説明

ポリジアルキルポリシロキサン基、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、それを含有する硬化性組成物及び硬化膜

【課題】得られる硬化膜に優れた透明性、防汚性、特に油性マーカー拭き取り性、及び耐擦傷性を付与することができる化合物及び硬化性組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示される化合物及びそれを含有する硬化性組成物。


[式(1)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基、Rは置換基を有していてもよい2価の脂肪族基、脂環族基又は芳香族基、Rは単結合、メチレン基又はエチレン基、R及びRはフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基、Rは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基、Rは置換基を有していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよいp+1価の有機基、mは10〜100の整数、nは5〜50の整数、pは1又は2である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリジアルキルポリシロキサン基、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物、それを含有する硬化性組成物及び硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コ−ティング材及び反射防止膜用コート材として、優れた塗工性を有し、かつ各種基材の表面に、硬度、耐擦傷性、防汚性、耐摩耗性、表面滑り性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性及び塗膜面の外観のいずれにも優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0003】
このような要請を満たすため、種々の組成物が提案されているが、硬化性組成物として優れた塗工性を有し、硬化膜とした場合に、高硬度及び耐擦傷性を有し、透明性に優れ、さらに防汚性にも優れるという特性を備えたものはまだ得られていないのが現状である。
防汚性を付与する方法として、例えば、特許文献1に、(メタ)アクリロイル基を有するポリシロキサンを配合した硬化性組成物が記載されているが、油性マーカー拭き取り性の観点からはさらに改良の余地があった。
【0004】
特許文献2は、反射防止膜表面の滑り性を改善でき、かつ非フッ素系の汎用溶剤に可溶で、薄膜形成の容易な反射防止膜形成用組成物を開示している。この反射防止膜形成用組成物は、反応性表面改質剤(I)及び反射防止膜材料(II)からなる組成物であって、そのうち、反応性表面改質剤(I)が、(A)ジイソシアネートを3量体化させたトリイソシアネートと(B)少なくとも2種の活性水素含有化合物との反応生成物からなる反応性基含有組成物であり、成分(B)が、(B−1)少なくとも1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル、及び(B−2)活性水素と自己架橋性官能基を有するモノマーを含んでなる組成物からなっている。このような反応性表面改質剤(I)を添加することにより、反射防止膜の表面性状、特に表面滑り性(低摩擦係数化)、表面硬度、耐磨耗性、耐薬品性、汚染拭き取り性、撥水性、撥油性、耐溶剤性等を改善し、本来の塗膜の表面に改質された表面性状を付与することができると記載されている。尚、この反応性表面改質剤(I)と組み合わされる反射防止膜材料(II)は低屈折率層形成用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36018号公報
【特許文献2】特開2006−37024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、得られる硬化膜に優れた透明性、防汚性、特に油性マーカー拭き取り性、及び耐擦傷性を付与することができる化合物を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、優れた透明性、耐擦傷性及び防汚性、特に優れた指紋ふき取り性及び指紋視認性を有するハードコート層を形成するための硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、ポリジアルキルポリシロキサン基、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリロイル基を含有する化合物によれば、得られる硬化膜に優れた透明性、防汚性、特に油性マーカー拭き取り性、及び耐擦傷性を付与することができることを見出した。
【0008】
さらに、本発明者らは、(B)2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を含有する硬化性組成物に、(A)ポリジアルキルシロキサン基、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン結合及び(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を添加することにより、上記諸特性を満足し得る硬化膜が得られることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、(B)分子内に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を含有する硬化性組成物に、(A)ポリシロキサン構造とパーフルオロポリエーテル構造を有する硬化性化合物と(D)(メタ)アクリロイル基とパーフルオロポリエーテル構造を含有する硬化性化合物とを組み合わせて添加することにより、上記諸特性を満足し、さらに、優れた指紋ふき取り性及び指紋視認性を有する硬化膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記の化合物、及び硬化性組成物を提供する。
1.下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】

[式(1)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは置換基を有していてもよい2価の脂肪族基、脂環族基又は芳香族基であり、Rはそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、Rは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基であり、Rは置換基を有していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよいp+1価の有機基であり、mは10〜100の整数であり、nは5〜50の整数であり、pは1又は2である。]
2.前記Rが置換基を有する2価の芳香族基である上記1に記載の化合物。
3.前記pが1であり、前記Rが下記式で表される上記1又は2に記載の化合物。
【化2】

[式中、R28はメチル基又はエチル基であり、sは0〜2の整数であり、*は結合部位を示す。]
4.前記pが2であり、前記Rが下記一般式で示される上記1又は2に記載の化合物。
【化3】

[式中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基であり、*は結合部位を示す。]
5.前記Rが下記一般式で示される上記1〜3のいずれかに記載の化合物。
【化4】

[式中、Acは(メタ)アクリロイル基を表し、qは0〜2であり、*は結合部位を表す。]
6.下記成分(A)及び(B):
(A)上記1〜5のいずれかに記載の一般式(1)で示される化合物
(B)上記(A)以外の、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物
を含有する硬化性組成物。
7.さらに(C)ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子を含有する上記6に記載の硬化性組成物。
8.さらに(D)下記一般式(10)で表される化合物を含有する上記6又は7に記載の硬化性組成物。
16−R13−R14O−(R15O)−R14−R13−R16 (10)
[R13はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R14及びR15はそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、R16はウレタン結合と(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1個以上有する基であり、tは5〜50の整数である。]
9.前記(A)の化合物の配合量が、溶剤を除く組成物の合計を100重量%としたときに、0.01〜5重量%の範囲内である上記6〜8のいずれかに記載の硬化性組成物。
10.前記(C)成分が、分子内に重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物(Cb)で表面処理された粒子である上記7〜9のいずれかに記載の硬化性組成物。
11.さらに(E)ラジカル重合開始剤を含有する上記6〜10のいずれかに記載の硬化性組成物。
12.さらに(F)有機溶剤を含有する上記6〜11のいずれかに記載の硬化性組成物。
13.ハードコート形成用である上記6〜12のいずれかに記載の硬化性組成物。
14.上記6〜13のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化合物は、硬化性組成物に添加することにより、得られる硬化膜に優れた透明性、防汚性、及び耐擦傷性を付与することができる。さらに、油性マーカー拭き取り性を付与することもできる。
【0012】
本発明によれば、透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れたハードコート用組成物を製造することができる。さらに、指紋ふき取り性及び指紋視認性にも優れたハードコート用組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】化合物1のIRチャートである。
【図2】化合物1のH NMRチャートである。
【図3】化合物1の13C{H} NMRチャートである。
【図4】化合物2のIRチャートである。
【図5】化合物2のH NMRチャートである。
【図6】化合物2の13C{H} NMRチャートである。
【図7】化合物3のIRチャートである。
【図8】化合物3のH NMRチャートである。
【図9】化合物3の13C{H} NMRチャートである。
【図10】化合物4のIRチャートである。
【図11】化合物4のH NMRチャートである。
【図12】化合物4の13C{H} NMRチャートである。
【図13】化合物5のIRチャートである。
【図14】化合物5のH NMRチャートである。
【図15】化合物5の13C{H} NMRチャートである。
【図16】化合物6のIRチャートである。
【図17】化合物6のH NMRチャートである。
【図18】化合物6の13C{H} NMRチャートである。
【図19】化合物7のIRチャートである。
【図20】化合物7のH NMRチャートである。
【図21】化合物7の13C{H} NMRチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.一般式(1)で示される化合物
本発明の化合物は、下記一般式(1)で示される構造を有する。
【化5】

【0015】
式(1)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基であることが特に好ましい。
は、置換基を有していてもよい2価の脂肪族基、脂環族基又は芳香族基であり、好ましくは置換基を有していてもよい2価の芳香族基である。
【0016】
はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基である。
及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、好ましくは、フッ化メチレン、パーフルオロエチレン基、パーフルオロプロピレン基である。
【0017】
は、(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基であり、好ましくは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート又はトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートの水酸基を除いた基である。
【0018】
は、下記一般式で示される基であることも好ましい。
【化6】

式中、Acは(メタ)アクリロイル基を表し、qは0〜2であり、*は結合部位を表す。
【0019】
は置換基を有していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよいp+1価の有機基であり、pは1又は2である。
pが1である場合、Rは下記式で示される構造を有することが好ましい。
【化7】

式中、R28はメチル基又はエチル基であり、sは0〜2の整数であり、*は結合部位を示す。
【0020】
はまた、下記一般式で示される基であることも好ましい。
【化8】

式中、Rは、炭素数2〜10のアルキレン基であり、好ましくは炭素数4〜7のアルキレン基であり、*は結合部位を示す。
【0021】
mは10〜100の整数であり、好ましくは10〜80の整数である。mが10より小さいと、塗膜を形成した際に十分な耐擦傷性が得られないおそれがあり、100より大きいと、溶剤への溶解性が損なわれるおそれがある。
nは5〜50の整数であり、好ましくは10〜30の整数である。nが5より小さいと、十分な防汚性能が得られないおそれがあり、50より大きいと、溶剤への溶解性が損なわれるおそれがある。
【0022】
本発明の化合物は、より具体的には下記式(1−1)及び(1−2)で示される構造を有することが好ましい。
【0023】
化合物(1−1)
【化9】

式(1−1)中、R、R、R、R、R28、m、n及びsは上記で定義した通りであり、R22はメチル基又はエチル基であり、rは0〜2の整数である。
27は、(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基であり、好ましくは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート又はトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートの水酸基を除いた基である。
【0024】
化合物(1−2)
【化10】

式(1−2)中、R、R、R、R、R、R、R、m及びnは上記で定義した通りである。
【0025】
本発明の化合物の分子量は、通常2,500〜10,000の範囲内であり、2,500〜9,000の範囲内であることが好ましい。ここで、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって測定する。
【0026】
本発明の化合物(1−1)又は(1−2)は、例えば下記製造方法によって製造することができる。
(a)下記一般式(4)
OCN−R−NCO (4)
[式(4)中、Rは上記定義の通りである。]で示されるジイソシアネートと、下記一般式(3)
【化11】

[式(3)中、R及びmは上記定義の通りである。]で示されるポリジアルキルシロキサンモノアルコールを反応させる工程、
(b)下記一般式(2)
HO−R−R−O−(RO)−R−R−OH (2)
[式(2)中、R、R、R及びnは上記定義の通りである。]で示されるパーフルオロポリエーテルジオールを反応させる工程、
(c)ジイソシアネート化合物又はトリイソシアネート化合物(5)を反応させる工程、及び
(d)下記一般式(6)
−OH (6)
[式(6)中、Rは上記定義の通りである。]で示される(メタ)アクリレートを反応させる工程
を含む。
【0027】
より具体的には、ポリジアルキルシロキサン基を有するアルコール化合物(3)をメチルエチルケトン等の溶剤で希釈し、又は無溶剤にて、ジイソシアネート化合物(4)と混合する。水浴にて10〜20℃に冷却したのち、ジラウリル酸ジブチル錫等のルイス酸触媒を添加し、15〜30℃で1〜3時間撹拌する。その後水浴にて10〜20℃に冷却し、パーフルオロポリエーテルを有するジオール化合物(2)のメチルエチルケトン溶液、又は無溶剤にて添加し、40〜65℃で1〜3時間撹拌する。反応器を水浴にて10〜20℃に冷却し、ジイソシアネート化合物又はトリイソシアネート化合物(5)を添加し、15〜30℃で1〜3時間攪拌する。水浴にて10〜20℃に冷却し、1個以上の(メタ)アクリロイル基と1つの水酸基を有する化合物(6)を混合し、45〜65℃で3〜6時間反応させる。
【0028】
上記一般式(4)で示されるジイソシアネートの具体例として、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、脂環族ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族ジイソシアネートとしては、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジメチルベンゼンジイソシアネート、エチルベンゼンジイソシアネート、イソプロピルベンゼンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,6−ナフタレンジイソシアネート、及び2,7−ナフタレンジイソシアネート等が挙げられる。好ましくは、芳香族ジイソシアネートである。
【0029】
上記一般式(3)で示されるポリジアルキルシロキサンモノアルコールとしては、公知の化合物を使用することができ、市販品の例としては、サイラプレーンFM0411(m=10〜15)、FM0421(m=65〜75)(チッソ社製)等が挙げられる。
【0030】
上記一般式(2)で示されるパーフルオロポリエーテルジオールとしては、パーフルオロポリアルキレンオキシドの両末端に水酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、パーフルオロポリエチレンオキシドの末端ジオール化合物、パーフルオロポリプロピレンオキシドの末端ジオール化合物が好ましい。
上記一般式(2)で示されるパーフルオロポリエーテルジオールの市販品の例としては、Fluorolink D10H(ソルベイソレクシス社製)等が挙げられる。
【0031】
上記工程(c)で使用されるイソシアネート化合物(5)がジイソシアネート化合物の場合、上記一般式(4)で説明した化合物が挙げられる。また上記工程(c)で使用されるイソシアネート化合物(5)がトリイソシアネート化合物の場合、1,4,8−トリイソシアネートオクタン、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、イソシアヌル酸トリスイソシアナトヘキシル等が挙げられる。
【0032】
上記一般式(6)で示される多官能(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。その他、上記一般式(6)で示される化合物として、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
II.硬化性組成物
本発明の硬化性組成物(以下、「本発明の組成物」という)は、下記成分(A)〜(G)で構成される組成物である。この内、(A)及び(B)は必須成分、(C)〜(G)は必要に応じて添加し得る任意成分である。
【0034】
(A)上記一般式(1)で示される本発明の化合物
(B)(上記(A)、下記(Cc)及び(D)以外の)分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能重合性不飽和基含有化合物」という)
(C)分子内に重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物(Cb)と結合されていてもよい、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子(以下、「粒子」という)
(D)下記一般式(10)で表される化合物
16−R13−R14O−(R15O)−R14−R13−R16 (10)
[式(10)中、R13はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R14及びR15はそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、R16はウレタン結合と(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1個以上有する基であり、tは5〜50の整数である。]
(E)ラジカル重合開始剤
(F)有機溶剤
(G)添加剤
【0035】
本発明の組成物によれば、透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れた硬化膜を製造することができる。
【0036】
また、本発明の組成物は、特定の構造を有する成分(D)の化合物を配合することにより、耐擦傷性(耐スチールウール性)だけでなく、特に、指紋ふき取り性及び指紋視認性が大きく向上した硬化膜を与える。
成分(D)の化合物のみを添加した場合、指紋ふき取り性は向上するものの、指紋視認性及び耐擦傷性が低下してしまうが、成分(A)及び(D)を併用することによって、上記各種の特性、特に耐擦傷性、指紋ふき取り性及び指紋視認性が同時にバランス良く改善された硬化膜を与えることができる。
【0037】
以下、各成分について説明する。
【0038】
(A)一般式(1)で示される化合物
一般式(1)で示される化合物(本発明の化合物)については上述したため、ここでは詳細は省略する。
成分(A)は、ポリジアルキルポリシロキサン基、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリレート基を有する化合物である。これら4種類の基を同時に有することにより、他の成分との相溶性に優れ、ヘーズが低く、透明性に優れた硬化膜を与えることができる。さらに、ポリジアルキルポリシロキサン部分を有していることにより、耐擦傷性が向上すると同時にパーフルオロポリエーテル基を有していることにより、防汚性、特に油性マーカー拭き取り性に優れた硬化膜を与えることができる。
本発明の組成物は、この化合物(A)を含有することにより、得られる透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れた硬化物を製造することができる。
成分(A)を後述する成分(D)と併用することにより、それぞれを単独で用いた場合には得られない優れた指紋ふき取り性及び指紋視認性を与えることができる。
【0039】
本発明の組成物中における化合物(A)の含有量は、溶剤を除く成分の合計量を100重量%としたときに、0.01〜5重量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜1重量%の範囲内であることがより好ましい。0.01重量%未満であると、添加効果が発現しないおそれがあり、5重量%を超えると、塗膜の硬度が損なわれるおそれがある。
【0040】
(B)多官能重合性不飽和基含有化合物
本発明に用いられる多官能重合性不飽和基含有化合物(B)は、組成物の成膜性を高めるために好適に用いられる。多官能重合性不飽和基含有化合物(B)としては、分子内に2個以上の重合性不飽和基を含むものであれば特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリルエステル類、ビニル化合物類を挙げることができ、(メタ)アクリルエステル類が好ましい。尚、本発明における多官能重合性不飽和基含有化合物(B)は、前述の(A)、後述の(Cc)及び(D)成分を除くものとする。
【0041】
(メタ)アクリルエステル類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類、及びこれらの水酸基へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のポリ(メタ)アクリレート類、分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、及びオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。この中では、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0042】
ビニル化合物類としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。
【0043】
このような多官能重合性不飽和基含有化合物(B)の市販品としては、例えば、東亞合成(株)製アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、日本化薬(株)製KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、共栄社化学(株)製ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A等を挙げることができる。
【0044】
本発明の組成物における多官能重合性不飽和基含有化合物(B)の配合量は、溶剤を除く成分の合計を100重量%としたときに20〜99重量%の範囲内であり、20〜70重量%の範囲内であることが好ましく、25〜60重量%の範囲内であることがより好ましい。(B)成分が上記範囲で配合されることで、高い硬度の硬化膜を得ることができる。
【0045】
(C)粒子
本発明に用いられる粒子(C)は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子(酸化物粒子(Ca))である。また、分子内に重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物(Cb)で表面処理された粒子(反応性粒子(Cc))であることも好ましい。
【0046】
(1)酸化物を主成分とする粒子(Ca)
反応性粒子(Cc)の製造に用いられる酸化物粒子(Ca)は、得られる硬化性組成物の硬化膜の透明性、色合いの観点から、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子である。
【0047】
これらの酸化物粒子(Ca)としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニア及び酸化アンチモンの粒子が好ましい。これらは単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。さらには、酸化物粒子(Ca)は、粉体状又は溶剤分散ゾルとして用いるのが好ましい。溶剤分散ゾルとして用いる場合、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンが好ましい。
【0048】
酸化物粒子(Ca)の数平均粒子径は、得られる硬化膜の用途に応じて適宜選択すればよいが、0.001μm〜2μmが好ましく、0.003μm〜1μmがさらに好ましく、0.005μm〜0.5μmが特に好ましい。数平均粒子径が2μmを超えると、硬化物としたときの透明性が低下したり、硬化膜としたときの表面状態が悪化する傾向がある。本発明の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察で測定した20個の粒子径の平均値をいう。また、粒子の分散性を改良するために各種の界面活性剤やアミン類を添加してもよい。
【0049】
ケイ素酸化物粒子(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製メタノ−ルシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル(株)製アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子(株)製シルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業(株)製E220A、E220、富士シリシア(株)製SYLYSIA470、日本板硝子(株)製SGフレ−ク等を挙げることができる。
【0050】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業(株)製アルミナゾル−100、−200、−520;アルミナのイソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150I;アルミナのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150T;ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製HXU−110JC;アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業(株)製セルナックス;アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成(株)製ナノテック;アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業(株)製SN−100D;ITO粉末としては、三菱マテリアル(株)製の製品;酸化セリウム水分散液としては、多木化学(株)製ニードラール等を挙げることができる。
【0051】
酸化物粒子(Ca)の形状は球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であり、好ましくは、球状である。酸化物粒子(Ca)の比表面積(窒素を用いたBET比表面積測定法による)は、好ましくは、10〜1000m/gであり、さらに好ましくは、100〜500m/gである。これら酸化物粒子(Ca)の使用形態は、乾燥状態の粉末、又は水もしくは有機溶剤で分散した状態で用いることができる。例えば、上記の酸化物の溶剤分散ゾルとして当業界に知られている微粒子状の酸化物粒子の分散液を直接用いることができる。特に、硬化物に優れた透明性を要求する用途においては酸化物の有機溶剤分散ゾルの利用が好ましい。
【0052】
(2)有機化合物(Cb)
本発明に用いられる有機化合物(Cb)は、重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する化合物であれば特に限定されない。重合性不飽和基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。尚、加水分解性シリル基とは、水と反応してシラノール(Si−OH)基を生成するものであって、例えば、ケイ素に1以上のメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、等のアルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基、アミノ基、ハロゲン原子が結合したものを指す。
【0053】
本発明で用いられる有機化合物(Cb)は、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の市販品を使用することもできるし、例えば、国際公開公報WO97/12942号公報に記載された化合物を用いることもできる。
【0054】
(3)反応性粒子(Cc)の調製
シラノール基又は加水分解によってシラノール基を生成する基を有する有機化合物(Cb)を金属酸化物粒子(Ca)と混合し、加水分解させ、両者を結合させる。得られる反応性粒子(Cc)中の有機重合体成分即ち加水分解性シランの加水分解物及び縮合物の割合は、通常、乾燥粉体を空気中で完全に燃焼させた場合の重量減少%の恒量値として、例えば空気中で室温から通常800℃までの熱重量分析により求めることができる。
【0055】
酸化物粒子(Ca)への有機化合物(Cb)の結合量は、反応性粒子(Cc)(金属酸化物粒子(Ca)及び有機化合物(Cb)の合計)を100重量%として、好ましくは、0.01〜40重量%であり、さらに好ましくは、0.1〜30重量%、特に好ましくは、1〜20重量%である。金属酸化物粒子(Ca)に反応させる有機化合物(Cb)の量を上記範囲とすることで、組成物中における反応性粒子(Cc)の分散性を向上させることができ、得られる硬化物の透明性、耐擦傷性を高める効果が期待できる。
【0056】
本発明の組成物においては、成分(C)は任意成分であり、組成物中における粒子(C)の含有量は、粒子(Ca)である場合も反応性粒子(Cc)である場合も共に、溶剤を除く成分の合計を100重量%としたときに、0〜74重量%であり、20〜74重量%の範囲内であることが好ましく、40〜70重量%の範囲内であることがより好ましい。粒子(C)は任意に配合できる成分であるが、上記の範囲で配合することにより、高硬度の塗膜を得やすくなる。
尚、粒子(C)の含有量は、固形分を意味し、粒子(C)が溶剤分散ゾルの形態で用いられるときは、その含有量には溶剤の量を含まない。
【0057】
(D)一般式(10)で示される化合物
本発明の組成物における成分(D)の化合物(以下、「化合物(D)」ということがある)は、下記一般式(10)で示される、パーフルオロポリエーテル基、ウレタン基及び(メタ)アクリレート基を有する化合物である。これらの基を同時に有することにより、他の成分との相溶性に優れ、ヘーズが低く、透明性に優れた硬化膜を与えることができる。さらに、ポリジアルキルポリシロキサン部分を有していることにより、耐擦傷性が向上すると同時にパーフルオロポリエーテル基を有していることにより、防汚性、特に指紋ふき取り性に優れた硬化膜を与えることができる。
本発明の組成物は、この化合物(D)を含有することにより、得られる透明性、耐擦傷性及び防汚性、特に指紋ふき取り性に優れた硬化物を製造することができる。
【0058】
16−R13−R14O−(R15O)−R14−R13−R16 (10)
[式(10)中、R13はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R14及びR15はそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、R16はウレタン結合と(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1個以上有する基であり、tは5〜50の整数である。]
【0059】
本発明で用いる化合物(D)の分子量は、通常2500〜10,000の範囲内であり、2,500〜9,000の範囲内であることが好ましい。ここで、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって測定する。
【0060】
化合物(D)は、市販品を使用してもよいし、下記の製造方法によって製造することもできる。
化合物(D)の製造方法は、
(i)下記一般式(24)
HO−R13−R14−O−(R15O)−R14−R13−OH (24)
[式(24)中、R13はそれぞれ独立に単結合、メチレン基、又はエチレン基を表し、R14及びR15はそれぞれ独立にフッ化メチレン、炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基を表し、tは5〜50の整数である。]で示されるパーフルオロポリエーテルジオールと、ジイソシアネート化合物又はトリイソシアネート化合物とを反応させる工程、及び
(ii)水酸基含有(メタ)アクリレート化合物を反応させる工程
を含む。
【0061】
より具体的には、パーフルオロポリエーテルを有するジオール化合物をメチルエチルケトン等の溶剤で希釈、又は無溶剤にて、芳香族ジイソシアネート化合物と混合する。水浴にて10〜20℃に冷却したのち、ジラウリル酸ジブチル錫等のルイス酸触媒を添加し、15〜30℃で1〜3時間撹拌する。その後水浴にて10〜20℃に冷却し、(メタ)アクリロイル基と1つの水酸基を有する化合物を混合し、45〜65℃で3〜6時間反応させる。
【0062】
上記一般式(24)で示されるパーフルオロポリエーテルジオールとしては、パーフルオロポリアルキレンオキシドの両末端に水酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、パーフルオロポリエチレンオキシドの末端ジオール化合物、パーフルオロポリプロピレンオキシドの末端ジオール化合物が好ましい。
また、上記一般式(24)で示されるパーフルオロポリエーテルジオールの市販品の例としては、Fluorolink D10H(ソルベイソレクシス社製)等が挙げられる。
【0063】
上記、ジイソシアネート化合物又はトリイソシアネート化合物としては、前記(A)成分で使用した化合物を使用することができる。これらの内、芳香族ジイソシアネート化合物が好ましく使用できる。
【0064】
上記(メタ)アクリロイル基と1つの水酸基を有する化合物としては、水酸基と(メタ)アクリロイル基を含有する化合物であれば使用することができるが、化合物(A)は表面に偏在することが予想されるため、(メタ)アクリロイル基と1つの水酸基を有する化合物は複数の(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。(メタ)アクリロイル基と1つの水酸基を有する化合物の具体例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましく使用される。
【0065】
本発明の組成物中における成分(D)の含有量は、溶剤を除く成分の合計量を100重量%としたときに、通常0〜5重量%の範囲内であり、0.01〜5重量%の範囲内であることが好ましく、0.1〜1重量%の範囲内であることがより好ましい。含有量を上記の範囲内とすることで、耐擦傷性、指紋ふき取り性及び指紋視認性が同時にバランス良く改善された硬化膜を与えることができる。
【0066】
本発明の組成物中における化合物(D):(A)の重量比は、10:1〜1:5の範囲内であることが好ましい。上記範囲外では、化合物(A)と(D)との併用によって得られる相乗的な効果が得られないおそれがある。
【0067】
(E)ラジカル重合開始剤
本発明の組成物には、(E)ラジカル重合開始剤を配合することが好ましい。
このような(E)ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱的に活性ラジカル種を発生させる化合物(熱重合開始剤)、及び放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物(放射線(光)重合開始剤)等の、汎用されているものを挙げることができ、放射線(光)重合開始剤が好ましい。
【0068】
放射線(光)重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0069】
放射線(光)重合開始剤の市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、BASF社製ルシリン TPO、8893UCB社製ユベクリル P36、ランベルティ社製エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等を挙げることができる。
【0070】
熱重合開始剤としては、加熱により分解してラジカルを発生して重合を開始するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化物、アゾ化合物を挙げることができ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。
【0071】
本発明の組成物中において、必要に応じて用いられる(E)ラジカル重合開始剤の配合量は、溶剤を除く成分の合計を100重量%としたときに、0.01〜20重量%の範囲内とすることが好ましく、0.1〜10重量%の範囲内とすることがさらに好ましい。0.01重量%未満であると、硬化物としたときの硬度が不十分となるおそれがあり、20重量%を超えると、塗膜の硬度が損なわれるおそれがある。
【0072】
(F)有機溶剤
本発明の組成物は、塗膜の厚さを調節するために、有機溶剤で希釈して用いることができる。例えば、反射防止膜や被覆材として用いる場合の粘度は、通常0.1〜50,000mPa・秒/25℃であり、好ましくは、0.5〜10,000mPa・秒/25℃である。
有機溶剤(F)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0073】
本発明の組成物において必要に応じて用いられる有機溶剤(F)の配合量は、溶剤を除く成分の合計を100重量部としたときに、50〜10,000重量部の範囲内であることが好ましい。溶剤の配合量は、塗布膜厚、組成物の粘度等を考慮して適宜決めることができる。
【0074】
(G)添加剤
本発明の組成物には、上記成分の他、必要に応じて(B)成分以外のラジカル重合性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤等を添加することができる。
【0075】
本発明の組成物は、上記(A)〜(G)成分をそれぞれ添加して、室温又は加熱条件下で混合することにより調製することができる。具体的には、ミキサ、ニーダー、ボールミル、三本ロール等の混合機を用いて調製することができる。ただし、加熱条件下で混合する場合には、重合開始剤や重合性不飽和基の分解開始温度以下で行うことが好ましい。
【0076】
上記のようにして得られた本発明の組成物は、熱及び/又は放射線(光)によって硬化させることができる。
【0077】
III.硬化膜
本発明の硬化膜は、前記本発明の組成物を種々の基材、例えば、プラスチック基材にコーティングして硬化させることにより得ることができる。具体的には、組成物をコーティングし、好ましくは、0〜200℃で揮発成分を乾燥させた後、熱及び/又は放射線で硬化処理を行うことにより被覆成形体として得ることができる。
熱による場合、その熱源としては、例えば、電気ヒーター、赤外線ランプ、熱風等を用いることができる。熱による場合の好ましい硬化条件は20〜150℃であり、10秒〜24時間の範囲内で行われる。
【0078】
放射線(光)による場合、その線源としては、組成物をコーティング後短時間で硬化させることができるものである限り特に制限はないが、装置の入手しやすさ等の理由で、紫外線、電子線が好ましい。例えば、紫外線の線源として、水銀ランプ、ハライドランプ、レーザー等を、また電子線の線源として、市販されているタングステンフィラメントから発生する熱電子を利用する方式等を挙げることができる。放射線として紫外線又は電子線を用いる場合、好ましい紫外線の照射光量は0.01〜10J/cmであり、より好ましくは、0.1〜2J/cmである。また、好ましい電子線の照射条件は、加速電圧は10〜300kV、電子密度は0.02〜0.30mA/cmであり、電子線照射量は1〜10Mradである。
【0079】
本発明の組成物は被覆材(ハードコート)や反射防止膜の用途に好適であり、反射防止や被覆の対象となる基材としては、例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等を挙げることができる。これら基材の形状は板状、フィルム状又は3次元成形体でもよく、コーティング方法は、通常のコーティング方法、例えばディッピングコート、スプレーコ−ト、フローコ−ト、シャワーコート、ロールコート、スピンコート、刷毛塗り等を挙げることができる。これらコーティングにおける塗膜の厚さは、乾燥、硬化後、通常0.1〜400μmであり、好ましくは、0.5〜200μmである。
【0080】
本発明の組成物を硬化させてなる硬化膜は、高硬度及び耐擦傷性を有するとともに、特に油性マーカー拭き取り性や指紋拭き取り性に優れ、また、組成により、表面滑り性に優れた塗膜(被膜)を形成し得る特徴を有しているので、CD、DVD、MO等の記録用ディスク、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石等の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材、又は、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜等として特に好適に用いられる。
【0081】
IV.積層体
本発明の積層体は、透明基材上に上記本発明の組成物を硬化してなる硬化膜を積層して得ることができる。好適な透明基材や、硬化膜の積層方法は、前述の通りである。本発明の積層体は、高い透明性と硬度を有し、かつ、防汚性、特に指紋ふき取り性及び指紋視認性、油性マーカー拭き取り性並びにその持続性にも優れているため、各種表示装置の表面保護フィルム等として好適である。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、特にことわらない限り、「%」は重量%を表し、「部」は重量部を表す。
【0083】
実施例1
化合物1の合成
【化12】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、m=10〜15、n=10〜15である。]
【0084】
撹拌機、還流管及び乾燥空気導入管を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)(0.024g)、ポリジメチルシロキサンモノオール(チッソ株式会社製、サイラプレーンFM0411)(25.31g)、2,4−トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)(4.41g)及びメチルエチルケトン(丸善石油化学株式会社製)(29.72g)を加え、水浴にて冷却した。10℃±5℃にてジラウリル酸ジブチル錫(共同薬品社製、CASTIN−D)(0.080g)を添加した後、室温にて2時間攪拌した。次いで、反応混合物を水浴にて冷却し、ここに、メチルエチルケトン(37.96g)で希釈したパーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイソレクシス製、Fluorolink D10H)(37.96g)を添加した後、60℃まで昇温し、2時間加熱した。その後、反応混合物を水浴にて冷却し、そこへメチルエチルケトンで固形分濃度50重量%に希釈した2,4−トリレンジイソシアネート(4.41g)を添加し、室温で2時間攪拌した。次いで、反応混合物を水浴にて冷却し、そこへメチルエチルケトンで固形分濃度50重量%に希釈したジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(東亜合成株式会社製:アロニックスM403)(27.92g)を添加し、60℃に昇温し4時間加熱を行い、上記構造式で表される化合物1のメチルエチルケトン溶液(200g)を得た。
【0085】
得られた化合物1のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図1〜3に示す。
【0086】
実施例2〜9
実施例1において、各原料を下記表1に示す化合物、添加量にした以外は同様の操作を行い、後記する構造式を有する化合物2〜9を得た。なお、ヨシノックスBHT及びCASTIN−D以外は、メチルエチルケトンで50重量%に希釈して投入した。
【0087】
【表1】

【0088】
表1中に記載した化合物は下記の通りである。
ヨシノックスBHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製)
サイラプレーンFM0411:ポリジメチルシロキサンモノオール(チッソ株式会社製)
サイラプレーンFM0421:ポリジメチルシロキサンモノオール(チッソ株式会社製)
TOLDY−100:2,4−トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製)
CASTIN−D:ジラウリル酸ジブチル錫(共同薬品社製)
Fluorolink D10H:パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイソレクシス製)
スミジュールN3300:トリイソシアネート化合物(住化バイエルウレタン株式会社製)
HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(デュラネートHMDI 旭化成ケミカルズ株式会社製)
アロニックスM403:ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(東亜合成株式会社製)
A−TMM−3LM−N:ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学株式会社製)
HEA:ヒドロキシエチルアクリレート(HEA、大阪有機工業株式会社製)
【0089】
化合物2
【化13】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、m=65〜75、n=10〜15である。]
【0090】
化合物2のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図4〜6に示す。
【0091】
化合物3
【化14】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、PETAはペンタエリスリトールトリアクリレートに由来する基であり、m=10〜15、n=10〜15である。]
【0092】
化合物3のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図7〜9に示す。
【0093】
化合物4
【化15】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、DPPAはジペンタエリスリトールペンタアクリレートに由来する基であり、m=10〜15、n=10〜15である。]
【0094】
化合物4のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図10〜12に示す。
【0095】
化合物5
【化16】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、PETAはペンタエリスリトールトリアクリレートに由来する基であり、m=65〜75、n=10〜15である。]
【0096】
化合物5のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図13〜15に示す。
【0097】
化合物6
【化17】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、DPPAはジペンタエリスリトールペンタアクリレートに由来する基であり、m=65〜75、n=10〜15である。]
【0098】
化合物14のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図16〜18に示す。
【0099】
化合物7
【化18】

[上記式中、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、HEAは2−アクリロイルオキシエチル基であり、m=10〜15、n=10〜15である。]
【0100】
得られた化合物7のIRチャート、H NMRチャート、13C{H} NMRチャートをそれぞれ図19〜21に示す。
【0101】
化合物8
【化19】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、m=65〜75、n=10〜15である。]
【0102】
化合物9
【化20】

[上記式中、Meはメチル基、n個あるRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、m=10〜15、n=10〜15である。]
【0103】
合成例1
化合物D1(成分(D))の合成
【化21】

[式中、Rはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、n=6〜10である。]
【0104】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル、ヨシノックスBHT)0.024g、パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイソレクシス社製、Fluorolink D10H)37.00g、2,4−トリレンジイソシアナート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)8.58g、及びメチルエチルケトン(丸善石油化学株式会社製)45.58gを仕込み、水浴にて冷却した。そこにジラウリル酸ジブチル錫(共同薬品社製、CASTIN−D)0.080gを添加した後、60℃まで昇温し、1.5時間加熱した。次いで、反応混合物を水浴にて冷却し、ここに、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(東亞合成株式会社製、アロニックスM403)54.42gをメチルエチルケトンで固形分50重量%に希釈して添加した。反応液を60℃まで昇温し、4時間加熱し上記式で示される化合物D1を得た。
【0105】
合成例3
化合物D2(成分(D))の合成
【化22】

[式中、Rはそれぞれ独立にフッ化メチレン又はパーフルオロエチレンであり、n=6〜10である。]
【0106】
撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル、ヨシノックスBHT)0.024g、パーフルオロポリエーテルジオール(ソルベイソレクシス社製、Fluorolink D10H)52.89g、2,4−トリレンジイソシアナート(三井化学ポリウレタン社製、TOLDY−100)12.27g及びメチルエチルケトン(丸善石油化学株式会社製)を仕込み、水浴にて冷却した。そこにジラウリル酸ジブチル錫(共同薬品社製、CASTIN−D)0.080gを添加した後、60℃まで昇温し、1.5時間加熱した。次いで、反応混合物を水浴にて冷却し、ここに、テトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学株式会社製、NKエステル A−TMM−3LM−N)34.84gをメチルエチルケトンで固形分濃度50重量%に希釈したものを添加した。60℃まで昇温し、4時間加熱した。このようにして前記の化学構造式で示される化合物D2を得た。
【0107】
製造例1
有機化合物(Cb)の合成
乾燥空気中、メルカプトプロピルトリメトキシシラン221部、ジブチル錫ジラウレート1部からなる溶液に対し、イソホロンジイソシアネート222部を攪拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、70℃で3時間加熱攪拌した。これに新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート60重量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート40重量%とからなる。このうち、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)549部を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で10時間加熱攪拌することで重合性不飽和基を含む有機化合物(Cb)を得た。生成物中の残存イソシアネート量をFT−IRで分析したところ0.1%以下であり、反応がほぼ定量的に終了したことを示した。生成物の赤外吸収スペクトルは原料中のメルカプト基に特徴的な2550cm−1の吸収ピーク及び原料イソシアネート化合物に特徴的な2260cm−1の吸収ピークが消失し、新たにウレタン結合及びS(C=O)NH−基に特徴的な1660cm−1のピーク及びアクリロキシ基に特徴的な1720cm−1のピークが観察され、重合性不飽和基としてのアクリロキシ基と−S(C=O)NH−、ウレタン結合を共に有するアクリロキシ基修飾アルコキシシランが生成していることを示した。以上により、有機化合物(Cb)が合計で773部とペンタエリスリトールテトラアクリレート220部が得られた。
【0108】
製造例2
反応性粒子の製造
製造例1で製造した組成物2.98部(有機化合物(Cb)を2.32部含む)、シリカ粒子分散液(Ca)(固形分:35重量%、MEK−ST−L、数平均粒子径0.022μm、日産化学工業(株)製)89.90部、イオン交換水0.12部、及びp−ヒドロキシフェニルモノメチルエーテル0.01部の混合液を、60℃、4時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.36部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで反応性粒子分散液を得た。この分散液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、36.5%であった。また、分散液を磁性るつぼに2g秤量後、80℃のホットプレート上で30分予備乾燥し、750℃のマッフル炉中で1時間焼成した後の無機残渣より、固形分中の無機含量を求めたところ、95%であった。
【0109】
<硬化性組成物の製造>
実施例10
シリカ粒子分散液(分散媒:メチルエチルケトン、日産化学株式会社製:製品名MEK−ST−L)216.9重量部(シリカ粒子として65.08重量部)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬株式会社製:KAYARAD DPHA)31.42重量部、光開始剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製:イルガキュア184)3重量部を混合し、実施例3で合成した化合物3を0.5重量部添加し、固形分濃度が50%になるように溶剤(メチルエチルケトン:メチルイソブチルケトン=3:7)を添加し、撹拌して硬化性組成物を得た。
【0110】
実施例11〜25、比較例1〜6
表2−1及び2−2に示す組成とした以外は実施例10と同様にして各硬化性組成物を製造した。
【0111】
【表2−1】

【表2−2】

【0112】
表中略号等は下記のものを示す。
化合物1〜9:実施例1〜9で製造した成分(A)の化合物
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:日本化薬株式会社製KAYARAD DPHA
ペンタエリスリトールトリアクリレート:新中村化学株式会社製NKエステルA−TMM−3LM−N
反応性粒子:製造例2で製造した反応性基修飾コロイダルシリカ
化合物D1:合成例1で製造した成分(D)の化合物
化合物D2:合成例2で製造した成分(D)の化合物
5101X:Fluorolink 5101X、ソルベイソレクシス社製
Irg.184:チバスペシャルティケミカルズ(株)製光重合開始剤
D10H:一般式(2)で示されるパーフルオロポリエーテルジオール、Fluorolink D10H、ソルベイソレクシス社製
オプツールDAC:パーフルオロポリエーテル含有ウレタンアクリレート、ダイキン工業社製
サイラプレーンFM0711:ポリジメチルシロキサン含有ウレタンアクリレート、チッソ社製
【0113】
<硬化膜の製造>
厚さ80μmのTACフィルム上に、上記実施例及び比較例で得られた各硬化性組成物を、バーコーター(12ミル)を用いて塗工した。80℃で2分乾燥した後、高圧水銀灯を用いて空気下で照射量1.0J/cmの強度で紫外線を照射して光硬化して各硬化膜を作製した。
【0114】
<硬化膜の物性評価>
得られた硬化膜のヘーズ、全光線透過率及び接触角を測定した。また、油性マーカー拭き取り性、耐スチールウール性及び塗膜外観を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
(1)ヘーズ(%)の測定
硬化膜のヘーズ(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0116】
(2)全光線透過率(Tt;%)の測定
硬化膜の全光線透過率(%)を、カラーヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を用いて、JIS K7105に準拠して測定した。
【0117】
(3)油性マーカー拭き取り性試験
硬化膜に油性マーカー(ゼブラ株式会社、マッキーMO−120−MC−BK)を付着させ、30秒後に不織布(旭化成製、商品名:ベンコットS−2)にて拭き取った。完全に拭き取れた場合には、再度油性マーカーを付着させ、再度拭き取りを繰り返した。この拭き取り可能回数を数え、下記評価基準に従って評価した。
A:油性マーカー拭き取り可能回数10回以上
B:油性マーカー拭き取り可能回数5〜10回
C:油性マーカー拭き取り可能回数1〜4回
D:油性マーカー拭き取り可能回数0回
【0118】
(4)耐擦傷性(耐スチールウール性)
スチールウール(ボンスターNo.0000、日本スチールウール(株)製)を学振型摩擦堅牢度試験機(AB−301、テスター産業(株)製)に取りつけ、硬化膜の表面を荷重900gで10回繰り返し擦過し、当該硬化膜の表面における傷の発生の有無を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
A:硬化フィルムに傷が発生しない。
B:硬化フィルムにわずかな細かい傷が発生する。
C:硬化フィルムに数本の傷が発生する。
D:硬化フィルムに多数の傷が発生する。
E:硬化フィルム全面に傷が発生する。
【0119】
(5)接触角(°)の測定
水及びヘキサデカンに対する、硬化膜の接触角を協和界面化学株式会社製の接触角計Drop Master500を用いてJIS6768に準拠して測定した。
【0120】
(6)指紋ふき取り性試験
フィルムの裏面を黒打ちし、フィルム表面に指紋を付着させた。その後、指紋をテッシュで拭き取り、下記評価基準に従って評価した。
◎:容易に拭き取れる。
○:拭き取れる。
△:拭き取りにくい。
×:拭き取れない。
【0121】
表2の結果から、本発明の化合物を添加した硬化性組成物を硬化させて得られた硬化膜は、透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れていることがわかる。
さらに、本発明における成分(A)の化合物が配合された硬化性組成物は、透明性が高く、油性マーカー拭き取り性及び耐スチールウール性のいずれにも優れていることがわかる。
本発明における成分(A)の化合物を配合していない比較例では、透明性には優れているものの、油性マーカー拭き取り性と耐擦傷性の両立ができないことがわかる。
また、本発明における成分(A)に加えて成分(D)を配合した硬化性組成物は、透明性が高く、耐擦傷性(耐スチールウール性)に優れるだけでなく、指紋拭き取り性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の化合物は、硬化性組成物に添加することにより、硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜に、優れた透明性、耐擦傷性及び防汚性を付与できるため、各種のハードコート形成用硬化性組成物等の表面改質剤として有用である。
特に、硬化膜の透明性を損なわないため、光学用途を目的とする硬化膜の添加剤として有用である。
【0123】
本発明の硬化性組成物は、透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れた硬化膜を製造するのに有用である。
本発明の硬化膜は、透明性、耐擦傷性及び防汚性に優れているため、特にハードコートとして有用である。また、透明性に優れているため光学用途に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物。
【化23】

[式(1)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは置換基を有していてもよい2価の脂肪族基、脂環族基又は芳香族基であり、Rはそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R及びRはそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、Rは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基であり、Rは置換基を有していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよいp+1価の有機基であり、mは10〜100の整数であり、nは5〜50の整数であり、pは1又は2である。]
【請求項2】
前記Rが置換基を有する2価の芳香族基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記pが1であり、前記Rが下記式で表される請求項1又は2に記載の化合物。
【化24】

[式中、R28はメチル基又はエチル基であり、sは0〜2の整数であり、*は結合部位を示す。]
【請求項4】
前記pが2であり、前記Rが下記一般式で示される請求項1又は2に記載の化合物。
【化25】

[式中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基であり、*は結合部位を示す。]
【請求項5】
前記Rが下記一般式で示される請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【化26】

[式中、Acは(メタ)アクリロイル基を表し、qは0〜2であり、*は結合部位を表す。]
【請求項6】
下記成分(A)及び(B):
(A)請求項1〜5のいずれか1項に記載の一般式(1)で示される化合物
(B)上記(A)以外の、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する化合物
を含有する硬化性組成物。
【請求項7】
さらに(C)ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子を含有する請求項6に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
さらに(D)下記一般式(10)で表される化合物を含有する請求項6又は7に記載の硬化性組成物。
16−R13−R14O−(R15O)−R14−R13−R16 (10)
[R13はそれぞれ独立に単結合、メチレン基又はエチレン基であり、R14及びR15はそれぞれ独立にフッ化メチレン又は炭素数2〜4のパーフルオロアルキレン基であり、R16はウレタン結合と(メタ)アクリロイル基をそれぞれ1個以上有する基であり、tは5〜50の整数である。]
【請求項9】
前記(A)の化合物の配合量が、溶剤を除く組成物の合計を100重量%としたときに、0.01〜5重量%の範囲内である請求項6〜8のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記(C)成分が、分子内に重合性不飽和基及び加水分解性シリル基を有する有機化合物(Cb)で表面処理された粒子である請求項7〜9のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
さらに(E)ラジカル重合開始剤を含有する請求項6〜10のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
さらに(F)有機溶剤を含有する請求項6〜11のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
ハードコート形成用である請求項6〜12のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
請求項6〜13のいずれか1項に記載の硬化性組成物を硬化させてなる硬化膜。


【図1】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図13】
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【図16】
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【図19】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−159386(P2010−159386A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50675(P2009−50675)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】