説明

ポリマーコンポジットの製造方法およびポリマーナノコンポジット

【課題】有機ポリマーと長径10〜500nmである、ナノオーダレベルのアルミナ粒子とから成るポリマーコンポジットにおいて、前記有機ポリマーの分子量低下を抑制し、前記ポリマーの耐衝撃性などの機械特性の劣化や着色による透明性の劣化を抑制する。
【解決手段】長径10〜500nmのアルミナ粒子に含まれる吸着水を、室温から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるまで乾燥した後、有機ポリマーに混合してコンポジット化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学特性に優れ、かつ工業的に有利なポリマーコンポジットを製造する為に極めて有用な製造法、並びに前記製造法によって得られたポリマーコンポジットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーの諸物性を向上させる手法として、有機高分子の特徴である柔軟性、低密度や成形性などを保持しつつ、無機化合物の特徴である高強度、高弾性率、耐熱性、電気特性などを併せ持つ材料の開発が盛んに行われており、このような物性改良手法として、従来のガラス繊維やタルクなどによる強化樹脂に代わり、ナノオーダーレベルの無機微粒子を用いた複合材料、いわゆるポリマーナノコンポジットが注目されてきている。このような複合材料の例としては、「複合材料及びその製造方法(特許第2519045号/豊田中研)」や「ポリアミド複合材料及びその製造方法(特公平7−47644/宇部興産他)」、「ポリオレフィン系複合材料およびその製造方法(特開平10−30039/昭和電工)」などが挙げられる。
【0003】
有機ポリマーの充填剤としては、従来、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム等の無機微粒子が広く利用されている。この用途に無機微粒子を適用するにあたり、無機微粒子の粒径は小さいほど好ましく、表面積が大きくなることによって、相互作用が強まり、従来に無かった特性の発現が見られる。
【0004】
無機微粒子のなかでも、アルミナ粒子は一般的には粗大なミクロンオーダーの粒子として存在するため、これを粉砕するなどして微細化して用いていた。しかしながら近年ではナノオーダーレベルのものも合成可能となってきている。例として、Degussa社製超微粒子状アルミナ「AEROXIDE(登録商標)Alu C」が挙げられる。
【0005】
しかしながら、アルミナ粒子を有機ポリマーと混合した際に、有機ポリマーの分子量が低下してしまい、これに付随してコンポジットとして維持されるべき耐衝撃性を失ったり、着色が生じてしまうなど、ポリマーとしての物性を大きく損なうという欠点があった。この問題は、同重量の充填量でも微細粒子の方がより深刻な影響を与えることが判っており、アルミナ粒子が小さければ小さいほど表面積が増えるため、マトリクスポリマーとの界面も増えるためと考えられる。「被覆繊維状酸化アルミニウムフィラー及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物(特開2004−149687号/帝人)」においてアルミナ粒子と溶媒を共沸させて水分を削減する手法の記載があるが、この操作はシランカップリング剤の改質効果を向上させる目的であり、シランカップリング剤は極度に水分の少ない状況になると逆に加水分解性が失われることから、この操作は必然的に微量の水分を残すことを前提としていると判断され、結果的に組成物化した際に有機ポリマーの物性を大きく損なうという欠点を解決するものではない。
【0006】
【特許文献1】特許第2519045号
【特許文献2】特公平7−47644号
【特許文献3】特開平10−30039号
【特許文献4】特開2004−149687号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有機ポリマーと、ナノオーダレベルのアルミナ粒子とから成るポリマーコンポジットにおいて、前記有機ポリマーの分子量低下を抑制し、前記ポリマーの耐衝撃性などの機械特性の劣化や着色による透明性の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、
有機ポリマーと長径10〜500nmのアルミナ粒子とから成るポリマーコンポジットにおいて、
前記アルミナ粒子に含まれる吸着水を、室温から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるまで乾燥した後、前記有機ポリマーに混合してコンポジット化することを特徴とする、ポリマーコンポジットの製造方法に関する。
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは試行錯誤により、アルミナ粒子には化学的に活性なOH基が存在しており、有機ポリマーと混合した際にこれらの活性な水酸基が、有機ポリマー中に含まれる比較的弱い部分を攻撃して、加水分解や酸化劣化を引き起こし、これらのことが原因で前記有機ポリマーの分子量低下や着色などを引き起こしていることを見出した。かかる活性な水酸基は吸着水に由来するものと考えられるものである。
【0010】
すなわち、従来においては、アルミナ粒子を有機ポリマーとコンポジット化する際に、前記アルミナ粒子を、噴霧乾燥(スプレードライ)や室温あるいは温和な温度での乾燥といった一般的な乾燥方法で乾燥したのみでは、前記アルミナ粒子水酸基を十分に取り除くことができずに、上述したような前記水酸基に起因した加水分解や酸化劣化を引き起こし、有機ポリマーの分子量低下に伴う機械特性の劣化や透明性の劣化などを引き起こしていた。
【0011】
これに対し、本発明では、フリーズドライ法、あるいは常圧または減圧下で100℃から300℃の温度をかけての強熱、及びこれらの組み合わせから選ばれる手段で除去を行うことにより、アルミナ粒子を十分乾燥させることができ、前記アルミナ粒子水酸基を実用上問題のないレベルまで低減することができ、上述した前記水酸基に起因した諸問題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機ポリマーの加水分解や酸化劣化を引き起こし、前記有機ポリマーの分子量低下や着色などを引き起こす原因となっている、アルミナ粒子水酸基を極力低減するようにしているので、前記有機ポリマーと前記アルミナ粒子とからなるポリマーナノコンポジットの機械特性の劣化や着色などを抑制することができる。したがって、前記ポリマーナノコンポジットを製造するに当たり、マトリクスとしての前記有機ポリマー及び充填材としての前記アルミナ粒子の特殊な組み合わせなどを選択することなく、前記有機ポリマー及び前記アルミナ粒子は市販のものから任意に選択可能であり、本発明の乾燥・水分除去を行うだけで、煩雑なステップを必要とせず簡便にポリマーコンポジットが製造できるため、工業的に非常に有利なポリマーコンポジット製造法といえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のその他の特徴及び利点について、発明を実施するための最良の形態に基づいて詳述する。
【0014】
(乾燥法)
本発明では、ポリマーコンポジットとすべきアルミナ粒子に対して、その吸着水が室温(25℃)から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるまで乾燥し、前記吸着水をほぼ完全に除去・脱離する。このような乾燥法として特に限定されるものではないが、フリーズドライ法、あるいは常圧または減圧下で100℃から300℃の温度をかけての強熱、及びこれらの方法を組合せて行うことが好ましい。これによって、上述した乾燥を比較的短時間で効率良く行うことができる。
【0015】
フリーズドライは、市販の工業用フリーズドライ装置を用いて行う。装置の例としては、共和真空技術(株)製凍結乾燥機RLEIIシリーズ、RL−Bシリーズなどが挙げられる。工程は次のように行う。(1)アルミナ粒子の水分散懸濁液を凍結乾燥装置の棚にセットし、2〜5時間かけて凍結を行う。(2)この間、トラップも並行して冷却する。(3)10〜20分のうちに十分排気して0.02〜0.5Torr程度の真空とする。(4)約1日間フリーズドライを行い、水分を昇華させる。(5)25〜+50℃にて数時間2次乾燥を行い、僅かに残存する水分を除去する。(6)窒素又は乾燥空気により常圧に戻す。得られた乾燥粉末は、コンポジット化するまでの間、密封保存する。
【0016】
但し、前記アルミナ懸濁液に代えて、粉末状のアルミナ粒子を前記凍結乾燥装置にセットして前記フリーズドライを実行するようにすることもできる。
【0017】
強熱乾燥は、常圧条件の場合には市販の熱風乾燥型オーブンを用いる。装置の例としては、エスペック(株)製熱風循環式オープンLC224、234、(株)カワタ製エースドライヤーADAシリーズ、あるいは黒田工業(株)製コンベア型熱風乾燥機などが挙げられる。操作としては、アルミナ粒子の水分散懸濁液をオーブンの棚にセットし、温度、懸濁液量、揮発面積にも依るが、150℃の場合で数時間〜1日程度、200℃の場合で3時間〜半日程度かけて乾燥を行う。250℃を超える温度では、少しずつAlOH基同士の縮合が進む為、乾燥は250℃以下、望ましくは200℃以下にて行う。
【0018】
減圧条件の強熱乾燥の場合には、市販の真空乾燥機を用いる。装置の例としては、(株)松井製作所製減圧伝熱式乾燥機DPTH−40、(株)カワタ製DECO−DVシリーズなどが挙げられる。操作としては、アルミナ粒子の水分散懸濁液を乾燥機内にセットし、温度、懸濁液量、揮発面積にも依るが、150℃、2Torrの場合で2時間〜5時間程度かけて乾燥を行う。
【0019】
但し、強熱乾燥の場合は、常圧条件及び減圧条件のいずれにおいても、前記アルミナ懸濁液に代えて、粉末状のアルミナ粒子を前記凍結乾燥装置にセットして前記フリーズドライを実行するようにすることもできる。
【0020】
吸着水の乾燥による除去・脱離効果は、熱重量分析(TG)で確認することができる。TG分析は、空気中または窒素ガス雰囲気中、5℃/minの昇温速度にて行う。アルミナ粒子の乾燥は、この分析に於いて25℃から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるような条件で行う。本分析で測定される重量減少は、基本的にその殆どが吸着水分である。前記乾燥は、前記吸着水が、好ましくは1wt%以下、更に好ましくは0.5wt%以下になるまで行う。この結果、前記アルミナ粒子を有機ポリマーに配合しても、ポリマー鎖の酸化劣化や加水分解による損傷がほとんどないレベルまでにまですることができる。
【0021】
本発明で用いるアルミナ粒子は、長径10〜500nmの、ナノオーダレベルのアルミナ粒子である。ここでいう長径とは、異方性粒子における最も長い方向即ち長軸の長さであり、正八面体や球状の粒子のように等方性の粒子については長軸短軸の区別が無いため単にその径に相当する。
【0022】
長径が500nmよりも大きいものは、表面積が小さくなる為相互作用が不十分となり、有機ポリマーに対する物性向上効果が満足に得られなくなるか、あるいは生成物として脆いものとなる。10nmを下回るものは製造工程が煩雑となり、凝集が進行しやすく、工業的にも不利となる。
【0023】
本発明におけるアルミナ微粒子の形状は特に限定されず、一般的な多面体だけでなく、直方体や板状、針状、なども用いることができる。
【0024】
アルミナ粒子の中でも特に本発明の効果が顕著なものとして、本質的にベーマイトの形の結晶性アルミナー水和物が挙げられる。ここでいう“本質的に”とは、アルミナの合成工程において100%の純度のものを得ることは工業的には困難であることから、5%程度の異なるベーマイト以外の結晶系が混在していることがあっても、全体としてベーマイトと見なせることを指して、本質的にベーマイト、という。
【0025】
アルミナの各種水和物のうち、ギブサイト、バイアライトといった3水和物は、実質的にはアルミナ水和物というよりは水酸化アルミニウムに相当し、前記乾燥処理を行っても結晶水として保持されるOH基当量が多いため、有機ポリマーヘのダメージを抑えきれないことが多い。また、結晶水を持たないα−アルミナに関しては、一般に粒径が大きく、長径を100nm未満にまで微細化することが工業的には困難である。したがってポリマーとの相互作用を期待するには、ベーマイトに比べるとやや不利となる。また、結晶水が少なく表面積も大きいアルミナとして、δ−アルミナであるDegussa社製超微粒子状アルミナ「AEROXIDE(登録商標)Alu C」が挙げられるが、本アルミナは燃焼加水分解過程を経ており、既に粗大粒が含まれていること、焼戌で表面の活性が低下しており有機ポリマーとの相互作用が十分得られないことから、やはりベーマイトに比べるとやや不利となる。
【0026】
結晶性アルミナー水和物であるベーマイトの中でも、特に本発明の効果が顕著なものとして、その形状が棒状或いは直方体であるものが挙げられる。この場合、粒子は、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ10〜500nm、アスペクト比が5〜100の本質的にベーマイトの形の結晶性アルミナー水和物の粒子が望ましい。短軸長さは棒状或いは直方体の横方向の径、長軸長さは最大長さを与える方向の長さである。アスペクト比は長軸長さ/短軸長さで与えられる値であり、アスペクト比の値が大きいほど細長い粒子を示す。この様なアスペクト比の大きい粒子は、有機ポリマーとのコンポジットを合成した際に特にその線膨張係数低下効果が高い。また透明性ポリマーの場合にはその透明性を犠牲にすることなくコンボジット化できることが多いため、非常に有用な粒子である。
【0027】
ここで、ベーマイト粒子の形状を短軸長さ2〜10nm、長軸長さは10〜500nmとしているが、長軸長さの範囲に関しては前述の理由の通りである。長軸を10〜500nmになるように合成・結晶化させると、実質的に1次粒子の短軸長さは2〜10nmとなる。
【0028】
前記アルミナ粒子は、懸濁液でも粉体でも構わないが、フリーズドライを行う場合は水分散した懸濁液タイプのものが取り扱い上望ましく、粉体の場合は水中に投入して超音波分散などの操作を行う必要がある。懸濁液の濃度としては、2〜50wt%のものが望ましい。2%より希薄な場合は揮発させる際に大量の水分が留去される為に工業的に不利となり、50%より高濃度の場合は実質的に固形となってしまう為凍結乾燥機への導入時に操作が煩雑となる。
【0029】
強熟する場合も懸濁液でも粉体でも構わないが、粉体のものが取り扱い上望ましく、乾燥時間が短くできる。懸濁液の場合は乾燥操作を長い時間行う必要が生じる。
【0030】
前記アルミナ粒子の製法は特に限定されず、粒径が制御できる範囲に於いて、気相法、ゾルゲル法、コロイド沈殿法、溶融金属噴霧酸化法、アーク放電などの、任意の方法で得られたもので構わないが、比較的異方性の高い市販品としては、例えば触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」のような擬ベーマイトが挙げられる。アスペクト比の十分大きいベーマイト粒子の合成にあたっては、発明者らによって発明された水熱合成によるゲルゾル法(特願2004−239442)が最も望ましい。
【0031】
(コンポジット化)
本発明におけるポリマーコンポジット中のアルミナ粒子の濃度は、固形分として1〜70重量%の範囲が好ましい。1重量%未満では機械的強度などの諸特性の向上が認められ難くなる。70重量%を超えると比重の増加が無視できなくなるばかりでなく、衝撃強度の低下も無視できないものとなる。一般に、ポリマーに無機微粒子を大量に配合すると衝撃強度が減少するが、本発明のナノコンポジットはナノオーダーのアルミナ微粒子が均一分散したものなので、衝撃強度の低下は実用上小さいが、70重量%を超えるとこれが無視できなくなる。より好ましくは3〜30重量%がよい。
【0032】
本発明のコンポジットの製法としては、用いられる有機ポリマーの種類に応じて、適宜選択することができる。もっとも簡便な直接混練法の場合、一般的な樹脂混練機を用いれば良く、例えば二軸押出成形機が好ましく、真空微量混練押出機やラボプラストミル等小型のものから、大型の機械まで、製造スケールに応じて選択する。この場合、水分を吸着しない様、混練機のホッパーに樹脂ペレットとアルミナ粒子粉体を手早く投入し、混練を行って、そのまま押し出して希望する形に成形してもよく、一旦コンポジットのペレットとして保管してもよい。
【0033】
コンポジットの製法の一つとして溶媒分散法がある。具体的には、有機ポリマーとアルミナ粒子を有機溶媒中で混合し、溶媒を留去して組成物を得る方法である。この方法によれば、前記有機ポリマーと前記アルミナ粒子とをより均一に混合することができるようになる。
【0034】
この方法では、最初に、前記アルミナ粒子を所定の有機溶媒中に分散させたアルミナ粒子分散溶液を作製するのが好ましい。この際の前記有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化アルキル系溶媒、トリフルオロメチルベンゼンなどのフッ素系有機溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン系極性溶媒などを例示することができる。
【0035】
次いで、前記有機ポリマーを所定の有機溶媒中に分散させたポリマー分散溶液を作製する。この際の有機溶媒としては、前記有機ポリマーを溶解できる溶媒から選択され、望ましくは前記アルミナ粒子を懸濁分散させるのに用いた溶媒と極性の近いものが用いられる。例えばポリカーボネートの場合、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチレンクロライド、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、1,1,1−トリクロロエタンなどが挙げられる。
【0036】
次いで、前記アルミナ粒子分散溶液と前記ポリマー分散溶液とを混合し、次いで、溶媒のみを留去することによって、目的とするポリマーコンポジットを得ることができるようになる。
【0037】
また、アクリル樹脂などのビニル重合ポリマーをマトリクス有機ポリマーに用いる場合は、溶液重合法を用いることができる。溶液重合法では、アルミナ粒子分散オルガノゾル中にモノマーを溶解させ、ラジカル開始剤によって重合を進行させ、反応終了後、貧溶媒に注入することでポリマーコンポジットを析出させる。例えばメチルメタクリレートの場合、トルエン中でラジカル重合を行い、ヘキサン中に注入すればコンポジットを析出させることができる。
【0038】
さらに、縮重合系ポリマーをマトリクス有機ポリマーに用いる場合のコンポジットの製法としては、溶融重合法が挙げられる。この方法においては、縮合可能なモノマーとアルミナ粒子分散オルガノゾルを含む混合物を、減圧下撹拌しつつ加熱し、オルガノゾルの溶媒を留去しつつモノマーの縮重合を進行させ、生成する縮合副生成物を除去することでポリマーコンポジットを得る。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合、テレフタル酸とエチレングリコールとアルミナ粒子ゾルを混合後、撹拌・加熱・減圧留去によりゾルの溶媒と縮合で生成する水を留去すれば、ナノコンポジットを得ることができる。
【0039】
上述した方法によれば、目的とするポリマーコンポジット中にアルミナ粒子を高効率で均一に分散させることができる。したがって、有機ポリマーが本来的に有する諸特性と、前記アルミナ粒子の相互作用によって、得られるナノコンポジットの機械的強度、寸法安定性を向上させることができるようになる。
【0040】
(ポリマーナノコンポジット:生成物)
本発明のポリマーナノコンポジットは、上述した工程を経て得られるものであり、
A)吸着水分量が25℃から150℃までの加熱減量として2wt%以下である、長径10〜500nmのアルミナ粒子
B)有機ポリマー
を具えることを特徴とする。
【0041】
前記アルミナ粒子としては、上述した製造方法に起因して、好ましくは結晶性アルミナー水和物であるベーマイトであって、その形状が棒状或いは直方体であるものがあり、短軸長さ1〜10nm、長軸長さ10〜500nm、アスペクト比が5〜100の高異方性を呈するものから構成する。但し、上述した製造方法に基づき、本発明の作用効果を喪失しない限りにおいて、その他任意のアルミナ粒子から構成することができる。
【0042】
なお、前記アルミナ粒子には、シランカップリング剤、シリル化剤、チタンカップリング剤、アルキルリチウム、アルキルアルミニウムなどの有機金属化合物を用いて表面改質処理を施しても良い。改質基の選択は混合する有機ポリマーの種類に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
前記有機ポリマーは、任意の熱硬化性或いは熱可塑性のポリマーから選ばれるが、特に本発明の効果が顕著なものとして、その骨格の化学構造の繰り返し単位にエステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、スルホン結合が含まれるポリマーが挙げられる。これらの有機ポリマー中に含まれるエステル結合やエーテル結合といった比較的弱い部分を、樹脂成形時の高温環境においてアルミナ粒子表面の活性な水酸基が攻撃して、加水分解や酸化劣化を引き起こすと考えられる。
【0044】
上記有機ポリマーとしては、ポリカーボネート樹脂(PC)、PMMAやPMAなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂−フェノキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリビニルアセタールなどが挙げられる。
【0045】
本発明で得られたナノコンポジットは、剛性の向上を実現し、熱膨張率が低く、また高温時に変形・ソリ・歪みなどを抑制し得るという特性を兼ね備えているため、これらの機能が要求される部材に好適であり、例えば、ヒートサイクルの負荷が掛かる電子部品、光学部品、自動車内外装材、更には家電や住宅に用いられる透明部材・備品・家具にも適した材料と言える。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
[実施例]
実施例1.(フリーズドライ−溶液混合)
1−1:アルミナ粒子水分除去(フリーズドライ)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)1500gを、共和真空技術(株)製凍結乾燥機RLEII−52を用いて、次の様にフリーズドライ乾燥を行った。(1)アルミナ粒子水分液を500gずつに分けて凍結乾燥装置の棚3段にセットし、3時間かけて−40℃で凍結を行った。(2)この間、コールドトラップも並行して−50℃に冷却した。(3)10分のうちに速やかに排気を行い、0.2Torrの真空とした。(4)このまま20時間フリーズドライを行い、水分を昇華させた。(5)+30℃にて4時間2次乾燥を行い、僅かに残存する水分を除去した。(6)乾燥空気により常圧に戻した。この一連の操作の結果、103gの乾燥擬ベーマイト型アルミナ粉末が得られた。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.6wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0048】
1−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、1−1で得られたアルミナ粉末15gを、関東化学(株)製無水テトラヒドロフラン85gに、撹拌翼とスリーワンモーター(HEIDON社製BL300R)により撹拌しながら再分散させた。この後、改質剤として信越化学工業(株)製「KBM−403」(=γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.15gを添加し、室温で10分間混合した。その後撹拌を続けながら、トリエチルアミン0.01gをイソプロパノールにて10倍量に希釈したのち滴下し、60℃にて10時間混合を続け、改質剤を十分反応させた。
【0049】
1−3:組成物化(溶液混合)
1−2で調製したアルミナ粒子分散液(固形分15%)100gに、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)85gをメチレンクロライド400g中に溶解したものを加えて、均一な溶液とした。徐々に減圧度を上げながら溶媒を除去し、最終的に100℃で1Torr以下の減圧下4時間乾燥し、更に混合物を(株)井元製作所製「真空微量混練押出機IMC−1170B型」を用いて260℃にて15分間混練してポリマーコンポジットを得た。生成物の灰分は14.5wt%であり、添加したアルミナ粒子が全量コンポジット化されていることを確認した。この生成物は無色でほぼ透明の外観を有し、黄変などはなく、靭性を保持していた。衝撃強さ(アイゾット)は203J/mであった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は48900であり、初期の分子量をほぼ維持していた。
【0050】
実施例2.(フリーズドライ−直接混練)
2−1:アルミナ粒子水分除去(フリーズドライ)
アルミナ粒子分散液としてシーアイ化成(株)製「ナノテックアルミナ−アルコール分散品」(粒径31mm、固形分15%)を700g用い、実施例1−1と同様のフリーズドライによる乾燥操作を行って吸着水分を除去した。操作の結果、104gの乾燥アルミナ粉末が得られた。この粉末のTG分析結果は、25℃から150℃までの加熱減量として0.3wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0051】
2−2:アルミナ粒子混練分散・組成物化(直接混練)
窒素雰囲気下、2−1で得られたアルミナ粉末15gと、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)85gとを、(株)井元製作所ワイゼンベルク混練押し出し機により混練しながら分散させた。この際、改質剤として信越化学工業(株)製「KBM−403」(=γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.15gを添加しておいた。混練は、ベント引きしながら260℃、40rpmの条件にて30分間行って、ポリマーコンポジットを得た。生成物の灰分は15.2wt%であり、添加したアルミナ粒子が全量コンポジット化されていることを確認した。この生成物は乳白色の外観を有し、黄変などはなく、靭性を保持していた。衝撃強さ(アイゾット)は123J/mであった。コンボジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は52000であり、初期の分子量をほぼ維持していた。
【0052】
実施例3
3−1:アルミナ粒子水分除去(常圧強熱)
アルミナ粒子分散液をエスペック(株)製熱風循環式オーブンLC224を用いて、次の様に強熱乾燥した。擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)500gを−IWAKI−120mm径平底蒸発皿5つに100gずつ分けて入れ、オーブンの棚にセットし、200℃にて12時間かけて乾燥を行った。得られた乾燥物をメノウ乳鉢で一旦粉砕した後、さらに200℃にて6時間かけて追加乾燥を行った。この結果、35gの乾燥擬ベーマイト型アルミナ粉末が得られた。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.8wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0053】
3−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、3−1で得られたアルミナ粉末15gを、1−2同様、無水テトラヒドロフラン85gに再分散させた後、改質剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.15gを添加し、表面改質を行った。
【0054】
3−3:組成物化(溶液混合)
3−2で調製したアルミナ粒子分散液に1−3同様の操作を行った。即ちアルミナ粒子分散液(固形分15%)100gに、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」85gをメチレンクロライド400g中に溶解したものを加えて、均一な溶液とした後、溶媒を除去し、更に混合物を混練してポリマーコンボジットを得た。生成物の灰分は15.0wt%であり、添加したアルミナ粒子が全量コンポジット化されていることを確認した。この生成物は白色の外観を有し、黄変などはなく、靭性を保持していた。衝撃強さ(アイゾット)は144J/mであった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は46300であり、初期の分子量をほぼ維持していた。
【0055】
実施例4
4−1:アルミナ粒子水分除去(減圧強熱)
アルミナ粒子分散液を(株)松井製作所製減圧伝熱式乾燥機DPTH−40を用いて、次の様に減圧強熱乾燥した。操作としては、擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)1000gを、乾燥機内にセットし、温度150℃にセットして2Torrの減圧度で6時間かけて乾燥を行った。得られた乾燥物をメノウ乳鉢で一旦粉砕した後、さらに150℃/2Torrにて2時間かけて追加乾燥を行った。最後に乾燥窒素ガスにより常圧に戻した。この結果、68gの乾燥擬ベーマイト型アルミナ粉末が得られた。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.4wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0056】
4−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、4−1で得られたアルミナ粉末15gを、1−2同様、無水テトラヒドロフラン85gに再分散させた後、改質剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.15gを添加し、表面改質を行った。
【0057】
4−3:組成物化(溶液混合)
4−2で調製したアルミナ粒子分散液に1−3同様の操作を行った。即ちアルミナ粒子分散液(固形分15%)100gに、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」85gをメチレンクロライド400g中に溶解したものを加えて、均一な溶液とした後、溶媒を除去し、更に混合物を混練してポリマーコンボジットを得た。生成物の灰分は15.3wt%であり、添加したアルミナ粒子が全量コンポジット化されていることを確認した。この生成物は乳白色の外観を有し、黄変などはなく、靭性を保持していた。衝撃強さ(アイゾット)は165J/mであった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は53000であり、初期の分子量をほぼ維持していた。
【0058】
実施例5
5−1:アルミナ粒子合成・水分除去(高アスペクト品)
機械撹拌機を備えたテフロン(登録商標)製ビーカーに塩化アルミニウム六水和物(2.0M,20ml,25℃)を入れ、撹拌(700rpm)しながら水酸化ナトリウム(4.80M,20ml,25℃)を滴下した。滴下終了後さらに10分間撹拌を続け、撹拌終了後、溶液のpHを測定した(pH=4.54)。次いで、前記溶液を10mlずつテフロン(登録商標)ライナーを備えたオートクレープに分け、オーブンで120℃、24時間経過させた(第1の熱処理)。次いで、前記オートクレーブをオイルバスヘ移し、180℃、20分間加熱した(第2の熱処理)。次いで、40秒以内に冷水(約10℃)へ入れ、急速冷却をした(第3の熱処理)。この第3の熱処理は1時間続けた。続いて、前言オートクレープを再びオーブンヘ入れ、140℃で、1週間加熱を続けた(第4の熱処理)。次いで、前記オートクレープを流水で冷やし、遠心分離(18000rpm,30min)で前記オートクレーブ内の溶液の上澄み除去後、硝酸ナトリウム水溶液(0.5M)で遠心洗浄3回、遠心水洗1回、水メタノール混合溶液(体積比 水:メタノール、0.5:9.5)遠心洗浄を1回行った。
【0059】
このベーマイトを透過型電子顕微鏡で観察したところ、長軸長さが350nm、短軸径が5.5nm、アスペクト比が約65の針状結晶だった。
【0060】
この後、共和真空技術(株)製凍結乾燥機RLEII−52を用いて、1−1と同様な操作を行ってフリーズドライ乾燥させることにより、ベーマイトの無色結晶粉末を得た。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.2wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0061】
5−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、5−1で得られたベーマイト粉末15gを、1−2同様、無水テトラヒドロフラン85gに再分散させた後、改質剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.15gを添加し、表面改質を行った。
【0062】
5−3:組成物化(溶液混合)
5−2で調製したベーマイト分散液に1−3同様の操作を行った。即ちベーマイト粒子分散液個形分15%)100gに、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」85gをメチレンクロライド400g中に溶解したものを加えて、均一な溶液とした後、溶媒を除去し、更に混合物を混練してポリマーコンポジットを得た。生成物の灰分は14.8wt%であり、添加したベーマイト粒子が全量コンポジット化されていることを確認した。この生成物は無色透明の外観を有し、黄変などはなく、靭性を保持していた。衝撃強さ(アイゾット)は277J/mと高い値を示した。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は50900であり、初期の分子量をほぼ維持していた。
【0063】
実施例6
(溶融重合コンポジット化)
6−1:アルミナ粒子水分除去(フリーズドライ)
アルミナ粒子分散液としてシーアイ化成(株)製「ナノテックアルミナ・アルコール分散品」(粒径31nm、固形分15%)を用い、実施例2−1と同様のフリーズドライによる乾燥操作を行った。
【0064】
6−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、6−1で得られたアルミナ粉末60gを、関東化学(株)製無水クロロホルム140gに再分散し、改質剤として信越化学工業(株)製「KBE−903」(=γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)0.6gを添加し、室温で10分間混合したのち、50℃に昇温して5時間混合を続け、改質剤を十分反応させた。
【0065】
6−3:組成物化(溶融重合)
関東化学(株)製エチレングリコール124.1g(2mol)と関東化学(株)製ジメチルテレフタル酸194.2g(1mol)に、触媒として酢酸亜鉛18mg(0.1mmol)を添加し、6−2で調製したアルミナ粒子分散液(固形分30%)を40g加えて、徐々に減圧度を上げながら195℃まで昇温して溶媒および生成する水分を十分除去し、かつエステル交換反応を進行せしめたのち、280℃で3mTorr以下の減圧下3時間重合し、これを更に280℃にて15分間混練してポリマーコンポジットを得た。生成物の灰分は4.9wt%であり、添加したアルミナがほぼ全量コンポジット化されていることを確認した。この組成物は無色半透明で黄変などはなく、靭性を有していた。衝撃強さ(アイゾット)は65J/mであった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は54000であり、十分な高分子量を維持していた。
【0066】
実施例7
(溶液重合コンポジット化)
7−1:アルミナ粒子水分除去(フリーズドライ)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)を、1−1方法でフリーズドライ乾燥を行った。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.6wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0067】
7−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、7−1で得られたアルミナ粉末60gを、関東化学(株)製トルエン140gに再分散し、室温で20分間混合した。
【0068】
7−3:組成物化(溶液重合)
400mLのトルエン中に、関東化学(株)製メタクリル酸メチル100.1g(1mol)、ラジカル開始剤として和光純薬工業(株)製V−40を12.2g(0.05mol)添加し、7−2で調製したアルミナ粒子分散液(固形分30%)を150g加えて、90℃まで昇温してラジカル反応を開始させ、撹拌しながら3時間重合を続けた。反応後反応液を2Lのヘキサン中に注入し、80℃で1Torr以下の減圧下4時間乾燥したのち200℃にて15分間混練し、ポリマーコンポジットを得た。生成物の灰分は30.9wt%であり、添加したアルミナがほぼ全量コンポジット化されていることを確認した。この組成物は無色透明で黄変などはなく、ある程度靭性を有していた。衝撃強さ(アイゾット)は28J/mであった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は62000であり、十分な高分子量を維持していた。
【0069】
実施例8〜14
実施例1のポリカーボネート樹脂の代わりにそれぞれ下記のポリマーにて、実施例1と同様の乾燥・水分除去操作、コンポジット化操作を行った。
8:ポリアセタール<ポリプラスチック(株)製「ジュラコンHP−90X」>
9:ポリフェニレンエーテル(PPE)<三菱ガス化学(株)製「YPX−100F」>
10:ポリアミド6<三菱エンジニアリングプラスチック(株)製「ノバミッドST145」>
11:熱可塑性ポリイミド<三井化学(株)製「AURUM」>
12:ポリサルホン<ソルベイアドバンストポリマー製「Udel」>
13:ポリフェニレンスルフィド<大日本インキ化学工業(株)「DIC・PPSFZ−1140」>
14:熱可塑性ポリウレタン<(株)クラレ「クラミロンU2000」>
【0070】
〔比較例〕
比較例では、上記実施例におけるアルミナ粒子の乾燥において、十分な水分除去操作を行われなかったものを記載する。
【0071】
比較例1
1−1:アルミナ粒子水分除去(エバポレーター乾燥)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)500gを、IWAKIロータリーエバポレーターを用いて、60℃加圧水アスピレーターにより水分を揮発させて1時間乾燥を行った。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として3.5wt%であり、水分除去・乾燥が不完全であった。
【0072】
1−2:アルミナ粒子再分散・改質
窒素雰囲気下、比較例1−1で得られたアルミナ粉末15gを、実施例1−2と同様無水テトラヒドロフラン85gに再分散させた後、改質剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.15gを添加し、撹拌を続けながら、トリエチルアミン0.01gを滴下し、60℃にて10時間混合を続け、改質剤を十分反応させた。
【0073】
1−3:組成物化(溶液混合)
比較例1−2で調製したアルミナ粒子分散液(固形分15%)100gに、実施例1−3と同様、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)85gとポリマーコンポジット化した。生成物の灰分は14.2wt%であった。この生成物は黄変したコハク色の外観を有し、靭性に劣っており、2mm厚みのサンプル板でも手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は14J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量は9600であり、初期の分子量から大幅に低下していた。
【0074】
比較例2
2−1:アルミナ粒子水分除去(スプレードライ)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)500gを、大川原化工機スプレードライヤL−8によって、熱風温度250℃、排風温度100℃の条件でスプレードライにより水分を揮発させて約15分かけて乾燥を行った。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として2.9wt%であり、水分除去・乾燥が不完全であった。
【0075】
2−2:アルミナ粒子再分散・改賃
比較例1−2と同様の条件で無水テトラヒドロフランに再分散させた後、改質剤を反応させた。
【0076】
2−3:組成物化(溶液混合)
比較例1−3と同様に、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)と、固形分15wt%となるようにポリマーコンポジット化した。生成物の灰分は13.9wt%であった。この生成物は黄変した茶色の外観を有し、靭性に劣っており、衝撃強さ(アイゾット)は34J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量16200であり、初期の分子量から大幅に低下していた。
【0077】
比較例3
3−1:アルミナ粒子水分除去(常圧低温乾燥)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)500gを、平底蒸発皿5つに100gずつ分けて入れ、エスペック(株)製熱風循環式オープンLC224のオープンの棚にセットし、70℃にて18時間かけて乾燥を行った。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として5.8wt%であり、水分除去・乾燥が不完全であった。
【0078】
3−2:アルミナ粒子再分散・改質
比較例1−2と同様の条件で無水テトラヒドロフランに再分散させた後、改質剤を反応させた。
【0079】
3−3:組成物化(溶液混合)
比較例1−3と同様に、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)と、固形分15wt%となるようにポリマーコンポジット化した。生成物の灰分は13.9wt%であった。この生成物は黄変した薄茶色の外観を有し、靭性に劣っており、2mm厚みのサンプル板でも手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は11J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量6200であり、初期の分子量から大幅に低下していた。
【0080】
比較例4
4−1:アルミナ粒子水分除去(減圧低温乾燥)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)500gを、(株)松井製作所製減圧伝熱式乾燥機DPTH−40内にセットし、温度70℃にセットして2Torrの減圧度で4時間かけて乾燥を行った後に、乾燥窒素ガスにより常圧に戻した。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として3.3wt%であり、水分除去・乾燥が不完全であった。
【0081】
4−2:アルミナ粒子再分散・改質
比較例1−2と同様の条件で無水テトラヒドロフランに再分散させた後、改質剤を反応させた。
【0082】
4−3:組成物化(溶液混合)
比較例1−3と同様に、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)と、固形分15wt%となるようにポリマーコンポジット化した。生成物の灰分は14.4wt%であった。この生成物は黄変したコハク色の外観を有し、靭性に劣っており、2mm厚みのサンプル板でも手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は20J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量8700であり、初期の分子量から大幅に低下していた。
【0083】
比較例5
5−1:アルミナ粒子水分除去(ミクロンサイズ粒子)
擬ベーマイト型アルミナ粒子分散液である大明化学工業(株)製「アルミナホワイトH」(粒径3μm、固形分80%、比重2.4)100gを、実施例1−1と同様のフリーズドライ操作により乾燥させた。この粉末をTG分析にかけたところ、25℃から150℃までの加熱減量として0.3wt%であり、十分な水分除去・乾燥が行われたことを確認できた。
【0084】
5−2:アルミナ粒子再分散・改質
実施例1−2と同様の条件で無水テトラヒドロフランに再分散させた後、改質剤を反応させた。
【0085】
5−3:組成物化(溶液混合)
実施例1−3と同様に、ポリカーボネート「ノバレックス7025A」(重量平均分子量54000)と、固形分15wt%となるようにポリマーコンポジット化した。生成物の灰分は15.4wt%であった。この生成物は黄変はなく白色の外観を有していたが、靭性に劣っており、2mm厚みのサンプル板でも手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は39J/mに留まった。
【0086】
比較例6
(常圧加熱・内添重合)
実施例6において使用したシーアイ化成(株)製「ナノテックアルミナアルコール分散品」を、フリーズドライ乾燥の代わりに比較例3−1と同様の操作にて、70℃で18時間かけて乾燥を行ったのち、PET樹脂のモノマー中に混合して内添重合により組成物化した。この生成物は黄変した薄茶色の外観を有し、靭性に劣っており、2mm厚みのサンプル板でも手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は10J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量10400であり、実施例6の分子量に比べて大幅に低下していた。
【0087】
比較例7
(常圧加熱・溶液重合)
比較例3−1において調製した触媒化成工業(株)製「Cataloid−AS−3」(長軸長さ100nm、短軸長さ10nm、固形分7%、比重1.05)常圧低温乾燥品を、実施例7−2、7−3と同様の操作によりアクリル樹脂のモノマー溶液中に混合して溶液重合により組成物化した。この生成物は黄変した赤茶色の外観を有し、靭性に極めて劣っており、3mm厚みのサンプル板でも容易に手で割ることができた。衝撃強さ(アイゾット)は3J/mに留まった。コンポジットのマトリクスポリマー分を抽出した後GPCにて分析すると、重量平均分子量20900であり、実施例6の分子量に比べて大幅に低下していた。
【0088】
比較例8〜14
同様に、実施例8〜14におけるアルミナ粒子ゾルを、吸着水が残存したままで次工程に用いたほかは、同様の操作を行ってポリマーコンポジットを得た。これらのコンポジットは黄変が生じ、靭性に劣っており、2mmのサンプル板でも容易に手で割れるものが殆どであった。
【0089】
以上の実施例、比較例のデータを表1〜4にまとめた。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
以上、具体例を挙げながら本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0095】
例えば、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤及び熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、チオエーテル、ホスファイト類及びこれらの置換体及びその組み合わせを含む)、紫外線吸収剤(例えばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等)、滑剤、離型剤(例えばシリコン樹脂、モンタン酸及びその塩、ステアリン酸及びその塩、ステアリルアルコール、ステアリルアミド等)、染料(例えばニトロシン等)、顔科(例えば硫化カドミウム、フタロシアニン等)を含む着色剤、添加剤添着液(例えばシリコンオイル等)、及び結晶核剤(例えばタルク、カオリン等)などを単独又は適宜組み合わせて添加することができる。
【0096】
具体的には、熱安定性を向上させるため、イルガノックス1010、1076(チバガイギー社製)等のヒンダードフェノール類、スミライザーGS、GM(住友化学社製)に代表される部分アクリル化多価フェノール類、イルガフオス168(チバガイギー社製)等のホスファイト類に代表される燐化合物などの熱安定剤を適量加えてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマーと長径10〜500nmのアルミナ粒子とから成るポリマーコンポジットにおいて、
前記アルミナ粒子に含まれる吸着水を、室温から150℃までの加熱減量として2wt%以下になるまで乾燥した後、前記有機ポリマーに混合してコンポジット化することを特徴とする、ポリマーコンポジットの製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ粒子に含まれる吸着水を、フリーズドライ法、あるいは常圧または減圧下で100℃から300℃の温度をかけての強熱、及びこれらの組み合わせから選ばれる手段で、除去した後、前記有機ポリマーとコンポジット化することを特徴とする、請求項1に記載のポリマーコンポジットの製造方法。
【請求項3】
前記アルミナ粒子に含まれる前記吸着水は、前記アルミナ粒子の懸濁液を作製した後に、この懸濁液に対して前記フリーズドライを施して除去することを特徴とする、請求項2に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項4】
前記懸濁液中の前記アルミナ粒子の濃度が、2−50wt%であることを特徴とする、請求項3に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項5】
前記アルミナ粒子に含まれる前記吸着水は、前記アルミナ粒子の粉体を作製した後に、この粉体に対して前記強熱を施して除去することを特徴とする、請求項2に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項6】
前記アルミナ粒子は、本質的にベーマイトの形の結晶性アルミナー水和物であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載のポリマーコンポジットの製造方法。
【請求項7】
前記アルミナ粒子は、短軸長さ2〜10nm、長軸長さ10〜500nm、アスペクト比が5〜100の異方性を呈することを特徴とする、請求項6に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項8】
前記ポリマーナノコンポジット中の前記アルミナ粒子の濃度を、固形分として1−70wt%とすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項9】
前記有機ポリマーの化学構造の繰り返し単位に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、スルホン結合が含まれることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載のポリマーコンボジットの製造方法。
【請求項10】
前記コンポジット化は、前記有機ポリマーと前記アルミナ粒子とを溶融混練することによって実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項11】
前記コンポジット化は、前記有機ポリマーと前記アルミナ粒子とを有機溶媒中に分散した後、溶媒留去することによって実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項12】
前記コンポジット化は、前記アルミナ粒子の分散溶液と前記有機ポリマーのモノマーとを混合した後、重合を進行させることによって実施することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一に記載のポリマーナノコンポジットの製造方法。
【請求項13】
少なくとも下記の成分を必須成分として含み、混合生成物として得られたポリマーコンポジット
A)吸着水分量が25℃から150℃までの加熱減量として2wt%以下である、長径10〜500nmのアルミナ粒子
B)有機ポリマー。
【請求項14】
前記有機ポリマーの化学構造の繰り返し単位に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、スルホン結合が含まれることを特徴とする、請求項13に記載のポリマーコンボジット。
【請求項15】
前記アルミナ粒子が、本質的にベーマイトの形の結晶性アルミナー水和物であることを特徴とする、請求項13または14に記載のポリマーコンポジット。
【請求項16】
前記アルミナ粒子は、短軸長さ2〜10nm、長軸長さ10〜500nm、アスペクト比が5〜100の異方性を呈することを特徴とする、請求項15に記載のポリマーナノコンポジット。
【請求項17】
前記ポリマーナノコンポジット中の前記アルミナ粒子の濃度が、固形分として1−70wt%であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一に記載のポリマーナノコンポジット。

【公開番号】特開2007−2049(P2007−2049A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181838(P2005−181838)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】