説明

ポリペプチドおよび蛋白質の化学的合成のための方法および中間体

本発明はポリペプチドおよび蛋白質の化学合成のための方法および中間体、さらにとりわけ、N−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)を含むペプチドフラグメントをC−末端チオエステルを有する別のペプチドフラグメントと化学的に連結して、自発的に再配列してアミド結合を形成するβ(ベータ)−アミノ−チオエステル中間体を生み出すための方法および中間体に関する。また、本発明はβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)およびその保護された型を合成する方法に冠する。そのうえ、本発明はポリペプチドおよび蛋白質のβ(ベータ)−メチル−チアゾリジン残基をβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基に変換することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリペプチドおよび蛋白質の化学合成のための方法および中間体、さらにとりわけ、N−末端ベータ−メチル−システイン(“β(ベータ)−メチル−システイン”;SEQ ID NO:1)を含むペプチドフラグメントをC−末端チオエステルを有する別のペプチドフラグメントと化学的に連結して、自発的に再配列してアミド結合を形成するベータ−アミノ−チオエステル(“β(ベータ)−アミノ−チオエステル”)中間体を生み出すための方法および中間体に関する。その上、本発明はβ(ベータ)−メチル−システインおよびベータ−メチル−チアゾリジン(“β(ベータ)−メチル−チアゾリジン”;(SEQ ID NO:1))を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質を化学的に合成するためのいくつかの技術が開発されている。たとえば、Stewart,J.M.ら,Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Co.,2版,1984)およびBodanszky,M.ら,The Practice of Peptide Synthesis(Springer−Verlag,1984)を参照されたい。それらの中で、ネイティブな化学的連結がネイティブな蛋白質を化学的に生み出すための最も有用な方法の1つであることが証明されている。しかし、ネイティブな化学的連結は、システイン残基を有するポリペプチドおよび蛋白質の合成に適しているだけであり、かかるシステイン残基は最終標的ポリペプチドおよび蛋白質を形成するためにペプチドフラグメントを連結するための接続点として使用することができる。
【0003】
改善された化学的および生物学的特性を有するポリペプチドならびに蛋白質類似体および誘導性を作り出すために、ポリペプチドおよび蛋白質の内側の特定の部位への非天然アミノ酸残基の組み込みが時には必要である。そのような類似体および誘導体は改善された化学的安定性、改善された酵素的安定性、in vivoでの作用期間延長、および亢進した生物学的活性を有することができる。そのような非天然アミノ酸の1クラスはβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)である。β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)はジスルフィドブリッジおよびペプチド骨格に構造的束縛を負わせ、そしてペプチド結合を酵素的開裂から潜在的に保護することができる(たとえば、Haviv,F.ら,J.Med.Chem.,1993,36:363−369;Failie,D.P.ら,Curr.Med.Chem.,1995,2:654−686;Miller,S.M.,ら,Drug Dev.Res.,1995,35:20−32;およびSchmidt,R.,ら,Int.J.Pept.Protein Res.,1995,46:47−55を参照されたい)。生物学的にいっそう活性で、酵素的にいっそう安定な蛋白質類似体および誘導体を生み出すために、蛋白質の内側のいずれか所望する位置にβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基を組み込むための新規な化学的方法を開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明は2つの分子間にアミド結合を形成する方法に関し、そのような分子は蛋白質、ポリペプチド、ペプチドミメティック、ポリマー、またはそのいずれかの組み合わせでありうる。これらの2つの分子間で、一方の−“第1”−分子は末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基を含み、他方の−“第2”−分子はチオエステル官能基を含む。図1に示すように、反応中、2つの分子は初めにチオエステルリンケージを介してつながり、その後β(ベータ)−アミノ−チオエステルリンケージは分子内再配列により自発的に最終アミド結合に変換する。生じた最終生成物は新規に形成されたアミド結合を介してつながる2つの分子の部分を含む。
【0005】
本発明の別の側面は液相または固相中で実行される連結反応に関する。反応媒体はチオール触媒を含んでいてもよい。そのようなチオール触媒には、チオフェノール、1−チオ−2−ニトロフェノール、2−チオ−安息香酸、2−チオ−ピリジン、4−チオ−2−ピリジンカルボン酸、4−チオ−2−ニトロピリジン、4−メルカプトフェニル酢酸、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、および2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸が挙げられるがそれらに限定されない。
【0006】
本発明の別の側面はβ(ベータ)−メチル−チアゾリジンからβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)への変換に関する。この段階的な連結では、N−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)とC−末端チオエステルを持つペプチドフラグメントが必要である。しかし、Boc−化学のためのベンジルならびにFmoc−化学のためのトリチルおよびt−ブチルのような慣用のチオ−保護基を使用して、N−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)のスルフヒドリル基を保護することはできない。これは、最終開裂ステップ中、そのような慣用の保護基が除去され、遊離スルフヒドリル基が生み出されて、それがC−末端チオエステルと反応して所望しない生成物を形成することになるという事実のためである。
【0007】
この問題を検討するために、本発明は、図2に示すように、ポリペプチドおよび蛋白質の化学合成中にβ(ベータ)−メチル−チアゾリジン型におけるN−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)を保護するための方法を提供する。β(ベータ)−メチル−チアゾリジンは開裂ステップ中、元のままの状態であり、N−末端β(ベータ)−メチル−チアゾリジンおよびC−末端チオエステルを含むペプチド中間体が生み出されることになる。この中間体はC−末端チオエステルを含む別のペプチドフラグメントとの連結反応において使用されることになる。連結反応の後にだけ、生成物中の遊離β(ベータ)−メチル−チアゾリジンは酸性条件下で、求核試薬を使用することによって遊離β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)に変換されることになり、ここで該求核試薬はO−アルキルヒドロキシルアミンであり、さらに具体的には該O−アルキルヒドロキシルアミンはO−メチルヒドロキシルアミンであり、そして酸性条件はpH2.0〜pH6.0の範囲にある。生じたN−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基を有するより大きなペプチドフラグメントをその後の連結ステップに使用して、さらにより大きなポリペプチドまたは蛋白質を生み出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の一側面に従ってアミド結合を形成するための合成スキームを示す図である。
【図2】図2は本発明の一側面に従ってポリペプチドおよび蛋白質の化学的合成中にβ(ベータ)−メチル−チアゾリジン型でN−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)を保護するための合成スキームを示す図である。
【図3】図3はN−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)およびN−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:3)を合成するための合成スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の化合物中に存在するある種のアミノ酸は以下のように表すことができ、以下のように本明細書に表される:
AlaまたはAはアラニンであり、
ArgまたはRはアルギニンであり、
AsnまたはNはアスパラギンであり、
AspまたはDはアスパラギン酸であり、
CysまたはCはシステインであり、
GlnまたはQはグルタミンであり、
GluまたはEはグルタミン酸であり、
GlyまたはGはグリシンであり、
HisまたはHはヒスチジンであり、
IleまたはIはイソロイシンであり、
LeuまたはLはロイシンであり、
LysまたはKはリシンであり、
MetまたはMはメチオニンであり、
Nleはノルロイシンであり、
PheまたはFはフェニルアラニンであり、
ProまたはPはプロリンであり、
SerまたはSはセリンであり、
ThrまたはTはトレオニンであり、
TrpまたはWはトリプトファンであり、
TyrまたはYはチロシンであり、そして
ValまたはVはバリンである。
【0010】
本明細書で使用されるある種の他の略語は以下のように定義される:
Bocはtert−ブチルオキシカルボニルであり、
Bzlはベンジルであり、
DCMはジクロロメタンであり、
DICはN,N−ジイソプロピルカルボジイミドであり、
DIEAはジイソプロピルエチルアミンであり、
Dmabは4−{N−(1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシリデン)−3−メチルブチル)−アミノ}ベンジルであり、
DMAPは4−(ジメチルアミノ)ピリジンであり、
DMFはジメチルホルムアミドであり、
DNPは2,4−ジニトロフェニルであり、
Fmocはフルオレニルメチルオキシカルボニルであり、
HBTUは2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートであり、
cHexはシクロヘキシルであり、
HOAtはO−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートであり、
HOBtは1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾールであり、
Mmtは4−メトキシトリチルであり、
NMはN−メチルピロリドンであり、
Pbfは2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン−5−スルホニルであり、
Phはフェニルであり、
tBuまたはt−ブチルはtert−ブチルであり、
TISはトリイソプロピルシランであり、
TOSはトシルであり、
Trtはトリチルであり、
TFAはトリフルオロ酢酸であり、
TFFHはテトラメチルフルオロホルアミジニウムヘキサフルオロホスフェートであり、そして
Zはベンジルオキシカルボニルである。
【0011】
本開示におけるアミノ酸のすべての略語(たとえば、Ala)は−NH−C(R)(R′)−CO−の構造を表し、式中RおよびR′はそれぞれ独立して水素またはアミノ酸の側鎖(たとえば、Alaの場合R=CHおよびR′=H)であり、あるいはRとR′が一緒になって環系を形成してもよい。
【0012】
お互いに等価である用語、“ベータ−メチル−システイン”、“β(ベータ)−Me−Cys”、または“β(ベータ)−MeCys”(SEQ ID NO:1)によって意味するものは:
【0013】
【化1】

【0014】
であり、そしてそれはL−またはD−コンフィギュレーションでありうる。
お互いに等価である用語“β(ベータ)−メチル−チアゾリジン”、“β(ベータ)Me−Thz”、“β(ベータ)−MeThz”または“β(ベータ)MeThz”によって意味するものは:
【0015】
【化2】

【0016】
であり、そしてそれはL−またはD−コンフィギュレーションでありうる。
お互いに等価である用語“β(ベータ)−アミノ−チオエステル”、または“β(ベータ)−(アミノ)−チオエステル”によって意味するものは:
【0017】
【化3】

【0018】
である。
【実施例】
【0019】
本発明の異なる特徴をさらに説明するために実施例が以下に提供される。実施例はまた、本発明を実施するための有用な方法論を説明する。これらの実施例は主張された本発明を限定しない。
【0020】
本発明で使用されるペプチドフラグメントは標準固相ペプチド合成によって調製することができる(たとえば、Stewart,J.M.ら,Solid Phase Peptide Synthesis(Pierce Chemical Co.,2版.1984)を参照されたい)。
【0021】
実施例1:N−Boc−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:4)
30mlのジクロロメタン中のトレオニン−t−ブチルエステル・HCl(2.2g、10mmoles;(SEQ ID NO:5))の氷冷懸濁液に、4.2mlのトリエチルアミン(3当量)、続いて2mlのジクロロメタン中のジ−tert−ブチル−ジカルボネート((Boc)O、2.8g、1.2当量)の溶液を添加し、混合物はゆっくり室温に戻した。2時間攪拌後、混合物は20mlのクロロホルムで希釈し、それを水で洗浄し、乾燥(MgSO)させた。揮発性物質は真空下で除去し、乾固させた。粘性オイル(2.8g)が得られた。生成物は、それ以上精製せずに次の反応に直接使用した。
【0022】
実施例2:N−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:6)
−20℃に冷やしたピリジン40ml中のN−Boc−トレオニン−t−ブチルエステル(2.8g;(SEQ ID NO:4))の攪拌溶液にメタンスルホニルクロリド2ml(2.5当量)を滴下して加え、混合物は室温に戻した。一晩攪拌後、反応混合物は氷水(300ml)に注ぎ、それをエーテル(2x250ml)で抽出した。エーテル抽出物は、洗浄液が酸性(pH4)になるまで0.4N HClで洗浄し、乾燥(MgSO)させた。溶媒は真空下で除去し、乾固させた。青白い固体(3.3g)が得られた。TLC(シリカゲル、クロロホルム/アセトン=9:1、Rf=0.56、ニンヒドリンスプレー)。
【0023】
実施例3:アロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:7)
20mlのメタノール中のチオール酢酸(30mmoles)2.5mlの溶液に、窒素雰囲気下でメタノール中の1.0N KOH24mlを添加し、1時間攪拌後、揮発性物質を真空下で除去し、淡黄色の固体であるチオール酢酸カリウムを得た。それを30mlのジメチルホルミドに溶かし、氷浴で冷やし、窒素雰囲気下で20mlのジメチルホルミド中のN−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−t−ブチルエステル(未精製物3.3g;(SEQ ID NO:6))の溶液を滴下して加えた。反応混合物は窒素雰囲気下で室温に戻し、一晩攪拌した(ゲル形成)。溶媒は真空下で除去し、乾固させた。残渣はエチルアセテートと水に分配した。エチルアセテート層は水で洗浄し、乾燥(MgSO)させた。溶媒の留去後、残渣は、溶離液としてクロロホルム/アセトン=195:5を使用するシリカゲル(60g)のクロマトグラフィーにかけた。適切な画分はプールし、溶媒は真空下で除去し、乾固させた。茶色の粘性物質(2.3g)が得られた。TLC(シリカゲル、クロロホルム/エチルアセテート=9:1、Rf=0.82)。
【0024】
実施例4:アロ−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:8)
アロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(680mg、2mmoles;(SEQ ID NO:7))は10mlのトリフルオロ酢酸で1時間処理した。揮発性物質を真空下で除去し、乾固させた後、残渣は10mlの6N HClで溶かし、窒素雰囲気下で一晩80〜85℃(油浴)で加熱した。過剰なHClと水は真空下で除去し、乾固させ、残渣は凍結乾燥させた。エレクトロスプレイイオン化質量分析(ESI−MS)は136.5および他のピークを示した。生成物は、それ以上精製せずに次の反応に直接使用した。アルゴンによる窒素の置換および6N HClによる脱ガスが収率を改善できることが認められた。
【0025】
実施例5:アロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)
未精製のアロ−β(ベータ)−メチルシステイン(2mmoleスケール;(SEQ ID NO:10))およびトリフェニルメタノール(520mg、1当量)の混合物は10mlのトリフルオロ酢酸で30分間処理し、揮発性物質は真空下で除去して乾固させた。淡黄色の固体が得られた。ESI−MSは377.7を示した。
【0026】
実施例6:アロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)
未精製のアロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)は20mlのアセトニトリルに溶かし、水性NaHCOで処理し、溶液をpH8にし、5mlアセトニトリル中のtert−ブチルジカーボネート(520mg)の溶液を添加した。2時間後、反応混合物は冷やし、5%KHSOで酸性化し、それをエチルアセテート(50ml)で抽出し、乾燥(MgSO)させた。溶媒の留去後、残渣は、溶離液としてクロロホルム/メタノール=195:5を使用するシリカゲル(50g)のクロマトグラフィーにかけた。適切な画分をプールし、溶媒は真空下で除去し、乾固させた。白色泡状物(160mg)が得られた。TLC(シリカゲル、クロロホルム/メタノール=4:1、Rf=0.51)。ESI−MSは500.2および243.3のピークを示した。
【0027】
実施例7:アロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチルシステイン(SEQ ID NO:12)
以下はアロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)の調製の説明である。該化合物はアロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)に類似した方法で調製された。tert−ブチルジカーボネートの代わりにFmoc−osuが使用された。TLC(シリカゲル、クロロホルム/メタノール=9:1、Rf=0.27)。ESI−MSは622.0を示した。
【0028】
実施例8:モデルペプチドβ(ベータ)−MeCys−Lys−Phe−NHSEQ ID NO:13)の調製
【0029】
【化4】

【0030】
表題ペプチドは手動ペプチドシンセサイザーで合成した。Rink amide MBHAレジン(106mg、76マイクロモル、0.72mmole/g)(Novabiochem,San Diego,CA,USA)が使用された。Fmocアミノ酸は以下の側鎖保護と一緒に使用された:Boc−β(ベータ)−MeCys(Trt)−OH(SEQ ID NO:14)、Fmoc−Lys(Boc)−OH(Novabiochem,San Diego,CA,USA;(SEQ ID NO:15))およびFmoc−Phe−OH(Novabiochem,San Diego,CA,USA;(SEQ ID NO:16))。Fmoc基はDMF中25%ピペリジンによる10分間、および再度20分間の処理により除去された。それぞれのカップリングステップでは、NMP中のFmocアミノ酸(4当量)、HOBt(4当量)およびDIC(4当量)が使用された。以下の反応サイクルが使用された:(1)DMFによる洗浄;(2)DMF中25%ピペリジン、30分間によるFmoc保護基の除去;(3)DMFによる洗浄;および(4)予め活性化されたFmocアミノ酸との90分間のカップリング。Boc−ベータ−MeCys(Trt)−OH(50.3mg 0.105mmole;(SEQ ID NO:14))はNMP中のTFFH(27.8mg、0.105mmole)、およびDIEA(27mg、0.211mmole)を使用して12時間カップリングさせた。このカップリングはその後、NMP中のBoc−β(ベータ)−MeCys(Trt)−OH(50.3mg、0.105mmole;(SEQ ID NO:14))、HOBt(16.1mg、0.105mmole)およびDIC(13.2mg、0.105mmole)を使用して反復した。生じたレジンはDMFおよびDCMで洗浄した。
【0031】
生じた、保護されたペプチド−レジンは脱保護し、8% TIS/TFA(1ml)で2時間開裂させた。レジンは濾過し、TFA(1ml)と2回のDCM(1ml)により洗浄した。濾液は窒素流下で1ml未満にまで濃縮し、それを冷エーテル(5ml)に注いだ。形成された沈殿物は遠心分離し、集めた。ペレットは水に溶かし、凍結乾燥させた。
【0032】
この粗生成物は水に溶かし、Luna 5μC(2)カラム(100x20mm)を使用して逆相プレパラティブHPLCで精製した。カラムは100%Aおよび0%Bから70%Aおよび30%Bまでの直線グラジエントで35分間溶出し、ここでAは水中0.1%TFAであり、Bはアセトニトリル中0.1%TFAであった。画分はアナリティカルHPLCによりチェックした。純粋な生成物を含むものを合わせ、凍結乾燥により乾固させた。化合物の純度は約99%であった。最終生成物13.9mgが得られた。ESI−MS分析は分子量409.4を示した(計算した分子量409.55と一致)。
【0033】
実施例9:H−Phe−Lys−Gly−S−Ph(SEQ ID NO:17)の調製
【0034】
【化5】

【0035】
クロロトリチルクロリドレジン(1.0g、1.49mmole)(Novabiochem,San Diego,CA,USA)はDCM(10ml)中のFmoc−Gly−OH(487mg、1.64mmole;(SEQ ID NO:18))(Novabiochem,San Diego,CA,USA)およびDIEA(770mg、5.96mmole)の溶液で1時間処理した。レジンは濾過し、DCM/MeOH/DIEA 17:2:1(10ml)で2回、DCMで3回、そしてDMFで3回洗浄した。
【0036】
Fmoc保護基は、25%ピペリジン/DMF(10ml)と共に10分間および30分間レジンを振盪することによって除去した。その後レジンはDMF(10ml)で3回洗浄した。Fmoc−Lys(Boc)−OH(2.79g、5.95mmole;(SEQ ID NO:15))(Novabiochem,San Diego,CA,USA)はNMP(10ml)中のHOBt(5.95mmol)およびDIC(5.95mmole)と共に1時間振盪することによって、生じたペプチドレジンにカップリングさせた。
【0037】
脱ブロッキンングおよび洗浄手順は上記のように反復した。Boc−Phe−OH(1.58g、5.95mmole;(SEQ ID NO:19))(Bachem,Torrance,CA,USA)はNMP(10ml)中のHOBt(5.95mmol)およびDIC(5.95mmole)と共に1時間振盪することによって、ペプチド−レジンにカップリングさせた。
【0038】
レジンはDMFで3回、DCMで3回、その後MeOHで3回洗浄した。レジンは真空下で乾燥させた。
保護されたペプチドはDCM中の10mlの1.0% TFAと共にレジンを2分間振盪することによりレジンから開裂させた。レジンは濾過し、濾液はMeOH中10%ピリジン2mlに注いだ。溶媒を真空下で除去後、残渣をDCMに溶かし、飽和NaClで2回、そして1M 硫酸水素ナトリウムで3回洗浄した。DCM溶液は硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒は真空下で除去し、白色固体120mgを得た。
【0039】
この保護されたペプチド(120mg、218マイクロモル)はDCM(5ml)中のTFFH(218マイクロモル)およびDIEA(436マイクロモル)で処理した。生じた酸フルオリドはチオフェノール(218マイクロモル)で処理し、チオエステルを形成させた。2時間後、9:1 DCM/MeOHで溶出する薄層クロマトグラフィー(TLC)は反応が完了したことを示唆した。反応混合物はDCM(10ml)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム(5ml)で3回洗浄した。この溶液は硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒は真空下で除去した。生じた白色固体は130mgの重さであった。
【0040】
このDCM2ml中の保護されたペプチドはTFA2mlの添加により脱保護された。2時間後、溶媒は1mlに濃縮し、ペプチドは14mlの冷ジエチルエーテルの添加により沈殿させた。生じた懸濁液は遠心分離し,デカンテーションした。ペレットは水に溶かし、Luna 5μC(2)カラム(100x20mm)を使用して逆相プレパラティブHPLCで精製した。カラムは100%Aおよび0%Bから60%Aおよび40%Bまでの直線グラジエントで30分間溶出し、ここでAは水中0.1%TFAであり、Bはアセトニトリル中0.1%TFAであった。画分はアナリティカルHPLCによりチェックした。純粋な生成物を含むものを合わせ、凍結乾燥し、乾固させた。最終生成物76.6mgが得られた。ESI−MS分析は分子量442.3を示した(計算した分子量442.58と一致)。
【0041】
実施例10:H−β(ベータ)−MeCys−Lys−Phe−NH(SEQ ID NO:13)とH−Phe−Lys−Gly−S−Ph(SEQ ID NO:17)を使用したモデル連結
【0042】
【化6】

【0043】
β(ベータ)−MeCys−Lys−Phe−NH(実施例9、1.0mg、2.44マイクロモル;(SEQ ID NO:13))は200mM pH8.5ホスフェート/6Mグアニジンバッファー(0.1ml)に溶かし、tris(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(0.035mlの40mg/ml溶液、pHは7に調整)を添加した。Phe−Lys−Gly−S−Ph(実施例2、1.08mg、2.44マイクロモル;(SEQ ID NO:17))は200mM pH8.5ホスフェート/6Mグアニジンバッファー(0.1ml)に溶かした。2つの溶液は合わせ、反応はLC−MSでモニターした。連結は25時間で完了した。
【0044】
生じた溶液は、220nmでモニターしながら95%バッファーA(水中0.1%TFA)および5%バッファーB(アセトニトリル中0.1%TFA)から20%バッファーAおよび80%バッファーBまで30分かけて溶出する逆相HPLC(Luna 5μC(2)100x4.6mmカラム)で精製した。ESI−MS分析は分子量741.5を示した(計算した分子量741.96と一致)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオエステル部分を有する第1分子と酸化されていないスルフヒドリル部分を有するβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基を有する第2分子間にアミド結合を形成するための方法であって、以下のステップ:
(a)第1分子のチオエステル部分を第2分子のβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基の酸化されていないスルフヒドリル部分と反応させて第1分子および第2分子をβ(ベータ)−アミノ−チオエステルリンケージによりつなぐ中間体を生み出すこと;および
(b)中間体のβ(ベータ)−アミノ−チオエステルリンケージを分子内で再配列させ、第1分子および第2分子をつなぐアミド結合を形成させることを含む、前記方法。
【請求項2】
前記の第1分子および第2分子がペプチドフラグメント、ポリペプチド、ペプチドミメティックおよび蛋白質を含む群から独立して選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の反応ステップおよび再配列ステップが液相または固相中で起こる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応ステップが少なくとも1つのチオール触媒の存在下で起こる、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記チオール触媒がチオフェノール、1−チオ−2−ニトロフェノール、2−チオ−安息香酸、2−チオ−ピリジン、4−チオ−2−ピリジンカルボン酸、4−チオ−2−ニトロピリジン、4−メルカプトフェニル酢酸、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、および2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(a)チオエステルを有する第1分子部分;
(b)β(ベータ)−メチル−システイン残基(SEQ ID NO:1)を有する第2分子部分;および
(c)チオエステルとβ(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)をつなぐβ(ベータ)−アミノ−チオエステルリンケージを含む、分子中間体。
【請求項7】
前記β(ベータ)−アミノ−チオエステルリンケージが自発的に分子内で再配列し、前記第1分子部分および第2分子部分をつなぐアミド結合を形成する、請求項6に記載の分子中間体。
【請求項8】
2つのペプチドフラグメントの連結によってポリペプチドまたは蛋白質を合成するための方法であって、以下のステップ:
(a)N−末端β(ベータ)−メチル−チアゾリジンを含む第1ペプチドフラグメントのC−末端チオエステルと第2ペプチドフラグメントのN−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)の連結によりアミド結合を形成すること;および
(b)酸性条件下で求核試薬により連結生成物を処理し、N−末端β(ベータ)−メチル−チアゾリジン残基をN−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)残基に変換することを含む、前記方法。
【請求項9】
前記求核試薬がO−アルキルヒドロキシルアミンである、請求項8に挙げた方法。
【請求項10】
前記O−アルキルヒドロキシルアミンがO−メチルヒドロキシルアミンである、請求項9に挙げた方法。
【請求項11】
前記酸性条件がpH2.0〜pH6.0の範囲にある、請求項8、9または10に記載の方法。
【請求項12】
所望するポリペプチドまたは蛋白質が形成されるまで前記ステップ(a)およびステップ(b)が反復されうる、請求項8、9、10または11に記載の方法。
【請求項13】
遊離N−末端β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:1)を含むポリペプチドを合成するための方法であって、以下のステップ:
(a)固相または液相中でN−末端β(ベータ)−メチル−チアゾリジン残基を含むポリペプチドを合成すること;および
(b)酸性条件下で求核試薬によりポリペプチドを処理し、N−末端β(ベータ)−メチル−チアゾリジン残基を遊離N−末端β(ベータ)−メチル−システイン残基(SEQ ID NO:1)に変換することを含む、前記方法。
【請求項14】
前記求核試薬がO−アルキルヒドロキシルアミンである、請求項13に挙げた方法。
【請求項15】
前記O−アルキルヒドロキシルアミンがO−メチルヒドロキシルアミンである、請求項14に挙げた方法。
【請求項16】
以下のステップ:
(a)N−Boc−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:4)をN−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:6)に変換すること;
(b)N−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−ブチルエステル(SEQ ID NO:6)をアロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:7)に変換すること;
(c) アロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:7)をアロ−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:8)に変換すること;
(d)アロ−β(ベータ)−メチルシステイン(SEQ ID NO:10)およびトリフェニルメタノールをアロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)に変換すること;および
(e)アロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)をアロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)に変換することを含む、アロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)を合成するための方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法によって合成される、アロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)。
【請求項18】
式 アロ−N−Boc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:11)の化合物、または薬剤的に受容可能なその塩。
【請求項19】
以下のステップ:
(a)N−Boc−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:4)をN−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:6)に変換すること;
(b)N−Boc−O−メタンスルホニル−トレオニン−ブチルエステル(SEQ ID NO:6)をアロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:7)に変換すること;
(c) アロ−N−Boc−S−アセチル−β(ベータ)−メチル−システイン−t−ブチルエステル(SEQ ID NO:7)をアロ−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:8)に変換すること;
(d)アロ−β(ベータ)−メチルシステイン(SEQ ID NO:10)およびトリフェニルメタノールをアロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)に変換すること;および
(e)アロ−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:9)をアロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)に変換することを含む、アロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)を合成するための方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法によって合成される、アロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)。
【請求項21】
式 アロ−N−Fmoc−S−トリチル−β(ベータ)−メチル−システイン(SEQ ID NO:12)の化合物、または薬剤的に受容可能なその塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−538063(P2010−538063A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523998(P2010−523998)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/010226
【国際公開番号】WO2009/032181
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(509120469)イプセン ファルマ ソシエテ パール アクシオン サンプリフィエ (51)
【氏名又は名称原語表記】IPSEN PHARMA S.A.S.
【住所又は居所原語表記】65 Quai Georges Gorse,F−92100 Boulogne Billancourt FRANCE
【Fターム(参考)】