説明

ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物

【課題】優れたウエルド特性、エポキシ接着性、耐薬品性、熱伝導性を高位でバランス化し、成形時の滞留安定性にも優れた射出成形に好適なポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る。
【解決手段】(A)ポリフェニレンスルフィド50〜99重量%と(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体50〜1重量%からなり、(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合組成比が77/23〜90/10重量%であることを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたウエルド特性、エポキシ接着性、耐薬品性、熱伝導性を高位でバランス化し、かつ成形時の滞留安定性にも優れた射出成形に好適なポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィドは、優れた耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性および耐湿熱性などを有することから、エンジニアリングプラスチックスとして好適な性質を有しており、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、機械部品および自動車部品などの用途に広く使用されている。しかし、ポリフェニレンスルフィドは、ウエルド強度、エポキシ接着性を必要とするセンサーおよびそのカバー類、LEDやランプのソケット類などの電気・電子部品では必ずしも満足できるものではなかった。また、電気・電子部品の小型・モジュール化が進む中で電装部品の放熱対策が求められるようになってきたが、ポリフェニレンスルフィドを始めとする熱可塑性樹脂は熱伝導性が低いことから、発生する熱を効率よく拡散することができず、最近の電気・電子部品の高出力化の流れから、一部展開が制限されているのが実状である。そこで、これらの問題点を解決するために、これまでに種々の改良方法が提案されている。
【0003】
例えば、エポキシ変性ポリフェニレンスルフィドにスチレン/無水マレイン酸共重合体を配合する方法(特許文献1参照)、熱可塑性樹脂に特定の極限粘度、重量平均分子量/数平均分子量比の芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物の共重合体を配合する方法(特許文献2参照)、高フィラー含有熱可塑性樹脂に特定の粘度のスチレン系樹脂を配合する方法(特許文献3参照)などが提案されている。特許文献2に記載されている芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物の共重合比は63/27〜70/30重量%であり、特許文献3に記載されている芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物の共重合比は74/26重量%であり、ポリフェニレンスルフィドなどの熱可塑性樹脂に配当した場合の特性が十分ではなかった。
【0004】
特許文献1ではポリフェニレンスルフィドをエポキシ変性することでエポキシ接着性は向上するものの、十分とは言えず、ウエルド特性、熱伝導性などの特性については向上効果が得られない。また、特許文献2は、ウエルド特性は向上するものの、エポキシ接着性や耐薬品性が十分とは言えず、特許文献3についても、エポキシ接着性、ウエルド特性などが十分とは言えず、実用上満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平6−340809号公報(第1〜2項、実施例)
【特許文献2】特開平11−80470号公報(第1〜2項、実施例)
【特許文献3】特開2004−83867号公報(第1〜2項、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の問題点を解消し、熱可塑性樹脂の特徴である製品設計自由度および生産性を保持しつつ、優れたウエルド特性、エポキシ接着性、耐薬品性、熱伝導性を高位でバランス化し、かつ、成形時の滞留安定性にも均衡して優れた射出成形用に好適なポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)(A)ポリフェニレンスルフィド50〜99重量%と(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合組成比が77/23〜90/10重量%である芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体50〜1重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(2)前記(A)と前記(B)の合計100重量部に対して、(C)フィラーを5〜300重量部を配合してなる(1)記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(3)(A)ポリフェニレンスルフィドの樹脂温310℃、剪断速度1000/秒における溶融粘度が100Pa・s以上であることを特徴とする(1)または(2)記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(4)(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD50(累積粒度分布)が5〜60μmの範囲にあることを特徴とする(2)〜(3)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(5)(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD90(累積粒度分布)が10〜150μmであることを特徴とする(2)〜(4)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
(6)(C)フィラーがレーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が20W/mk以上の熱伝導性フィラーを含むことを特徴とする(2)〜(5)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、および
(7)(C)フィラーが有機チタネート系カップリング剤で表面処理されたものであることを特徴とする(2)〜(6)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ウエルド特性、エポキシ接着性、耐薬品性、熱伝導性が高位でのバランスを有し、かつ成形加工時の滞留安定性にも優れていることから、本特性が必要とされる電気・電子部品あるいは自動車部品などの用途に特に実用的に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0010】
本発明における(A)ポリフェニレンスルフィドは、下記構造式で示される繰り返し単位を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体であり、上記繰り返し単位が70モル%以上の場合には、耐熱性が優れる点で好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
また、かかるポリフェニレンスルフィドは、その繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
かかるポリアリーレンスルフィドは、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0015】
本発明においては、上記のようにして得られたポリフェニレンスルフィドを、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
【0016】
ポリフェニレンスルフィドを加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用され、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0017】
ポリフェニレンスルフィドを窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm−2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0018】
ポリフェニレンスルフィドを有機溶媒で洗浄する場合に、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリフェニレンスルフィドを分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0019】
かかる有機溶媒による洗浄の具体的方法としては、有機溶媒中にポリフェニレンスルフィドを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリフェニレンスルフィドを洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリフェニレンスルフィドは、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。
【0020】
ポリフェニレンスルフィドを熱水で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリフェニレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリフェニレンスルフィドを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリフェニレンスルフィドと水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリフェニレンスルフィド200g以下の浴比で使用される。
【0021】
ポリフェニレンスルフィドを酸処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリフェニレンスルフィドを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸としては、ポリフェニレンスルフィドを分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが用いられる。これらの酸のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたポリフェニレンスルフィドは、残留している酸または塩などを除去するため、水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるポリフェニレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられる(A)ポリフェニレンスルフィドの溶融粘度は、本発明の効果を高効率に発揮するために必要なスチレン系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体および(C)フィラーのPPS系内での分散状態をコントロールするために、100Pa・s以上が好ましく、200Pa・s以上がより好ましい。溶融粘度の上限については生産性を考慮すると、500Pa・s以下であることが好ましい。なお、ポリフェニレンスルフィドの溶融粘度の測定方法は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用いて、孔直径1.0mm×長さ10mmのオリフィスを使用し、樹脂温310℃、剪断速度1000/秒の条件により測定する。
【0023】
本発明における(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体とは、芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合体であり、芳香族ビニル系単量体成分の具体例としては、スチレンをはじめ、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンやα−メチルスチレンが好ましく、これらは1種または2種以上を併用しても良い。
【0024】
また、シアン化ビニル系単量体成分の具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられ、なかでもアクリロニトリルが特に好ましく、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明の(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合組成比は、成形時の滞留安定性、耐薬品性を高位でバランス化するために、77/23〜90/10重量%であり、79/21〜82/18重量%であることが好ましい。ここで、芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の合計量を100重量%とした単位である。
この共重合組成比は、キャスト法(溶媒;メチルエチルケトン)により、得られた薄膜フィルムをフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR−8100A;島津製作所(株)社製)を用いて、芳香族ビニル系単量体成分に由来する700cm−1とシアン化ビニル系単量体成分に由来する2240cm−1とのIRスペクトルの強度比より確認することができる。なお、あらかじめ上記と同様な方法で芳香族ビニル系単量体成分単独および芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分との共重合組成比が既知の異なる5種類の共重合体による検量線を作成する。
(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を上記範囲の共重合組成にすることで、(C)フィラーを添加した場合に、成形品表層にフィラーが偏在化し、本発明の特性を高効率に発揮させることができる。
【0026】
また、本発明においてウエルド特性をさらに向上させるために、(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合体に他の共重合可能な単量体成分を添加しても良い。このような他の共重合可能な単量体成分として、アクリル酸、メタアクリル酸と炭素数が1〜10の範囲の一価アルコールとのエステルなどが挙げられ、特にメタクリル酸メチルを好ましく用いることができる。(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合体100重量部に対して、他の共重合可能な単量体成分の添加量は、本発明の特性を高位でバランス化するために0.1〜10重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。
【0027】
(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体の製造方法については特に制限はなく、従来より公知の方法で製造することが可能である。すなわち、乳化重合、溶液重合、塊状重合および懸濁重合のどの方法でも製造することができるが、工業的には塊状重合が有利である。なお、(B)芳香族ビニル単量体成分とシアン化ビニル単量体成分を含む共重合体の好ましい形状としてはビーズ状などが挙げられる。
【0028】
本発明において(A)ポリフェニレンスルフィドと(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体の配合比(A)/(B)は、ウエルド特性、エポキシ接着性などの特性を発現させるために、(A)と(B)成分の合計量100重量%に対して、(A)/(B)が50/50〜99/1重量%であり、(A)/(B)が70/30〜95/5重量%であることが好ましく、(A)/(B)が75/25〜90/10重量%であることがより好ましい。
【0029】
本発明において、ウエルド特性、エポキシ接着性などの特性をさらに向上させるために(C)フィラーとして、繊維状もしくは、非繊維状(板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など)を添加することが可能であり、例えば、繊維状フィラーの具体例としてガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー等が挙げられ、ガラス繊維あるいは炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記フィラーはエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0030】
また、上記金属繊維の金属種の具体例としては、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムおよび黄銅などを例示することができる。
【0031】
非繊維状フィラーの具体例として、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等)、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0032】
ここで、上記金属粉、金属フレークおよび金属リボンの金属種の具体例としては、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロムおよび錫など、金属酸化物の具体例としては、SnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)およびZnO(アルミニウムドープ)など、窒化物の具体例としては、AlN(窒化アルミニウム)、BN(窒化ホウ素)、Si(窒化珪素)などを例示することができる。
【0033】
本発明において、(C)フィラー添加によるエポキシ接着性などの特性を高効率に発揮させるために、(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD50(累積粒度分布)が5〜60μmの範囲にあることが好ましく、7〜55μmの範囲にあることがより好ましく、10〜50μmの範囲にあることがさらに好ましく、さらに、(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD90(累積粒度分布)が10〜150μmであることが好ましく、15〜140μmであることがより好ましく、25〜130μmであることがさらに好ましい。
【0034】
上記のように、フィラーの粒度分布をコントロールすることで樹脂中での分散状態を制御可能となることで、本発明の効果がさらに向上するものと推測される。
【0035】
本発明に用いる(C)フィラーの粒度(D50、D90)の測定方法は、通常レーザー回折散乱法(体積分布)によって算出し、具体的には、非繊維状フィラーを水系スラリーとして、分散媒および超音波処理により十分に分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100(島津製作所社製)を用いて測定する。上記の測定に用いる分散媒は、フィラーの種類によっても異なり、一概にはいえないが、フィラーが2次凝集せず、一次粒子で均一に分散し得る液体、例えば界面活性剤等を用いる。
【0036】
また(C)フィラーが繊維状フィラーで、繊維長が長く、レーザー回折散乱法による測定が困難である場合、測定が可能な方法で間接的に測定し、レーザー回折散乱法で得られた値として使用する。具体的には、繊維状フィラー100mgを採取し、100ccの分散媒中に分散させた後、その分散液を走査電子顕微鏡(HORIBA製)により観察、写真撮影を行い、写真に撮影された繊維状フィラーの繊維長を1000本測定して算出された平均繊維長および最大繊維長の長い方法を粒径の最大値と想定してレーザー回折散乱法で得られたD50、D90(累積粒度分布)として使用することができる。
【0037】
本発明においてさらに高熱伝導性を付与するために、(C)成分には、熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーを含むことが好ましい。(C)成分の少なくとも一部または全部が熱伝導率が20W/mK以上のものであることが好ましい。(C)フィラーの熱伝導率の上限については生産性、汎用性を考慮すると1000W/mkが好ましい。具体的には、熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーが(C)成分100重量%に対して30重量%以上とするのが好ましく、さらに好ましくは60重量%以上である。
【0038】
このような熱伝導性フィラーの具体例としては金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、ベリリア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの窒化物、熱伝導性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、ピッチ系炭素繊維、あるいは黒鉛化度の比較的高いPAN系炭素繊維、鱗片状カーボンおよびカーボンナノチューブなどが挙げられる。なお、フィラーの熱伝導率は、原則レーザーフラッシュ法で測定した値であるが、フィラーが炭素系の材料である場合など、レーザーフラッシュ法により直接測定できない場合には、測定が可能な方法で間接的に測定し、レーザーフラッシュ法に換算した値を使用する。例えばエポキシ系熱硬化性樹脂でフィラーを固めたサンプルを用いて光交流法により熱伝導率を測定して作成したフィラー充填量と熱伝導率の関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値を使用することができる。さらにかかる方法による測定も適さない場合には、エポキシ系熱硬化性樹脂でフィラー(同様の質を有し、測定可能な形態を有するフィラー)を固めた疑似サンプルを用いて広角X線により測定した黒鉛層間距離(d002)と結晶子径(Lc)から求めたX線パラメータと、レーザーフラッシュ法による熱伝導率から検量線を予め求めておき、広角X線により測定した測定サンプルのd002とLcから、上記検量線を用いてレーザーフラッシュ法の熱伝導率に換算した値などを使用することができる。
【0039】
さらに本発明において、(A)ポリフェニレンスルフィドと(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体と(C)フィラーの親和性向上によるウエルド特性、エポキシ接着性および熱伝導性などの特性を高効率に発揮させるために、用いる(C)フィラーを有機チタネート系カップリング剤で表面処理することが好ましい。具体例としては、例えば、イソプロピルトリスステアロイルチタネ−ト、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェ−ト)チタネ−ト、テトライソプロピルビス(ジオクチルピロホスファイト)チタネ−ト、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネ−ト、テトライソプロピルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネ−ト、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチルー1ーブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネ−ト、ビス(ジオクチルピロホスフェ−ト)オキシアセテ−トチタネ−ト、ビス(ジオクチルピロホスフェ−ト)エチレンチタネ−ト、イソプロピルトリオクタノイルチタネ−ト、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネ−ト、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェ−ト)チタネ−ト、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネ−ト、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネ−ト、イソプロピルトリクミルフェニルチタネ−ト、ジクミルフェニルオキシアセテ−トチタネ−ト、ジイソステアロイルエチレンチタネ−トなどが例示できる。
【0040】
上記有機チタネート系カップリング剤の(C)フィラーへの表面処理剤として添加量は、成形時の滞留安定性およびハンドリング性の観点から、0.1〜3重量部が好ましく、0.5〜1重量部がより好ましい。表面処理方法としては、ヘンシェルミキサーなどの流動槽内で表面処理剤を有機溶媒で希釈あるいは原液のままフィラーに滴下添加する方法、流動槽内で表面処理剤を有機溶媒等で希釈あるいは原液のまま、スプレーガンを用いてフィラーに噴霧処理する方法、あるいは表面処理剤を予め水または、有機溶媒にて所要の濃度にした分散液中にフィラーを投入し、一度スラリー状態にした後に乾燥・回収する方法、等が挙げられ、特に表面処理の生産性、均質性の点から、流動槽内でスプレーガンを用いて表面処理剤をフィラーに噴霧処理する方法が好ましい。
【0041】
本発明において(C)フィラーの添加量は、用いるフィラー添加における本発明の特性発現性と溶融加工性とのバランスの点から、(A)ポリフェニレンスルフィドと(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体の合計量100重量部に対して、5〜300重量部であることが好ましく、7〜250重量部であることがより好ましく、10〜200重量部であることがさらに好ましい。
【0042】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で以下に例示する(D)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか一種以上の添加剤を(C)フィラー界面の接合性および加工時の流動性付与の点から、添加することが好ましく、具体的には、(D)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか一種以上の添加剤の添加量が本発明の範囲より多すぎる場合、得られた成形品表面にブリードアウトしてくると共に、それによって樹脂とフィラー界面の剥離を引き起こし、機械物性が低下する傾向にある。
【0043】
このような(D)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか一種以上の添加剤の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウムなどの脂肪酸金属塩、およびその誘導体、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ステアレートなどの、ステアリン酸エステル、ミリスチン酸ミリスチルなどのミリスチン酸エステル、モンタン酸エステル、メタクリル酸ベヘニルなどのメタクリル酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレート、2−エチルヘキサン酸セチル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、カプリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチドデシル、オレイン酸イソブチルなどの脂肪酸の一価アルコールエステルおよびその誘導体、フタル酸ジステアリル、トリメリット酸ジステアリル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸エステル、フタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブチルグリコール、フタル酸2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジデシル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシルなどの多塩基酸の脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸・ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノ・ジグリセライド、ステアリン酸・オレイン酸・モノ・ジグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライドなどのグリセリンの脂肪酸エステルおよびそれらの誘導体、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセキスオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノパルミネート、ポリオキシメチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシメチレンソルビタンテトラオレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリオキシエチレンビスフェノールAラウリン酸エステル、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールモノオレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル、およびそれらの誘導体、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、ステアリルエルカミド、エチレンビスオクタミド、エチレンビスデカナミド、およびその混合物などのアミド基含有化合物、ノボラックフェニール型、ビスフェノール型単官能および多官能エポキシ系化合物、トリフェニルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステルなどのリン酸エステルが挙げられる。
【0044】
(D)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか一種以上の添加剤の添加量としては、(A)、(B)および(C)成分の合計量100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、より好ましくは0.5〜6重量部の範囲が選択される。
【0045】
本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物には、さらに本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤、他の重合体を添加することができる。
【0046】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)成分、(B)成分中および、(C)成分などのその他の必要な添加剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。また、(C)フィラーを添加する場合、特に繊維状フィラーの繊維の折損を抑制するために好ましくは、(A)成分およびその他必要な添加剤を押出機の元から投入し、(B)および(C)成分をサイドフィーダーを用いて、押出機へ供給することにより調整される。
【0047】
樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”(R)タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0048】
また、(C)フィラーを多量に添加する場合、例えば添加量が(A)と(B)成分の合計量100重量部に対して300重量部を越える(C)フィラーを添加するフィラー高充填樹脂組成物を得る方法として、例えば、特開平8−1663号公報の如く、押出機のヘッド部分をはずして押し出し、粗粉砕、均一ブレンド化する方法、あるいは、原料を圧縮成形して錠剤化する方法が挙げられる。特に原料を圧縮成形して錠剤化する方法が、得られた組成物の品質安定性の点から好ましい。
【0049】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の成形方法は、通常の成形方法(射出成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により、溶融成形することが可能であるが、なかでも量産性の点から射出成形、インジェクションプレス成形が好ましい。
【0050】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、高放熱用途、金属代替用途、セラミック代替用途、電磁波シールド用途、高精度部品(低寸法変化)、高導電用途等に有用であり、具体的には、各種ケース、ギヤーケース、LEDランプ関連部品、コネクター、リレーケース、スイッチ、バリコンケース、光ピックアップレンズホルダー、光ピックアップスライドベース、各種端子板、変成器、プリント配線板、液晶パネル枠、パワーモジュールおよびそのハウジング、プラスチック磁石、半導体、液晶ディスプレー部品、投影機等のランプカバー、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、アクチュエーター、シャーシ等のHDD部品、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク・デジタルビデオディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、印字ヘッドまわりおよび転写ロール等のプリンター・複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、モーターコア封止材、インシュレーター用部材、パワーシートギアハウジング、エアコン用サーモスタットベース、エアコンパネルスィッチ基板、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ランプハウジング、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、パソコンハウジング、携帯電話ハウジング、その他情報通信分野においてチップアンテナ、電磁波などの遮蔽性を必要とする設置アンテナなどの部品などの筐体用途等幅広い分野、その他、高寸法精度、電磁波シールド性、気体・液体等のバリアー性を必要とする隔壁板、熱および電気伝導性を必要とする用途、屋外設置用機器あるいは建築部材で有用に用いられ、特に軽量化、形状の自由度が要求され、金属代替が熱望されている自動車部品用途、電気・電子部品用途、熱機器部品用途等に有用である
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
参考例1 ポリフェニレンスルフィド
PPS−1:調整撹拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.11kg(1.35モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.756kg(25.55モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄し、次に100℃に加熱されNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥して、乾燥PPS−1を得た。キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用いて、孔直径1.0mm×長さ10mmのオリフィスを使用し、樹脂温310℃、剪断速度1000/秒の条件で測定すると、PPS−1の溶融粘度は30Pa・sであった。
【0053】
PPS−2:調整攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩6.005kg(25モル)、酢酸ナトリウム0.656kg(8モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)5kgを仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水3.6リットルを留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン3.727kg(25.35モル)ならびにNMP3.7kgを加えて、窒素下に密閉し、225℃まで昇温して5時間反応後、270℃まで昇温し3時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄した。次に100℃に加熱されたNMP10kg中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾過のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥して、乾燥PPS−2を得た。キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用いて、孔直径1.0mm×長さ10mmのオリフィスを使用し、樹脂温310℃、剪断速度1000/秒の条件で測定すると、PPS−2の溶融粘度は200Pa・sであった。
【0054】
参考例2 芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体
B−1:撹拌装置を備えた重合槽内でスチレン70重量部、アクリロニトリル30重量部からなる単量体を65℃〜85℃の温度範囲で5時間懸濁重合し、得られたビーズ状樹脂を十分乾燥した後、極限粘度の測定を行った結果、0.50dl/gであった。
【0055】
B−2:撹拌装置を備えた重合槽内でスチレン80重量部、アクリロニトリル20重量部からなる単量体を65℃〜85℃の温度範囲で5時間懸濁重合し、得られたビーズ状樹脂を十分乾燥した後、極限粘度の測定を行った結果、0.35dl/gであった。
【0056】
なお、上記の極限粘度は、懸濁重合したビーズ状樹脂0.4gをメチルエチルケトン100mlに完全溶解させ、濃度の異なる5点を作り、ウベローデ粘度管を用いて、30℃の恒温槽内で各濃度の還元粘度を測定した結果から求められた値である。
【0057】
参考例3 フィラー
C−1:炭素繊維(CF)、MLD300(繊維状フィラー、繊維径7μm、東レ社製)、平均繊維長150μm、最大繊維長255μm、熱伝導率3W/mk
上記C−1のフィラーのD50、D90(累積粒度分布)は、C−1のフィラー100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させた後、その分散液を走査電子顕微鏡(HORIBA製)により観察、写真撮影を行い、写真に撮影された繊維状フィラーの繊維長を1000本測定して算出された平均繊維長および最大繊維長をレーザー回折散乱法で得られたD50、D90(累積粒度分布)に換算した値である。
【0058】
熱伝導率は、C−1のフィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定して作成したフィラーを充填量と熱伝導率の関係を示す検量線よりフィラー容量100%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0059】
C−2:グラファイト(KS)、KS5−25(鱗片状フィラー、ティムカルジャパン社製)D50:15μm、D90:30μm、熱伝導率200W/mk
上記C−2のフィラーのD50、D90(累積粒度分布)は、C−2のフィラー約0.05gを水50ccにいれて撹拌し、さらにスポイトで、予め“マイペット”(花王社製)2、3滴いれた界面活性剤希薄溶液100ccを数滴(泡が立たない程度)いれ、超音波洗浄機で分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0060】
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定し、フィラー充填量と熱伝導率との関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0061】
C−3:グラファイト(CFW)、CFW50A(鱗片状フィラー、中越黒鉛社製)D50:50μm、D90:124μm、熱伝導率200W/mk
上記C−3のフィラーのD50、D90(累積粒度分布)は、C−3のフィラー約0.05gを水50ccにいれて撹拌し、さらにスポイトで、予め“マイペット”(花王社製)2、3滴いれた界面活性剤希薄溶液100ccを数滴(泡が立たない程度)いれ、超音波洗浄機で分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0062】
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定し、フィラー充填量と熱伝導率との関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0063】
C−4:アルミナ、Al−33(破砕状アルミナ、住友化学工業社製)D50:12μm、D90:39μm、熱伝導率26W/mk
上記C−4のフィラーのD50、D90(累積粒度分布)は、C−4のフィラー約0.05gを水50ccにいれて撹拌し、さらにスポイトで、予め“マイペット”(花王社製)2、3滴いれた界面活性剤希薄溶液100ccを数滴(泡が立たない程度)いれ、超音波洗浄機で分散させた後、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3100(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0064】
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定し、フィラー充填量と熱伝導率との関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0065】
C−5:C−4のフィラー3000gを、20Lのヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)に投入し撹拌しながら、イソプロピルアルコールで希釈した50%のKR138S(ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、味の素ファインテクノ社製)溶液60gをスプレーガンで噴霧処理を行った後、120℃の熱風乾燥機にて3時間熱処理を行った。
【0066】
参考例4 添加剤(篩にて42メッシュパスしたものを使用)
D−1:“PX−200”(大八化学工業社製粉末状芳香族縮合リン酸エステル、CAS No.139189−30−3)。
【0067】
実施例1〜12、 比較例1〜7
参考例1のポリフェニレンスルフィド、参考例2の芳香族ビニル単量体/シアン化ビニル単量体の共重合体、参考例3のフィラーおよび参考例4に示した添加剤をリボンブレンダーで表1および2に示す量でブレンドし、3ホールストランドダイヘッド付きPCM30(2軸押出機;池貝鉄工社製)にて表1および2に示す樹脂温度で溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、後述する評価を行った。
【0068】
(1)ウエルド特性
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、試験片の長手方向両端部にそれぞれゲートを設け、両端から樹脂を流すことで試験片中央部付近にウエルド部が得られるASTM1号試験片(厚み3.2mm)を作成し、得られた試験片を冷熱衝撃器(ESPEC社製TSA−70L)にて、冷熱サイクル試験を行った。その後オートグラフAG−2000C(島津制作所社製)を用いて、ASTMD638に準拠して引張強度を測定した。そして、以下式によりウエルド強度保持率を算出した。この値が大きいほどウエルド強度が優れているといえる。
ウエルド強度保持率(%)=冷熱試験後のウエルド強度/冷熱試験前のウエルド強度×100
【0069】
なお、冷熱試験の条件は、常温(23℃)→5分で降温→−10℃で30分保持→5分で昇温→60℃で30分保持を1サイクルとして500サイクル行った。
【0070】
(2)エポキシ接着性
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、ASTM1号引張試験片(厚み3.2mm)を成形した。その後、2等分し、接着面積が50mm2となるようにスペーサ(厚さ1mm)およびエポキシ樹脂(長瀬チバ(株)製、1液型エポキシ樹脂、XNR3506)を挟んで固定し、雰囲気温度130℃、30分の条件で硬化させた。オートグラフAG−2000C(島津制作所社製)を用いて、このサンプルを歪み速度1mm/分、支点間距離80mmの条件で引張強度を測定し、強度の最大値を接着面積で割った値をエポキシ接着強度とした。この値が大きいほどエポキシ接着性に優れているといえる。
【0071】
(3)熱伝導性
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、50mm長×50mm幅×3mm厚の角形成形品(フィルムゲート)を成形し、この成形品の両表面を深さ0.5mm切削して厚さ2mmの試験片としたものを用いてレーザーフラッシュ法定数測定装置LF/TCM−FA8510B(リガク社製)により熱伝導率を測定した。この値が大きいほど熱伝導性が優れているといえる。
【0072】
(4)成形時の滞留安定性(MFR変化率)
測定温度315.5℃、5000g荷重とし、ASTM D1238−86に準拠した方法で、得られたペレットの滞留時間5分のMFR(MF5)および滞留時間30分のMFR(MF30)をメルトインデクサー(島津製作所社製)を用いて各々測定し、以下式によりMFR変化率(%)を算出した。この変化率が小さいほど成形時の滞留安定性が優れているといえる。
MFR変化率(%)=(MF30−MF5)/MF5×100
【0073】
(5)耐薬品性
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件でASTM1号引張試験片(厚み3.2mm)を成形し、50%の不凍液中、100℃にて1000時間浸漬後、重量変化を測定し、重量増加率を以下式により算出して耐薬品性の指標とした。なお、この値が小さいほど耐薬品性に優れているといえる。
重量変化率(%)=(50%不凍液浸漬後の重量−50%不凍液浸漬前の重量)/50%不凍液浸漬前の重量×100
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1の結果から明らかなように本発明の樹脂組成物から得られた成形品は、成形時の滞留安定性、耐薬品性に均衡して優れ、従来得られなかったウエルド特性、エポキシ接着性および熱伝導性を高位でバランス化することが可能であることがわかる。また、溶融時の安定性が良好であることから、生産時の歩溜まりが向上し、生産性を大幅に向上させることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンスルフィド50〜99重量%と(B)芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分の共重合組成比が77/23〜90/10重量%である芳香族ビニル系単量体成分とシアン化ビニル系単量体成分を含む共重合体50〜1重量%を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)と前記(B)の合計100重量部に対して、(C)フィラーを5〜300重量部を配合してなる請求項1記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
(A)ポリフェニレンスルフィドの樹脂温310℃、剪断速度1000/秒における溶融粘度が100Pa・s以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD50(累積粒度分布)が5〜60μmの範囲にあることを特徴とする請求項2〜3のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
(C)フィラーのレーザー回折散乱法で得られたD90(累積粒度分布)が10〜150μmであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
(C)フィラーが、レーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が20W/mk以上の熱伝導性フィラーを含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
(C)フィラーが有機チタネート系カップリング剤で表面処理されたものであることを特徴とする請求項2〜6のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−302822(P2007−302822A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134046(P2006−134046)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】