説明

ポリビニルアルコールで安定化されたラテックスの製造方法

【課題】重合熱を効率的に放熱して、再分散粉末の製造に適した分散液に導く経済的な方法を開発する。
【解決手段】ポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液を乳化重合により製造するための方法において、重合の全転化率の少なくとも60%を温度100℃〜140℃で行うことを特徴とする方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールで安定化されたラテックスの製造方法、それにより製造されたポリマー粉末組成物及び水硬系でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルエステル、塩化ビニル、(メタ)アクリレートモノマー、スチレン、ブタジエン及びエチレンを基礎とする重合体は、とりわけ、その水性分散液の形又は水中に再分散可能なポリマー粉末の形で、多岐にわたる用途で、例えば種々異なる基体用の被覆剤又は接着剤として使用される。前記の重合体の安定化のために、保護コロイド又は非常に低分子の界面活性化合物が使用される。保護コロイドとしては、一般にポリビニルアルコールが使用される。
【0003】
これらの生成物は、特に水硬性接着剤、例えばセメント又は石膏を基礎とするタイル用接着剤におけるバインダーとして使用される。
【0004】
分散粉末の製造は、例えば水性ラテックスの噴霧乾燥又は凍結乾燥によって行われる。出発材料としては、乳化重合によって製造された分散液が用いられる。この場合に、安定化のために、主にポリビニルアルコールが使用される。その場合に、乳化重合に際して相当の熱量が放出され、それは水性媒体を介して反応器壁へ、そして次いでそこに隣接する冷媒へと運び去ることによって放熱せねばならない。乳化重合は、塊状重合又は溶液重合に対して、より良い伝熱挙動の点で優れている。それでもやはり、膨大なエネルギー量に基づき、製造に際して、重合温度を放熱の不足により予め規定された値を超えて増大させないためには時間的な制約がなされる。100℃を超える温度が通常予定されていないのは、それが、水の沸点に基づき、定圧反応器中でのみ実施できるにすぎないからである。更に、重合温度は、生成物の巨大分子的特性への大きな影響と、従って応用技術的特性への影響も想定される。大抵の場合に、これらの特性は、温度上昇に伴い低下する分子量によって不利な変化をこうむる。
【0005】
特許文献DE10335958号A1では、ポリマーラテックスの製造方法において、温度Tsで重合を開始し、そして温度Teで重合を終了させる方法が記載されている。その発明に必須なのは、油溶性開始剤の使用である。記載される分散液は、通常では、乳化剤で安定化されており、そしてこの形では分散粉末の製造には適さない。
【特許文献1】DE10335958号A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、重合熱を効率的に放熱して、再分散粉末の製造に適した分散液に導く経済的な方法を開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、重合をより高温で可能にするが、生成物の特性に悪影響を示さない方法を開発することによって解決できた。
【0008】
本発明の対象は、ポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液を乳化重合により製造するための方法において、重合の全転化率の少なくとも60%を温度100℃〜140℃で行うことを特徴とする方法である。
【0009】
驚くべきことに、本発明による方法では、僅かだけより低い分子量を有するポリマーが得られるが、それにもかかわらず必要要件の全てを満たした応用技術的特性がもたらされる。DE10335958号A1の場合にように、特定の開始剤供給及び開始剤種は必要なく、公知のように実施することができる。
【0010】
特に、通常の水溶性の開始剤を使用することができる。それというのも油溶性の開始剤は、乳化重合において、通常では、水相を介した輸送が悪いことを理由にあまり効率的でないからである。従って、その大きな利点は、本発明による方法が、所望の生成物を、その品質及び性能を損なうことなく実質的に経済的に製造することを可能にすることにある。
【0011】
驚くべきことに、140℃を超える温度では、安定剤としてポリビニルアルコールを用いると、分散液は得られないか、あるいは非常に不安定な分散液が得られることも判明した。
【0012】
前記の驚くべき効果についての理由は、2つの可能な説明が存在する。140℃を超える温度では、緩衝された系においても、通常のように部分鹸化されたポリビニルアルコールのを完全鹸化されたポリビニルアルコールに鹸化されることが起こりうる。完全鹸化されたポリビニルアルコールは、当業者に公知のように、明らかに安定性が悪い。更に、前記の温度では、使用されるポリビニルアルコールの種類に応じて混濁点に達することがある。第二の説明は、この混濁点では、ポリビニルアルコールは完全に又は部分的に水相から沈降し、そしてもはや安定化することはない。両者の効果は、組合せにおいても生じる。それというのも完全鹸化されたポリビニルアルコールは、一般に、部分鹸化されたポリビニルアルコールより低い混濁点を有するからである。
【0013】
100℃を下回る温度では、それに対して、重合工程についての作業時間は相当に延長されるので、この温度範囲は、作業経済的理由からあまり適しているとは言えない。
【0014】
冷却容量Kは、方程式(1)
K=ΔT*U*W (1)
によって記載できる。冷却容量は、ΔTと熱伝達係数U並びに、とりわけ熱容量を有する定数Wに比例している。ΔTは、方程式(2)
ΔT=Tr−Tk (2)
に従って算出される。本発明による方法は、反応器温度Trと冷却水温度Tkとの間のΔTがより大きい結果として、放熱媒体中により良好な熱輸送を可能にする。
【0015】
ベースポリマーに適したビニルエステルは、1〜15個の炭素原子を有するカルボン酸のビニルエステルである。有利なビニルエステルは、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニル−2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、1−メチルビニルアセテート、ビニルピバレート及び、9〜13個の炭素原子を有するα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)又はVeoVa10(登録商標)(Resolutions Europe BV社(オランダ・Hoogvliet在)の商品名)である。特にビニルアセテートが好ましい。
【0016】
ベースポリマーに好適なメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのエステル、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノルボルニルアクリレートである。メチルアクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート及び2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0017】
ベース重合体に適したオレフィン及びジエンは、エチレン、プロピレン及び1,3−ブタジエンである。好適なビニル芳香族化合物は、スチレン及びビニルトルエンである。好適なビニルハロゲン化物は、塩化ビニルである。
【0018】
場合により、ベースポリマーの全質量に対して更に0.05〜50質量%、有利には1〜10質量%の補助モノマーが共重合されてよい。補助モノマーのための例は、エチレン性不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸、有利にはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸及びマレイン酸;エチレン性不飽和のカルボン酸アミド及びカルボン酸ニトリル、有利にはアクリルアミド及びアクリルニトリル;フマル酸及びマレイン酸のモノエステル及びジエステル、例えばジエチルエステル及びジイソプロピルエステル並びに無水マレイン酸、エチレン性不飽和のスルホン酸もしくはそれらの塩、有利にはビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸である。更なる例は、予備架橋性コモノマー、例えば多エチレン性不飽和のコモノマー、例えばジビニルアジペート、ジアリルマレエート、アリルメタクリレート又はトリアリルシアヌレート、又は後架橋性コモノマー、例えばアクリルアミドグリコール酸(AGA)、メチルアクリルアミドグリコール酸メチルエステル(MAGME)、N−メチロールアクリルアミド(NMA)、N−メチロールメタクリルアミド(NMMA)、N−メチロールアリルカルバメート、アルキルエーテル、例えばイソブトキシエーテル又はN−メチロールアクリルアミドの、N−メチロールメタクリルアミドの、N−メチロールアリルカルバメートのエステルである。またエポキシ官能性コモノマー、例えばグリシジルメタクリレート及びグリシジルアクリレートも適している。更なる例は、ケイ素官能性のコモノマー、例えばアクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン及びメタクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)シラン、ビニルトリアルコキシシラン及びビニルメチルジアルコキシシランであり、その際、アルコキシ基として、例えばメトキシ基、エトキシ基及びエトキシプロピレングリコールエーテル基が含まれていてよい。また、ヒドロキシ基又はCO基を有するモノマー、例えばメタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル及びアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、例えばヒドロキシエチル−、ヒドロキシプロピル−もしくはヒドロキシブチル−アクリレート又はメタクリレート並びにジアセトンアクリルアミド及びアセチルアセトキシエチル−アクリレートもしくは−メタクリレートのような化合物が挙げられる。
【0019】
有利には、本発明による方法では、ビニルアセテート−単独重合体、ビニルアセテートとエチレンとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及び1種以上の他のビニルエステルとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及びアクリル酸エステルとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及び塩化ビニルとの混合重合体、スチレン−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体を含む群から選択される単独重合体又は根号重合体が使用される。
【0020】
ビニルアセテート−単独重合体;ビニルアセテートと1〜40質量%のエチレンとの混合重合体、ビニルアセテートと1〜40質量%のエチレン及び、カルボン酸基中に1〜12個の炭素原子を有するビニルエステル、例えばビニルプロピオネート、ビニルラウレート、9〜13個の炭素原子を有するα位で分枝したカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9、Veova10、Veova11(Resolutions Europe BV社(オランダ・Hoogvliet在)の商品名)の群からの1種以上の他のコモノマー1〜50質量%との混合重合体、ビニルアセテート、1〜40質量%のエチレン及び有利には1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレート1〜60質量%の混合重合体、並びに30〜75質量%のビニルアセテート、ビニルラウレート又は9〜11個の炭素原子を有するα位で分枝したカルボン酸のビニルエステル1〜30質量%及び1〜15個の炭素原子を有する非分枝鎖状又は分枝鎖状のアルコールのアクリル酸エステル、特にn−ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレート1〜30質量%を有し、更に1〜40質量%のエチレンを有する混合重合体;ビニルアセテート、1〜40質量%のエチレン及び1〜60質量%の塩化ビニルを有する混合重合体が好ましく、その際、これらの重合体は、更に前記の補助モノマーを前記の量で含有してよく、かつ質量%の表記は加算して、それぞれ100質量%とする。
【0021】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体、例えばn−ブチルアクリレート又は2−エチルヘキシルアクリレートの混合重合体又はメチルメタクリレートとn−ブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレート及び場合によりエチレンとの共重合体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートの群からの1種以上のモノマーを有するスチレン−アクリル酸エステル−共重合体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート及び場合によりエチレンの群からの1種以上のモノマーを有するビニルアセテート−アクリル酸エステル−共重合体;スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体が好ましく、その際、これらの重合体は、更に前記の補助モノマーを前記の量で含有してよく、かつ質量%の表記は加算して、それぞれ100質量%とする。
【0022】
モノマーの選択あるいはコモノマーの質量割合の選択は、この場合に、一般に−50℃〜+50℃、有利には−30℃〜+40℃のガラス転移温度Tgが得られるように行われる。該重合体のガラス転移温度Tgは、公知のように、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。Tgは、Foxの式によって近似的に見積もることもできる。Fox T.G.,Bull.Am.Physics Soc.1,3,第123頁(1956)によれば、方程式(3)
1/Tg=x1/Tg1+x2/Tg2+…+xn/Tgn (3)
[式中、
xnは、モノマーnの質量分率(質量%/100)を表し、かつ
Tgnは、モノマーnの単独重合体のケルビンでのガラス転移温度である]
が適用される。単独重合体についてのTg値は、Polymer Handbook 2nd Edition,J.Wiley&Sons,New York(1975)に挙げられている。
【0023】
単独重合体及び混合重合体の製造は、乳化重合法に従って行われ、その際、重合開始温度は、一般に、しかしながら必須ではないが100℃未満である。重合の全転化率の少なくとも60%、有利には少なくとも70%、特に有利には少なくとも80%は、温度100℃〜140℃で行われる。
【0024】
重合の開始は、乳化重合に一般に用いられる水溶性の開始剤又はレドックス開始剤組合せを用いて行われる。水溶性の開始剤のための例は、ペルオキソ二硫酸のナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩、過酸化水素、t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ペルオキソ二リン酸カリウム、t−ブチルペルオキソピバレート、クメンヒドロペルオキシド、イソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド アゾビスイソブチロニトリルである。前記の開始剤は、一般に、それぞれモノマーの全質量に対して0.001〜0.02質量%、有利には0.001〜0.01の量で使用される。
【0025】
レドックス開始剤としては、前記の開始剤と還元剤との組合せが使用される。好適な還元剤は、アルカリ金属及びアンモニウムの亜硫酸塩及び重亜硫酸塩、例えば亜硫酸ナトリウム、スルホキシル酸の誘導体、例えば亜鉛又はアルカリのホルムアルデヒドスルホキシル酸塩、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム及びアスコルビン酸である。還元剤の量は、一般に、それぞれモノマーの全質量に対して、0.001〜0.03、有利には0.001〜0.015質量%である。
【0026】
分子量の制御のために、重合の間に、調節物質を使用することができる。調節剤を使用する場合に、かかる剤は、通常は、重合されるべきモノマーに対して0.01〜5.0質量%の量で使用され、それは反応成分と別々に又はそれと事前に混合して供給される。かかる物質の例は、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸メチルエステル、イソプロパノール及びアセトアルデヒドである。
【0027】
適した保護コロイドは、ポリビニルアルコール;ポリビニルアセタール;ポリビニルピロリドン;水溶性形の多糖類、例えばデンプン(アミロース及びアミロペクチン)、セルロース及びそのカルボキシメチル誘導体、メチル誘導体、ヒドロキシエチル誘導体、ヒドロキシプロピル誘導体;タンパク質、例えばカゼイン又はカゼイン塩、大豆タンパク質、ゼラチン;リグニンスルホネート;合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートとカルボキシ官能性のコモノマー単位との共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸及びその水溶性コポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホネート、ナフタリンホルムアルデヒドスルホネート、スチレンマレイン酸コポリマー及びビニルエーテルマレイン酸コポリマーである。
【0028】
部分鹸化又は完全鹸化された、加水分解度80〜100モル%を有するポリビニルアルコール、特に部分鹸化された、加水分解度80〜95モル%を有し、かつヘップラ粘度(4%の水溶液中)1〜30mPas(DIN53015:1978−09に従うヘップラ(Hoeppler)による20℃での方法)を有するポリビニルアルコールが好ましい。また、部分鹸化された、疎水修飾された、加水分解度80〜95モル%を有し、かつヘップラ粘度(4%の水溶液中)1〜30mPasを有するポリビニルアルコールも好ましい。このための例は、ビニルアセテートと疎水性のコモノマー、例えばイソプロペニルアセテート、ビニルピバレート、ビニルエチルヘキサノエート、5又は9〜11個の炭素原子を有する飽和のα位で分枝したモノカルボン酸のビニルエステル、ジアルキルマレイネート及びジアルキルフマレート、例えばジイソプロピルマレイネート及びジイソプロピルフマレート、塩化ビニル、ビニルアルキルエーテル、例えばビニルブチルエーテル、オレフィン、例えばエテン及びデセンとの部分鹸化された共重合体である。疎水性単位の割合は、部分鹸化されたポリビニルアルコールの全質量に対して、有利には0.1〜10質量%である。また前記のポリビニルアルコールの混合物を使用することもできる。
【0029】
最も有利には、加水分解度85〜94モル%と、ヘップラ粘度(4%の水溶液中)3〜15mPas(DIN53015:1978−09に従うヘップラによる20℃での方法)を有するポリビニルアルコールである。前記の保護コロイドは、当業者に公知の方法により得ることができ、一般に、該保護コロイドは、重合に際して、モノマーの全質量に対して全体で1〜20質量%の量で添加される。
【0030】
乳化剤の存在下に重合させる場合には、その量は、モノマー量に対して1〜5質量%である。好適な乳化剤は、アニオン系、カチオン系の乳化剤と同様に、非イオン系の乳化剤でもあり、例えばアニオン系界面活性剤、例えば8〜18個の炭素原子の鎖長を有するアルキルスルフェート、疎水性基中に8〜18個の炭素原子を有し、かつ40個までのエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位を有するアルキルエーテルスルフェート又はアルキルアリールエーテルスルフェート、8〜18個の炭素原子を有するアルキルスルホネート又はアルキルアリールスルホネート、スルホコハク酸と一価のアルコール又はアルキルフェノールとのエステル及び半エステル、又は非イオン系界面活性剤、例えば8〜40個のエチレンオキシド単位を有するアルキルポリグリコールエーテル又はアルキルアリールポリグリコールエーテルである。
【0031】
本発明による方法は、有利には乳化剤の不存在下に実施される。
【0032】
重合の完了後に、残留モノマーの除去のために、この用途で知られた方法で後重合させてよく、一般にレドックス触媒により開始された後重合によって行ってよい。揮発性の残留モノマーは、蒸留によって、有利には減圧下で、かつ場合により不活性なエントレイナーガス(Schleppgasen)、例えば空気、窒素又は水蒸気を重合混合物の中に又は上に導きつつ除去することもできる。こうして得られた水性分散液は、30〜75質量%、有利には50〜60質量%の固体含量を有する。
【0033】
水中に再分散可能なポリマー粉末組成物は、本発明による方法によって得られたポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液の引き続いての乾燥によって得られる。その乾燥は、乾燥助剤として保護コロイドを用いて又は添加せずに行ってよい。乾燥法は、例えば流動層乾燥、凍結乾燥又は噴霧乾燥である。有利には、ポリマー粉末組成物の製造は、本発明による方法により得られたポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液の噴霧乾燥によって行われる。
【0034】
噴霧乾燥は、この場合に、通常の噴霧乾燥装置中で行われ、その際、噴霧は、1成分、2成分又は多成分ノズルを用いて又は回転ディスクを用いて実施することができる。出口温度は、一般に、装置と樹脂のTgと所望の乾燥度に応じて、45℃〜120℃の範囲、有利には60℃〜90℃の範囲で選択される。
【0035】
一般に、乾燥助剤(保護コロイド)は、分散液のポリマー成分割合に対して3〜30質量%の全量で使用される。つまり、乾燥工程前の保護コロイドの全量は、ポリマー割合に対して、3〜30質量%で使用され、有利にはポリマー成分割合に対して5〜20質量%で使用される。
【0036】
適した乾燥助剤は、部分鹸化されたポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;水溶性形の多糖類、例えばデンプン(アミロース及びアミロペクチン)、セルロース及びそのカルボキシメチル誘導体、メチル誘導体、ヒドロキシエチル誘導体、ヒドロキシプロピル誘導体;タンパク質、例えばカゼイン又はカゼイン塩、大豆タンパク質、ゼラチン;リグニンスルホネート;合成ポリマー、例えばポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレートとカルボキシ官能性のコモノマー単位との共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルスルホン酸及びその水溶性コポリマー;メラミンホルムアルデヒドスルホネート、ナフタリンホルムアルデヒドスルホネート、スチレンマレイン酸コポリマー及びビニルエーテルマレイン酸コポリマーである。有利には、ポリビニルアルコールとは別の保護コロイドを乾燥助剤として使用せず、その際、保護コロイドとして有利なポリビニルアルコールは、有利には乾燥助剤としても使用される。
【0037】
噴霧において、しばしば、ベースポリマーに対して1.5質量%までの消泡剤の含量が有利であると見なされる。特に低いガラス転移温度を有する粉末の場合に、ブロッキング安定性の改善により貯蔵性を高めるために、得られた粉末をブロッキング防止剤又は凝結防止剤と、ポリマー成分の全質量に対して有利には30質量%までで混合することができる。ブロッキング防止剤のための例は、有利には10nm〜10μmの範囲の粒度を有する炭酸カルシウムもしくは炭酸マグネシウム、タルク、石膏、ケイ酸、カオリン、ケイ酸塩である。
【0038】
噴霧されるべき供給物の粘度は、固体含量を介して、500mPas(20回転及び23℃でのブルックフィールド粘度により測定)未満、有利には250mPas未満の値が得られるように調整される。噴霧されるべき分散液の固体含量は、少なくとも35%、有利には少なくとも40%である。
【0039】
応用技術的特性の改善のために、噴霧に際して他の添加剤を添加することができる。有利な実施態様で含まれる分散粉末組成物の他の成分は、例えば顔料、充填剤、気泡安定剤、疎水化剤である。
【0040】
水中に再分散可能な本発明によるポリマー粉末組成物は、それに典型的な利用分野で使用できる。例えば建築化学的製品中で、場合により水硬性バインダー、例えばセメント、例えばポルトランドセメント、アルミン酸塩セメント、トラスセメント(Trasszement)、スラグセメント、マグネシアセメント、リン酸塩セメント並びに石膏及び水ガラスと組み合わせて、建築用接着剤、特にタイル用接着剤及び断熱用接着剤(Vollwaermeschutzkleber)、プラスター、ナイフフィラー(Spachtelmasse)、床用ナイフフィラー(Fussbodenspachtelmasse)、レベリング材(Verlaufsmasse)、封止スラリー、目地モルタル及びペイントの製造のために使用することができる。有利な利用分野は、高層建築及び地表工事構築物用の並びにトンネル壁の内張り用の吹き付け用モルタル及び吹き付け用コンクリートである。
【実施例】
【0041】
分散液D1:120℃でのVAE(ビニルアセテート−エチレン−コポリマー)
圧力オートクレーブ中で、脱イオン水134kgと、鹸化度88モル%及びヘップラによる粘度4mPasを有するポリビニルアルコールの水溶液92kgと、ビニルアセテート227kgとを装入する。pH値を、ギ酸により約4.0に調整し、次いで、1%の硫酸アンモニウム鉄500gを添加する。引き続きそのオートクレーブを55℃に加熱し、そして圧力8バールにまでエチレンを満たす。重合は、3%のt−ブチルヒドロペルオキシド溶液と5%のアスコルビン酸溶液を添加することによって開始させる。反応温度は、放出される重合熱を用いて目標温度120℃にまで高める。エチレン圧力は、温度を高めることで増大させ、それは85℃で38バール、120℃で55バールである。100℃に達した時に、転化率は35%である。反応開始から30分後に、60分以内に、ビニルアセテート57kgと、鹸化度88モル%及びヘップラによる粘度4mPasを有するポリビニルアルコールの水溶液35kgとを計量供給する。反応が完了した後に、オートクレーブを冷却し、そして残りのエチレンを排出する。コポリマー組成は、92質量%のビニルアセテートと8質量%のエチレンである。
【0042】
分散液D2:135℃でのVAE
実施例1と同様。しかしながら、温度は、135℃まで高める。
【0043】
分散液D3(比較例):150℃でのVAE
実施例1と同様。しかしながら、温度は、150℃まで高める。分散液は、冷却に際して凝集する。
【0044】
分散液D4(比較例):80℃でのVAE
実施例1と同様。しかしながら、温度は、80℃までしか高めない。
【0045】
分散液D5:135℃での純粋なアクリレート
オートクレーブ中で、脱イオン水140kgと、鹸化度88モル%及びヘップラによる粘度4mPasを有するポリビニルアルコールの水溶液130kgと、ブチルアクリレート78kgと、メチルメタクリレート58kgとを装入する。pH値を、ギ酸により約4.0に調整し、次いで、10%の硫酸アンモニウム鉄100gを添加する。引き続きオートクレーブを65℃にまで加熱する。重合は、3%のt−ブチルヒドロペルオキシド溶液と5%のアスコルビン酸溶液を添加することによって開始させる。反応温度は、放出される重合熱を用いて目的温度135℃にまで高める。100℃に達した時に、転化率は40%である。反応開始から30分後に、60分以内に、ブチルアクリレート78kgとメチルメタクリレート58kgを計量供給する。反応が完了した後に、オートクレーブを冷却する。コポリマー組成は、60質量%のブチルアクリレート及び40質量%のメチルメタクリレートである。
【0046】
分散液D6(比較例):80℃での純粋なアクリレート
実施例5と同様。しかしながら、温度は、80℃までしか高めない。
【0047】
分散液D7(比較例):
DE10335958号A1の第11頁〜第13頁の段落[0064]〜[0070]の分散液例と同様に実施する。
【0048】
粉末P1〜P7
これらの粉末は、前記の分散液を、鹸化度88モル%及びヘップラによる粘度4mPasを有するポリビニルアルコール8質量%を添加しつつ噴霧乾燥させることによって製造した。次いで分散液を2成分ノズルを用いて噴霧した。噴霧成分として、4バールに事前に圧縮された空気を用い、形成された小滴を125℃に加熱された空気を用いて並流で乾燥させた。得られた乾燥粉末を、商慣習のブロッキング防止剤の炭酸カルシウムマグネシウム10質量%と混合した。
【0049】
試験:
易流動性(RF)の測定:
易流動性は、堆積円錐(Schuettkegel)の形成を介して視覚的によってのみ評価した。
【0050】
耐ブロッキング性(BF)の測定:
耐ブロッキング性の測定のために、分散粉末をねじ込み口金を有する鉄管中に充填し、次いで金属製ポンチで負荷をかけた。負荷をかけた後に、乾燥棚において50℃で16時間貯蔵した。室温に冷却した後に、該粉末を管から取り出し、耐ブロッキング性を定性的に粉末の圧壊によって測定した。耐ブロッキング性は、以下のとおり階級付けした:
1〜3 = 非常に良好な耐ブロッキング性
4〜6 = 良好な耐ブロッキング性
7〜8 = 十分な耐ブロッキング性
9〜10 = 耐ブロッキング性なし;粉末は圧壊後にはもはや易流動性でない。
【0051】
沈降挙動(RA)の測定:
再分散液の沈降挙動を、粉末の再分散可能性の尺度として用いる。再分散液は、高剪断力の作用によって水中50%で作製した。沈降挙動を、次いで希釈された再分散液(0.5%固体含量)で測定した。このために、この分散液100mlを目盛管中に充填し、そして固体の沈降高さを測定する。結果は、24時間後のmmの沈降で報告される。7より大きな値は、粉末の不十分な再分散を示している。
【0052】
再分散粉末の易流動性(RF)と耐ブロッキング性(BF)と沈降挙動(RA)の試験結果を第1表にまとめる。
【0053】
第1表
【表1】

【0054】
*本発明による
これらのデータから、粉末特性は、本発明による実施例1、2及び5では非常に良好であることが確認できる。
【0055】
再分散粉末で変性されたセメント含有タイル用接着剤の剥離強さの測定:
タイル用接着剤における剥離強さは、以下の配合で試験した(3%のポリマー割合):
珪砂 565部
ポルトランドセメント 400部
セルロース 5部
再分散粉末 30部
3種の貯蔵条件による剥離強さを測定した:
28T: 28日の乾式貯蔵
7T/21N: 7日間乾燥/21日間湿潤(湿式貯蔵)
14T/14T+70℃/1T: 14日乾燥/70℃で14日乾燥/1日乾燥
【0056】
剥離強さ試験の結果を、第2表にまとめる。
【0057】
第2表
【表2】

【0058】
*本発明による
粉末P7は、再分散性の不足のために試験しなかった。
【0059】
試験結果により、応用技術的特性も、本発明による方法によって、実施例1、2及び5で、不利な変化を受けないことが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液を乳化重合によって製造する方法において、重合の全転化率の少なくとも60%を、温度100℃〜140℃で行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、重合の全転化率の少なくとも70%を行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、重合の全転化率の少なくとも80%を行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法において、重合を乳化剤の不存在下に実施することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法において、使用される単独重合体又は混合重合体が、ビニルアセテート−単独重合体、ビニルアセテートとエチレンとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及び1種以上の他のビニルエステルとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及びアクリル酸エステルとの混合重合体、ビニルアセテートとエチレン及び塩化ビニルとの混合重合体、スチレン−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体を含む群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法によって得られるポリビニルアルコールで安定化されたポリマー分散液の乾燥によって得られる、水中に再分散可能なポリマー粉末組成物。
【請求項7】
請求項6記載の水中に分散可能なポリマー粉末組成物を、建築化学的製品において、水硬性のバインダー、セメント、石膏及び水ガラスと組み合わせて用いる使用。
【請求項8】
請求項6記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物を、建築用接着剤、タイル用接着剤及び断熱用接着剤、プラスター、ナイフフィラー、床用ナイフフィラー、レベリング材、封止スラリー、目地モルタル及びペイントを製造するために用いる使用。
【請求項9】
請求項6記載の水中に再分散可能なポリマー粉末組成物を、高層建築及び地表工事構築物用の並びにトンネル壁の内張り用の吹き付け用モルタル及び吹き付け用コンクリートのために用いる使用。

【公開番号】特開2007−138175(P2007−138175A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311542(P2006−311542)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(300006412)ワッカー ポリマー システムズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (29)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Polymer Systems GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Johannes−Hess−Strasse 24, D−84489 Burghausen, Germany
【Fターム(参考)】