説明

ポリグリセリン誘導体及びこれを含む界面活性剤

【課題】 優れた界面活性能力を有し、且つ乳化可溶化物の経時安定性も良好な界面活性剤としての使用に適したポリグリセリン誘導体を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)により示されるポリグリセリン誘導体。
【化1】


(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリグリセリン誘導体及びこれを含む界面活性剤、特に優れた界面活性能を有し、且つ乳化可溶化物の経時安定性の良好な界面活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非イオン性界面活性剤は、石鹸を代表とするアニオン界面活性剤とともに、産業にはなくてはならないものになってきている。工業的には臨界ミセル濃度が低く、低濃度で使用可能な非イオン性界面活性剤が広く使用されているが、その大部分が親水基をオキシエチレン基に頼った界面活性剤(例えば、特許文献1参照)である。しかし、これらの界面活性剤は、塩の濃度によって親水疎水バランスが影響を受けやすく、さらに高濃度の塩の存在下では使用が困難である。
【0003】
このため、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グルコノデルタラクトンとアルキルアミンの反応物(例えば、特許文献2参照)、トリグリセリン脂肪酸エステルなどを代表とする多価アルコールを親水基とした界面活性剤(例えば、特許文献3参照)が使用されている。しかしながら、これらの化合物は、エステル結合やアミド結合で親水基と疎水基が結合されており、酸やアルカリに対し弱く、配合物の経時安定性も悪いため使用が制限されることが多かった。また、多価アルコールを親水基として疎水基がエーテル結合されている界面活性剤も例示されているが、疎水基が限定されており、界面活性剤としての能力が効果的に発揮されていなかった(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−327994号公報
【特許文献2】特開平5−221946号公報
【特許文献3】特開2003−213036号公報
【特許文献4】特開昭60−28944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、優れた界面活性能力を有し、且つ乳化可溶化物の経時安定性も良好な、界面活性剤としての使用に適したポリグリセリン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、オキシアルキレン基を付加した特定構造のポリグリセリン誘導体が、優れた界面活性能を有し、且つ乳化可溶化物の経時安定性が良好であることから、界面活性剤として特に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかるポリグリセリン誘導体は、下記一般式(1)により示されることを特徴とするものである。
【化1】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【0008】
また、本発明にかかる界面活性剤は、前記ポリグリセリン誘導体を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、前記界面活性剤において、平均重合度3から6のポリグリセリンと下記一般式(2)に示される化合物を反応させることにより、下記一般式(3)に示されるポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物を調製し、得られたポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物と炭素数3から4のアルキレンオキシドを反応させることにより、ポリグリセリンにアルキレンオキシドを付加し、さらに得られたポリグリセリンオキシアルキレン化物を脱ケタール化又は脱アセタール化することにより得られることが好適である。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

(式中、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基もしくは水素原子を表し、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基である。ただしRおよびRが同時に水素原子である場合を除く。m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4である。)
【0012】
また、前記界面活性剤において、トリグリセリンの含有量が75質量%以上のポリグリセリンを原料として用いることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるポリグリセリン誘導体は、優れた界面活性能力を有し、且つ乳化可溶化物の経時安定性が良好である。また、このため、本発明にかかるポリグリセリン誘導体は、界面活性剤として用いた場合に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について具体例を挙げることにより、さらに詳細に説明を行なうが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
本発明にかかるポリグリセリン誘導体は、下記一般式(1)により示されることを特徴とするものである。
【0015】
【化4】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【0016】
上記式(1)に示されるポリグリセリン誘導体において、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており、1≦m≦4、すなわち、3≦m+2≦6である。ポリグリセリンとしては、例えば、トリグリセリン(m=1)、テトラグリセリン(m=2)、ペンタグリセリン(m=3)、ヘキサグリセリン(m=4)が挙げられ、特に好ましくはトリグリセリンである。mが0(m+2=2)あるいはmが5以上(m+2≧7)である場合には、界面活性能が不十分である。
【0017】
ポリグリセリン誘導体の製造に際して、原料として用いるポリグリセリンの製造方法は特に限定されるものではなく、直鎖状であっても分岐状であっても良い。上記式(1)においては、便宜上、直鎖状のポリグリセリン誘導体のみを示しているが、本発明においては、例えば、分岐状のポリグリセリン誘導体、あるいはこれらの混合物であっても構わない。なお、通常、市販のポリグリセリンは、脱水縮合して得られる為、グリセリンの1位又は3位と1位又は3位が反応する場合、1位又は3位と2位が反応する場合、2位と2位が反応する場合があり、直鎖状及び分岐状の混合物となる。このような混合物を原料として用いた場合には、ポリグリセリン誘導体も直鎖状及び分岐状の混合物として得られる。
【0018】
また、原料として用いるポリグリセリンは、より好ましくはトリグリセリンの平均重合度分布を狭くしたものであり、トリグリセリンの含有量が75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上のトリグリセリンを原料として使用することにより界面活性能力がさらに向上する。なお、蒸留等を行なうことによって、トリグリセリンの平均重合度分布を狭くすることができる。トリグリセリンの含有量は、例えば、以下の方法により測定することができる。
【0019】
TMS化:サンプル0.1gをスクリュー管に秤取り、ピリジン0.5mLを加えて溶解させる。次にヘキサメチルジシラザン0.4mLを加えて混ぜ、さらにクロロトリメチルシラン0.2mLを加えてよく混ぜる。30分間放置後、遠心分離しピリジン塩酸塩を沈降させ、上澄みを濾過したものをガスクロマトグラフィー分析する。
検出器:FID
カラム:HP-5 Crosslinked 5% PH ME Siloxane 0.25μm×30m
カラム温度:80℃→320℃(15℃/min) 320℃,25min
注入口温度:320℃
検出器温度:320℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:23cm/sec
注入量:0.2μL
スプリット比:スプリットレス
【0020】
は炭素数1〜4の炭化水素基または水素原子であり、好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基である。炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、及びこれらの混合物等が挙げられるが、より好ましくは飽和炭化水素基である。
【0021】
AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシイソブチレン基、オキシt−ブチレン基、オキシトリメチレン基、オキシテトラメチレン基、及びこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは全オキシアルキレン基中に占める炭素数4のオキシブチレン基の割合が50質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。炭素数2以下のオキシアルキレン基では塩濃度による影響を受けやすく、炭素数5以上のオキシアルキレン基では純度の高い誘導体を得ることが難しい。また、異なるオキシアルキレン基の重合形態はブロック状でもランダム状でもよい。
【0022】
nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、この付加モル数を調整することによりHLBをコントロールすることができる。nはオキシアルキレン基と結合し得る水酸基の数を表すmとの組み合わせで1≦m×n≦200、好ましくは4≦m×n≦100、さらに好ましくは8≦m×n≦70である。m×nが0では界面活性を示さず、200を超えると純度の高い誘導体を得ることが難しい。また、オキシアルキレン基の平均付加モル数であるnは、単独で、1≦n≦200の値をとり得るが、好ましくは4≦n≦80、さらに好ましくは8≦n≦50である。
【0023】
本発明の式(1)に示されるポリグリセリン誘導体としては、具体的には、例えば、ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(28モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(42モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(56モル)メチルトリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(28モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(42モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル、ポリオキシブチレン(56モル)トリグリセリルエーテル等が挙げられる。
【0024】
なお、本発明の式(1)に示されるポリグリセリン誘導体は、通常、以下の1)〜3)の手順により製造することができる。
1)平均重合度3から6のポリグリセリンを酸触媒の存在下でケタール化剤もしくはアセタール化剤を反応させポリグリセリンジケタール化合物もしくはジアセタール化合物を得る。
2)続いてアルカリ触媒の存在下で炭素数3から4のアルキレンオキシドの付加反応を行なう。さらに必要であればアルカリ触媒存在下でアルキル(アルケニル)ハライドなどを反応させ、オキシアルキレン基末端をアルキル(アルケニル)エーテル化する。
3)その後酸触媒の存在下で脱ケタール化もしくは脱アセタール化を行なう。
【0025】
ポリグリセリンをケタール化またはアセタール化するための化合物を下記式(2)に示す。
【化5】

【0026】
上記RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基もしくは水素原子を表し、R4およびR5はそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基である。ただし、RおよびRが同時に水素原子である場合は除かれる。炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられるが、より好ましくはメチル基である。
【0027】
式(2)の化合物としては、2,2−ジメトキシプロパン、1,1−ジメトキシ−3−ブタノン、1,1−ジメトキシエタン等が挙げられるが、2,2−ジメトキシプロパンがより好ましい。なお、通常のケトン類もしくはアルデヒド類から直接ケタール化合物やアセタール化合物を合成することもできるが、ケタール基等の置換反応率の点から、式(2)の化合物を使用した方がより好ましい。ケタール化もしくはアセタール化の触媒としては、酸触媒、例えば硫酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。通常、式(2)の化合物の仕込み量はポリグリセリンに対して250〜500モル%、酸触媒の仕込み量はポリグリセリンに対して0.0005〜0.015モル%が、反応温度は30〜70℃で行なうのが一般的である。
【0028】
ポリグリセリンと上記式(2)の化合物との反応により生成するポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物を下記一般式(3)に示す。
【化6】

【0029】
式(3)のポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物を、次工程のアルキレンオキシド付加反応で使用する場合、特に触媒除去処理などしなくても差し支えないが、必要であれば、アルカリによる中和処理や酸吸着処理、濾過等を行なうことができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0030】
なお、式(3)のポリグリセリンジケタール化物またはジアセタール化物は、末端グリセリル基の1位と2位での反応物として記載されているが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0031】
式(3)の化合物について、アルカリ触媒の存在下で当該アルキレンオキシド付加を行なう場合、通常、オートクレーブなどの加圧反応釜において40〜180℃の温度で反応を行なう。このときの触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド等である。触媒の使用量は特に限定されないが、付加反応終了後の質量に対して0.01〜5.0質量%が一般的である。
【0032】
アルキレンオキシド付加反応後、必要であればアルカリ触媒存在下でアルキル(アルケニル)ハライド等を反応させ、オキシアルキレン基末端をアルキル(アルケニル)エーテル化することもできる。アルキル(アルケニル)ハライドの例としては、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、塩化ビニル、塩化アリル、臭化メチル、臭化エチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル等が挙げられる。また、このときの触媒としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコラート等を使用することができる。より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ナトリウムメトキシド等である。アルキル(アルケニル)ハライドの仕込み量は、該反応する水酸基数に対して100〜400モル%、アルカリ触媒量は該反応する水酸基数に対して100〜500モル%、反応温度は60〜160℃で行なうのが一般的である。
【0033】
式(3)の化合物のオキシアルキレン化物について、次工程の脱ケタール化又は脱アセタール化反応を行なう場合、酸による中和処理やアルカリ吸着処理、濾過等を行なう必要がある。例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、炭酸などの鉱酸、クエン酸、コハク酸、酒石酸等の有機酸による中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード600、キョーワード700、富田製薬(株)製のトミックスAD−300などの吸着剤、その他ゼオライト等を使用することができる。
【0034】
式(3)の化合物のオキシアルキレン化物における脱ケタール化又は脱アセタール化反応は、酸触媒の存在下で行なう。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、その他固体酸、陽イオン交換樹脂、酸性白土等が挙げられる。酸触媒の使用量は、式(3)の化合物のオキシアルキレン化物に対して0.01〜6.0質量%、反応温度は60〜150℃で行なうのが一般的である。
【0035】
脱ケタールまたは脱アセタール反応終了後は、アルカリによる中和処理や酸吸着処理、濾過等を行なうことができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の中和剤や、協和化学工業(株)製のキョーワード300、キョーワード1000、富田製薬(株)製のトミックスAD−500等の吸着剤、その他ゼオライト等が使用できる。
【0036】
以上説明したように、本発明においては、予めポリグリセリンの末端部の水酸基をジケタール化又はジアセタール化によって保護し、この状態で水酸基のオキシアルキレン化反応を行ない、さらにその後、脱ケタール化又は脱アセタール化反応により保護基を外すという一連の工程が行われる。そして、これにより、式(1)に示すようなポリグリセリンの非末端部の水酸基のみが選択的にオキシアルキレン化されたポリグリセリン誘導体が得られる。
【0037】
また、本発明においては、式(1)のポリグリセリン誘導体を含む組成物を界面活性剤として用いることができる。この場合、必須成分である式(1)のポリグリセリン誘導体のほかに、例えば、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の他の界面活性剤成分を、本発明の性能を損なわない範囲で併用することも可能である。本発明の界面活性剤において、式(1)のポリグリセリン誘導体の含有量は任意に調整することができるが、0.1〜100質量%が一般的である。
【0038】
本発明の界面活性剤の用途は、特に限定されるものではない。用途としては、例えば、乳化剤、可溶化剤、分散剤、消泡剤、湿潤剤、浸透剤、洗浄剤等、産業分野としては、例えば、繊維工業、金属工業、製紙工業、印刷業、化粧品工業、医薬品工業、食品工業、写真工業、合成樹脂工業、潤滑工業等が挙げられる。なお、これらの用途における本発明の界面活性剤の使用濃度は、0.01〜50.0質量%が一般的である。
【実施例1】
【0039】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
まず最初に、本発明にかかる非イオン性界面活性剤の合成例を示す。
【0040】
合成例1:ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル(化合物1)
(1)ケタール化反応
四つ口フラスコにトリグリセリン(SOLVAY社製「Triglycerin>80%」:純度83%)240g、2,2−ジメトキシプロパン364g、パラトルエンスルホン酸1.5mgを仕込み、反応系内を窒素ガスで置換後50℃で3時間反応させた。反応後窒素気流下で未反応揮発分を加熱留去し、酢酸を加えてpH7に合わせ、トリグリセリンジケタール化物(化合物1a)を得た。なお、トリグリセリンの純度は、前述のガスクロマトグラフィー分析条件により測定した。また、原料のトリグリセリンと化合物1aのIR分析を比較した場合、化合物1aには3500cm−1付近の水酸基のピークが小さくなっており、代わりに2960cm−1、2870cm−1、1460cm−1、1380cm−1付近のピークが出現していることから、目的物質が得られていることを確認した。
【0041】
(2)オキシブチレン化反応
化合物1a320gと水酸化カリウム12gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド1800gを滴下させ、2時間攪拌した。次に、水酸化カリウム168.3gを仕込み、系内を乾燥窒素で置換した後、塩化メチル151.5gを温度80〜130℃で圧入し5時間反応させた。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、オキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物(化合物1b)を得た。
【0042】
(3)脱ケタール化反応
四つ口フラスコに化合物1bを2134g、36%塩酸50g、水100gを仕込み、密封状態で80℃、2時間脱ケタール化反応を行った。次いで水酸化カリウム水溶液でpH6〜7に合わせ、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル(化合物1)を得た。
【0043】
なお、以上により得られた化合物1についてGPC分析を行ったところ、メインピークの分子量は1939であった。分析条件は下記の通りである。
分析機器 :SHODEX GPC SYSTEM−11(昭和電工社製)
標準物質 :ポリエチレングリコール
サンプルサイズ :10%×100×0.001mL
溶離液 :THF
流速 :1.0mL/min
カラム :SHODEX KF804L(昭和電工社製)
カラムサイズ :I.D.8mm×30cm×3
カラム温度 :40℃
検出器 :RI×8
また、化合物1bと化合物1のIR分析を比較した場合、化合物1では3500cm−1付近の水酸基のピークが大きくなっていることから、目的物質が得られていることを確認した。
【0044】
合成例2:ポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル(化合物2)
合成例1の手順のうち、ケタール化反応を下記の通りに変更し、合成を行いポリオキシブチレン(25モル)メチルトリグリセリルエーテル(化合物2)を得た。その他条件等は合成例1に準じた。
【0045】
(1)ケタール化反応
四つ口フラスコにトリグリセリン(SOLVAY社製「Triglycerin>80%」:純度83%)240g、アセトン290g、パラトルエンスルホン酸4mgを仕込み、反応系内を窒素ガスで置換後70℃で8時間反応させた。反応後窒素気流下で未反応揮発分を加熱留去し、酢酸を加えてpH7に合わせ、トリグリセリンジケタール化物(化合物2a)を得た。
【0046】
合成例3:ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル(化合物3)
合成例1の手順のうち、オキシブチレン化反応を下記の通りに変更し、合成を行いポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル(化合物3)を得た。その他条件等は合成例1に準じた。
【0047】
(2)オキシブチレン化反応
化合物1a320gと水酸化カリウム20gをオートクレーブ中に仕込み、オートクレーブ中の空気を乾燥窒素で置換した後、攪拌しながら140℃で触媒を完全に溶解した。次に滴下装置によりブチレンオキシド3600gを滴下させ、2時間攪拌した。その後オートクレーブより反応組成物を取り出し、塩酸で中和してpH6〜7とし、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、オキシブチレン化トリグリセリンジケタール化物(化合物3b)を得た。
【0048】
(3)脱ケタール化反応
四つ口フラスコに化合物3bを3920g、36%塩酸70g、水200gを仕込み、密封状態で80℃、3時間脱ケタール反応を行った。次いで水酸化カリウム水溶液でpH6〜7に合わせ、含有する水分を除去するため減圧、100℃で1時間処理した。さらに処理後生成した塩を除去するため濾過を行い、ポリオキシブチレン(50モル)トリグリセリルエーテル(化合物3)を得た。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
本発明者らは、上記合成例1〜3に準じて、下記表1に示す組成のポリグリセリン誘導体(化合物1〜6)を調製した。
【表1】

【0055】
実施例1〜6,比較例1〜6
つづいて、本発明者らは、以上のようにして調製したポリグリセリン誘導体の界面活性剤としての適性について検討するため、上記化合物1〜6について各種の油を用いて乳化試験を行った。また、比較例として、従来使用されている非イオン性界面活性剤を用いて同様の試験を行った。試験の内容は以下の通りである。結果を表2〜表5に示す。
【0056】
〈乳化試験〉
下記組成1に示す割合で、化合物1〜6(又は比較の非イオン性界面活性剤)を含む油混合物を70℃に加温し均一に溶解した後、攪拌しながら水を同温度で添加し、乳化物を調製した。なお、油としては、オリーブ油、シリコーン油、マシン油、及び重油を用い、それぞれについて乳化物を調製した。
(組成1)
油 50.0質量%
化合物1〜6/非イオン性界面活性剤 5.0質量%
水 45.0質量%
【0057】
以上のようにして作製した各乳化物について、乳化直後、50℃で1週間、2週間、1ヶ月、3ヶ月、及び6ヶ月間保存した後の乳化状態を、下記の基準により目視で測定を行なうことにより、評価した。
・評価基準
◎:エマルジョンが細かく安定な状態
○:安定な状態
△:やや不均一な状態
×:多少分離している状態
××:完全にクリーミングまたは分離している状態
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
上記表2〜5の結果より、化合物1〜6を用いて乳化した乳化物は、全ての油の種類において6ヶ月間保存後の乳化状態が安定なものであった(実施例1〜6)。これに対して、従来の非イオン性界面活性剤を用いた乳化物においては、すべての油の種類について6ヶ月間保存後の乳化状態が安定であるものは存在しなかった(比較例1〜6)。
このことから、上記化合物1〜6のポリグリセリン誘導体が、従来の非イオン性界面活性剤と比較して優れた界面活性能を有しており、さらに乳化物の経時安定性が良好であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)により示されるポリグリセリン誘導体。
【化1】

(式中、m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4、Rは炭素数1〜4の炭化水素基又は水素原子、AOは炭素数3〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で、1≦m×n≦200である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリグリセリン誘導体を含むことを特徴とする界面活性剤。
【請求項3】
請求項2に記載の界面活性剤において、平均重合度3から6のポリグリセリンと下記一般式(2)に示される化合物を反応させることにより、下記一般式(3)に示されるポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物を調製し、得られたポリグリセリンジケタール化物又はジアセタール化物と炭素数3から4のアルキレンオキシドを反応させることにより、ポリグリセリンにアルキレンオキシドを付加し、さらに得られたポリグリセリンオキシアルキレン化物を脱ケタール化又は脱アセタール化することにより得られることを特徴とする界面活性剤。
【化2】

【化3】

(式中、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基もしくは水素原子を表し、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜4の炭化水素基である。ただしRおよびRが同時に水素原子である場合を除く。m+2はポリグリセリンの平均重合度を表しており1≦m≦4である。)
【請求項4】
請求項3に記載の界面活性剤において、トリグリセリンの含有量が75質量%以上のポリグリセリンを原料として用いることを特徴とする界面活性剤。

【公開番号】特開2007−31554(P2007−31554A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216491(P2005−216491)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】