説明

ポリケチドシンターゼを使用するジカルボン酸の生成法

本発明は、ジカルボン酸(二塩基酸)を合成可能なポリケチドシンターゼ(PKS)を提供する。そのような二塩基酸としてはジケチド二塩基酸およびトリケチド二塩基酸が挙げられる。本発明は、PKSをコードする組換え核酸、およびPKSを含む宿主細胞を含む。本発明は、二塩基酸を生成するための方法も含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2008年3月28日出願の米国仮特許出願第61/040,584号の優先権を主張する。
【0002】
政府支援の表明
本発明は、米国エネルギー省が与えた契約第DE-AC02-05CH11231号の政府支援により行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は一般に、ポリケチドシンターゼを使用するジカルボン酸生成に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
ジカルボン酸(二塩基酸)は、市販のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン)の製造に使用される重要な化合物である。例えば図1を参照。二塩基酸であるアジピン酸[1]は、[1]とヘキサン-1,6-ジアミンとの反応を通じて産生されるポリアミドであるナイロン[2]の生成におけるモノマーとして主に使用される。ポリエステル(多くの組成の織物およびプラスチックにおいて使用される)は、テレフタル酸[3]とエチレングリコール(ポリエチレンテレフタレート[4]を作製する)、プロパンジオール(ポリ(1,3-プロパンジオールテレフタレート)[5]を作製する)またはブタンジオール(ポリ(1,4-ブタンジオールフタレート)[6]を作製する)などのジアルコール(ジオール)との重合を通じて形成される。アジピン酸も各種ポリエステルの合成に使用される。
【0005】
ナイロンおよびポリエステルの大規模な世界的使用は、年間約80億メートルトンの[1]および150億メートルトンの[3]の生成を必要とする。これらの二塩基酸はそれ自体、石油から抽出される出発原料から合成される。ポリマーの商業生産における石油に対する大きい依存を減少させる1つの手段は、ポリケチドシンターゼの使用を包含する発酵プロセスにより二塩基酸を産生することである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ジカルボン酸(二塩基酸)を合成可能なポリケチドシンターゼ(PKS)を提供する。そのような二塩基酸としては、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載のジケチド二塩基酸およびトリケチド二塩基酸が挙げられる。そのような二塩基酸は3個を超えるケチド単位、例えば4個、5個もしくは6個またはそれ以上のケチド単位のポリケチドでもあり得る。そのような二塩基酸は最大8個、9個または10個のケチド単位のポリケチドでもあり得る。そのような二塩基酸としては、H、メチル、エチル、ヒドロキシルまたはカルボニル基を独立して含む官能基を有するポリケチドが挙げられる。いくつかの態様では、二塩基酸は1個、2個または3個〜最大4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のケチド単位のポリケチドである。
【0007】
本発明は、本発明のポリケチドシンターゼ(PKS)をコードする組換え核酸を提供する。本発明は、本発明の組換え核酸を含むベクターまたは発現ベクターも提供する。本発明は、本発明の組換え核酸および/またはPKSのいずれかを含む宿主細胞を提供する。いくつかの態様では、宿主細胞は、好適な条件下で培養する際に、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載の二塩基酸などの二塩基酸を生成可能である。
【0008】
本発明は、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載の二塩基酸などの二塩基酸を生成する方法であって、本発明の宿主細胞を与える段階、および好適な培地中で該宿主細胞を培養することで二塩基酸を生成する段階を含む方法を提供する。本方法は、宿主細胞および培地から前記二塩基酸を単離する段階をさらに含み得る。本方法は、二塩基酸とジアミンとを反応させてナイロンを生成する段階をさらに含み得る。あるいは、本方法は、二塩基酸とジアルコールとを反応させてポリエステルを生成する段階をさらに含み得る。
【0009】
本発明は、二塩基酸をそれから生成した宿主細胞から単離された二塩基酸、ならびに宿主細胞の微量の残渣および/または混入物を含む組成物を提供する。
【0010】
上記の局面および他の局面は、添付の図面との組み合わせで読んだ場合に、例示的態様の以下の説明から、当業者には容易に認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】市販のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン)の製造における二塩基酸を使用する各種反応を示す。二塩基酸であるアジピン酸[1]は、ナイロン[2]の生成におけるモノマーとして主に使用され、ナイロンは、[1]とヘキサン-1,6-ジアミンとの反応を通じて産生されるポリアミドである。ポリエステルは、テレフタル酸[3]とエチレングリコール(ポリエチレンテレフタレート[4]を作製する)、プロパンジオール(ポリ(1,3-プロパンジオールテレフタレート)[5]を作製する)またはブタンジオール(ポリ(1,4-ブタンジオールフタレート)[6]を作製する)などのジアルコール(ジオール)の重合を通じて形成される。
【図2】使用するモジュールの種類、およびポリケチド鎖に対する組み入れに利用する対応する前駆体を示す。ローディングモジュールをS1およびS2と称する。残りの化合物は、エクステンダーモジュールA〜Pを使用する成長ポリケチド鎖に組み入れられる構造を表す。破線は、クライゼン縮合を通じて形成されるC-C結合を示し、結合の右側の原子および破線の左側のC原子は、使用するモジュールにより決定される構造を表す。R基は、モジュールにより決定される組み入れの前に存在するアシル鎖を表す。
【図3】新規ポリアミドまたは新規ポリエステルを作製するためのスキームを示す。
【図4】派生二塩基酸を生合成するために使用する酵素PKS系の2つの例を示す。
【図5】二塩基酸の生成を確認するためのPKSの構築を示す。A. srm PKSのローディングドメインおよびモジュール1(青色)を異種TEドメイン(黒色)と組み合わせて[8]を生成する。Aにおける構築物を再操作して機能KSQドメインを除去することで[9]を生成する。略語は図9および10と同様。
【図6】ヘプタン-1,7-二酸を生成する改変ローディングドメイン、モジュール1、モジュール2およびTEドメインからなるハイブリッドPKSを示す。略語は図9および10と同様。
【図7】2-メチル-1,5-ペンタン二酸を生成する改変ローディングドメイン、モジュール1およびTEドメインからなるハイブリッドPKSを示す。A. ローディングドメインはメチルマロニル特異的ATドメイン(mmAT)を含む。B. エクステンダードメインはmmATドメインを含む。すべての他の略語は図9と同様。
【図8】PKS構築物から生成されるジケチド酸およびトリケチド酸を示すものであり、各化合物の下に所要のモジュールを示す。図示するように、すべてのPKSは改変ローディングドメインおよびエクステンダードメインを有する。略語は図9と同様。(S)および(R)は、対応するモジュールの使用により形成されるメチルまたはOH基のキラリティーを意味する。
【図9】pik PKSのドメイン組織化、および各縮合(および還元)サイクルの終わりの提案される中間体(3)の構造を示す。線状ポリペプチド(Pik AI〜AIV)を開矢印として示し、モジュールを図示し、ドメインを球として示す。色コーディングは、新生ポリケチド鎖のセグメントがプログラミングに使用するモジュールおよびドメインに対応していることを示す。略語: ACP、アシル担体タンパク質; AT、アシルトランスフェラーゼ; DH; ER、エノイルレダクターゼ; KR、β-ケトレダクターゼ; KS、β-ケトアシル-ACPシンターゼ; KSQ; 縮合活性を欠いているが脱炭酸活性を維持するKSドメイン; TE、チオエステラーゼ。
【図10】A. 酪酸を生成する、機能KSQドメイン(青色)、単一のエクステンダーモジュール(橙色)およびTEドメイン(黒色)を含むローディングドメインから構成されるハイブリッドPKS。B. ペンタン二酸を生成する、Aと同一であるが機能KSQドメインを欠いているPKS。略語は、mATがマロニル特異的ATドメインを示すことを除けば図9と同様。色スキームは、ローディングドメイン、モジュール1およびチオエステラーゼドメインが異なる源に由来し得ることを示すために使用する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明を説明する前に、本発明が、記載される特定の態様に限定されるわけではなく、したがって当然変動し得るということを理解すべきである。本明細書で使用する用語法が、特定の態様のみを記載するためのものであり、限定を意図するものではなく、これは本発明の範囲が添付の特許請求の範囲のみにより限定されるためであるということも理解すべきである。
【0013】
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限と下限との間の、文脈上別途明確な断りがない限りは下限の単位の10分の1までの各介在値も具体的に開示されるということが理解される。規定範囲内の任意の規定値または介在値とその規定範囲内の任意の他の規定値または介在値との間の各々のより小さい範囲も、本発明内に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立して、その範囲に含まれ得るかまたはその範囲から除かれ得るものであり、そのより小さい範囲に限界のうち一方が含まれるか、いずれも含まれないかまたはいずれも含まれる各範囲も、本発明内に包含されるものであり、規定範囲内の任意の具体的に除かれる限界に従属する。規定範囲が限界のうち一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界のうち一方または両方を除く範囲も本発明に含まれる。
【0014】
別途定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するものと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施および試験に使用できるが、好ましい方法および材料をここに記載する。本明細書で言及されるすべての刊行物は、その刊行物がそれに関連して引用される方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み入れられる。
【0015】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「a」、「and」および「the」は、文脈上別途明確な断りがない限り複数の参照対象を含むということに留意しなければならない。したがって、例えば「二塩基酸」に対する言及は、複数のそのような二塩基酸などを含む。
【0016】
本発明のこれらのおよび他の目的、利点および特徴は、より十分に以下に記載される本発明の詳細を読めば、当業者には明らかになるであろう。
【0017】
ポリケチドシンターゼ(PKS)
本発明は、二塩基酸を合成可能なポリケチドシンターゼ(PKS)を提供する。そのような二塩基酸としては、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載のジケチドおよびトリケチドが挙げられる。そのような二塩基酸は3個を超えるケチド単位、例えば4個、5個もしくは6個またはそれ以上のケチド単位のポリケチドであり得る。PKSは宿主細胞中に存在し得るか、または単離もしくは精製可能である。PKSは二塩基酸をインビボで(宿主細胞中で)またはインビトロで(細胞抽出物中、またはすべての必要な化学成分もしくは出発原料が与えられる場所で)合成することができる。本発明は、これらのインビボまたはインビトロの手段のいずれかを使用する、二塩基酸を生成する方法を提供する。例えば、二塩基酸[9]を合成可能なPKSは、モジュールS1およびAを含む(表2Aを参照)。例えば、二塩基酸[8]を合成可能なPKSは、モジュールS1、EおよびEを含む(表3Aを参照)。
【0018】
ポリケチドシンターゼ(PKS)は、ポリケチドを生成するクライゼン縮合反応において短鎖脂肪酸アシルCoAを使用する。スターターとしてのアセチルCoAおよびエクステンダー単位としてのマロニルCoAを利用し、かつ新生アシル鎖を生成するために単一のモジュールを反復的に使用する、脂肪酸シンターゼとは異なり、PKSは、単一段階の鎖成長を各々触媒する別々のモジュールから構成される。モジュールは組成が互いに異なり得るため、全般的には、その一部が立体特異的メチル(またはエチル)側鎖を含むいくつかの異なるスターター(例えばアセチルCoA、プロピオニルCoA)およびエクステンダーを組み入れることができる。さらに、PKSモジュールは、縮合により形成される3-カルボニルを必ずしも還元するわけではないが、それを未還元(ケトン)、部分還元(ヒドロキシル、2,3-エン)または完全還元(3-メチレン)のいずれかの状態にし得る。多くのポリケチドシンターゼは、ポリケチド合成用のスターターとしてマロニルCoAまたは[S]-2-メチルマロニルCoAを使用する。そのような場合、通常、末端カルボキシル基は、PKSの対応するローディングドメインのN-末端に存在するデカルボキシラーゼドメインにより除去される。要約すれば、α-炭素およびβ-カルボニルの構造(およびキラリティー)は、特定の各段階での成長鎖の合成において使用するPKSのモジュールにより決定される。合成におけるモジュールの使用と、生成されるポリケチドの構造との間に対応があるため、ポリケチドシンターゼの選択および遺伝子操作により、所望の構造の化合物を生成する合成をプログラムすることが可能である。したがって、ジカルボン酸を生成するためのPKSのプログラミングは、ローディングモジュールからのN-末端デカルボキシラーゼドメインの直接除去により達成することができる。図2は、対象となる範囲の化合物を生じさせるために対応する新生アシル(ポリケチド)鎖に組み入れるための、各種モジュール、および各モジュールが利用する前駆体を示す。表1は各モジュール用のPKS源を示す。各PKS源は当業者に周知であり、容易に入手可能である。さらに、表1で教示する各モジュールについて、使用可能な他のPKSからの他のモジュールが存在し得る。
【0019】
(表1)各種モジュールのPKS源

【0020】
すべてのエクステンダーモジュールは、エクステンダーと成長ポリケチド鎖との間の脱炭酸縮合段階を実行する、β-アシルACPシンターゼ(一般にケトシンターゼまたはKSと呼ぶ)ドメインと、成長アシル鎖を保有しかつβ-カルボニルの還元用の同族還元ドメインに対してそれを提示する、アシル担体タンパク質(ACP)ドメインとを保有する。モジュールは組成が互いに異なり得るため、その一部が立体特異的側鎖(例えばメチル、エチル、プロピレン)を含むいくつかの異なるスターターおよびエクステンダー単位を組み入れることができる。各モジュールのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメインは、組み入れられるエクステンダー単位(例えばマロニルCoA、メチルマロニルCoAなど)を決定する。さらに、図2に示すように、PKSモジュールは、縮合により形成されるβ-カルボニルを必ずしも還元するわけではないが、それを未還元(ケトン)、部分還元(ヒドロキシル、2,3-エン)または完全還元(3-メチレン)のいずれかの状態にし得る。ケトレダクターゼ(KR)ドメインはケトンをOH官能基に還元し(立体特異的に)、デヒドラターゼ(DH)ドメインはαおよびβ炭素から水を除去してα,βトランス二重結合にし、エノイルレダクターゼ(ER)ドメインはこの二重結合をβ-メチレン中心に還元し、したがって、β-カルボニルの還元状態は、対応するモジュール内の機能還元ドメインの存在により決定される。それほど一般的ではないが、モジュールがさらなるC-メチル化ドメイン(エポチロンと同様にさらなるα-メチル側鎖を与える)を含むことがわかっている。したがって、PKSの構成は、組み入れられるスターターおよびエクステンダーアシル単位の選択、各縮合段階での還元の程度、および鎖に付加される単位の総数を決定する。自然界に見られるポリケチドの構造の多種多様性は、PKSの組成の多様性に起因する。抗生物質ピクロマイシンのアグリコン成分(ナルボノリド)のPKS指向性合成を図9に示す。pik PKSは6つのモジュールを使用し(ローディングドメインはモジュール1のN-末端にある)、ローディングドメインならびにモジュール1、3、4、5および6は前駆体[S]-2-メチルマロニルCoAを使用し、モジュール2はマロニルCoAを使用する。(しかし、組み入れ後に、未だ完全には理解されていないプロセスを通じて、側鎖のうち3つが反転する。)各縮合サイクル後の様々な還元度は、各モジュールにおける対応する還元ドメインの存在により決定される。PKSの生成物の環状の性質は、ACP6における末端チオエステル結合上で第1の縮合サイクル後に産生されるOHの、TEドメインが触媒する求核攻撃が理由である。したがって、ポリケチドナルボノリドの構造はpik PKSによりプログラムされる。
【0021】
PKSローディングドメインおよび二塩基酸形成
実質的にすべてのポリケチドが短鎖カルボン酸(例えばアセチルCoAまたはプロピオニルCoA)を出発原料とするようであるが、実際は、ポリケチドシンターゼの大部分はマロニルCoAまたは[S]-2-メチルマロニルCoAをポリケチド合成用のスターターとして使用する。そのような場合、pik PKSについて図9に示すように、アシル鎖成長の始まりの末端カルボキシル基は、KSQと称する、PKSの対応するローディングドメインのN-末端に存在するデカルボキシラーゼドメインにより除去される。通常、合成の終了およびPKSからのポリケチド鎖の放出により、遊離カルボン酸(鎖放出のアクセプターが水である場合)、またはより一般的にはラクトン(アクセプターが鎖の内側のOH基である場合)が産生される。鎖成長の開始時にカルボキシル基が除去されないことにより、二塩基酸が産生されると考えられる(ラクトン化の機会が妨げられる場合)。これは、PKSのローディングドメインからのKSQドメインの除去により達成され得る。
【0022】
一例を図10に示す。図10は、ローディングドメインと、β-カルボニル基の完全還元が可能な単一のエクステンダーモジュールと、TEドメインとから構成される単純なPKSを示し、ATドメインはマロニルCoAをスターターおよびエクステンダー単位として利用する。ローディングドメインは、マロニルCoAを組み入れるがそれを脱炭酸して、2つの炭素アセチル-ACP部分にする。モジュール1による第2のマロニルCoAとの脱炭酸縮合、および産生されるβ-カルボニル基の完全還元、それに続く鎖放出により、4炭素分子であるM-酪酸が産生される。構築されたPKSのKSQドメインを除去する場合、ローディングドメインが生成するマロニル-ACP部分は脱炭酸されず、引き続く縮合、還元および鎖終止により5炭素二塩基酸であるペンタン-1,5-二酸[7]が放出される。マロニルCoAの組み入れおよび完全β-カルボニル還元が可能な第2のエクステンダーモジュールをKSQ欠失PKSに加える場合、得られる化合物は7炭素二塩基酸(ヘプタン-1,7-二酸)である。したがって、本明細書に記載のPKS操作によって6炭素直鎖二塩基酸(アジピン酸)を作製することはできない。しかし、以下に記載のように、PKSを操作して6炭素分岐鎖(2-メチルペンタン)二塩基酸を作製することは可能である。
【0023】
ポリケチドシンターゼの操作
本発明は、本発明のポリケチドシンターゼ(PKS)をコードする組換え核酸を提供する。組換え核酸は二本鎖もしくは一本鎖DNAまたはRNAであり得る。組換え核酸は本発明のPKSのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードすることができる。組換え核酸は、好適な宿主細胞中でORFを転写するためのプロモーター配列も含み得る。組換え核酸は、組換え核酸が宿主細胞中で安定して複製されるために十分な配列も含み得る。組換え核酸は、宿主細胞中での安定した維持が可能なレプリコンであり得る。いくつかの態様では、レプリコンはプラスミドである。本発明は、本発明の組換え核酸を含むベクターまたは発現ベクターも提供する。
【0024】
種々の組換えベクターを本発明の局面の実践において利用できることは、当業者には明らかであろう。本明細書で使用する「ベクター」とは、発現または複製のいずれかのために組換え核酸を細胞に導入するために使用するポリヌクレオチドエレメントを意味する。そのような媒体の選択および使用は当技術分野において日常的である。「発現ベクター」は、プロモーター領域などの制御配列と操作可能に連結されているDNAを発現可能なベクターを含む。したがって、発現ベクターとは、適切な宿主細胞に導入される時点でクローン化DNAを発現させる、プラスミド、ファージ、組換えウイルスまたは他のベクターなどの組換えDNAまたはRNA構築物を意味する。適切な発現ベクターは当業者に周知であり、真核細胞および/もしくは原核細胞中で複製可能なもの、ならびにエピソームのままであるもの、または宿主細胞ゲノムに組み込まれるものが挙げられる。
【0025】
コード配列の発現を適切な宿主中で行うことができるようにして、得られるコード配列に操作可能に連結されている調節配列を含むように、ベクターを選択することができる。好適な調節配列としては、真核および原核宿主細胞において機能するものが挙げられる。派生PKSをコードするPKS遺伝子を得るために使用されるクローニングベクターが、コード化ヌクレオチド配列に操作可能に連結されている発現用の調節配列を欠いている場合、このヌクレオチド配列を適切な発現ベクターに挿入する。これは個々に行うか、または宿主ベクターに挿入可能な単離されたコード化ヌクレオチド配列のプールを使用して行うことができ、得られたベクターは宿主細胞に形質転換または形質移入され、得られた細胞は個々のコロニーにプレーティングされる。各種微生物の単一の細胞培養用の好適な調節配列は当技術分野で周知である。酵母中での発現用の調節系は広範に利用可能であり、日常的に使用されている。調節エレメントとしては、オペレーター配列を任意的に含むプロモーター、および、リボソーム結合部位などの宿主の性質に依存する他のエレメントが挙げられる。原核宿主に特に有用なプロモーターとしては、I型または芳香族(II型)PKS遺伝子クラスターからのものを含む、ポリケチドを二次代謝物として生成させるPKS遺伝子クラスターからのものが挙げられる。例としてはactプロモーター、tcmプロモーター、スピラマイシンプロモーターなどがある。しかし、ガラクトース、ラクトース(lac)およびマルトースなどの糖代謝酵素に由来するものなどの他の細菌プロモーターも有用である。さらなる例としては、トリプトファン(trp)、β-ラクタマーゼ(bla)、バクテリオファージλPL、およびT5などの生合成酵素に由来するプロモーターが挙げられる。さらに、tacプロモーター(米国特許第4,551,433号; 参照により本明細書に組み入れられる)などの合成プロモーターを使用できる。
【0026】
特に有用な調節配列は、それ自体または好適な制御系と共に、栄養菌糸体において成長期から定常期への移行中に発現を活性化するものであるということに留意されたい。これらの種類の例示的調節配列、ベクターおよび宿主細胞としては、PCT公開第WO 96/40968号に記載の修飾ストレプトマイセス・セリカラー(S. coelicolor)CH999およびベクター、ならびにストレプトマイセス・リビダンス(S. lividans)の同様の菌株が挙げられる。いずれも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,672,491号; 第5,830,750号; 第5,843,718号; および第6,177,262号を参照。宿主細胞の成長に対してPKS配列の発現の制御を可能にする他の制御配列も望ましいことがある。制御配列は当業者に公知であり、例としては、制御化合物の存在を含む化学的または物理的刺激に応答して遺伝子の発現を開始または停止させるものが挙げられる。他の種類の制御エレメント、例えばエンハンサー配列もベクター中に存在し得る。
【0027】
選択可能なマーカーも組換え発現ベクターに含まれ得る。形質転換細胞系の選択に有用な種々のマーカーであって、細胞を適切な選択培地中で成長させる際にその発現が形質転換細胞に選択可能な表現型を与える遺伝子を一般に含むマーカーは公知である。そのようなマーカーとしては例えば、プラスミドに抗生物質耐性または抗生物質感受性を与える遺伝子が挙げられる。
【0028】
各種PKSヌクレオチド配列またはそのような配列の混合物を1つまたは複数の組換えベクターに、個々のカセットとして、別の調節エレメントと共にまたは単一のプロモーターの調節下で、クローニングすることができる。PKSサブユニットまたは成分は、他のPKSサブユニットの容易な削除および挿入を可能にするフランキング制限酵素部位を含み得る。そのような制限酵素部位の設計は当業者に公知であり、部位指向性変異誘発およびPCRなどの先に記載の技術を使用して達成することができる。本発明の組換えベクターを好適な宿主に導入するための方法は当業者に公知であり、典型的にはCaCl2、または二価カチオンなどの他の作用物質の使用、リポフェクション、DMSO、プロトプラスト形質転換、抱合、および電気穿孔が挙げられる。
【0029】
本発明は、本発明の組換え核酸および/またはPKSのいずれかを含む宿主細胞を提供する。いくつかの態様では、宿主細胞は、培養する際に、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載の二塩基酸を生成可能である。宿主細胞は真核細胞または原核細胞であり得る。好適な真核細胞としては、サッカロミセス(Saccharomyces)またはシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属からのものなどの酵母細胞が挙げられる。サッカロミセス属からの好適な種は出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)である。シゾサッカロミセス属からの好適な種は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)である。好適な原核細胞としては大腸菌(Escherichia coli)またはストレプトマイセス(Streptomyces)種が挙げられる。
【0030】
検査した30種を超えるPKSについて、生合成におけるモジュールの使用と生成されるポリケチドの構造との間の対応は、PKSのタンパク質配列と対応する遺伝子のDNA配列との両方のレベルで完全に理解される。ポリケチド構造に対するモジュールのプログラミングは配列決定により同定することができる。所望のモジュールに対応するDNA配列をクローニング(または合成)し、完全に機能する単位としてそれらを大腸菌(B. A. Pfeifer, S. J. Admiraal, H. Gramajo, D. E. Cane, C. Khosla, Science 291, 1790 (2001); 参照により本明細書に組み入れられる)およびストレプトマイセス(C. M. Kao, L. Katz, C. Khosla, Science 265, 509 (1994); 参照により本明細書に組み入れられる)などの異種宿主、そうでなければ非ポリケチド生成宿主に移動させることが可能である。ポリケチド生合成に使用されるさらなる遺伝子も同定された。ポリケチド生成宿主に一般に存在する、ACPドメインの4-ホスホパンテテイン補助因子を移動させるホスホパンテテイン:タンパク質トランスフェラーゼ(PPTアーゼ)を決定する遺伝子が、大腸菌および他の宿主にクローニングされた(K. J. Weissman, H. Hong, M. Oliynyk, A. P. Siskos, P. F. Leadlay, Chembiochem 5, 116 (2004); 参照により本明細書に組み入れられる)。さらに、メチルマロニルCoAおよびエチルマロニルCoAなどの前駆体の生成用の遺伝子も同定され、異種宿主にクローニングされた。単一のPKSの遺伝子操作、または2つ以上の源からのモジュールから構成されるハイブリッドPKSの構築のいずれかにより所望の構造の化合物を生成するためにポリケチド生合成を再プログラムすることも可能である(K. J. Weissman, H. Hong, M. Oliynyk, A. P. Siskos, P. F. Leadlay, Chembiochem 5, 116 (2004); 参照により本明細書に組み入れられる)。したがって、図10に示すように、所望の構造の二塩基酸を生成するためのPKSのプログラミングは、ローディングモジュールからのN-末端デカルボキシラーゼドメインの直接除去、それに続く改変ローディングドメインと1つまたは複数のエクステンダーモジュールとの融合により達成することができる。
【0031】
本発明のPKSを作製するためにモジュラーPKS遺伝子を操作するための組換え方法は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,672,491号; 第5,843,718号; 第5,830,750号; 第5,712,146号; および第6,303,342号; ならびにPCT公開第WO 98/49315号および第WO 97/02358号に記載されている。ポリケチドの構造を操作して新規ポリケチドを生成できることを実証するために、いくつかの遺伝子操作戦略が各種PKSと共に使用された(上記で参考文献として挙げた特許公開、ならびにHutchinson, 1998, Curr Opin Microbiol. 1:319-329およびBaltz, 1998, Trends Microbiol. 6:76-83を参照; 参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの態様では、機能PKSタンパク質中にポリペプチドの集合体を指向させるインターポリペプチドリンカーを有するポリペプチド上に、ハイブリッドPKSの成分が配置されており、したがってPKSは、天然PKSで観察されるものと同一の、ポリペプチド内のモジュールの配置を有する必要がない。好適な、ポリペプチドを連結するポリペプチド間リンカー、およびポリペプチド内のモジュールを連結するポリペプチド内リンカーは、参照により本明細書に組み入れられるPCT公開第WO 00/47724号に記載されている。
【0032】
遺伝子構築物は、ローディングモジュールのKSQドメインの不活性化または欠失を使用し、それによりペンダント酸官能基が保持される。ローディングドメインを1つまたは複数のエクステンダーモジュールに融合させる。最終モジュールをチオエステラーゼ(TE)ドメインに融合させる。例えば、ストレプトマイセス・アンボファシエンス(Streptomyces ambofaciens)中のスピラマイシンPKSからのローディングドメイン(LM)を、ストレプトマイセス・ノールセイ(Streptomyces noursei)からのニスタチンPKSのモジュール5(nysMod5)およびサッカロポリスポラ・エリスラエア(Saccharopolyspora erythraea)からのエリスロマイシンPKSからのTEドメイン(eryTE)に融合させることで、ペンタン二酸(グルタル酸)を生成すると考えられるハイブリッドポリケチドシンターゼ酵素を得ることができる(図4)。nysMod5とeryTEとの間に粘液細菌(Sorangium cellulosum)からのエポチロンPKSからのモジュール5(epoMod5)を挿入することでヘプタン二酸が得られると考えられる(図4)。
【0033】
ery TEが本発明者らの系において遊離酸を放出可能であることを示唆する刊行物が存在する。これはインビトロ分析であるが、この特性はインビトロ系に移動すると予測される。考慮される別のオプションは、ストレプトマイセス・シンナモネンシス(Streptomyces cinnamonensis)におけるモネンシン経路からのチオエステラーゼMonCIIの使用である。この酵素は、PKSメガシンターゼからの直鎖遊離酸の放出に結びつけられた。
【0034】
解明された多数のポリケチド経路は、表2および3に示すこれらの二塩基酸および多数の誘導体を生成するための多数の異なるオプションを与える。生成物は大きさおよび官能基が大きく異なり得るが、いずれも実質的に同一の生合成の戦略を使用する。非同族酵素パートナー間の正確な界面はケースバイケースで決定される。対象となるタンパク質からのACP-リンカー-KSおよびACP-リンカー-TE領域を整列させて、ハイブリッドシンターゼの最も分裂的でない融合点を検査する。遺伝子の「瘢痕」の組み入れを排除するために、遺伝子構築は、配列および核酸連結と無関係なクローニング(SLIC)を使用する。
【0035】
本発明のPKSの作製に使用可能なPKS配列の源の、限定ではなく例示のための部分的リストは、アンブルチシン(Ambruticin)(米国特許第7,332,576号); エバーメクチン(米国特許第5,252,474号; MacNeil et al., 1993, Industrial Microorganisms: Basic and Applied Molecular Genetics, Baltz, Hegeman, & Skatrud, eds. (ASM), pp. 245-256; MacNeil et al., 1992, Gene 115: 119-25); カンジシジン(FRO008)(Hu et al., 1994, Mol. Microbiol. 14: 163-72); エポチロン(米国特許第6,303,342号); エリスロマイシン(WO 93/13663号; 米国特許第5,824,513号; Donadio et al., 1991, Science 252:675-79; Cortes et al., 1990, Nature 348:176-8); FK506 (Motamedi et al., 1998, Eur. J. Biochem. 256:528-34; Motamedi et al., 1997, Eur. J. Biochem. 244:74-80); FK520またはアスコマイシン(米国特許第6,503,737号; Nielsen et al., 1991, Biochem. 30:5789-96も参照); ジェランゴリド(Jerangolid)(米国特許第7,285,405号); レプトマイシン(米国特許7,288,396号); ロバスタチン(米国特許第5,744,350号); ネマデクチン(Nemadectin)(MacNeil et al., 1993, 前掲論文); ニッダマイシン(Niddamycin)(Kakavas et al., 1997, J. Bacteriol. 179:7515-22); オレアンドマイシン(Swan et al., 1994, Mol. Gen. Genet. 242:358-62; 米国特許第6,388,099号; Olano et al., 1998, Mol. Gen. Genet. 259:299-308); ペデリン(Pederin)(PCT公開第WO 2003/044186号); ピクロマイシン(Xue et al., 2000, Gene 245:203-211); ピマリシン(PCT公開第WO 2000/077222号); プラテノリド(Platenolide)(欧州特許出願第791,656号); ラパマイシン(Schwecke et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7839-43); Aparicio et al., 1996, Gene 169:9-16); リファマイシン(August et al., 1998, Chemistry & Biology, 5: 69-79); ソラフェン(米国特許第5,716,849号; Schupp et al., 1995, J. Bacteriology 177: 3673-79); スピラマイシン(米国特許第5,098,837号); タイロシン(EP 0 791,655号; Kuhstoss et al., 1996, Gene 183:231-36; 米国特許第5,876,991号)を含む。さらなる好適なPKSコード配列は、当業者が容易に入手可能であるか、または、未だ発見および特徴づけされていないが当業者が入手可能であろう(例えばGenBankを参照することで)。引用される参考文献の各々は参照により本明細書に具体的かつ個々に組み入れられる。
【0036】
複合ポリケチドは、細菌(主に放線菌ファミリー; 例えばストレプトマイセスのメンバー)、真菌および植物において合成される天然物の大きいクラスを含む。ポリケチドは、抗生物質(例えばエリスロマイシン、タイロシン)、抗真菌薬(例えばニスタチン)、抗がん剤(例えばエポチロン)、免疫抑制薬(例えばラパマイシン)などの多数の臨床的に重要な薬物のアグリコン成分を形成する。これらの化合物は、それらの構造またはそれらの作用様式のいずれも互いに似ていないが、ポリケチドシンターゼと称する酵素の群が行うそれらの生合成について共通の基礎を共有する。
【0037】
PKSが生成する二塩基酸および三塩基酸
本発明は、表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載の二塩基酸などの二塩基酸を生成する方法であって、本発明の宿主細胞を与える段階、および好適な培地中で該宿主細胞を培養することで二塩基酸を生成する段階を含む方法を提供する。本方法は、宿主細胞および培地から前記二塩基酸を単離する段階をさらに含み得る。本方法は、二塩基酸とジアミンとを反応させてナイロンを生成する段階をさらに含み得る。好適なジアミンはヘキサン-1,6-ジアミンなどのアルカンジアミンである。あるいは、本方法は、二塩基酸とジアルコールとを反応させてポリエステルを生成する段階をさらに含み得る。好適なジアルコールは、エチレングリコール、プロパンジオールまたはブタンジオールなどのアルカンジオールである。種々の、PKS遺伝子の異種発現のための方法、ならびにこれらの遺伝子の発現およびポリケチドの生成に好適な宿主細胞は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,843,718号; 第5,830,750号および第6,262,340号; WO 01/31035号、WO 01/27306号およびWO 02/068613号; ならびに米国特許出願公開第20020192767号および第20020045220号に例えば記載されている。
【0038】
本発明は、二塩基酸をそれから生成した宿主細胞から単離された二塩基酸、ならびに宿主細胞の微量の残渣および/または混入物を含む組成物を提供する。
【0039】
アジピン酸は、側鎖を有さず、したがってキラル中心を有さない、6炭素鎖完全還元対称脂肪族化合物である。奇数鎖長ジカルボキシレートのみをPKSは産生することができる。5員鎖は、スターターアシル単位および2つのエクステンダーアシル単位の縮合により形成される。化合物の還元状態にかかわらず、これらは設計されたジケチドであり、それらの合成にはローディングモジュールおよび1つのエクステンダーモジュールを必要とする。7員鎖であるトリケチドは、スターターおよび2つのエクステンダー単位の縮合により形成され、ローディングモジュールおよび2つのエクステンダーモジュールを使用する。使用するモジュールに応じて、側鎖(メチル、アリル、ヒドロキシル)を組み入れるかまたは形成することができる。プログラムされたPKSにより生成可能なアジピン酸に構造が最も類似している、非キラル中心を有する対称化合物は、ジケチドn-ペンタン二酸(グルタル酸)[7]およびトリケチドn-ヘプタン二酸[8]である。これらの化合物は、ローディングモジュールS1およびエクステンダーモジュールE[7]、またはS1および2つのEエクステンダーモジュール[8]から構成されるポリケチドシンターゼの構築を通じて生成される(図2)。

図3のスキームに示すように、これらの分子をアジピン酸または他の二塩基酸の代替物として使用して、新規ポリアミドまたは新規ポリエステルを作製することができる。PKSがジケチドおよびトリケチドとして生成するすべての他の二塩基酸は非対称である。それらは1つもしくは複数の二重結合もしくはヒドロキシル基および/または1つもしくは複数のメチル側鎖を含み、したがって重合時に化合物の混合物を生じさせる。現在、非対称混合物は、種々のプラスチックの製造に使用される接着剤組成物の生成における低プロファイル接着剤として実質的な用途を有する。
【0040】
S1またはS2を出発原料とし、PKSを構築するために図2に示すエクステンダーモジュールのいずれかを使用することで、32種のジケチド二塩基酸および512種のトリケチド二塩基酸を生成することができる。立体化学を考慮すれば、各々は化学的に別々で独自のものであると考えられる。化合物[7]を除きすべて非対称であると考えられる。主鎖の剛性は二重結合および側鎖の存在により強化される。可能なジケチドを表2A〜Fに示し、可能なトリケチドを表3A〜KKに示す。
【0041】
(表2)図2に示すモジュールの使用により生成される可能なジケチド二塩基酸

【0042】
(表3)図2に示すモジュールの使用により生成される可能なトリケチド二塩基酸








【0043】
ポリケチドシンターゼからのより長鎖の二塩基酸
ポリケチド主鎖は、生合成で使用する各モジュールについて炭素原子2個増加する。図2に示すスターターおよびエクステンダー分子を使用して、ハイブリッドPKSにより生成することができる可能な二塩基酸の数を表4に示す。各クラスは単一の対称分子(完全還元二塩基酸)のみを含むと考えられ、すべての他の分子は非対称であると考えられる。
【0044】
(表4)図2に示すモジュールから可能なポリケチドの数

【0045】
ここまで本発明を説明してきたが、限定ではなく例示によって本発明を説明するために以下の実施例を提示する。
【実施例】
【0046】
実施例1
二塩基酸の生成
ポリケチドシンターゼを構築し、これらのシンターゼを大腸菌(または別の容易に操作される宿主)に導入することができ、それにより、この周知の微生物は、再生可能な糖(例えばグルコース)の源から、油または他の非再生可能供給原料から作製される二塩基酸を代替する可能性がある任意の数の二塩基酸を生成することができる。
【0047】
大腸菌、出芽酵母またはストレプトマイセス中で以下の二塩基酸を生成することができる: ペンタン-1,5-二酸; ヘプタン-1,7-二酸; 2-メチルペンタン-1,5-二酸。
【0048】
上記で列挙した3つの化合物は、2つの「非天然」接合部を含むハイブリッドPKSの構築、およびローディングドメインのKSQセグメントの除去または不活性化を必要とする。「天然」PKSを修飾して二塩基酸を生成することができる。図5Aに示すように、スピラマイシン(srm)PKSのローディングドメインおよびモジュール1を含むDNAセグメントを大腸菌ベクターpPRO18 (S. K. Lee, J. D. Keasling, Appl Environ Microbiol 71, 6856 (2005); 参照により本明細書に組み入れられる)またはpET28Bにクローニングし、モジュール1の下流にある、モネンシンポリケチド経路からのTE機能をコードするery PKSまたはmonCII遺伝子からのTEドメインを含むDNAセグメント(B. M. Harvey et al., Chembiochem 7, 1435 (2006); 参照により本明細書に組み入れられる)を導入する。「瘢痕」(接合点での改変配列)が生じないように、SLIC(配列および核酸連結と無関係なクローニング)スキームを使用してセグメントを連結させる(M. Z. Li, S. J. Elledge, Nat Methods 4, 251 (2007); 参照により本明細書に組み入れられる)。商業的に得ることができる真正の標準物質に対するLCMS分析を使用して、宿主(大腸菌)が(3-ヒドロキシブチレート)を生成することを示すことで、この構築が正確であることを確認する。図5Aに示す構築物を再クローニングまたはサブクローニングして、図5Bに示すものと同一のベクターにおいて、KSQドメインに対応するセグメントの全体または大部分を排除し(または、脱炭酸官能基の活性部位の部位指向性突然変異誘発を使用し)、単離および精製用のEl-Jaberらの手順(N. El-Jaber et al., J Nat Prod 66, 722 (2003); 参照により本明細書に組み入れられる)に従って、二塩基酸[19]の生成用の各種構築物を試験する。構造をNMR分析で確認する。あるいは、大腸菌での[19]の生成に加えて、図5Aの構築物および図5Bの各種構築物を、ストレプトマイセスベクターpSET152(組み込み型)およびpRJ446(自律増殖型)の誘導体にサブクローニングし、それらを各種ストレプトマイセス宿主(例えばストレプトマイセス・セリカラー、ストレプトマイセス・リビダンス、ストレプトマイセス・フラディエ(S. fradiae))に導入して、これらの構築物において[19]を生成する。さらに、必要であれば、他のPKS系(例えばオリゴマイシン、ピマリシン(primaricin))からのローディングドメイン-モジュール1セグメントを使用して[19]を(3-立体異性体として)産生することで、二塩基酸の生成を実証することができる。これらのアプローチにより、期待される二塩基酸が得られるはずである。本明細書に記載のPKS遺伝子、またはそれらを保有する宿主は、American Type Culture Collection (ATCC)デポジトリから入手可能である。
【0049】
実施例2
ペンタン-1,5,-二酸[7]の生成
同様の実験経路(実施例1に記載の)に従って[7]を生成することができる。マロネートを利用するローディングドメインを、マロネート特異的ATドメイン(mAT)と還元ドメインの完全セット(DH、ER、KR)との両方を含むエクステンダーモジュールに接続することでβ-メチレン中心(図10)を与えるという天然PKS系は存在しないため、「ハイブリッド」を構築しなければならない。種々の遺伝子構築において二塩基酸を与える実施例1の再構築ローディングドメインを使用する。これらとしては、ストレプトマイセス・ノールセイATCC 11455からのニスタチンPKSからのモジュール5もしくはモジュール6、またはストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)からのオリゴマイシンPKSからのモジュール3を含むDNAセグメントに対する融合、または、所要のβ-メチレン中心を生成する完全還元を可能にするために、種々のモジュールからのDHおよびERドメインをsrm PKSのモジュール1に加えることが挙げられる。あるいは、単一のPKSからのモジュール1のKSドメインを通じて、モジュール2のAT-ACPセグメントに融合しているローディングドメインを含むセグメントを使用することもできる。これにより、モジュール1のローディングドメインACPとKSドメインとの間の同族関係が維持され、かつ適切なモジュール間の間隔が維持される。第3のアプローチは、モジュール5および6を直接コードするニスタチンPKSのセグメントを使用するというものであり、モジュール5のKSドメインが除去または不活性化されることで、モジュール5がローディングドメインとして役立つことが可能になる。(還元ドメインの存在は、モジュール1に対する後続の縮合におけるその使用には干渉しないはずである。)これらの構築物の各々を、実施例1に記載のようにTEドメインに付着させ、適切なベクターおよび宿主内に置いた後、[7]の生成に関する試験に使用する。本明細書に記載のPKS遺伝子、またはそれらを保有する宿主は、ATCCデポジトリから入手可能である。
【0050】
実施例3
ヘプタン-1,7-二酸[10]の生成
[8]の生成は、第2のエクステンダーモジュールを加えてトリケチド二塩基酸を生成することを必要とする。[7]を生成するために必要である最適な構築物に、モジュール1とTEドメインとの間のmATドメインと還元ドメインの完全セットとを含むさらなるモジュールを加えて、図6に示すハイブリッドPKSを生成する。
【0051】
実施例4
2-メチルペンタン-1,5-二酸[11]の生成
図7に示すように、2つの代替戦略を使用して[22]を生成することができる。ハイブリッドPKSは、ローディングドメイン(図7A)またはエクステンダードメイン(図7B)のいずれかにおいてメチルマロニル特異的ATドメイン(mmAT)を使用することができる。pik PKSのローディングドメインおよびモジュール4(図5)はいずれもmmATドメインを含み、(対応するメチル側鎖の同一のキラリティーを生じさせ、[S]-2-メチル-および[S]-3-メチルペンタン-1,5-二酸は同一である)。反対のキラリティーはモジュールの選択により得ることができる。大腸菌では、プロピオニバクテリウム・シェルマニ(Propionibacterium shermanii)からの遺伝子mutAの導入により、高レベルの[2S]-メチルマロニルCoAをスクシニルCoAから生成することができる(L. C. Dayem et al., Biochemistry 41, 5193 (2002); 参照により本明細書に組み入れられる)。mutAを発現する大腸菌株は周知であり、容易に入手可能である。
【0052】
実施例5
1g/lでのペンタン-1,5-二酸の生成
同一の構築の基礎を使用しかつ両方の構築物を使用する、[7]およびその対応物n-酪酸[6]の生成の力価を決定する。n-酪酸の生成と[7]の生成との間の大きな差は、修飾ローディングドメインが最適な利用を与えないこと、またはポリケチドの前端のカルボキシル基がPKSを通じた流動を阻害することのいずれかを示唆すると考えられる。このことを発現低下の根拠として排除するために、構築物の当初の設計におけるmRNA転写物の二次構造を点検する。KSQドメインを不活性化しかつ力価の増加を目指すために、ローディングドメインのいくつかの再構築を試みることができる。さらに、[7]を生成する菌株のPKS構築物をインビトロで突然変異誘発し、DNAを宿主に再導入し、力価の増加について数百の独立した単離物を試験することができる。
【0053】
初期評価がn-酪酸および[7]の力価の有意な差を示さない場合、力価の限界は、宿主内のPKS DNAの発現、PKSタンパク質の代謝回転、または基質の供給に関与する要因による。'OMICSアプローチを使用して限界の基礎を理解することができる(すなわち転写物、タンパク質および代謝物の分析)。限界が発見されれば、それを修復する(例えばプロモーターを変更する、分解酵素を不活性化する、宿主を変更する、分岐経路を排除するなど)ために必要な段階を行うことができる。
【0054】
実施例6
さらなる二塩基酸の生成
新生ポリケチド鎖に組み入れられる構造的に異なる2炭素単位を与える、12種を超えるエクステンダーモジュールが知られている。差異は、α-メチル炭素の側鎖(H、[R]-メチル、[S]-メチル、[S]-エチル、[S]-プロピレンなど)およびβ-カルボニルの還元度(ケトン、[R]-OH、[S]-OH、エン、メチレン)に由来する。マロニルCoAまたはメチルマロニルCoAのいずれかをスターターとして使用して、12種を超えるジケチド二塩基酸および250種を超えるトリケチド二塩基酸を作製することができる。最も容易に入手可能なエクステンダーモジュールを使用して(例えば、モジュールが既にクローニングされかつ別の用途で使用され、ここで再利用可能である場合)、6〜10種の二塩基酸または三塩基酸を生成することができる。図8に示す化合物[10、30、37、117、165、483]は、作製可能な分子およびそれらの構築に必要なモジュールの例を表す。ジケチド二塩基酸およびトリケチド二塩基酸のさらなる例は、表2A〜Fおよび表3A〜KKに教示されていることがわかる。
【0055】
本発明をその具体的な態様を参照して説明してきたが、様々な変更を行うことができること、および本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく等価物を置き換えることができることを、当業者は理解すべきである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセスの段階を本発明の目的、精神および範囲に適応させるために、多くの修正を行うことができる。すべてのそのような修正は、本明細書に添付の特許請求の範囲の範囲内であるように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸(二塩基酸)を合成可能なポリケチドシンターゼ(PKS)。
【請求項2】
二塩基酸が1〜10個のケチド単位を含む、請求項1記載のPKS。
【請求項3】
二塩基酸が1〜6個のケチド単位を含む、請求項2記載のPKS。
【請求項4】
二塩基酸が1〜3個のケチド単位を含む、請求項3記載のPKS。
【請求項5】
二塩基酸が表2A〜Fおよび表3A〜KKに記載のものである、請求項4記載のPKS。
【請求項6】
請求項1〜5記載のポリケチドシンターゼ(PKS)をコードする組換え核酸。
【請求項7】
請求項6記載の組換え核酸を含むベクターまたは発現ベクター。
【請求項8】
請求項6記載の組換え核酸を含む宿主細胞。
【請求項9】
請求項1〜5記載のPKSを含む宿主細胞。
【請求項10】
請求項7記載のベクターまたは発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
真核細胞である、請求項8〜10記載の宿主細胞。
【請求項12】
サッカロミセス(Saccharomyces)またはシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属のものである、請求項11記載の宿主細胞。
【請求項13】
原核細胞である、請求項8〜10記載の宿主細胞。
【請求項14】
酵母細胞を含む好適な真核細胞、例えばエシェリキア(Escherichia)またはストレプトマイセス(Streptomyces)属からのものである、請求項13記載の宿主細胞。
【請求項15】
(a) 請求項8〜10記載の宿主細胞を与える段階、および(b) 好適な培地中で該宿主細胞を培養することで二塩基酸を生成する段階を含む、二塩基酸を生成する方法。
【請求項16】
(c) 宿主細胞および培地から前記二塩基酸を単離する段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
(d) 二塩基酸とジアミンとを反応させてナイロンを生成する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
(d) 二塩基酸とジアルコールとを反応させてポリエステルを生成する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
請求項16記載の方法を使用する、単離された二塩基酸および宿主細胞の微量の残渣または混入物を含む組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公表番号】特表2011−516045(P2011−516045A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−502134(P2011−502134)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/038831
【国際公開番号】WO2009/121066
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】