説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその樹脂成形体並びに積層体

【課題】 樹脂成形体とした際に機械的強度、耐熱性に優れ、また金属との積層体とした際にも鏡面鮮明性、表面平滑性、金属層密着性に優れ、加えて高温環境下でもこれらの特性劣化が抑制された、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれを成形してなる樹脂成形体、並びに樹脂・金属積層体。
【解決手段】 (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂5〜80重量部、(C)微粉末フィラー0〜80重量部を含み、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が(a)チタン化合物と(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形体、並びに樹脂成形体表面に金属層を設けた積層体に関する。更に詳しくは、樹脂成形体表面に、蒸着等により金属層を設ける、所謂直接金属層形成能に優れ、鏡面鮮明性、表面平滑性等の表面外観の良好な光反射体等を提供することができる、ポリブチレンテレフタレート樹脂、およびこれを成形してなる樹脂成形体、並びに樹脂成形品表面に金属層を設けた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ランプにおける、ハウジング、リフレクター、エクステンションや、家電照明器具等などに組み込まれている光反射体は、ランプ光源の方向性、反射性を高める為に、高い輝度感、平滑性、均一な反射率、更には高耐熱性等が要求されている。一般的に、この様な光反射体には金属(板金)そのものや、バルクモールディングコンパウンド(BMC)、シートモールディングコンパウンド(SMC)等、熱硬化性樹脂表面に、金属メッキ加工や蒸着、塗装等により金属薄膜層を設けた、樹脂・金属積層体(以下、単に「積層体」と言うことがある。)が使用されてきた。
【0003】
この光反射板は複雑な形状が要求されることが多く、例えば金属製の反射体では加工性が悪く、重くて扱い難いという課題があった。一方、上述した積層体は、耐熱性、剛性、寸法安定性をはじめとして優れた特性を有しているが、成形サイクルが長く、また成形の際にバリが発生したり、成形時にモノマーが揮発して作業環境に問題が生ずることがあるという課題があった。その為、このような課題がなく、またこれらの光反射体の高機能化やデザインの多様化に伴い、生産性に優れる、熱可塑性樹脂を成形してなる樹脂成形体を基体に用い、この表面に金属層を設けた積層体が検討されてきた。
【0004】
この様な、熱可塑性樹脂を基体とした光反射体には、その基体として例えば、機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ加工性が良好である、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート樹脂が検討されている。例えばポリブチレンテレフタレート樹脂を単独で、又はポリエチレンテレフタレート樹脂等との混合物や、強化材を添加配合した樹脂組成物が検討されている。
【0005】
一般にポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶化速度が速いために金型内での固化が速く、良好な鏡面転写性を得るのが難しいと言う課題がある。特に、耐熱性付与のためにタルクやマイカ等の無機充填材を添加したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の場合には、これらフィラーの浮き出しが顕著となる。
この様な課題に対しては、例えば樹脂成形体にアンダーコート等の前処理(下塗り)を行った後で真空蒸着等により金属層を形成し、光反射体とする方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかし、アンダーコート等の下塗りは大幅なコストアップとなることから、アンダーコートしなくとも高い輝度感を有する光反射体を得ることが望まれている。アンダーコートしなくとも成形体の一面に光反射層を付与された反射体が高い輝度感や均一な反射率を実現する為には、樹脂成形体自体が良好な表面平滑性を有し、且つ高い光沢性・輝度感を有することを必要とする。しかしこれには成形金型の表面平滑性を著しく向上させる必要があり、成形品取り出しの際の型離れが低下し、成形サイクルが低下すると言う問題があった。そこで成形性と離型性の双方を向上させ、且つ樹脂成形体の表面輝度を保持すること
が要求されてきた。
【0007】
これに対しては、ポリブチレンテレフタレート樹脂に非晶性ポリマーを添加し、材料の結晶化速度を下げて金型転写性を向上させるとともに、フィラーの浮き出しを抑制する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。また成形方法として、樹脂温度を上げて流動性を向上させる方法(例えば特許文献3参照。)や、金型温度を上げて固化速度を遅らせ、金型転写性を向上させる方法(例えば特許文献4参照。)等が提案されている。
【0008】
しかしこれらの方法でも、成形品の外観は向上するが、樹脂温度や金型温度の上昇は、成形時の揮発分発生を増加させ、作業環境を悪化させるという問題があった。更にこのような揮発分は、成形体表面に曇り(ヘイズ)状の外観不良を発生させることから、連続的に良好な成形品を得ることが困難であり、金型の磨き、拭き取り等の新たな対策を要するという問題が生じていた。さらに高温雰囲気に曝した場合に金属表面を犯してしまい、曇りが発生するという問題もあった。
【0009】
またこのような、非晶性ポリマーは耐熱性が低く、そして一般にポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性が悪い為に、成形時等の高温条件下において非晶性ポリマーに起因する表面性・輝度感の低下を招くという問題があった。そして更に、光反射体とした際に、耐熱性レベルが十分ではないという問題があった。
【0010】
これに対しては、(A)末端カルボキシル基量が50meq/kg以下のポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂5〜80重量部、及び(C)平均一次粒子径が10μm以下の非繊維状無機充填材2〜50重量部を含む樹脂組成物を成形した樹脂成形品を基体とし、該基体の少なくとも一部に金属層を設けた光反射体が提案されている(例えば特許文献7参照)。しかしこの方法でも、光反射体の薄肉化が一段と厳しくなった近年の要求に対しては、薄肉化した際に機械的強度、耐熱性(熱変形温度)などをい満足することは困難であるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−203613号公報
【特許文献2】特開平11−293099号公報
【特許文献3】特開2002−88235号公報
【特許文献4】特開平11−241005号公報
【特許文献5】特開2005−41977号公報
【特許文献6】特開2005−146103号公報
【特許文献7】特開2000−35509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この様に、光反射体として用いる樹脂と金属との積層体において、機械的強度、耐熱性、鏡面鮮明性、表面平滑性に優れ、特に高温度雰囲気下に曝した際の揮発分の発生や変形を抑制し、高反射率を保持し、且つ金属層との密着性に優れた、積層体、及びこの基体となる樹脂成形体、そしてそれを構成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリエステル樹脂、詳しくは、特定のポリブチレンテレフタレート樹脂を含むそれと、特定の無機フィラーを特定量含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、耐熱性、機械的強度が向上し、更に高温雰囲気に晒した際の揮発分発生を抑制することを見出した。そしてこのポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる樹脂・金属積層体は、高温雰囲気下でも変形が抑制され、且つ高輝度感を実現することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂5〜80重量部、(C)微粉末フィラー0〜80重量部、を含み、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、およびこれを成形してなる樹脂成形品、並びにこの樹脂成形体を基体とし、その表面に金属層を設けた積層体に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、樹脂成形体とした際に機械的強度、耐熱性に優れ、また金属との積層体とした際にも、鏡面鮮明性、表面平滑性、金属層密着性に優れており、加えて高温環境下においてもこれらの特性劣化が抑制されるという、優れた特性を有する。そしてこの様な特性によって、自動車用ランプにおけるハウジング、リフレクター、エクステンションや家電照明器具等などに用いる、優れた特性を有する光反射体を、生産性良く提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明に用いる(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」と略記することがある。)とは、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成る高分子を言う。
【0016】
テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が低すぎると、例えば50モル%より少ないと、PBTの結晶化速度が低下し、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂の成形性が低下する場合がある。よって全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、通常70モル%以上、中でも80モル%以上、更には95モル%以上、特に98%以上であることが好ましく、また全ジオール単位中の1,4ブタンジオール単位の割合は、通常70モル%以上、中でも80モル%以上、更には95モル%以上、特に98%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に用いる(A)PBTの原料であるジカルボン酸成分に於いて、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては特に制限はない。具体的には例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香
族ジカルボン酸類;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸類;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸類;等が挙げられる。
これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、または、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として、ポリマー骨格に導入できる。
【0018】
また、本発明に用いる(A)PBTの原料であるジオール成分に於いて、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分としては特に制限はない。具体的には例えば、エチレング
リコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール類;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール類;キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プ
ロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール類;等が挙げられる。
【0019】
更に、本発明に用いる(A)PBTとしては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸類;アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分;等を共重合させたものをも、使用することができる。
【0020】
本発明に用いる(A)PBTは、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明に用いる(A)PBTは、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とのエステル化反応(又はエステル交換反応)で得られたオリゴマーを重縮合したものであり、中でも、この重縮合の際に用いる触媒(重縮合触媒)として、(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物を用いることによって、(A)PBT中における(a)、(b)の分散性を良好なものとすることができるので、好ましい。
【0022】
これらの重縮合触媒の使用時期は任意であり、具体的には使用方法として例えば以下の(1)〜(4)等の方法が挙げられる。尚、以下、(a)チタン化合物をチタン触媒、また(b)1族金属化合物及び2族金属化合物を、各々、1族金属触媒、2族金属触媒と言うことがある。
(1)エステル化反応(またはエステル交換反応)に(a)、(b)、両方を使用し、重縮合反応に持ち込む方法。
(2)エステル化反応(またはエステル交換反応)に(a)、(b)、両方を一部使用し、重縮合反応開始時又は反応中に追加する方法。
(3)エステル化反応(またはエステル交換反応)では(a)、(b)、どちらか一方の触媒を使用し、他方を重縮合反応開始時又は反応中に追加する方法。
(4)エステル化反応(またはエステル交換反応)では(a)、(b)、いずれも使用せず、重縮合反応開始時に両方を追加する方法。
【0023】
本発明に用いる(a)チタン化合物としては特に制限はなく、具体的には例えば、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物類;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート類;テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート類;等が挙げられる。中でもチタンアルコラート類が好ましく、更にはテトラアルキルチタネート類が好ましく、特にテトラブチルチタネートが好ましい。
【0024】
本発明に用いる(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物としては特に制限はなく、具体的には例えば、1族金属化合物としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの、水酸化物類;酸化物類;アルコラート類;酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等の各種有機酸塩類;等の各種化合物が挙げられ、また2族金属化合物としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの、水酸化物類;酸化物類;アルコラート類;酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩等の各種有機酸塩類;等の各種化合物が挙げられる。これらは単独で使用しても、また併用してもよい。
【0025】
中でも、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の化合物が好ましく、更には触媒効果と色調に優れる、リチウム又はマグネシウムの化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物としては、具体的には例えば酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。中でも有機酸塩類が好ましく、特に酢酸マグネシウムが好ましい。
【0026】
本発明に用いる(A)PBTにおける、(a)チタン化合物の含有量は、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下である。このチタン化合物の含有量が多過ぎると、(A)PBTの色調や耐加水分解性が低下したり、またチタン触媒の失活による溶液ヘイズや異物が増加する場合がある。逆に少な過ぎても、(A)PBTの重合性が低下してしまう。よって(a)チタン化合物の含有量は、70ppm以下、中でも60ppm以下、更には50ppm以下、特に40ppm以下であることが好ましく、その下限は15ppm以上、中でも20ppm以上、特に30ppm以上であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いる(A)PBTにおける、(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量は、各々の金属原子換算で、1ppm以上50ppm以下である。この1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量が多過ぎると、本発明のPBT組成物の成形性や、得られる樹脂成形品の耐熱性が低下する場合がある。逆に少な過ぎても、成形品の表面外観が低下する場合がある。よって(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の含有量は、40ppm以下、中でも30ppm以下、更には20ppm以下、特に15ppm以下であることが好ましく、その下限は3ppm以上、中でも5ppm以上、特に10ppm以上であることが好ましい。チタン原子などの金属含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0028】
本発明に用いる(A)PBTの重縮合触媒としては、上述したようなチタン化合物や(b)1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が挙げられるが、その他の重縮合触媒としては、例えばスズやその化合物が挙げられる。スズは通常、スズ化合物として使用され、具体的には例えば、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等が挙げられる。
【0029】
但し一般的に、スズやスズ化合物は(A)PBTの色調を悪化させるため、本発明に用いる(A)PBT中におけるスズ化合物の含有量は低い方が好ましく、含有しないことが好ましい。具体的には、通常、スズ化合物の含有量が、スズ原子換算で200ppm以下、中でも100ppm以下、更には10ppm以下であることが好ましい。
【0030】
また本発明に用いる(A)PBTの製造においては、先述のチタン触媒や、1族金属触媒、2族金属触媒の他に、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;マンガン化合物;亜鉛化合物;ジルコニウム化合物;コバルト化合物;正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸等やこれらのエステルや金属塩などの燐化合物;等の反応助剤を用いてもよい。
【0031】
本発明に用いる(A)PBTの末端カルボキシル基濃度は任意だが、低い方が好ましい。60μeq/gを超えると、樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすい。しかし末端カルボキシル濃度が過度に低いポリアルキレンテレフタレート樹脂の製造は、著しく生産性が低いので、本発明に用いる(A)PBTのそれは、具体的には60μeq/g以下、中でも30μeq/g以下であることが好ましく、更には5〜25μeq/g、特に5〜20μeq/gであることが好ましい。
尚、本発明における末端カルボキシル基濃度の測定は、ベンジルアルコール25mlにポリアルキレンテレフタレート0.5gを溶解し、水酸化ナトリウム濃度が0.01モル/リットルのベンジルアルコール溶液を使用して滴定により測定した。末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法など、従来公知の任意の方法を適宜、適用すればよい。
【0032】
次に、本発明に用いる(A)PBTの製造方法について説明する。本発明に用いる(A)PBTの製造方法は任意であり、一般的には使用する原料によって、ジカルボン酸を主原料とする方法(直接重合法)と、ジカルボン酸ジアルキルエステルを主原料とする方法(エステル交換法)とがある。前者は初期のエステル化反応で主に水が生成し、後者は初期のエステル交換反応で主にアルコールが生成するという違いがある。
【0033】
また、本発明に用いる(A)PBTの製造方法は、一般的に、原料供給または生成ポリマーであるポリブチレンテレフタレート樹脂の抜き出し形態(反応槽等から生成(溶融)ポリマーを抜き出す方法)により、回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行い、それに続く重縮合を回分操作で行う方法や、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行い、それに続く重縮合を連続操作で行う方法等が知られている。
【0034】
本発明に用いる(A)PBTの製造方法としては、原料原単位の優位性、副生成物の処理の容易さ等から、直接重合法を用いることが好ましく、また得られる(A)PBTの品質安定性や、製造に係るエネルギー効率の面から、エステル化反応および重縮合反応を連続的に行う、いわゆる連続法を用いることが好ましい。
【0035】
本発明に用いる(A)PBTの製造に際して用いる、先述の1族金属触媒及び/又は2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に供給することが出来るが、その供給位置に特に制限はなく、これら反応槽の反応液気相部から反応液上面へ供給してもよいし、反応液液相部に直接供給してもよい。また、この場合、原料であるテレフタル酸や、チタン触媒と共に供給してもよいし、独立して供給してもよい。中でも、触媒の安定性の観点からはテレフタル酸やチタン触媒とは独立して、且つ、反応液気相部から反応液上面に供給することが好ましい。
【0036】
2族金属触媒の供給方法としては、例えば2族触媒が常温で固体の場合には、固体のまま反応液へ供給することも出来るが、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するためには、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒に溶解し、溶液として供給することが好ましい。この溶液中の2属金属触媒の濃度は、通常0.01重量%以上、中でも
0.05重量%以上、特に0.08重量%以上であることが好ましく、その上限は20重量%以下、中でも10重量%以下、特に8重量%以下であることが好ましい。
【0037】
また1族金属触媒及び/又は2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に続く重縮合反応槽や、それに付帯したオリゴマー配管に添加してもよい。この場合の添加方法も、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するために、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒や、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の共重合成分に溶解し、溶液として供給することが好ましく、この際の濃度は、上述の溶液濃度と同様である。
【0038】
本発明に用いる(A)PBTの製造方法の具体例として、例えば直接重合法を用いる連続エステル化法の場合には、以下の様な方法により行えばよい。原料であるテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数のエステル化反応槽内で、好ましくはチタン触媒と1族金属触媒及び/又は2族金属触媒との存在下に、通常、温度条件として180〜260℃、好ましくは200〜245℃、更に好ましくは210〜235℃の条件下、圧力(絶対圧力を示す。以下、同様である。)条件として、通常、10〜133kPa、好ましくは13〜101kPa、更に好ましくは60〜90kPaの圧力下で、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間、連続的にエステル化反応させる。
【0039】
エステル化反応槽またはエステル交換反応槽としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等が挙げられる。これらは単数槽としても、同種又は異種の反応槽を直列または並列させた複数反応槽としてもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽を用いることが好ましく、攪拌装置としては動力部、軸受、軸、攪拌翼等を含む通常の攪拌装置の他、タービンステーター型高速回転式攪拌機や、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転が可能なものを用いてもよい。
【0040】
次に、得られたエステル化反応生成物(またはエステル交換反応生成物)としてのオリゴマーを重縮合反応槽に移送する。このオリゴマーのエステル化率は任意だが、通常90%以上、好ましくは95%以上であり、また数平均分子量は通常300〜3000、好ましくは500〜1500である。
【0041】
重縮合反応槽の形態は任意であり、例えば縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などが挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、少なくとも1つの重縮合反応槽においては攪拌装置を有することが好ましく、攪拌装置としては上述したエステル化反応層と同様である。
【0042】
攪拌の形態は特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も用いてもよく、更には水平方向に回転軸を有する表面更新とセルフクリーニング性に優れた横型の反応器を用いてもよい。
【0043】
重縮合反応は、チタン触媒と、1族金属触媒及び/又は2族金属触媒との存在下に行う。反応温度は、通常210〜280℃、中でも220〜250℃、特に230〜245℃の範囲で行うことが好ましい。例えば複数の反応槽を用いる場合には、そのうちの少なくとも一つの反応槽の温度を230〜240℃とすることが好ましい。また反応は攪拌条件下にて行うことが好ましい。重縮合反応時間は、通常1〜12時間、好ましくは3〜10時間である。また反応雰囲気の圧力条件は、通常27kPa以下、中でも20kPa以下
、特に13kPa以下の減圧状態で行うことが好ましい。例えば複数の反応槽を用いる場合には、生成物の着色や劣化を抑えるため、そのうちの少なくとも一つの反応槽内の圧力を、通常1.3kPa以下、中でも0.5kPa以下、特に0.3kPa以下の高真空下とすることが好ましい。
【0044】
重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0045】
更に、PBTの重縮合反応工程は、一旦、溶融重縮合で比較的分子量の小さい、例えば、固有粘度0.1〜0.9程度のPBTを製造した後、引き続き、PBTの融点以下の温度で固相重縮合(固相重合)させてもよい。
【0046】
本発明のPBTの固有粘度に制限はないが、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値として0.7〜3であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.5、特に好ましくは0.8〜1.2である。固有粘度を0.7以上とすることで、機械的性質が向上する傾向があり、また3以下とすることで成形加工性が向上する傾向にあるので好ましい。尚、本発明においては、2種類以上の固有粘度のPBTを併用してもよい。
【0047】
(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂
本発明においては、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、特定比率で組み合わせることによって、本発明の樹脂成形品ならびに積層体とした際の、金属層の表面平滑性、輝度感等を向上させることができる。ポリエチレンテレフタレート樹脂はポリブチレンテレフタレート樹脂に比べて結晶化速度が遅いため、これを添加配合することにより樹脂組成物としての金型転写性を向上させる効果を有する。また光反射体が光・熱などの高温下におかれたときに発生する表面平滑性や輝度感の低下、変形等を抑制する上でも効果を有する。
【0048】
本発明に用いるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)は、例えばテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体と、炭素数2のアルキレングリコールまたはそのエステル形成誘導体を重縮合反応させて得られるポリマーであり、ホモポリマーであっても、またこのポリエチレンテレフタレートを70重量%以上含有する共重合体であってもよい。
共重合されるモノマーとしては、テレフタル酸およびその低級アルコールエステル以外の二塩基酸成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、コハク酸等の脂肪族、芳香族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。またエチレングリコール以外のグリコール成分としては、通常のアルキレングリコール、具体的には例えばジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,3−オクタンジオール等の低級アルキレングリコール類;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等のアルキレンオキサイド付加体アルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール等のポリヒドロキシ化合物またはそのエステル形成性誘導体等;が挙げられる。
【0049】
本発明に用いるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)は、変性されたものでも、また未変性のものでもよい。変性ポリエチレンテレフタレート樹脂としては、例えばイソフタル酸変性等の変性ポリエチレンテレフタレート共重合体が挙げられ、変性の程度は通常、ポリエチレンテレフタレート樹脂に対して5〜40mol%のイソフタル酸変性されたものを用いる。
本発明に用いるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)としては、良好な表面性、高輝度感を有する光反射体を得られる点から、未変性のポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。また本発明に用いるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の固有粘度は、通常、流動性や外観に与える影響から、0.5〜1であることが好ましい。
【0050】
本発明においては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量を(A)成分100重量部に対して、5〜80重量部とすることが重要である。ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量が少なすぎると、良好な金型転写性が得られず、良好な輝度感、表面性を有する光反射体を得ることが困難となる。逆に多すぎても、離型性が低下し、成形サイクルを長くする必要が生じるなどの、成形上の問題が生じる他、発生ガスに由来する外観不良や輝度感、表面性が低下する。よって本発明にけるポリエチレンテレフタレート樹脂(B)の含有量は、(A)成分100重量部に対して、中でも10〜60重量部とすることが好ましい。
【0051】
(C)微粉末フィラー
本発明に用いる(C)微粉末フィラーとしては、従来公知の任意のものを使用できる。微粉末フィラーとしては、具体的には例えば、シリカ、カオリン、焼成カオリン、ゼオライト、石英、タルク、マイカ、クレー、ハイドロタルサイト、雲母、黒鉛、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化珪素、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム等が挙げられ、これらは2種以上を併用することができる。またこれら微粉末フィラーは、必要に応じて表面処理が施されていてもよい。微粉末フィラーの平均粒径は、適宜選択して決定すればよいが、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた樹脂成形品の表面平滑性を良好なものとする観点から、沈降法で求めた粒子径として20μm以下であることが好ましく、通常、その下限は0.1μmである。
【0052】
本発明に用いる微粉末フィラーの含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、(A)成分100重量部に対して、1〜80重量部である。1重量部以上含有させることにより、成形時に発生する揮発成分のトラップ性能が向上し、また含有量を80重量部以下とすることで成形品表面へのフィラーの浮き出しによる表面性低下を抑制できる。中でも(C)微粉末フィラーの含有量は、(A)成分100重量部に対して、30〜60重量部とすることが好ましい。
【0053】
(D)離型剤
本発明においては、更に(D)離型剤を用いることができる。本発明に用いる(D)離型剤としては、従来公知の任意のプラスチック離型剤を用いることが出来る。中でも脂肪酸エステル系化合物は、金属膜密着性に阻害を与えにくい点で好ましい。脂肪酸エステル系化合物としては、中でも、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルや、これらの部分鹸化物が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を任意の割合で用いることができる。
【0054】
本発明における離型剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、(A)成分100重量部に対して、0.05〜4重量部である。配合量を0.05重量部以上とすることで得られる樹脂成形品の表面性を良好となる傾向があり、また4重量部以下とすることで、本発明の樹脂組成物を製造する際の混練作業性を維持しつつ且つ、成形品の表面性が良好となるので、例えば成形品表面へのアルミ蒸着時において、未反応の離型剤の浮き出しを抑制し、成形品表面のくもりを抑制することが出来る。離型剤の配合量は、好ましくは0.07〜2重量部である。
【0055】
また本発明では、光反射体を構成する樹脂組成物基体の成形時の熱安定性を高め、特に連続的に射出成形された場合においても、得られた樹脂成形品から発生するガス、低分子成分、染み出し物等の影響による外観・輝度感の低下を抑制する目的で、更に酸化防止剤・熱安定剤を添加することができる。
本発明に使用することができる酸化防止剤・熱安定剤としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には例えば、ヒンダードフェノール類、チオエーテル類及び有機リン化合物類から選ばれる1種又は2種以上の組合せからなることが好ましく、これらの添加は、押出し時や成形機内での溶融熱安定性向上に効果があり、ガスの付着による表面曇りの発生が少なく良好な外観・表面平滑性を有する成形品を連続的に長時間生産する上で有用であるとともに、光反射体が高温条件下におかれた際に、樹脂から発生するガスや分解物の生成を抑制し良好な外観・表面平滑性を維持する上でも特に有用である。
【0056】
また本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂等、他の熱可塑性樹脂や従来公知の任意の添加剤、例えば紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料等を含有することができる。
また本発明のポリエステル樹脂成体は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、従来公知の任意の樹脂成形法にて成形することにより得られる。中でも、射出成形法を用いることによって、本発明の特長である、良好な生産性と、表面性に優れた樹脂成形体を得られるという本発明の特長が顕著となるので好ましい。
本発明の樹脂成形体の形状は任意であり、例えば所望の最終製品に応じて任意の形状とすることが出来る。中でも、光反射板等の、薄型の略平板上の樹脂成形体、特に厚さが0.5〜10mmで、主平面が略四角形で、最大面積を有する面(主平面)面積が0.0001〜1mの、平板状成形体とした際に、本発明の効果が顕著となるので好ましい。
【0057】
本発明の積層体は、先述のポリブチレンテレフタレート樹脂成形体上の少なくとも一部に、金属層を設けてなる、樹脂・金属積層体である。具体的に本発明の積層体は、例えば平板状のポリエステル樹脂成形体表面の少なくとも一方の主平面上に、金属蒸着等によって得ることができる。金属層を設ける方法は任意であり、具体的には例えば、メッキ浴を用いる無電解メッキや、MOCVD等の、所謂、金属蒸着方法等、従来公知の任意の方法を用いることが出来る。
【0058】
設ける金属としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。中でも本発明の積層体を自動車用各種ランプ類や家電照明器具の反射体として用いる場合には、金属蒸着としてはアルミニウムを用いると、輝度感や均一な反射率を実現することができるので好ましい。本発明における成形品の表面は平滑で良好であり、成形品にプライマー処理を施さずに直接に金属蒸着しても、良好な光沢が得られると言う効果を奏する。なお、接着力を上げるために、金属層を設ける前に成形体表面を洗浄、脱脂してもよい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
これらの実施例及び比較例においては下記の成分を使用した。
(実施例および比較例に用いた樹脂、成分)
(A)PBTの製造方法(A−1〜A−8)
【0061】
(A−1)
図1に示すエステル化工程と、図2に示す重縮合工程を用い、以下の方法によりPBTを製造した。先ず、テレフタル酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.8
0モルの割合で混合した60℃のスラリーを、スラリー調製槽から原料供給ライン1を通じ、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化のための反応槽Aに、41kg/hとなる様に連続的に供給した。
同時に、再循環ライン2から185℃の精留塔Cの塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)を20kg/hで供給し、チタン触媒供給ライン3から触媒として65℃のテトラブチルチタネートの6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を99g/hで供給した(理論ポリマー収量に対し30ppm)。この触媒溶液中の水分は0.2重量%であった。2族金属触媒供給ライン15から触媒として65℃の酢酸マグネシウム・4水塩の6.0重量%1,4−ブタンジオール溶液を62g/h(理論ポリマー収量に対し15ppm)で供給した。この触媒溶液中の水分は10.0重量%であった。
【0062】
反応槽Aの内温は230℃、圧力は78kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン5から留出させ、精留塔Cで高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98重量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔Cの液面が一定になる様に、抜出ライン8を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサGで凝縮させ、タンクFの液面が一定になる様に抜出ライン13より外部に抜き出した。
【0063】
反応槽Aで生成したオリゴマーの一定量は、ポンプBを使用し、抜出ライン4から抜き出し、反応槽A内液の平均滞留時間が2.5hrになる様に液面を制御した。抜出ライン4から抜き出したオリゴマーは、図2に示す第1重縮合反応槽aに連続的に供給した。系が安定した後、反応槽Aの出口で採取したオリゴマーのエステル化率は96.5%であった。
【0064】
第1重縮合反応槽aの内温は240℃、圧力2.1kPaとし、滞留時間が120分になる様に液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントラインL2から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽dに連続的に供給した。
【0065】
第2重縮合反応槽dの内温は240℃、圧力130Paとし、滞留時間が85分になる様に液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントラインL4から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプeにより抜出ラインL3を経由し、ダイスヘッドgからストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターhでカッティングした。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0066】
(A−2)
(A−1)において、第2重縮合反応槽dの滞留時間を60分にし、得られたポリマーチップをダブルコニカル型ブレンダー(内容量100リットル)にて195℃、減圧下(0.133kPa以下)、5時間の固相重合処理を実施した。固相重合処理されたポリマーの固有粘度は0.85dL/g、末端カルボキシル基濃度は5.1μeq/gであった。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0067】
(A−3)
(A−1)において、ポリマー中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の通りとなる様にテトラブチルチタネート及び酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽dでの滞留時間を75分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0068】
(A−4)
(A−1)において、ポリマー中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の通りとなる様にテトラブチルチタネート及び酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの温度を244℃、滞留時間を75分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0069】
(A−5)
(A−1)において、酢酸マグネシウム・4水塩に代えて酢酸リチウム・2水塩を用い、ポリマー中のチタン及びリチウム含有量が表1の通りとなる様に供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの温度を244℃、滞留時間を70分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0070】
(A−6)
(A−1)において、酢酸マグネシウム・4水塩を用いず、またポリマー中のチタン含有量が表2の通りとなる様にテトラブチルチタネートの供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの滞留時間を105分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0071】
(A−7)
(A−1)において、ポリマー中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の通りとなる様にテトラブチルチタネート及び酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽dの滞留時間を75分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
【0072】
(A−8)
(A−1)において、ポリマー中のチタン及びマグネシウム含有量が表1の通りとなる様にテトラブチルチタネート及び酢酸マグネシウム・4水塩の供給量を調節し、第2重縮合反応槽(d)の滞留時間を90分にした以外は、(A−1)と同様に行った。得られたPBTの分析値は表1に記した。
PBT特性の評価法
【0073】
(1)エステル化率:
下記の計算式によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、ジメチルホルムアミドにオリゴマーを溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
エステル化率=(ケン化価−酸価)/ケン化価)×100
【0074】
(2)末端カルボキシル基濃度:
ベンジルアルコール25mlにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0075】
(3)固有粘度(IV):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dlのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、下記の式より求めた。
IV=((1+4KHηsp0.5−1)/(2KHC)
(但し、ηsp=η/η0−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数であり、0.33とした。

【0076】
(4)PBT中のチタン、及び1族、2族金属濃度:
電子工業用高純度硫酸及び硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP−MS(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0077】
(5)ペレット色調:
日本電色社製色差計(Z−300A型)を使用し、L、a、b表色系におけるb値で評価した。値が低いほど黄ばみが少なく色調が良好であることを示す。
【0078】
[ポリエチレンテレフタレート樹脂]
(B)ポリエチレンテレフタレート:三菱化学社製、GS385、〔η〕=0.65。
【0079】
[微粉末フィラー]
(C1)無機充填材―1(タルク、林化成製、タルカンPK−C、粒子径11μm)
(C2)無機充填材―2(マイカ、山口雲母製、A−21、粒子径23μm)
(尚、粒子径は何れも、沈降法で測定した値である。)
【0080】
[離型剤]
(D−1)ペンタエリスリトールジステアレート:日本油脂社製 商品名ユニスター H−476D
(D−2)ポリエチレンワックス:三井石油化学 HW100P
【0081】
本発明の試験方法は以下に記載の方法に従って行った。
(1)光反射体外観:
75tonの射出成形機を用い、成形温度250℃、成形品形状が100mm×100mm×3mmの鏡面金型を用い、金型温度80℃で成形した。成形品はプライマー処理を施すことなしに、アルミ蒸着を行い、光反射体を得た。蒸着条件は、圧力3Paのアルゴンガスを500Vの直流電流でプラズマ化し、5分間、成形品を処理した後、蒸着装置内を1×10−2Paまで減圧し、速度1nm/secでアルミニウムを膜厚100nmで蒸着した。得られた光反射体を、熱風乾燥機を用いて160℃×24Hr(微粉末フィラー含有の場合)、又は180℃×24Hr(微粉末フィラー不願の場合)の条件で加熱処理し、加熱処理前後の外観を、目視にて次の基準に従い評価した。
1:高い輝度感を有し、蛍光灯が歪みなく明瞭に映る。
2:輝度感を有し、蛍光灯が映る。
3:輝度感は有するが、蛍光灯が多少歪んで映る。
4:表面が荒れており、蛍光灯が波打って映る。
【0082】
(2)テープ剥離性:
アルミ蒸着した試料を熱風乾燥機で160℃×24Hr(微粉末フィラー不含の場合)または180℃×24Hr(微粉末フィラー含有の場合)の条件で加熱処理した後にアルミを蒸着し、得られた積層体の金属表面にナイフで傷を入れて、その上から粘着テープを貼り付け、その粘着テープを剥がした時の接着性を評価した。
◎:アルミ蒸着膜の剥がれが、殆どみられない。
○:アルミ蒸着膜の剥がれが、多少みられる。
×:アルミ蒸着膜の剥がれが、著しい。
【0083】
(3)熱変形温度:
ISO試験片を用いて熱変形温度を測定した。試験片を160℃で、1時間アニーリングした後、ISO75に準じて測定した。荷重は0.45MPaで測定した。
【0084】
(4)シャルピー衝撃強度:
ISO試験片を用いてISO179に準じてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0085】
〔実施例1〜9および比較例1〜6〕
表2および表3に示す割合で十分にドライブレンドした後、250℃に設定した2軸スクリュウ押出機を用い、15Kg/hrの押出速度でペレット化した。実施例9では比較例4の組成にステアリン酸マグネシウムを608ppm(金属マグネシウムとして25ppm)添加したものを同様に押出ペレットを得た。
得られたペレットを射出成形前に120℃で6hr乾燥し、型締め力が75tonの射出成形機を用い、成形温度250℃、成形品形状が100mm×100mm×3mmの鏡面金型を用い、金型温度80℃で成形した。射出成形時の離型性は良好であり、無抵抗で成形品の取り出しが可能であった。成形品はプライマー処理を施すことなしに、アルミ蒸着を行い、その後上述の評価を行った。また、同じ射出成形機にて250℃の成形温度、80度の金型温度でISO試験片を成形し、熱変形温度、シャルピー衝撃強度の測定を行った。結果は表2および表3に示す
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
上記表3における実施例9は、比較例4の樹脂組成物にステアリン酸マグネシウムを608ppm(金属マグネシウムとして25ppm)添加した後、同様に押出して得られたペレットを評価した結果である。
【0090】
表2、3より次のことが判かる。即ち、実施例は比較例に比べて衝撃強度、熱変形温度が優れ、高温雰囲気に曝したときの、試料の表面外観、テープ剥離性が良好であり、光反射体としての良好な特性を有している。
また表3に示されている実施例においては、比較例より光反射体としての特性が良好である。更に本発明においては、離型剤を含んでいても、成形時の離型をスムーズに行うことに役立ち、且つ高温度下においても蒸着膜の剥離を促進することもなく、好ましいものであった。
【0091】
以上の結果から、本発明の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体や、これから得られる光反射体は、鏡面鮮明性等の表面外観が優れているので直接金属蒸着性に優れ、加えて高温環境下においてもこれらの特性が損なわれることがない為、自動車用ランプにおけるハウジング、リフレクター、エクステンションや家電照明器具等などとして好適に用いることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】(A)PBT製造における、エステル化(又はエステル交換)反応工程の一例の説明図
【図2】(A)PBT製造における、重縮合工程の一例の説明図
【符号の説明】
【0093】
1 :原料供給ライン
2 :再循環ライン
3 :チタン触媒供給ライン
4 :抜出ライン
5 :留出ライン
6 :抜出ライン
7 :循環ライン
8 :抜出ライン
9 :ガス抜出ライン
10 :凝縮液ライン
11 :抜出ライン
12 :循環ライン
13 :抜出ライン
14 :ベントライン
15 :2A族金属触媒供給ライン
A :反応槽
B :抜出ポンプ
C :精留塔
D :ポンプ
E :ポンプ
F :タンク
G :コンデンサ
L1 :抜出ライン
L2 :ベントライン
L3 :抜出ライン
L4 :ベントライン
a :第1重縮合反応槽
c :抜出用ギヤポンプ
d :第2重縮合反応槽
e :抜出用ギヤポンプ
g :ダイスヘッド
h :回転カッター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)ポリエチレンテレフタレート樹脂5〜80重量部、(C)微粉末フィラー0〜80重量部、を含み、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とを含有し、(a)チタン化合物の含有量が、チタン原子換算で10ppm以上80ppm以下であり、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物の含有量が、その金属原子換算で1ppm以上50ppm以下であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(a)チタン化合物と、(b)1族金属化合物及び/または2族金属化合物とが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を製造する為の重縮合触媒であることを特徴とする請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(b)1族金属化合物または2族金属化合物が、マグネシウム化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(C)微粉末フィラーが、平均粒径20μm以下の微粉末フィラーであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
更に、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して(D)脂肪酸エステル系化合物0.05〜4重量部を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなる、ポリブチレンテレフタレート樹脂成形体。
【請求項7】
請求項6記載のポリブチレンテレフタレート樹脂成形体上の少なくとも一部に、金属層を設けてなる積層体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−161840(P2007−161840A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358813(P2005−358813)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】