説明

ポリグリセリンおよびその製造方法

【課題】 特定の組成を有し、塩素成分や金属成分などの有害成分を実質的に含まない、食品添加物に用いる場合にも、安全性に優れたポリグリセリン、および、生産性が高く優れた品質のポリグリセリンを生成可能なポリグリセリンの製造方法を提供する
【解決手段】 本発明のポリグリセリンは、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンをそれぞれ5重量%以上含有し、ジグリセリンとトリグリセリンとテトラグリセリンの含有量の合計が75重量%以上であり、且つ、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下であり、且つ、実質的に塩素原子を含有しないことを特徴としている。また、本発明のポリグリセリンの製造方法は、グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリグリセリンに関する。また、本発明は、活性炭触媒の存在下でグリセリンおよび/またはジグリセリン等とグリシドールを反応させるポリグリセリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリンは、保湿剤、増粘剤や可塑剤として使用されているだけでなく、食品添加用、化粧品用、医療品用の乳化剤として用いられているポリグリセリン脂肪酸エステルの原料として、広く用いられている。
【0003】
食品添加物用途として用いる場合、様々な規格、例えば、国際連合の食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)による、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)の定める規格に適合する必要がある。例えば、グリセリン脂肪酸エステルを食品添加物として用いるためには、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンの含有量が75%以下であり、ヘプタグリセリンより炭素数が多いポリグリセリンの含有量が10%以下であることなどが定められている。また、その他にも、人体に有害なおそれのある化合物は含まない方が好ましい。
【0004】
従来、ポリグリセリンは、一般にはグリセリンをアルカリ触媒下で加熱縮合して製造される。しかし、この製造方法では直鎖のグリセリンの他、分岐鎖状物や環状物が副生成物として生成するため、組成を制御することが不可能なばかりか、環状物は人体に有害であるため好ましくなかった。
【0005】
そこで、これに代わる製造方法としては、グリセリン又はジグリセリンのα−モノクロロヒドリンとアルカリグリセリノレート及び/又はアルカリジグリセノレートとを反応させてポリグリセリンの混合物に変換する製法(例えば、特許文献1参照)や、グリセリン−α−モノクロロヒドリンとエピクロロヒドリンを酸又は酸性反応化合物の存在において反応させる製法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。しかしこれらは、いずれも、モノクロロヒドリンやエピクロロヒドリンといった塩素原子を含有する化合物を原料とするため、ポリグリセリンの生成物から塩素原子を完全に除去することは困難であり、安全衛生、環境面で好ましいものではなかった。
【0006】
さらに上記課題を解決するために、塩素原子を含まない原料を用いた製造方法として、スルホン酸型イオン交換樹脂触媒の存在下で、グリセリン又はポリグリセリンにグリシドールを反応させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法の場合は、塩素原子は含有しないものの、ポリグリセリンの重合度が高くなる特徴があり、上記の規格の組成に適合するポリグリセリンは得られていない。また、イオン交換を繰り返す必要があるため、工程が煩雑となり、工業的製造方法としてはコストが高くなるという欠点も有している。
【0007】
このように、現在、上述の規格を満たす組成で、かつ塩素などの有害物質を含まない、食品添加物として好ましいポリグリセリンは未だ開発されていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】米国特許第4973763号明細書
【特許文献2】米国特許第4992594号明細書
【特許文献3】特開昭61−140534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特定の組成を有し、塩素成分を実質的に含まないポリグリセリンを提供することにある。また、活性炭触媒を用いた、ポリグリセリンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、グリセリンおよび/またはジグリセリン以上のポリグリセリンと、グリシドールの開環重合における触媒として活性炭を使用することにより上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンをそれぞれ5重量%以上含有し、ジグリセリンとトリグリセリンとテトラグリセリンの含有量の合計が75重量%以上であり、且つ、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下であり、且つ、実質的に塩素原子を含有しないことを特徴とするポリグリセリンを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、環状ポリグリセリンの含有量が10重量%以下である前記のポリグリセリンを提供する。
【0013】
さらに、本発明は、錫原子、チタン原子、亜鉛原子、アルミニウム原子、銅原子、マグネシウム原子、リン原子、硫黄原子の含有量が、それぞれ1ppm未満である前記のポリグリセリンを提供する。
【0014】
また、本発明は、グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させることを特徴とするポリグリセリンの製造方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、グリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させた後、得られたポリグリセリンから未反応のグリセリンを除去するポリグリセリンの製造方法を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、ジグリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させるポリグリセリンの製造方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、ポリグリセリンが、上述のいずれかのポリグリセリンの製造方法によって製造されたものであって、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンをそれぞれ5重量%以上含有し、ジグリセリンとトリグリセリンとテトラグリセリンの含有量の合計が75重量%以上であり、且つ、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下であり、且つ、実質的に塩素原子を含有しないことを特徴とするポリグリセリンを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、塩素成分や金属成分を実質的に含まず、また、環状体含有量の少ないポリグリセリンを得ることができ、さらに、特定の組成に制御することが可能である。また、該ポリグリセリンは、安全性、環境性の観点で、特に優れ、食品添加物としての規格を満たすため、食品、医療用途などの添加物、原料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0020】
本発明のポリグリセリンは、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等、様々な重合度のポリグリセリンの混合体である。
【0021】
本発明のポリグリセリンは、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンを、それぞれ少なくとも5重量%以上含有する。好ましくは7重量%以上、より好ましくは10重量%以上である。例えば、ジグリセリンのみでは、本発明のトリグリセリンではない。なお、ここでいうジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンは、直鎖状のポリグリセリンをいい、以下、「環状」や「分岐鎖状」とつけないポリグリセリンは、すべて「直鎖状」のポリグリセリンのことをいう。
【0022】
本発明のポリグリセリンは、JECFAの定める食品添加物の規格(以下、単に「規格」という)に適合する観点から、ジグリセリン、トリグリセリンおよびテトラグリセリンの含有量の合計量が、ポリグリセリン混合物全体に対して、75重量%以上である。
【0023】
本発明のポリグリセリンは、規格に適合する観点から、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下である。なお、ここでいう7以上の多重合ポリグリセリンとは、ヘプタグリセリン(重合度=7)をはじめとして、オクタグリセリン(重合度=8)、ノナグリセリン(重合度=9)などのことをいう。
【0024】
本発明のポリグリセリンは、食品添加物としての安全性等の観点で、実質的に塩素原子を含有しないポリグリセリンである。なお、ここでいう「実質的に塩素原子を含有しない」とは、生成物に含まれる塩素原子が10ppm以下であることをいい、より好ましくは1ppm以下である。
【0025】
本発明のポリグリセリン中のグリセリンの含有量は、食品添加物としての安全性等の観点で、ポリグリセリン混合物全体に対して、5重量%以下が好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0026】
本発明のポリグリセリン中の環状ポリグリセリンの含有量は、食品添加物としての安全性等の観点で、ポリグリセリン混合物全体に対して、10重量%以下が好ましく、より好ましくは5重量%以下である。
【0027】
本発明のポリグリセリン中の金属成分や酸触媒に由来する元素の含有量は、それぞれの元素について、ポリグリセリン混合物全体に対して、1ppm以下が好ましく、より好ましくは0.5ppm以下である。なお、ここでいう元素は、すべての金属元素とリン酸、硫酸などに由来するリンや硫黄などであるが、特に、錫原子、チタン原子、亜鉛原子、アルミニウム原子、銅原子、リン原子、硫黄原子について上記の規定を満たすことが好ましい。これらの元素のそれぞれの含有量が1ppmを超える場合には、食品添加物としての安全性等の観点で好ましくない場合があったり、生成物であるポリグリセリンが経時で劣化しやすくなったり、着色を生じる場合がある。
【0028】
本発明のポリグリセリンの製造方法は、グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドールを原料とし、これらを活性炭触媒の存在下で反応させる工程を含む。
【0029】
本発明の製造方法では、さらに、上記反応によって得られたポリグリセリンから、未反応のグリセリンを除去する工程を含んでもよい。特に上記反応の原料としてグリセリンを用いる場合にはこの除去工程が含まれることが好ましい。
【0030】
また、本発明の製造方法において原料として用いられるグリセリンおよび/またはポリグリセリンは、グリセリンやジグリセリン、トリグリセリンなどのポリグリセリン単独であってもよいし、グリセリンとジグリセリンの混合体、ポリグリセリン同士の混合体であってもよいが、生成物の重合度を制御する観点では、単一の重合度を有するグリセリンまたはポリグリセリンを使うことが好ましい。中でも、高重合度物の生成を低減するためには、グリセリンまたはジグリセリンを用いることが好ましく、コストと生産工程の観点から、最も好ましくは、ジグリセリンである。原料としてジグリセリンよりも重合度の高いポリグリセリンを用いることによって、さらに分子量の高いポリグリセリンを製造してもよいが、この場合に原料として用いられるポリグリセリンは、本発明の製造方法で製造されたポリグリセリンであることが好ましい。
【0031】
本発明のポリグリセリンの製造方法において、原料として、グリセリン、ジグリセリンを用いる場合は、これらは既存の製造方法によって製造することができるし、また市場より入手することが可能である。
【0032】
本発明のポリグリセリンの製造方法において、原料として用いられるグリシドールは、既存の製造方法によって製造することができる。また市場より入手することが可能である。
【0033】
本発明のポリグリセリンの製造工程において用いられる活性炭触媒は、従来の多孔性炭素質吸着剤として知られているものを使用することができる。これらの活性炭は、主に、石炭、コークス、ピッチ、骨炭、木炭、ヤシ殻・木材、ノコギリくず、リグニン、牛の骨等の動植物および鉱物由来の天然炭素質、フェノール樹脂やポリアクリロニトリルなどの合成樹脂等の有機高分子、煤等の炭素質物質を熱処理により炭化させ、それを賦活させて得ることができる。
【0034】
本発明で用いられる活性炭触媒としては、活性炭そのものでもよいし、活性炭を一部含んだものでもよい。例えば、プラスチック、鉱物、セラミック、繊維等の担体上に活性炭を担持させたものでもよいし、粉末活性炭を粘結剤を用いて造粒したものでもよいし、鉱物、セラミック等の粉末と粉末活性炭から造粒したものでもよい。また、骨炭、木炭、グラファイト、カーボンブラック等も、それら構造の中に活性炭を含んでいる場合があるので、これら自体を本発明において活性炭を一部含んだものとして挙げる場合もある。
【0035】
本発明に用いる活性炭触媒は、比表面積が500m2/g以上であれば特に制限はないが、好ましくは750m2/g以上、更に好ましくは900m2/g以上のものであり、通常上限は3000m2/g程度である。
【0036】
また、本発明に用いる活性炭触媒の形状は、粒状、粉末、繊維状、板状、ハニカム状その他どのような形状でもよい。
【0037】
本発明に用いる活性炭触媒は、特に限定されないが、例えば、粒状活性炭としては東洋カルゴン(株)製「F400、F300、PCB、BPL、CAL、CPG、APC」、日本エンバイロケミカルズ(株)製「粒状白鷺WH、粒状白鷺C」、クラレケミカル(株)製「クラレコールKW」、クレハ化学工業(株)製「BAC」、日本ノリット(株)製「PN、ZN、SA、SA−SW、SX、CA、CN、CG、D−10、W、GL、HB PLUS」等が挙げられる。粉末活性炭としては日本エンバイロケミカルズ(株)製「白鷺A、白鷺C」等が挙げられる。繊維状活性炭としては東邦レーヨン(株)製「FX−300」、大阪ガス(株)製「M−30」、東洋紡績(株)製「KF−1500」、板状活性炭としては鐘紡(株)製「ミクロライトAC」等が挙げられる。
【0038】
活性炭触媒の使用量については、特に制限はないが、グリシドール100重量部に対し、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜2重量部の範囲である。活性炭触媒の添加量が10重量部を超えると、コストが高くなったり、反応中に攪拌不良などを引き起こすなど取り扱い性が低下したりする場合がある。また0.01重量部未満の場合には、触媒としての効果が小さくなる場合がある。
【0039】
活性炭は、従来の金属触媒や酸性触媒などと異なり、取り扱いにおいて又は生成物に残存した場合にも、衛生面等で危険が少なく、安全性が高いため、特に食品添加物用途などにおいては好ましい。また、活性炭触媒は、沈降、濾過、遠心分離、または充填塔式とするなどにより、反応マスから容易に分離することができる。従来の酸性触媒などの場合には、触媒を反応マスから分離することが困難であったが、本発明の活性炭は、反応後に分離可能であり、生成物中に残存しない特徴を有する。
【0040】
また、活性炭は、本来吸着による脱色・脱臭などの効果を有するため、活性炭を触媒として用いることにより、付加的な効果として、生成物の着色が抑制されるため好ましい。この脱色・脱臭効果は、通常吸着剤として使用される場合のように、生成物を活性炭で精製することによっても得られるが、本発明の触媒としての使用の場合のように、活性炭が反応の初期から反応系に存在する場合に、特に顕著に効果を発揮するため好ましい。
【0041】
さらに、活性炭は再利用性に優れており、繰り返し使用することが可能であるため、経済面でも好ましい。本発明の活性炭触媒の再生方法は、既存の方法を用いることが可能で特に限定されないが、例えば、溶剤の溶質濃度、圧力を下げることにより吸着物などを脱離させる減圧再生法、溶媒により抽出する溶媒再生法、他の吸着物質により置換を行う置換再生法、加熱による加熱脱離法、化学処理による化学再生法、酸化、分解による酸化分解再生法などを用いることが可能である。
【0042】
本発明の製造方法においては、グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドール、活性炭触媒の他に、反応希釈剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、粘度調整剤などが用いられてもよい。
【0043】
本発明の製造方法において反応希釈剤を用いる場合、反応希釈剤としては、トルエン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の各種溶媒を用いることができる。
【0044】
本発明の具体的な製造方法は、グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドールの混合物を、ヒーターと攪拌機を備えた反応容器に投入し、攪拌・混合しながら所定の温度まで加熱した後、反応が完結するまで、温度を維持する。なお、原料の混合は反応容器投入前に行ってもよいが、グリセリンおよび/またはポリグリセリンと、必要に応じて溶媒等を反応容器に入れた後、グリシドールを滴下することによって行ってもよい。活性炭触媒は、上記の混合物と混合して反応容器内に入れてもよいし、充填塔式にして、上記混合物が活性炭触媒層を通過しながら反応する方式でもよい。また、必要に応じて、反応の際に、酸素を重合禁止に有効で且つ安全な濃度で存在させてもよい。
【0045】
本発明の製造方法は、回分(バッチ)式でもよいし、半回分式、連続式のいずれの形式で行ってもよい。また、本発明で用いられる反応装置は、既存のものを用いることが可能で、特に限定されないが、攪拌槽式、充填塔のような流通式、流動床式などが好ましく例示される。
【0046】
本発明の活性炭触媒は、反応終了後、遠心分離や濾過を行うことによって分離する。なお、充填塔式とする場合には、濾過などによる分別が不要となるため好ましい。反応により失活した活性炭触媒は、水蒸気通過などで再賦活化、乾燥させることによって再度反応に用いることが可能である。
【0047】
本発明のポリグリセリンの製造方法では、反応温度や反応時間は、用いる原料や活性炭触媒の種類によっても異なり、特に限定されないが、反応温度は120℃〜200℃が好ましく、反応時間は5〜60時間が好ましい。反応温度が200℃を超える場合には、副反応や分解が生じやすくなり、環状体や分岐物が生成したり、着色が起こる場合がある。また、120℃未満である場合には、反応時間が長時間となりコストが高くなったり、収率が低下する場合がある。反応時間が60を超える場合には、コストアップ、生産能力の低下を招く場合があり、5時間未満に反応を完了するには、反応の制御が困難となる場合がある。
【0048】
本発明のポリグリセリンの製造方法が、未反応グリセリンの除去工程を含む場合、未反応グリセリンの除去方法は、既存の方法を用いることが可能であり、例えば、減圧除去が好ましい方法として例示される。上記除去工程は、原料のジグリセリンなどに不純物としてグリセリンが含まれる場合にも有効であるが、特に、原料としてグリセリン自体を用いる場合に効果が大きい。
【0049】
本発明のグリセリンの製造方法から得られるポリグリセリンは、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン及びさらに多重合度のポリグリセリンを主としてなる混合物である。
【0050】
本発明のポリグリセリンの製造方法は、反応の制御が容易であり、分取などの手法によらずとも、ジグリセリン、トリグリセリンおよびテトラグリセリンの含有量の合計量を75重量%以上とすることが可能である。また、加熱縮合などに対して比較的低温で反応させることが可能であるため、分岐鎖状ポリグリセリンや環状ポリグリセリンの生成が抑制される。さらに、本発明の製造方法は、重合度分布が狭いため、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下に制御することが容易である。
【0051】
本発明のポリグリセリンの製造方法は、エピクロルヒドリンなどの塩素含有の原料および触媒を使用していないため、原理的に、生成物中に塩素原子を含有しない。さらに、金属触媒なども使用しないため、生成物中に金属元素を含有しない。
【0052】
本発明のポリグリセリンと脂肪酸をエステル化することによって、ポリグリセリン脂肪酸エステルを得ることができる。エステル化は公知の方法によって行うことが可能で、例えば、アルカリ触媒下、酸触媒下、または無触媒下にて、常圧または減圧下にてエステル化することができる。
【0053】
本発明のポリグリセリンを脂肪酸エステルとする場合、ポリグリセリンと脂肪酸の仕込み比率は、生成物の使用目的、親水性、疎水性などの要求特性によって適宜選択される。例えば、親水性の界面活性剤を得ようとすればポリグリセリンの水酸基価又は数平均分子量と脂肪酸の分子量から、計算により等モル又はポリグリセリンのモル数を等モルよりも増加させるように重量を計算して仕込めばよく、親油性の界面活性剤を得ようとすれば脂肪酸のモル数を等モルよりも増加させればよい。
【0054】
得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは、製品の要求に応じて、さらに精製を行ってもよい。精製方法は公知の方法を用いることが可能である。例えば、活性炭や活性白土などで吸着処理したり、水蒸気、窒素などをキャリアーガスとして用いて減圧下に処理を行ったり、または酸やアルカリを用いて洗浄を行ったり、分子蒸留を行ったりして精製してもよい。または液液分配や吸着剤、樹脂、分子篩、ルーズ逆浸透膜、ウルトラフィルトレーション膜などを用いて未反応ポリグリセリンなどを分離除去するなどしてもよい。
【0055】
さらに、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルには、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、粘度調整剤などの添加剤を加えてもよい。例えば、粘度調製の目的で、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、水、液糖、油脂などの一種または二種以上を添加して溶解または乳化してもよい。さらに、本発明のポリグリセリンと混合することも可能である。または、乳糖、デキストリンなどの多糖類やカゼイネートなど蛋白質を添加して粉末化してもよい。
【0056】
得られたポリグリセリン脂肪酸エステルは、他の界面活性剤を混合して界面活性剤製剤としてもよい。他の界面活性剤としては、大豆レシチン、卵黄レシチン、菜種レシチンなどのレシチン、またはその部分加水分解物;カプリル酸モノグリセライド、カプリン酸モノグリセライド、ラウリン酸モノグリセライド、ミリスチン酸モノグリセライド、パルミチン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド、ベヘン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド、エライジン酸モノグリセライド、リシノール酸モノグリセライド、縮合リシノール酸モノグリセライドなどのモノグリセライド、またはこれらのモノグリセライド混合物、または、これらモノグリセライドの酢酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸など有機酸とのエステルである有機酸モノグリセライド;カプリル酸ソルビタンエステル、カプリン酸ソルビタンエステル、ラウリン酸ソルビタンエステル、ミリスチン酸ソルビタンエステル、パルミチン酸ソルビタンエステル、ステアリン酸ソルビタンエステル、ベヘン酸ソルビタンエステル、オレイン酸ソルビタンエステル、エライジン酸ソルビタンエステル、リシノール酸ソルビタンエステル、縮合リシノール酸ソルビタンエステルなどのソルビタン脂肪酸エステル;カプリル酸プロピレングリコールエステル、カプリン酸プロピレングリコールエステル、ラウリン酸プロピレングリコールエステル、ミリスチン酸プロピレングリコールエステル、パルミチン酸プロピレングリコールエステル、ステアリン酸プロピレングリコールエステル、ベヘン酸プロピレングリコールエステル、オレイン酸プロピレングリコールエステル、エライジン酸プロピレングリコールエステル、リシノール酸プロピレングリコールエステル、縮合リシノール酸プロピレングリコールエステルなどのプロピレングリコ−ル脂肪酸エステル;カプリル酸ショ糖エステル、カプリン酸ショ糖エステル、ラウリン酸ショ糖エステル、ミリスチン酸ショ糖エステル、パルミチン酸ショ糖エステル、ステアリン酸ショ糖エステル、ベヘン酸ショ糖エステル、オレイン酸ショ糖エステル、エライジン酸ショ糖エステル、リシノール酸ショ糖エステル、縮合リシノール酸ショ糖エステルなどのショ糖脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤や両性界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤などを例示することができる。
【0057】
[物性の測定方法]
以下に、本願で用いられる評価方法について例示する。
【0058】
(1)塩素含有率
自動滴定装置(平沼産業(株)製「COM−1600ST」)を用いて、JIS K 7243−3:2005に準拠し、電位差滴定により測定した。なお、検出下限は0.1ppmである。
【0059】
(2)元素分析(含有元素、含有量)
高周波プラズマ発生分析装置(島津製作所(株)製「ICPS8100」)を用いて、金属、リン等の下記元素の同定および含有量の測定を行った。試料は、濃硫酸を添加して灰化した後、硫酸水素カリウムで融解し、希硝酸に溶解して測定に用いた。なお、検出下限は0.1ppmである。
分析元素 : Al、As、Ba、Ca、Cd、Ce、Co、Cu、Cr、Ga、Ge、
Fe、Hf、La、Li、Mg、Mn、Mo、Na、Ni、P、Pb、
Sb、Se、Si、Sn、Sr、Ti、V、Zn、Zr)
なお、硫黄は、JIS K 2541−6:2003に準拠して、酸化分解−紫外蛍光法を用いて分析した。
【0060】
(3)色相(APHA)
JIS K 1557:1970に準拠して測定した。色相が100未満の場合には着色なし(○)と判断し、100以上の場合には着色あり(×)と判断した。
【0061】
(4)酸価、水酸基価、水分量
JIS K 1557:1970に準拠して測定した。
【0062】
(5)粘度
E型粘度計を用いて、26℃で測定した。
【0063】
(6)ポリグリセリンの組成分析
ガスクロマトグラフィーを用いて、下記の測定条件により分析を行った。なお、試料は、試料0.03gに、ピリジン0.5ml、N−O−ビストリメチルシリルアセトアミド0.5mlおよびクロロトリメチルシラン数滴を混合して、50度で30分保持する前処理を施した後、測定に用いた。
装置 : Hewlett−Packard製、「HP−6890」
カラム : HP−5(内径:0.53mm、膜厚:1.5μm、長さ:30m)
カラム温度 : 60℃で1分保持した後、昇温速度10℃/分で昇温し、300℃で35分保持した。
注入口温度 : 330℃
注入方法 : スプリット比=40:1
注入量 : 1μL
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明のポリグリセリンの製造方法について、更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
窒素導入管、攪拌機、冷却管、温度調節器、滴下シリンダーを備えた1リットルの4ツ口フラスコにグリセリン10.0mol(920.9g)と活性炭触媒(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名「白鷺A」;粉末活性炭)8.16g(グリシドール100重量部に対して、1.1重量部)を加え、120℃に加熱した。次いで、反応温度を120℃に保ちながらグリシドール10.0mol(740.8g)を6時間かけて滴下し、系中のオキシラン濃度が反応溶液全体に対して0.1重量%未満になるまで反応を続けた。なお、オキシラン濃度は経時で反応溶液を一部抜き出して評価した。その後、温度を約200℃に上げ、真空ポンプにより徐々に真空度を上げ、残留しているグリセリンの含有率が1重量%以下に低下するまで除去した。冷却後反応系より活性炭を濾過により取り除き、反応物を約1650g得た。
得られたポリグリセリンの組成は、表1に示すとおり、本発明に規定する範囲を満たしており、物性も着色が無く優れたものであった。なお、塩素含有量、金属成分量はともに検出下限(0.1ppm)未満であった。
【0066】
実施例2
窒素導入管、攪拌機、冷却管、温度調節器、滴下シリンダーを備えた2リットルの4ツ口フラスコにジグリセリン(坂本薬品(株)製)10.0mol(1666.2g)と活性炭(日本エンバイロケミカルズ社製、商品名「白鷺A」;粉末活性炭)12.016g(グリシドール100重量部に対して、1.3重量部)を加え、120℃に加熱した。次いで、反応温度を120℃に保ちながらグリシドール10.0mol(926.0g)を6時間かけて滴下し、系中のオキシラン濃度が0.1重量%未満になるまで反応を続けた。冷却後反応系より活性炭を濾過により取り除き、反応物を約2500g得た。
得られたポリグリセリンの組成は、表1に示すとおり、本発明に規定する範囲を満たしており、物性も着色が無く優れたものであった。なお、塩素含有量、金属成分量はともに検出下限(0.1ppm)未満であった。
【0067】
比較例1
グリセリン−α−モノクロロヒドリン12mol(1326g)とSnCl4の2mlとを2リットルの2層式反応器(加熱用液体:油;不活性ガス雰囲気:窒素)中に加え、約60℃に加熱した。次いで、反応温度を70℃に保ちながら、エピクロロヒドリン12mol(1110g)を2時間かけて滴下し、さらに1時間経過後に反応を継続し、粗製クロルヒドリンエーテル混合液を得た。
90度に加熱した16%水酸化ナトリウム水溶液(3.3リットル)に、攪拌下、粗製クロルヒドリンエーテル混合物を2時間で添加した。90℃でさらに1時間攪拌を続けた後、加熱を停止し且つ反応バッチを6N塩酸(200ml)の添加により中性にした。中性反応溶液を真空中で濃縮し、析出した塩を濾別し、且つ濾液を水で稀釈後、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合物を介して脱塩した。その後、温度を約200℃に上げ、真空ポンプにより徐々に真空度を上げ、残留しているグリセリンの含有率が1重量%以下に低下するまで除去し、反応物を約1000g得た。
得られたポリグリセリンは塩素を含んでおり、食品添加物として利用するには安全面で劣る品質であった。
【0068】
比較例2
活性炭触媒を用いない以外は、実施例1と全く同様にして、合成を行ったが、反応が進行せず、生成物は得られなかった。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンをそれぞれ5重量%以上含有し、ジグリセリンとトリグリセリンとテトラグリセリンの含有量の合計が75重量%以上であり、且つ、重合度が7以上の多重合ポリグリセリン成分の含有量が10重量%以下であり、且つ、実質的に塩素原子を含有しないことを特徴とするポリグリセリン。
【請求項2】
環状ポリグリセリンの含有量が10重量%以下である請求項1に記載のポリグリセリン。
【請求項3】
錫原子、チタン原子、亜鉛原子、アルミニウム原子、銅原子、マグネシウム原子、リン原子、硫黄原子の含有量が、それぞれ1ppm未満である請求項1又は2に記載のポリグリセリン。
【請求項4】
グリセリンおよび/またはポリグリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させることを特徴とするポリグリセリンの製造方法。
【請求項5】
グリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させた後、得られたポリグリセリンから未反応のグリセリンを除去する、請求項4に記載のポリグリセリンの製造方法。
【請求項6】
ジグリセリンとグリシドールとを、活性炭触媒の存在下に反応させる請求項4に記載のポリグリセリンの製造方法。
【請求項7】
ポリグリセリンが、請求項4〜6のいずれかの項に記載のポリグリセリンの製造方法によって製造されたものである、請求項1に記載のポリグリセリン。

【公開番号】特開2007−63210(P2007−63210A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253311(P2005−253311)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】