説明

ポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法およびポリテトラフルオロエチレン製シールテープの製造方法

【課題】従来の方法よりも生産性に優れ、生産コストを低減できるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートの製造方法とPTFE製シールテープの製造方法とを提供する。
【解決手段】(i)PTFE粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むPTFE粒子の分散液に、上記粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、上記水および上記界面活性剤を内包するPTFE含有固形物を形成する工程と、(ii)上記固形物をシート状に変形させる工程と、(iii)シート状に変形させた上記固形物に含まれる上記水の量を低減させる工程と、を含む製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子の分散液を出発物質とする、PTFEシートおよびPTFE製シールテープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFEは、高い耐薬品性、低い誘電率などの特性を有し、融点が高く耐熱性に優れることから、化学的および電気的分野を中心に、幅広い用途に用いられている。また、摩擦係数や表面張力が小さい特性を利用して、無潤滑摺動部に用いる部材など、機械的用途にも広く用いられている。
【0003】
PTFEの成形体の1種に、シート状の成形体(PTFEシート)があり、その形状および厚さなどに応じて様々な用途への応用が考えられる。例えば、厚さ数十〜数百μm程度の帯状のPTFEシートは、水道管、ガス管などの配管の継ぎ目のシール性を確保するためのシールテープとしての用途に好適である。シールテープには継ぎ目の隙間に食い込みやすい柔軟性が求められるとともに、継ぎ目の隙間に食い込んだときに、潤滑およびシールの両方の役目を果たすことが求められる。PTFE製シールテープ(以下、単に「PTFEシールテープ」ともいう)は、こうした特性と機能とを兼ね備えており、生テープ、パッキン材などと呼ばれ広く普及している。
【0004】
一方、PTFEは、特殊な溶媒を除き、ほとんどの溶媒に溶解せず、その溶融粘度も、380℃において1010〜1011Pa・s(1011〜1012P)程度と高い。このため、PTFE成形体の製造に、一般的な熱可塑性樹脂の成形に用いられる各種の成形法(押出成形、射出成形など)を応用することが困難である。これらの成形法では、成形時の樹脂の溶融粘度は、通常、102〜103Pa・s程度である。
【0005】
PTFEシートの従来の製造方法の一つに、焼結成形法と切削法とを組み合わせた方法がある。この方法では、最初に、出発物質である粉末状のPTFE粒子(モールディングパウダー)を常温で予備成形した後(このとき必要に応じて成形助剤を加えてもよい)、形成した予備成形体をPTFEの融点(約327℃)以上に加熱することにより全体を焼結(焼成)して、円筒状のPTFEブロックを得る(焼結成形法)。次に、形成したブロックの外周部を切削して(切削法)、PTFEシートが得られる。この方法によれば、厚さが比較的大きいシート(例えば、25μm以上)が得られるが、効率的にシートを製造するためにはブロックのサイズを大きくする必要があり、その際、熱歪みによる亀裂等の発生を抑制するために、予備成形および焼成に長時間(ブロックのサイズにもよるが、およそ2〜5日程度)を要する。また、基本的にバッチ生産法であり、出発物質からのPTFEシートの連続的な製造は困難である。
【0006】
PTFEシートの別の製造方法の一つに、ペースト押出法(ファインパウダー法)があり、この方法は、PTFEシールテープの製造方法として一般的である。この方法では、ファインパウダーに成形助剤を加えてロッド状に予備成形した後、予備成形体を押出機によりペースト押出するとともに、成形助剤が揮散しないうちにロールで圧延し、所定の厚さのシートとする。そして、このシートから成形助剤を除去することにより、PTFEシールテープを得る。しかし、ペースト押出法は、成形助剤としてオイルなどの有機溶媒を使用するので環境面で問題があり、また、予備成形体を準備する工程と、その予備成形体を押出成形する工程とを分離して行わざるを得ないのでバッチ生産法となり、生産性の面で課題が残る。
【0007】
例えば、特開平5-301267号公報(特許文献1)には、成型助剤として水を用いて、ペースト押出法を行う方法が開示されている。特許文献1に開示された方法は、PTFEの凝集物および水を含むスラリーから水を除去して押出成形に適したペーストを作り、そのペーストを用いて押出成形を行うというものである。スラリーに含まれる水の量を減ずるために、水の通過は許容するがPTFEの凝集物の通過は禁止するように形状および広さが調整されたスリットまたは隙間が形成されている管に、スラリーをゆっくり通す操作を行う。こうした操作を実現できる装置は市販されていないので、文献1に開示されている方法を実施するとなると、設備投資の高騰を免れない。また、PTFEの凝集物および水を含むスラリーをPTFEの分散液から作るためには、PTFEをまず凝集させる工程が不可欠である。この工程は、例えば、所定温度に温めた分散液に酸などの凝析剤を添加し、さらにその分散液を撹拌機で撹拌することにより実現できるが、スラリーから水を除去する工程とは切り離して行わざるを得ないので、生産性向上の大きな障害となる。
【0008】
PTFEシートのまた別の製造方法の一つに、キャスト法がある。この方法では、出発物質であるPTFE粒子の分散液(PTFEディスパージョン)を、金属板などの支持体上に塗布して、乾燥、焼成した後に、支持体から剥離して、PTFEシートを得る。この方法によれば、上記各方法を用いた場合に比べて、より薄く、歪みのないPTFEシートが得られる。しかし、1回の塗布、乾燥および焼成により得られるシートの厚さは、マッドクラックと呼ばれる微少欠陥を抑制するために、およそ20μm程度が限界とされ、20μmを超える厚さのシートを得るためには、分散液の塗布および焼成を複数回繰り返す必要がある。
【0009】
切削法、ペースト押出法およびキャスト法、ならびに、その他のPTFE成形体の製造方法については、例えば、非特許文献1(ペースト押出法について122〜124頁、切削法について141〜142頁、キャスト法について130頁))に記載されている。
【0010】
なお、PTFE成形体の製造方法ではないが、PTFE粒子の分散液あるいはフッ化熱可塑性樹脂の分散液に機械的な力を加えることで、当該粒子よりも粒径が大きい二次粒子(例えば、PTFEファインパウダー)を製造する方法が、特開2002-201217号公報(特許文献2)、特開平6-192321号公報(特許文献3)および特表2003-522230号公報(特許文献4)に開示されている。PTFE粒子を界面活性剤を含む水性溶液で湿潤させた後に機械的な力を加えることで、当該粒子よりも粒径が大きいPTFE二次粒子を製造する方法が、特開昭47-12332号公報(特許文献5)に開示されている。
【特許文献1】特開平5−301267号公報
【特許文献2】特開2002−201217号公報
【特許文献3】特開平6−192321号公報
【特許文献4】特表2003−522230号公報
【特許文献5】特開昭47−12332号公報
【非特許文献1】「ふっ素樹脂ハンドブック」、里川孝臣編、日刊工業新聞社、1990年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように従来の技術においては、PTFE粒子を含む出発物質からPTFEシートを直接かつ連続的に製造することが困難であり、生産性の向上に限界があった。そこで本発明は、これら従来の方法よりも生産性に優れ、生産コストを低減できるPTFEシートの製造方法とPTFE製シールテープの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のPTFEシートの製造方法は、(i)PTFE粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むPTFE粒子の分散液に、前記粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水および前記界面活性剤を内包するPTFE含有固形物を形成する工程と、(ii)前記固形物をシート状に変形させる工程と、(iii)シート状に変形させた前記固形物に含まれる前記水の量を低減させる工程とを含む。
【0013】
本発明のPTFE製シールテープの製造方法は、(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、前記粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水および前記界面活性剤を内包するポリテトラフルオロエチレン含有固形物を形成する工程と、(ii)前記固形物をシート状に変形させる工程と、(iii)シート状に変形させた前記固形物に含まれる前記水の量を低減させる工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シート状に成形可能なPTFE含有固形物を、PTFE粒子の分散液から直接得ることができる。即ち、出発物質である分散液から、PTFEシートあるいはPTFE製シールテープを連続的に製造することが可能である。故に、本発明の製造方法は、従来のPTFEシートの製造方法に比べて、生産性に優れ、また、成型助剤として有機溶媒を用いる必要がなく、環境負荷が小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の製造方法では、分散媒である水と界面活性剤とを内包するPTFE含有固形物(以下、単に「固形物」ともいう)を形成できる(工程(i))。この固形物は、その製造方法から明らかなように、PTFE粒子が結着して形成された凝集物である。このような固形物は、従来のPTFE成形体の製造方法では、中間生成物としても得ることができない。例えば、本発明の製造方法と同様に、PTFE粒子の分散液を出発物質とするキャスト法では、PTFE粒子が分散した状態で乾燥により水が除去されるため、水と界面活性剤とを内包する固形物は形成されない。
【0016】
工程(i)で形成される固形物は、付与された形状が保持される(自己形状保持性を有する)程度にPTFE粒子が結着してなり、かつ、当該形状が変形可能である(変形性を有する)程度に水を内包してなる固形物である。この固形物は、基本的に、乾燥または焼成されるまでは任意の形状に変形可能であり、シート状に変形させた後に(工程(ii))、変形後の固形物に含まれる水の量を低減させることにより(工程(iii))、PTFEシートを得ることができる。上記固形物は、破壊することなく変形可能な範囲が大きいという点にも特徴を有する。
【0017】
このような固形物は、また、特許文献2〜5に開示されているような従来の二次粒子の製造方法においても、中間生成物としても得ることができない。特許文献2〜4に開示の方法では、出発物質であるフッ化熱可塑性樹脂粒子の分散液あるいはPTFE粒子の分散液に機械的な力が加えられているものの、上記固形物が形成されるような力は加えられていない。特許文献5に開示の方法では、出発物質はPTFE粒子の分散液ですらなく、このことからも、当然、上記固形物が形成されるような力は加えられていない。
【0018】
例えば、特許文献3の方法では、水で希釈可能な凝固相(濃厚スラリー)が得られるが(文献3の段落番号[0008]などに記載)、工程(i)で形成される固形物は、水で希釈できない。当該固形物は、水中で分散しない程度にPTFE粒子が結着してなる、ともいえる。
【0019】
また例えば、特許文献2〜4の方法では、フッ化熱可塑性樹脂粒子の分散液あるいはPTFE粒子の分散液に機械的な力(例えば、分散液においてPTFE粒子を沈降させる力)を印加して得た粒子集合体を乾燥させて二次粒子を得ており、特許文献5の方法では、PTFE粒子を界面活性剤を含む水性溶液で湿潤させた後、機械的な力を加えて乾燥させ、必要によりふるい分けして二次粒子を得ている。これに対して、工程(i)で形成される固形物を乾燥して水を除去したとしても再び粒子に戻ることはない。当該固形物は、内包する水の量の減少による再粒子化が起きない程度にPTFE粒子同士が互いに結着してなる、ともいえる。
【0020】
工程(i)により、このような固形物が得られる理由は必ずしも明らかではないが、おそらく、分散液中の界面活性剤の作用により、PTFE相と水相とが互いに入り混じった構造が形成されるためではないかと考えられる。固形物の詳細な構造の解明には今後の検討を要するが、PTFE粒子が互いに接合して形成されたPTFE相がある程度連続することにより、固形物の自己形状保持性が発現する機構が考えられる。場合によっては、より強固な結着構造がPTFE粒子間に形成されていたり、PTFE粒子の一部がフィブリル化することにより、PTFEの網目構造が形成されている可能性もある。また、疎水性であるPTFE相間に、界面活性剤を介して安定的に水相が存在することにより、固形物の変形性が発現する機構が考えられる。
【0021】
以下、工程(i)、(ii)および(iii)について、詳細に説明する。
【0022】
工程(i)において、分散液に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法は特に限定されず、例えば、以下に示す方法を用いればよい。
方法A:分散液をチャンバーに供給し、当該チャンバー内において上記力を加える方法
方法B:分散液をターゲットに噴射することにより、上記力を加える方法
方法C:分散液を、分散液の流路に配置された、分散液の流れを妨げるバリアに接触させることで、上記力を加える方法。
【0023】
方法Aでは、分散液の供給に伴ってチャンバー内に生じる圧力を、PTFE粒子同士をより接近または接触させる力に利用できる。また、後述するように、チャンバー内で形成された固形物を排出する管体(第1の管体)、あるいは、チャンバー内で形成された固形物をシート状に変形させる流路(例えばTダイ)を、チャンバーに接続できる。
【0024】
具体的に、方法Aでは、チャンバーに供給した分散液を、チャンバー内で噴射したり(方法A1)、チャンバー内に設けられた狭窄部を通過させたり(方法A2)すればよい。
【0025】
方法A1では、分散液を、例えば、チャンバーの内壁またはチャンバー内に配置された部材に向けて噴射すればよい。分散液が当該内壁または部材に衝突する際に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0026】
方法A1では、チャンバーの構造や形状、分散液の噴射条件などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができる。また、分散液とチャンバー内で形成された固形物とを衝突させて、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることも可能であり、チャンバー内で形成された固形物に分散液を噴射することにより、固形物が連続して形成される。
【0027】
分散液の噴射は、噴射口を有するノズルから行えばよく、ノズルの構造や形状、例えば、噴射口の形状は、自由に設定できる。
【0028】
方法Bにおいても同様に、噴射口を有するノズルから分散液を噴射すればよい。なお、方法Bにおけるターゲットは自由に設定できるが、噴射した分散液の飛散を抑制し、噴射する分散液の量に対する得られる固形物の量の割合を多くするためには、ターゲットが配置される空間の密閉度が高い方が好ましい。
【0029】
分散液の噴射圧は、分散液におけるPTFE粒子の含有率、界面活性剤の含有率、チャンバーの形状や内容積などにより自由に設定すればよいが、噴射圧が過小である場合、固形物を得ることが困難となることがある。
【0030】
なお、本発明者らの知見によれば、噴射の初期段階において比較的高い噴射圧とすることで固形物の形成を直ちに開始させ、一度チャンバー内に固形物が生成した後は、より低い噴射圧にしても安定して固形物を形成できる。このように、固形物の形成を開始する時点と、その開始時点から一定時間経過後の固形物が連続生成している時点とで、分散液の噴射圧を異ならせることができる。具体的には、前者の噴射圧を高くし、後者の噴射圧を低くすることができ、そうすることにより無駄なエネルギーを消費せずに済む。ただし、固形物の形成に、このような高い噴射圧が必ずしも不可欠というわけではない。
【0031】
方法A2では、分散液を通過させる狭窄部の形状は特に限定されず、例えば、スリット状であればよい。分散液がスリットを通過する際に、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0032】
分散液を2以上の供給路を経由させてチャンバーに供給し、当該2以上の供給路から供給される分散液を、チャンバー内で互いに衝突させることにより、分散液に上記力を加えてもよい(方法A3)。方法A3では、チャンバーの構造や形状、衝突させる方法などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができる。
【0033】
分散液をチャンバー内で互いに衝突させるためには、例えば、分散液を、上記2以上の供給路における各々の末端に配置されたノズルから噴射すればよい。このとき、少なくとも2つのノズルを、各々の噴射方向が交わるようにチャンバー内に配置することにより、より効率よく、分散液を互いに衝突させることができる。
【0034】
方法A3においても、上記方法と同様に、分散液とチャンバー内で形成された固形物とを衝突させて、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることが可能である。例えば、固形物を形成する初期段階では、2以上のノズルから噴射された分散液を互いに衝突させ、固形物の形成を促進してもよい。そして、一度固形物が形成された後は、その固形物に向けて分散液を噴射してもよく、このようにすることで、固形物の連続生成にスムーズに移行できる。
【0035】
方法Cでは、分散液を、例えば、上記バリアを有する管体(第2の管体)に供給し、当該管体内において上記力を加えればよい。分散液が、その流路(第2の管体)に配置されたバリアを通過する際に、分散液の流れが乱されたり、部分的に分散液が滞留したりして、分散液中に圧力の不均衡が生じ、PTFE粒子が互いに接近または接触する力が加えられる。
【0036】
バリアは、例えば、第2の管体の内部に流路を狭めるように配置された板状部材であってもよい。また、バリアは、第2の管体を屈曲させ、またはその内径を部分的に細くすることによっても形成できる。即ち、バリアは、第2の管体の屈曲部または狭窄部であってもよい。この場合、方法Cは、分散液を屈曲部または狭窄部を有する第2の管体に供給し、当該屈曲部または狭窄部においてPTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法である、ともいえる。
【0037】
分散液を上記第2の管体に供給する場合、分散液をノズルから噴射して供給してもよく、この場合、PTFE粒子に上記力を効率よく加えることができる。噴射に用いるノズルは方法A1と同様であればよく、分散液の噴射圧は、分散液におけるPTFE粒子の含有率、界面活性剤の含有率、第2の管体の形状などにより自由に設定すればよい。
【0038】
方法Cでは、第2の管体の構造や形状、分散液の供給条件などによっては、PTFE粒子を互いに衝突させることができる。また、分散液と、第2の管体内で形成された固形物とを衝突させて、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を加えることも可能である。
【0039】
第2の管体の形状、内径、長さ、ならびに、屈曲部および狭窄部の形状などは特に限定されない。
【0040】
方法A1〜A3、方法Bおよび方法Cは、PTFE粒子の分散液に、分散液に含まれるPTFE粒子が互いに接近または接触する力を加える方法の一例であり、本発明の製造方法は、上記各例に示す方法を用いる場合に限定されない。
【0041】
形状や内容積を含め、分散液に上記力を加えるためのチャンバーの構成は特に限定されないが、市販の装置(例えば、スギノマシン製アルティマイザー)を応用してもよい。アルティマイザーは、本来、顔料、フィラー、触媒などの各種材料の粉砕、微粒化を行う微粒化分散装置であり、PTFE粒子含有固形物を得るための応用は、本発明者らが見出したものである。
【0042】
チャンバーの一例を図1に示す。図1に示すチャンバー1Aは、その内部空間2の形状が、底面付近の周縁部が切り取られた略円錐状であり、当該周縁部に、分散液を噴射する一対のノズル3a、3bが、その噴射口が内部空間2に面するように配置されている。ノズル3a、3bは、各々の噴射方向4a、4bが互いに交わる位置関係にある。ノズル3a、3bには、チャンバー1Aの構造体5の内部に形成された供給路6a、6bを経由して、供給口7から分散液を供給できる。略円錐状である内部空間2の頂点付近には、チャンバー1A内(内部空間2内)で形成された固形物を排出する排出口8が形成されている。排出口8の形状は特に限定されず、例えば、円形状であればよい。
【0043】
図1に示すチャンバー1Aでは、加圧した分散液を供給口7および供給路6a、6bを介してノズル3a、3bに供給することにより、分散液を内部空間2内に噴射し、互いに衝突させることができる(方法A3を実現できる)。また、同様の構造を有するチャンバー1Aを用い、配置するノズルを1つにしたり、あるいは、ノズル3a、3bの噴射方向4a、4bを制御することにより、分散液を内部空間2内に噴射し、チャンバー1Aの内壁(内部空間2の壁面)に衝突させることができる(方法A1を実現できる)。ノズル3a、3bの噴射方向が可変になっていると、そうした操作を自由に行うことができるので好ましい。
【0044】
チャンバー1Aは、その内部空間2を加圧雰囲気とすることが可能な構造を有していてもよい。即ち、チャンバー1Aは、大気圧よりも高い圧力の雰囲気中で、固形物を形成することが可能になっていてもよい。そのためには、例えば、内部空間2の圧力を調整するための圧力調整機構をチャンバー1Aに設けてもよい。チャンバー1A内を加圧することにより、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を、より効率的に分散液に加えることができる。また、圧力調整機構を設けない場合であっても、排出口8の断面積、排出口8に接続される配管の長さや本数などを適切に調整するとともに、ノズル3a、3bからの分散液の噴射圧を利用すれば、チャンバー1A内を加圧雰囲気とすることができる。この点は、以降の図2〜図5に示すチャンバー1B〜1Eにおいても同様である。
【0045】
加圧した分散液をノズル3a、3bに供給する方法は特に限定されず、例えば、高圧ポンプによって加圧した分散液を供給口7から供給すればよい。図2に示すようなチャンバー1Bを用い、分散液とポンプにより加圧した水(加圧水)とを、ノズル3a、3bの直前に設けられた混合弁9へ、互いに異なる供給路を経由して供給し、混合弁9で両者を混合した後に、ノズル3a、3bに供給してもよい。図2に示すチャンバー1Bでは、加圧水は供給口7および供給路6a、6bを介して、分散液は供給口17a、17b、および、供給路16a、16bを介して、混合弁9に供給される。
【0046】
チャンバーの別の一例を図3に示す。図3に示すチャンバー1Cでは、その内部空間2の一方の端部に、自在に回転可能な球体10が配置されており、他方の端部に、分散液を噴射するノズル3が、その噴射口が内部空間2に面するように配置されている。ノズル3と球体10とは、ノズル3の噴射方向4が球体10と交わる位置関係にある。ノズル3には、チャンバー1Cの構造体5の内部に形成された供給路6を経由して、供給口7から分散液を供給できる。内部空間2におけるノズル3と球体10との間の壁面には、チャンバー1内(内部空間2内)で形成された固形物を排出する排出口8が形成されている。
【0047】
図3に示すチャンバー1Cでは、加圧した分散液を供給口7および供給路6を介してノズル3に供給することにより、分散液を内部空間2内に噴射して、チャンバー1C内に配置された部材である球体10に衝突させることができる(方法A1を実現できる)。このとき、ノズル3の噴射方向4が球体10の中心から外れるようにノズル3および球体10を配置することにより、分散液の噴射によって球体10を回転させることができ、分散液の衝突によるチャンバー1C内部の摩耗を抑制できる。
【0048】
球体10には、分散液の衝突によって変形しない材料を用いることが好ましく、例えば、セラミック、金属(高い硬度を有する合金類が好ましい)、ダイヤモンドなどからなる球体10とすればよい。
【0049】
チャンバーの別の一例を図4に示す。図4に示すチャンバー1Dでは、円筒状の外周体11の内部に、一対の中子12a、12bが収容されている。中子12a、12bは、各々、円柱体の一方の端面に円錐台が接合された形状を有しており、各々の中子における円錐台の上面13a、13bが、一定の間隔dを置いて互いに対向するように配置されている。外周体11および中子12a、12bの中心軸は、ほぼ同一である。外周体11の一端には、分散液を供給する供給口7が形成されており、供給口7に近い中子12aの外径は、外周体11の内径よりも小さく、供給口7から遠い中子12bの外径は、外周体11の内径と同一である。また、中子12bには、その上面13bにおける中央部から中子12bの内部を通り、チャンバー1の外部へ通じる排出路14が形成されている。中子12aは、支持部材(図示せず)を介して、外周体11により支持されている。
【0050】
中子12a、bの位置を調整し、間隔dの値を適切に制御することにより、上面13a、13b間の空隙15をスリット状の狭窄部とすることができ、加圧した分散液を供給口7からチャンバー1Dに供給することにより、分散液を、チャンバー内に配置された狭窄部(空隙15)を通過させることができる(方法A2を実現できる)。分散液は空隙15を通過した後に排出路14に流入し、チャンバー1の排出口8から、PTFE含有固形物として排出される。
【0051】
供給する分散液の圧力(供給圧)は、チャンバーの形状や内容積、間隔dの大きさ、供給する分散液の量などにより自由に設定すればよいが、供給圧が過小である場合、固形物を得ることが困難となることがある。
【0052】
図1〜図4に示すチャンバー1A〜1Dにおいて、排出口8に管体(第1の管体)を接続し、当該接続された管体から、管体の内壁全体と接触させながら固形物を排出することが好ましい。排出口8から排出された固形物が第1の管体を通過する際に、PTFE粒子を互いに接近または接触する力をさらに加えることができ、より自己形状保持性に優れ、強度などの機械的特性が向上した固形物を得ることができる。
【0053】
また、このような固形物からは、強度などの機械的特性が向上したPTFEシートを形成でき、例えば、第1の管体の形状、内径、長さなどを選択することにより、乾燥後におけるMD方向(流れ方向:この場合、管体から排出される方向)の引張強度が0.5MPa程度以上、TD方向の引張強度が1MPa程度以上のPTFEシートを得ることができる。固形物およびシートの強度が向上する原因としては、第1の管体の通過により、固形物およびシートの表面に、PTFE粒子同士がより強固に接合したスキン層が形成されることが考えられる。また、第1の管体と固形物の表面との間に生じた摩擦力により、固形物の内部に剪断力が生じ、PTFE粒子同士のさらなる結着、接合が促進されることも考えられる。なお、管体の内壁全体と接触させながら固形物を排出するためには、排出口8の形状や径、管体の形状や内径、長さなどを選択すればよい。
【0054】
接続する第1の管体の形状、内径、長さなどは特に限定されず、チャンバー1の形状や内容積、チャンバー1に供給する分散液の量などに応じて、自由に設定できる。基本的に、管体が長いほど、得られる固形物の自己形状保持性や機械的特性が向上する傾向を示すため、管体の最小内径よりも、管体の長さが大きいことが好ましい。一例として、分散液の処理速度が0.1〜0.5L/min程度の場合、チャンバー1A〜1Dに接続する管体の内径は1mm〜10mm程度の範囲、管体の長さは1mm〜5000mm程度の範囲であってもよい。なお、図4に示すチャンバー1Dでは、排出路14の形状によっては、排出路14が上記管体の役割を担うこともできる。
【0055】
より効率よく固形物に力を加えるためには、第1の管体の最小内径が、排出口8の径以下であることが好ましい。また、排出口8から離れるに従い、内径が次第に変化する(即ち、内面がテーパー状の)管体であってもよく、この場合、内径が、排出口8から離れるに従い次第に小さくなることが好ましい。
【0056】
チャンバーの別の一例を図5に示す。図5に示すチャンバー1Eは、ノズル3が配置された構造体5(チャンバー本体)と、一端が構造体5に接続され、他端が分散液の排出口8を形成している配管18とを備えている。配管18は、屈曲管18(具体的にはL字管)でありうる。ノズル3は、当該ノズルから噴射された分散液が屈曲管18の内壁面、より具体的には、屈曲管18の屈曲部18aにおける内壁面に衝突するように噴射方向4が調整されている。
【0057】
図6に示すように、屈曲管18の屈曲部18aに分散液Pを噴射することにより、その屈曲部18aにおいて固形物19の生成が始まる(ステップS1)。そして、屈曲部18aで生成が始まった固形物19に分散液Pを噴射し続けることにより、その固形物19が次第に大きく成長して屈曲管18の内部を満たす(ステップS2)。やがて固形物19は、屈曲管18の排出口8からチャンバー1Eの外部に排出される(ステップS3)。
【0058】
なお、ノズル3の噴射方向4は、上記に限定されるわけではない。例えば、噴射された分散液が構造体5の内壁面5pに衝突するように、ノズル3の噴射方向を調整してもよい。その場合、構造体5の内壁面5pが、ノズル3と構造体5との接続部に向かって滑らかに傾斜したテーパ面となっていることが好ましい。このようにすることで、構造体5内で形成された固形物の屈曲管18への移動をスムーズに行える。
【0059】
図1〜図5で説明したチャンバー1A〜1Eの温度、、および、チャンバー1A〜1Eに供給する分散液の温度(処理温度)は、通常、0℃〜100℃の範囲であり、25℃〜80℃の範囲が好ましく、25℃〜50℃の範囲がより好ましい。処理温度を上記温度範囲に保つために、必要に応じて、チャンバー1A〜1Eが冷却機構または加熱機構を備えていてもよい。特に、分散液を内部空間2に噴射するチャンバーの場合、噴射により系の温度が上昇するため、冷却機構を備えることが好ましい。
【0060】
工程(i)では、分散液に連続的に上記力を加えることにより、連続的に固形物を得ることができる。即ち、バッチ生産ではなく、連続生産により固形物を形成できる。例えば、分散液を、図1〜図5に示すチャンバー1A〜1Eに連続的に供給し、当該チャンバーから固形物を連続的に排出すればよい。また例えば、分散液を方法Cで用いる第2の管体に連続的に供給し、当該管体から固形物を連続的に排出してもよい。
【0061】
この場合、チャンバーまたは管体を、供給口および排出口以外には物質が出入りする開口がない構造とすれば、チャンバーまたは管体に供給される分散液の質量と、チャンバーまたは管体から排出されるPTFE含有固形物との質量とを、実質的に同一とすることができる。このような連続製造の初期段階では、おそらくは分散液に十分な力が加わらないために、チャンバーなどから液体が排出されることがある。しかし、初期段階を脱し、分散液に十分な力が加わる安定した状態が一度達成されれば、その後、分散液はその全量がPTFE含有固形物へと変化する。これ以降、排出されたPTFE含有固形物からの蒸発により失われる微量の水などを除けば、供給される分散液と得られたPTFE含有固形物とは同じ質量となる。このように、本発明の製造方法によれば、固形分を含む液相の原料(分散液)の実質的に全てを固相一相の中間体(PTFE含有固形物)へと変化させることができる。
【0062】
工程(i)により得られる固形物、例えば、図1〜図5に示す排出口8、あるいは、方法Cに用いた第2の管体から排出された固形物は、変形させることができる。当該固形物に対する変形の形状および変形させる方法は特に限定されず、例えば、上記第1の管体を通過させることにより紐状の固形物を、スリットを通過させることによりシート状の固形物を得ることができる。あるいは、固形物を、押出成形に用いられる各種ダイ(口金)を通過させてもよく、ダイの形状を選択することにより、紐状、シート状などの様々な形状を有する固形物を得ることができる。紐状あるいはシート状などの形状に変形された固形物は、例えば、延伸、圧延などによる変形をさらに加えてもよい。
【0063】
工程(i)によれば、得られる固形物の形状の自由度を高くでき、例えば、得られる固形物の最小厚さを、20μm以上、製造条件によっては、20μmを超え、1mm以上、あるいは、2cm以上とすることが可能である。逆に、得られる固形物の最大厚さを、5cm以下とすることもできる。なお、固形物の厚さとは、例えば、固形物が紐状である場合には、その径を、固形物がシート状である場合には、その厚さを示す。
【0064】
得られる固形物の最小厚さ、最大厚さは、排出口8の径、排出口8に接続される上記第1の管体の(最小)内径、第2の管体の(最小)内径、固形物を変形させるためのダイの形状などを選択することにより、制御できる。例えば、最小内径が20μmを超える第1の管体を排出口8に接続することにより、最大厚さ(最大径)が20μmを超える固形物を得ることができる。
【0065】
本発明の製造方法における工程(ii)では、上記PTFE含有固形物をシート状に変形させる。固形物をシート状に変形させる方法は特に限定されず、例えば、固形物を、角状またはスリット状の断面を有する流路を通過させることによりシート状に変形させてもよい。この場合、流路の断面形状に対応した断面形状を有するシート状の固形物(以下、「シート状固形物」ともいう)を得ることができる。ここで、流路の断面形状とは、固形物の進行方向に直交する方向の断面を意味する。
【0066】
流路の断面形状は角状またはスリット状である限り特に限定されず、最終的に得たいPTFEシートの幅や厚さに応じて適宜設定すればよい。また、流路の通過によりシート状固形物が得られる限り、断面形状が角状やスリット状でない部分が流路の途中に存在していてもよい。また、回転する1対以上のロール間に固形物を通すなど、固形物を圧延することにより、シート状に変形させる方法も好適に採用できる。
【0067】
シート状固形物を得るための具体的な手段として、スリットダイ(Tダイ)を用いることができる。この場合、工程(i)において形成した固形物を、上記流路としてのスリットダイを通過させることにより、シート状に変形させればよい。
【0068】
図7は、固形物をシート状に変形させるためのダイがチャンバーに装着された、PTFEシート製造装置の模式図である。PTFEシート製造装置100は、図5で説明したチャンバー1Eと、そのチャンバー1Eの排出口8に取り付けられたスリットダイ20とを備える。チャンバー1Eに代えて、図1〜図4で説明したチャンバー1A〜1Dを採用することも可能である。チャンバー1A〜1Dを採用する場合、当該チャンバーにスリットダイ20を直接接続するようにしてもよいし、配管などの中継部材を介してチャンバーとスリットダイ20とを接続してもよい。
【0069】
図7に示す装置100によれば、チャンバー1Eの屈曲管18(または構造体5)で形成された固形物が、排出口8を経由してスリットダイ20(Tダイ)に送られる。スリットダイ20を通過した固形物は、シート状に変形する。このようにして得られるシート状固形物は、強度などの機械特性にも優れ、取り扱いも容易である。そのため、搬送を自動化できるとともに、このシート状固形物を乾燥させてPTFEシートとしたときの機械特性にも優れる。シート状固形物の強度が向上する理由は必ずしも明らかではないが、屈曲管18やスリットダイ20を通過する際に固形物に剪断力が作用し、固形物の表面にPTFE粒子同士がより強固に結合したスキン層が形成されるため、あるいは、変形により、PTFE粒子間で結着またはフィブリル化が促進されるため、ではないかと考えられる。
【0070】
また、図7の装置100を用いた製造方法によれば、PTFE粒子が互いに接近または接触する力を分散液に連続的に加えて固形物を形成しつつ、その固形物を直ちにシート状に変形させることができる。即ち、バッチ生産法ではなく、連続生産法とすることができる。また、チャンバー1Eおよび/またはスリットダイ20の構成によっては、チャンバー1Eに供給される分散液の質量と、スリットダイ20から排出されるシート状固形物の質量とを、実質的に同一とすることができる。
【0071】
スリットダイは、方法Cで用いる第2の管体に接続してもよい。
【0072】
即ち、工程(ii)では、工程(i)で形成した固形物を、チャンバーまたは管体に接続された、角状またはスリット状の断面を有する流路を通過させることにより、シート状に変形させてもよい。
【0073】
このとき、チャンバーまたは管体、ならびに流路の構成によっては、分散液をチャンバーまたは管体に連続的に供給し、シート状に変形させた固形物を流路から連続的に排出させることができ、場合によっては、チャンバーまたは管体に供給される分散液と、実質的に同じ質量の固形物を、流路から排出することができる。
【0074】
工程(iii)において、シート状固形物に含まれる水の量を低減させる方法は特に限定されず、例えば、シート状固形物を乾燥させればよい。乾燥の方法としては、例えば、加熱乾燥および風乾が挙げられる。加熱乾燥によりシート状固形物を乾燥させる場合、その条件は、シート状固形物の厚さなどに応じて適宜設定すればよく、例えば、シート状固形物を50℃〜200℃程度に昇温し、数秒〜1時間程度保持すればよい。
【0075】
工程(iii)(乾燥工程)を経て得られるPTFEシートは、そのまま最終製品としてもよいし、乾燥工程を行った後に、必要に応じて、圧延、延伸などの工程をさらに実施してもよい。即ち、水の含有量が減じられたシート状固形物を、圧延および/または延伸する工程を、工程(iii)の後にさらに実施してもよい。
【0076】
圧延工程は、回転する1対のロール間にPTFEシートを通し、所定の厚さに成形する工程である。延伸工程は、PTFEシートを1軸方向または2軸方向に所定倍率に引き延ばす工程である。両工程とも、乾燥工程を経て得たPTFEシートが、最終製品として要求されるスペック(例えば、厚さ、見掛け密度、機械的強度など)となるように調整する工程であり、乾燥工程と同時に行うこともできる。
【0077】
また、必要に応じて、乾燥工程、あるいは、圧延および/または延伸する工程を経たPTFEシートを、PTFEの融点以上の温度に加熱して焼成してもよい。即ち、水の含有量が減じられたシート状固形物を焼成する工程を、工程(iii)の後にさらに実施してもよい。焼成工程も、圧延、延伸工程と同様に、乾燥工程を経て得たPTFEシートが、最終製品として要求されるスペックとなるように調整する工程である。
【0078】
焼成工程の具体的な方法は特に限定されず、例えば、乾燥工程を経たシート状固形物を、電気炉内を移動させながら、PTFEの融点以上の温度(327℃〜400℃程度、好ましくは360℃〜380℃)にまで加熱すればよい。加熱の温度および時間は、シート状固形物の厚さなどに応じて適宜設定すればよい。
【0079】
本発明の製造方法によれば、例えば、最小厚さが20μm以上、工程(i)における固形物の製造条件などによっては、20μmを超え、1mm以上、あるいは、2cm以上のPTFEシートを得ることができる。
【0080】
本発明の製造方法では、工程(i)〜(iii)により得られるPTFEシートが、PTFEシールテープであってもよい。シールテープを得るためには、例えば、工程(ii)において、シールテープとして必要な形状(例えば帯状、あるいは、シールテープとして好適な厚さ)に固形物を変形させればよい。また例えば、工程(iii)の後に、シールテープとして必要な形状となるように、圧延および/または延伸する工程を実施したり、形状加工工程を実施したりすればよい。工程(ii)において、シールテープとして必要な形状となるように固形物を変形させるためには、例えば、図7に示すスリットダイ20のスリット幅を調整すればよい。
【0081】
本発明の方法によれば、その厚さが例えば0.05mm〜10mm(好ましくは0.08mm〜5mm)のPTFEシールテープを生産性よく製造することができる。工程(iii)の後で圧延工程や延伸工程を実施する場合は、製造されるPTFEシールテープの厚さ不足が生じないように、工程(ii)において、厚さ0.2mm〜20mm(好ましくは0.5mm〜10mm)のシート状固形物を準備しておいてもよい。
【0082】
本発明の製造方法における出発物質であるPTFE分散液について説明する。
【0083】
分散液におけるPTFE粒子の含有率は特に限定されないが、自己形状保持性と変形性とのバランスに優れる固形物を得るためには、例えば、その下限が40質量%以上であればよく、40質量%を超えることが好ましく、45質量%を超えることがより好ましく、50質量%以上、55質量%以上の順にさらに好ましい。また、分散液におけるPTFE粒子の含有率の上限は、分散液としての安定性および上記と同様の理由から、例えば、70質量%以下であればよく、65質量%以下がより好ましい。分散液に力を加える方法、条件などにもよるが、基本的に、分散液におけるPTFE粒子の含有率が大きくなるに従い、得られる固形物の自己形状保持性が向上し、PTFE粒子の含有率が小さくなるに従い、得られる固形物の変形性が向上する傾向を示す。
【0084】
本発明の製造方法によりPTFEシールテープを形成する場合、シールテープとなったときの見掛け密度の観点から、分散液におけるPTFE粒子の含有率は、40質量%〜70質量%の範囲が好ましく、50質量%〜65質量%の範囲がより好ましく、55質量%〜65質量%の範囲がさらに好ましい。
【0085】
PTFE粒子の平均粒径は、通常、0.05μm〜40μmの範囲であり、0.05μm〜4μmの範囲が好ましく、0.1〜1μmの範囲がより好ましく、0.2μm〜1μmの範囲がさらに好ましい。
【0086】
分散液における界面活性剤の含有率は特に限定されないが、自己形状保持性と変形性とのバランスに優れる固形物を得るためには、0.01質量%〜15質量%の範囲が好ましく、0.1質量%〜10質量%の範囲、1質量%〜9質量%の範囲、1.5質量%〜9質量%の範囲、および、2質量%〜7質量%の範囲の順に、より好ましい。界面活性剤の含有率が好ましい範囲にあれば、PTFE相と水相との分離を抑制しながら、PTFE含有固形物を得ることが容易となる。
【0087】
界面活性剤の種類は特に限定されず、例えば、炭化水素系骨格を有するカルボン酸塩などのアニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などのノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などを用いればよい。分散液の安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0088】
PTFEの融点近傍の温度において分解する界面活性剤を用いた場合、得られた固形物を焼成する際に界面活性剤が分解され、焼成工程を経たPTFEシート中に残留する界面活性剤の量を低減できる。
【0089】
分散液として、市販されているPTFEディスパージョンを用いてもよい。市販のPTFEディスパージョンとしては、例えば、旭硝子社製(元:旭硝子フロロポリマーズ社製)AD938、AD911、AD912、AD1、AD639、AD936などのADシリーズ、ダイキン工業社製D1、D2、D3などのDシリーズを用いればよい。これら市販のPTFEディスパージョンは、通常、界面活性剤を含んでいる。
【0090】
分散液は、PTFE粒子、水および界面活性剤以外の物質、例えば、フィラーを含んでいてもよい。分散液がフィラーを含む場合、シート状固形物を乾燥することにより、フィラーが分散したPTFEシートを得ることができる。
【0091】
フィラーの種類は特に限定されず、例えば、粉末状または繊維状のものを用いることができ、無機物であってもよいし有機物であってもよい。一般には、ガラス、カーボン、金属、セラミックなどの無機物を用いることが多い。例えば、PTFEシールテープに要求される特性の例として、電気伝導性や熱伝導性があるが、形成するシールテープの電気伝導性を向上させる観点からは、カーボンブラック、カーボン繊維、グラファイト粉末などの導電性カーボンを分散液に添加することが好ましく、熱伝導性を向上させる観点からは、例えば、窒化ホウ素などを分散液に添加することが好ましい。
【0092】
分散液がフィラーを含む場合、予め、分散液中にフィラーを均一に分散させておくことが好ましい。また、図2に示すチャンバー1Bを用いる場合には、混合弁9において、分散液と、フィラーが分散した水とを混合してもよい。
【0093】
分散液におけるフィラーの含有率は、通常、50質量%以下であり、30質量%以下が好ましい。フィラーの含有率が過大になると、固形物の形成が困難になることがある。
【0094】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、PTFE分散液からパウダーを凝析させるといった前処理を特に必要とせず、しかも連続的にPTFEシートあるいはPTFEシールテープを得ることができる。そのため、バッチ式が基本である従来の製造方法に比べて、本発明の製造方法は、より生産性に優れる。また、連続生産が可能であることから、長尺のPTFEシートあるいはPTFEシールテープを容易に製造することができる。また、本発明の製造方法は、非常にシンプルな装置で実施できるため、従来よりも設備費を大幅に抑えることが可能である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0096】
(実施例1)
実施例1では、分散液に、市販のPTFEディスパージョンである旭硝子社製AD938(PTFE粒子の含有率60質量%、界面活性剤の含有率3質量%、PTFE粒子の平均粒径0.3μm)を用い、図1に示すチャンバー1Aを用いてシート状固形物を形成し、形成した固形物を乾燥および焼成してPTFEシートを作製した。
【0097】
チャンバー1Aの内部空間2の容積(チャンバー1Aの内容積)は200cm3とし、チャンバー内に、円形の噴射口(0.25mmφ)を有する一対のノズル3a、3bを配置した。ノズルの先端における噴射口が形成された部分には、ダイヤモンドを用い、各々のノズルの噴射方向4a、4bが交わるようにノズル3a、3bを配置した。排出口8(円形、径10mm)には、断面の形状が円形である内径10mm、長さ1000mmの管体(第1の管体)を接続した。
【0098】
このようなチャンバー1Aに上記分散液を供給し、噴射圧を200MPaとして、ノズル3a、3bから分散液を噴射させた。分散液の供給量は約3L/分、チャンバー1Aに供給する分散液の温度(処理温度)は25℃とし、チャンバー1Aに対する加熱は特に行わなかった。
【0099】
噴射から数秒後、管体の先端から、紐状(円柱状)のPTFE含有固形物が排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体による支持なしに自らの形状を保持可能であった。
【0100】
続いて、管体における排出口8に接続されている端面とは反対側の端面に、固形物をシート状に成形するためのTダイ(ダイ幅320μm)を接続し、上記と同様に、ノズル3a、3bから分散液を噴射させた。チャンバー1Aへの分散液の供給は連続して行い、Tダイの吐出口の下には、ダイから吐出されるシート状固形物を連続的に受ける支持体としてアルミ箔を配置し、当該アルミ箔を2m/分の速度で移動させた。
【0101】
噴射から数秒後、ダイから、シート状に成形された固形物(幅5cm、厚さ500μm)がアルミ箔上に連続して排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体であるアルミ箔なしに自らの形状を保持可能であった。続いて、得られた固形物を、90℃で15分乾燥させた後、370℃で10分焼成させたところ、クラックなどの発生の無い、均一な厚さを有するPTFEシート(厚さ350μm)が得られた。
【0102】
同様のテストを、ノズルの噴射口の径を0.05mmφ〜0.5mmφの範囲、噴射圧を100MPa〜300MPaの範囲、分散液の供給量を0.3L/分〜30L/分の範囲で、それぞれ変化させて行ったところ、同様のPTFEシートを作製できた。
【0103】
(参考例1)
参考例1では、分散液に旭硝子社製AD938を用い、図4に示すチャンバー1Dを用いて紐状の固形物を形成し、形成した固形物を乾燥および焼成して、紐状のPTFE成形体を作製した。
【0104】
チャンバー1Dの内容積は200cm3とし、中子12a、12bの位置を調整することにより、スリット状の狭窄部の間隔dを0.1mmとした。排出口8(円形、径10mm)には、断面の形状が円形である内径1.6mm、長さ200mmの管体(第1の管体)を接続した。
【0105】
このようなチャンバー1Dに、245MPaに加圧した上記分散液を供給した。分散液の供給量は約0.5L/分、温度は25℃と、チャンバー1に対する加熱は特に行わなかった。
【0106】
分散液の供給を始めてから数秒後、管体の先端から、紐状(円柱状)のPTFE含有固形物が排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体による支持なしに自らの形状を保持可能であった。
【0107】
続いて、得られた固形物を、90℃で30分乾燥させた後、370℃で20分焼成させたところ、クラックなどの発生の無い、紐状(円柱状)のPTFE成形体(直径1.7mm)が得られた。
【0108】
同様のテストを、分散液の供給圧を100MPa〜300MPaの範囲、間隔dを1μm〜1mmの範囲で、それぞれ変化させて行ったところ、同様のPTFE成形体を作製できた。
【0109】
(参考例2)
参考例2では、分散液に旭硝子社製AD938を用い、図8に示す管体(第2の管体)21を用いて紐状のPTFE固形物を形成した。管体21は、分散液の流れを妨げるバリアとして、その一方の端部22の近傍にL字状の屈曲部23を有する。管体21の内径は10mm、長さは200mmとし、屈曲部23の位置は管体21の一方の端部22から30mmとした。
【0110】
このような管体21と、分散液の供給路26の末端に配置されたノズル25(円形の噴射口(0.15mmφ)を有する)とを、ノズル25が管体21の中心軸上に位置し、管体21の他方の端部24とノズル25との距離が5mmとなるように互いに配置した後(図8参照)、噴射圧を160MPaとして、ノズル25から分散液を管体21の内部に噴射させた。ノズル25への分散液の供給量は約0.5L/min、分散液の温度は25℃とし、管体21への加熱は特に行わなかった。
【0111】
噴射開始から数秒後、管体21の端部22から、紐状のPTFE含有固形物が排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体による支持なしに自らの形状を保持可能であった。
【0112】
同様の実験を分散液の噴射圧を変化させて行ったところ、当該噴射圧を200MPaおよび245MPaとした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0113】
同様の実験を、分散液におけるPTFE粒子の含有率を変化させて行ったところ、当該含有率を54質量%および48質量%とした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0114】
(参考例3)
参考例3では、分散液に旭硝子社製AD938を用い、図9に示す管体(第2の管体)31を用いて紐状のPTFE固形物を形成した。管体31は、分散液の流れを妨げるバリアとして、その一方の端部22の近傍にT字状の屈曲部27を有する。管体31の内径は10mm、長さ(一方の端部22から他方の端部24までの長さ)は200mmとし、屈曲部27の位置は管体31の一方の端部22から30mmとした。
【0115】
このような管体31と、分散液の供給路26の末端に配置されたノズル25(円形の噴射口(0.15mmφ)を有する)とを、ノズル25が管体31の中心軸上に位置し、管体31の他方の端部24とノズル25との距離が5mmとなるように互いに配置した後(図9参照)、噴射圧を245MPaとして、ノズル25から分散液を管体31の内部に噴射させた。ノズル25への分散液の供給量は約0.5L/分、分散液の温度は25℃と、管体31への加熱は特に行わなかった。
【0116】
噴射開始から数秒後、管体31の端部22から、紐状のPTFE含有固形物が排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体による支持なしに自らの形状を保持可能であった。このとき、端部22とともに「T字」の開放端部を構成する端部28からは、紐状のPTFE含有固形物は排出されなかった。上記噴射を複数回行ったところ、それぞれの場合において、端部22または端部28のいずれか一方の端部のみから紐状のPTFE含有固形物が排出された。
【0117】
同様の実験を分散液の噴射圧を変化させて行ったところ、当該噴射圧を200MPaとした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0118】
同様の実験を、分散液におけるPTFE粒子の含有率を変化させて行ったところ、当該含有率を54質量%および48質量%とした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0119】
(参考例4)
参考例4では、分散液に旭硝子社製AD938を用い、図10に示す管体(第2の管体)41を用いて紐状のPTFE固形物を形成した。管体41は、分散液の流れを妨げるバリアとして、その長さ方向の中央部に、内径が変化した狭窄部29を有する。管体41の長さは400mmとし、一方の端部22から長さ200mmの範囲の内径を2mm、他方の端部から長さ200nmの範囲の内径を10mmとした。即ち、管体41では、狭窄部29において、その内径が10mmから2mmへと変化することになる。
【0120】
このような管体41と、分散液の供給路26の末端に配置されたノズル25(円形の噴射口(0.15mmφ)を有する)とを、ノズル25が管体41の中心軸上に位置し、内径が10mmである管体41の端部24とノズル25との距離が5mmとなるように互いに配置した後(図10参照)、噴射圧を245MPaとして、ノズル25から分散液を管体41の内部に噴射させた。ノズル25への分散液の供給量は約0.5L/分、分散液の温度は25℃とし、管体41への加熱は特に行わなかった。
【0121】
噴射開始から数秒後、管体41の端部22から、紐状のPTFE含有固形物が排出され、排出された固形物は、水と界面活性剤とを内包し、支持体による支持なしに自らの形状を保持可能であった。
【0122】
同様の実験を分散液の噴射圧を変化させて行ったところ、当該噴射圧を200MPaとした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0123】
同様の実験を、分散液におけるPTFE粒子の含有率を変化させて行ったところ、当該含有率を54質量%および48質量%とした場合においても、同様のPTFE含有固形物を得ることができた。
【0124】
(実施例2)
実施例1において得られた乾燥前のシート状の固形物を、水の中に入れたまま放置したところ、365日経過した後も、当該固形物は、水の中に入れる前の形状を保持していた。
【0125】
また、実施例1において得られた乾燥前のシート状の固形物を、90℃で15分乾燥させた後、メッシュ1μmの篩に乗せて当該篩を振動させたが、粒子状の物体は得られなかった。
【0126】
(実施例3)
実施例3では、出発物質である分散液として、市販のPTFEディスパージョンであるダイキン社製D−2(PTFE粒子の含有率60質量%、界面活性剤の含有率6質量%)を用い、図5に示すチャンバー1Eを用いて紐状のPTFE含有固形物を形成し、当該固形物を圧延および乾燥してPTFEシールテープを作製した。
【0127】
チャンバー1Eの内部空間2の容積(チャンバー1Eの内容積)は30cm3とし、チャンバー内に、円形の噴射口(0.25mmφ)を有するノズル3を配置した。屈曲管18として、円筒状のL字管(内径φ18mm、長さ200mm(屈曲部18aは略中央))を用いた。
【0128】
このようなチャンバー1Eに上記分散液を供給し、噴射圧を230MPaとして、ノズル3から分散液を噴射させた。分散液の噴射量は、約0.5リットル/分とした。使用した分散液の温度は23℃であり、チャンバー1Eの温度制御は特に行わなかった。
【0129】
噴射開始から約20秒後、屈曲管18の先端から紐状の固形物(外径20mm)が排出され始めた。分析により、当該固形物が水および界面活性剤を内包しているのを確認した。
【0130】
次に、得られた紐状の固形物を60℃に加熱した2本の金属ロール間に、ロール間隔を変えながら3回通して圧延し、厚さ0.13mmのシート状固形物を得た。このシート状固形物を雰囲気温度150℃の乾燥炉内で3分間乾燥させ、PTFEシールテープ(厚さ100μm)を得た。
【0131】
(実施例4)
実施例3で用いたチャンバー1Eに、図7に示すようにスリットダイス20(スリット幅100mm、ギャップ2mm)を装着し、実施例3と同一条件で分散液を噴射した。そして、スリットダイス20の先端から排出されるシート状固形物を回収した。このシート状固形物を60℃に加熱した2本の金属ロール間に通し、厚さを0.15mmに調整した後、雰囲気温度150℃の乾燥炉内において、速度差が2倍の2対のロールで長さ方向に2倍延伸しつつ乾燥を行い、PTFEシールテープを得た。
【0132】
次に、実施例3、4で得たPTFEシールテープの特性を、JIS K 6885(2005)「シール用四フッ化エチレン樹脂 未焼成テープ(生テープ)」に準じて以下の測定によって調べた。結果を以下の表1に示す。併せて、表1の下欄に、JIS規格1種および2種を示す。
(1)厚さ(mm)
ダイヤルゲージ(接触面:直径10mm、荷重1N)を用いて測定した。
(2)見掛け密度(g/cm3
試験片の各サイズおよび質量を測定し、下記(式1)より見掛け密度を算出した。
ρ=m/(l×b×d) ・・・(式1)
ρ:見掛け密度(g/cm3
l:試験片の長さ(cm)
b:試験片の幅(cm)
d:試験片の厚さ(cm)
m:試験片の質量(g)
(3)引張り強さ(MPa)および伸び(%)
試験片を長さ約20cmで採取し、試験片の中央部に50mm間隔の標線をつける。テンシロン式引張り試験機を用い、引張り速度200mm/分の条件で試験を行い、切断時までの最大荷重と切れ始めたときの標線間隔を測定し、下記(式2)より引張り強さ、下記(式3)より伸びを算出した。
T=F/(b×d) ・・・(式2)
T:引張り強さ(MPa)
F:切断までの最大荷重(N)
b:試験片の幅(mm)
d:試験片の厚さ(mm)
E=100×(l2−l1)/l1 ・・・(式3)
E:伸び(%)
1:試験片の試験前の標線間隔(mm)
2:切れ始めたときの標線間隔(mm)
【0133】
【表1】

【0134】
表1に示すように、実施例3、4のPTFEシールテープは、いずれも、JIS規格2種を満足した。
【0135】
(比較例)
比較例では、分散液に旭硝子社製AD938を用い、キャスト法により、厚さ300μmのPTFEシートの作製を試みた。
【0136】
分散液をアルミ基板の表面に塗布(塗布厚:600μm)し、全体を120℃で15分乾燥させた後に、380℃で10分焼成したところ、基板上にシート状のPTFEが形成されたが、形成されたPTFEには無数のクラックが発生しており、シート状のまま基板から剥離することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、PTFE粒子の分散液を出発物質とする、PTFEシートおよびPTFE製シールテープの新規な製造方法を提供できる。本発明の製造方法によれば、PTFEシートおよびPTFE製シールテープを生産性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の製造方法に用いることができるチャンバーの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法に用いることができるチャンバーの別の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の製造方法に用いることができるチャンバーのまた別の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の製造方法に用いることができるチャンバーのさらにまた別の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の製造方法に用いることができるチャンバーの上記とは別の一例を示す模式図である。
【図6】図5に示すチャンバーでPTFE含有固形物が生成する様子を連続的に示す模式図である。
【図7】PTFE含有固形物をシート状に変形させるためのダイがチャンバーに装着された、本発明の製造方法を実施できる実施装置の一例を示す模式図である。
【図8】参考例に用いた第2の管体と、当該第2の管体によるPTFE含有固形物の形成方法を説明するための模式図である。
【図9】参考例に用いた第2の管体と、当該第2の管体によるPTFE含有固形物の形成方法を説明するための模式図である。
【図10】参考例に用いた第2の管体と、当該第2の管体によるPTFE含有固形物の形成方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0139】
1A、1B、1C、1D、1E チャンバー
2 内部空間
3、3a、3b ノズル
4、4a、4b 噴射方向
5 構造体
6、6a、6b 供給路
7 供給口
8 排出口
9 混合弁
10 球体
11 外周体
12a、12b 中子
13a、13b 上面
14 排出路
15 空隙
16a、16b 供給路
17a、17b 供給口
18 屈曲管
18a 屈曲部
19 固形物
20 スリットダイ
21 管体(第2の管体)
22 端部
23 屈曲部
24 端部
25 ノズル
26 供給路
27 屈曲部
28 端部
29 狭窄部
31 管体(第2の管体)
41 管体(第2の管体)
P 分散液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、前記粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水および前記界面活性剤を内包するポリテトラフルオロエチレン含有固形物を形成する工程と、
(ii)前記固形物をシート状に変形させる工程と、
(iii)シート状に変形させた前記固形物に含まれる前記水の量を低減させる工程と、を含むポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項2】
前記分散液をチャンバーまたは管体に供給し、前記チャンバーまたは管体内において前記力を加える請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項3】
前記分散液を、前記チャンバーまたは前記管体の内部に噴射して、前記力を加える請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項4】
前記分散液をノズルから噴射する請求項3に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項5】
前記管体が屈曲部または狭窄部を有する請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項6】
前記力を加えた前記分散液と実質的に同じ質量の前記固形物を形成する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項7】
付与された形状が保持される程度に前記粒子が結着してなり、かつ、前記形状が変形可能である程度に前記水を内包してなる前記固形物を形成する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項8】
水中で分散しない程度に前記粒子が結着してなる前記固形物を形成する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項9】
内包する水の量の減少による再粒子化が起きない程度に前記粒子が結着してなる前記固形物を形成する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項10】
前記固形物を圧延することにより、シート状に変形させる請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項11】
前記固形物を、角状またはスリット状の断面を有する流路を通過させることによりシート状に変形させる請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項12】
前記固形物を、前記チャンバーまたは前記管体に接続された、角状またはスリット状の断面を有する流路を通過させることによりシート状に変形させる請求項2に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項13】
前記分散液を前記チャンバーまたは前記管体に連続的に供給し、シート状に変形させた前記固形物を前記流路から連続的に排出する請求項12に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項14】
前記チャンバーまたは前記管体に供給される前記分散液と、実質的に同じ質量の前記固形物を、前記流路から排出する請求項13に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項15】
前記分散液が、フィラーをさらに含む請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項16】
シート状に変形した前記固形物を乾燥させて、当該固形物に含まれる前記水の量を低減させる請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項17】
前記水の含有量が減じられた前記固形物を、圧延および/または延伸する工程を、前記工程(iii)の後にさらに実施する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項18】
前記水の含有量が減じられた前記固形物を、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度に加熱して焼成する工程を、前記工程(iii)の後にさらに実施する請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項19】
前記工程(i)〜(iii)により得られるポリテトラフルオロエチレンシートが、ポリテトラフルオロエチレン製シールテープである請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレンシートの製造方法。
【請求項20】
(i)ポリテトラフルオロエチレン粒子と、界面活性剤と、分散媒である水とを含むポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液に、前記粒子が互いに接近または接触する力を加えることにより、前記水および前記界面活性剤を内包するポリテトラフルオロエチレン含有固形物を形成する工程と、
(ii)前記固形物をシート状に変形させる工程と、
(iii)シート状に変形させた前記固形物に含まれる前記水の量を低減させる工程と、を含むポリテトラフルオロエチレン製シールテープの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−114582(P2008−114582A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120245(P2007−120245)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】