説明

ポリテトラフルオロエチレン繊維及びその製造方法

【課題】単繊維の平均繊度が細くかつ繊度が均一であり、繊度分布が中央にピークを持つ1山分布であり、歩留まりが高く、かつ分枝構造が均一で安定化したPTFE繊維とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維は、PTFEの延伸フィルムを長さ方向に部分的にスリットした長繊維(1)であって、前記フィルムの長さ方向に沿って直線状、かつ幅方向にジクザグ状又は凹凸状にエンボス加工した後にスリットすることにより、前記長繊維(1)は部分的に解繊された単繊維(2)が規則正しく配列する網目構造(3)を含む。PTFE短繊維は前記の長繊維を切断することにより得られ、分枝構造を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTFE樹脂は、溶融粘度が極めて高く、またほとんどの溶剤に溶解しないために、一般的に採用されている溶融樹脂や樹脂溶液の押出紡糸のような方法で繊維を製造することができない。従って、従来から種々の特殊な製造方法が採用されてきている。下記特許文献1には、PTFE微粒子の水性分散液とビスコースとの混合液をエマルジョン紡糸した後、高温下でPTFEを焼結すると同時にビスコースを熱分解除去することによりPTFE繊維を製造する方法が提案されている。しかし、この方法によるPTFEの製造コストは高く、その一方で得られる繊維の強度が低く、従ってこの繊維を原料として得られる加工製品の強度も低いという問題がある。
【0003】
下記特許文献2及び下記特許文献3等には、PTFEのフィルムまたはシートを微小間隔でスリットした後、得られるテープを延伸して高強度のPTFE繊維を製造方法が提案されている。しかし、この方法ではスリットされ得られるテープの幅をその長さ方向に沿って一定に保つことが困難であり、またテープの端部分がフィブリル化するという問題がある。このため高度に延伸する工程で一部繊維が破断するという問題も発生する。
【0004】
下記特許文献4には、PTFE成形品の1軸延伸物、特に1軸延伸フィルムをピンロール針密度20〜100針/cm2のロールを用いて機械的な力により解繊することにより、分枝構造を有するPTFE繊維からなる綿状物の製造方法が提案されている。しかし、この方法によると、得られるPTFE繊維の長さは大部分150mm以下であり、PTFEの長繊維を得ることは困難であった。
【0005】
また、下記特許文献5には、PTFE成形品の1軸延伸フィルムを機械的な力により解繊することにより、分枝構造を有するPTFE繊維からなる綿状物の製造方法が提案されている。しかし、この方法によると得られるPTFE繊維の密度は2.15g/cm3を超える高比重のものとなり、最終製品として軽量なものを得ることは困難であった。
【特許文献1】米国特許第2,772,444号明細書
【特許文献2】米国特許第3,953,566号明細書
【特許文献3】米国特許第4,187,390号明細書
【特許文献4】日本特許第3079571号公報(米国特許第5,562,986号)
【特許文献5】WO96-00807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来のPTFE延伸フィルムを回転ピンロールに供給してPTFE繊維を製造する場合、単繊維の細繊化が困難であり、繊度が不均一で、供給フィルムの端部から発生するロスが多いという問題があった。また、長繊維の有する網目構造が不均一であり、このため長繊維を切断して得られる分枝性PTFE短繊維の分枝構造も不均一で安定しないという問題があった。
【0007】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、単繊維の平均繊度が細く、かつ繊度が均一であるPTFE繊維とその製造方法を提供する。さらにフィルムの全幅から繊維を作成することができ、歩留まりが高く、かつ分枝構造が均一で安定化したPTFE繊維とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維は、PTFEの延伸フィルムを長さ方向に部分的にスリットした長繊維であって、前記フィルムの長さ方向に沿って直線状、かつ幅方向にジクザグ状又は凹凸状にエンボス加工した後にスリットすることにより、前記長繊維は部分的に解繊された単繊維が規則正しく配列する網目構造を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の別のPTFE繊維は、前記の長繊維を切断することにより得られる分枝構造を含む短繊維であることを特徴とする。
【0010】
本発明のPTFE繊維の製造方法は、PTFEの延伸フィルムを長さ方向にスリット加工して長繊維を製造する方法であって、前記延伸フィルムの長さ方向に沿って直線状、かつ前記延伸フィルムの幅方向にジクザグ状又は凹凸状にエンボス加工し、その後、前記フィルムを植針された回転ピンロールに供給し、長さ方向に部分的にスリット加工することにより、部分的に解繊されて形成される単繊維が規則正しく配列する網目構造を含む長繊維を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、PTFEの一軸延伸フィルム又はニ軸延伸フィルムに、エンボス加工をした後にスリットヤーンとすることにより、単繊維の平均繊度が細く、かつ繊度が均一であり、繊度分布が中央にピークを持つ1山分布であるPTFE繊維とその製造方法を提供できる。また、フィルムの全幅から繊維を作成することができ、歩留まりが高く、かつ分枝構造が均一で安定化したPTFE繊維とその製造方法を提供できる。
【0012】
さらに本発明の製造方法によれば、特異な網目構造を有する高強度PTFE繊維を、簡便な工程で安定的に、しかも比較的低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の繊維はフィブリル構造を有するスリット繊維であり、幅方向に広げると単繊維が部分的に解繊して網目構造を形成する。すなわち、PTFEフィルムがスリット加工されて単繊維が網目状になった状態に解繊される。網目構造は、その一例を図1及び図2に示す通りである。図1及び図2の左側のスケールで示される数値はcmである。網目の大きさ及び形状は、スリット加工に供給するPTFEフィルムの延伸倍率、及びエンボス加工の際のエンボス形状により異なるが、その全体の形状は一定であり安定した形状の網目構造である。網目構造を形成する単繊維の長さは一例として3mm〜50mmの範囲、好ましくは5mm〜30mmの範囲である。また一例として一本の単繊維の大きさは長軸×短軸で10μm×7μm〜50μm〜20μmの範囲にある。
【0014】
本発明において、単繊維とは、それ以上分割不可能な繊維を意味する。長繊維を構成する場合には網目構造を構成する一つの繊維である。この長繊維を長さ方向と垂直に切断して得られる短繊維では、主鎖繊維と分岐繊維になる。
【0015】
本発明の長繊維は前記単繊維の集合体である。この長繊維の繊度は0.5dtex〜600dtexであることが好ましい。また本発明のスリット繊維の形状は偏平状であり厚さは5μm〜450μmであることが好ましい。より好ましくは、10μm〜400μmである。ここで偏平状とは、断面が方形でありリボン状のものをいう。
【0016】
本発明のPTFE繊維を構成する単繊維の平均繊度は4.5dtex以下、さらに好ましくは4dtex以下とすることができる。従来はエンボス加工していなかったため、5dtexを超える単繊維しか得られなかった。したがって本発明は、従来技術に比較して細繊化できる利点がある。
【0017】
また本発明は、PTFE繊維を構成する単繊維の繊度分布が中央にピークを持つ1山分布である。これにより、繊度の均一性が高いPTFE繊維を提供できる。ここで、繊度分布が中央にピークを持つ1山分布とは、多数の測定サンプル中で、平均繊度近辺のサンプル数が最も高く、平均繊度から離れるにしたがって順次サンプル数が減っていく分布をいう。
【0018】
本発明は乳化重合方法により得られたPTFEファインパウダーを原料として得られたPTFEの延伸フィルムに、その長さ方向及び幅方向の双方に連続したエンボス加工を施した後、このフィルムを回転ピンロールに供給し、機械的に解繊することにより技術的問題を解決するものである。
【0019】
PTFEフィルムは従来から知られている方法で製造することができる。即ち、PTFEファインパウダーと押出助剤である石油系オイルとの混合物をペースト押出方法によりロッド、バー、シートの形状の連続した押出物を成形し、次にこの押出成形品をカレンダリングロールを用いてフィルム状に圧延した後、圧延フィルムから溶剤抽出または加熱して押出助剤を除去することによりPTFEのオリジナルフィルムを得る。
【0020】
PTFEファインパウダーと押出助剤との重量混合比は通常80:20から77:23の範囲であり、ペースト押出しのリダクション比(RR)は500:1以下である。また、押出助剤の除去には加熱方法を採用することが多く、その温度は300℃以下、250℃〜280℃の温度が好ましい。
【0021】
本発明のPTFE繊維の構造は、基本的には前記オリジナルフィルムを延伸後、延伸フィルムに、その長さ方向及び幅方向の双方に連続したエンボス加工を施し、その後このフィルムを回転ピンロール供給し、スリット加工することにより解繊するが、その実施形態は次に示す様々の工程を含むものである。即ち、下記に示す例のプロセスなどである。
(1)オリジナルフィルム−延伸−エンボス加工−スリット加工
(2)オリジナルフィルム−延伸−熱処理−エンボス加工−スリット加工
(3)オリジナルフィルム−熱処理−延伸−エンボス加工−スリット加工
前記エンボス加工と前記スリット加工は、生産性の効率を考慮すると連続して行うことが好ましい。
【0022】
オリジナルフィルムの延伸は一軸方向であってもよいし、二軸方向であってもよい。
【0023】
一軸延伸の場合、フィルムの長さ方向(LD)の延伸倍率は4倍以上、好ましくは6倍以上である。延伸倍率を大きくすればするほど得られるPTFE繊維の強度は高くなる。
【0024】
二軸延伸の場合LDは4倍以上、好ましくは6倍以上であり、これと直交するフィルムの幅方向(TD)の延伸倍率は1.5倍以上5倍以下、好ましくは2倍以上3倍以下の範囲である。
【0025】
二軸延伸はLD方向、TD方向同時延伸、またはLD方向延伸後TD方向の延伸を行う二段延伸のいずれであってもよい。二軸延伸フィルムの解繊では比較的低密度のPTFE繊維を得ることが可能であり、繊維およびその加工品の容量当りの価格を低減できるという利点がある。
【0026】
エンボス加工後、次の解繊工程に供するPTFEフィルムは、未焼成、半焼成、又は焼成のいずれのフィルムでもよいが、生成したPTFEが塊状になり難いという取扱性の観点に立てば、半焼成又は焼成フィルムであることが好ましい。
【0027】
ここで未焼成、半焼成、焼成PTFEフィルムの性質の相違を、図11A〜Cに示すDSC(differential scanning calorimeter)による熱挙動のチャートにより説明する。
【0028】
図11Aは未焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートであり、327℃及び338℃付近のショルダーを持ち、吸熱の主ピークは347℃付近にある。
【0029】
図11Bは半焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートであり、327℃及び338℃付近のショルダーは消滅し、吸熱ピークは単一の347℃±2℃付近にある。この半焼成PTFEフィルムは、327℃〜350℃の温度範囲で熱処理するか、又は350℃以上で短時間熱処理することにより得られる。
【0030】
図11Cは焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートであり、吸熱ピークは単一の327℃付近にある。これはPTFE結晶の融解による吸熱ピークである。この焼成PTFEフィルムは、350℃以上、好ましくは370℃以上の温度で熱処理することにより得られる。
【0031】
解繊に供給するPTFEフィルムの厚さは5μm〜450μm、好ましくは10μm〜400μmである。
【0032】
エンボス加工のパターンは、延伸PTFEフィルムの長さ方向に直線的であり、また長さ方向及び幅方向の双方に連続的なものであればよい。前記直線状エンボス加工におけるジクザグ状又は凹凸状の山と隣の山のピッチ間隔が0.1mm〜1.5mmの範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.2mm〜1.0mm、とくに好ましくは0.3mm〜0.7mmの範囲である。前記直線状エンボス加工におけるジクザグ状又は凹凸状の高低差(頂点と底点の差)は0.2mm〜1mmの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.3mm〜0.8mmである。このようなエンボスは、エンボス加工用のロールを使用して付与することができる。
【0033】
本発明において、直線状エンボス加工の「直線状」とは、厳密な意味の直線ではなく、エンボス加工性が向上する程度の直線状であればよく、直線状の意味は広く解釈される。
【0034】
本発明における好ましいエンボスパターンの一例を挙げると、図3A−Bに示すとおりである。図3Aは、延伸PTFEフィルムの片面にエンボス痕を付与した例である。これは、図4で説明する弾性ロール32(ゴムロール)の硬度を高くし、線圧を低くすることで形成できる。図3Bは、延伸PTFEフィルムの両面にエンボス痕を付与した例である。これは、図4で説明する弾性ロール32(ゴムロール)の硬度を低くし、線圧を高くすることで形成できる。図3A−Bにおいて、矢印LDは延伸フィルムの長さ方向(巻き取り方向)、矢印TDは同フィルムの幅方向を示す。
【0035】
図4Aに本発明の一実施例におけるエンボス加工の概略工程図を示す。エンボス装置30のエンボスロール33は、所定のジグザグ又は凹凸模様を彫刻した鋼鉄製ロール31と、弾性ロール32で構成される。弾性ロール32は、弾力性のある圧縮ペーパーロール、圧縮コットンロール又はゴムロールであってもよい。PTFEフィルムは供給装置34から送り出し、鋼鉄製ロール31と弾性ロール32からなるエンボスロール33間を通過させることにより、PTFEフィルムに模様を付与し、巻き上げ装置35に巻き上げる。前記エンボス加工時におけるエンボスロールの線圧は、0.1〜1.5kg/cmの範囲であることが好ましい。エンボス加工の温度は室温(約25℃)でかまわない。
【0036】
図4Bは、鋼鉄製エンボスロール31の断面図とその拡大断面図である。この例においては、エンボスロールの表面はジクザグ状とし、山と隣の山のピッチ間隔Xを0.1mm〜1.5mm、高低差Yを0.2mm〜1mm、ジグザグの角度θを15°〜60°の範囲とする。
【0037】
エンボス加工を施した延伸PTFEフィルムを解繊すると、無理な解繊力が作用することなく、幅広フィルムの端部迄容易に解繊することが可能となり、また規則的な単繊維の網目が形成される。
【0038】
なお、エンボス加工を施した延伸PTFEフィルムを解繊した後の繊維には、前記エンボスローラの模様は残らない。
【0039】
次に、解繊によるPTFE長繊維の製造について説明する。長繊維とは、本発明では解繊に供給するPTFEフィルムと実質的に同等の長さの繊維であることを意味する。供給フィルムの長さはどのようなものであっても良いが、一例として長さ1,000m〜10,000m程度が実用的である。解繊には、ピンロール又は一対のピンロールが使用される。ピンロールの針径は0.3mm〜0.8mm、針の長さは0.5〜5mmのものを使用し、植針の密度は3〜25針/cm2、好ましくは3〜15針/cm2、さらに好ましくは4〜10針cm2である。植針密度が25針/cm2を越えると長繊維PTFEが得られず、生成繊維は50mm〜200mm程度の短繊維となる。ピンロール表面への針の植針配置の好ましい一例を図6に示すが、配置はこれに限定されるものではない。ピンロールの回転の周速は50〜500m/min、好ましくは60〜300m/minであり、延伸、エンボス加工PTFEフィルムの供給速度は10〜100m/min、好ましくは20〜60m/minである。
【0040】
PTFE短繊維は、その応用の目的、用途等に応じて、前記解繊処理で得られた網目構造を有するPTFE繊維を任意の長さに切断することにより製造することができる。短繊維とする場合は、長さ30mm〜100mm程度、好適には50mm〜80mm程度にカットすることが好ましい。この際、PTFE長繊維の網目構造は破断され、PTFE短繊維は図5に示すような分枝構造短繊維4となる。この分枝構造短繊維4の分枝5a〜5fはほぼ同一の長さであり、均一性が高かった。
【0041】
本発明のPTFE長繊維および短繊維は、耐熱性、化学的安定性等が要求される応用製品に加工することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0043】
(PTFEのオリジナルフィルムの製造)
乳化重合法で得られたPTFEファインパウダー80質量部に対してナフサ20質量部を混合し、この混合物をRR80:1の条件で角度60°のダイを通してペースト押出し、直径17mmの円形のバーを得た。この押出物を直径500mmの一対のロール間で圧延後、260℃の温度でナフサを除去した。得られたPTFEフィルムの長さは約250m、膜厚は0.2mm、幅は約260mmであった。
【0044】
(実施例1)
前記工程で得られたPTFEオリジナルフィルムをその長さ方向に延伸率12倍で一軸延伸後、このフィルムを380℃で3秒間の条件で熱処理し、膜厚0.2mm、幅260mmの焼成フィルムを得た。図3Aに示すエンボスパターンを有するエンボスロールと図4の装置を使用して、前記PTFEフィルムに山と隣の山のピッチ間隔Xが0.5mm、高低差Yが0.6mm、ジグザグの角度θが45°のジグザグ模様を付与した。
【0045】
前記エンボス加工時におけるエンボスロールの線圧は、0.8Kg/cmであった。エンボスは、長さ方向及び幅方向に連続的にかつフィルム全面に施されていた。
【0046】
次に前記PTFEフィルムを植針付き回転ロールに送り、スリット加工して解繊することにより、編目の長さ方向:幅方向の比がほぼ1:3のひし形状の網目構造を有するPTFE長繊維を得た。
【0047】
図6に本実施例におけるPTFE長繊維の製造装置を示す。この製造装置10は、フィルム供給ロール11からPTFEの延伸かつエンボス加工されたフィルム12を送り出し、回転ロール13の表面に針(ピン)14が植えられている植針付き回転ロール(ピンロール)15によりPTFEの延伸かつエンボス加工されたフィルム12を解繊して網目構造繊維16とし、次に各フィラメント(長繊維)21〜24にスリットし、ガイド17〜20を通過させて各巻き取り機25〜29で巻き取った。巻き取り機は、PTFEの延伸かつエンボス加工されたフィルム12から必要な繊度の長繊維とする設計に応じて任意の数とすることができる。
【0048】
植針付き回転ロール(ピンロール)は、針密度6針/cm2、針の長さ:5mm、ロールの直径50mm、図7における針A0とB0の距離(軸方向)は3mm、A0とA1の横方向(軸方向)の距離は0.5mm、A0とA1の縦方向(円周方向)の距離は3mmとした。A0〜A4は等間隔に斜行しており、A4とB0から始まる列とも等間隔で斜行している。
【0049】
解繊の条件はピンロールの周速200m/min、フィルムの供給速度30m/minであった。
【0050】
得られた長繊維フィラメントの繊度は13.3dtexであった。このフィラメントを取り出して幅方向に広げた時の網目構造を図1に示す。この網目を構成する単繊維の大きさは、長軸×短軸で示すと、12μm×8μm〜35μm×20μmであった。図1において、矢印LDは、フィルムの長さ方向(巻き取り方向)を示す。
【0051】
(実施例2)
オリジナルフィルムをその長さ方向に9倍の延伸率で一軸延伸し、他の条件は実施例1と同条件で熱処理、エンボス及び解繊することにより規則的な網目構造を有するPTFE長繊維を得た。
【0052】
(実施例3)
オリジナルフィルムをその長さ方向に6倍の延伸率で延伸すること及びエンボス加工の間隔を0.2mm、高低差0.3mmとすることを除き、他の条件は実施例1と同条件でPTFE長繊維の製造を行った。長繊維フィラメントの繊度は24.2dtexであり、規則的な網目構造を形成する単繊維の集合体であった。
【0053】
(比較例1)
エンボス加工を施さないことを除き、他の条件を実施例3と同条件でPTFE長繊維を得た。長繊維の繊度は42.3dtexで実施例3の約2倍の繊度であった。また、単繊維の網目構造は、図10に示すとおり、不定形な形状でその大きさもランダムなものであった。図10の符号は図1と同様であるので説明を省略する。
【0054】
(実施例4)
PTFEオリジナルフィルムをその長さに8倍、幅方向に3倍の延伸率でニ軸延伸し、他の条件は実施例1と同条件で熱処理、エンボス加工及び解繊してPTFE長繊維を得た。
【0055】
(実施例5)
PTFEオリジナルフィルムを、その長さ方向に6倍、幅方向に2倍の延伸率でニ軸延伸し、他の条件は実施例1と同条件でPTFE長繊維を得た。PTFE長繊維の繊度は7.8dtex、単繊維が形成する網目構造は、図2に示すとおり、編目の長さ方向:幅方向の比がほぼ1:1のひし形状のものであった。図2の符号は図1と同様であるので説明を省略する。
【0056】
得られた長繊維フィラメントの単繊維の繊度分布を測定すると、図8に示すグラフのとおりであった。側定数は50、平均繊度3.1dtex、最小繊度0.9dtex、最大繊度5.2dtex、標準偏差1.06dtexであり、中央にピークを持つ1山分布をしていた。
【0057】
次に説明する比較例2との対比からわかるように、本実施例の単繊維の平均繊度は細く、かつ繊度が均一であり、繊度分布が中央にピークを持つ1山分布であることが確認できた。
【0058】
(比較例2)
エンボス加工を施さないことを除き、他の条件は実施例5と同条件でPTFE長繊維を得た。PTFE長繊維フィラメントの繊度は32.6dtexであり、実施例5の約4倍の繊度であった。
【0059】
得られた長繊維フィラメントの単繊維の繊度分布を測定すると、図9に示すグラフのとおり2山ピークであった。側定数は50、平均繊度5.1dtex、最小繊度2.4dtex、最大繊度9.1dtex、標準偏差1.52dtexの不均一な繊度分布をしていた。また、単繊維の網目構造は、図10に示すとおり、不定形な形状でその大きさもランダムなものであった。
【0060】
以上説明した実施例1〜5、及び比較例1,2の結果を表1に示す。表1中、PTFE繊維の繊度、強度、伸度等はJIS L1015に従って評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から明らかなように、供給フィルムにエンボス加工を加えることにより、フィルムは容易に解繊、細繊度化され、より柔軟性のあるPTFE長繊維を得ることができる。また、ニ軸延伸フィルムも容易に解繊することが可能であり、ニ軸延伸フィルムの多孔度が高いため、一軸延伸フィルムの場合と比較して約20%以上低密度化された長繊維を製造することができる。
【0063】
さらに得られた長繊維をカッターにより繊維長を70mmに切断して得られる分枝構造を有する短繊維は、図5に示すようにその分枝数と長さは均一でなり、加工品を製造する場合、加工安定性が改善されるという利点がある。
【0064】
これに対し、エンボス加工がされていないフィルムを解繊した場合は、実施例3と比較例1、実施例5と比較例2から明らかなとおり、生成繊維の繊度が高くなった。また、生成繊維の風合いはやや硬くなる。また長繊維の有する網目構造はランダムであり、このため、これを切断して得られた短繊維の分枝数の分布が広くなり、短繊維の加工安定性が低下する。
【0065】
以上の他に、本発明の実施例品は、エンボス加工フィルムのスリット加工による解繊が、エンボス加工のないものに比べてより円滑に進むため、広幅フィルムの解繊も容易である。加えて、フィルムの端部まで有効利用が可能であり、長繊維製造時のロスが少なく、製品の歩留まりが高いという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のPTFE長繊維を切断した短繊維は分枝構造を有し、前記した以外に高耐熱性フェルト、プリント基板、電池セパレータ、バグフィルター等のウエブ材又はプリプレグ材として極めて有用である。
【0067】
本発明のPTFE長繊維は、これを撚糸して高強度の織布、縫合糸等として使用することができ、特に2軸延伸フィルムから得られる繊維は低密度化が可能であり、加工製品の軽量化および製造コストの低減にも有用である。
【0068】
本発明のPTFE長繊維の特徴の一つである網目構造は樹脂、オイル等を含浸させた加工製品の製造に有用である。撚糸や撚糸をさらに編組してなるシーリング材料において、これらに樹脂分散液、オイル等を含浸させる場合、シーリング材内部への浸透が助長され、含浸材料の保持力を向上させる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は本発明の実施例1における一軸延伸フィルムを使用したPTFE長繊維の網目構造を示す図。
【図2】図2は本発明の実施例5におけるニ軸延伸フィルムを使用したPTFE長繊維の網目構造を示す図。
【図3】図3A−Bは本発明の実施例1におけるエンボスバターンを示す図。
【図4】図4Aは本発明の一実施例におけるエンボス加工を示す概略工程図、図4Bはエンボスロールの断面図とその部分拡大断面図。
【図5】図5は本発明の一実施例におけるPTFE短繊維の構造を示す図。
【図6】図6は本発明の一実施例におけるPTFE長繊維の製造装置を示す工程図。
【図7】図7は本発明の一実施例におけるPTFE長繊維の製造に用いるピンロールの植針配置を示す図。
【図8】図8は本発明の実施例6で得られた長繊維フィラメントの単繊維の繊度分布を示すグラフ。
【図9】図9は比較例2で得られた長繊維フィラメントの単繊維の繊度分布を示すグラフ。
【図10】図10は本発明の比較例1及び2におけるエンボス加工をしない場合のPTFE長繊維の網目構造を示す図。
【図11】図11Aは未焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートである。図11Bは半焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートである。図11Cは焼成PTFEフィルムの熱挙動チャートである。
【0070】
1 網目構造長繊維
2 単繊維
3 網目
4 分枝構造短繊維
5a〜5f PTFE繊維の枝繊維
10 PTFE長繊維製造装置
11 フィルム供給ロール
12 PTFE延伸フィルム
13 回転ロール
14 針(ピン)
15 植針付き回転ロール(ピンロール)
16 網目構造長繊維
17 スリットされたPTFE長繊維
30 エンボス装置
31 彫刻した鋼鉄製ロール
32 弾性ロール
33 エンボスロール
34 供給装置
35 巻き上げ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の延伸フィルムを長さ方向に部分的にスリットした長繊維であって、
前記フィルムの長さ方向に沿って直線状、かつ幅方向にジクザグ状又は凹凸状にエンボス加工した後にスリットすることにより、前記長繊維は部分的に解繊された単繊維が規則正しく配列する網目構造を含むことを特徴とするPTFE繊維。
【請求項2】
前記PTFE繊維が、半焼成又は焼成PTFEである請求項1に記載のPTFE繊維。
【請求項3】
前記PTFE延伸フィルムは、一軸又は二軸延伸フィルムである請求項1に記載のPTFE繊維。
【請求項4】
前記一軸延伸フィルムが、フィルムの長さ方向に4倍以上延伸されている請求項3に記載のPTFE繊維。
【請求項5】
前記ニ軸延伸フィルムが、フィルムの長さ方向に4倍以上、及び幅方向に1.5〜5倍延伸されている請求項3に記載のPTFE繊維。
【請求項6】
前記PTFE長繊維の繊度は0.5dtex〜600dtexである請求項1〜5のいずれかに記載のPTFE繊維。
【請求項7】
前記PTFE繊維が偏平状であり、厚さが5μm〜450μmの範囲である請求項1〜6のいずれかに記載のPTFE繊維。
【請求項8】
前記PTFE繊維を構成する単繊維の平均繊度が4.5dtex以下である請求項1〜7のいずれかに記載のPTFE繊維。
【請求項9】
前記PTFE繊維を構成する単繊維の繊度分布が中央にピークを持つ1山分布である請求項1〜8のいずれかに記載のPTFE繊維。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかの長繊維を切断することにより得られる分枝構造を含む短繊維であることを特徴とするPTFE繊維。
【請求項11】
PTFEの延伸フィルムを長さ方向にスリット加工して長繊維を製造する方法であって、
前記延伸フィルムの長さ方向に沿って直線状、かつ前記延伸フィルムの幅方向にジクザグ状又は凹凸状にエンボス加工し、
その後、前記フィルムを植針された回転ピンロールに供給し、長さ方向に部分的にスリット加工することにより、部分的に解繊されて形成される単繊維が規則正しく配列する網目構造を含む長繊維を得ることを特徴とするPTFE繊維の製造方法。
【請求項12】
前記直線状エンボス加工におけるジクザグ状又は凹凸状の山と隣の山のピッチ間隔が0.1mm〜1.5mmの範囲である請求項11に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項13】
前記直線状エンボス加工におけるジクザグ状又は凹凸状の高低差が0.2mm〜1mmの範囲である請求項11又は12に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項14】
前記エンボス加工時におけるエンボスロールの線圧が0.1〜1.5kg/cmの範囲である請求項11〜13のいずれかに記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項15】
前記ピンロールの植針密度が3〜25針/cm2である請求項11に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項16】
前記ピンロールの周速が50〜500m/min、延伸、エンボス加工フィルムの送り速度が10〜100m/minである請求項11又は15に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項17】
前記延伸、エンボス加工フィルムを、回転植針ピンロールに供給して解繊した後、分繊して複数の巻き取り機で巻き取る請求項11〜16のいずれかに記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項18】
前記PTFE繊維が、半焼成又は焼成PTFEである請求項11〜17のいずれかに記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項19】
前記PTFE延伸フィルムは、一軸又は二軸延伸フィルムである請求項11〜18のいずれかに記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項20】
前記一軸延伸フィルムは、フィルムの長さ方向に4倍以上延伸して製造されている請求項19に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項21】
前記ニ軸延伸フィルムは、フィルムの長さ方向に4倍以上、及び幅方向に1.5〜5倍延伸して製造されている請求項19に記載のPTFE繊維の製造方法。
【請求項22】
請求項11〜21のいずれかに記載の製造方法により得られたPTFE長繊維をカッターにより切断して短繊維とし、分枝構造を含むPTFE短繊維を製造することを特徴とするPTFE繊維の製造方法。
【請求項23】
前記エンボス加工と、前記スリット加工を連続して行う請求項11〜22に記載のPTFE繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−124899(P2006−124899A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57913(P2005−57913)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(597001109)宇明泰化工股▲ふん▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】