説明

ポリプロピレン系複合フィルム

【課題】
本発明の課題は、易開封性を有し、内容物保護のための充分な強いシール強度が得られ、レトルトパウチ、医療用輸液バック、流動食用パウチ等に好適なシーラントフィルムおよびその積層体を提供すること。
【解決手段】
基材層(A)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)からなり、シール層(B)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)15〜50重量%と、プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)50〜85重量%[但し(a)+(b)=100重量%]からなるポリプロピレン系複合フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト食品包装用途などのシーラントフィルムとして有用なポリプロピレン系複合フィルムに関し、更に詳しくは易開封性と内容物保護のための強いシール強度を有するポリプロピレン系複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レトルトパウチ、医療用輸液バック、流動食用パウチ等に使用されるシーラントフィルムには、加圧加熱殺菌処理(レトルト処理)に対応できる耐熱性、流通過程の衝撃に耐える耐衝撃性(特に低温耐衝撃性)や十分なシール強度、耐ブロッキング性、適度な透明性などが必要とされてきた。特にレトルトパウチ用フィルム設計は、これらの要求特性のうち、耐熱性、低温耐衝撃性、シール強度を最も重要視して他の要求特性をバランスよく満たすことを目的として設計されてきた。例えば、プロピレン・エチレンブロック共重合体やプロピレン・エチレンブロック共重合体にエチレン系エラストマーなどを配合した樹脂を溶融押出して製膜した無延伸フィルムをレトルトパウチに用いた場合、十分強いシール強度を有して、開封時には鋏等で開けるものであった(特許文献1、2)。しかしながら、近年の高齢者人口の増加に伴い高齢者自身が容易に開封出来るパウチや医療現場での迅速な作業を容易にするため鋏等で開封する必要の無い医療用輸液バック、流動食用パウチ等の要望が高まってきた。そこで、この問題を解決するために、特許文献1および2を用いて、包装袋の輸送、取り扱いにおいて過度な衝撃等が加わらないことを前提に、開封に必要な部分のみシール温度を低温にしてシール強度を低下させて、他の部分は通常の高温でシールし充分なシール強度を確保する手段を試みたが、特許文献1および特許文献2の無延伸フィルムでは低温領域で目的とするシール強度を得ようとすると、シール強度の温度依存性が大きすぎ(適性シール温度範囲が狭すぎ)、安定して加工することができず、良好な易開封性と内容物保護のためのシール強度(内容物密封性)を両立することはできなかった。
【0003】
また、低温ヒートシール性と耐衝撃性を目的に、ラミネート層とシール層の2層構造とした積層ポリプロピレン系無延伸フィルムが提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3のフィルムは低温シール性には優れるが、内容物保護のためのシール強度が低く、内容物を詰めて落袋したときの落袋強度を満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−55510号公報
【特許文献2】特開2003−96251号公報
【特許文献3】特開2007−237641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、易開封性を有し、内容物保護のための充分な強いシール強度が得られ、レトルトパウチ、医療用輸液バック、流動食用パウチ等に好適なポリプロピレン系複合フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するための本発明は、次の構成を特徴とするものである。
【0007】
基材層(A)と、基材層(A)の片面側に設けられたシール層(B)とを有する複合フィルムであって、基材層(A)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)からなり、シール層(B)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)15〜50重量%と、プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)50〜85重量%[但し(a)+(b)=100重量%]からなることを特徴とするポリプロピレン系複合フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、広い温度範囲で安定してシールできて、良好な易開封性を有し、内容物保護のための充分な強いシール強度が得られるので、包装袋の開封に必要な部分のみを易開封性とし、他の部分は充分なシール強度を確保することができる。さらに、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層を、前記ポリプロピレン系複合フィルムの基材層側に積層することにより、開封に必要な部分のみを易開封性とし、他の部分は充分なシール強度有するレトルトパウチ、医療用輸液バック、流動食用パウチ等の包装袋を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係わるポリプロピレン系複合フィルムについて具体的に説明する。
【0010】
本発明における基材層(A)を構成する樹脂は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)であることが必要である。本発明におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体とは、プロピレン重合体(a1)とエチレン重合体(a2)からなる共重合体である。
【0011】
該プロピレン・エチレンブロック共重合体の密度は、0.90〜0.96g/cmであることが好ましい。密度が0.90g/cm未満ではフィルムの機械強度が低くなり、製膜後のスリット性や、ラミネート時の工程でフィルムが伸びて、工程通過性が悪化する場合がある。また、密度が0.96g/cmを超えるとフィルムの結晶性が高くなり、耐衝撃性が悪化する場合がある。
【0012】
また、該プロピレン・エチレンブロック共重合体の230℃でのメルトフローレート(以下、MFRと略称する)は、1〜20g/10分の範囲であり、好ましくは、1〜10g/10分の範囲、より好ましくは2〜5g/10分の範囲である。MFRが1g/10分未満では、溶融ポリマーを冷却固化してフィルム化するキャスト時の速度追従性が悪くなり生産性が悪化するので好ましくない。また、MFRが20g/10分を超えると粘度が低くなり過ぎて、キャスト時のフィルムエッジ部のネックインが大きくなり、生産性が悪化する場合がある。
【0013】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)のa1成分およびa2成分の極限粘度、およびメルトフローレートの調整方法としては、重合時の各工程で水素ガスや金属化合物などの分子量調節剤を加える方法、パウダー状で得られた重合体を溶融混練する際に添加剤を添加する方法、パウダー状で得られた重合体を溶融混練する際の混練条件を調整する方法等が挙げられる。
【0014】
また、基材層(A)には本発明の目的を損なわない範囲で、フィルム加工に適した滑り性やラミネート適性を確保するため、特定の添加剤、具体的にはエルカ酸アミドなどの有機滑剤、酸化防止剤およびシリカ、ゼオライトなどの無機充填剤を選択して使用してもよい。また、基材層(A)には本発明の効果を阻害しない範囲であれば、必要に応じて本発明フィルムを生産する際に生じるフィルム端部やスリット屑などを混合使用することもできる。
【0015】
該プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)の製造方法としては、触媒を用いて原料であるプロピレンやエチレンなどを重合させる方法が挙げられる。触媒としてはチ−グラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒などを用いることができ、例えば、特開平07−216017号公報にあげられるものを好適に用いることができる。具体的には、Si−O結合を有する有機ケイ素化合物およびエステル化合物の存在下、一般式Ti(OR3aX4-a(式中、R3は炭素数が1〜20の炭化水素基、Xはハロゲン原子、aは0<a≦4の数字を表し、好ましくは2≦a≦4、特に好ましくはa=4である。)で表されるチタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物で処理したのち、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物もしくはエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物の混合物で処理することにより、得られる三価のチタン化合物含有固体触媒、有機アルミニウム化合物電子供与性化合物(ジアルキルジメトキシシラン等が好ましく用いられる)よりなる触媒系が挙げられる。
【0016】
該触媒を用いた共重合体(a)の具体的製造方法として、生産性および耐低温衝撃性の観点から、第1工程で実質的に不活性溶剤の不存在下にプロピレンを主体としたモノマを重合して重合体部分(a1成分)を生成し、ついで第2工程で気相中での重合によりエチレン共重合体部分(a2成分)を生成して得られるブロック共重合体であって、a2成分の含有量が10〜30重量%(但し、a1成分とa2成分の合計を100重量%とする)、より好ましくは15〜25重量%であることが好ましい。a2成分の含有量が10重量%未満ではシール層(B)との界面接着力に劣り、また耐落袋衝撃性に劣る場合があり、含有量が30重量%を超えると耐ブロッキング性に劣る場合がある。
【0017】
また、該a2成分の極限粘度([η]a2)とa1成分の極限粘度([η]a1)の比([η]a2/[η]a1)の比が1.0〜2.0であることが好ましい。η]a2/[η]a1が1.0未満では耐ブロッキング性が悪化する場合があり、2.0を超えると耐落袋衝撃性が悪化する場合がある。
【0018】
次に、本発明におけるシール層(B)は、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(a)15〜50重量%と、プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)50〜85重量%[但し(a)+(b)=100重量%]であることが必要である。該混合樹脂(b)の含有量が50重量%未満では低温ヒートシール性に劣り、85重量%を超えるとフィルムとしてロール状に巻き取った時にフィルム同士が粘着して、ブロッキングを起こす場合があるので好ましくない。該混合樹脂(b)の含有量は、60〜80重量%の範囲がより好ましい。
【0019】
シール層(B)のプロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)中の低密度ポリエチレン樹脂(b4)の含有量は、5〜20重量%の範囲であることが好ましい。低密度ポリエチレンの含有量が5重量%未満では、160℃以上の高温領域のヒートシール強度に劣り、20重量%を超えると耐ブロッキング性に劣る場合がある。
【0020】
該シール層(B)には、酸化防止剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等を含むことができる。
【0021】
該プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体は、例えば、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体と同一の触媒を用いて、プロピレンを重合後に同一の重合槽にエチレンおよび/またはブテンを投入して重合する方法、または、2段階、3段階に分けて連続的に重合する方法にて製造することができる。該プロピレン(b1)成分へのエチレン(b2)成分および/またはエチレン・ブテン(b3)成分の共重合量は2〜20重量%(但し、b1成分とb2成分および/またはb3成分の合計を100重量%とする)、より好ましくは4〜15重量%であることが好ましい。b2成分および/またはb3成分の含有量が2重量%未満では、耐衝撃性に劣る場合があり、含有量が20重量%を超えると 耐ブロッキング性に劣る場合がある。
【0022】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは基材層(A)と、基材層(A)の片面側に設けられたシール層(B)とを有することが必要である。シール層(B)の組成の単層フィルムでは、高温領域のシール温度ではシール強度を満足するものではあるが、145℃以下の低温領域のシール温度ではシール強度が弱すぎて、密封性に劣る。
【0023】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは基材層(A)とシール層(B)の2層からなる複合フィルムであることが必須であるが、必要に応じて基材層(A)側に第3、4のポリポロピレン系樹脂層を積層し、3層以上の複合フィルムとしてもよい。
【0024】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムの厚みは30〜100μmが好ましく、シール層(B)の厚みは3〜20μmが好ましい。シール層(B)の厚みが3μm未満では低温シール温度域での易開封性が悪くなり、20μmを越えると高温シール温度域でシール強度が不足することがある。
【0025】
また、本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、基材層(A)のシール層(B)とは反対側に二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層を必要に応じて単独あるいは組合せて積層して使用するのが好ましい。二軸延伸ポリアミドフィルムとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66などが挙げられ、中でも二軸延伸ナイロン66フィルムが、耐熱性、耐湿性の面でより好ましい。二軸延伸ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられ、中でも二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが、耐熱性とフィルム化価格等で総合的により好ましい。金属箔としては、アルミ箔、銅箔などが挙げられ、なかでもアルミ箔がより好ましい。印刷紙としては、合成紙、上質紙、中質紙、アート紙、コート紙、更紙などが挙げられるが、印刷の出来具合からアート紙が好ましい。
【0026】
上記二軸延伸ポリアミドフィルムおよび二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みは、10〜100μmの範囲であり、特に、12〜50μmの範囲であることが、レトルトパウチとした場合に、耐衝撃性と取り扱い性から好ましい。
【0027】
上記印刷紙の厚みは、15〜200μmの範囲であり、特に20〜100μmの範囲であることが、印刷性加工性と、レトルトパウチとした場合に耐衝撃性と取り扱い性から好ましい。
【0028】
上記金属箔の厚みとしては、5〜30μmの範囲であることが、レトルトパウチとした場合に、耐衝撃性、取り扱い性および経済性から好ましい。
【0029】
基材層(A)のシール層(B)とは反対側にこれらの層を積層する方法としては特に限定されないが、接着剤、ホットメルト剤、低融点の押出ラミネート樹脂を介して積層する方法が挙げられる。
【0030】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムのシール層(B)どうしをヒートシールした場合、135℃〜145℃のヒートシール強度が20〜30N/15mmの範囲であり、かつ、160℃〜180℃のヒートシール強度が55N/15mm以上であることが、パウチ作成時のヒートシール強度安定性の面で好ましい。135℃〜145℃のヒートシール強度が20N/15mm未満では内容物の密封性に劣り、30N/15mmを超えると易開封性に劣る場合がある。また、160℃〜180℃のヒートシール強度が55N/15mm未満では、落袋衝撃性に劣るので好ましくない。
【0031】
次に、本発明のポリプロピレン系複合フィルムの製造法の一例を説明する。
【0032】
2台の押出機を用いて、1台の押出機からプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を温度160〜260℃で溶融して押し出し[基材層(A)]、もう1台の押出機からプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)25重量%とプロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)75重量%を温度160〜250℃で溶融して押し出し[シール層(B)]、パイプ複合や共押出多層ダイで積層させ、基材層(A)の厚みが50μmでシール層(B)の厚みが10μmとなるようにして、ダイよりフィルム状に押し出し、35〜50℃の冷却ロールでキャスト冷却固化し複合フィルムとする。続いて、必要に応じ基材層(A)の表面にコロナ放電処理を施し、巻き取り、さらに所定の幅、長さにスリットする。以上のようにして得られた本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層と積層して、一般包装用、レトルト食品包装袋用、医療用輸液バック、流動食用パウチ等のシーラントフィルムとしても使用できる。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明における特性の測定方法並びに効果の評価方法は、次の通りである。
【0034】
(1)融点(Tm)
株式会社島津製作所製のDSC(DSC−60A)を使用し、窒素雰囲気下で5mgの試料を10℃/分の速度で250℃まで昇温して5分間保持した後に、10℃/分の冷却速度で10℃まで冷却し、再度10℃/分の速度で昇温していった際に、再度の昇温において、樹脂の融解に伴う吸熱ピークのピーク温度を融点(Tm)とした。
【0035】
(2)樹脂の密度
JISK7112−1980に規定された密度勾配管法に従い密度を測定した。
【0036】
(3)フィルム厚み
ダイヤルゲージ式厚み計(JIS B−7509−1992、測定子5mmφ平型)を用いて、フィルムの長手方向及び幅方向に10cm間隔で10点測定して、その平均値とした。
【0037】
(4)各層の厚み
フィルムの断面ミクロトームにて切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡S−2100A形((株)日立製作所製)を用いて1000倍に拡大観察して撮影した断面写真を用いて、各層の厚み方向の長さを計測し、拡大倍率から逆算して各層の厚みを求めた。尚、各層の厚みを求めるに当たっては、互いに異なる測定視野から任意に選んだ計5箇所の断面写真計5枚を使用し、それらの平均値として算出した。
【0038】
(5)ヒートシール強度
100mm×15mmにサンプルを切り出し、シール層面同士を重ねて、形状テスター産業株式会社製の平板ヒートシールテスター(TP−701B)を使用し、各シール温度、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件でヒートシールしたサンプルを株式会社オリエンテック製のテンシロン(RTC−1210A)を使用して300mm/分の引張速度で、90°剥離したときのヒートシール強度を測定した。そのときに、1試料についてn数10の測定値の平均値を取った。
【0039】
また、本発明の目的である、密封性、内容物保護性、易開封性を両立するために、135℃〜145℃の低温領域のヒートシール強度が20〜30N/15mmで、かつ、160℃〜180℃の高温領域のヒートシール強度が55N/15mm以上であるものを○とし、該範囲を外れ、密封性、内容物保護性、易開封性を両立できないものを×とした。
【0040】
(6)低温落袋性
(5)で得られたヒートシール強度測定用の積層フィルム作成において、ヒートシール温度160℃、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件で、130mm×170mm形状のパウチを作成し、内容物に水とサラダ油を50/50にブレンドした液を150ml充填封入してから、ヒートシール温度140℃、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件で密封し、その後、0℃雰囲気下において1.2mの高さからコンクリート面へ底辺部を下にして垂直落下させる。そのときに、1試料についてn数10のテストを行い、パウチのシール部が開封または、パウチの一部が破れた個数で下記の通り判定した。
○:全く開封が無く、パウチの破れも無かった。
△:開封または破れが3個未満であった。
×:開封または破れが3個以上であった。
【0041】
(7)落袋衝撃性
(5)で得られた積層フィルムから、130mm×170mm形状のパウチを作成し、内容物に水とサラダ油を50/50にブレンドした液を150ml充填封入してから、常温雰囲気下(24℃)において1.5mの高さからコンクリート面へ底辺部を下にして垂直落下させる。そのときに、1試料についてn数10のテストを行い、パウチのシール部が開封、または、パウチの一部が破れた個数で下記の通り判定した。
○:全く開封が無く、パウチの破れも無かった。
△:開封または破れが3個未満であった。
×:開封または破れが3個以上であった。
【0042】
(8)メルトフローレート(MFR)
JIS K−7210に準拠して、ポリプリピレン系樹脂は230℃、ポリエチレン系樹脂は190℃で測定した。
【0043】
(9)レトルト処理
(6)で得られたパウチを、株式会社トミー精工精のオートクレーブ(SR−240)を用いて温度130℃、時間30分、圧力2kg/cmにて処理を行った後、加熱、圧力を常温、常圧に戻して取り出した。
【0044】
(10)易開封特性
(6)で得られたパウチを用いて、内容物充填後の最後の密封部(開封部)について、レトルト前後の密封性と開封性を評価し、下記判定を行った。
○:レトルト後でもシール部の開封がなく、手で容易に開封することができ、剥離痕が綺麗に残り、剥離できる。
△:レトルト後でもシール部の開封がなく、手で開封することができるが、剥離部に糸引きが起こり、剥離痕が綺麗ではない。
×:レトルト後でシール部の開封があるか、または、手で開封することが困難である。
【0045】
[実施例1〜3]
基材層(A)の樹脂として、密度が0.92g/cmで、メルトフローレート(以下MFRと略称する)3.0g/10分、融点161℃のプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)を温度260℃に温調された押出機に供給して溶融し、シール層(B)として、基材層と同じプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)と、MFRが30g/10分、融点141℃のプロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、密度0.89g/cmで、MFRが7g/10分の低密度ポリエチレン(b)の混合樹脂を表1に示す比率で混合して、もう1台の押出機に供給して温度250℃で溶融し、共押出し用のマルチマニフォールド口金で、2層に積層してフィルム状に押し出し、40℃の冷却ロールで冷却固化し、基材層(A)の厚みが50μm、シール層(B)の厚みが10μmの総厚み60μm複合フィルムとした。
【0046】
厚さ15μmの二軸延伸ナイロン66フィルム(ユニチカ(株)製“エンブレム”ONM)に、ドライラミネート剤として、2液硬化タイプ接着剤(大日本インキ化学工業(株)製LX−903/KL−75=8/1)を、固形分塗布厚3μmで塗布した後、上記の複合フィルムに積層して乾燥した。その後、該積層した複合フィルムは、温度40℃にて24時間エージングを実施し、接着剤層の硬化反応を促した後、表1に示した温度で、低温領域の135℃と145℃、高温領域の160℃と180℃として、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件で、シール層(B)面同士を重ねてヒートシールしたサンプルを作成して、それぞれヒートシール強度を測定した。
【0047】
次に、上記ヒートシール温度160℃、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件で、縦および底辺部をヒートシールして、130mm×170mm形状のパウチを作成し、内容物に水とサラダ油を50/50にブレンドした液を150ml充填封入してから、上部の易開封部をヒートシール温度145℃、シール圧力1kg/cm、シール時間1秒の条件で密封し、レトルト前後の低温衝撃性、落袋衝撃性、易開封特性を評価した。
【0048】
本発明のフィルムは、低温シール領域でヒートシールした開封部は、良好な易開封特性と密封性を示し、また、160℃の高温シール領域でヒートシールした縦および底辺部は十分なヒートシール強度を示して、内容物保護性に優れていた。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0049】
[比較例1]
基材層(A)をMFR=8g/10minのホモポリプロピレン(住友化学(株)製、FLX80E4)とした以外は、実施例1と同じ条件で複合フィルムと積層体を得た。本積層体は、シール層(B)との間で界面剥離が起こり、また、低温衝撃性および耐落袋衝撃性に劣るものであった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0050】
[比較例2]
シール層(B)の構成樹脂組成のみの単層とした以外は、実施例1と同じ条件で厚みが60μmの単層フィルムと積層体を得た。本フィルムおよび積層体は、低温シール領域でのヒートシール強度が高過ぎて本発明の範囲を満たすものではなく、易開封性に劣るものであった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0051】
[比較例3]
シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体を10重量%、プロピレン・エチレンランダム共重合体を72重量%、低密度ポリエチレンを18%とし、実施例1と同じ条件で厚みが60μmの複合フィルムと積層体を得た。本フィルムおよび積層体は高温シール領域で上記に示すヒートシール強度が低くて、本発明の範囲を満たすものではなく、低温衝撃性および耐落袋衝撃性に劣り、内容物保護性に劣るものであった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0052】
[比較例4]
シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体を60重量%、プロピレン・エチレンランダム共重合体を32重量%、低密度ポリエチレン8重量%とし、実施例1と同じ条件で厚みが60μmの複合フィルムを得た。本フィルムおよび積層体は低温シール領域でヒートシール強度が低くて、本発明の範囲を満たすものではなく、密封性、低温衝撃性および耐落袋衝撃性にも劣るものであった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0053】
[比較例5]
シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体を60重量%、プロピレン・エチレンランダム共重合体を40重量%とし、実施例1と同じ条件で厚みが60μmの複合フィルムを得た。本フィルムおよび積層体は低温シール領域でヒートシール強度が低くて本発明の範囲を満たすものではなく、レトルト前後の易開封特性と密封性に劣るものであった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0054】
[比較例6]
シール層(B)のプロピレン・エチレンブロック共重合体を60重量%、低密度ポリエチレンを40重量%とし、実施例1と同じ条件で厚みが60μmの複合フィルムを得た。本フィルムおよび積層体は、プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体を含有しないために、高温シール領域でのヒートシール強度が低く、低温衝撃性と落袋衝撃性も満足するものではなかった。各物性の評価結果は表1に示すとおりであった。
【0055】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリプロピレン系複合フィルムは、広い温度範囲で安定してシールできて、良好な易開封性を有し、内容物保護のための充分な強いシール強度が得られるので、さらに、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔の少なくとも1層以上の他基材の片面に積層体とすることにより、レトルトパウチ、医療用輸液バック、流動食用パウチ等の包装袋として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(A)と、基材層(A)の片面側に設けられたシール層(B)とを有する複合フィルムであって、基材層(A)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)からなり、シール層(B)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(a)15〜50重量%と、プロピレン・エチレンランダム共重合体および/またはプロピレン・エチレン・ブテンランダム共重合体と、低密度ポリエチレンの混合樹脂(b)50〜85重量%[但し(a)+(b)=100重量%]からなることを特徴とするポリプロピレン系複合フィルム。
【請求項2】
二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリエステルフィルム、印刷紙、金属箔から選ばれる少なくとも1層を、前記基材層(A)のシール層(B)とは反対側に有する請求項1に記載のポリプロピレン系複合フィルム。
【請求項3】
シール層(B)どうしをヒートシールした場合、135℃〜145℃のヒートシール強度が20〜30N/15mmであり、かつ、160℃〜180℃のヒートシール強度が55N/15mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン系複合フィルム。

【公開番号】特開2011−25432(P2011−25432A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170906(P2009−170906)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】