より好ましくは16,000〜26,000である。粘度平均分子量が14,000未満では機械的強度が不足し、30,000を超えると成形性に難を生じやすく好ましくない。
【0030】
このような芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法については、限定されるものでは無く、ホスゲン法(界面重合法)あるいは、溶融法(エステル交換法)等で製造することができる。さらに、溶融法で製造された、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0031】
さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂としては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生芳香族ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、又はランナーなどから得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
【0032】
[アクリル樹脂]
本発明で用いるアクリル樹脂は、メチルメタクリレートの構成単位のモノマー量が全構成単位の総モノマー量に対して80モル%以上、好ましくは80〜99モル%で、重量平均分子量が70,000〜150,000であることが好ましい。アクリル樹脂がメチルメタクリレートの単独重合体では、熱安定性が劣るので、メチルメタクリレートを構成単位の主成分とし、メチルメタクリレートと他のメチルアクリレート、エチルアクリレート又はブチルアクリレートとの共重合体であることが好ましい。
【0033】
アクリル樹脂の製造方法は一般的に乳化重合法、懸濁重合法、連続重合法とに大別されるが、本発明に使用されるアクリル樹脂は連続重合法により製造されたアクリル樹脂が好ましい。更に、連続製造法には連続塊状重合法と連続溶液重合法とに分けることができるが、本発明においてはいずれの製法で得られたアクリル樹脂も用いることができる。
【0034】
これらのアクリル樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0035】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有量が少な過ぎると、アクリル樹脂を配合したことによる表面硬度の向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると、耐衝撃性と難燃性が劣る。従って、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有量は、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との合計100質量部に対してアクリル樹脂の割合が5〜40質量部、特に10〜20質量部となるような量であることが好ましい。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有量は、5〜30質量%、特に10〜20質量%であることが好ましい。
【0036】
[エラストマー]
本発明で用いるエラストマーとしては、特に限定されるものではないが、多層構造重合体の粒子よりなるものが好ましい。多層構造重合体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含むものが挙げられる。これらの多層構造重合体としては、例えば、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次被覆するような連続した多段階シード重合によって製造される重合体であり、基本的な重合体構造としては、ガラス転移温度の低い架橋成分である内核層と組成物のマトリックスとの接着性を改善する高分子化合物から成る最外核層を有する重合体である。これら多層構造重合体の最内核層を形成する成分としては、ガラス転移温度が0℃以下のゴム成分が選択される。これらゴム成分としては、シリコーン系ゴム成分、ブタジエン等のゴム成分、スチレン/ブタジエン等のゴム成分、アルキル(メタ)アクリレート系重合体のゴム成分、ポリオルガノシロキサン系重合体とアルキル(メタ)アクリレート系重合体が絡み合って成るゴム成分、あるいはこれらの併用されたゴム成分が挙げられる。さらに、最外核層を形成する成分としては、芳香族ビニル単量体又は非芳香族系単量体あるいはそれらの2種類以上の共重合体が挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロモスチレン等を挙げることができる。これらの中では、特にスチレンが好ましく用いられる。非芳香族系単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルやシアン化ビニリデン等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0037】
エラストマー粒子は、以下の方法で測定される(DL)/(DS)比が1.1以上、特に1.3以上、例えば1.1〜4、好ましくは1.3〜2程度の、非球形状の異形形状であることが好ましい。
即ち、本発明において、エラストマー粒子は、ポリカーボネート樹脂の海相内において、射出成形時の樹脂の流動方向に延在するように形成されるアクリル樹脂の島相を分断し、アクリル樹脂相とポリカーボネート樹脂相とで大きな界面部分が形成されることを防止することにより、界面剥離による耐衝撃性の低下と、界面での光の反射に起因するパール状光沢による表面外観の低下を改善するものであるが、エラストマー粒子が球形であると、アクリル樹脂相を分断する機能が十分に発揮されない。(DL)/(DS)比が大きく、真球度が小さい、異形形状のエラストマー粒子であれば、射出成形時に、エラストマー粒子表面の凹凸部において、流動するアクリル樹脂がからみ付くようにして分断され、エラストマー配合による本発明の効果が有効に発揮される。
【0038】
なお、(DL)/(DS)比が1のものは真球形状をなす。
【0039】
<(DL)/(DS)比の測定>
透過型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における任意の20個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、(DL)/(DS)の値を求め、20個の粒子について平均値をとり、これを(DL)/(DS)比とした。
【0040】
(DL)/(DS)比の大きい異形形状のエラストマー粒子としては、特に、上述の多層構造重合体粒子であって、最内核層のゴム成分がシリコーン系ゴム成分であるものが挙げられる。即ち、最内核層のゴム成分がシリコーン系ゴム成分であると、最内核層が異形形状となり、この結果、エラストマーの多層構造重合体粒子自体も異形形状となる。
【0041】
また、本発明で用いるエラストマー粒子は、その表面がアクリル樹脂との相溶性に優れる材料で構成されていることが、得られる射出成形体内において、アクリル樹脂がエラストマー粒子の周囲に偏在し易くなり、エラストマー粒子を配合することによるアクリル樹脂相の分断効果が有効に発揮されるため好ましい。
【0042】
従って、エラストマー粒子は、上述のような多層構造重合体粒子であって、その最外核層を構成する材料のSP値(溶解パラメーター)がアクリル樹脂のSP値とほぼ等しいこと、具体的には、最外核層構成材料のSP値とアクリル樹脂のSP値との差が±2(cal/cm31/2以下、特に±1.5(cal/cm31/2以下であることが好ましい。
【0043】
アクリル樹脂のSP値は9.5(cal/cm31/2程度であり、従って、多層構造重合体粒子の最外核層構成材料のSP値は8〜11(cal/cm31/2程度のものが好ましい。このような材料としては、アクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル/スチレン共重合樹脂、SP値10.7(cal/cm31/2)等が挙げられる。
【0044】
エラストマー粒子の粒径は、小さ過ぎると、アクリル樹脂相の分断効果が小さく、大き過ぎると耐衝撃性と表面外観が劣る。従って、エラストマー粒子の粒径は、以下に定義される平均粒径として、0.05〜2μm、特に0.1〜1μm程度であることが好ましい。
【0045】
<平均粒径>
透過型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における任意の20個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、[(DL)+(DS)]/2の値を求め、20個の粒子について平均値をとり、これを平均粒径とした。
【0046】
エラストマーとしては、1種を単独で用いてもよく、材質、形状、粒径等が異なるものを2種以上併用してもよい。
【0047】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のエラストマーの含有量が少な過ぎると、エラストマーを配合したことによる耐衝撃性及び表面外観の改善効果を十分に得ることができず、多過ぎると得られる成形体の外観不良や耐熱性低下が生じる場合がある。従って、エラストマーは、樹脂成分100質量部に対して1〜10質量部、特に2〜6質量部となるように用いることが好ましい。また、エラストマーは、アクリル樹脂に対して5〜50質量%、特に10〜30質量%となるように用いることが好ましい。
【0048】
[難燃剤]
アクリル樹脂の配合により、成形体は燃焼し易くなる傾向にある一方で、本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、その用途において、多くの場合、難燃性が要求されることから、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤を含有することが好ましい。
難燃剤としては、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、リン酸エステル化合物、有機スルホン酸金属塩、シリコーン化合物が好適である。
【0049】
<リン酸エステル化合物>
リン酸エステル化合物(リン酸エステル系難燃剤)としては、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が好ましい。
【0050】
【化1】

【0051】
(一般式(1)中、R、R、R、Rは互いに独立して、置換されていてもよいアリール基を示し、Xは他に置換基を有していてもよい2価の芳香族基を示す。nは0〜5の数を示す。)
【0052】
上記一般式(1)においてR〜Rで示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。またXで示される2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基や、例えばビスフェノールから誘導される基等が挙げられる。これらの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。nが0の場合、一般式(1)で表される化合物はリン酸エステルであり、nが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。
【0053】
上記一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、ビスフェノールAビスホスフェート類、ヒドロキノンビスホスフェート類、レゾルシノールビスホスフェート類、あるいはこれらの置換体、縮合体などを例示できる。かかる成分として好適に用いることができる市販の縮合リン酸エステル化合物としては、例えば、大八化学工業(株)より「CR733S」(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))、「CR741」(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))、「PX−200」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))、旭電化工業(株)より「アデカスタブFP−700」(2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン・トリクロロホスフィンオキシド重縮合物(重合度1〜3)のフェノール縮合物)といった商品名で販売されており、容易に入手可能である。
【0054】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中のこのようなリン酸エステル系難燃剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対し1〜50質量部であり、好ましくは3〜40質量部、特に好ましくは5〜30質量部である。リン酸エステル系難燃剤の含有量が少ないと難燃性が不十分であり、多過ぎると耐熱性が低下し、好ましくない。
【0055】
<有機スルホン酸金属塩>
有機スルホン酸金属塩としては、好ましくは脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩を構成する金属としては、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられ、アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩は、2種以上の塩を混合して使用することもできる。
【0056】
脂肪族スルホン酸塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩が挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ金属塩、フルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ土類金属塩などが挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。該フルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウムなどが挙げられる。
【0057】
また、芳香族スルホン酸金属塩としては、好ましくは、芳香族スルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ土類金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩などが挙げられ、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩は重合体であってもよい。該芳香族スルホン酸金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4−クロロ−4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩などが挙げられる。
【0058】
有機スルホン酸金属塩の配合量は、樹脂成分100質量部に対し、0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.02〜3質量部、とりわけ好ましくは0.03〜2質量部である。有機スルホン酸金属塩の配合量が少ないと充分な難燃性が得られ難く、多過ぎると熱安定性が低下しやすい。
【0059】
<シリコーン化合物>
シリコーン化合物(シリコーン系難燃剤)は、直鎖状あるいは分岐構造を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。ポリオルガノシロキサンが有する有機基は、炭素数が1〜20のアルキル基及び置換アルキル基のような炭化水素又はビニル及びアルケニル基、シクロアルキル基、ならびにフェニル、ベンジルのような芳香族炭化水素基などの中から選ばれる。
【0060】
ポリジオルガノシロキサンは、官能基を含有していなくても、官能基を含有していてもよい。官能基を含有しているポリジオルガノシロキサンの場合、官能基はメタクリル基、アルコキシ基又はエポキシ基であることが好ましい。
また、これらポリオルガノシロキサンはシリカに担持されていてもよい。
【0061】
シリコーン系難燃剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜7質量部、とりわけ好ましくは0.5〜7質量部である。シリコーン化合物の配合量が少ないと充分な難燃性が得られ難く、多過ぎると機械的強度や耐熱性が低下しやすい。
【0062】
上記リン酸エステル系難燃剤、有機スルホン酸金属塩、シリコーン系難燃剤等の難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
[滴下防止剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、燃焼時の滴下防止を目的として、滴下防止剤を配合することができる。滴下防止剤としては好ましくはフッ素樹脂を用いることができる。滴下防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
ここでフッ素樹脂とは、フルオロエチレン構造を含む重合体、共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体が挙げられ、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。
【0065】
本発明で用いることができるポリテトラフルオロエチレンとしては、現在知られているすべての種類のものを用いることができるが、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、例えば「テフロン(登録商標)6−J」(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)、「ポリフロンD−1」、「ポリフロンF−103」、「ポリフロンF201」(ダイキン工業(株)製)、「CD076」(旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製)等が挙げられる。また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えば「アルゴフロンF5」(モンテフルオス(株)製)、「ポリフロンMPA」、「ポリフロンFA−100」(ダイキン工業(株)製)等が挙げられる。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、1〜100psiの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。また、溶媒にて分散された「テフロン(登録商標)31−JR」(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)であっても構わない。
【0066】
また、滴下防止剤は、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体粒子とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体であってもよい。有機系重合体粒子を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリドデシル、メタクリル酸トリドデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、これらの単量体の重合体又は共重合体を2種以上用い、有機系重合体粒子を得ることができる。
【0067】
滴下防止剤の配合量としては、好ましくはポリカーボネート樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して0.01〜1質量部、特に0.1〜0.5質量部であることが好ましい。滴下防止剤の配合量が少な過ぎる場合には、難燃性の改良効果が不十分な場合があり、多過ぎると成形体の外観が低下する場合がある。
【0068】
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤を配合することができる。
【0069】
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0070】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0071】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、1価又は多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価又は多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価又は多価アルコールが好ましい。
【0072】
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0073】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0074】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0075】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0076】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは1種又は任意の割合で2種以上を併用してもよい。
【0077】
離型剤の配合量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても樹脂の耐加水分解性の低下や、成形時の金型汚染等が問題になる場合がある。よって離型剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して0.001〜2質量部であり、中でも0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0078】
[熱安定剤・酸化防止剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0079】
<熱安定剤>
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(11)で表される有機ホスフェート化合物及び/又は下記一般式(12)で表される有機ホスファイト化合物が好ましい。
【0080】
O=P(OH)(OR3−m (11)
(一般式(11)中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、Rが複数ある場合、これらは互いに同一でも、異なっていてもよい。mは0〜2の整数を示す。)
【0081】
【化2】

【0082】
(一般式(12)中、Rはアルキル基又はアリール基を示し、2個のRは互いに同一でも、異なっていてもよい。)
【0083】
一般式(11)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましく、中でも炭素原子数2〜25のアルキル基であることが好ましい。またmは、1又は2であることが好ましい。
【0084】
一般式(12)中、Rは炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基であることが好ましい。一般式(12)で表される有機ホスファイトの好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0085】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に、これらのリン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0086】
これらリン系化合物を配合する場合、その含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.001〜1質量部であることが好ましく、中でも0.01〜0.7質量部、特に0.03〜0.5質量部であることが好ましい。
【0087】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、例えばヒンダ−ドフェノール系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0088】
上記の中では、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これら2つのフェノール系酸化防止剤は、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社より「イルガノックス1010」及び「イルガノックス1076」の名称で市販されている。
【0089】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に酸化防止剤を配合する場合、その含有量は、樹脂成分100質量部に対し、通常0.001〜1質量部、中でも0.01〜0.5質量部であることが好ましい。酸化防止剤の含有量が少なすぎるとその効果が不十分であり、逆に多すぎても効果が頭打ちとなり経済的ではない。
【0090】
[補強材]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、弾性率、強度、荷重たわみ温度の向上のために、補強材を添加することができる。
【0091】
ここで、補強材としては、シリカ、珪藻土、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化珪素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ホウ酸アルミニウム等を例示できる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。特に限定されるものではないが、補強材としてはガラス繊維、ガラスフレーク、タルク、マイカが好ましい。
【0092】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に補強材を配合する場合、補強材の配合量としては、好ましくは樹脂成分100質量部に対し、1〜100質量部であり、より好ましくは10〜80質量部である。
【0093】
[染顔料]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、無機顔料、有機顔料、有機染料等の染顔料を含有していてもよい。特に、本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、多くの場合、その表面硬度の改善で、塗装を行うことなく、即ち、塗装レスで商品化されるため、染顔料により着色を付与することは好ましい。
【0094】
無機顔料としては例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロ−等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロ−、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリ−ン、コバルトグリ−ン、コバルトブル−、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデ−トオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。
【0095】
有機顔料、有機染料としては、銅フタロシアニンブル−、銅フタロシアニングリ−ン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロ−等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0096】
これらは単独で用いても、2種以上を任意の割合で併用してもよく、中でも熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物等が好ましく、黒色に着色する場合にはカーボンブラックを用いることが好ましい。特にカーボンブラックの配合で黒色に着色したポリカーボネート樹脂成形体では、アクリル樹脂配合に起因するパール状光沢が目立ち、表面外観が劣る傾向にあるため、本発明によるエラストマー配合の効果がより一層有効に発揮される。
【0097】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に染顔料を配合する場合、その含有量は、樹脂成分100質量部に対し、通常5質量部以下、中でも3質量部以下、特に2質量部以下であることが好ましい。染顔料の含有量が多すぎると、耐衝撃性が低下する場合がある。
【0098】
[紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、紫外線による劣化を防止するために、紫外線吸収剤を配合してもよい。
【0099】
紫外線吸収剤の具体例としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられ、中でも有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0100】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物が挙げられる。また、その他のベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、2−ビス(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕[メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物などが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0101】
これらベンゾトリアゾール化合物の中でも、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−メチレン−ビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール〕等が好ましい。
【0102】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に紫外線吸収剤を配合する場合、その含有量は、樹脂成分100質量部に対して、通常0.01〜3質量部、好ましくは0.1〜1質量部である。紫外線吸収剤の含有量が少なすぎると、耐候性の改良効果が不十分となる場合があり、逆に多すぎてもモールドデボジット等の問題が生じる場合がある。
【0103】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂以外の他の樹脂や上記成分以外の各種樹脂添加剤を含有していてもよい。
【0104】
他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ただし、これらのポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂以外の他の樹脂を用いる場合、その配合量は、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂及びその他の樹脂の合計よりなる樹脂成分中20質量%以下とすることが好ましい。
【0105】
また、上記以外の各種樹脂添加剤としては、従来公知の任意の帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0106】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は特に制限されることはなく、従来公知の任意の樹脂組成物の製造方法を適用することができる。
【0107】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、例えば、上述したポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂及びエラストマー、更に必要に応じて用いられる難燃剤、離型剤、染顔料、その他の添加成分を、タンブラ−やヘンシェルミキサ−などの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリ−ミキサ−、ロ−ル、ブラベンダ−、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ−ダ−などで溶融混練する方法が挙げられる。
【0108】
また、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみ予め混合して、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練することにより、樹脂組成物を製造してもよい。更には、一部の成分を予め混合して押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、再度、他の成分と混合して溶融混練することによって樹脂組成物を製造することもできる。
【0109】
中でも本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、アクリル樹脂とエラストマー粒子を、予めマスターバッチ化して樹脂組成物を製造することによって、アクリル樹脂をエラストマー粒子の周囲に確実に偏在させることができ、好ましい。
【0110】
[ポリカーボネート樹脂成形体]
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、上述の本発明のポリカーボネート樹脂組成物を、射出成形することにより得ることができる。
【0111】
この射出成形法としては、例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法等が挙げられる。
【0112】
[相構造]
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、ポリカーボネート樹脂で構成される海相内にエラストマーの粒子が分散しており、エラストマー粒子の周囲にアクリル樹脂が偏在する相構造を有する。
換言すれば、本発明のポリカーボネート樹脂成形体にあっては、ポリカーボネート樹脂で構成される海相内に、射出成形時の樹脂の流動方向に扁平形状に延びるアクリル樹脂よりなる島相内にエラストマー粒子が入り込み、アクリル樹脂の島相がその延在方向に分断された相構造を有する。
【0113】
前述の如く、エラストマー粒子を配合せずに射出成形した場合、アクリル樹脂相は、ポリカーボネート樹脂の海相内において、射出成形樹脂の流動方向に扁平状に延在する島相を形成し、このアクリル樹脂の島相とポリカーボネート樹脂の海相とで形成される比較的面積の大きい連続した界面の存在のために、界面剥離による耐衝撃性の低下や、界面における光の反射に起因するパール状光沢による表面外観の低下の問題があるが、本発明では、このようなアクリル樹脂の島相がエラストマー粒子でその延在方向に分断され、アクリル樹脂の島相とポリカーボネート樹脂の海相との間に大面積の界面が形成されなくなることにより、界面剥離による耐衝撃性の低下、界面での光の反射による表面外観の低下は防止され、表面硬度が高いと共に、耐衝撃性及び表面外観にも優れたポリカーボネート樹脂成形体が提供される。
【0114】
[用途]
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、ポリカーボネート樹脂本来の耐熱性、機械物性、電気的特性を有し、かつアクリル樹脂の配合による表面硬度の向上効果と、エラストマーの配合による耐衝撃性及び表面外観の改善効果で、耐傷付き性、耐衝撃性、表面外観に優れたポリカーボネート樹脂成形体であり、自動車、電気・電子機器、住宅等の幅広い分野において、好適に用いることができるが、特に、OA機器の筐体や電気電子機器の筐体に好適である。本発明のポリカーボネート樹脂成形体が適用される機器としては、例えば、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、PDA等が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
本発明のポリカーボネート樹脂成形体は、このような用途において、塗装レスの安価な製品の提供に有用である。
【実施例】
【0115】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0116】
なお、以下の実施例及び比較例において、ポリカーボネート樹脂組成物の配合成分として用いたものは次の通りである。
【0117】
芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000」(粘度平均分子量:22,000)
アクリル樹脂:三菱レイヨン(株)製「アクリペット(登録商標)VH−001」(重量平均分子量:60,000)
熱安定剤1:ADEKA(株)製「商品名アデカスタブ2112」(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト)
熱安定剤2:日本BASF(株)製「商品名IRGANOX1076」(オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
離型剤:ヘンケルジャパン(株)製「商品名ロキシオールVPG861」(高級脂肪酸ペンタエリスリトールエステル)
エラストマーI:ローム・アンド・ハース(株)製「商品名パラロイドEXL2603」((DL)/(DS)比:1.2、平均粒径:0.10μm、ブタジエン・アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル共重合物)
エラストマーII:三菱レイヨン(株)製「商品名メタブレンSRK200」((DL)/(DS)比:1.7、平均粒径:0.15μm、アクリロニトリル・スチレン・ジメチルシロキサンアクリル酸アルキル共重合物)
【0118】
リン酸エステル系難燃剤A:大八化学(株)製「PX−200」(芳香族縮合リン酸エステル(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))
リン酸エステル系難燃剤B:ADEKA(株)製「アデカスタブFP700」(2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン・トリクロロホスフィンオキシド重縮合物(重合度1〜3)のフェノール縮合物)
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):ダイキン工業(株)製「ポリフロンF−201L」
【0119】
カーボンブラックa:越谷化成工業(株)製「RB967G」
カーボンブラックb:越谷化成工業(株)製「RB−904G」
【0120】
[実施例1〜16、比較例1〜6]
表1〜3に示す割合にて各成分を配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30HSST、L/D=42、バレル数12)を用いて、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数250rpmにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練させてポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。このポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業製、SH100、型締め力100T)を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):270℃、金型温度:70℃にて、所定の寸法の成形体を射出成形し、得られた射出成形体について、以下の評価を行い、結果を表1〜3に示した。
【0121】
なお、表1〜3中、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂は、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との合計100質量%中の配合質量%を示し、それ以外の成分の配合量は、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との合計100質量部に対する配合質量部を示すものである。
【0122】
<表面外観>
100mm×100mm×3mm厚さの射出成形体について、その板面を目視観察してポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂との界面の光反射によるパール状光沢の有無を調べ、以下の基準で評価した。
○:パール状光沢が全くなく表面外観良好
×:パール状光沢があり表面外観不良
【0123】
<鉛筆硬度>
表面外観の評価を行った射出成形体について、鉛筆硬度を調べ、HB以上を「○」、B以下を「×」とした。
【0124】
<耐衝撃性>
100mm×100mm×1mm厚さの射出成形体の板面の中央部分に、1.5mの高さから1kgの錘を落下させ、成形体が割れないものを「○」とし、割れるものを「×」とした。
【0125】
<難燃性>
127mm×12.7mm×1.2mm厚さの射出成形体について、UL94規格に準拠して燃焼試験を行い、V−0であるものを「○」、それ以外を「×」とした。
【0126】
<漆黒性>
100mm×100mm×3mmのプレートを用い、色相測定を行い、以下の基準で評価した。
○:L値が7以下の場合、漆黒性に優れる。
×:L値が7を超える場合、漆黒性に劣る。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】

【0129】
【表3】

【0130】
表1〜3より、次のことが分かる。
ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂を配合し、エラストマーを配合していない比較例1,4,5,6の射出成形体では、いずれも表面硬度は高いが、耐衝撃性が悪く、また、表面外観も悪い。アクリル樹脂を配合していない比較例2,3は、表面外観及び耐衝撃性は良好であるが、表面硬度が低い。
【0131】
これに対して、ポリカーボネート樹脂にアクリル樹脂と共にエラストマーを配合した実施例1〜16であれば耐衝撃性が改善され、特にエラストマーとして、(DL)/(DS)比が大きく、真球度の小さい異形形状のエラストマーIIを配合した実施例3,12,13,15であれば、表面外観においてより一層優れた効果が得られる。
更に、難燃剤を配合した実施例8〜13では、更に優れた難燃性を得ることができる。
更に、カーボンブラックの配合で黒色に着色した実施例14〜16において、漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂成形体を得ることができた。
【0132】
[エラストマーの配合効果の確認]
エラストマーによるアクリル樹脂の島相の分断作用を確認するために、表4に示す成分配合としたポリカーボネート樹脂組成物のペレットを実施例1と同様にして調製し、このポリカーボネート樹脂組成物ペレットを用いて実施例1と同様に射出成形を行って100mm×100mm×3mm厚さの射出成形体を得た。
【0133】
【表4】

【0134】
得られた各サンプルの厚さ方向の断面(射出成形時の樹脂の流動方向に沿う方向)のSEM−反射電子像(50,000倍)を図1〜10に示す。
【0135】
図1〜10より明らかなように、アクリル樹脂は、ポリカーボネート樹脂の海相内で射出成形時の樹脂の流動方向に延在する島相を形成し、エラストマーの配合で、このアクリル樹脂の島相がエラストマー粒子に分断され、アクリル樹脂の島相が短くなっている。このエラストマーの作用は、難燃剤の配合の有無に影響されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂成分と、エラストマーとを含むポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなるポリカーボネート樹脂成形体であって、
該ポリカーボネート樹脂で構成される海相内に該エラストマーの粒子が分散しており、該エラストマー粒子の周囲に該アクリル樹脂が偏在する相構造を有することを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂の合計100質量部におけるアクリル樹脂の割合が5〜40質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有量が5〜30質量%であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中のエラストマーの含有量が前記樹脂成分100質量部に対して1〜10質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリカーボネート樹脂組成物が更に難燃剤を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項6】
請求項5において、前記難燃剤がリン酸エステル系難燃剤であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記ポリカーボネート樹脂組成物中の難燃剤の含有量が前記樹脂成分100質量部に対して1〜50質量部であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記エラストマー粒子について、下記方法で測定される(DL)/(DS)比が1.1以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
<(DL)/(DS)比の測定>
透過型電子顕微鏡により写真撮影して得られる写真投影図における任意の20個の粒子について、それぞれ最大径(DL)を測定し、該最大径上で、該最大径を2等分する点(中心点)を求め、該中心点を通過し、該最大径に直交する径の長さ(DS)を測定し、(DL)/(DS)の値を求め、20個の粒子について平均値をとり、これを(DL)/(DS)比とした。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記エラストマー粒子が多層構造重合体粒子であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項10】
請求項9において、前記多層構造重合体粒子の最外核層の構成材料のSP値と前記アクリル樹脂のSP値との差が±2(cal/cm31/2以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記ポリカーボネート樹脂組成物が更に無機顔料を含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項12】
請求項11において、前記無機顔料がカーボンブラックであることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1683(P2012−1683A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140355(P2010−140355)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】