説明

ポリマー修飾ナノ粒子

【課題】 長期にわたって凝集せずに安定に存在するポリマー修飾金属酸化物ナノ粒子を経済的に提供すること。さらにはポリマー修飾金属酸化物ナノ粒子を含有する透明コロイド溶液を提供すること。
【解決手段】 数平均粒子径100nm以下の金属酸化物ナノ粒子を、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて表面修飾して得られる、ポリマー修飾ナノ粒子により達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー修飾ナノ粒子に関する。より詳しくは、粒子径100nm以下の金属酸化物ナノ粒子をポリマーで表面修飾したナノ粒子に関する。また本発明は、ポリマー修飾ナノ粒子を含有する透明コロイド溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ナノ粒子は、その量子効果によりサイズに応じた蛍光を発するなどバルクでは見られない特性を示すことから、エレクトロニクス、オプティクス、オプトエレクトロニクス、バイオサイエンスなど広い分野において用途開発が行われている。例えば太陽電池、発光ダイオード、紫外線遮蔽剤、波長変換材料、光触媒、量子ドットなどである。
【0003】
ところが金属酸化物ナノ粒子は表面活性が高いため非常に不安定であり、溶液中あるいは単離時に凝集し、ナノサイズに依存する量子効果が失われるという問題があった。例えば非特許文献1には酸化亜鉛粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真が掲載されているが、粒子同士が凝集している様子が見て取れる。非特許文献2には、酸化亜鉛のコロイド溶液を濃縮した際に粒子同士が凝集する現象について記載されている。
【0004】
このような金属酸化物ナノ粒子の凝集を防止する目的で種々の技術が提案されている。例えばトリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキサイド、アルキルアミン、ヘキサメタリン酸などの低分子化合物で表面修飾された金属酸化物ナノ粒子の合成が、特許文献1や非特許文献3に記載されている。しかしこれらの低分子化合物による表面修飾の場合、安定性に問題があり数日から数週間程度でナノ粒子が凝集してしまうという問題があった。また低分子化合物で表面修飾した金属酸化物ナノ粒子は、樹脂中に分散させることが困難であった。一方、高分子化合物で金属酸化物ナノ粒子の表面を修飾する技術が、非特許文献4や特許文献2などに記載されている。しかし非特許文献4に記載されているポリビニルピロリドンによる修飾は、ナノ粒子との結合が強固でないため安定性に問題があった。特許文献2に記載されている末端にSH基を有するポリエチレングリコールは、SH基の作用により金属酸化物ナノ粒子表面を強固に修飾することができるが、このようなポリマーの合成は煩雑であり、経済的でなかった。
【0005】
末端にSH基を有するポリマーの合成法として最も簡便と考えられる技術が、可逆的付加脱離連鎖移動重合法であり、特許文献3や特許文献4に記載されている。特に特許文献4では可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて金属ナノ粒子の表面修飾を行っている。しかし該方法では適用できるナノ粒子が還元法により合成されるものに限られるため、金属酸化物ナノ粒子の表面修飾を実施することができなかった。
【特許文献1】特開2003‐226521
【特許文献2】WO02/018080
【特許文献3】特開2002‐265508
【特許文献4】US2003/0199653 A1
【非特許文献1】D.W.Bahnemann et al., J.Phys.Chem. 1987,91,3789.
【非特許文献2】L.Spanhel et al., J.Am.Chem.Soc. 1991,113,2826.
【非特許文献3】M.Shim et al., J.Am.Chem.Soc. 2001,123,11651.
【非特許文献4】L.Guo et al., Chem.Mater. 2000,12,2268.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、長期にわたって凝集せず安定に存在するポリマー修飾金属酸化物ナノ粒子を経済的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、本発明者は以下のポリマー修飾金属酸化物ナノ粒子を提案する。
【0008】
すなわち本発明のポリマー修飾ナノ粒子は、数平均粒子径100nm以下の金属酸化物ナノ粒子を、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて表面修飾することにより得られるものである。
【0009】
本発明の好適な実施態様としては、上記表面修飾に用いるポリマーが、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合の後、処理剤により末端SH化されたものである。
【0010】
本発明の好適な実施態様としては、上記処理剤が水素‐窒素結合含有化合物、塩基性化合物、還元剤からなる群より選ばれるものである。
【0011】
本発明の好適な実施態様としては、上記表面修飾に用いるポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、スチレン、p‐スチレンスルホン酸ナトリウム、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニル、塩化ビニル、無水マレイン酸、マレイミドからなる群より選ばれる1種以上のモノマーを重合させたものである。
【0012】
本発明の好適な実施態様としては、上記表面修飾に用いるポリマーの分子量分布が1.5以下である。
【0013】
本発明の好適な実施態様としては、上記金属酸化物ナノ粒子の数平均粒子径が10nm以下である。
【0014】
本発明の好適な実施態様としては、上記金属酸化物ナノ粒子が、有機金属化合物とOH基含有塩基性化合物とを溶媒中で反応させることにより得られたものである。
【0015】
本発明の好適な実施態様としては、上記OH基含有塩基性化合物が、LiOH、NaOH、KOHからなる群より選ばれる化合物である。
【0016】
本発明の好適な実施態様としては、上記有機金属化合物が、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、アセチルアセトナト亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、クエン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、ギ酸亜鉛二水和物、ラウリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛三水和物からなる群より選ばれる化合物である。
【0017】
本発明の好適な実施態様としては、上記金属酸化物ナノ粒子が、Zn、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、Ag、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、ランタノイド、アクチノイドからなる群より選ばれる元素によりドーピングされているものである。
【0018】
また本発明は、上記ポリマー修飾ナノ粒子を含有する透明コロイド溶液を包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリマー修飾ナノ粒子は、単離状態・コロイド溶液状態・樹脂中分散状態のいずれにおいても安定であり、長期間にわたって凝集することなく存在する。したがって電気的特性・光学的特性・化学的特性が失われることなく持続する。すなわちディスプレイや発光ダイオードなどの発光デバイスとして用いた場合には寿命が長く、劣化が少ない。波長変換素子、量子ドットとしても性能保持したまま長期間使用可能である。触媒として用いる場合には性能劣化が少ない。また修飾するポリマーの組成・構造を任意に選択できるため、親水性・親油性・両親媒性など金属ナノ粒子表面の物性を自在に調整可能であり、種々の溶媒や樹脂に分散相容化させることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のポリマー修飾ナノ粒子は、金属酸化物ナノ粒子を、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて表面修飾することにより得られる。
【0021】
上記チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合に関しては特に限定はなく、例えば“HANDBOOK OF RADICAL POLYMERIZATION”,K.Matyjaszewski and T.P.Davis Ed.,Wiley,2002,661ページに記載の方法、あるいは同書記載の参考文献記載の方法を適用可能である。ただし反応性の点で70℃以上の温度で反応させることが好ましく、80℃以上がより好ましい。重合の形式は塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など限定されないが、重合後の後処理が容易である点で塊状重合または溶液重合が好ましい。
【0022】
本発明において使用するチオカルボニルチオ化合物としては特に限定されないが、入手性、反応性の点で以下の化合物が好ましい;
【0023】
【化1】

(式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Phはフェニル基、Acはアセチル基を表し、rは1以上の整数である)。これらのチオカルボニルチオ化合物のうちより好ましいものとしてはトリチオカーボネート構造を有する化合物、あるいは1分子中に複数のチオカルボニルチオ構造を有する化合物を挙げることができる。トリチオカーボネート構造を有する化合物は一般に可逆的付加脱離連鎖移動重合の反応性が高い。1分子中に複数のチオカルボニルチオ構造を有する化合物は、金属酸化物ナノ粒子表面に複数点で結合するため強固に表面修飾することができ、また金属酸化物ナノ粒子同士を架橋するように修飾することも可能であるため、金属酸化物ナノ粒子間の距離を制御しながら緻密に配列させることが可能となる。
【0024】
上記可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて金属酸化物ナノ粒子の表面を修飾する際、ポリマーをそのまま用いても良いが、表面修飾の効率が高い点で処理剤を用いて末端SH化しておくことが好ましい。処理剤としては特に限定されないが、SH基に変換する効率が高い点で、水素‐窒素結合含有化合物、塩基性化合物、還元剤からなる群より選ばれる化合物が好ましい。
【0025】
上記処理剤のうち、水素‐窒素結合含有化合物としては特に限定されないが、アンモニア、ヒドラジン、1級アミン、2級アミン、アミド化合物、アミン塩酸塩、水素‐窒素結合含有高分子、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などを挙げることができる。上記1級アミンの例としては、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、n‐プロピルアミン、n‐ブチルアミン、t‐ブチルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、2‐アミノエタノール、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,2‐ジアミノプロパン、1,4‐ジアミノブタン、シクロヘキシルアミン、アニリン、フェネチルアミンなどを挙げることができる。上記2級アミンの例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ‐2‐エチルヘキシルアミン、イミノジ酢酸、ビス(ヒドロキシエチル)アミン、ジ‐n‐ブチルアミン、ジ‐t‐ブチルアミン、ジフェニルアミン、N‐メチルアニリン、イミダゾール、ピペリジンなどを挙げることができる。上記アミド化合物の例としては、アジピン酸ヒドラジド、N‐イソプロピルアクリルアミド、オレイン酸アミド、チオアセトアミド、ホルムアミド、アセトアニリド、フタルイミド、コハク酸イミドなどを挙げることができる。上記アミン塩酸塩の例としては、アセトアミジン塩酸塩、モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、モノエチルアミン塩酸塩、ジエチルアミン塩酸塩、塩酸グアニジンなどを挙げることができる。上記水素‐窒素結合含有高分子の例としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどを挙げることができる。上記HALSの例としては、アデカスタブLA‐77(旭電化工業(株)製)、チヌビン144(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、アデカスタブLA‐67(旭電化工業(株)製)などを挙げることができる。
【0026】
上記処理剤のうち塩基性化合物の例としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、マグネシウムメトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを挙げることができる。
【0027】
上記処理剤のうち還元剤の例としては特に限定されないが、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カルシウム、LiAlH4、NaBH4、LiBEt3H(スーパーハイドライド)、水素などを挙げることができる。
【0028】
上記処理剤は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。反応性の点で水素‐窒素結合含有化合物、および還元剤が好ましい。水素‐窒素結合含有化合物の場合は、精製が簡便となる点で沸点20℃〜200℃の化合物がより好ましい。上記処理剤の使用量は特に限定されないが、反応性と経済性の点で、ポリマー100重量部に対して0.01〜100重量部が好ましく、0.1〜50重量部がより好ましい。温度や溶媒の有無、混合条件などの反応条件は特に限定されない。
【0029】
本発明において金属酸化物ナノ粒子の表面を修飾するポリマーの組成については特に限定されないが、入手性、各種溶媒や樹脂への相容性、耐熱性、安定性、人体や環境への安全性の点で、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、スチレン、p‐スチレンスルホン酸ナトリウム、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニル、塩化ビニル、無水マレイン酸、マレイミドからなる群より選ばれる1種以上のモノマーを重合させて得られるポリマーが好ましい。複数のモノマーを重合させる場合、主鎖構造は特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、傾斜共重合体、あるいはこれらの組み合わせなど任意である。
【0030】
上記モノマーのうち(メタ)アクリル酸エステルとしては特に限定されないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n‐ブチル、(メタ)アクリル酸t‐ブチル、(メタ)アクリル酸2‐エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2‐メトキシエチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸フェニルなどを挙げることができる。(メタ)アクリルアミド類としては特に限定されないが、(メタ)アクリルアミド、N‐イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジメチル(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0031】
本発明において金属酸化物ナノ粒子の表面を修飾するポリマーの分子量や分子量分布については特に限定されないが、可逆的付加脱離連鎖移動重合による制御が容易である点で、数平均分子量は3000〜50000の範囲にあることが好ましい。また得られるポリマー修飾ナノ粒子の物性が均一となる点で、分子量分布は1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましい。ここで数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析される値であり、分子量分布はMw/Mnとして計算される値である。
【0032】
本発明において使用する金属酸化物ナノ粒子については特に限定されず、数平均粒子径100nm以下のものであればよい。数平均粒子径については、動的光散乱(DLS)分析あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)観察より求めることができる。量子効果が顕著に現れる点で、金属酸化物ナノ粒子の数平均粒子径が20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお本発明においては、金属酸化物ナノ粒子が柱状や棒状である場合には、短い方の径を数平均粒子径として表すこととする。
【0033】
本発明において使用する金属酸化物ナノ粒子の合成方法としては特に限定されず、リソグラフィー法、機械的粉砕法、レーザー光線による分解などのトップダウン法;化学合成法、レーザートラップ法、ガス蒸着法(CVD)、2‐フォトン・コンフォーカル法などのボトムアップ法などが適用可能である。これらのうち粒子径や粒子形状を制御できる点でボトムアップ法が好ましく、装置が安価である点で化学合成法がより好ましい。化学合成法としては共沈殿法、逆ミセル法、ゾルゲル法など挙げられるが、操作が簡便である点で共沈殿法、ゾルゲル法が特に好ましい。なかでも原料の入手性・経済性および製造の容易さから、有機金属化合物とOH基含有塩基性化合物とを溶媒中で反応させる方法が最も好ましい。
【0034】
上記有機金属化合物としては特に限定されないが、例えば酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、塩化亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、クエン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、ギ酸亜鉛二水和物、ラウリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛三水和物などの亜鉛化合物;塩化チタン(III)、塩化チタン(IV)、クレシル酸チタン(IV)、酸化チタン(II)アセチルアセトナート、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)n‐プロポキシド、チタン(IV)テトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシドなどのチタン化合物;酢酸コバルト(II)四水和物、アセチルアセトナトコバルト(II)、安息香酸コバルト(II)、塩化コバルト(II)、クエン酸コバルト(II)二水和物、シュウ酸コバルト(II)二水和物、ステアリン酸コバルト(II)、水酸化コバルトなどのコバルト化合物;酢酸ニッケル(II)四水和物、アセチルアセトナトニッケル(II)二水和物、ビス(ジブチルジチオカルバミン酸)ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、ギ酸ニッケル(II)二水和物、乳酸ニッケル(II)四水和物、ステアリン酸ニッケル(II)、水酸化ニッケル(II)などのニッケル化合物;酢酸銅(II)一水和物、臭化銅(II)、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)2.5水和物、ギ酸銅(II)四水和物、グルコン酸銅(II)、オレイン酸銅(II)、フタル酸銅(II)、硫酸銅(II)、銅(II)イソプロポキシド、銅(II)メトキサイドなどの銅化合物;酢酸カドミウム二水和物、臭化カドミウム四水和物、炭酸カドミウム、塩化カドミウム、ギ酸カドミウム二水和物、ステアリン酸カドミウム、水酸化カドミウムなどのカドミウム化合物などを挙げることができる。これらのうち、得られる金属酸化物ナノ粒子のバンドギャップが大きく、安全性が高い点で亜鉛化合物が好ましく、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、アセチルアセトナト亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、クエン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、ギ酸亜鉛二水和物、ラウリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛三水和物がより好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記OH基含有塩基性化合物としては特に限定されないが、例えばLiOH、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物;Mg(OH)2、Ca(OH)2、Ba(OH)2などのアルカリ土類金属水酸化物;NH4OH、N(Me)4OH、N(Et)4OHなどのアンモニウムヒドロキシドなどを挙げることができる。これらのうち入手性および反応性の点で、アルカリ金属水酸化物が好ましく、LiOH、NaOH、KOHがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
有機金属化合物とOH基含有化合物とを溶媒中で反応させる際、溶媒は特に限定されず、有機金属化合物とOH基含有化合物を溶解または分散させることのできるものを任意に使用可能である。このような溶媒としては例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n‐プロパノールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエンなどの芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、オクタン、2‐エチルヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒などを挙げることができる。これらのうち生成する金属酸化物の分散性が良好である点で、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒が好ましい。また上記ポリマーで金属酸化物を修飾する段階では、ポリマーが溶解する溶媒を使用することが好ましい。これら溶媒は単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。複数を組み合わせる場合には互いに混ざり合う溶媒でもよく、混ざり合わない溶媒でもよいが、効率の点で互いに混ざり合う溶媒が好ましい。
【0037】
有機金属化合物とOH基含有化合物とを反応させる際の反応条件は特に限定されず、任意の温度・時間・添加タイミングなどを採用可能である。反応制御の点で温度は−20℃〜100℃の範囲が好ましく、0℃〜80℃の範囲がより好ましい。反応の方法としては、制御ダブルジェット沈殿法、ゾルゲル法、化学沈殿法、コロイド合成法などが挙げられ、特に限定されないが、粒径の揃ったナノ粒子が得られる点でJ.Am.Chem.Coc.1991,113,2826、Chem.Mater.2000,12,2268、およびJ.Phys.Chem.1992,96,11086などに記載されているゾルゲル法や、J.Phys.Chem.1987,91,3789およびJ.Phys.Chem.B 1998,102,7770などに記載されているコロイド合成法が好ましい。
【0038】
本発明の金属酸化物ナノ粒子は、単一の金属酸化物でもよく、1種以上の金属によりドーピングされていてもよい。ドーピング元素としては特に限定されないが、電気的および光学的量子効果が顕著な点で、Zn、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、Ag、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、ランタノイド、アクチノイドからなる群より選ばれる元素が好ましい。これらは単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。ドーピングするための方法としては特に限定されないが、簡便性の点でJ.Am.Chem.Soc.2002,124,15192、J.Am.Chem.Soc.2003,125,13205、およびJ.Am.Chem.Soc.2004,126,9387などに記載されている合成法が好ましい。
【0039】
金属酸化物ナノ粒子を、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて表面修飾する際、その方法は特に限定されない。例えばナノ粒子を溶媒中で合成し、その溶液中に上記ポリマーを添加する方法;ナノ粒子を単離し、上記ポリマーの溶液中に添加する方法;ナノ粒子を単離し、押出機、プラストミル、バンバリーミキサーなどを用いて溶融状態のポリマーと混合する方法;ナノ粒子の溶液とポリマー溶液とを混合する方法;ナノ粒子を合成する際に上記ポリマーを共存させる方法;ポリマーを重合する際にナノ粒子を共存させる方法などを挙げることができる。これらのうち反応が簡便で修飾効率が高い点で、反応の前後に関わらず溶液中でナノ粒子とポリマーを混合する方法が好ましい。この際、超音波照射を行うとさらに修飾効率が高くなるので好ましい。また、金属酸化物ナノ粒子を一旦低分子化合物や他のポリマーで仮修飾し、次いで本発明のポリマーで置換して修飾してもよい。このような仮修飾用の化合物としては、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ラウリルアミンなどの低分子アミン化合物;デカンチオール、ドデカンチオールなどの低分子チオール化合物;トリオクチルホスフィンオキシドなどのリン酸エステル系化合物;ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアミンなどのSH基を有しないポリマーなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の透明コロイド溶液は、上記記載のポリマー修飾ナノ粒子を溶媒中に均一分散して得られるものである。ここで溶媒としては特に限定されないが、ナノ粒子の分散性が良好である点で、表面修飾に用いたポリマーに対する良溶媒を用いることが好ましい。ポリマーに対する良溶媒としては、例えばPolymer Handbook,4th Edition(John Wiley & Sons Inc.,1999)などに記載されているものを使用可能である。本発明の透明コロイド溶液を調製する方法としては特に限定されず、上記ポリマー修飾ナノ粒子を単離後に溶媒中へ分散させてもよく、最初から溶媒中でポリマー修飾ナノ粒子を製造してそのままコロイド溶液としてもよい。透明コロイド溶液を調整する際、超音波照射、マイクロ波照射などを実施してもよい。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本発明においてポリマーの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により求めた。疎水性ポリマーはWaters社製システムを使用し、カラムはShodex K−806とK−805(昭和電工(株)製)を連結して用い、クロロホルムを溶出液とし、ポリスチレン標準で解析した。親水性ポリマーに対してはShodex LF−804(昭和電工(株)製)カラムを使用し、LiBrを10mM含有するジメチルホルムアミドを溶出液とし、ポリエチレングリコール標準で解析した。ポリマーを重合する際、モノマーの反応率はガスクロマトグラフィー(GC)分析により決定した。GC分析は、サンプリング液を酢酸エチルやエタノールなどの適当な溶媒に溶解し、キャピラリーカラムDB‐17(J&W SCIENTIFIC INC.製)を使用し、ガスクロマトグラフGC‐14B((株)島津製作所製)で実施した。金属酸化物ナノ粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)JEM‐1200EX(日本電子(株)製)を使用し、加速電圧80kVで観察した。コロイド溶液試料の場合はコロジオン膜を貼り付けたメッシュ上に乾燥固定して観察した。ナノ粒子の数平均粒子径は、TEM写真において100個以上のナノ粒子をノギスを用いて計測して計算した。発光スペクトルは、蛍光光度計LS55(パーキンエルマー社製)を用いて299nmの励起光を使用し、400〜700nmの範囲でフォトルミネッセンススペクトルを測定した。超音波照射は超音波ホモジナイザーUH‐600((株)エムエステー製)を使用して実施した。連鎖移動剤として使用したチオカルボニルチオ化合物は、特表2000‐515181あるいはMacromolecules 2002,35,4123に記載の方法に従って合成した。
【0043】
(製造例1)
末端にSH基を有するポリ(アクリル酸/N,N‐ジメチルアクリルアミド)の合成
窒素導入管付き還流冷却管、磁気攪拌子、温度測定用熱電対を装着した4口フラスコ(100mL)に、N,N‐ジメチルホルムアミド(50mL)、アゾビスイソブチロニトリル(5.3mg)、1‐フェニルエチルジチオベンゾエート(42mg)、アクリル酸(20mL)を入れ、反応器内を脱気・窒素置換した。反応溶液を攪拌しながら60℃で4時間攪拌(転化率21%)後、室温まで冷却し、ジメチルアミン(10mL)を添加して8時間攪拌した。反応溶液を濃縮後トルエン(200mL)に注いでポリマーを析出させた。得られたポリマーのGPCおよびNMR分析より、Mw17200、Mn14300、Mw/Mn1.20の、末端にSH基を有するポリ(アクリル酸/N,N‐ジメチルアクリルアミド)であることを確認した。アクリル酸からアクリルアミドへの変換収率は15%であった。
【0044】
(製造例2)
末端にSH基を有するポリ(N,N‐ジメチルアクリルアミド)(PDMA)の合成
窒素導入管付き還流冷却管、磁気攪拌子、温度測定用熱電対を装着した4口フラスコ(100mL)に、N,N‐ジメチル‐s‐チオベンゾイルチオプロピオンアミド(232mg)、DMA(30.0g)、N,N‐ジメチルホルムアミド(10g)、水(20g)、4,4’‐アゾビス(4‐シアノ吉草酸)(69mg)を入れ、反応器内を脱気・窒素置換した。80℃で3時間攪拌し、室温まで冷却した。モノマー反応率は44%であり、GPC分析の結果Mw16800、Mn14200、Mw/Mn1.18であった。
【0045】
この溶液に2‐エタノールアミン(5g)を添加して70℃で3時間攪拌し、末端にSH基を有するPDMAの水溶液を得た。
【0046】
(製造例3)
末端にSH基を有するポリメタクリル酸メチル(PMMA)の合成
窒素導入管付き還流冷却管、磁気攪拌子、温度測定用熱電対を装着した4口フラスコ(300mL)に、2‐(2‐フェニルプロピル)ジチオベンゾエート(0.170g)、MMA(50.0g)、トルエン(100g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.021g)を入れ、窒素置換し、90℃で2時間加熱した。モノマー反応率は30%であった。70℃まで冷却し、n‐ブチルアミン(0.0935g)を添加し、70℃で10時間攪拌した。反応溶液をメタノール(400mL)に注いで片末端にSH基を有するPMMA(7.4g)を析出させた。GPC分析の結果、Mw31600、Mn26200、Mw/Mn1.20であった。
【0047】
(製造例4)
末端にSH基を有するポリスチレン(PSt)の合成
窒素導入管付き還流冷却管、磁気攪拌子、温度測定用熱電対を装着した4口フラスコ(500mL)に、2‐(2‐フェニルプロピル)ジチオベンゾエート(3.22g)、スチレン(100.3g)、トルエン(98.1g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.61g)を入れ、窒素置換し、70℃で14時間攪拌した。モノマー反応率は42%であった。反応溶液を50℃に保ち、ジエチルアミン(25g)を加えて8時間攪拌した。室温まで冷却後、反応溶液をメタノール(500mL)に注いでポリマーを析出させた。得られたポリスチレンはMw4300、Mn3700、Mw/Mn1.16であり、1H‐NMR分析より片末端がSH基に変換されていることを確認した。
【0048】
(製造例5)
末端にSH基を有するポリアクリル酸n‐ブチル(PBA)の合成
窒素ガス導入管付き還流冷却管、攪拌機、温度計を備えた200mL反応器に、ジベンジルトリチオカーボネート(4.46g)、アクリル酸n‐ブチル(49.7g)、トルエン(50g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.415g)を入れ、反応器内を脱気・窒素置換した。90℃で3時間攪拌し、サンプリングしてGPC分析とNMR分析によりトリチオカーボネート構造を有するPBA(Mw4200、Mn3700、Mw/Mn1.15)の生成を確認した。
【0049】
この溶液にn‐ブチルアミン(20g)を添加し、室温で1時間攪拌した後、ヘキサン(500mL)に注いで遠心分離することによりポリマーを沈殿として得た。GPC分析とNMR分析により、末端にSH基を有するPBA(Mw3000、Mn2700、Mw/Mn1.11)であることを確認した。
【0050】
(製造例6)
ZnOナノ粒子の合成
J.Phys.Chem.B 1998,102,7770の方法を参考に、以下の通りZnOナノ粒子を合成した。
【0051】
酢酸亜鉛二水和物(220mg)を2‐プロパノール(80mL)に溶解し、50℃で30分間攪拌した後2‐プロパノールを加えて全量を920mLとし、0℃に冷却した。ここに0.02M NaOH/2‐プロパノール溶液(80mL)を一度に加え、65℃で2時間攪拌した。TEM分析より、数平均粒子径5.1nmのZnOナノ粒子が生成していることを確認した。
【0052】
(製造例7)
ZnOナノ粒子の合成
J.Phys.Chem.1992,96,11086の方法を参考に、以下の通りZnOナノ粒子を合成した。
【0053】
酢酸亜鉛二水和物(11.0g)を無水エタノール(500mL)に溶解し、窒素雰囲気で80℃に加熱しながらエタノールをゆっくり留去した。留分が約300mLに達した時点で反応器内に無水エタノール(300mL)を追加し、LiOH・H2O(2.9g)を添加した。室温で超音波照射を2時間実施し、0.1μmのグラスフィルターでろ過して不溶物を除去した。TEM分析より、数平均粒子径8.5nmのZnOナノ粒子が生成していることを確認した。
【0054】
(製造例8)
MnドープZnOナノ粒子の合成
J.Am.Chem.Soc.2004,126,9387の方法を参考に、以下の通りMnドープZnOナノ粒子を合成した。
【0055】
酢酸亜鉛二水和物(2.15g)と酢酸マンガン四水和物(0.05g)をDMSO(100mL)に溶解し、ここにテトラメチルアンモニウムヒドロキシド五水和物(30.8g)をエタノール(310mL)に溶解させた溶液を、室温で攪拌しながら滴下した。滴下終了後反応溶液を60℃で4時間攪拌し、酢酸エチル(500mL)に注いで粒子を沈殿させた。得られた粒子をエタノール(300mL)に分散させ、ヘプタン(500mL)に注いで沈殿させた。得られた粒子をエタノール(200mL)に分散させ、ドデシルアミン(5g)を加えて超音波照射しながら室温で2時間攪拌し、ロータリーエバポレーターで濃縮した後トルエン(100mL)に溶解させた。TEM分析より数平均粒子径6.7nmのMnドープZnOナノ粒子が生成していることを確認した。Mnドープされていることは、530nm付近の発光スペクトルが著しく弱くなっていることから確認した。
【0056】
(実施例1)
製造例1で得られた末端にSH基を有するポリ(アクリル酸/N,N‐ジメチルアクリルアミド)(0.5g)を、製造例6で得られたZnOナノ粒子の2‐プロパノール溶液(5mL)に溶解させ、室温で超音波照射を1時間行った後、溶液を濃縮してヘキサン(10mL)を加えてポリマー修飾ZnOナノ粒子を沈殿させた。得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子をメタノール(1mL)に溶解させ、ヘキサン(10mL)に注いで再沈殿させることにより精製した。得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子はメタノール中510nmに発光スペクトルを示し、またTEM観察からZnOナノ粒子を含有することを確認した。TEM観察においてZnOナノ粒子の凝集は観察されなかった。
【0057】
(実施例2)
製造例1で得られた末端にSH基を有するポリ(アクリル酸/N,N‐ジメチルアクリルアミド)(2g)を、製造例7で得られたZnOナノ粒子のエタノール溶液(5mL)に溶解させ、室温で超音波照射を1時間実施した。得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子のコロイド溶液は室温で6ヶ月以上放置しても透明のままであり、TEM観察の結果ZnOナノ粒子が凝集せずに存在していることを確認した。
【0058】
(比較例1)
市販のポリアクリル酸(Mw2000、アルドリッチ)(2g)を、製造例7で得られたZnOナノ粒子のエタノール溶液(5mL)に溶解させ、室温で超音波照射を1時間実施した。得られたコロイド溶液のうち2mLをとり、ヘキサン(10mL)に注いでポリマーを沈殿させた。得られたポリマーは発光スペクトルを示さず、TEM観察からもZnOナノ粒子の存在を確認できなかった。ポリマーを取り除いた上澄みにはZnOナノ粒子が存在することをTEM観察により確認したが、凝集していた。残りのコロイド溶液(3mL)は室温で1週間保存すると濁りが生じ、TEM観察の結果ZnOナノ粒子が凝集していることを確認した。
【0059】
(実施例3)
製造例2で得られた末端にSH基を有するPDMA水溶液(1.5mL)を、製造例6で得られたZnOナノ粒子の2‐プロパノール溶液(10mL)に添加し、30℃で超音波照射を2時間実施した。得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子のコロイド溶液を濃縮後、キャストすることによりポリマー修飾ZnOナノ粒子の透明フィルムを得た。このフィルムを80℃の温水で洗浄し、TEM観察を行ったところZnOナノ粒子が凝集せずに分散していることを確認できた。
【0060】
(実施例4)
製造例2で得られた末端にSH基を有するPDMA水溶液(2mL)をメタノール(5mL)に溶解させ、製造例7で得られたZnOナノ粒子のエタノール溶液(5mL)と混合した。50℃で4時間攪拌後、得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子のコロイド溶液を濃縮し、キャストすることによりポリマー修飾ZnOナノ粒子の透明フィルムを得た。このフィルムを80℃の温水で洗浄し、TEM観察を行ったところZnOナノ粒子が凝集せずに分散していることを確認できた。
【0061】
(実施例5)
製造例3で得られた末端にSH基を有するPMMA(1g)を、製造例8で得られたMnドープZnOナノ粒子のトルエン溶液(5mL)に添加し、60℃で2時間超音波照射した。得られたポリマー修飾ZnOナノ粒子のコロイド溶液をメタノール(50mL)に注ぎ、ポリマー修飾ZnOナノ粒子を沈殿させた。上澄み液のGC分析よりドデシルアミンが存在することを確認した。これはZnOナノ粒子の表面を保護していたドデシルアミンが、末端にSH基を有するPMMAと置換されたためである。またTEM分析および発光スペクトル分析より上澄みにはMnドープZnOナノ粒子がほとんど含まれないことを確認した。ポリマー修飾ZnOナノ粒子をメタノールで洗浄後、トルエン(5mL)を用いてキャストしてフィルムを作製した。TEM観察によりMnドープZnOナノ粒子が凝集せずに分散して存在することを確認した。
【0062】
(比較例2)
市販のPMMA(Mw15000、アルドリッチ)(1g)を、製造例8で得られたMnドープZnOナノ粒子のトルエン溶液(5mL)に添加し、60℃で2時間超音波照射した。得られた溶液をメタノール(50mL)に注いでポリマーを沈殿させた。上澄み液のGC分析においてはドデシルアミンは観測されなかったが、TEM分析の結果多くの凝集したMnドープZnOナノ粒子が確認された。ポリマーをメタノールで洗浄後、トルエン(5mL)を用いてキャストしてフィルムを作製した。TEM観察によりポリマー中に含まれるMnドープZnOナノ粒子の数が極端に少ないことを確認した。さらにポリマー中のMnドープZnOナノ粒子は凝集していた。
【0063】
(実施例6)
製造例4で得られた末端にSH基を有するPSt(1g)を、製造例8で得られたMnドープZnOナノ粒子のトルエン溶液(5mL)に添加し、60℃で2時間超音波照射した。得られた溶液をメタノール(50mL)に注いでポリマーを沈殿させた。上澄み液のGC分析よりドデシルアミンが存在することを確認した。これはZnOナノ粒子の表面を保護していたドデシルアミンが、末端にSH基を有するPStと置換されたためである。またTEM分析および発光スペクトル分析より上澄みにはMnドープZnOナノ粒子がほとんど含まれないことを確認した。ポリマー修飾ZnOナノ粒子をメタノールで洗浄後、トルエン(5mL)を用いてキャストしてフィルムを作製した。TEM観察によりMnドープZnOナノ粒子が凝集せずに分散して存在することを確認した。
【0064】
(比較例3)
市販のPSt(Mw4000、アルドリッチ)(1g)を、製造例8で得られたMnドープZnOナノ粒子のトルエン溶液(5mL)に添加し、60℃で2時間超音波照射した。得られた溶液をメタノール(50mL)に注いでポリマーを沈殿させた。上澄み液のGC分析においてはドデシルアミンは観測されなかったが、TEM分析の結果多くの凝集したMnドープZnOナノ粒子が確認された。ポリマーをメタノールで洗浄後、トルエン(5mL)を用いてキャストしてフィルムを作製した。TEM観察によりポリマー中に含まれるMnドープZnOナノ粒子の数が極端に少ないことを確認した。さらにポリマー中のMnドープZnOナノ粒子は凝集していた。
【0065】
(実施例7)
製造例5で得られた末端にSH基を有するPBA(1g)をアセトン(5mL)に溶解させ、製造例7で得られたZnOナノ粒子のエタノール溶液(5mL)に添加した。得られた溶液を室温で2時間超音波照射し、濃縮・減圧乾燥してPBAで修飾したZnOナノ粒子を得た。このポリマー修飾ナノ粒子を0.1gずつ、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、エタノール、各3mLにそれぞれ溶解させて透明コロイド溶液を調整した。これら透明コロイド溶液は室温で6ヶ月以上保存しても安定であり、ZnOナノ粒子の凝集は認められなかった。
【0066】
(比較例4)
製造例6で得られたZnOナノ粒子の2‐プロパノール溶液(3mL)を室温で保存したところ、5日間で濁りが生じ、TEM観察の結果ZnOナノ粒子が凝集していることが確認された。
【0067】
(比較例5)
製造例7で得られたMnOナノ粒子のエタノール溶液(3mL)を室温で保存したところ、1週間で濁りが生じ、TEM観察の結果ZnOナノ粒子が凝集していることが確認された。
【0068】
(比較例6)
製造例8で得られたMnドープZnOナノ粒子のトルエン溶液(3mL)を室温で保存したところ、15日間で濁りが生じ、TEM観察の結果MnドープZnOナノ粒子が凝集していることが確認された。
【0069】
(実施例8)
Chem.Mater.2000,12,2268の方法を参考に、末端にSH基を有するPDMAで表面修飾されたZnOナノ粒子を合成した。
【0070】
酢酸亜鉛二水和物(110mg)を2‐プロパノール(80mL)に添加し、激しく攪拌しながら50℃で1時間攪拌した。2‐プロパノールを追加して溶液の全量を920mLとし、0℃に冷却した。この溶液をストック溶液として4つに等分した。
【0071】
ストック溶液の一つに製造例2で得られた末端にSH基を有するPDMA(1.8g)を添加し、室温で超音波照射しながらNaOHのメタノール溶液(0.02mol/L)(50mL)を2時間かけて滴下した。さらに室温で超音波照射と攪拌を2時間続けた。TEM観察の結果、数平均粒子径2.5nmのZnOナノ粒子が凝集せずに存在していることを確認した。こうして得られたPDMAで表面修飾されたZnOナノ粒子の透明コロイド溶液は、室温で6ヶ月以上保存しても安定であり、凝集は認められなかった。
【0072】
(比較例7)
実施例8のストック溶液の一つに、市販ポリビニルピロリドン(PVP)(Mw10000、アルドリッチ)(1.3g)を添加し、室温で超音波照射しながらNaOHのメタノール溶液(0.02mol/L)(50mL)を2時間かけて滴下した。さらに室温で超音波照射と攪拌を2時間続けた。TEM観察の結果、数平均粒子径3.1nmのZnOナノ粒子が凝集せずに存在していることを確認した。しかしこうして得られたPVPで表面保護されたZnOナノ粒子の透明コロイド溶液は、安定性が低く、室温で3週間程度保存すると濁りが生じ、ZnOナノ粒子が凝集していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のポリマー修飾ナノ粒子は、凝集することなく安定的に量子効果を発現する材料として、ディスプレイ用蛍光体、光電変換素子、発光ダイオード、波長変換材料、紫外線遮蔽材料、色素増感太陽電池、蛍光塗料、蛍光フィルム、発光塗料、発光フィルム、診断薬、微量成分検出試薬、分析用試薬、ドラッグデリバリーシステム、量子トランジスタ、量子ドットレーザー、ディスプレイ用発光体、バリスター、触媒などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒子径100nm以下の金属酸化物ナノ粒子を、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られたポリマーを用いて表面修飾することにより得られる、ポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項2】
表面修飾に用いるポリマーが、チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤とする可逆的付加脱離連鎖移動重合の後、処理剤により末端SH化されたものである、請求項1に記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項3】
処理剤が水素‐窒素結合含有化合物、塩基性化合物、還元剤からなる群より選ばれるものである、請求項2に記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項4】
表面修飾に用いるポリマーが、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、スチレン、p‐スチレンスルホン酸ナトリウム、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロライド、アクリロニトリル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニル、塩化ビニル、無水マレイン酸、マレイミドからなる群より選ばれる1種以上のモノマーを重合させたものである、請求項1から3のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項5】
表面修飾に用いるポリマーの分子量分布が1.5以下である、請求項1から4のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項6】
金属酸化物ナノ粒子の数平均粒子径が10nm以下である、請求項1から5のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項7】
金属酸化物ナノ粒子が、有機金属化合物とOH基含有塩基性化合物とを溶媒中で反応させることにより得られたものである、請求項1から6のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項8】
OH基含有塩基性化合物が、LiOH、NaOH、KOHからなる群より選ばれる化合物である、請求項7に記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項9】
有機金属化合物が、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、アセチルアセトナト亜鉛水和物、安息香酸亜鉛、クエン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ギ酸亜鉛、ギ酸亜鉛二水和物、ラウリン酸亜鉛、サリチル酸亜鉛三水和物からなる群より選ばれる化合物である、請求項7または8のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項10】
金属酸化物ナノ粒子が、Zn、Ti、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Cu、Ag、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、ランタノイド、アクチノイドからなる群より選ばれる元素によりドーピングされているものである、請求項1から9のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のポリマー修飾ナノ粒子を含有する透明コロイド溶液。

【公開番号】特開2006−56999(P2006−56999A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240307(P2004−240307)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】