説明

ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩及びその製造方法

【解決手段】 式(1)で示されるポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩。
【化1】


(−[O−X−O]−は、式(2)で示され、R2,R3,R4,R8,R9はハロゲン、アルキル又はフェニル、R5,R6,R7は水素、ハロゲン、アルキル又はフェニル、−[Y−O]−は式(3)で示され、R10,R11はハロゲン、アルキル又はフェニル、R12,R13は、水素、ハロゲン、アルキル又はフェニル、Zは2価の有機基で、酸素原子を含んでいてもよい。Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、R1は式(4)の基、a,bは0〜100の整数、c,dは0〜20の整数。)
【化2】


【効果】 本発明のスルホン酸塩は、熱可塑性樹脂の改質剤として有用で、難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤として使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の改質剤として、難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤等に有用な、新規なポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂に難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤等として配合される改質剤は種々知られているが、更に新規な改質剤が望まれる。
即ち、特開平8−302120号公報(特許文献1)には、極性基としてのスルホン酸塩基を有する熱可塑性樹脂の記述があるが、実施例においては無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル使用の記載があるのみで、その具体的な構造、製造方法については触れていない。
更に、特開2003−213125号公報(特許文献2)では、極性基変性ポリフェニレンエーテルをポリアミド系樹脂とポリスチレン系樹脂との相溶化剤として使用しており、極性基の一例としてスルホン酸塩基が例示されている。実施例においては、上記文献と同様に無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルの記述があるが、ラジカル変性によって製造していることから、この構造はポリフェニレンエーテル骨格を形成する末端フェノールの2−メチル位に極性基を導入したものと考えられ、酸変性率は2%以下と計算される。更に、固有粘度0.47dl/gのポリフェニレンエーテルを原料としていることから、その分子量は重量平均分子量=2万程度のポリマーと推定される。
【0003】
【特許文献1】特開平8−302120号公報
【特許文献2】特開2003−213125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤等として熱可塑性樹脂に配合される新規ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、本発明に到達したもので、本発明は、下記構造式(1)で示されるポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩、及び、下記構造式(8)で示されるポリフェニレンエーテルオリゴマー体の両末端エポキシ基と、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、二亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウムから選択される化合物とを、極性有機溶剤中、水の存在下で反応させることを特徴とする下記構造式(1)のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩の製造方法を提供する。
【0006】
【化1】

(式中、−[O−X−O]−は、下記構造式(2)で示され、R2,R3,R4,R8,R9は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R5,R6,R7は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−[Y−O]−は、下記構造式(3)で定義される1種類の構造、又は下記構造式(3)で定義される2種類以上の構造がランダムに配列したものである。R10,R11は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R12,R13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。Zは、炭素数1〜6の2価の有機基であり、酸素原子を含んでいてもよい。R1は、下記構造式(4)で示される基を必須に有するものであるが、R1の一部が水素原子又はグリシジル基であってもよく、Mはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属である。a,bは0〜100の整数を示す。c,dは0〜20の整数を示す。)
【0007】
【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明の新規ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩は、熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の改質剤として有用であり、難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤等として使用することができる。また、本発明の製造方法によれば、このオリゴマー体のスルホン酸塩を容易かつ確実に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩は、下記構造式(1)で示される。
【0010】
【化3】

(式中、−[O−X−O]−は、下記構造式(2)で示され、R2,R3,R4,R8,R9は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R5,R6,R7は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−[Y−O]−は、下記構造式(3)で定義される1種類の構造、又は下記構造式(3)で定義される2種類以上の構造がランダムに配列したものである。R10,R11は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R12,R13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。Zは、炭素数1〜6の2価の有機基であり、酸素原子を含んでいてもよい。R1は、下記構造式(4)で示される基を必須に有するものであるが、R1の一部が水素原子又はグリシジル基であってもよく、Mはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属である。a,bは0〜100の整数を示す。c,dは0〜20の整数を示す。)
【0011】
【化4】

【0012】
ここで、R2〜R13におけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、フッ素等が例示され、炭素数6以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等が例示されるが、好ましくは、上記構造式(2)の−[O−X−O]−において、R2,R3,R4,R8,R9は炭素数3以下のアルキル基、R5,R6,R7は水素原子又は炭素数3以下のアルキル基、上記構造式(3)の−[Y−O]−において、R10,R11は炭素数3以下のアルキル基、R12,R13は水素原子又は炭素数3以下のアルキル基である。
【0013】
特に好ましくは上記構造式(2)の−[O−X−O]−において、R2,R3,R4,R7,R8,R9をメチル基、R5,R6を水素原子とした下記構造式(5)で示される構造、及び、上記構造式(3)の−[Y−O]−において、R10,R11をメチル基、R12を水素原子又はメチル基、R13を水素原子とした下記構造式(6)もしくは下記構造式(7)又は下記構造式(6)と下記構造式(7)がランダムに配列した構造を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩である。
【0014】
【化5】

【0015】
また、−[Z]−の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6の2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基等が挙げられ、これらのアルキレン基は−O−が介在又はR1側末端に結合していてもよい。
【0016】
なお、R1の50〜100モル%、好ましくは80〜100モル%は、上記構造式(4)で示される基であり、残りは水素原子又はグリシジル基である。Mはアルカリ金属又はマグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属であるが、ナトリウム及び/又はカリウムであることが好ましい。a,bは、好ましくはa+bが0〜50、特に好ましくはa+bが0〜10であり、c,dは、好ましくは0〜10、特に好ましくは0である。
【0017】
本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩の製造方法は、下記構造式(8)で示される両末端エポキシ基ポリフェニレンエーテルオリゴマー体を使用するが、この下記構造式(8)で表される両末端にエポキシ基を有する2官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー体(以下、OPE−2Glyと記す)は、下記構造式(9)又は下記構造式(10)で表される2官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー体(以下、2官能OPEと記す)を、エピクロロヒドリン等のハロゲン化グリシジルと塩基の存在下で脱ハロゲン化水素反応させることにより得られる。
【0018】
【化6】

(a,b,c,d並びにZ及びR2〜R13は上記の通り。)
【0019】
本発明で用いられる2官能OPEとは、上記構造式(9)又は上記構造式(10)で表される構造のものであれば特に限定されない。上記構造式(9)で示される2官能OPEは、例えば、特開2003−12796号公報に記載の2価のフェノールと1価のフェノールとをアミンの存在下で共重合する方法などで得ることができる。
【0020】
なお、−[Z]−として、例えば、−(CH2mO−、−(CH2CHR14O)−を導入して、上記構造式(10)で示される2官能OPEを製造する方法について説明する。−(CH2mO−の場合は、上記構造式(9)で表される2官能OPEと下記構造式(11)で示されるハロゲン化アルコールとを、アルコール、エーテル、ケトン等の適当な溶剤中、水酸化カリウム、炭酸カリウム、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属塩存在下で反応させることにより導入することができる。また、−(CH2CHR14O)−の場合は、例えば特公昭52−4547号公報に記載の方法により、上記構造式(9)で表される2官能OPEと下記構造式(12)で表されるアルキレンオキサイドとを、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤中、水酸化カリウム、ナトリウムエトキシド、トリエチルアミン等のアルカリ触媒存在下で反応させることにより導入することができる。
【0021】
【化7】

(式中、Qは塩素、臭素又はヨウ素を示し、mは2〜6の整数を示す。)
【0022】
【化8】

(式中、R14は水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0023】
本発明の中間体であるOPE−2Glyを製造するには、上記構造式(9)又は上記構造式(10)で表される2官能OPEを用いるが、反応液から分離した粉末又は反応液に溶解した形のどちらでも用いることができる。
【0024】
グリシジル化に用いるハロゲン化グリシジルとしては特に限定されないが、入手しやすさ等の理由でエピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンが好ましい。その使用量は上記構造式(9)又は上記構造式(10)の2官能OPE1モルに対して1〜100モル、特に5〜60モルの範囲とすることが好ましい。
【0025】
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウムなどが使用できる。その使用量は、上記構造式(9)又は上記構造式(10)の2官能OPE1モルに対して0.1〜10モル、特に1〜4モルの範囲とすることが好ましい。
【0026】
脱ハロゲン化水素反応を行う反応温度としては、−10℃〜120℃の間で行うことが好ましい。
【0027】
反応終了後は、水で洗浄して副生した塩を除去した後、過剰のハロゲン化グリシジルを減圧留去することで、OPE−2Glyを固体で得ることができる。
【0028】
本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩は、上記方法によって得られたOPE−2Glyの両末端エポキシ基をスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化することによって製造することができる。エポキシ基のスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、二亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウムから選択される化合物を用いることが好ましく、この場合、エポキシ基に対するスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬中の硫黄元素のモル比(S/エポキシ基)を1.0以上とすることが好ましく、更には1.0〜1.2の範囲とすることがより好ましい。
【0029】
また、この製造は有機溶剤中で行うことが好ましく、そのような有機溶剤としては、中間体であるOPE−2Glyを溶解又は分散可能なものであれば制限はないが、OPE−2Glyの溶解性、スルホン酸アルカリ(土類)金属塩化反応の進行のしやすさ、及び生成物であるポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ(土類)金属塩の分散性からは有機極性溶剤を用いることが好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
更に、この製造は上記したスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬を溶解し、反応性を高めるために水の存在下で行うことが好ましく、特に二亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウムをスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬として使用する場合には、これらを亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムヘと転化させるために水の使用は必須とされる。また、反応効率を高めるために、更に触媒量の亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等を併用することは任意とされる。
【0031】
従って、実際の製造処方例としては、中間体であるOPE−2Glyを有機極性溶剤に溶解させ、ここに所定量のスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬と上記触媒の水溶液を滴下して、所定時間の反応を行う方法が挙げられる。ここで、上記の滴下、反応時の温度としては、室温〜還流条件下で行うことができるが、反応をより容易に進行させるためには50℃以上の加熱条件下で行うことが好ましく、更には還流条件下で反応させることがより好ましい。また、反応時間に関しても特に限定はされないが、1〜20時間、より好ましくは還流条件下で2〜8時間反応させることで、エポキシ基をスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化することができる。
【0032】
反応が進行するに従って、生成物であるポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ(土類)金属塩が不溶化して粒状物が析出し、反応液は懸濁状態となる。反応終了後は、反応液中の水、有機極性溶剤を留去することによって粗生成物を得ることができ、そのまま仕上げることも可能であるが、粗生成物から水洗によって残存するスルホン酸アルカリ(土類)金属塩化試薬を取り除いたり、有機溶剤洗浄によって未反応の中間体オリゴマーを溶解除去することで、より純度の高い生成物を得ることができるし、生成物を有機系樹脂の添加剤として供する場合には、残存する水、有機溶媒を減圧乾燥によって取り除き、粉砕を行って微粉末状として仕上げることが好ましい。
【0033】
本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩は、各種の熱可塑性樹脂、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスルホン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の改質剤として有用であり、難燃化剤、相溶化剤、帯電防止剤等として使用することができる。
【0034】
熱可塑性樹脂に改質剤として添加する方法は特に限定されず、従来公知の方法が適用できるが、本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩を、例えば、熱可塑性樹脂粉末と混合する方法、熱可塑性樹脂の溶融物と混練する溶融混練法、熱可塑性樹脂を溶剤に溶解させた溶液に分散させた後、適宜溶剤を除去する方法等が挙げられる。
一般的には、熱可塑性樹脂と本発明のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸塩、及び必要に応じて用いられるその他の添加成分とを配合し、溶融混練することによって改質された熱可塑性樹脂を得ることができる。
該配合、混練工程においても、従来のゴムやプラスチックのための装置と方法が利用でき、例えば、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、コニーダ、多軸スクリュー押出機などを用いる方法により目的物を製造することができる。このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物は、既知の各種成形方法、例えば、射出成形法、中空成形法、押出成形法、圧縮成形法、真空成形法、カレンダー成形法、回転成形法などを適用して、家電分野の成形品をはじめとして、各種成形品を製造するのに供することができる。
【実施例】
【0035】
以下、合成例と実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、得られた化合物の同定及び分析は以下に示した方法で実施した。
【0036】
(1)2官能OPE、OPE−2Glyの構造は、1H−NMR、13C−NMR、及び、IR分析によって同定した。
(2)2官能OPE、OPE−2Glyの数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと記す)法により求めた。試料のGPC曲線と分子量校正曲線よりデータ処理を行った。分子量校正曲線は、標準ポリスチレンの分子量と溶出時間の関係を以下の式に近似して得た。
LogM=A03+A12+A2X+A3+A4/X2
(ここで、M:分子量、X:溶出時間−19(分)、A0〜A4:係数である。)
(3)2官能OPEの水酸基当量は、2,6−ジメチルフェノールを標準物質とし、乾燥ジクロロメタンに溶解させてIR分析(液セル法;セル長=1mm)を行い、3,600cm-1の吸収強度より求めた。
(4)OPE−2Glyは、IR分析により、原料として用いた2官能OPEのフェノール性水酸基のピーク(3,600cm-1)が消滅していることから、フェノール性水酸基がグリシジル化されていることを確認した。
(5)実施例によって得られたポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩は、硝酸で分解後、ICP−AESに供して絶対検量法によりS元素、及び、Na元素又はK元素の含有量を測定した。
【0037】
[合成例1]
(2官能OPE(A)の合成)
撹拌装置、温度計、空気導入管、じゃま板を取り付けた容量20Lの縦長反応器に塩化銅(I)13g、ジ−n−ブチルアミン795g、トルエン6,000gを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予め6,000gのメタノールに溶解させた2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール418gと2,6−ジメチルフェノール915gとの混合溶液(2価のフェノールと1価のフェノールのモル比率1:5)を2L/分で空気のバブリングを行う一方、150分かけて滴下しながら撹拌を行った。これにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。その後、1Nの塩酸水溶液、次いでイオン交換水で洗浄を行った。得られた溶液をエバポレイターで濃縮し、2官能OPE(A)の50質量%トルエン溶液2,560gを得た。得られた2官能OPE(A)をGPC法で測定した結果、数平均分子量は980、重量平均分子量は1,510であった。また、水酸基当量は490g/molであった。
【0038】
[合成例2]
(OPE−2Gly(A)の合成)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を取り付けた容量5Lの反応器を100℃まで加熱し、上記で得られた2官能OPE(A)の50質量%トルエン溶液800gとエピクロロヒドリン2,100gとを仕込んだ。その後、ナトリウムエトキシド23質量%のエタノール溶液201gを滴下漏斗から1時間かけて滴下し、更に滴下終了後、5時間の撹拌を行った。反応混合物をイオン交換水で洗浄後、有機層を分液した。得られた溶液からトルエン及び過剰のエピクロロヒドリンを留去し、更に減圧乾燥を行い、OPE−2Gly(A)430gを得た。得られたOPE−2Gly(A)をGPC法で測定した結果、数平均分子量は1,040、重量平均分子量は1,650であった。また、エポキシ当量は515g/molであった。
【0039】
[実施例1]
(ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸ナトリウム塩(A)の合成)
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1Lのフラスコに、上記で得られたOPE−2Gly(A)206gとメチルイソブチルケトン481gとを仕込み、室温下で1時間撹拌して溶解し、均一溶液とした。フラスコ内を加熱して内温80〜90℃を保ちながら、亜硫酸水素ナトリウム43.7gと亜硫酸ナトリウム2.5gとイオン交換水115.5gからなる水溶液を1時間かけて滴下し、続けて還流条件下に5時間撹拌して反応させた。
【0040】
これを130℃のオイルバス中で加熱して水とメチルイソブチルケトンとをほぼ留去した後、室温まで冷却してから再度メチルイソブチルケトン400gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、メチルイソブチルケトンに溶解する未反応のOPE−2Gly(A)を除去した。更に、ケーキ状のメチルイソブチルケトン未溶解物をアセトンで洗浄した後、イオン交換水500g中に添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存する亜硫酸水素ナトリウムと亜硫酸ナトリウムを水溶液として除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10mmHgの減圧下、80℃で6時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して黄白色微粉末210gを得た。
【0041】
このようにして得られたポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸ナトリウム塩(A)は、前記構造式(1)〜(4)において、R2,R3,R4,R7,R8,R9,R10,R11をメチル基、R5,R6,R12,R13を水素原子とし、Mがナトリウム、a+b=6、c=0、d=0である構造を有し、このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=4.9質量%(理論値=5.2質量%)、Na元素含有量=3.6質量%(理論値=3.7質量%)であった。
【0042】
[実施例2]
(ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(A)の合成)
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計と滴下ロートを取り付けた容量1Lのフラスコに、上記で得られたOPE−2Gly(A)204gとプロピレングリコールモノメチルエーテル476gとを仕込み、80℃で1時間撹拌して溶解し、均一溶液とした。フラスコ内を加熱して内温80〜90℃を保ちながら、二亜硫酸カリウム46.7gと亜硫酸カリウム3.2gとイオン交換水138gからなる水溶液を1時間かけて滴下し、続けて還流条件下に5時間撹拌して反応させた。
【0043】
これを140℃のオイルバス中で加熱して水とプロピレングリコールモノメチルエーテルとをほぼ留去した後、室温まで冷却してから再度プロピレングリコールモノメチルエーテル400gを添加し、60℃で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、プロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解する未反応のOPE−2Gly(A)を除去した。更に、ケーキ状のプロピレングリコールモノメチルエーテル未溶解物をアセトンで洗浄した後、イオン交換水600g中に添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存する二亜硫酸カリウムと亜硫酸カリウムを水溶液として除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10mmHgの減圧下、80℃で6時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して黄白色微粉末216gを得た。
【0044】
このようにして得られたポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(A)は、前記構造式(1)〜(4)において、R2,R3,R4,R7,R8,R9,R10,R11をメチル基、R5,R6,R12,R13を水素原子とし、Mがカリウム、a+b=6、c=0、d=0である構造を有し、このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=4.7質量%(理論値=5.1質量%)、K元素含有量=5.8質量%(理論値=6.2質量%)であった。
【0045】
[合成例3]
(2官能OPE(B)の合成)
撹拌装置、温度計、空気導入管、じゃま板を取り付けた容量20Lの縦長反応器に臭化銅(II)14g、ジ−n−ブチルアミン354g、メチルエチルケトン4,000gを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予め4,000gのメチルエチルケトンに溶解させた2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール270g、2,6−ジメチルフェノール244gの混合溶液(2価のフェノールと1価のフェノールのモル比率1:2)を2L/分で空気のバブリングを行う一方、150分かけて滴下しながら撹拌を行った。これにエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム水溶液を加え、反応を停止した。その後、1Nの塩酸水溶液、次いでイオン交換水で洗浄を行った。得られた溶液をエバポレイターで濃縮し、更に減圧乾燥を行い、2官能OPE(B)490gを得た。得られた2官能OPE(B)をGPC法で測定した結果、数平均分子量は520、重量平均分子量は790であった。また、水酸基当量は260g/molであった。
【0046】
[合成例4]
(OPE−2Gly(B)の合成)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を取り付けた容量5Lの反応器を100℃まで加熱し、上記で得られた2官能OPE(B)300gとエピクロロヒドリン2,100gとを仕込んだ。その後、ナトリウムエトキシド23質量%のエタノール溶液201gを滴下漏斗から1時間かけて滴下し、更に滴下終了後、5時間の撹拌を行った。反応混合物をイオン交換水で洗浄後、有機層を分液した。得られた溶液から過剰のエピクロロヒドリンを留去し、更に減圧乾燥を行い、OPE−2Gly(B)340gを得た。得られたOPE−2Gly(B)をGPC法で測定した結果、数平均分子量は590、重量平均分子量は890であった。また、エポキシ当量は350g/molであった。
【0047】
[実施例3]
(ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(B)の合成)
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1Lのフラスコに、上記で得られたOPE−2Gly(B)175gと酢酸イソブチル408gとを仕込み、80℃で1時間撹拌して溶解し、均一溶液とした。フラスコ内を加熱して内温80〜90℃を保ちながら、二亜硫酸カリウム58.4gと亜硫酸カリウム4.0gとイオン交換水172.4gからなる水溶液を1時間かけて滴下し、続けて還流条件下に5時間撹拌して反応させた。
【0048】
これを140℃のオイルバス中で加熱して水と酢酸イソブチルとをほぼ留去した後、室温まで冷却してからアセトン400gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、アセトンに溶解する未反応のOPE−2Gly(B)を除去した。更に、ケーキ状のアセトン未溶解物をアセトンで洗浄した後、イオン交換水500g中に添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存する二亜硫酸カリウムと亜硫酸カリウムを水溶液として除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10mmHgの減圧下、80℃で6時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して黄白色微粉末202gを得た。
【0049】
このようにして得られたポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(B)は、前記構造式(1)〜(4)において、R2,R3,R4,R7,R8,R9,R10,R11をメチル基、R5,R6,R12,R13を水素原子とし、Mがカリウム、a+b=2、c=0、d=0である構造を有し、このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=6.7質量%(理論値=6.8質量%)、K元素含有量=8.3質量%(理論値=8.3質量%)であった。
【0050】
[合成例5]
(OPE−2Gly(C)の合成)
撹拌装置、温度計、滴下漏斗を取り付けた容量5Lの反応器に2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール118.3g、メチルエチルケトン118.3g及びエピクロロヒドリン1,350gを仕込み、100℃で加熱撹拌して溶解させた。その後、ナトリウムエトキシド20質量%のエタノール溶液313gを滴下漏斗から1時間かけて滴下し、更に滴下終了後、5時間の撹拌を行った。反応混合物をイオン交換水で洗浄後、水/メタノール(質量比1/1)混合溶液中に投入して固体を析出させ、これを濾過した。更に水/メタノール(質量比1/1)混合溶液で洗浄後、減圧乾燥を行い、OPE−2Gly(C)141gを得た。得られたOPE−2Gly(C)をGPC法で測定した結果、数平均分子量は395であった。また、エポキシ当量は196g/molであった。
【0051】
[実施例4]
(ポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(C)の合成)
撹拌装置、冷却コンデンサー、温度計、滴下ロートを取り付けた容量1Lのフラスコに、上記で得られたOPE−2Gly(C)98gと酢酸イソブチル392gとを仕込み、80℃で1時間撹拌して溶解し、均一溶液とした。フラスコ内を加熱して内温80〜90℃を保ちながら、二亜硫酸カリウム66.7gと亜硫酸カリウム4.0gとイオン交換水195.6gからなる水溶液を1時間かけて滴下し、続けて還流条件下に5時間撹拌して反応させた。
【0052】
これを140℃のオイルバス中で加熱して水と酢酸イソブチルとをほぼ留去した後、室温まで冷却してからアセトン500gを添加し、室温下で1時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、アセトンに溶解する未反応のOPE−2Gly(C)を除去した。更に、ケーキ状のアセトン未溶解物をアセトンで洗浄した後、イオン交換水700g中に添加し、室温下で2時間撹拌して均一分散液としてから濾過を行い、残存する二亜硫酸カリウムと亜硫酸カリウムを水溶液として除去した。得られたケーキ状物をアセトンで洗浄した後、10mmHgの減圧下、80℃で6時間減圧乾燥して残存するアセトンと水分を除去した後、乳鉢で粉砕して黄白色微粉末128gを得た。
【0053】
このようにして得られたポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸カリウム塩(C)は、前記構造式(1)〜(4)において、R2,R3,R4,R7,R8,R9をメチル基、R5,R6を水素原子とし、Mがカリウム、a=0、b=0、c=0、d=0である構造を有し、このものを硝酸分解/ICP−AES法によって分析した結果、S元素含有量=9.2質量%(理論値=10.1質量%)、K元素含有量=11.0質量%(理論値=12.4質量%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で示されるポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩。
【化1】

(式中、−[O−X−O]−は、下記構造式(2)で示され、R2,R3,R4,R8,R9は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R5,R6,R7は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−[Y−O]−は、下記構造式(3)で定義される1種類の構造、又は下記構造式(3)で定義される2種類以上の構造がランダムに配列したものである。R10,R11は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R12,R13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。Zは、炭素数1〜6の2価の有機基であり、酸素原子を含んでいてもよい。R1は、下記構造式(4)で示される基を必須に有するものであるが、R1の一部が水素原子又はグリシジル基であってもよく、Mはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属である。a,bは0〜100の整数を示す。c,dは0〜20の整数を示す。)
【化2】

【請求項2】
−[O−X−O]−が下記構造式(5)で示され、−[Y−O]−が下記構造式(6)もしくは下記構造式(7)又は下記構造式(6)と下記構造式(7)がランダムに配列した構造を有することを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩。
【化3】

【請求項3】
構造式(4)におけるMが、ナトリウム及び/又はカリウムであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩。
【請求項4】
下記構造式(8)で示されるポリフェニレンエーテルオリゴマー体の両末端エポキシ基と、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、二亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸カリウムから選択される化合物とを、極性有機溶剤中、水の存在下で反応させることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンエーテルオリゴマー体のスルホン酸アルカリ金属塩又はスルホン酸アルカリ土類金属塩の製造方法。
【化4】

(式中、−[O−X−O]−は、下記構造式(2)で示され、R2,R3,R4,R8,R9は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R5,R6,R7は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。−[Y−O]−は、下記構造式(3)で定義される1種類の構造、又は下記構造式(3)で定義される2種類以上の構造がランダムに配列したものである。R10,R11は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。R12,R13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基である。Zは、炭素数1〜6の2価の有機基であり、酸素原子を含んでいてもよい。a,bは0〜100の整数を示す。c,dは0〜20の整数を示す。)
【化5】


【公開番号】特開2006−104450(P2006−104450A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239285(P2005−239285)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】