説明

ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート及び容器

【課題】耐熱性ポリスチレン系樹脂を用いて発泡シートの気泡径、表層密度、内部密度を適切に調整することで、従来品よりも耐熱性に優れたポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート及び容器を提供すること。
【解決手段】ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂発泡シートからなり、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート及び該シートを成形して得られる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡シートは、表面が美しく、軽量でありながら強度があり、成形加工性に優れ、安価であるほか、疎水性に富み、衛生的で、保温・断熱性に優れているため、皿状、カップ状、丼状に成形され、各種の食品包装材や簡易容器として広く使用されている。
一方で近年の電子レンジの普及に伴ないレンジでの加熱用食品が、店頭でよく見かけられるようになってきた。電子レンジで加熱調理に用いる容器として、従来より使用されているポリスチレン単独樹脂よりなる発泡トレーを使用すると、著しい熱変形を生じ好ましくない。そのため、陶器製やポリプロピレン(PP)樹脂製の容器が用いられるが、これらの容器は断熱性に乏しく、電子レンジより取り出すとき、素手で取り出すことができなかった。また、PP樹脂製の容器の場合は剛性が乏しく、取り出す際に内容物がこぼれ出すという不安感があるため、剛性を持たすのに容器の重量を重くする必要があり、コスト高を招いた。
そこで、ポリスチレン系樹脂発泡シートを用いた容器の長所である、軽量、断熱性、剛性を備え、かつ電子レンジによる加熱調理に対しても充分な耐熱性をも備えた容器が望まれていた。
【0003】
従来、ポリスチレン系樹脂発泡シートの耐熱性を向上させることを目的として、例えば、特許文献1〜3に開示された技術が提案されている。
特許文献1(特開平10−45937号公報)には、一般式(1)で示される有機過酸化物を重合開始剤として重合したスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体99.9〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.1〜9.0質量%よりなる樹脂組成物より成形されたことを特徴とする発泡体が開示されている。
【0004】
特許文献2(特開2000−136257号公報)には、スチレン80〜99.9質量%とメタクリル酸20〜0.1質量%のスチレン−メタクリル酸共重合樹脂75〜90質量%とブタジエンゴム比率が50質量%以上のスチレン−ブタジエン共重合樹脂25〜10質量%からなるスチレン系樹脂耐熱性発泡シート、並びに、スチレン80〜99.9質量%とメタクリル酸20〜0.1質量%のスチレン−メタクリル酸共重合樹脂100質量部に対し、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレンゴム10質量部以下を含み、更に該スチレン−メタクリル酸共重合樹脂と該メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレンゴムの合計量75〜90質量%とブタジエンゴム比率が50質量%以上のスチレン−ブタジエン共重合樹脂25〜10質量%からなるスチレン系樹脂耐熱性発泡シートが開示されている。
【0005】
特許文献3(特開平8−41233号公報)には、(A)ポリスチレン系耐熱性共重合樹脂97〜92質量%、及び(B)スチレン−ブタジエン共重合樹脂3〜8質量%よりなる樹脂組成物を基材とするスチレン系耐熱樹脂発泡シートであって、前記(B)成分のブタジエンゴム比率が50質量%以上であるスチレン系耐熱樹脂発泡シート、並びに、ポリスチレン系耐熱性共重合樹脂とスチレン−ブタジエン共重合樹脂よりなる樹脂組成物を基材とするスチレン系耐熱樹脂発泡シートの製造方法であって、前記樹脂組成物を得る際、前記ポリスチレン系耐熱性共重合樹脂とブタジエンゴム比率が50質量%以上のスチレン−ブタジエン共重合樹脂とを押出機で混合して押出発泡することを特徴とするスチレン系耐熱樹脂発泡シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−45937号公報
【特許文献2】特開2000−136257号公報
【特許文献3】特開平8−41233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題があった。
特許文献1では、スチレン−メタクリル酸系共重合体からなる耐熱樹脂を用いることで発泡シートのビカット軟化点を高めることができ、それによって耐熱性を高めることができるが、この特許文献1では発泡シートの耐熱性が使用する耐熱樹脂の軟化点により決定されるとの認識であり、発泡シートの気泡径や表層密度、内部密度と発泡シートの耐熱性との関係について言及されていない。
特許文献2では、実施例に記された発泡シートの発泡倍数が低く、密度が高いので、得られる発泡シート及び容器のコストが高くなる問題がある。
特許文献3には、樹脂組成に関する発泡シートの記載はあるが、発泡シートの気泡径や表層密度、内部密度と発泡シートの耐熱性との関係について言及されていない。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、耐熱性ポリスチレン系樹脂を用いて発泡シートの気泡径、表層密度、内部密度を適切に調整することで、従来品よりも耐熱性に優れたポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート及び容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂発泡シートからなり、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを提供する。
【0010】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、シート表面から表層厚み0.2mmまでの領域の表層密度D1と、それ以外の領域の内部密度D2との比(D1/D2)が1.5〜6.0の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、シート厚みが0.8〜3.0mmの範囲であり、シート全体密度が0.06〜0.20g/cmの範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を主成分としたものであることが好ましい。
【0013】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.2〜9.0質量%からなる樹脂組成物であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.1〜9.0質量%、(C)スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系熱可塑性エラストマー0.1〜5.0質量%からなる樹脂組成物であってもよい。
【0015】
前記ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、前記発泡シートの(メタ)アクリル酸量が7.0〜15.0質量%の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、ポリフェニレンエーテルをポリスチレン樹脂とアロイ化した変性ポリフェニレンエーテルを含むものであってもよい。
【0017】
また本発明は、前記ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを成形して得られた容器を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上である気泡構造としたことで、原料のポリスチレン系樹脂のガラス転移点を大幅に上回る耐熱性を有するポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを提供することができる。
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、密度が低く十分な断熱性能を有しているので、低コストで製造でき、該発泡シートを成形し得られた容器は軽量で断熱性に優れ、電子レンジ加熱後に外面が熱くなることが少ない優れた容器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像である。
【図2】実施例2で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像である。
【図3】比較例1で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート(以下、発泡シートと略記する場合がある。)は、ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂発泡シートからなり、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの樹脂原料である耐熱性ポリスチレン系樹脂としては、ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂であればよく、ガラス転移点が115℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂がより好ましく、ガラス転移点が120℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂がより好ましい。ガラス転移点が110℃未満の樹脂では十分な耐熱性が得られず、容器にした際に変形温度が下がるおそれがある。なお、ガラス転移点の上限は限定されないが、発泡シートにする際にシート伸びが不足し、外観不良が発生するおそれがあるなどの点から、ガラス転移点の上限は140℃以下であることが好ましい。
【0022】
本発明において好ましい耐熱性ポリスチレン系樹脂としては、例えば、
(1)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる樹脂、又は該共重合体を主成分とした樹脂組成物;
(2)(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.2〜9.0質量%からなる樹脂組成物;
(3)(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.1〜9.0質量%、(C)スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系熱可塑性エラストマー0.1〜5.0質量%からなる樹脂組成物;
(4)ポリフェニレンエーテルをポリスチレン樹脂とアロイ化した変性ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物;
が挙げられる。
【0023】
前記耐熱性ポリスチレン系樹脂のうち、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を含む(1)〜(3)の樹脂又は樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸量が7.0〜15.0質量%の範囲であることが好ましく、8〜12質量%の範囲であることがより好ましい。この(メタ)アクリル酸量が7.0質量%未満であると、十分な耐熱性を有する発泡シートが得られないおそれがある。(メタ)アクリル酸量が15質量%を超えると、発泡シートの脆性が強くなり、割れやすい発泡シートとなるおそれがある。
【0024】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの気泡構造は、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上である。本発明において、厚み方向の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験法に準拠して測定された平均弦長に基づいて算出されたものをいう。また、厚み方向1mm当たり気泡数は、無作為に選んだ地点において、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの押し出し方向(MD)と一致する方向且つ垂直方向(厚み方向)にシートを切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡を用いて写真撮影し、厚み方向の気泡数を数え、1mm当たり気泡数を算出したものをいう。
【0025】
前記厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上としたことで、断熱性を十分に確保し、しかも材料の耐熱性ポリスチレン系樹脂のガラス転移点より高い耐熱性を有するポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートとそれを用いた容器を得ることができる。
前記厚み方向の平均気泡径が0.20mm未満であると、気泡を構成しているセル膜が薄くなって加熱時に気泡が潰れやすくなり、耐熱性向上効果が得られなくなる。また、連続気泡率が高くなって独立気泡が減少することで発泡シートの物性低下を招くおそれがある。該平均気泡径が0.35mmを超えると、気泡が粗いために発泡シートの脆性が悪化し、また表面平滑性が悪く、見栄えも悪くなる。
前記厚み方向1mm当たり気泡数が5個未満であると、気泡が粗くなって発泡シートの脆性が悪化し、また表面平滑性が悪く、見栄えも悪くなる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、シート表面から表層厚み0.2mmまでの領域の表層密度D1と、それ以外の領域の内部密度D2との比(D1/D2)が1.5〜6.0の範囲であることが好ましく、2.0〜5.0の範囲がより好ましく、2.5〜4.0の範囲が更に好ましい。前記比(D1/D2)を1.5〜6.0の範囲とすることで、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの表層部に、中心部よりも密度が高い低発泡層(以下、スキン層と記す。)が形成され、これが発泡シート及び成形後の容器の表層密度を上げ、耐熱性が向上する。また押出発泡後の発泡シート(一次シート)を加熱して二次発泡させる際に、熱による火脹れの発生を抑制することができる。なお、表層密度D1は、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの表裏いずれか一方の面について、前記比(D1/D2)が1.5〜6.0の範囲であればよく、表裏両面共に前記範囲であってもよい。
【0027】
前記比(D1/D2)が1.5未満であると、発泡シート表層部のスキン層が薄くなって、耐熱性の向上効果が不十分となり、発泡シート加熱時に火脹れを生じ易くなり、また二次発泡時に凹凸が生じ易くなる。前記比(D1/D2)が6.0を超えるものは、押出発泡法によって発泡シートを得る製法上、製造が難しく、偏肉悪化やシート引取りが困難となる。
【0028】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、シート厚みは0.8〜3.0mmの範囲であることが好ましく、1.0〜2.8mmの範囲がより好ましく、1.2〜2.6mmの範囲がさらに好ましい。シート厚みが0.8mm未満であると加熱成形時の2次厚みが十分に得られず、容器強度が得られないおそれがある。シート厚みが3.0mmを超えると1次厚みが厚すぎるため、加熱成形時の厚みが厚く、容器の積み重ね高さが高くなるおそれがある。
【0029】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートにおいて、シート全体密度は、0.06〜0.20g/cmの範囲であることが好ましく、0.08〜0.15g/cmの範囲であることがより好ましい。シート全体密度が0.06g/cm未満であると、容器強度が弱くなるおそれがある。シート全体密度が0.20g/cmを超えると容器重量が重くなるおそれがある。
【0030】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、従来公知のポリスチレン系樹脂発泡シートの製造方法と同様に、押出発泡によって製造することができる。この方法では、押出機などの樹脂供給手段に耐熱性ポリスチレン系樹脂、例えば、前記(1)〜(4)に記したような樹脂又は樹脂組成物及び気泡核剤などの添加剤を入れて加熱溶融し、さらに発泡剤を添加して混練し、発泡剤含有樹脂を樹脂供給手段の先端に取り付けたダイのスリットから押し出し、発泡させた後に冷却することにより得られる。さらに、該押出発泡法によって得られた発泡シート(一次シート)を再び加熱して二次発泡させて発泡シートとしてもよい。
【0031】
前記発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタンなどの揮発性発泡剤及びこれらの混合物が適当であり、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどの有機系発泡剤や重炭酸ナトリウムまたはクエン酸のごとき有機酸もしくはその塩と重炭酸塩との組合せ等が適当である。場合によっては炭酸ガス、窒素、水等も適用できる。
【0032】
前記気泡核剤としては、タルク、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウム、クレー、クエン酸等が挙げられる。
【0033】
なお、本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートには、所望の性質を有するポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを作るのに影響を与えない程度の添加剤、例えば着色剤、難燃剤、滑剤(炭化水素、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石鹸、シリコン油、低分子ポリエチレン等のワックス等)、展着剤(流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ポリブテン等)、分散剤等が添加されてもよい。
【0034】
また、通常のポリスチレン系樹脂発泡シートのように、物性を良化させるためにフィルムをラミネートしても良い。使用するフィルムは、同種の樹脂のものが回収も簡単であり、接着層も要らないので好ましいが、耐油性を上げるために無延伸ポリプロピレンフィルムや一般に使用されるポリスチレン系樹脂のフィルムでもよい。
【0035】
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、従来のポリスチレン系樹脂発泡シートと同様に、容器製造材料として、緩衝材や断熱材として等、各種用途に使用することができる。
本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを熱成形して得られる容器は、良好な断熱性を有しており、食品を入れた状態で電子レンジ加熱調理しても、容器の変形や火膨れを生じない優れた耐熱性を備えたものとなる。この容器の形状は特に限定されず、角形や円形等の各種形状のトレー、カップ、丼容器、蓋付箱型などの各種形状や大きさの容器とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明の効果を実証するが、以下の実施例は本発明の単なる例示であり、本発明の範囲は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
スクリュー径115mmφと150mmφのタンデム押出機のうち、スクリュー径115mmφ押出機に、スチレン−メタクリル酸共重合樹脂である1GP998(PSジャパン社製、MI=0.95、ガラス転移点123℃)95質量%およびスチレン−ブタジエン共重合樹脂であるタフプレン125A(商品名、旭化成社製)を5質量%の割合で均一に混合するとともに、この樹脂分100質量部に対しスチレン−メタクリル酸共重合体60%とタルク40%からなるタルクマスターバッチ(以下、タルクMBという)2.1質量部を均一に混合した混合物をホッパーを通じて前記押出機に供給し、最高温度240℃で溶融して樹脂組成物とした。その後、発泡剤としてブタンを樹脂分100質量部に対し2.8質量部圧入し、溶融混合させた。
その後、スクリュー径150mmφ押出機に移送して均一冷却後、樹脂温度183℃に調整した後、口径117mm(スリットクリアランス0.62mm)の円筒状ダイより吐出量135kg/hrで押出発泡させ、得られた円筒状発泡体の外側にエア温度25℃、風量1.0m/min、内側にエア温度25℃、風量1.2m/minの冷却エアを吹き付けて冷却マンドレルを通過させて冷却成形し、円周上の2点でカッターにより切開して、幅640mm、厚み2.00mm、密度0.10g/cmのポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0038】
[実施例2]
スチレン−メタクリル酸共重合樹脂をT080(東洋スチレン社製、MI=1.7、ガラス転移点117℃)に変更し、均一冷却後の樹脂温度を177℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0039】
[実施例3]
スチレン−メタクリル酸共重合樹脂をリューレックス14A(DIC社製、MI=1.7(230℃、40N)、ガラス転移点126℃)に変更し、均一冷却後の樹脂温度を185℃としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0040】
[実施例4]
樹脂材料として、ポリフェニレンエーテル(PPE)をポリスチレン樹脂とアロイ化した変性PPE品樹脂であるノリルNLV025(GE社製、MI=12(300℃、50N)、ガラス転移点173℃)43質量%、ポリスチレンであるHRM−18(東洋スチレン社製、MI=5.0、ガラス転移点101℃)52質量部%に変更し、均一冷却後の樹脂温度を185℃とし、さらに吐出量を95kg/hrとし、それ以外は実施例1と同様にしてポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0041】
[実施例5]
タルクMBを2.8質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、厚み1.8mm、密度0.085g/cmのポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0042】
[実施例6]
発泡剤としてブタンを2.5質量部、円筒状発泡体の外側にエア温度40℃、風量0.5m/min、内側にエア温度40℃、風量0.6m/minn冷却エアに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0043】
[比較例1]
タルクMBを0.7質量部とし、発泡剤としてブタンを2.95質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0044】
[比較例2]
タルクMBを3.5質量部とし、発泡剤としてブタンを2.2質量部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0045】
[比較例3]
樹脂材料としてポリスチレン樹脂であるHRM26(東洋スチレン社製、MI=1.5、ガラス転移点103℃)を100質量%とし、押出機内の樹脂最高温度を230℃とし、均一冷却後の樹脂温度を150℃とし、それ以外は実施例1と同様にして、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを得た。
【0046】
前記の通り作製した実施例1〜6、比較例1〜3のそれぞれのポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートについて、厚み、シート全体密度(以下密度と略記する)、ガラス転移点、厚み方向の平均気泡径(以下、平均気泡径と略記する)、厚み方向1mm当たりの気泡数(以下、厚み方向の気泡数と記す)、表層密度D1、内部密度D2、ε値及びε低下限界温度、及び容器の耐熱性を測定、評価した。これらの測定方法及び評価基準は以下の通りとした。
【0047】
<厚み>
発泡シートの幅方向の両端20mmを除いた部分を、幅方向50mm間隔の位置を測定点とした。この測定点をダイヤルシックネスゲージSM−112(テクロック社製)を使用し、厚みを最小単位0.01mmまで測定した。この測定値の平均値を、発泡シートの厚み〔mm〕とした。
【0048】
<密度>
50cm以上(半硬質及び軟質材料の場合は100cm以上)の試験片を材料の元のセル構造を変えないように切断し、その質量及び体積を測定し、次式により全体密度を算出した。
密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(cm
ただし、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃・50RH%±5RH%、または27℃±2℃・65RH%±5RH%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0049】
<ガラス転移点>
JIS K7121 プラスチックの転移温度測定方法に準拠した測定方法で測定した。
測定装置として示差走査熱量計測装置DSC6220型(エスアイアイナノテクノロジー社製)を使用し、30℃から200℃まで20℃/分の速度で昇温後10分間保持し室温まで急冷処理する際の温度変化チャートよりガラス転移温度を読み取った。測定条件を下記に示す。
試料量6.5g±0.5、窒素ガス流量25mL/min、熱処理30〜200℃、加熱温度20℃/min。
【0050】
<平均気泡径>
厚み方向の平均気泡径は、ASTM D2842−69の試験方法に準拠して測定された平均弦長に基づいて算出されたものをいう。具体的には、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートをその表面に対して垂直な方向(厚み方向)に切断し、この切断面における厚み方向に表層1/5深さを省いて中心3/5深さの中央部を走査型電子顕微鏡を用いて17〜20倍(場合によっては200倍)に拡大して撮影した。
次に、撮影した写真における写真上の長さが60mmで且つ発泡シートの厚み方向に指向する一直線上にある気泡数から、各気泡の平均弦長(t)を下記式1に基づいて算出した。そして、下記式2により平均気泡径Dを算出した。なお、発泡シートの層が薄く、長さが60mmの直線を写真上に描くことができない場合は、できるだけ長い長さの直線を写真上に描き、この直線の長さを60mmに換算して平均気泡径Dを算出する。
平均弦長(t)=60/(気泡数×写真の倍率) ・・・式1
平均気泡径D=t/0.616 ・・・式2
【0051】
<厚み方向の気泡数>
発泡シートから、無作為に選んだ地点において、発泡シートの押出方向(MD)と一致する方向且つ垂直方向(厚み方向)にシートを切断した。その切断面を走査型電子顕微鏡を用いて写真撮影し、写真上の無作為に選んだ地点において上、中、下の横方向及び左、中、右の縦方向において60mmの直線上にかかる気泡数を測定した。シート厚み方向に一致すると共に発泡層の厚みを縦断する直線を引き、該直線上に位置する気泡数(個)を求め、得られた気泡数(個)を発泡シート厚み(mm)で割り、厚み方向の気泡数(個/mm)を求めた。
【0052】
<表層密度D1>
スライサー(フォーチュナ社(ドイツ)製スプリッティングマシン、型式AB−320−D)にて、試験片を表層より0.2mmの厚みにスライスしたものを幅25mm、長さ150mmにカットした後、その質量と体積を測定し、下記の計算式より表層密度を算出した。
表層密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10
ただし、測定用試験片は、成形後72時間以上経過した試料から切り取り、23℃±2℃・50RH%±5RH%、または27℃±2℃・65RH%±5RH%の雰囲気条件に16時間以上放置したものである。
【0053】
<内部密度D2>
内部密度は、前記<表層密度D1>にて表層0.2mm表裏スライスした試料の残りの部分を試験片とし、該試験片の質量と体積を測定し、前記<表層密度D1>と同様に内部密度を算出した。
内部密度(g/cm)=試験片質量(g)/試験片体積(mm)×10
【0054】
<ε値及びε低下限界温度>
ポリスチレン系樹脂発泡シートから一辺が10cmの平面正方形状の試験片を5個、各辺がポリスチレン系樹脂発泡シートの押出方向又は幅方向に平行な状態となるように切り出した。
その後、各試験片の表裏に、互いに対向する辺の中央部同士を結ぶ直線を二本、十字状に描いた。また厚みについては定圧厚み測定器SM112を用いてシート厚みを測定し、測定位置をマーキングした。
次に、各試験片を135℃から(比較例3は120℃から)5℃間隔での雰囲気下に150秒間に亘って放置した後、試験片を20℃にて1時間に亘って放置した。
次に、試験片上に描いた直線のうち、寸法変化率を測定したい方向に指向した直線の長さLを試験片毎に表裏で測定し、各試験片の寸法長さの相加平均値を、加熱後の長さとした。
厚みについては加熱前に測定した位置を加熱後に測定し、その厚みを加熱後の厚みとした。
それぞれの得られた値を下記の式に当てはめてε値を導き出した。
ε値=(MDの加熱後の長さ/MDの加熱前の長さ)×(TDの加熱後の長さ/TDの加熱前の長さ)×(加熱後の厚み/加熱前の厚み)
このε値をそれぞれの温度で測定し、最大値が得られた温度をその発泡シートのε低下限界温度(耐熱温度)とした。
【0055】
<容器の耐熱性>
得られた発泡シートを単発成形機FM−12型を用いてφ220mm、深さ15mmの丸型パスタ容器を熱成形した。成形条件については加熱温度は230℃と一定にして成形状態をみながら表面の荒れが発生しない加熱時間を適宜選定し成形をおこなった。
得られた容器に100mLのサラダ油を入れて、業務用電子レンジEM−1503T(サンヨー社製)を用いて出力1500W、時間70秒でレンジアップをし、サラダ油を捨てて表面状態を観察した。
レンジ表面のヤケ、容器にある凹凸の崩れ具合で下記の基準で目視評価をおこなった。耐熱性の評価基準は次の通りとした。
良好(◎):容器表面に設けた凹凸型が残っている。容器表面にヤケが見られない。
やや良好(○):容器の凹凸が崩れ始め、容器角部にヤケしわが見られる。
やや不良(△):容器の凹凸が僅かに残っている。容器表面にヤケが見え始める。
不良(×):容器の凹凸が無くなる。容器表面に全体にヤケ。
耐熱性不足(××):容器が熱で破れ又は変形し、サラダ油が容器より流出する。
【0056】
これらの試験結果を表1にまとめて記す。また、前記ε値の測定結果の詳細を表2に記す。
また、図1は、実施例1で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像(35倍)である。
図2は、実施例2で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像(35倍)である。
図3は、比較例1で製造したポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの厚み方向の電子顕微鏡画像(35倍)である。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1の結果より、本発明に係る実施例1〜6の発泡シートは、ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂発泡シートからなり、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上である構成になっており、いずれも成形して得られた容器の耐熱温度(ε低下限界温度)が150℃以上となり、優れた耐熱性を有していた。
一方、比較例1は、実施例1と同じ樹脂組成で密度及び厚みも同じであるが、平均気泡径が425μm(0.425mm)と本発明の範囲よりも大きくなり、また厚み方向の気泡数が4個と本発明の範囲より少なく、気泡が粗くなった。その結果、容器の耐熱温度が145℃と実施例1に比べてかなり低下し、容器の耐熱性は不良(×)となった。
また、比較例2は、実施例2と同じ樹脂組成で密度及び厚みも同じであるが、平均気泡径が122μm(0.122mm)と本発明の範囲よりも小さく、また厚み方向の気泡数が18個と本発明の範囲より多くなり、気泡が小さく密になった。その結果、容器の耐熱温度が145℃と実施例2に比べて低下し、容器の耐熱性は不良(×)となった。
比較例3は、樹脂材料として普通のポリスチレン樹脂を100%使用した発泡シートであり、耐熱温度は130℃と低く、十分な耐熱性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート及び該シートを成形して得られる容器に関する。本発明のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートは、密度が低く十分な断熱性能を有しているので、低コストで製造でき、該発泡シートを成形し得られた容器は軽量で断熱性に優れ、電子レンジ加熱後に外面が熱くなることが少ない優れた容器を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が110℃以上の耐熱性ポリスチレン系樹脂発泡シートからなり、厚み方向の平均気泡径が0.20〜0.35mmの範囲であり、且つ厚み方向1mm当たり気泡数が5個以上であることを特徴とするポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項2】
シート表面から表層厚み0.2mmまでの領域の表層密度D1と、それ以外の領域の内部密度D2との比(D1/D2)が1.5〜6.0の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項3】
シート厚みが0.8〜3.0mmの範囲であり、シート全体密度が0.06〜0.20g/cmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項4】
前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を主成分としたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項5】
前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.2〜9.0質量%からなる樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項6】
前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、(A)ガラス転移点が110℃以上であるスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体99.8〜91.0質量%、(B)ブタジエン比率が50〜99質量%であるスチレン−ブタジエン系熱可塑性エラストマー0.1〜9.0質量%、(C)スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系熱可塑性エラストマー0.1〜5.0質量%からなる樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項7】
前記ポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートの(メタ)アクリル酸量が7.0〜15.0質量%の範囲であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項8】
前記耐熱性ポリスチレン系樹脂は、ポリフェニレンエーテルをポリスチレン樹脂とアロイ化した変性ポリフェニレンエーテルを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂耐熱発泡シートを成形して得られた容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−195770(P2011−195770A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66607(P2010−66607)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】