説明

ポリベンゾオキサゾール、その前駆体および該前駆体を含む溶液、ならびに前駆体の製造方法、ポリベンゾオキサゾールの製造方法

【課題】製造時にイオン性の副生物を発生させることが無く、フッ素あるいはフルオロアルキル基、およびその他のハロゲン原子を含有せずに、有機溶媒への溶解性の良いポリベンゾオキサゾール前駆体、およびそれから得られるポリベンゾオキサゾールを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾール及びその前駆体を提供する。


[式(I)中、mは0または1である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸やハロゲン等のイオン性不純物を含む副生成物を発生させることがなく、しかも最終的に得られるポリベンゾオキサゾール自体にもフッ素等のハロゲン原子を含有しない、ポリベンゾオキサゾール前駆体、その溶液、及び該前駆体より得られる、耐熱性、力学強度、絶縁特性、寸法安定性等に優れるポリベンゾオキサゾール、並びに電気電子機器用部品等に用いられる前駆体及びポリベンゾオキサゾールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾールは耐熱性、力学強度、寸法安定性、絶縁特性等に非常に優れたスーパーエンジニアリングプラスチックであり、プリント配線基板や回路基板等の電気電子機器等に幅広く使用されている。
【0003】
ポリベンゾオキサゾールは、芳香族ジカルボン酸化合物とビス(o−アミノフェノール)系化合物との縮合により得られるが、カルボン酸の形ではフェノールやアミンとの反応性が低いために、重合方法が種々研究されてきた。これらの重合方法については、「第4版実験化学講座28 高分子合成」(平成4年5月6日発行 日本化学会編、丸善株式会社発行)p332−p336に開示されているが、例えば、ビス(o−アミノフェノール)系化合物とジカルボン酸をポリリン酸中で縮合させる手法が知られている。この場合、ポリリン酸が縮合剤かつ溶媒の役割を果たすことになり、実験室スケールでは操作が容易であるが、工業的規模では大量に副生してしまうリン酸の処理が課題となる。
【0004】
また、カルボン酸を活性化させた形であるジカルボン酸クロリドとビス(o−アミノフェノール)系化合物との反応では、アミノ基とフェノール性OH基との反応性に大きな差がないために、架橋構造が生成して不溶化してしまうという問題がある。このためビス(o−アミノフェノール)系化合物をトリメチルシリル化し、重合させる方法が知られている。この方法によれば、選択的にアミド結合が生成し、ポリベンゾオキサゾールの前駆体であるポリヒドロキシアミドの高分子量体を得ることができる。この前駆体を250℃程度の高温で処理することにより、ポリベンゾオキサゾールを得ることができる。しかしながらこの手法では、ジカルボン酸クロリドを使用するため、ハロゲンを含有する塩の除去が必要であり、精製に多大な労力を必要とする。
【0005】
上記の課題を解決する方法として、例えば特公昭47−1223号公報には、ビス(o−アミノフェノール)系化合物と芳香族ジアルデヒドを反応させることを特徴とするポリベンゾオキサゾールの製造法が開示されている。この方法によれば、精製を特に必要とせずにポリベンゾオキサゾールが製造できる。しかしながら、この方法で得られるポリベンゾオキサゾールは、その前駆体の溶解性が悪いため、均一な溶液を得ることが困難で、皮膜形成性が悪く、また得られた成形品の強度が小さく、脆いという欠点を有する。
【0006】
特開平4−202528号公報では、上記欠点を克服するために、フッ素あるいはフルオロアルキル基を導入したポリベンゾオキサゾールおよびその製造方法が開示されている。
この手法によれば、ポリベンゾオキサゾールの前駆体の有機溶媒への溶解性が良好であるため、耐熱性、力学強度に優れた成形品が得られることが示されている。しかしながら、この方法では、フッ素あるいはフルオロアルキル基を導入しているため、焼却処理された場合に、猛毒性、腐食性を有するフッ化水素、二フッ化カルボニル等のガスが発生してしまう。またフッ素あるいはフルオロアルキル基を有する化合物は高価であり、経済的に不利である。
【0007】
また、上記二つの公報に開示の方法で得られるポリベンゾオキサゾール前駆体は、ポリアゾメチンの一種であり、これに構造が類似した通常のポリアゾメチンは、耐熱性が良好なポリマーであるが、溶解性が悪いことで知られている。このポリアゾメチンの溶解性を改良する方法として、種々の方法が試みられているが、例えばバルキーなフルオレン基を導入することにより、広範な有機溶媒に可溶なポリアゾメチンが得られることが、Macromol. Chem. Phys. 199, 1029-1033 (1999) に述べられている。しかしながら、この文献には、ビス(o−アミノフェノール)系化合物の利用、あるいはポリベンゾオキサゾール前駆体としての利用等については、全く述べられていない。
【0008】
さらに特開2003−221444号公報では、ポリベンゾオキサゾール前駆体としてのポリヒドロキシアゾメチンが開示されており、その中にはフルオレン骨格を有するものも含まれているが、ポリヒドロキシアゾメチンとしての具体的な例示(実施例)としては、特公昭47−1223号公報および特開平4−202528号公報に記載された具体的な例示と同一のもののみであり、なんら新規な構造についての結果が記述されていない。また分子量もかなり小さい。さらにフルオレン骨格を有するものについての具体的な記述もない。
【特許文献1】特公昭47−1223号公報
【特許文献2】特開平4−202528号公報
【特許文献3】特開2003−221444号公報
【非特許文献1】「第4版実験化学講座28 高分子合成」(平成4年5月6日発行 日本化学会編、丸善株式会社発行)p332−p336
【非特許文献2】Macromol. Chem. Phys. 199, 1029-1033 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の点に鑑み、その解決しようとするところは、製造時にイオン性の副生物を発生させることが無く、フッ素あるいはフルオロアルキル基、およびその他のハロゲン原子を含有せずに、有機溶媒への溶解性の良いポリベンゾオキサゾール前駆体を得ること、およびそれから得られるポリベンゾオキサゾールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾールである。
【化1】

[式(I)中、mは0または1である。]
【0011】
また、本発明は、下記一般式(II)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾール前駆体である。
【化2】

[式(II)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【0012】
また、本発明の好ましい態様は、上記ポリベンゾオキサゾール前駆体のGPC測定による重量平均分子量が、標準ポリスチレン換算で10,000以上であることを特徴とするポリベンゾオキサゾール前駆体である。
【0013】
また、本発明は、上記ポリベンゾオキサゾール前駆体が1重量%〜99重量%の範囲で溶解している溶液である。
【0014】
また、本発明は、a)ビス(o−アミノフェノール)系化合物、b)芳香族ジアルデヒド化合物とを溶液中で反応させてポリベンゾオキサゾール前駆体を得る方法において、a)のビス(o−アミノフェノール)系化合物が下記一般式(III)で示される化合物であることを特徴とするポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法である。
【化3】

[式(III)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【0015】
また、本発明の好ましい態様は、芳香族ジアルデヒド化合物が、イゾフタルアルデヒドまたはテレフタルアルデヒドの少なくとも一方であることを特徴とする前記ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、上記溶液より溶媒を除去して、ポリベンゾオキサゾール前駆体を析出させ、さらに加熱処理をすることを特徴とするポリベンゾオキサゾールの製造方法である。
【0017】
また、本発明は、上記方法により得られるポリベンゾオキサゾールである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、製造時にイオン性の副生物を発生させることが無く、フッ素あるいはフルオロアルキル基、およびその他のハロゲン原子を含有せずに、有機溶媒への溶解性の良いポリベンゾオキサゾール前駆体、およびそれから得られるポリベンゾオキサゾール、並びに該前駆体を含む溶液、ならびに前駆体を製造する方法、ポリベンゾオキサゾールの製造方法及び該方法により得られるポリベンゾオキサゾールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のポリベンゾオキサゾールは、下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含むものである。
【化4】

[式(I)中、mは0または1である。]
【0020】
本発明のポリベンゾオキサゾールは、イオン性不純物が含まれることが無く、耐熱性、力学強度、寸法安定性、難燃性、絶縁特性等に優れている。このため、電気電子機器用部品、耐熱部材等に好適に利用できる。
【0021】
本発明のポリベンゾオキサゾールは、重量平均分子量が通常10,000〜500,000であり、好ましくは15,000〜200,000の範囲のものである。
【0022】
また、本発明は、下記一般式(II)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾール前駆体である。
【化5】

[式(II)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【0023】
また、本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体は、そのGPC測定による重量平均分子量が、標準ポリスチレン換算で好ましくは10,000以上、更に好ましくは15,000〜200,000である。かかる重量平均分子量が10,000以上であると、最終的に得られるポリベンゾオキサゾールが力学強度、耐熱性に優れるため好ましい。
【0024】
また、本発明の溶液は、ポリベンゾオキサゾール前駆体が1重量%〜99重量%の範囲、好ましくは5〜70重量%の範囲で溶解しているものである。
【0025】
また、本発明に係るポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法は、a)ビス(o−アミノフェノール)系化合物、b)芳香族ジアルデヒド化合物とを溶液中で反応させてポリベンゾオキサゾール前駆体を得る方法において、a)のビス(o−アミノフェノール)系化合物が下記一般式(III)で示される化合物であることを特徴とする。
【化6】

[式(III)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【0026】
前記一般式(III)で示される化合物のようなフルオレン基を含有するビス(o−アミノフェノール)系化合物は、例えば特開2002−105034号公報に記載のように、9−フルオレノンとフェノールを縮合させて得られる9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンをニトロ化して9,9−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンとし、続いてニトロ基を還元することにより9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン得ることができる。また類似の方法として、特開2002−363147号公報には、9,9−ビス(3−ニトロ−5−アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを還元して9,9−ビス(3−アミノ−5−アルキル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを得る方法が開示されている。
【0027】
本発明に係るポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法に用いられるa)のo−アミノフェノール系化合物である前記一般式(III)で示される化合物の原料となるo−アミノフェノール系化合物としては、例えば、o−アミノフェノール、6−アミノ−2−メチルフェノール、6−アミノ−3−メチルフェノール、2−アミノ−4−メチルフェノール、2−アミノ−3−メチルフェノール、o−アニシジン、o−フェネチジン等が挙げられる。
【0028】
また9−フルオレノンとo−アミノフェノール系化合物との酸触媒による高温下での縮合反応によっても前記一般式(III)で示される化合物を得ることができる。この場合には、フルオレン骨格の9位に結合する部位が、OX基を1位、NH基を6位としたときに、メチル置換体でない場合には2位、3位、4位、5位の可能性があり、得られるビス(o−アミノフェノール)系化合物は異性体の混合物となる場合があるが、実用上は特に問題が無い。またメチル置換体である場合には、その部位はフルオレン骨格の9位に結合しない。
【0029】
また本発明の目的である、有機溶媒への溶解性を損なわない範囲であれば、前記一般式(III)で示される化合物とともに、他のビス(o−アミノフェノール)系化合物を併用することもできる。この場合使用できるものとしては、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、o−ジアニシジン、4,6−ジアミノレゾルシノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
本発明に係るポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法に用いられるb)の芳香族ジアルデヒド化合物は、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、オルソフタルアルデヒド、2,2’−ジホルミルビフェニル、2,2’−ジホルミルジフェニルエーテル等が挙げられるが、この中でも、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒドが入手しやすく、また最終的に得られるポリベンゾオキサゾールが耐熱性、力学強度に優れるため、これらの少なくとも一方であることが好ましい。
【0031】
上記ビス(o−アミノフェノール)系化合物と芳香族ジアルデヒドとの反応に使用する溶媒としては、従来公知のものが使用でき、例えばジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、m−クレゾール、ジメチルスルホキシド等が使用できる。また溶解性を阻害しない範囲で他の溶媒を使用してもよい。反応の進行に伴い発生する水を共沸除去するために、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒を用いてもよい。
【0032】
ポリベンゾオキサゾール前駆体の形成反応は、前記した有機溶媒にビス(o−アミノフェノール)系化合物と芳香族ジアルデヒドを溶解させ、好ましくは撹拌下で、室温から200℃程度の温度で行うことができる。このとき系内を窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換してもよい。また減圧下で反応させてもよい。反応の進行に伴い水が発生するが、これを除去しながら反応を進めてもよい。反応させる時間は、反応溶媒や濃度、温度によっても異なるが、1〜50時間程度が通常である。反応時の濃度としては、例えば1〜99重量%であり、好ましくは2〜60重量%である。
【0033】
また、本発明に係るポリベンゾオキサゾールの製造方法は、前記前駆体の溶液より溶媒を除去して、ポリベンゾオキサゾール前駆体を析出させ、さらに加熱処理をすることを特徴とする。
【0034】
ポリベンゾオキサゾール前駆体よりポリベンゾオキサゾールを形成する方法としては、例えば、前駆体溶液をガラス板やその他基材上に流延し、加熱して溶媒を除去するとともに、200℃〜500℃程度に加熱して、ベンゾオキサゾール環を形成させてポリベンゾオキサゾールを得る方法がある。このときの加熱処理時間は、温度にもよるが、10分〜5時間程度である。この場合、雰囲気は窒素、アルゴン等の不活性ガスで置換されていてもよい。また得られたポリベンゾオキサゾールを、基材上から単離して単独のフィルム状で利用してもよく、基材上のコーティング膜として利用しても良い。あるいは前駆体溶液を、例えばメタノール等の前駆体の貧溶媒に投じて前駆体を析出させてろ別・乾燥により前駆体を得る、もしくは減圧下に溶媒を除去して前駆体を得る等の方法で前駆体を単離した後に、粉末状あるいはこれを所定の形状にして前記と同様に加熱処理し、ベンゾオキサゾール環を形成させてポリベンゾオキサゾールとしても良い。
【0035】
上記のようにして得られるポリベンゾオキサゾールの形態としては、フィルム状、粒子状、基材上のコーティング膜、バルク状、所定の成形品形状、等が挙げられる。
【0036】
このようにして得られたポリベンゾオキサゾールは、イオン性不純物が含まれることが無いので、精製を特に必要とせず、また耐熱性、力学強度、寸法安定性、難燃性、絶縁特性等に優れているので、電気電子機器用部品、耐熱部材等に好適に利用できる。
【0037】
以下に実施例を記述するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
各評価は、以下のようにして行った。
【0038】
〔GPC測定〕
島津製高速液体クロマトグラフシステムを使用し、THFを展開媒として、カラム温度40℃、流速1.0ml/分で測定を行った。検出器として「RID−10A」を用い、カラムはShodex製「KF−804L」(排除限界分子量400,000)を2本直列につないで使用した。標準ポリスチレンとして、東ソー製「TSKスタンダードポリスチレン」を用い、重量平均分子量Mw=354,000、189,000、98,900、37,200、17,100、9,830、5,870、2,500、1,050、500のものを使用して較正曲線を作成し、分子量の計算を行った。
【0039】
〔TG/DTA測定〕
SII製「TG/DTA6200」を用い、ガス流量200ml/分、昇温速度10℃/分で測定した。
【0040】
〔FT−IR測定〕
スペクトロメータとして、ThermoElectron製「NICOLET380」を用いてKBr法、もしくはフィルム形状のまま測定を行った。
【実施例1】
【0041】
ポリベンゾオキサゾール前駆体(A)の合成
ガラス容器中に、N−メチル−2−ピロリドン10mlを入れ、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−アミノフェニル)フルオレン(東京化成製)1.70g(0.0045mol)を添加して均一に溶解させた。ここへ、テレフタルアルデヒド(和光純薬製)0.60g(0.0045mol)を添加し、室温で撹拌して均一な溶液とした。次に雰囲気を窒素ガスで置換しながら、この溶液を150℃のホットスターラ上で1時間加熱撹拌した後、1.5mlのトルエンを添加し、ホットスターラを190℃に昇温して2時間加熱撹拌を続けた。反応の進行に伴い発生してくる水を共沸により除去していった。加熱終了後、放冷して得た溶液は濃赤色の粘調透明液であった。析出物は確認されなかった。
【0042】
得られた粘調な溶液の一部をとり、GPCにより分子量を測定した結果、数平均分子量Mn=4,500、重量平均分子量Mw=16,800、分子量分布Mw/Mn=3.75であった。さらに溶液の一部をとってメタノール中に投じて重合体を析出させた。これをさらにメタノールで洗浄した後、ろ別により回収し、減圧下で乾燥させた。得られた重合体は黄橙色粉末状であった。この重合体粉末について、KBr法によりFT−IRスペクトルを測定したところ、フルオレン骨格の1,2−二置換ベンゼンに由来する吸収が746cm−1付近に、テレフタルアルデヒドの1,4−二置換ベンゼンに由来する吸収が821cm−1付近に、アゾメチン結合に特徴的な吸収が1622cm−1付近に、またOH基に由来する幅広い吸収が3418cm−1をピークとして認められた。以上のことから、前記式(II)におけるXがH、mが0である重合体が得られていることを確認した。
【実施例2】
【0043】
ポリベンゾオキサゾール前駆体(B)の合成
実施例1において、テレフタルアルデヒドの代わりに、イソフタルアルデヒド(東京化成製)を使用した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。反応終了後得られた溶液は、濃赤色の粘調透明液であった。析出物は確認されなかった。
【0044】
得られた粘調な溶液の一部をとり、GPCにより分子量を測定した結果、数平均分子量Mn=3,600、重量平均分子量Mw=10,500、分子量分布Mw/Mn=2.87であった。さらに溶液の一部をとってメタノール中に投じて重合体を析出させた。これをさらにメタノールで洗浄した後、ろ別により回収し、減圧下で乾燥させた。得られた重合体は淡橙色粉末状であった。この重合体粉末についてKBr法によりFT−IRスペクトルを測定したところ、フルオレン骨格の1,2−二置換ベンゼンに由来する吸収が747cm−1付近に、イソフタルアルデヒド由来の1,3−二置換ベンゼンに由来する吸収が812cm−1付近に、アゾメチン結合に特徴的な吸収が1624cm−1付近に、またOH基に由来する幅広い吸収が3418cm−1をピークとして認められた。以上のことから、前記式(II)におけるXがH、mが0である重合体が得られていることを確認した。
【実施例3】
【0045】
実施例1で得られたポリベンゾオキサゾール前駆体溶液(A)をガラス基板上に流延し、窒素ガス雰囲気中で、150℃のホットプレート上で1時間加熱処理した。その後、ホットプレート温度を200℃、250℃、300℃とした状態で各1時間保持した。得られた皮膜についてFT−IRスペクトルを測定したところ、アゾメチン結合に特徴的な1622cm−1付近の吸収が消失し、新たに1557cm−1付近、1574cm−1付近にベンゾオキサゾール環形成に由来する吸収が確認された。またOHに基づく3418cm−1付近の吸収は大幅に減少した。以上のことから前記式(I)におけるmが0のポリベンゾオキサゾールが得られていることを確認した。得られたポリベンゾオキサゾールについてTG/DTA測定を行ったところ、空気中での5%重量減少温度は516℃、10%重量減少温度は540℃と非常に耐熱性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、リン酸やハロゲン等のイオン性不純物を含む副生成物を発生させることがなく、しかも最終的に得られるポリベンゾオキサゾール自体にもフッ素等のハロゲン原子を含有しない、ポリベンゾオキサゾール前駆体を得ることができる。本発明の前駆体より得られるポリベンゾオキサゾールは、耐熱性、力学強度、絶縁特性、寸法安定性等に優れるため、電気電子機器用部品、耐熱部材、耐熱コーティング、等の分野に広範に使用することができ、その利用の可能性は非常に大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾール。
【化1】

[式(I)中、mは0または1である。]
【請求項2】
下記一般式(II)で示される繰り返し単位を含むポリベンゾオキサゾール前駆体。
【化2】

[式(II)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【請求項3】
請求項2のポリベンゾオキサゾール前駆体のGPC測定による重量平均分子量が、標準ポリスチレン換算で10,000以上であることを特徴とするポリベンゾオキサゾール前駆体。
【請求項4】
請求項2または3に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体が1重量%〜99重量%の範囲で溶解している溶液。
【請求項5】
a)ビス(o−アミノフェノール)系化合物、b)芳香族ジアルデヒド化合物とを溶液中で反応させてポリベンゾオキサゾール前駆体を得る方法において、a)のビス(o−アミノフェノール)系化合物が下記一般式(III)で示される化合物であることを特徴とするポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【化3】

[式(III)中、XはH、CH、Cのいずれかを表し、mは0または1である。]
【請求項6】
芳香族ジアルデヒド化合物が、イソフタルアルデヒドまたはテレフタルアルデヒドの少なくとも一方であることを特徴とする請求項5記載のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項4の溶液より溶媒を除去して、請求項2記載のポリベンゾオキサゾール前駆体を析出させ、さらに加熱処理をすることを特徴とするポリベンゾオキサゾールの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法により得られるポリベンゾオキサゾール。

【公開番号】特開2009−13378(P2009−13378A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180120(P2007−180120)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】