説明

ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体

【課題】光学的特性(低複屈折など)に優れるポリカーボネート系樹脂及びこの樹脂組成物で形成された成形体を提供することにある。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂と、重量平均分子量が2000〜15000(例えば、8000〜12000)程度であるフルオレンポリエステルオリゴマーとで、ポリカーボネート系樹脂組成物を構成する。フルオレンポリエステルオリゴマーは、フルオレン化合物を含むジオール成分と、ジカルボン酸成分との縮合体であってもよい。フルオレンポリエステルオリゴマーの割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1〜50重量部(例えば、10〜25重量部)程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート系樹脂と、フルオレン骨格(例えば、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有するポリエステルオリゴマーとを含むポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート(特に、芳香族ポリカーボネート)は、耐熱性、吸湿性に優れ、高い透明性を有するとともに、高屈折率を示すため、光学部材として汎用されている。しかし、ポリカーボネートは複屈折が高いため、高精度な光学部材(例えば、光学レンズや光学フィルム)の用途には必ずしも適さない。
【0003】
そこで、高屈折率及び低複屈折の特性を有する9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのフルオレン化合物を利用することが提案されている。具体的には、フルオレン化合物又はこの化合物を重合成分とする樹脂(フルオレン骨格含有ポリエステルなど)をポリカーボネートに添加する方法が検討されている。
【0004】
例えば、特開平8−41303号公報(特許文献1)には、芳香族ジカルボン酸又はその誘導体とフルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物及び脂肪族グリコールとからなる実質的に線状のポリエステル重合体と、芳香族ポリカーボネートとの均一なブレンド混合物からなる樹脂組成物が開示されている。フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物の重合度は固有粘度にして0.3〜0.8であることが記載され、ポリエステル重合体と、芳香族ポリカーボネートとの割合(重量比)は、前者/後者=5/95〜95/5であることが記載されている。さらに、この文献の実施例では、テレフタル酸ジメチルと9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンとエチレングリコールとを反応させて得られた固有粘度が約0.5のポリエステル共重合体と、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂とを20:80(重量比)の割合でブレンドして樹脂組成物を得たことが記載されている。
【0005】
また、特開2004−315676号公報(特許文献2)には、9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分と、少なくとも脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分との芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含有する樹脂組成物が開示されている。この文献には、芳香族ポリエステル樹脂の重量平均分子量が0.5×10〜100×10であり、ポリカーボネート樹脂の使用量は、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して、10〜300重量部であることが記載されている。また、この文献の実施例には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と、エチレングリコールと、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンとを溶融重合させ、重量平均分子量51000の共重合ポリエステルを得たことが記載されている。さらに、この共重合ポリエステル50重量部と、ポリカーボネート50重量部とを溶融混合して樹脂組成物を得たことも記載されている。
【0006】
しかし、このようなフルオレン系ポリエステル樹脂をポリカーボネート樹脂に添加する場合、取扱性や作業性が困難となる。特に、少量添加する場合には、ポリカーボネート樹脂との混和性が低くなり、複屈折を充分に低減できない。また、多量に添加する場合には、伸び強度などの靱性が低下する。
【0007】
特開2005−162785号公報(特許文献3)には、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類の(メタ)アクリレートなどのフルオレン骨格を有する化合物と、ポリカーボネート系樹脂などの熱可塑性樹脂とで構成され、低複屈折などの高い光学的特性を有する樹脂組成物が開示されている。また、この文献の実施例では、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート40重量部とポリカーボネート系樹脂100重量部とを用いて、キャストフィルムを得たことが記載されている。
【0008】
しかし、これらのフルオレン骨格を有する低分子化合物を樹脂に添加する場合、添加したフルオレン骨格を有する化合物がブリードアウトし易い他、機械的強度が極端に低下するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−41303号公報(請求項1、段落[0010][0013]、実施例)
【特許文献2】特開2004−315676号公報(請求項1及び7、段落[0036][0057]、実施例)
【特許文献3】特開2005−162785号公報(請求項1及び4、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、複屈折が低減され、光学的特性に優れたポリカーボネート系樹脂組成物及びこの樹脂組成物で形成された成形体を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ポリカーボネート系樹脂の特性(例えば、機械的特性)を損なわず、複屈折を低減でき、靱性にも優れた樹脂組成物及びこの樹脂組成物で形成された成形体を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、ブリードアウトが抑制された樹脂組成物及びこの樹脂組成物で形成された成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリカーボネート系樹脂にフルオレンポリエステルオリゴマーを添加すると複屈折が大幅に低減することを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有するフルオレンポリエステルオリゴマーとで構成されている。
【0015】
前記フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、2000〜15000(例えば、8000〜12000)程度であってもよい。また、前記フルオレンポリエステルオリゴマーは、下記式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、R及びRは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、N,N−二置換アミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、kは0〜4の整数、n及びpはそれぞれ0以上の整数である。)
で表されるフルオレン化合物を含むジオール成分と、ジカルボン酸成分との縮合体であってもよい。
【0018】
前記フルオレンポリエステルオリゴマーの割合は、前記ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1〜50重量部(例えば、10〜25重量部)程度であってもよい。
【0019】
本発明は、前記樹脂組成物で形成された成形体(例えば、光学部材)を含む。
【0020】
なお、本明細書中、フルオレンポリエステルオリゴマーとは、少なくとも9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有する化合物を含むジオール成分とジカルボン酸成分とが縮合することにより得られるオリゴマー(エステルオリゴマー、ポリエステルオリゴマー)を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ポリカーボネート系樹脂にフルオレンポリエステルオリゴマーを添加するため、フルオレンの有する高い光学的特性(高屈折率、低複屈折)を付与できる。また、高分子量のフルオレンポリエステルの添加に比較して、添加量が少なくてもポリカーボネート系樹脂組成物の複屈折を大幅に低下でき、フルオレンポリエステルオリゴマーの分子量及び添加量を調整することにより、光学的特性と機械的特性とを両立できる。また、オリゴマー域のフルオレンポリエステルを添加するため、ポリカーボネート系樹脂との相溶性が高く、フルオレン骨格の有する機能を効率よく付与できる。さらに、低分子化合物の添加と異なり、ブリードアウトも抑制でき、高度な光学的特性を長期間に亘り保持できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ポリカーボネート系樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、フルオレンポリエステルオリゴマーとで構成された樹脂組成物である。
【0023】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂としては、芳香族ポリカーボネート系樹脂(芳香族ジヒドロキシ化合物を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)、特に、ビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノール類を重合成分とするポリカーボネート系樹脂)が好ましい。
【0024】
ビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシトリル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシキシリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなど]、ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類[例えば、4,4′−ジ(ヒドロキシフェニル)ケトンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)など]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシドなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドなど]などが例示できる。これらのビスフェノール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
これらのビスフェノール類のうち、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシC6−10アリール)C1−6アルカンなどが好ましい。
【0026】
ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量は、例えば、10000〜100000、好ましくは15000〜80000、さらに好ましくは20000〜50000程度であってもよい。
【0027】
なお、ポリカーボネート系樹脂は、慣用の方法(例えば、ホスゲン法、エステル交換法など)により得ることができる。
【0028】
(フルオレンポリエステルオリゴマー)
オリゴマー域のフルオレンポリエステルは、高分子量のフルオレンポリエステルと比較すると、添加量が少なくてもポリカーボネート系樹脂との相溶性が高いため、少量の添加量で複屈折を低減させるのに有利である。また、フルオレンポリエステルオリゴマーをポリカーボネート系樹脂に添加してもブリードアウトが抑制され、高度な光学的特性を長期間に亘り付与できる。
【0029】
フルオレンポリエステルオリゴマーは、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。フルオレンポリエステルオリゴマーは、少なくともフルオレン化合物を含むジオール成分と、ジカルボン酸成分とが縮合した縮合体であってもよい。
【0030】
(フルオレン化合物を含むジオール成分)
フルオレン化合物は、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を有する限り、特に制限されず、下記式(1)
【0031】
【化2】

【0032】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、R及びRは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、N,N−二置換アミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、kは0〜4の整数、n及びpはそれぞれ0以上の整数である。)
で表される化合物であってもよい。
【0033】
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環の他、少なくともベンゼン環骨格を有する縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環など)、縮合三環式炭化水素環(アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環など]などが挙げられる。
【0034】
なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Zは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一の環である場合が多い。
【0035】
環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環(特にベンゼン環)などが好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0036】
基R及び基Rで表される炭化水素基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基、さらに好ましくはC1−3アルキル基、特にメチル基又はエチル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−8シクロアルキル基、好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(モノ又はジメチルフェニル基(トリル基、2−メチルフェニル基、キシリル基など)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などが例示できる。
【0037】
基R及び基Rで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基(好ましくはC1−4アルコキシ基、さらに好ましくはC1−3アルコキシ基など)が例示でき、シクロアルコキシ基としては、シクロへキシルオキシ基などのC5−8シクロアルキルオキシ基(C5−6シクロアルキルオキシ基など)が例示できる。さらに、アリールオキシ基としては、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基などが例示でき、アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基などが例示できる。
【0038】
基R及び基Rで表されるアルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基としては、それぞれ、上記アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基に対応する基が例示できる。
【0039】
基R及び基Rで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが例示できる。
【0040】
基R及び基Rで表されるN,N−二置換アミノ基としては、N,N−ジアルキルアミノ基(N,N−ジメチルアミノ基などのジC1−6アルキルアミノ基、好ましくはジC1−4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0041】
基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(又は1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基が挙げられる。これらのアルキレン基のうち、特に、エチレン基が好ましい。なお、nが2以上の整数である場合、各オキシアルキレンユニットにおけるアルキレン基は、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。また、2つの環Zにおいて、基Rは互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
【0042】
オキシアルキレン基(OR)の繰り返し数(付加モル数)を示すnは、0〜15(例えば、0〜10)程度の範囲から選択でき、例えば0〜6(例えば、1〜5)、好ましくは0〜4(例えば、1〜3)、さらに好ましくは0〜2(特に、0又は1)程度であってもよい。2つの環Zに結合するオキシアルキレン基は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。環Zに置換する基Rの置換数を表すpは、例えば、0〜6、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2程度であってもよい。
【0043】
式(1)で表される代表的な化合物としては、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類などが例示できる。
【0044】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−モノ又はジC1−4アルキルフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシ−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−モノ又はジC6−10アリールフェニル)フルオレンなど]など};9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類{9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]など}が含まれる。
【0045】
9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類としては、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類に対応する化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−又は3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−フェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アルキルフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[2−(2−ヒドロキシエトキシ)−5−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC1−6アルキルフェニル)フルオレンなど}、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシ−アリールフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−モノ又はジC6−10アリールフェニル)フルオレンなど}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[2−(6−(2−ヒドロキシエトキシ)ナフチル)]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレンなど}などの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類;これらの化合物に対応し、ヒドロキシアルコキシ基がヒドロキシポリアルコキシ基に置換された化合物、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシポリアルコキシアリール)−フルオレン類{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}−フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシフェニル]−フルオレンなど}などが含まれる。
【0046】
これらのフルオレン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのフルオレン化合物のうち、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類が汎用される。
【0047】
なお、フルオレン化合物は、市販品を利用してもよい。また、フルオレン化合物は、文献[J.Appl.Polym.Sci.,27(9),3289,1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報、特開2000−26349号公報、特開2002−47227号公報、特開2003−221352号公報に記載の方法で製造してもよい。
【0048】
フルオレン化合物を含むジオール成分は、フルオレンの特性を損なわない範囲で、流動性や柔軟性を調整するために、フルオレン化合物以外のジオール成分を含んでもよい。フルオレン化合物以外のジオール成分としては、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルキレングリコールなど)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2−4アルキレングリコールなど)などが例示できる。これらのフルオレン化合物以外のジオール成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのフルオレン化合物以外のジオール成分のうち、エチレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレングリコールが好ましい。
【0049】
フルオレン化合物とフルオレン化合物以外のジオール成分との割合(モル比)は、前者/後者=60/40〜99.9/0.1、好ましくは70/30〜99/1、さらに好ましくは80/20〜90/10程度であってもよい。
【0050】
(ジカルボン酸成分)
ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸又はその反応性誘導体(例えば、酸無水物、酸ハライド(例えば、酸クロライドなど)など)であってもよい。ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸であってもよいが、機械的強度、高屈折率及び低複屈折のバランスを保つ観点から、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸(特に、脂環族ジカルボン酸)であることが好ましい。
【0051】
脂環族ジカルボン酸としては、例えば、飽和脂環族ジカルボン酸[単環式アルカンジカルボン酸(例えば、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC3−10シクロアルカン−ジカルボン酸など)、多環式アルカンジカルボン酸(例えば、ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸など)]、不飽和脂環族ジカルボン酸[単環式アルケンジカルボン酸(例えば、シクロヘキセンジカルボン酸などのC3−10シクロアルケン−ジカルボン酸など)、多環式アルケンジカルボン酸(例えば、ボルネンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸など)]などが例示できる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC6−12アレーン−ジカルボン酸;4,4’−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC12−16ビスフェノール−ジカルボン酸など]などが例示できる。これらのジカルボン酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
脂環族ジカルボン酸と他のジカルボン酸との割合(モル比)は、前者/後者=50/50〜100/0、好ましくは60/40〜100/0、さらに好ましくは70/30〜100/0(例えば、80/20〜90/10)程度であってもよい。
【0053】
フルオレンポリエステルオリゴマーは、フルオレン化合物を含むジオール成分1モルに対して、ジカルボン酸成分を0.5〜1.5モル、好ましくは0.6〜1.4モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モル程度の割合で使用し、縮合(エステル化)した縮合体であってもよい。
【0054】
(多官能成分)
フルオレンポリエステルオリゴマーは、前記ジオール成分及びジカルボン酸成分に加えて、多官能成分が縮合した縮合体であってもよい。この縮合体は、分岐構造を有することが多い。
【0055】
多官能成分は、分岐構造を形成する機能を有していてもよい。多官能成分としては、ヒドロキシル基及びカルボキシル基又はその反応性誘導基(アシルハライド基、酸無水物基など)から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に3個以上(例えば、3又は4個、特に3個)含む化合物であってもよい。具体的には、以下に列挙する(i)3官能以上のポリオール類、(ii)3官能以上のポリカルボン酸類、(iii)ヒドロキシル基及びカルボキシル基を合計で3個以上有するヒドロキシカルボン酸類などが挙げられる。
【0056】
(i)3官能以上のポリオール類としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族C3−10アルカントリオール類;ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの4価以上のアルコール類が例示できる。(ii)3官能以上のポリカルボン酸類としては、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ピロメリット酸などのカルボン酸又はこれらの誘導体[例えば、酸無水物、酸ハライド(例えば、酸クロライドなど)など]が例示できる。(iii)ヒドロキシル基及びカルボキシル基を合計で3個以上有するヒドロキシカルボン酸類としては、2個のヒドロキシル基及び1個のカルボキシル基を有する化合物(例えば、グリセリン酸、酒石酸などのジヒドロキシC3−6アルカン酸;プロトカテク酸などのジヒドロキシ芳香族カルボン酸など)、1個のヒドロキシル基及び2個のカルボキシル基を有する化合物(例えば、タルトロン酸、りんご酸などのヒドロキシC3−6アルカン二酸など)、3個のヒドロキシル基及び1個のカルボキシル基を有する化合物(例えば、没食子酸などのトリヒドロキシ芳香族カルボン酸など)、1個のヒドロキシル基及び3個のカルボキシル基を有する化合物(例えば、クエン酸など)などが例示できる。これらの多官能成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
フルオレンポリエステルオリゴマーは、フルオレン化合物を含むジオール成分及びジカルボン酸成分1モルに対して、多官能成分を0〜0.1モル、好ましくは0.001〜0.05モル、さらに好ましくは0.002〜0.01モル程度の割合で使用し、縮合した縮合体あってもよい。多官能成分の縮合比が前記範囲にあると、ゲル発生を抑制できる。
【0058】
これらのフルオレンポリエステルオリゴマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
このようなフルオレンポリエステルオリゴマーは、(A)各成分を重合(縮合)する方法、(B)フルオレン骨格含有ポリエステル樹脂を解重合剤により解重合する方法などを利用して、調製できる。これらの方法は、用途に応じて選択できる。
【0060】
前記(A)の方法は、フルオレン化合物を含むジオール成分と、ジカルボン酸成分と、必要に応じて、多官能成分とを重合させる方法などであってもよい。重合方法としては、慣用の方法、例えば、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などが例示でき、溶融重合法が汎用される。
【0061】
ジカルボン酸成分の使用割合は、フルオレン化合物を含むジオール成分1モルに対して、0.5〜1.5モル、好ましくは0.6〜1.4モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モル程度であってもよく、特に、オリゴマーを効率よく製造する点から、一方の成分を他方の成分に対して過剰に使用することが好ましい。また、多官能成分を使用する場合、使用割合は、フルオレン化合物を含むジオール成分及びジカルボン酸成分1モルに対して、0〜0.1モル、好ましくは0.001〜0.05モル、さらに好ましくは0.002〜0.01モル程度であってもよい。
【0062】
反応は、重合方法に応じて、適宜溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
【0063】
反応は、穏和な条件でオリゴマーを得るために、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、例えば、金属触媒などが使用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(マグネシウム、バリウムなど)、遷移金属(亜鉛、カドミウム、鉛、コバルトなど)などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコキシド、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などが例示できる。これらの触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、フルオレン化合物を含むジオール成分又はジカルボン酸成分1モルに対して、0.01×10−4〜100×10−4モル、好ましくは0.1×10−4〜10×10−4モル程度であってもよい。
【0064】
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができ、減圧下(例えば、1×10〜1×10Pa程度)で行ってもよい。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150〜300℃、好ましくは180〜290℃、さらに好ましくは200〜280℃程度であってもよい。
【0065】
前記(B)の方法は、必要に応じてフルオレンポリエステルを溶解可能な溶剤を用いて、フルオレンポリエステルを解重合剤とともに溶融混練し、フルオレンポリエステルを解重合反応させる方法などであってもよい。
【0066】
解重合に供するフルオレンポリエステルとしては、前記フルオレン化合物を含むジオール成分及び前記ジカルボン酸成分が縮合した縮合体などが例示できる。フルオレンポリエステルの重量平均分子量は、高分子量に限定されず、オリゴマー域からも選択でき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(溶媒:テトラヒドロフラン、基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、例えば、10000〜100000、好ましくは15000〜80000、さらに好ましくは20000〜50000程度であってもよい。
【0067】
解重合剤は、前記フルオレン化合物以外のジオール成分、前記ジカルボン酸成分、及び前記多官能成分から選択された少なくとも一種の成分で構成されていることが好ましい。解重合剤は、フルオレンポリエステルの重合成分と同一又は異なっていてもよい。解重合剤は、例えば、前記多官能成分、特にトリメチロールプロパンなどの脂肪族C3−10アルカントリオールであってもよい。なお、解重合剤としてジオール又はポリオールを使用すると、水酸基価を向上できる。他方、解重合剤としてジカルボン酸又はポリカルボン酸を使用すると、酸価を向上できる。
【0068】
解重合剤の割合は、フルオレンポリエステル100重量部に対し、1〜30重量部、好ましくは1.2〜28重量部、さらに好ましくは1.5〜25重量部、特に1.8〜20重量部(例えば、2〜20重量部)程度であってもよい。
【0069】
解重合反応は、大気中で行ってもよいが、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中、脱気雰囲気中で行う場合が多い。また、解重合反応は、常圧下、減圧下又は加圧下で行ってもよい。さらに、解重合反応温度は、例えば、200〜300℃、好ましくは220〜290℃、さらに好ましくは230〜280℃程度であってもよい。
【0070】
反応時間は、フルオレンポリエステルオリゴマーの所望の重合度、反応条件などに応じて適宜選択でき、例えば、1〜90分程度から選択でき、1〜80分、好ましくは3〜75分、さらに好ましくは5〜70分程度であってもよい。
【0071】
フルオレンポリエステルオリゴマーの水酸基価又は酸価は、1〜300mgKOH/g程度の範囲から選択でき、用途に応じて、20mgKOH/g以下[例えば、0.1〜10mgKOH/g(例えば、1〜5mgKOH/g)程度]、20mgKOH/g以上[例えば、20〜200mgKOH/g(例えば、50〜150mgKOH/g)程度]であってもよい。
【0072】
フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(溶媒:テトラヒドロフラン、基準樹脂:ポリスチレン)を用いて測定したとき、2000〜15000の範囲から選択でき、光学特性と機械的特性との両立の点から、3000〜15000(例えば、8000〜12000)、好ましくは4000〜12000(例えば、5000〜10000)、さらに好ましくは6000〜10000(例えば、8000〜10000)程度であってもよく、光学特性の点から、例えば、2000〜8000、好ましくは3000〜7000、さらに好ましくは4000〜6000程度であってもよい。オリゴマー域のフルオレンポリエステルオリゴマーを添加すると、ポリカーボネート系樹脂との相溶性に優れ、フルオレン骨格の有する機能を効率よく付与できる。また、この樹脂組成物で形成された成形体では、フルオレンポリエステルオリゴマーのブリードアウトを抑制でき、フルオレンの有する特性を長期間に亘り保持できる。
【0073】
フルオレンポリエステルオリゴマーの割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1〜100重量部(例えば、1〜50重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、5〜80重量部、好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは15〜50重量部程度であってもよく、光学的特性(特に、低複屈折)と機械的特性とを両立できる点から、フルオレンポリエステルオリゴマーの割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、例えば、3〜40重量部、好ましくは5〜30重量部、さらに好ましくは10〜25重量部(特に、15〜20重量部)程度であってもよい。
【0074】
(任意成分)
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤)、離型剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤(フィラー)、難燃剤、可塑剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、液状ゴム、耐熱性改良剤、撥水性改良剤などを含有させてもよい。
【0075】
任意成分の割合は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、10重量部以下、例えば、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度であってもよい。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、透明性に優れ、屈折率が高く、複屈折が低く、機械的強度を有し、耐熱性にも優れている。特に、本発明の樹脂組成物は、フルオレンポリエステルオリゴマーの添加量が少量であっても、複屈折を大幅に低減できる。厚み0.5mmのシートをTg+30℃の条件で1.7倍に延伸したシートの複屈折は、波長600nmにおいて、1×10−3以下、好ましくは8×10−4以下、さらに好ましくは5×10−4以下(特に、4.5×10−4以下(例えば、0.5×10−4〜4.5×10−4程度)であってもよい。本発明の樹脂組成物は低複屈折であるため、成形体をさらに成形する場合や延伸加工において延伸倍率を大きくする場合などに特に有利である。
【0077】
[ポリカーボネート系樹脂組成物及び成形体の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂と、フルオレンポリエステルオリゴマーとを混合することにより調製してもよい。混合方法は、特に限定されず、例えば、リボンブレンダ、タンブルミキサ、ヘンシェルミキサなどの混合機や、オープンローラ、ニーダ、バンバリーミキサ、押出機などの混練機による混合手段などを用いた溶融混練による方法が利用できる。これらの混合方法は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0078】
また、樹脂組成物は、溶媒を混合した塗布剤の形態であってもよい。塗布剤を構成する溶媒としては、ポリカーボネート系樹脂が溶解可能な溶媒である限り、特に制限されず、例えば、炭化水素類(ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0079】
溶媒の割合は、塗布性を損なわない範囲であればよく、樹脂組成物の固形分1重量部に対して、溶媒1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度であってもよい。
【0080】
本発明の成形体は、前記ポリカーボネート系樹脂組成物の形態(樹脂ペレット、塗布液など)に応じて、公知の成形方法[例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法(例えば、Tダイ法、インフレーション法など)、カレンダー法、熱成形法(特に、熱プレス法)、トランスファー成形法、ブロー成形法、キャスティング成形法など]を利用して、前記樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
【0081】
本発明の成形体はシート状(又はフィルム状)であってもよく、延伸(又は延伸処理)されたシート(又はフィルム)であってもよい。延伸は、一軸延伸(例えば、縦延伸又は横延伸)又は二軸延伸(例えば、等延伸又は偏延伸)のいずれであってもよい。延伸倍率は、例えば、一軸延伸及び二軸延伸において各方向(又は一方向)にそれぞれ1.1〜10倍程度であってもよく、好ましくは1.2〜5倍、さらに好ましくは1.3〜3倍(特に1.5〜2倍)程度であってもよい。本発明の成形体は、高倍率で延伸しても、複屈折の上昇を抑制できる。
【0082】
本発明の成形体の破断伸度は、JIS K7113に準拠して、10〜200%、好ましくは15〜180%、さらに好ましくは20〜160%程度であってもよい。また、破断強度は、JIS K7113に準拠して、50〜100MPa、好ましくは55〜95MPa、さらに好ましくは60〜90MPa(例えば、60〜70MPa)程度であってもよい。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における各評価方法は以下の通りである。
【0084】
(複屈折)
実施例1〜3、比較例1及び2で得られたシートをTg+30℃の条件で1.7倍延伸して、リタデーション測定装置(大塚電子(株)製、RETS−100)を用いて、波長600nmにおけるリタデーションを測定し、シートの厚みで除算することにより、複屈折を算出した。
【0085】
(破断伸度)
破断伸度は、実施例1〜3、比較例1及び2で得られたシートを用いて、JIS K7113に準拠して測定した。
【0086】
(破断強度)
破断強度は、実施例1〜3、比較例1及び2で得られたシートを用いて、JIS K7113に準拠して測定した。
【0087】
実施例1
フルオレンポリエステルオリゴマー(大阪ガスケミカル(株)製、重量平均分子量5700)20重量部と、ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライK−1300Y)80重量部とを、温度230℃に設定したバンバリーミキサを用いて、10分間溶融混練を行うことにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を240℃、20MPaの条件でプレス成形することにより、厚み0.5mmのシートを作製した。このシートの複屈折、破断伸度、及び破断強度を測定した結果を表1に示す。
【0088】
実施例2
フルオレンポリエステルオリゴマー(大阪ガスケミカル(株)製、重量平均分子量9700)15重量部と、ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライK−1300Y)85重量部とを溶融混練した点を除き、実施例1と同様に行った。この結果を表1に示す。
【0089】
実施例3
フルオレンポリエステルオリゴマー(大阪ガスケミカル(株)製、重量平均分子量9700)30重量部と、ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライK−1300Y)70重量部とを溶融混練した点を除き、実施例1と同様に行った。この結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライK−1300Y)を成形することにより、厚み0.5mmのシートを作製した。このシートの複屈折、破断伸度、及び破断強度を測定した結果を表1に示す。
【0091】
比較例2
フルオレンポリエステル(大阪ガスケミカル(株)製、重量平均分子量35000)20重量部と、ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライK−1300Y)80重量部とを、温度260℃に設定したバンバリーミキサを用いて、10分間溶融混練を行うことにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を240℃、20MPaの条件でプレス成形することにより、厚み0.5mmのシートを作製した。このシートの複屈折、破断伸度、及び破断強度を測定した結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、実施例1〜3のフルオレンポリエステルオリゴマーを添加したポリカーボネート系樹脂は、比較例1のポリカーボネート系樹脂に比べ、複屈折が大幅に低下しており、比較例2のフルオレンポリエステルを添加したポリカーボネート系樹脂に比べても、複屈折が低下していた。また、実施例2のフルオレンポリエステルオリゴマーを添加したポリカーボネート系樹脂は、比較例1のポリカーボネート系樹脂と同等の破断伸度及び破断強度を示した。これに対して、実施例3のポリカーボネート系樹脂は、実施例2のポリカーボネート系樹脂よりも複屈折が低減されているものの、破断伸度は低下していた。すなわち、ポリカーボネート系樹脂85重量部に対して、重量平均分子量9700のフルオレンポリエステルオリゴマーを15重量部の割合で用いると、低複屈折などの光学的特性と伸び強度などの靱性とを両立できた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
ポリカーボネート系樹脂は透明性、機械的強度、屈折率の点で良好な特性を示すが、複屈折が高いため、高精度な光学部材(例えば、光学レンズや光学フィルム)の用途には必ずしも適さない。しかし、フルオレンポリエステルオリゴマーを少量添加することにより、ポリカーボネート系樹脂の特性を保持したまま、複屈折を大幅に低減できるため、特に、ポリカーボネート系樹脂をベースとした高精度な光学部材を提供することができる。本発明の樹脂組成物及びその成形体は、例えば、CD(コンパクトディスク)[例えば、CD−ROM(コンパクトディスク−リードオンリーメモリ)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθレンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ;偏光フィルム及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向フィルム、視野角拡大フィルム、拡散板フィルム、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性(ACF)フィルム、電磁波遮断(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層などの光学フィルムなどに好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂と、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有するフルオレンポリエステルオリゴマーとで構成されたポリカーボネート系樹脂組成物であって、前記フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が2000〜15000であるポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
フルオレンポリエステルオリゴマーが、下記式(1)
【化1】

(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、R及びRは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、N,N−二置換アミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、kは0〜4の整数、n及びpはそれぞれ0以上の整数である。)
で表されるフルオレン化合物を含むジオール成分と、ジカルボン酸成分との縮合体である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
フルオレンポリエステルオリゴマーの割合が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、1〜50重量部である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
フルオレンポリエステルオリゴマーの重量平均分子量が8000〜12000であり、かつフルオレンポリエステルオリゴマーの割合が、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して10〜25重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物で形成された成形体。
【請求項6】
光学部材である請求項5記載の成形体。

【公開番号】特開2010−275364(P2010−275364A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126788(P2009−126788)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】