説明

ポリマーの表面改質

本発明は、数回の洗浄工程により安定化させた表面エネルギーを高める表面処理によって、ポリマー基材の表面の一部又は全部の親水性を高めてポリマー表面の結合能力を変え、より良い接着性又は印刷適正を与えるための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数回の洗浄工程により安定化させた表面エネルギーを高める表面処理によって、ポリマー基材の表面の一部又は全部の親水性を高めてポリマー表面の結合能力を変え、より良い接着性又は印刷適正を与えるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー表面の用途を広げるには、ポリマー表面、例えば医療機器、自動車、航空、航海又は電気的利用のためのポリマー表面の性質を変化させて、ポリマー表面の結合特性を改良することが有利であると考えられている。ポリマーの表面の変化は、化学種、生物組織、細胞(官能基/イオン、タンパク質、水等)が、材料の表面と反応、吸着、濡れ、結合又は相互作用するといった様態に影響を及ぼし得る。表面の性質の変化は、これらに限定されないが、界面化学(表面分子量、化学官能基の付加又は変化、ラジカル、化学種の取り込み、表面の極性等)、表面エネルギー、表面トポグラフィー(表面粗さ、ミクロ又はナノスケールでパターン化された又はランダムな表面パターン等)、表面結晶性、表面機械特性(機械的剛性、硬度又は降伏強度等)の変化、表面層へのミクロ又はナノスケール材料(ミクロ又はナノ粒子又は繊維等)の取り込み、又はこれらの組み合わせを含む様々な方法によって行うことができる。
【0003】
材料の表面中又は表面上への化学種の取り込みにより、表面の湿潤性を変えることができる。こうして変えられた湿潤性は、吸収、印刷、塗装、溶接/溶着、接着及び当業者に公知の他の材料結合方法によって得られる場合、表面のポリマーとその上に結合される材料との間の結合力に影響する可能性がある。吸収の例としては、人体に移植される医療機器へのタンパク質及び細胞の結合(細胞接着及び展着、細胞外マトリックス生成の上方調節及び他の官能性の変化が起こり得る場所での生存能力)がある。細菌吸着の低下はまた、表面エネルギーの増加によるタンパク質付着変化の結果として観察できる。インプラントの表面化学、従って表面エネルギーは、細胞接着を運営する(direct)表面にタンパク質が吸着し同化する方法に影響を及ぼす。印刷の例としては、消費財包装用のポリマー表面へのインクの結合、又はPCB(プリント基板)上への電子回路のプリントが挙げられる。塗装の例としては、ポリマー表面を保護、シール、装飾(例えばプラスチックの自動車バンパー上への装飾的な色の塗装など)するための、機能的及び審美的コーティングの利用が挙げられる。溶接/溶着の例としては、射出成形工程において、固体形状の別のポリマー上に、溶けた状態の1つのポリマーを重ねて成形する(over−moulding)、又は複合材料製造において、ポリマーマトリックスにポリマー繊維を結合することが挙げられる。接着の例としては、ポリマー製品にラベルを接着する等、2つの表面を互いに結合するために接着媒体を使用することが挙げられる。
【0004】
ポリマーの別の材料への結合能力又はポリマー同士の結合能力を改善することが有利だと思われる用途は沢山ある。ポリマーの他の材料への結合能力は、結合される両表面の表面化学、トポグラフィー(ナノ、ミクロ及びマクロスケールでの)及び湿潤性を含む様々な要因によって制御される。これは、両方の材料がポリマー、又は1つの材料がポリマーで他方が固体、微粒子、線維状、織物、ゲル、スラリー又は液体状の金属、セラミック、複合材料、塗料、接着剤、生体物質、ガラス又はゴム、又はそれらを組み合わせたものである場合にも適用される。
【0005】
半導体を含む電気装置から医療利用まで、接着性の改良が求められる各種用途で使用されるポリマーは沢山ある。ポリエーテル、特にポリアリールエーテル(例えば、高強度、良好な耐摩耗性及び放射線透過性で知られるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など)は、脊椎ケージ及び顎顔面口腔(CMF)インプラント等の利用における金属の代替物として、目下大きな関心が寄せられている。インプラントへの軟組織及び硬組織の統合のX線評価は、例えばチタン装置等の金属装置の存在により不明瞭となり得る。さらに、チタンインプラントのMRI検査は、インプラントが実際より大きく表れる所謂「ブラックホール・アーチファクト」につながり、術後回復の視覚化を疑わしくし、インプラント近くの視覚化を妨げる。視覚化の問題のせいで、装置はポリマー材料で再設計された。従って、PEEK等の放射線透過性材料のインプラントを用いることは有利であろう。しかしながら、PEEKは良好な強度、耐摩耗性及び耐薬品性を併せ持つ一方で、大抵のポリマーにとって本質的な問題である、表面エネルギーの低さに悩まされる。表面エネルギーが高いと、素早い細胞接着及び拡散の促進を含む改良された結合能力を示すが、表面エネルギーが低いとそうはいかない。同時に、表面トポグラフィーもまた、細胞表面結合強度に影響を及ぼし、それにより、細胞配向及び付着性に影響を及ぼすことがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在利用できるポリマー基材用の表面処理の主な欠点は、表面処理によって得られる効果が不安定で、そのため効果は時間とともに急速に失われ、処理された表面の保存期間が短く、保存が不安定となることである。処理された表面が安定性を欠くことは、基材特性の変化、及び/又は分解プロファイルの変化、ゆえに予測できない結果及び/又は望ましくない副作用等の望ましくない特性がもたらされるため、(インビボ)医療利用のために使用されるポリマーにとって特に驚異的な問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許出願人は、例えば、細胞接着、拡散、生存能力及び機能性の促進(従って、望ましくない生物学的反応を減らし、細胞−生体材料接触面を改良する)等の、材料間の結合強度を高めることのできる表面を得る(従って材料間の欠陥率を低くする)ために、プラズマ表面処理(例えば酸化処理)を用いてポリマー基材の表面エネルギーを高めるための方法を見つけた。さらに、本発明の表面処理の効果は、数ヶ月もの長い期間にわたって維持することができる。
【0008】
第1の態様において、本発明はポリマー基材の表面の一部又は全ての親水性を高めるための方法を提供し、(a)前記表面に、これに限定されないが、適当なガス、好ましくは酸素での酸化処理を含むプラズマ処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して、任意の緩く結合した低分子量酸化材料を除去し、不飽和結合を反応させ、ラジカル及び励起種を抑えることによって表面を安定させる工程を含む方法を提供する。
【0009】
ポリマー基材は、これに限定されないが、医療での利用を含む、結合力の改善が望ましい任意の用途に用いるためのものであってよい。
【0010】
別の態様において、本発明は、ポリマー基材、例えば医療品での使用のためのポリマー基材の表面の一部又は全てへの接着性、例えば細胞接着性を高めるための方法を提供し、(a)前記表面に、これに限定されないが、適当なガス、好ましくは酸素での酸化処理を含むプラズマ処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して、表面処理によって生じた任意の低分子量酸化材料を除去する工程を含む方法を提供する。
【0011】
本発明の根底にある別の態様は、長期安定性を示す、例えば医療での利用で使用するためのポリマー基材の表面改質を提供することである。
【0012】
本発明の1つの実施形態によると、酸化処理は大気圧または真空電離プラズマ処理である。
【0013】
本発明の別の実施形態によると、プラズマは、交流(AC)、直流(DC)低周波(LF)、可聴周波(AF)、高周波(RF)及びマイクロ波電源からなる群から選択される電源によって発生され、好ましくはマイクロ波又はRF電源によって発生される。
【0014】
本発明の別の実施形態によると、ポリマー基材は、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ハロゲン化ポリマー、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスルホン、芳香族ポリマー、ポリエステル、ポリアクリル酸塩、ポリオール、液晶ポリマー又はこれらの共重合体、ブレンド又は混合物からなる群から選択され、好ましくはポリオレフィン及びポリエステルから選択される。
【0015】
本発明の別の実施形態によると、ポリマー基材の形状は、ブロック、シート、フィルム、ひも状(strand)、繊維状、小片又は粒子、粉末、成形品、織物又は密集した繊維をプレスしてシート状にしたものである。
【0016】
本発明の別の実施形態によると、ポリマー基材は、装置、細胞又は組織培養足場、キット、分析プレート、アッセイ等の全て又は一部を表す。
【0017】
別の態様では、本発明は、本発明による方法によって得られる医療での利用で使用するための表面処理されたポリマー基材を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、洗浄済み及び未洗浄の酸素プラズマ処理済みPEEK表面の表面酸素濃度を示す。
【図2】図2は、XPSで測定した、8ヶ月後のプラズマ表面処理の安定性を示す。
【図3】図3は、培養2日後のヒト初代骨芽細胞様細胞(HOB)付着性のSEMで、未処理PEEKを用いたものは、HOB細胞の接着性が乏しいことを示し(A)、処理済みPEEKを用いたものは、HOB細胞の接着性がよりよく扁平な外観を有することを示す(B)。
【図4】図4は、表面処理済みPEEK表面をARS染色によって測定した、ヒト初代骨芽細胞様細胞の無機化を示し、未処理PEEK、チタン及びThermanoxと比較した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
第1の態様では、本発明は、ポリマー基材の表面の一部又は全ての親水性を高めるための方法を提供し、(a)表面に、これに限定されないが、適当なガス、好ましくは酸素での酸化処理を含むプラズマ処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施すことを含む方法を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、ポリマー基材の表面の一部又は全てへの接着性を高めるための方法を提供し、(a)表面に、これに限定されないが、適当なガス、好ましくは酸素での酸化処理を含むプラズマ処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施すことを含む方法を提供する。
【0021】
具体的な実施形態では、1以上の洗浄工程は、工程(a)で得られた表面を洗浄媒体に浸し、その後、表面から洗浄媒体を除去することを含む。その際、洗浄工程は、前回の浸水と同じ又はより長い時間、新しい洗浄媒体を用いて繰り返されてもよい。
【0022】
洗浄工程は、回転台(rotating platform)を用いて行ってもよく、その場合、洗浄媒体に浸された表面が回転台に置かれる。1つの実施形態では、1〜10回の洗浄工程が行われ、好ましくは2〜5回である。
【0023】
このような目的に用いる洗浄媒体の例としては、以下のものが挙げられる:
水及びアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びt−ブタノール等の低級アルコール等の水性溶媒、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、2,2,2−トリメチルペンタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン及びメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン及びn−アミルナフタレン等の芳香族炭化水素溶媒、及び、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール及びアセトフェノン等のケトン溶媒。
【0024】
好ましい洗浄媒体は、特に、(蒸留)水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、せっけん水、トルエン、ペルクロロメタン又はイソペンタン等の水性溶媒、脂肪族炭化水素溶媒及びケトン溶媒を含み、より好ましくは、水、メタノール及びエタノール等の水性溶媒である。
これらの溶媒は、単独で又は組み合わせて使用してもよい。
【0025】
洗浄工程により、例えば、任意の緩く結合した低分子量酸化材料(表面処理によって生じるような)を除去する、及び/又は不飽和結合を反応させる、及び/又はラジカル及び励起種を抑制する(quenched)ことにより、表面を安定させられることが示された。
【0026】
本発明の方法は、接着性及び/又は付着性の改善が望ましい各種用途において使用される多くのポリマー基材の表面に適用することができる。これらには、例えば、医療での利用、自動車、航空、航海又は電気的利用が含まれ、特に、細胞の接着性及び付着性の改善が重要である医療での利用が含まれる。
【0027】
本明細書で用いる、「ポリマー」又は(「ポリマー基材」)という用語は、これらに限定されないが、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等のポリオレフィン、他のポリマー又はゴムとポリオレフィンのブレンド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリアリールエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)等のポリエーテル(ポリアリールエーテルを含む);ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン 66)等のポリアミド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリカーボネート;ポリウレタン;ポリスルホン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(テフロン(登録商標))、フッ化エチレンプロピレン共重合体(FEP)及びポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン化ポリマー;ポリスチレン(PS)等の芳香族ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のポリアクリル酸塩;ポリビニルアルコール等のポリオール;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸等のポリエステル;及び、ABS及びエチレンプロピレンジエン混合物(EPDM)等のコポリマーを含むことができる。従って、ポリマー基材は、ホモポリマー、コポリマー、1以上のポリマーを含む材料、混合物又はブレンド又はポリマーマトリックス複合材料であってよい。
【0028】
さらなる実施形態では、ポリマー基材は生体適合性である。
【0029】
好ましいポリマーには、ポリエチレン等のポリオレフィン、及びポリエーテル、例えばポリアリールエーテルが含まれ、より好ましくはPEEKである。
【0030】
本明細書で定義される「表面」とは、材料の外側5mm、好ましくは材料の外側1mmと定義される。
【0031】
本明細書で用いられる「プラズマ」とは、部分的又は完全なイオン化ガスの状態を表す。プラズマは、荷電イオン(正又は負)、負の電荷を帯びた電子、及び中性種、ラジカル及び励起種から成る。本明細書で用いられる「プラズマ処理」とは、基材の表面をプラズマ状態下の環境にさらし、表面にプラズマの化学的、物理的及び機械的(衝撃)作用を与える処理を意味する。当技術分野で公知のように、プラズマは、例えば、交流(AC)、直流(DC)低周波(LF)、可聴周波(AF)、高周波(RF)及びマイクロ波電源等の電源により発生させることができ、好ましくは、マイクロ波又はRF電源である。
【0032】
高周波(RF)放電では、処理される基材を通常真空チャンバ内に置いて、チャンバ内のガス圧及びチャンバを横切る差圧が所望の状態になるまで、低圧のガスをシステム内に流す。RF発生器から電極に所望の周波数の電流をかけることによって、装置の内部にRF電磁場を発生させる。装置内のガスの部分的又は完全なイオン化は、この電磁場によって引き起こされ、チャンバ内に生じたプラズマが、処理工程を施されるポリマー基材表面を改質する。
【0033】
プラズマ形成ガスは、酸素、水素、窒素、空気、ヘリウム、ネオン、アルゴン、二酸化炭素及び一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、テトラフルオロメタン、及びヘキサフルオロエタン、又は前述のガスの組み合わせから成る群から選択することができる。本発明のポリマー基材の表面を処理するために使用される、好ましいプラズマ形成ガスは、単独の又は混合物(例えば1以上のさらなるプラズマ形成ガスとの)としての酸素である。
【0034】
本明細書で使用する通常のプラズマ処理条件は、約1ワット〜約1000ワット、好ましくは約5ワット〜約500ワット、最も好ましくは約10ワット〜約100ワット(好適な出力の例は、順電力100ワット及び逆電力12ワット)の電力レベルを含んでよい。
【0035】
好ましい周波数は、約1kHz〜100MHz、好ましくは約15kHz〜約50MHz、より好ましくは約1MHz〜約20MHz、最も好ましくは13.5MHzである。
【0036】
好ましい軸方向磁場強さは、約0G〜約100G、好ましくは約20G〜約80G、最も好ましくは約40G〜約60Gである。
【0037】
好ましい暴露時間は、約5秒〜12時間、好ましくは約1分〜2時間、より好ましくは約5分〜約30分である。
【0038】
好ましいガス圧は、約0.0001〜約10torr、好ましくは約0.0005torr〜約1.0torr、最も好ましくは約0.1torr〜約0.5torrである。
【0039】
通常のガス流速は、約1〜約2000cm/min、好ましくは150〜300cm/minである。
【0040】
好ましくは、この処理は0℃〜30℃の温度で行われる。
【0041】
プラズマ処理に続いて、ポリマー基材表面に、前述の1以上の洗浄工程を施し、例えば、適切な洗浄媒体、好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、せっけん水、トルエン、ペルクロロメタン、又はイソペンタン、より好ましくは蒸留水等の水溶液を用いて、表面を安定化させ、任意の低分子量酸化材料を除去する。
【0042】
最終工程では、このようにして得た表面処理されたポリマー基材を、例えば窒素フローを用いて、又は層流フード等のいわゆるクリーンエアー環境で、完全に乾燥させる。
【0043】
任意で、表面処理したポリマーに、さらなる工程において、スチームオートクレーブによる滅菌、過酸化水素ガス滅菌又はガンマ線滅菌を施す。
【0044】
出願人は、本発明の表面処理したポリマー基材が、傑出して改善された(長期の)安定性及び向上した保存期間を示すことを示した。本明細書で用いる「(保存)安定性」又は「保存期間」とは、保存、輸送及び少なくとも約4ヶ月、好ましくは少なくとも約8ヶ月、より好ましくは少なくとも約1年以上の使用時に、潜在的に遭遇する温度及び条件において安定していることを意味する。
【0045】
従って、表面処理したポリマー基材は、すぐに使用しても、目的の使用まで数分から数ヶ月の期間保存されてもよい(例えば密閉環境にて)。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる、医療利用に使用するための表面処理したポリマー基材を提供する。
【0047】
1つの実施形態では、ポリマー基材の形状は、ブロック、シート、フィルム、ひも状(strand)、繊維状、小片又は粒子、粉末、成形品、織物又は密集した繊維をプレスしてシート状にしたものである
【0048】
別の実施形態では、ポリマー基材は、医療装置(例えば、ステント、プロテーゼ、人工関節、骨又は組織代替材料、人工臓器又は人工皮膚、接着剤、組織シーラント、縫合糸、膜、ステープル、クギ、ネジ、ボルト、脊椎ケージ又は外科的使用のための他の装置、又は他の埋め込み型装置)、細胞又は組織培養足場、キット、分析プレート、アッセイ等の全て又は一部を表す。
【0049】
本発明をさらに、以下の限定されない実施例によって説明する。
【実施例】
【0050】
材料及び方法:
PEEK Optima(登録商標)ディスク(Invibio Ltd)を13mm径に加工し、RFプラズマ処理によって改質した。Thermanox(Nunc)及びTi ISO 5832/2(Synthes)を対照面として用いた。EMITECH RFプラズマ処理機を用いて、13.56MHz、0.1〜0.5Torrで最大30分間、酸素プラズマ処理を行った。処理表面及び未処理表面の表面化学成分をXPS及び接触角によって特徴づけ、AFMによりトポグラフの変化を見た。初代ヒト骨芽細胞様細胞(HOB、Promocell)又は人工股関節全置換手術時に取り除いた大腿骨頭から分離した細胞を、DMEM(5%CO中10%FCS、37℃)に70〜80%コンフルエンスまで成長させ、10000cells/cmでプレーティングする(plated)。アルファMEM(0.11μMデキサメタゾン及び10mMβ−グリセロフォスフェート)を21日にわたって、無機化媒体(mineralisation media)として用いた。アルカリ性ホスファターゼ活性(ALP)によって細胞機能性を評価し、qPCRによって表現型遺伝子発現を、カルシウム沈殿物のアリザリンレッドS(ARS)染色によって無機化を、SEM及びalamarBlue(登録商標)アッセイによる細胞密度によって総タンパク量、細胞付着性を評価した。サンプリングは1,7,14,21及び28日に行った。
【0051】
実施例1: PEEKの表面処理
必要であれば、PEEK試料にまず、イソプロパノール、アルコール、エタノール又はメタノール中での超音波処理等のクリーニング工程を施し、任意で蒸留水でクリーニングした。
【0052】
続いて、PEEK試料を、酸素に富んだガス雰囲気を有する、市販のプラズマ処理機の内部に置いた。チャンバ内の圧力を、3〜7×10−1mbarの不完全真空まで減らして、低圧プラズマを作り出した。PEEK試料を、このプラズマに10分間曝した。チャンバを大気圧まで戻したらすぐに、試料を取り除き、蒸留水中に置き、この蒸留水をそれに続く時間新しい蒸留水で繰り返し置き換えた。除去の支援及び表面を安定化させるために、試料を洗浄媒体中に浸しながら回転台上に置いて、酸素プラズマへの暴露中に生じた任意の低分子量酸化材料を完全に除去できるようにした。蒸留水での3回目の洗浄の後、試料を取り外し、クラスIIの層流フード内で無菌細胞培養皿内において、一晩乾燥させた。その後、試料を、表面分析法により表面の安定性を確認するために、スチームオートクレーブにより滅菌し、又はHOB細胞でプレーティングした。
【0053】
実施例2: 表面酸素の分析
未処理のPEEK試料、処理済み・未洗浄のPEEK試料、及び処理済み・洗浄済みPEEK試料を比較し、PEEK試料への表面処理及び洗浄の効果を測定した。未処理のPEEKのX線光電子分光法(XPS)による分析は、12〜14原子百分率の表面酸素を示し、これらの表面の特性が比較的疎水性であることを示した。未洗浄・処理済みのPEEK表面のXPS分析は、処理時間の増加にともない、27.5原子百分率まで表面酸素濃度が増加することを示した。処理済み・洗浄済みPEEK表面は、処理時間の増加にともない、20原子百分率まで表面酸素濃度が増加することを示した。洗浄処置後、表面の酸素濃度は、低分子量酸化材料の除去の結果減少した(図1参照)。高分解能C1sスペクトルは、C−O型官能基の増加を示したが、C=O及びO−C=O官能基の増加はより小さかった。XPS及び接触角の測定により、洗浄済み表面の表面改質は、8ヶ月より長く安定している(図2参照)ことがわかったが、未洗浄の表面では、表面酸素の減少、及び表面処理後の接触角の増加が観察された。
【0054】
実施例3: 表面細胞付着性の分析
ヒト初代骨芽細胞様(HOB)細胞付着性及び機能性への表面処理の影響を調べるために、処理済み及び未処理PEEK、チタンディスク(Synthes、スイス)及び組織培養PS(Nunc、デンマーク)へのプレーティング(plating)後、細胞を観察した。24時間以内では、処理済み表面は未処理の表面より細胞密度が高いことがわかった。21日には、処理済み表面は、チタンと同様の細胞密度を有することがわかった。未処理のPEEK上に2日間培養した後のHOB細胞付着性の走査型電子顕微鏡写真は、細胞の付着性が乏しいことを示す一方で(図3A)、処理済みPEEKでのHOB細胞は、より良い付着性と扁平な外観をもつ(図3B)。細胞付着性はまた、未処理のPEEK表面に比べて処理済み表面での改良が見られ、これが分化(differentiation)の上方調節(up−regulation)につながり、無機化マーカーがより早い時点で確認された。HOB細胞の無機化(図4参照)は、未処理PEEK、標準チタン及び組織細胞培養ポリスチレン(Thermanox、Nunc、デンマーク)と比較した、表面処理済みPEEK表面でのARS染色による測定からわかるように、HOB細胞が、未処理PEEK表面より処理済みPEEK表面において、より早い時点で、無機化された細胞外マトリックスを製造することを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー基材の表面の一部又は全ての親水性を高めるための方法であって、(a)前記表面に、適当なガスでのプラズマ表面処理、好ましくは酸素での酸化処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して任意の低分子量酸化材料を除去することを含む方法。
【請求項2】
医療での利用で使用するためのポリマー基材の表面の一部又は全ての親水性を高めるための請求項1に記載の方法であって、(a)前記表面に、適当なガス、好ましくは酸素での酸化処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して任意の低分子量酸化材料を除去することを含む方法。
【請求項3】
ポリマー基材の表面の一部又は全てへの接着性を高めるための方法であって、(a)前記表面に、適当なガスでのプラズマ表面処理、好ましくは酸素での酸化処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して任意の低分子量酸化材料を除去することを含む方法。
【請求項4】
医療品での使用のためのポリマー基材の表面の一部又は全てへの細胞付着性を高めるための方法であって、(a)前記表面に、適当なガスでのプラズマ表面処理、好ましくは酸素での酸化処理を施す工程、及び(b)この表面に1以上の洗浄工程を施して任意の低分子量酸化材料を除去することを含む方法。
【請求項5】
前記酸化処理が、大気圧又は真空電離プラズマ処理である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマは、交流(AC)、直流(DC)低周波(LF)、可聴周波(AF)、高周波(RF)及びマイクロ波電源からなる群から選択される電源によって発生され、好ましくはマイクロ波又はRF電源によって発生される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化処理が、0℃〜25℃の温度で行われる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記酸化処理が、0.1〜0.5torrの圧力で行われる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマー基材が、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ハロゲン化ポリマー、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスルホン、芳香族ポリマー、ポリエステル、ポリアクリル酸塩、ポリオール、液晶ポリマー又はこれらの共重合体、ブレンド又は混合物からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー基材が、ホモポリマー、コポリマー、1以上のポリマーを含む材料、混合物又はブレンド又はポリマーマトリックス複合材料である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー基材が生体適合性である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー基材の形状が、ブロック、シート、フィルム、ひも状(strand)、繊維状、小片又は粒子、粉末、成形品、織物又は密集した繊維をプレスしてシート状にしたものである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマー基材が、医療装置、細胞又は組織培養足場、キット、分析プレート、アッセイ等の全て又は一部を表す、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記医療装置は、ステント、プロテーゼ、人工関節、骨又は組織代替材料、人工臓器又は人工皮膚、接着剤、組織シーラント、縫合糸、膜、ステープル、クギ、ネジ、ボルト、脊椎ケージ又は外科的使用のための他の装置、又は他の埋め込み型装置から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の方法によって得られる、医療での利用で使用するための表面処理されたポリマー基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521091(P2011−521091A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510887(P2011−510887)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003744
【国際公開番号】WO2009/149827
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(510279125)エーオー テクノロジー アーゲー (2)
【Fターム(参考)】