ポリクロメータおよびその迷光の補正方法
【課題】光学要素およびハウジング内面の反射に起因する迷光を高精度に補正する。
【解決手段】2列のセンサアレイDAs,DArを用いるデュアルチャネルポリクロメータ10において、外部処理装置ECはスリットSLsからサンプル光Isを入射させたときのセンサアレイDArの出力から、入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)を求めて演算制御手段PUに記憶させておき、測光時には、前記演算制御手段PUは、前記S0nと入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、被測定光の分光(画素)分布出力Isn,IrnをIs’n,Ir’nに補正する。したがって、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、高精度に迷光を補正できる。
【解決手段】2列のセンサアレイDAs,DArを用いるデュアルチャネルポリクロメータ10において、外部処理装置ECはスリットSLsからサンプル光Isを入射させたときのセンサアレイDArの出力から、入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)を求めて演算制御手段PUに記憶させておき、測光時には、前記演算制御手段PUは、前記S0nと入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、被測定光の分光(画素)分布出力Isn,IrnをIs’n,Ir’nに補正する。したがって、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、高精度に迷光を補正できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定光の分光強度分布や、被測定試料の分光反射特性を測定するためのポリクロメータおよびその迷光の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定波長域の全波長の分光強度を同時に測定するポリクロメータは、測定効率が高く、瞬間光を測定できるなどの特徴から、被測定光の分光強度分布を測定する分光輝度計(分光強度測定装置)や、試料の分光反射特性を測定する分光測色計(分光反射特性測定装置)の分光手段として広く用いられている。図6は、標準的なポリクロメータ1の概略構成を示す断面図である。光源Sから入射スリットSLに入射した光束Iは、レンズLによって平行光束となって回折格子Gに入射して分散反射され、再びレンズLによって入射スリットSLの分散像(この図6の例では、1次回折光Dによる分散像)を作ってセンサアレイDA上に収束する。センサアレイDAは、たとえば画素番号n=1〜35の35画素を有し、380〜720nmの波長域をカバーする。
【0003】
このようなポリクロメータでは、迷光が測定精度に影響を与える。ここで、図11には、典型的な回折格子の1次回折光に対する回折効率を示す。この回折格子は、センサアレイDAに用いられるCCDやCMOSなどのシリコン系のセンサの感度が、長波長程高いので、回折効率が短波長側で高くなるように設定されている。このため、この回折格子を図6のポリクロメータ1の回折格子Gに用いた場合、400nmではおよそ70%、700nmではおよそ40%の入射光が、1次回折光としてセンサアレイDAに入射するけれども、この1次回折光以外の回折光は迷光になる(入射光の700nmの成分が迷光になる比率は、400nmの成分のおよそ2倍ということになる)。
【0004】
そこで、特許文献1や特許文献2では、共に、単波長光を入射させたときの中心波長から離れた波長域の出力分布を該単波長光の波長の入射光に対する迷光分布とし、複数の単波長光について求めた前記迷光分布から測定波長域各波長の入射光に対する迷光分布を示すマトリクスデータを予め求めておき、実際の被測定光の分光分布と前記マトリクスデータとから、被測定光による迷光分布を推定、補正している。
【特許文献1】特開平11−30552号公報
【特許文献2】特開平7−209082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術では、前記マトリクスデータを取得するには、エネルギの低い単波長光のわずかな比率しか入射しない迷光域各波長の出力を測定する必要があり、必要な精度を得るためには、コストも時間もかかるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、容易に得られる情報を基に、充分な精度で迷光を補正することができるポリクロメータおよびその迷光の補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおける迷光を補正するための方法であって、入射光の分光分布に依存しない、迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)を求めるステップ(S1,S5)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)を求めるステップ(S6〜S8,S11〜S13)と、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定するステップ(S14)と、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)するステップ(S15)とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のポリクロメータは、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、演算制御手段において各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおいて、前記演算制御手段は、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)することを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布(S0n)と強度係数(Ks,Kr)とに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定するので、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0010】
また、補正処理を画素分布出力に対して行う場合、画素−波長変換を伴わない簡単な処理で高精度の迷光補正を行うことができる。
【0011】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記受光手段の受光画素域を所定の波長幅または画素幅の波長帯(バンドa,b,c)に分割し、前記迷光強度係数(Ks,Kr)を、予め求められた、入射光の前記各バンド(a,b,c)の成分が迷光になる効率(バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)と、入射光の各バンド成分の積分強度(積分バンド入力Aa,Ab,Ac)とから求めることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、たとえば可視域(400−700nm)を比較的少数の、広い波長幅のバンドに分割することで、入射光の強度を上げることができ、高精度に各バンド(a,b,c)のバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)を求めることができる。更にこのバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)を用いて、迷光強度係数(Ks,Kr)を求めることができるので、結果的に高精度に迷光を補正することができる。また、個々の分光装置のバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)は、充分な強度の入射光を用いるので、容易に精度良く求めることができる。
【0013】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記迷光分布(Ssn,Srn)を、迷光分布(Ssn,Srn)=バンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)・積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)・基準迷光分布(S0n)によって推定することを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、入射光の積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)と、保存されているバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)および基準迷光分布(S0n)とを用いて、簡単な処理で入射光の迷光分布(Ssn,Srn)を推定して、入射光の分光分布出力、または画素分布出力(Isn,Irn)を高精度に補正(Isn→Is’n,Irn→Ir’n)することができる。
【0015】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記各バンド(a,b,c)が、異なるカット波長をもつ2つのシャープカットロングパスフィルタの差分透過領域であることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、各バンド(a,b,c)の入射光の画素分布出力を、2つの高透過率のシャープカットロングパスフィルタを透過させたときの画素分布出力の差によって得ることができ、それに基づいて前記バンド迷光効率を精度良く求めることができる。
【0017】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、予め求められた各バンド(a,b,c)の分光透過率、または画素透過率(Ta,n,Tb,n,Tc,n)と、入射光の分光分布出力、または画素分布出力(Isn)とから、入射光の積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)を求めることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、簡単な処理で積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)を求めることができる。
【0019】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記基準迷光分布(S0n)を、前記受光手段の少なくとも一部の画素に入射しない波長の入射光を入射させたときの、前記少なくとも一部の画素の出力から求めることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、完成状態の分光装置の入射スリットに前記の波長の入射光を入射させるだけで、前記基準迷光分布(S0n)を求めることができる。
【0021】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法では、前記受光手段は、入射光の前記分離された波長成分を受光する第1の画素列と、前記分離された波長成分が入射しない位置で前記第1の画素列と並列に配置された第2の画素列とを具え、前記入射光を入射させたときの、前記第2の画素列の出力から前記基準迷光分布(S0n)を求めることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、前記基準迷光分布(S0n)を容易に精度良く求めることができる。この方法は、2つの画素列を備えるデュアルチャネルのポリクロメータについて特に有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリクロメータおよびその迷光の補正方法は、以上のように、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータおよびその迷光を補正するための方法であって、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)する。
【0024】
それゆえ、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布(S0n)と強度係数(Ks,Kr)とに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定するので、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の一形態に係るポリクロメータであるデュアルチャネルポリクロメータ10のブロック図である。このデュアルチャネルポリクロメータ10において、前述の図6で示すポリクロメータ1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示す。このデュアルチャネルポリクロメータ10は、試料を照明して、その分光反射率係数などを測定する前記分光測色計(分光反射特性測定装置)の分光手段として用いられる。このため、前記試料からの反射光(サンプル光)用のサンプルチャネル(以下、Sチャネル)と照明光用の参照チャネル(以下、Rチャネル)との2つの光学系統を具え、Sチャネル入射スリットSLsおよびRチャネル入射スリットSLr、ならびにそれらに対応するSチャネルセンサアレイDAsおよびRチャネルセンサアレイDArが、図1(a)の紙面の奥行き方向に、図1(b)に示すように、相互に位置を入れ替えて取り付けられている。
【0026】
この構成によって、Sチャネル入射スリットSLsおよびRチャネル入射スリットSLrから入射したサンプル光Isおよび照明光Irは、各々、レンズLによって平行光束となって回折格子Gに入射して分散反射される。その中の1次分散光DsおよびDrが、再びレンズLによって入射スリットSLsおよびSLrの1次分散像を作って、SチャネルセンサアレイDAsおよびRチャネルセンサアレイDArに入射し、各々、画素信号に変換される。両チャネルの画素信号は処理回路PCを経て、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力として、演算制御手段PUに入力される。演算制御手段PUは、入力された両チャネルの画素分布出力に公知の処理を施して、前記分光反射率係数などの試料の分光特性に変換して出力する。
【0027】
このとき、SチャネルおよびRチャネル入射光Is,Irの一部は、前述のように該デュアルチャネルポリクロメータ10内で迷光となって、Sチャネル用センサアレイDAsおよびRチャネル用センサアレイDArに入射し、試料の分光特性測定値の誤差となる。ここで、Rチャネルの入射光である照明光Ir由来の迷光については、該入射光Irが試料に依存せず一定であるので、事前に試料のない状態での(本来、0であるべき)Sチャネルの画素信号を測定して、SチャネルとRチャネルとへの迷光とする、いわゆるダーク校正で、大きな誤差なく補正することができる。
【0028】
これに対して、Sチャネルの入射光であるサンプル光Is由来の迷光は、該サンプル光Isが試料に依存するので、前記照明光Ir由来の迷光のように事前に求めておくことができない。本発明の目的は、このサンプル光Is(Sチャネル入射光)由来の迷光の補正であり、以下ではサンプル光Is由来のSチャネルとRチャネルとへの迷光の補正について説明する。
【0029】
補正にあたって、本件発明者は、以下のようにして、迷光の原因を詳しく調査した。先ず、前述のポリクロメータ1への入射光束に、図7および表1で示すような分光透過率(透明ガラスの透過率で基準化されている)のシャープカットロングパスフィルタ(色ガラスフィルタ)L42,Y40,O56,R63,R70を、図6において参照符号Fで示すように挿入したときのセンサアレイDAの画素出力を見ると、図8および図9(図8の拡大図)に示すように、本来、透過光のない波長に対応する画素で、迷光による出力(0になるべきところ、図9に現れるノイズフロアのような略平坦部分)が観察された。すなわち、その波長成分の光が本来入射するべき画素以外の画素にも、迷光として入射している。またその迷光は、フィルタのカットオフ波長が短波長である程、すなわち透過波長域が広い程、大きくなっている。
【0030】
【数1】
【0031】
これらの迷光の支配的な要因としては、レンズLの2つの表面での反射光SLおよびセンサアレイDAに入射しない回折格子Gの分散反射光SG(1次以外、つまり0次、−1次、±2次、・・・の回折光、およびセンサアレイDAに入射しない波長域の1次回折光)であると推察することができる。
【0032】
これらの成分は、ポリクロメータ1のハウジングHの内壁(通常、黒色)の多重反射で減衰した後、迷光STとしてセンサアレイDAに入射することになる。センサアレイDAに入射する迷光の画素間の分布は、ハウジングHの内壁面の反射特性および拡散特性に依存するが、通常、反射率と拡散性を抑えるべく黒色平滑面とされている前記ハウジングHの内壁面は、前記反射特性および拡散特性の波長依存性は小さい。したがって、センサアレイDAの各画素に入射する迷光の相対分布(相対画素分布)は、入射光の分光分布に殆ど依存しない。図10は、前述のシャープカットロングパスフィルタF(L42,Y40,O56,R63,R70)を通した入射光によるセンサアレイDAの1〜35画素(380〜720nmに相当)の迷光の画素分布であるが、相対的には近似していることが理解される。
【0033】
一方、入射光が迷光になる効率は、波長に依存する。これの主たる要因は、前述の図11で説明した回折格子の1次回折光に対する回折効率によるものであり、センサアレイDAの迷光出力を考えると、該センサアレイDAの分光感度も要因となる。
【0034】
以上から、ポリクロメータ1の迷光は、以下の特徴を持つ。
i.迷光の相対画素分布は、入射光の分光分布に殆ど依存しない。
ii.迷光の強度は、入射光の分光分布と、ポリクロメータ1に固有の各波長の入射光が迷光になる効率(分光迷光効率)とに依存する。
【0035】
したがって、本実施の形態のポリクロメータ10に対する迷光補正は、SチャネルおよびRチャネルの画素分布出力IsnおよびIrn(n=1〜35は画素番号)に対して以下のように行われ、この画素分布出力Isn,Irnから分光分布への変換は迷光補正された画素出力について行われる。
【0036】
先ず、前述のように、ポリクロメータの迷光の相対画素分布は、入射光の分光分布に依存せず、基準的な画素分布(以下、基準迷光分布)S0nで近似できる。また、迷光の強度は、入射光の分光分布と分光迷光効率とに依存し、したがってこれに対応する入射光の画素分布と画素迷光効率とに依存する。画素迷光効率は、回折格子Gの回折効率やレンズLの反射率の分光特性、センサアレイDAの分光感度などに依存する。ここで、画素迷光効率がなだらかであれば、これを比較的広い波長帯、つまり画素帯(バンド)のSチャネルおよびRチャネルへの迷光効率(以下、バンド迷光効率)EsBおよびErB(Bはバンド番号)で置き換えても、もともと低レベルの迷光の補正には充分な精度を得ることができる。
【0037】
以上から、先ずSチャネル画素分布出力Isnをもたらす任意の入射光(サンプル光)IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光の画素分布(以下、迷光分布)SsnおよびSrnは、基準迷光分布S0nと、入射光Is全体によるSチャネルおよびRチャネルへの迷光強度を与える係数(以下、迷光強度係数)KsおよびKrの積で与えられ、下記のとおりである。
Ssn=Ks・S0n …(1)
Srn=Kr・S0n …(2)
【0038】
ここで、前記迷光強度係数KsおよびKrは、入射光の各バンドへの全入射量(以下、積分バンド入力)ABと、SチャネルおよびRチャネルへのバンド迷光効率EsBおよびErBとを用いて、
Ks=ΣB(AB・EsB) …(3)
Kr=ΣB(AB・ErB) …(4)
で与えられる(ΣBはバンドBについての積算を表す)ので、結局、SチャネルおよびRチャネルの迷光分布SsnおよびSrnは、
Ssn=S0n・ΣB(AB・EsB) …(5)
Srn=S0n・ΣB(AB・ErB) …(6)
で与えられる。
【0039】
したがって、前記SチャネルおよびRチャネルの画素分布出力IsnおよびIrnに対する迷光補正は、下式のように、迷光分布SsnおよびSrnを差し引いて、補正画素分布Is’nおよびIr’nを得ることで行うことができる。
Is’n=Isn−Ssn …(7)
Ir’n=Irn−Srn …(8)
【0040】
そのため、ポリクロメータ10の校正時に、演算制御手段PUに接続された外部処理装置ECによって、前記基準迷光分布S0nと、バンド迷光効率EsBおよびErBと、バンド積分入力ABの算出に必要なバンド画素透過率TB,nとが求められ、演算制御手段PU内の記憶手段に保存される。それらの求め方は以下の通りである。
【0041】
本実施の形態では、先ず前記基準迷光分布S0nは、Sチャネル用入射スリットSLsにのみ光束Isを入射させたときのRチャネル用センサアレイDArの画素分布出力Irnによって求められる。ここで、画素域は、前述の図7に示す透過特性を持つ2つのシャープカットロングパスフィルタ(以下、シャープカットフィルタ)O56,R70で区切られる、図2(a)で示すような3つのバンドa,b,cに分割される。この他、図2(b)で示すようにバンド迷光効率を求めるために、フィルタY50,O56で区切られるバンドa’が用いられる。
【0042】
そして、白色光源Sからの入射光束に、透明ガラスGとシャープカットフィルタY50,O56,R70のいずれかを挿入して、Sチャネル画素分布出力IsGn,Is50n,Is56n,Is70nおよびRチャネル画素分布出力IrGn,Ir50n,Ir56n,Ir70nを得、さらに前記バンドa,a’,b,cの入射光に対する画素出力として、それらの差分Dsa,n,Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nおよびDra,n,Dra’,n,Drb,n,Drc,nを求める。
【0043】
Dsa,n=IsGn−Is56n …(9−1)
Dsa’,n=Is50n−Is56n …(9−2)
Dsb,n=Is56n−Is70n …(9−3)
Dsc,n=Is70n …(9−4)
Dra,n=IrGn−Ir56n …(10−1)
Dra’,n=Ir50n−Ir56n …(10−2)
Drb,n=Ir56n−Ir70n …(10−3)
Drc,n=Ir70n …(10−4)
次に、各バンドa,b,cの入射光のSチャネルへのバンド迷光効率Esa,Esb,Escを、以下のように、Sチャネルの差分Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nの全画素(n=1〜35)積分値に対する迷光画素域(m=1〜8)積分値の比を、基準迷光分布S0の迷光画素域積分値Σm(S0m)で基準化して求める。
Esa=Σm(Dsa’,m)/Σn(Dsa’,n)/Σm(S0m)
…(11−1)
Esb=Σm(Dsb,m)/Σn(Dsb,n)/Σm(S0m)
…(11−2)
Esc=Σm(Dsc,m)/Σn(Dsc,n)/Σm(S0m)
…(11−3)
ただし、ΣmおよびΣnは、前記の画素mおよびnについての積算値を表す。なお、ここでは全バンドa,b,cに一律にm=1〜8を迷光画素域としたが、バンド毎に異なる迷光画素域を設定してもよい。
【0044】
一方、全画素が迷光域となるRチャネルへのバンド迷光効率Era,Erb,Ercは、以下のように、Sチャネルの差分Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nの全画素積分値に対するRチャネルの差分Dra’,n,Drb,n,Drc,nの全画素積分値の比を、基準迷光分布S0の全画素積分値で基準化して求める。
Era=Σn(Dra’,n)/Σn(Dsa’,n)/Σn(S0n)
…(12−1)
Erb=Σn(Drb,n)/Σn(Dsb,n)/Σn(S0n)
…(12−2)
Erc=Σn(Drc,n)/Σn(Dsc,n)/Σn(S0n)
…(12−3)
【0045】
また、各バンドa,b,cのバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nは、以下のように、差分Dsa,n,Dsb,n,Dsc,nを透明ガラスGの画素分布出力IsGnで基準化して求める。
Ta,n=Dsa,n/IsGn …(13−1)
Tb,n=Dsb,n/IsGn …(13−2)
Tc,n=Dsc,n/IsGn …(13−3)
【0046】
以上のようにして、校正時に各パラメータが求められ、演算制御手段PU内の記憶手段に保存されている状態で、実際の測定時には、該演算制御手段PUにおいて、以下のようにして迷光補正が行われる。すなわち、Rチャネルからは照明光のモニター入射光の画素分布出力Irnが、Sチャネルからは該照明光で照明された試料からの入射光の画素分布出力Isnが、各々得られると、先ず、Sチャネル画素分布出力Isnと、保存されていたバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nとから、以下のように積分バンド入力Aa,Ab,Acを求める。
Aa=Σn(Isn・Ta,n) …(14−1)
Ab=Σn(Isn・Tb,n) …(14−2)
Ac=Σn(Isn・Tc,n) …(14−3)
【0047】
次に、この入射光IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光強度係数KsおよびKrが、上記で求められた積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercとから、以下のように求められる。
Ks=Aa・Esa+Ab・Esb+Ac・Esc …(15)
Kr=Aa・Era+Ab・Erb+Ac・Erc …(16)
【0048】
さらに、入射光IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光分布SsnおよびSrnが、上記で求められた迷光強度係数KsおよびKrと、基準迷光分布S0nとの積で、以下のように求められる。
Ssn=Ks・S0n …(17)
Srn=Kr・S0n …(18)
【0049】
最後に、補正された画素分布Is’nおよびIr’nが以下のようにして求められて、以後の処理に提供される。
Is’n=Isn−Ssn …(19)
Ir’n=Isn−Srn …(20)
【0050】
図3は、校正時における補正パラメータを求めるプロセスを説明するためのフローチャートである。ステップS1では、白色光源Sからの光束Iにガラス板を挿入してSチャネルにのみ入射させ、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力IsGnおよびIrGnを求める。ステップS2では、Y50フィルタを挿入して、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力Is50nおよびIr50nを求める。ステップS3では、O56フィルタを挿入して、Sチャネル画素分布出力Is56nおよびIr56nを求める。ステップS4では、R70フィルタを挿入して、Sチャネル画素分布出力Is70nおよびIr70nを求める。
【0051】
その後、ステップS5では、ガラス板挿入時のRチャネル画素分布出力IrGnを基準迷光分布S0nとして保存する。続いてステップS6では、前記式9−1〜4および式10−1〜4によって、差分Dsa,n,Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nおよびDra,n,Dra’,n,Drb,n,Drc,nを求める。さらにステップS7では、式11−1〜3および式12−1〜3によって、バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを求めて保存する。その後ステップS8では、式13−1〜3によって、バンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nを求めて保存する。
【0052】
また、図4は、測定時における迷光補正のプロセスを説明するためのフローチャートである。ステップS11では、試料を照明して、Sチャネル画素分布出力IsnおよびRチャネル画素分布出力Irnを求める。ステップS12では、保存されていたバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nを用い、前記式14−1〜3によって積分バンド入力Aa,Ab,Acを求める。ステップS13では、求められた積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercとから、前記式15および式16によってSチャネルおよびRチャネルの迷光強度係数Ks,Krを求める。
【0053】
続いてステップS14では、前記迷光強度係数Ks,Krと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルの基準迷光分布S0nとから、前記式17および式18によってSチャネルおよびRチャネルの迷光分布SsnおよびSrnを求める。さらにステップS15では、前記式19および式20によって補正画素分布Is’nおよびIr’nを求めて出力する。
【0054】
図5にL42フィルタ(420nmカットオフ)の透過光の画素分布出力(補正前)と、本発明の方法で迷光補正した補正画素分布(補正後)とを示す。この図5から、ノイズフロアのように現れていた迷光成分が、ほぼ0に抑えられていることが理解される。
【0055】
なお、Rチャネル用センサアレイDArと、Sチャネル用センサアレイDAsとが近接して配置されている場合は、RチャネルはSチャネルと同じ迷光分布を有するものとして、上述の処理からRチャネルの迷光分布を求めるための処理を省略することができる。
【0056】
また、照明手段を持たず、光源Sからの光束Iを測定する機器に搭載されるシングルチャネルポリクロメータの場合も、Rチャネルが存在しないので、同様にRチャネルの迷光分布を求めるための処理が省略される。さらに、シングルチャネルポリクロメータの場合には、上述のようにSチャネル用入射スリットSLsにのみ光束Isを入射させたときのRチャネル用センサアレイDArの画素分布出力によって基準迷光分布S0nを求めることができないので、センサアレイDArの検出範囲外の波長域の光束、たとえば検出範囲が380〜740nmであれば、760nm以上の光束を入射させたときの画素分布出力を基準迷光分布とする方法や、レーザ光など半値幅の狭い単色光を入射させたときの画素分布出力を、単色光が影響する画素を除いて基準迷光分布とし、単色光が影響する画素の迷光レベルは、単色光が影響しない周辺画素の迷光レベルから内挿して求めるなどの方法を採ることができる。
【0057】
以上のように、本発明のデュアルチャネルポリクロメータ10は、被測定光であるサンプル光Isおよび照明光Irを回折格子Gで複数の波長成分に分離して、複数の画素から成るセンサアレイDAs,DArでそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるにあたって、ステップS1,S5において入射光の分光(画素)分布に依存しない基準迷光分布S0nを求め、さらにステップS6〜S8,S11〜S13において入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光強度係数Ks,Krを求めた後、ステップS14において被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光分布Ssn,Srnを推定し、前記被測定光の分光(画素)分布出力Isn,IrnをIs’n,Ir’nに補正するので、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布S0nと強度係数Ks,Krとに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定でき、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0058】
また、補正処理を画素分布出力に対して行うので、画素−波長変換を伴わない簡単な処理で高精度の迷光補正を行うことができる。
【0059】
さらにまた、前記センサアレイDAs,DArの受光画素域を所定のバンドa,b,cに分割し、前記迷光強度係数Ks,Krを、予め求められた入射光の前記各バンドa,b,cの成分が迷光になるバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercと、入射光の各バンド成分の積分バンド入力Aa,Ab,Acとから求めるので、たとえば可視域(400−700nm)を比較的少数の、広い波長幅のバンドに分割することで、個々のデュアルチャネルポリクロメータ10のバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを、充分な強度の入射光を用いて、容易に精度良く求めることができ、更にこのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを用いて、迷光強度係数Ks,Krを求めることができ、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0060】
また、前記迷光分布Ssn,Srnを、入射光の積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されているバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercおよび基準迷光分布S0nとを用いて、前記式5および式6からそれぞれ求めることで、簡単な処理で該迷光分布Ssn,Srnを推定して、入射光の分光分布出力または画素分布出力を高精度に補正することができる(Isn→Is’n,Irn→Ir’n)。
【0061】
さらにまた、前記各バンドa,b,cの入射光の画素分布出力を、2つの高透過率のシャープカットロングパスフィルタを透過させたときの画素分布出力の差によって得ることで、それに基づいて前記バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを精度良く求めることができる。
【0062】
また、各バンドa,b,cの画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nと、入射光の画素分布出力Isnとから、入射光の積分バンド入力Aa,Ab,Acを求めることで、簡単な処理で積分バンド入力Aa,Ab,Acを求めることができる。
【0063】
また、2列のセンサアレイDAs,DArを用い、一方の入射スリットSLsからサンプル光Isを入射させたときの他方の入射スリットSLrに対応するセンサアレイDArの出力から前記基準迷光分布S0nを求めるので、該基準迷光分布S0nを容易に精度良く求めることができる。この方法は、前記2列のセンサアレイDAs,DArを備える該デュアルチャネルポリクロメータ10について特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の一形態に係るポリクロメータであるデュアルチャネルポリクロメータのブロック図である。
【図2】本発明の実施の一形態で用いたバンド画素透過率の一例を示すグラフである。
【図3】本発明に係る迷光補正方法の校正時におけるプロセスを説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明に係る迷光補正方法の実際の測定時におけるプロセスを説明するためのフローチャートである。
【図5】本件発明者による迷光補正の効果を示すグラフである。
【図6】標準的なポリクロメータの概略構成を示す断面図である。
【図7】本件発明者が迷光測定に使用したシャープカットロングパスフィルタの分光透過率を示すグラフである。
【図8】図7で示すフィルタ透過光の画素出力の本件発明者による測定結果を示すグラフである。
【図9】図8の迷光部分を拡大して示すグラフである。
【図10】本件発明者による迷光の画素分布の測定結果を示すグラフである。
【図11】典型的な回折格子の1次回折光に対する回折効率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 デュアルチャネルポリクロメータ
DAs,DAr センサアレイ
EC 外部処理装置
G 回折格子
L レンズ
F フィルタ
S 光源
PC 処理回路
PU 演算制御手段
SLs,SLr 入射スリット
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定光の分光強度分布や、被測定試料の分光反射特性を測定するためのポリクロメータおよびその迷光の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定波長域の全波長の分光強度を同時に測定するポリクロメータは、測定効率が高く、瞬間光を測定できるなどの特徴から、被測定光の分光強度分布を測定する分光輝度計(分光強度測定装置)や、試料の分光反射特性を測定する分光測色計(分光反射特性測定装置)の分光手段として広く用いられている。図6は、標準的なポリクロメータ1の概略構成を示す断面図である。光源Sから入射スリットSLに入射した光束Iは、レンズLによって平行光束となって回折格子Gに入射して分散反射され、再びレンズLによって入射スリットSLの分散像(この図6の例では、1次回折光Dによる分散像)を作ってセンサアレイDA上に収束する。センサアレイDAは、たとえば画素番号n=1〜35の35画素を有し、380〜720nmの波長域をカバーする。
【0003】
このようなポリクロメータでは、迷光が測定精度に影響を与える。ここで、図11には、典型的な回折格子の1次回折光に対する回折効率を示す。この回折格子は、センサアレイDAに用いられるCCDやCMOSなどのシリコン系のセンサの感度が、長波長程高いので、回折効率が短波長側で高くなるように設定されている。このため、この回折格子を図6のポリクロメータ1の回折格子Gに用いた場合、400nmではおよそ70%、700nmではおよそ40%の入射光が、1次回折光としてセンサアレイDAに入射するけれども、この1次回折光以外の回折光は迷光になる(入射光の700nmの成分が迷光になる比率は、400nmの成分のおよそ2倍ということになる)。
【0004】
そこで、特許文献1や特許文献2では、共に、単波長光を入射させたときの中心波長から離れた波長域の出力分布を該単波長光の波長の入射光に対する迷光分布とし、複数の単波長光について求めた前記迷光分布から測定波長域各波長の入射光に対する迷光分布を示すマトリクスデータを予め求めておき、実際の被測定光の分光分布と前記マトリクスデータとから、被測定光による迷光分布を推定、補正している。
【特許文献1】特開平11−30552号公報
【特許文献2】特開平7−209082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術では、前記マトリクスデータを取得するには、エネルギの低い単波長光のわずかな比率しか入射しない迷光域各波長の出力を測定する必要があり、必要な精度を得るためには、コストも時間もかかるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、容易に得られる情報を基に、充分な精度で迷光を補正することができるポリクロメータおよびその迷光の補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおける迷光を補正するための方法であって、入射光の分光分布に依存しない、迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)を求めるステップ(S1,S5)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)を求めるステップ(S6〜S8,S11〜S13)と、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定するステップ(S14)と、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)するステップ(S15)とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明のポリクロメータは、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、演算制御手段において各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおいて、前記演算制御手段は、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)することを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布(S0n)と強度係数(Ks,Kr)とに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定するので、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0010】
また、補正処理を画素分布出力に対して行う場合、画素−波長変換を伴わない簡単な処理で高精度の迷光補正を行うことができる。
【0011】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記受光手段の受光画素域を所定の波長幅または画素幅の波長帯(バンドa,b,c)に分割し、前記迷光強度係数(Ks,Kr)を、予め求められた、入射光の前記各バンド(a,b,c)の成分が迷光になる効率(バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)と、入射光の各バンド成分の積分強度(積分バンド入力Aa,Ab,Ac)とから求めることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、たとえば可視域(400−700nm)を比較的少数の、広い波長幅のバンドに分割することで、入射光の強度を上げることができ、高精度に各バンド(a,b,c)のバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)を求めることができる。更にこのバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)を用いて、迷光強度係数(Ks,Kr)を求めることができるので、結果的に高精度に迷光を補正することができる。また、個々の分光装置のバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)は、充分な強度の入射光を用いるので、容易に精度良く求めることができる。
【0013】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記迷光分布(Ssn,Srn)を、迷光分布(Ssn,Srn)=バンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)・積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)・基準迷光分布(S0n)によって推定することを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、入射光の積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)と、保存されているバンド迷光効率(Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Erc)および基準迷光分布(S0n)とを用いて、簡単な処理で入射光の迷光分布(Ssn,Srn)を推定して、入射光の分光分布出力、または画素分布出力(Isn,Irn)を高精度に補正(Isn→Is’n,Irn→Ir’n)することができる。
【0015】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記各バンド(a,b,c)が、異なるカット波長をもつ2つのシャープカットロングパスフィルタの差分透過領域であることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、各バンド(a,b,c)の入射光の画素分布出力を、2つの高透過率のシャープカットロングパスフィルタを透過させたときの画素分布出力の差によって得ることができ、それに基づいて前記バンド迷光効率を精度良く求めることができる。
【0017】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、予め求められた各バンド(a,b,c)の分光透過率、または画素透過率(Ta,n,Tb,n,Tc,n)と、入射光の分光分布出力、または画素分布出力(Isn)とから、入射光の積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)を求めることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、簡単な処理で積分バンド入力(Aa,Ab,Ac)を求めることができる。
【0019】
さらにまた、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法は、前記基準迷光分布(S0n)を、前記受光手段の少なくとも一部の画素に入射しない波長の入射光を入射させたときの、前記少なくとも一部の画素の出力から求めることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、完成状態の分光装置の入射スリットに前記の波長の入射光を入射させるだけで、前記基準迷光分布(S0n)を求めることができる。
【0021】
また、本発明のポリクロメータの迷光の補正方法では、前記受光手段は、入射光の前記分離された波長成分を受光する第1の画素列と、前記分離された波長成分が入射しない位置で前記第1の画素列と並列に配置された第2の画素列とを具え、前記入射光を入射させたときの、前記第2の画素列の出力から前記基準迷光分布(S0n)を求めることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、前記基準迷光分布(S0n)を容易に精度良く求めることができる。この方法は、2つの画素列を備えるデュアルチャネルのポリクロメータについて特に有効である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリクロメータおよびその迷光の補正方法は、以上のように、被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータおよびその迷光を補正するための方法であって、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光(画素)分布(基準迷光分布S0n)と、入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光の強度係数(迷光強度係数Ks,Kr)とから、前記被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光の分光(画素)分布(迷光分布Ssn,Srn)を推定して、前記被測定光の分光(画素)分布出力(Isn,Irn)を補正(Is’n,Ir’n)する。
【0024】
それゆえ、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布(S0n)と強度係数(Ks,Kr)とに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定するので、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の一形態に係るポリクロメータであるデュアルチャネルポリクロメータ10のブロック図である。このデュアルチャネルポリクロメータ10において、前述の図6で示すポリクロメータ1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示す。このデュアルチャネルポリクロメータ10は、試料を照明して、その分光反射率係数などを測定する前記分光測色計(分光反射特性測定装置)の分光手段として用いられる。このため、前記試料からの反射光(サンプル光)用のサンプルチャネル(以下、Sチャネル)と照明光用の参照チャネル(以下、Rチャネル)との2つの光学系統を具え、Sチャネル入射スリットSLsおよびRチャネル入射スリットSLr、ならびにそれらに対応するSチャネルセンサアレイDAsおよびRチャネルセンサアレイDArが、図1(a)の紙面の奥行き方向に、図1(b)に示すように、相互に位置を入れ替えて取り付けられている。
【0026】
この構成によって、Sチャネル入射スリットSLsおよびRチャネル入射スリットSLrから入射したサンプル光Isおよび照明光Irは、各々、レンズLによって平行光束となって回折格子Gに入射して分散反射される。その中の1次分散光DsおよびDrが、再びレンズLによって入射スリットSLsおよびSLrの1次分散像を作って、SチャネルセンサアレイDAsおよびRチャネルセンサアレイDArに入射し、各々、画素信号に変換される。両チャネルの画素信号は処理回路PCを経て、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力として、演算制御手段PUに入力される。演算制御手段PUは、入力された両チャネルの画素分布出力に公知の処理を施して、前記分光反射率係数などの試料の分光特性に変換して出力する。
【0027】
このとき、SチャネルおよびRチャネル入射光Is,Irの一部は、前述のように該デュアルチャネルポリクロメータ10内で迷光となって、Sチャネル用センサアレイDAsおよびRチャネル用センサアレイDArに入射し、試料の分光特性測定値の誤差となる。ここで、Rチャネルの入射光である照明光Ir由来の迷光については、該入射光Irが試料に依存せず一定であるので、事前に試料のない状態での(本来、0であるべき)Sチャネルの画素信号を測定して、SチャネルとRチャネルとへの迷光とする、いわゆるダーク校正で、大きな誤差なく補正することができる。
【0028】
これに対して、Sチャネルの入射光であるサンプル光Is由来の迷光は、該サンプル光Isが試料に依存するので、前記照明光Ir由来の迷光のように事前に求めておくことができない。本発明の目的は、このサンプル光Is(Sチャネル入射光)由来の迷光の補正であり、以下ではサンプル光Is由来のSチャネルとRチャネルとへの迷光の補正について説明する。
【0029】
補正にあたって、本件発明者は、以下のようにして、迷光の原因を詳しく調査した。先ず、前述のポリクロメータ1への入射光束に、図7および表1で示すような分光透過率(透明ガラスの透過率で基準化されている)のシャープカットロングパスフィルタ(色ガラスフィルタ)L42,Y40,O56,R63,R70を、図6において参照符号Fで示すように挿入したときのセンサアレイDAの画素出力を見ると、図8および図9(図8の拡大図)に示すように、本来、透過光のない波長に対応する画素で、迷光による出力(0になるべきところ、図9に現れるノイズフロアのような略平坦部分)が観察された。すなわち、その波長成分の光が本来入射するべき画素以外の画素にも、迷光として入射している。またその迷光は、フィルタのカットオフ波長が短波長である程、すなわち透過波長域が広い程、大きくなっている。
【0030】
【数1】
【0031】
これらの迷光の支配的な要因としては、レンズLの2つの表面での反射光SLおよびセンサアレイDAに入射しない回折格子Gの分散反射光SG(1次以外、つまり0次、−1次、±2次、・・・の回折光、およびセンサアレイDAに入射しない波長域の1次回折光)であると推察することができる。
【0032】
これらの成分は、ポリクロメータ1のハウジングHの内壁(通常、黒色)の多重反射で減衰した後、迷光STとしてセンサアレイDAに入射することになる。センサアレイDAに入射する迷光の画素間の分布は、ハウジングHの内壁面の反射特性および拡散特性に依存するが、通常、反射率と拡散性を抑えるべく黒色平滑面とされている前記ハウジングHの内壁面は、前記反射特性および拡散特性の波長依存性は小さい。したがって、センサアレイDAの各画素に入射する迷光の相対分布(相対画素分布)は、入射光の分光分布に殆ど依存しない。図10は、前述のシャープカットロングパスフィルタF(L42,Y40,O56,R63,R70)を通した入射光によるセンサアレイDAの1〜35画素(380〜720nmに相当)の迷光の画素分布であるが、相対的には近似していることが理解される。
【0033】
一方、入射光が迷光になる効率は、波長に依存する。これの主たる要因は、前述の図11で説明した回折格子の1次回折光に対する回折効率によるものであり、センサアレイDAの迷光出力を考えると、該センサアレイDAの分光感度も要因となる。
【0034】
以上から、ポリクロメータ1の迷光は、以下の特徴を持つ。
i.迷光の相対画素分布は、入射光の分光分布に殆ど依存しない。
ii.迷光の強度は、入射光の分光分布と、ポリクロメータ1に固有の各波長の入射光が迷光になる効率(分光迷光効率)とに依存する。
【0035】
したがって、本実施の形態のポリクロメータ10に対する迷光補正は、SチャネルおよびRチャネルの画素分布出力IsnおよびIrn(n=1〜35は画素番号)に対して以下のように行われ、この画素分布出力Isn,Irnから分光分布への変換は迷光補正された画素出力について行われる。
【0036】
先ず、前述のように、ポリクロメータの迷光の相対画素分布は、入射光の分光分布に依存せず、基準的な画素分布(以下、基準迷光分布)S0nで近似できる。また、迷光の強度は、入射光の分光分布と分光迷光効率とに依存し、したがってこれに対応する入射光の画素分布と画素迷光効率とに依存する。画素迷光効率は、回折格子Gの回折効率やレンズLの反射率の分光特性、センサアレイDAの分光感度などに依存する。ここで、画素迷光効率がなだらかであれば、これを比較的広い波長帯、つまり画素帯(バンド)のSチャネルおよびRチャネルへの迷光効率(以下、バンド迷光効率)EsBおよびErB(Bはバンド番号)で置き換えても、もともと低レベルの迷光の補正には充分な精度を得ることができる。
【0037】
以上から、先ずSチャネル画素分布出力Isnをもたらす任意の入射光(サンプル光)IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光の画素分布(以下、迷光分布)SsnおよびSrnは、基準迷光分布S0nと、入射光Is全体によるSチャネルおよびRチャネルへの迷光強度を与える係数(以下、迷光強度係数)KsおよびKrの積で与えられ、下記のとおりである。
Ssn=Ks・S0n …(1)
Srn=Kr・S0n …(2)
【0038】
ここで、前記迷光強度係数KsおよびKrは、入射光の各バンドへの全入射量(以下、積分バンド入力)ABと、SチャネルおよびRチャネルへのバンド迷光効率EsBおよびErBとを用いて、
Ks=ΣB(AB・EsB) …(3)
Kr=ΣB(AB・ErB) …(4)
で与えられる(ΣBはバンドBについての積算を表す)ので、結局、SチャネルおよびRチャネルの迷光分布SsnおよびSrnは、
Ssn=S0n・ΣB(AB・EsB) …(5)
Srn=S0n・ΣB(AB・ErB) …(6)
で与えられる。
【0039】
したがって、前記SチャネルおよびRチャネルの画素分布出力IsnおよびIrnに対する迷光補正は、下式のように、迷光分布SsnおよびSrnを差し引いて、補正画素分布Is’nおよびIr’nを得ることで行うことができる。
Is’n=Isn−Ssn …(7)
Ir’n=Irn−Srn …(8)
【0040】
そのため、ポリクロメータ10の校正時に、演算制御手段PUに接続された外部処理装置ECによって、前記基準迷光分布S0nと、バンド迷光効率EsBおよびErBと、バンド積分入力ABの算出に必要なバンド画素透過率TB,nとが求められ、演算制御手段PU内の記憶手段に保存される。それらの求め方は以下の通りである。
【0041】
本実施の形態では、先ず前記基準迷光分布S0nは、Sチャネル用入射スリットSLsにのみ光束Isを入射させたときのRチャネル用センサアレイDArの画素分布出力Irnによって求められる。ここで、画素域は、前述の図7に示す透過特性を持つ2つのシャープカットロングパスフィルタ(以下、シャープカットフィルタ)O56,R70で区切られる、図2(a)で示すような3つのバンドa,b,cに分割される。この他、図2(b)で示すようにバンド迷光効率を求めるために、フィルタY50,O56で区切られるバンドa’が用いられる。
【0042】
そして、白色光源Sからの入射光束に、透明ガラスGとシャープカットフィルタY50,O56,R70のいずれかを挿入して、Sチャネル画素分布出力IsGn,Is50n,Is56n,Is70nおよびRチャネル画素分布出力IrGn,Ir50n,Ir56n,Ir70nを得、さらに前記バンドa,a’,b,cの入射光に対する画素出力として、それらの差分Dsa,n,Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nおよびDra,n,Dra’,n,Drb,n,Drc,nを求める。
【0043】
Dsa,n=IsGn−Is56n …(9−1)
Dsa’,n=Is50n−Is56n …(9−2)
Dsb,n=Is56n−Is70n …(9−3)
Dsc,n=Is70n …(9−4)
Dra,n=IrGn−Ir56n …(10−1)
Dra’,n=Ir50n−Ir56n …(10−2)
Drb,n=Ir56n−Ir70n …(10−3)
Drc,n=Ir70n …(10−4)
次に、各バンドa,b,cの入射光のSチャネルへのバンド迷光効率Esa,Esb,Escを、以下のように、Sチャネルの差分Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nの全画素(n=1〜35)積分値に対する迷光画素域(m=1〜8)積分値の比を、基準迷光分布S0の迷光画素域積分値Σm(S0m)で基準化して求める。
Esa=Σm(Dsa’,m)/Σn(Dsa’,n)/Σm(S0m)
…(11−1)
Esb=Σm(Dsb,m)/Σn(Dsb,n)/Σm(S0m)
…(11−2)
Esc=Σm(Dsc,m)/Σn(Dsc,n)/Σm(S0m)
…(11−3)
ただし、ΣmおよびΣnは、前記の画素mおよびnについての積算値を表す。なお、ここでは全バンドa,b,cに一律にm=1〜8を迷光画素域としたが、バンド毎に異なる迷光画素域を設定してもよい。
【0044】
一方、全画素が迷光域となるRチャネルへのバンド迷光効率Era,Erb,Ercは、以下のように、Sチャネルの差分Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nの全画素積分値に対するRチャネルの差分Dra’,n,Drb,n,Drc,nの全画素積分値の比を、基準迷光分布S0の全画素積分値で基準化して求める。
Era=Σn(Dra’,n)/Σn(Dsa’,n)/Σn(S0n)
…(12−1)
Erb=Σn(Drb,n)/Σn(Dsb,n)/Σn(S0n)
…(12−2)
Erc=Σn(Drc,n)/Σn(Dsc,n)/Σn(S0n)
…(12−3)
【0045】
また、各バンドa,b,cのバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nは、以下のように、差分Dsa,n,Dsb,n,Dsc,nを透明ガラスGの画素分布出力IsGnで基準化して求める。
Ta,n=Dsa,n/IsGn …(13−1)
Tb,n=Dsb,n/IsGn …(13−2)
Tc,n=Dsc,n/IsGn …(13−3)
【0046】
以上のようにして、校正時に各パラメータが求められ、演算制御手段PU内の記憶手段に保存されている状態で、実際の測定時には、該演算制御手段PUにおいて、以下のようにして迷光補正が行われる。すなわち、Rチャネルからは照明光のモニター入射光の画素分布出力Irnが、Sチャネルからは該照明光で照明された試料からの入射光の画素分布出力Isnが、各々得られると、先ず、Sチャネル画素分布出力Isnと、保存されていたバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nとから、以下のように積分バンド入力Aa,Ab,Acを求める。
Aa=Σn(Isn・Ta,n) …(14−1)
Ab=Σn(Isn・Tb,n) …(14−2)
Ac=Σn(Isn・Tc,n) …(14−3)
【0047】
次に、この入射光IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光強度係数KsおよびKrが、上記で求められた積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercとから、以下のように求められる。
Ks=Aa・Esa+Ab・Esb+Ac・Esc …(15)
Kr=Aa・Era+Ab・Erb+Ac・Erc …(16)
【0048】
さらに、入射光IsによるSチャネルおよびRチャネルへの迷光分布SsnおよびSrnが、上記で求められた迷光強度係数KsおよびKrと、基準迷光分布S0nとの積で、以下のように求められる。
Ssn=Ks・S0n …(17)
Srn=Kr・S0n …(18)
【0049】
最後に、補正された画素分布Is’nおよびIr’nが以下のようにして求められて、以後の処理に提供される。
Is’n=Isn−Ssn …(19)
Ir’n=Isn−Srn …(20)
【0050】
図3は、校正時における補正パラメータを求めるプロセスを説明するためのフローチャートである。ステップS1では、白色光源Sからの光束Iにガラス板を挿入してSチャネルにのみ入射させ、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力IsGnおよびIrGnを求める。ステップS2では、Y50フィルタを挿入して、SチャネルおよびRチャネル画素分布出力Is50nおよびIr50nを求める。ステップS3では、O56フィルタを挿入して、Sチャネル画素分布出力Is56nおよびIr56nを求める。ステップS4では、R70フィルタを挿入して、Sチャネル画素分布出力Is70nおよびIr70nを求める。
【0051】
その後、ステップS5では、ガラス板挿入時のRチャネル画素分布出力IrGnを基準迷光分布S0nとして保存する。続いてステップS6では、前記式9−1〜4および式10−1〜4によって、差分Dsa,n,Dsa’,n,Dsb,n,Dsc,nおよびDra,n,Dra’,n,Drb,n,Drc,nを求める。さらにステップS7では、式11−1〜3および式12−1〜3によって、バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを求めて保存する。その後ステップS8では、式13−1〜3によって、バンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nを求めて保存する。
【0052】
また、図4は、測定時における迷光補正のプロセスを説明するためのフローチャートである。ステップS11では、試料を照明して、Sチャネル画素分布出力IsnおよびRチャネル画素分布出力Irnを求める。ステップS12では、保存されていたバンド画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nを用い、前記式14−1〜3によって積分バンド入力Aa,Ab,Acを求める。ステップS13では、求められた積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercとから、前記式15および式16によってSチャネルおよびRチャネルの迷光強度係数Ks,Krを求める。
【0053】
続いてステップS14では、前記迷光強度係数Ks,Krと、保存されていたSチャネルおよびRチャネルの基準迷光分布S0nとから、前記式17および式18によってSチャネルおよびRチャネルの迷光分布SsnおよびSrnを求める。さらにステップS15では、前記式19および式20によって補正画素分布Is’nおよびIr’nを求めて出力する。
【0054】
図5にL42フィルタ(420nmカットオフ)の透過光の画素分布出力(補正前)と、本発明の方法で迷光補正した補正画素分布(補正後)とを示す。この図5から、ノイズフロアのように現れていた迷光成分が、ほぼ0に抑えられていることが理解される。
【0055】
なお、Rチャネル用センサアレイDArと、Sチャネル用センサアレイDAsとが近接して配置されている場合は、RチャネルはSチャネルと同じ迷光分布を有するものとして、上述の処理からRチャネルの迷光分布を求めるための処理を省略することができる。
【0056】
また、照明手段を持たず、光源Sからの光束Iを測定する機器に搭載されるシングルチャネルポリクロメータの場合も、Rチャネルが存在しないので、同様にRチャネルの迷光分布を求めるための処理が省略される。さらに、シングルチャネルポリクロメータの場合には、上述のようにSチャネル用入射スリットSLsにのみ光束Isを入射させたときのRチャネル用センサアレイDArの画素分布出力によって基準迷光分布S0nを求めることができないので、センサアレイDArの検出範囲外の波長域の光束、たとえば検出範囲が380〜740nmであれば、760nm以上の光束を入射させたときの画素分布出力を基準迷光分布とする方法や、レーザ光など半値幅の狭い単色光を入射させたときの画素分布出力を、単色光が影響する画素を除いて基準迷光分布とし、単色光が影響する画素の迷光レベルは、単色光が影響しない周辺画素の迷光レベルから内挿して求めるなどの方法を採ることができる。
【0057】
以上のように、本発明のデュアルチャネルポリクロメータ10は、被測定光であるサンプル光Isおよび照明光Irを回折格子Gで複数の波長成分に分離して、複数の画素から成るセンサアレイDAs,DArでそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるにあたって、ステップS1,S5において入射光の分光(画素)分布に依存しない基準迷光分布S0nを求め、さらにステップS6〜S8,S11〜S13において入射光の分光(画素)分布出力に応じて求められた迷光強度係数Ks,Krを求めた後、ステップS14において被測定光の分光(画素)分布出力に含まれる迷光分布Ssn,Srnを推定し、前記被測定光の分光(画素)分布出力Isn,IrnをIs’n,Ir’nに補正するので、充分な信号レベルで精度良く求められた基準迷光分布S0nと強度係数Ks,Krとに基づいて、入射光がもたらす迷光分布を推定でき、従来のように入射光から直接迷光分布を推定するよりも、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0058】
また、補正処理を画素分布出力に対して行うので、画素−波長変換を伴わない簡単な処理で高精度の迷光補正を行うことができる。
【0059】
さらにまた、前記センサアレイDAs,DArの受光画素域を所定のバンドa,b,cに分割し、前記迷光強度係数Ks,Krを、予め求められた入射光の前記各バンドa,b,cの成分が迷光になるバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercと、入射光の各バンド成分の積分バンド入力Aa,Ab,Acとから求めるので、たとえば可視域(400−700nm)を比較的少数の、広い波長幅のバンドに分割することで、個々のデュアルチャネルポリクロメータ10のバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを、充分な強度の入射光を用いて、容易に精度良く求めることができ、更にこのバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを用いて、迷光強度係数Ks,Krを求めることができ、結果的に高精度に迷光を補正することができる。
【0060】
また、前記迷光分布Ssn,Srnを、入射光の積分バンド入力Aa,Ab,Acと、保存されているバンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercおよび基準迷光分布S0nとを用いて、前記式5および式6からそれぞれ求めることで、簡単な処理で該迷光分布Ssn,Srnを推定して、入射光の分光分布出力または画素分布出力を高精度に補正することができる(Isn→Is’n,Irn→Ir’n)。
【0061】
さらにまた、前記各バンドa,b,cの入射光の画素分布出力を、2つの高透過率のシャープカットロングパスフィルタを透過させたときの画素分布出力の差によって得ることで、それに基づいて前記バンド迷光効率Esa,Esb,EscおよびEra,Erb,Ercを精度良く求めることができる。
【0062】
また、各バンドa,b,cの画素透過率Ta,n,Tb,n,Tc,nと、入射光の画素分布出力Isnとから、入射光の積分バンド入力Aa,Ab,Acを求めることで、簡単な処理で積分バンド入力Aa,Ab,Acを求めることができる。
【0063】
また、2列のセンサアレイDAs,DArを用い、一方の入射スリットSLsからサンプル光Isを入射させたときの他方の入射スリットSLrに対応するセンサアレイDArの出力から前記基準迷光分布S0nを求めるので、該基準迷光分布S0nを容易に精度良く求めることができる。この方法は、前記2列のセンサアレイDAs,DArを備える該デュアルチャネルポリクロメータ10について特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の一形態に係るポリクロメータであるデュアルチャネルポリクロメータのブロック図である。
【図2】本発明の実施の一形態で用いたバンド画素透過率の一例を示すグラフである。
【図3】本発明に係る迷光補正方法の校正時におけるプロセスを説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明に係る迷光補正方法の実際の測定時におけるプロセスを説明するためのフローチャートである。
【図5】本件発明者による迷光補正の効果を示すグラフである。
【図6】標準的なポリクロメータの概略構成を示す断面図である。
【図7】本件発明者が迷光測定に使用したシャープカットロングパスフィルタの分光透過率を示すグラフである。
【図8】図7で示すフィルタ透過光の画素出力の本件発明者による測定結果を示すグラフである。
【図9】図8の迷光部分を拡大して示すグラフである。
【図10】本件発明者による迷光の画素分布の測定結果を示すグラフである。
【図11】典型的な回折格子の1次回折光に対する回折効率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 デュアルチャネルポリクロメータ
DAs,DAr センサアレイ
EC 外部処理装置
G 回折格子
L レンズ
F フィルタ
S 光源
PC 処理回路
PU 演算制御手段
SLs,SLr 入射スリット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおける迷光を補正するための方法であって、
入射光の分光分布に依存しない、迷光の相対分光分布または画素分布を求めるステップと、
入射光の分光分布出力または画素分布出力に応じて迷光の強度係数を求めるステップと、
前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力に含まれる迷光の分光分布または画素分布を推定するステップと、
前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力を補正するステップとを含むことを特徴とするポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項2】
前記受光手段の受光画素域を所定の波長幅または画素幅の波長帯(バンド)に分割し、
前記迷光強度係数を、予め求められた、入射光の前記各バンドの成分が迷光になる効率(バンド迷光効率)と、入射光の各バンド成分の積分強度(積分バンド入力)とから求めることを特徴とする請求項1記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項3】
前記迷光分布を、バンド迷光効率と、積分バンド入力と、基準迷光分布とによって推定することを特徴とする請求項2記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項4】
前記各バンドが、異なるカット波長をもつ2つのシャープカットロングパスフィルタの差分透過領域であることを特徴とする請求項2または3記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項5】
予め求められた各バンドの分光透過率、または画素透過率と、入射光の分光分布出力、または画素分布出力とから、入射光の積分バンド入力を求めることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項6】
前記基準迷光分布を、前記受光手段の少なくとも一部の画素に入射しない波長の入射光を入射させたときの、前記少なくとも一部の画素の出力から求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項7】
前記受光手段は、入射光の前記分離された波長成分を受光する第1の画素列と、前記分離された波長成分が入射しない位置で前記第1の画素列と並列に配置された第2の画素列とを具え、前記入射光を入射させたときの前記第2の画素列の出力から前記基準迷光分布を求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項8】
被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、演算制御手段において各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおいて、
前記演算制御手段は、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光分布または画素分布と、入射光の分光分布出力または画素分布出力に応じて求められた迷光の強度係数とから、前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力に含まれる迷光の分光分布または画素分布を推定して、前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力を補正することを特徴とするポリクロメータ。
【請求項1】
被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおける迷光を補正するための方法であって、
入射光の分光分布に依存しない、迷光の相対分光分布または画素分布を求めるステップと、
入射光の分光分布出力または画素分布出力に応じて迷光の強度係数を求めるステップと、
前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力に含まれる迷光の分光分布または画素分布を推定するステップと、
前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力を補正するステップとを含むことを特徴とするポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項2】
前記受光手段の受光画素域を所定の波長幅または画素幅の波長帯(バンド)に分割し、
前記迷光強度係数を、予め求められた、入射光の前記各バンドの成分が迷光になる効率(バンド迷光効率)と、入射光の各バンド成分の積分強度(積分バンド入力)とから求めることを特徴とする請求項1記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項3】
前記迷光分布を、バンド迷光効率と、積分バンド入力と、基準迷光分布とによって推定することを特徴とする請求項2記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項4】
前記各バンドが、異なるカット波長をもつ2つのシャープカットロングパスフィルタの差分透過領域であることを特徴とする請求項2または3記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項5】
予め求められた各バンドの分光透過率、または画素透過率と、入射光の分光分布出力、または画素分布出力とから、入射光の積分バンド入力を求めることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項6】
前記基準迷光分布を、前記受光手段の少なくとも一部の画素に入射しない波長の入射光を入射させたときの、前記少なくとも一部の画素の出力から求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項7】
前記受光手段は、入射光の前記分離された波長成分を受光する第1の画素列と、前記分離された波長成分が入射しない位置で前記第1の画素列と並列に配置された第2の画素列とを具え、前記入射光を入射させたときの前記第2の画素列の出力から前記基準迷光分布を求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリクロメータの迷光の補正方法。
【請求項8】
被測定光を波長分離手段で複数の波長成分に分離して、複数の画素から成る受光手段でそれぞれ受光し、演算制御手段において各波長成分の分光強度を求めるようにしたポリクロメータにおいて、
前記演算制御手段は、予め求められて保存されている入射光の分光分布に依存しない迷光の相対分光分布または画素分布と、入射光の分光分布出力または画素分布出力に応じて求められた迷光の強度係数とから、前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力に含まれる迷光の分光分布または画素分布を推定して、前記被測定光の分光分布出力または画素分布出力を補正することを特徴とするポリクロメータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−53060(P2009−53060A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−220415(P2007−220415)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]