説明

ポリマー混合物を用いた屈折率プロファイルの安定化された光学素子の製造方法

【課題】 光学素子を製造する方法であって、第1モノマーを重合させて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成させるステップと、第2ポリマーが第1ポリマーに混入するように第1ポリマーの存在下で第2モノマーを重合させるステップからなり、該第2ポリマーは第1ポリマーおよび屈折率プロファイルを安定化するものであることを特徴とする。人の眼の矯正用の眼鏡レンズの調製に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、補正レンズなどの光学素子と、これらの光学素子を製造する方法とに関するものである。より詳細には、本発明は2種以上のポリマーを含む光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の眼など多くの光学システムは収差を含んでいる。そのような収差を補正すべく、システムを通る光は、近軸光線、具体的には、光軸の近くにあって、小さな角度内に含まれる光線に限られると想定するのが一般的である。この想定により製造される補正用光学部品は一般に、球面のみを有している。例えば、人の眼の不完全性は、通常、球面をもつレンズによって矯正可能な、一般に「乱視」及び「ピンぼけ」と呼ばれる不完全性を含む低い程度の、若しくは、低次の不完全性に限られる、と想定されている。しかしながら、「コマ収差(coma)」及び「トレフォイル(trefoil)」として知られる他の不安定性を含むが、それらに限定されない高次の不安定性が存在しうる。残念ながら、これらの不安定性は、従来の眼鏡またはコンタクトレンズによっては矯正できず、可能な限りの最良の処方を行った矯正レンズでさえ、患者には最適な視力に充たない状態のままなのである。
【0003】
さらに、多くの場合、すべての収差を同時に最小限にすることは困難である。実際に、ある種類の収差を最小限にするために光学システムを矯正すると、他の種類の収差が増えることがある。例えば、コマ収差を減らすことによって球面収差が増えることがある。さらに、製造時に導入される光学システムにおける収差を矯正する必要がある場合がしばしば起こる。このプロセスは、実行するには、組み立て、位置合わせ、収差を特定するための性能評価、分解、収差を補正するための研磨または研削、再組み立て、および再テストといった様に、繰り返しが多く時間がかかるものなのである。適切な光学システムを開発するまで、何度も何度も繰り返しが必要になることがある。
【0004】
2001年6月4日出願の「波面収差装置およびその製造方法」と題する米国特許出願第09/875,447号において、とりわけ、ポリマーの屈折率を変化させる光重合法を用いて波面収差装置を製造する方法が開示されている。屈折率プロファイルは、放射線(例えば、紫外線)に対する暴露によって領域ごとにポリマーを選択的に硬化することにより形成され得る。選択された領域において暴露されたポリマーの屈折率は増大するが、結果的に得られる屈折率プロファイルは恒久的ではなく、時間の経過とともに変化し、生じる屈折率変化の大きさが時間につれて減少する傾向がある。
【特許文献1】米国特許第6,761,454号
【特許文献2】米国特許出願公開番号2002/0080464Al
【特許文献3】米国特許出願公開番号2003/0143391Al
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
好ましい実施形態は、光学素子を提供するものであり、この光学素子は、第1光学カバー、第2光学カバー、および第1光学カバーと第2光学カバーに挟み込まれたポリマー材料の層を備えており、ここで、該ポリマー材料は第1ポリマーと第2ポリマーの混合物からなっており、該第1ポリマーは、所定の屈折率が得られるよう空間的に変化する硬化度を有しており、そして該第2ポリマーは、結果的にこの屈折率プロファイルを安定化させるように硬化されていることを特徴とする。
【0006】
別の好ましい実施形態は、光学素子を製造する方法を提供するものであり、この方法は、第1モノマーを重合させて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成させるべく第1ポリマーを重合させるステップと、第1ポリマーに混入して屈折率プロファイルを安定化する第2ポリマーを形成させるべく、第1ポリマーの存在下に第2モノマーを重合させるステップからなることを特徴とする。
【0007】
別の好ましい実施形態は、眼鏡レンズを製造する方法を提供するものであり、この方法は、第1モノマー、第2モノマー、第1光開始剤、および第2光開始剤からなる混合物を調製するステップと、この混合物を第1光学カバーと第2光学カバーの間に配置するステップと、この混合物を第1照射源に暴露し、それにより、第1モノマーを重合させて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成するステップと、第2モノマーを第2照射源に暴露し、それにより、第2ポリマーが第1ポリマーに混入した形に第2モノマーを重合させることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
これらの実施形態および本発明のその他の実施形態については、以下の説明および添付図面(正確な縮尺ではない)から容易に理解されるものである。但し、これらの図面は例示的なものであって、本発明を限定するものではない。
【0009】
図1は、好ましい光学素子10を示している。図1aにおいて、光学素子10は、透明プレートであってもよい、第1の剛性または可撓性のある光学カバー12と、透明プレートであってもよい、第2の剛性または可撓性のある光学カバー14と、第1光学カバーと第2光学カバー12、14の間に挟み込まれたポリマー材料16の層とを含んでいる。必要に応じて、後述する硬化の前後に、障壁18を用いて第1プレートと第2プレート12、14の間にポリマー材料16を包含してもよい。必要に応じて、第1カバーおよび第2カバー12、14の一方または両方が、既存の屈折力を示す曲がった表面であってもよい。このため、第1カバーおよび第2カバー12、14はそれぞれが個別に、眼鏡レンズ、例えば単焦点レンズ、二焦点レンズ、または累進多焦点レンズであり得、そのすべてがプリズム屈折力を含んでいてもいなくてもよい。または、第1プレートおよび第2プレート12、14の両方が、曲がった表面を有しており且つ屈折力を有していない平面レンズであってもよい。
【0010】
ポリマー材料16は好ましくは、図1bに示したように各重合開始剤を用いて、2種のモノマー20、22など、少なくとも2種の硬化成分を重合させることにより製造される。2種のモノマー20、22それぞれの屈折率は、ポリマー材料16を形成する重合(硬化)中に変化する。詳しく後述するように、硬化は好ましくは、硬化度がポリマー材料16内の位置間で変化するように2種のモノマー20、22を照射源に暴露することにより実施される。屈折率プロファイルは、2種のモノマーの硬化度または重合度によって決まる。第1モノマー20は好ましくは、重合されて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成し、第2モノマー22は好ましくは、均一に重合または硬化されて第2ポリマーを形成し、これにより、第1ポリマーおよび屈折率プロファイルが安定化される。このように、該ポリマー材料16は第1ポリマーおよび第2ポリマーの混合物からなっている。本明細書で用いる「ポリマー材料」という用語は、各種のモノマーおよびポリマー、ならびにモノマーとモノマーの混合物、モノマーとポリマーの混合物、およびポリマーとポリマーとの混合物を包含する幅広い用語であることは、当業者によって当然に了解されるものである。
【0011】
本説明の中から明らかな如く、2種のモノマー20、22はそれぞれ、異なる波長の光への暴露によって硬化する。例示したものに限られるものではないが、第1モノマー20は比較的長い紫外線波長の光(例えばUVA)への暴露によって硬化することができ、第2モノマー22は比較的短い紫外線波長の光(例えばUVB)への暴露によって硬化することができる。第1モノマー20は例えばアクリレートまたはビニルエーテルであり得、第2モノマー22は例えばビニルエーテルまたはエポキシであり得る。第1モノマーと第2モノマーの組み合わせとしては、アクリレート類とエポキシ類、チオール−エン類とエステル類、チオール−エン類とエポキシ類、アクリレート類とビニルエーテル類、およびビニルエーテル類とエポキシ類を挙げることができる。
【0012】
光開始重合によって重合する他のモノマーを用いてもよい。適切なモノマーには、例えば、ウレタン類、チオール−エン類、セルロースエステル類、メルカプトエステル類、およびエポキシ類が含まれる。この第1モノマーおよび/または第2モノマーは、互いに相手と反応する2種以上のモノマーを含有するモノマー系であり得る。例えば、チオール−エンは好ましい第1モノマーであり、チオールモノマー類およびエンモノマー類からなっている。多種多様なチオール−エンモノマー類及びポリマー類は当業者に周知である。例えば、ジェー・ピー・フシエー及びジェー・エフ・ラベック共編、エー・ティー・ジャコバインの「高分子科学技術における放射線硬化:光重合機構」219〜268ページ(1993年)、エルセヴィアー・アプライド・サイエンス出版、ロンドン(Jacobine A.T. Radiation Curing in Polymer
Science and
Technology:Photopolymerization Mechanisms, J.P.Fouassier andJ.F
Rabek;219-268,1993, Elsevier Applied Science, London)を参照されたい。好ましくは、第1モノマーおよびまたは第2モノマーは感光性樹脂である。モノマーは照射時に自発重合してもよいし、または好ましくは光開始剤を用いてもよい。適切な光開始剤には、ベンゾインエーテル類、ベンジルケタール類、アセトフェノン類、およびホスフィンオキシド類などのアルファ開裂型光開始剤類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、カンファーキノン類、およびビスイミダゾール類などの脱水素型光開始剤類、ならびにアリールジアゾニウム塩類、アリールスルホニウム塩類、アリールヨードニウム塩類、およびフェロセニウム塩類などのカチオン光開始剤類が含まれる。または、フェニルホスホニウムベンゾフェン塩類、アリール・ターシャリール−ブチル・パーエステル類、チタノセン、N−メチルマレイミドなどの、その他の光開始剤を使用してもよい。
【0013】
好ましい実施形態においては、この重合プロセスは紫外線への暴露の持続時間および強度によって制御される。より好ましくは、紫外線源がオフになったときに重合が実質的に停止されることが望ましい。チオール‐エン重合系は、例えば、この「逐次重合」乃至「段階的成長」という特性を呈する。図2は、光学素子10を製造する好ましい方法を示すフローチャートである。ブロック24において、光源が第1モノマー20を選択的に重合させて、製造される光学素子10にとって望ましい屈折率プロファイルに近似する屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有するポリマー材料16を生成する。図1cは、当該の選択的重合を実施する方法を概略的に示している。より高い重合度が望ましい領域には、より高いレベルの照射(図1cで複数本の矢印30で示している)を受けさせ、より低い重合度が望ましい領域には、より低いレベルの照射と中間レベルの照射(それぞれ1本の矢印35と2本の矢印38で示している)を受けさせることにより、図1dに示した図で例示したような所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有するポリマーを形成することができる。適切な選択的重合方法が、米国特許出願公開番号2002/0080464 Alおよび2003/0143391 Alに開示されている。これらの出願は、特に当該の方法を説明するためその記載内容全体若しくは部分的に参照して本明細書に組み入れられている。モノマー20は重合時に変化する屈折率を有しているため、特定の領域における屈折率を、選択的照射によってその領域における重合度または硬化度を制御することにより制御できる。モノマー20は好ましくは、第1波長の光に反応する光開始剤を用いて重合される。第2モノマー22は第1モノマー20の重合中に存在させてもよいし、第1モノマー20の重合後にポリマー材料16中に拡散させてもよい。第1モノマー20の重合中に存在させる場合、第2モノマー22は好ましくは、第1モノマー20の重合中にはわずかな重合を受けるか全く重合を受けないままである。
【0014】
ブロック26において、第1波長の光への暴露が終了されて第1モノマー20の硬化が停止すると、それにより、屈折率の変化も停止する。この段階における光学素子10の屈折率プロファイルは、所望の屈折率プロファイルに近似している。例えば図1cに示したように、より少ない量の放射35に暴露される光学素子10の領域における第1ポリマー40の量は、より多い量の放射30、38に暴露される領域における量より少ない。図1dに示した図で例示した空間的に変化する屈折率プロファイルは、各領域における第1ポリマーのそれぞれの量を反映している。このため、第1ポリマー40の硬化度を空間的に変えることによって、様々な点42、44、46における屈折率プロファイルは概ね、入射光35、30、38の強度に(それぞれ)対応する。次にブロック28において、光源が作動されて、好ましくは実質的に完全且つ均一に第2モノマー22を硬化させる第2波長の光で材料16が照射される。完全な重合を確保するために、過剰な光をブロック28で用いてもよい。但し、第2モノマーの硬化が100%未満であっても、屈折率プロファイルの安定化にとって効果的な場合もある。例えば、第2モノマー22が重合前には、ポリマー材料16が約20,000センチポイズを上回る粘度値を有する場合、第2モノマーの硬化度が約40%であっても充分である。一般に、ポリマー材料16の粘度が高いほど、屈折率プロファイルの安定化に必要とされる、第2モノマー22の硬化度が低くなる。第2モノマーの量は、第1モノマーを基準にして重量百分率が約15%以上であることが好ましい。それにより、第2ポリマー成分が実質的に完全に硬化されたときに、ポリマー混合物全体にわたってロック網が形成され、第1モノマー/ポリマー成分が実質的に動かない状態にされる。
【0015】
ポリマー混合物16を製造する好ましい実施形態には、モノマー1分子当たり比較的少数の(好ましくは3個または4個の)重合可能な官能基を含有する、分子量が比較的低い第1モノマーの使用が含まれる。例えば、好ましい第1モノマー混合物は、チオール‐エンからなることを特徴とし、より好ましくは1分子当たり3個または4個の‐SH基を含有するチオールと、1分子当たり3個または4個の炭素−炭素二重結合を含有するエン化合物とからなるチオール−エンであることを特徴とする。追加の例としては、当業者であればジェー・ピー・フシエー及びジェー・エフ・ラベック共編、エー・ティー・ジャコバインの「高分子科学技術における放射線硬化:光重合機構」219〜268ページ(1993年)、エルセヴィアー・アプライド・サイエンス出版、ロンドンを参照すれば明らかである。分子量が比較的少ない第1モノマーを使用することにより、体積収縮または緻密化による屈折率変化の大きさが最大になる。このため、モノマーは好ましくは、屈折率変化の動的範囲が広がるか、またはデルタN値が上がるように選択される。
【0016】
第2モノマー(複数種のモノマーの混合物であってもよい)としてはマクロマが挙げられる。例えば、不飽和ビスフェノール−A・フマル酸ポリエステルのような官能基を有する比較的低いまたは中程度の分子量のポリマー(例えば、ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークのリーチホールド,インクから販売されているATLAC(Reichhold,
Inc.;Research Triangular Park, NC))である。好ましいATLACは約40個のエン基を含有しており、アセトンおよび各種チオール‐エン混合物に可溶である。好ましくは、第2モノマーは第1モノマーに比べ、比較的高い粘度を有しており、そのため、第1ポリマーの低分子量成分の拡散速度が下がる。例えば、好ましいチオール−エン/ATLACの組み合わせにおいて、比較的高粘度のATLACを第2モノマーとして用いて、好ましくは、硬化されていないまたは比較的低い程度に硬化された、チオール−エンモノマー/ポリマー混合物(第1チオール−エンモノマーの先行重合によって作製された)の部分拡散の速度が下がる。反応性官能基を含有する類似のマクロマを第2モノマーの成分として使用することができる。第2モノマーのその後の重合によって好ましくは、第1ポリマーの成分の、特に第1ポリマーのより分子量が低い成分(第1モノマーおよびそのオリゴマーなど)の拡散を遅らせるまたは防止することにより第1ポリマーを安定化する非常に粘度が高いマトリックスが形成される(そして、これにより、屈折率プロファイルが安定化される)。目的の屈折率プロファイルに望ましくない影響を与えないように、第2ポリマーを形成するための第2モノマーの硬化度は、空間的な意味で実質的に均一であることが好ましい。
【0017】
第2ポリマーは、第2ポリマーと第1ポリマーの間の共有結合を形成することで第1ポリマーを安定化することもできる。例えば、好ましいチオール−エン/ATLAC系において、光重合時に低分子量のチオールモノマーおよびエンモノマーが重合して、より密度が高く緻密なポリマーを形成し、その結果、屈折率が高まる。低分子量のチオールモノマーおよび/またはエンモノマー、および/または成長するチオール−エンポリマーもATLACと反応することが好ましい。チオール−エン重合によって形成された、屈折率が高い領域は、当該単位とATLACとの共有結合によって安定化される。ATLACがなければ、低分子量のチオール−エン単位は拡散によって比較的自由に移動する。このため、所望の屈折率領域が時間とともに拡散する傾向があり、その結果、前述の安定化の問題が生じる。
【0018】
空間的に変化する硬化度によって形成される屈折率プロファイルを安定化するその他の方法は、屈折率プロファイルを安定化する第2成分として、全く異なる種類のポリマーを使用することである。例えば、まず、前述のように光重合プロセスを使用して所望の屈折率プロファイルを生成し、次に、安定性を高める第2ポリマーを形成するために、紫外線によって硬化される第2モノマーを使用するのではなく、図2のブロック28に示したように、加熱によって硬化される第2モノマーを使用するものである。当該の例の1つとしては、熱硬化可能なエポキシであり、例えば、前述の実施形態におけるATLACの代わりに熱硬化可能なエポキシを使用するというものである。所望の屈折率プロファイルを形成するために用いられるステップは基本的に同じであり、次に、熱が加えられてエポキシが硬化され、それによって、エポキシマトリックスにおける第1ポリマーが安定化される。
【0019】
一実施形態は、比較的低い温度(例えば80℃未満)または室温に近い温度で硬化するエポキシを選択することである。次に、エポキシの硬化を防止するために、チオール、エン、およびエポキシが室温に近い温度または室温を下回る温度に保たれる。次に、チオール‐エン重合を誘発する光開始剤を活性化することにより、屈折率プロファイルを生成させることができる。所望の屈折率プロファイルが達成されたら、システムが少し暖められてエポキシ硬化温度に達し、エポキシが重合され、チオール−エンポリマーが凍結され、それにより、屈折率プロファイルが安定化される。
【0020】
別の実施形態は、熱硬化によって屈折率プロファイルを安定化する方法である。屈折率プロファイルがポリマー混合物中に一旦作成されたら、その屈折率プロファイルの劣化を避けることが好ましい。エポキシを加熱すると、この屈折率プロファイルが劣化する可能性がある。このリスクを最小限に抑える1つの方法は、該エポキシ硬化を2つのステップで実行することである。すなわち、まず第一に、ポリマー中に屈折率プロファイルを作成した後、該混合物中の第2ポリマーを室温でゲル化(部分的に重合)させ、次いで、温度を例えば約60℃〜85℃に上げて完全硬化プロセスを完了させる。このゲル状態によって屈折率プロファイル周囲が高粘度環境になり、それにより、第1ポリマー、例えば光重合チオール−エンポリマーの拡散速度が低下する。高温での完全な硬化によって屈折率プロファイルが安定化される。
【0021】
2004年5月18日に出願の「紫外線保護、紫外線硬化可能モノマーおよびポリマー混合物の硬化装置並びに方法」と題する米国特許出願第10/848,942号、およびその出願がその優先権を主張している、2003年5月21日出願の米国仮出願第60/472,669号は、特にポリマー材料16を調製する好ましい方法の説明のため、その記載内容全体が参考として本明細書に組み入れられている。
【0022】
図3を参照しながら、どのように所望の屈折率プロファイルを求めるかについて説明する。所望の屈折率プロファイルを得るために空間的に変化するように、第1モノマー20(モノマーの混合物であり得る)が部分的に硬化されることと、第2モノマー22(これもモノマーの混合物であり得る)の硬化によって屈折率が多少変化し得ることは、前述のことから当業者によって了解されるところである。第1モノマー20の選択的重合からもたらされる所望の屈折率分布と、第2モノマー22の硬化からもたらされる材料16全体にわたる屈折率の追加変化との組み合わせである全体的プロファイルが得られるのが好ましい。
【0023】
図3は、球面収差、乱視、および高次収差からなり得る発散波として波面30を概略的に示している。高次収差は通常、三次項以上のゼルニケ多項式で記述可能である。仮想上の断面32において、波面は点34、36、38、40の位置に交点を有している。波面の頂点は42で示され、交点34、36、38、40の方向に移動する。頂点42と交点の間の距離は通常、空間における物理的距離の単位で表される。頂点42は、平面32上に投影された点44を有している。
【0024】
この波面における収差を補正するために、頂点42を遅らせる屈折率プロファイルが材料16において生成される。したがって、材料16の一部分についての所望の屈折率プロファイルは、硬化後には平面波が光学素子10に出射するように波面30の共役を引き起こす屈折率を示すプロファイルである。図3に示した波30のプロファイルと基本的に同じ三次元分布プロファイル46を有する硬化プロファイルの例を、図4に示している。
【0025】
これに限定されるものではないが、特に、好ましい一実施形態においては、補正に必要な遅延を次のように計算することができる。硬化された材料と未硬化材料16の間の屈折率の差Δnは通常0.001〜0.05であり、ルーチンの実験によって求めることができる。本遅延は、波の頂点42と、平面32上への頂点の投影点44の間の物理的距離「d」である。したがって、該材料16の厚さ尺度は少なくともd/Δnとなる。材料16の硬化プロファイルにおいて、遅延の大きさは、硬化された材料の厚さの大きさのスケールがd/Δn位のもの、またはプロファイル頂点46での屈折率の、断面50上へ頂点の投影点48に対する差を集積したものがd/Δnとなるのである。当該の屈折率プロファイルの効果は、波30の頂点42が最大の遅延を被り、交点34、36、38、40における波が、材料16の未硬化部分における屈折率プロファイルの対応する位置52、54、56、58において遅延を被らないということである。したがって、硬化後の材料16の所望の屈折率プロファイルとは、その屈折率によって、補償が必要とされる波のプロファイルに適合するプロファイルが確定されるということになる。
【0026】
この硬化は、光源をビーム整形ユニットとともに使用して行うことができる。好ましくは、本ビーム整形ユニットを使用した光源は、実質的に平行な光線を発するものであることが好ましい。但し、当然ながら、必要に応じて非平行ビームを用いてもよい。限定的ではなく、例示的であるところの一実施形態においては、光線は集束レンズを通過して、光学素子10に向けられる、収束するまたは焦点を結ぶ光線を形成することができる。ここで、光線は第1透明プレート12を通過して、収束乃至焦点化した光線となり、即ち、材料16における所望の量の光線が焦点を結んで収束される。この光線が、この場所においてモノマーを照射し、好ましくは、光開始剤が活性化され、材料16内の硬化プロセスが開始される。この硬化プロセスの結果、材料内において相当する屈折率の変化が起きる。光への暴露を止めると硬化が止まり、屈折率の変化が停止する。
【0027】
光源の作動および出力レベルならびにその位置は、制御装置によって制御されるのが好ましい。この制御装置は、光源と、光源を取り付けることができる往復移動部品とに電気的に接続されている。好ましい実施形態においては、収束光線が透明プレート12を通過し、材料16内で収束する。具体的には、光線の縁が所望の焦点で収束し、その焦点において材料16を硬化する。次いで、光線が、硬化されたばかりの点に隣接する別の点に移動してその点を硬化し、さらに順次別の点へとこのプロセスが続く。ビーム走査によって光エネルギーを供給する各種方法の詳細が、米国特許出願公開第2003/0143391 Alに開示されている。その出願の内容全体は、特に当該の方法の説明のため参考として本明細書に組み入れられる。
【0028】
本明細書で「焦点」という用語を用いているが、その焦点における光線は、数学において大きさを持たない真の「点」にあるのではなく、収束光線への暴露を受ける、材料16における領域を表す「ビームウェスト」と呼ばれる、ある量的大きさで焦点を結ぶ。一般的に言えば0.002〜1.5ラジアンの範囲の円錐角を有する光線を使用することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0029】
好ましくは、重なり領域を形成しながら、硬化部分間の距離は光線のビームウェストを下回るものである。好ましい実施形態においては、この光線の重なり領域の大きさは、ビームウェストの大きさの約10〜約75%の範囲で変化してもよい。これに限定的されるものではないが特に好ましい実施形態においては、光線の重なり領域の大きさは、ビームウェストの大きさの約40〜約60%の範囲で変化してもよい。緊密に焦点を結ぶ光線が好ましい一実施形態においては、ビームウェストは20μm以下の範囲である。但し、約0.1ミクロン〜約200ミクロンの範囲のビームウェストを用いてもよい。当然のことながら、硬化部分は互いに逐次的で連続してもよく、あるいは、一連の走査にランダムにアクセスでき、ビームウェストが重なることなく、新しい硬化位置が以前の位置から隔離されているような状態のものである。
【0030】
モノマーを選択的に硬化するその他の方法(例えばフォトマスク)を用いてもよい。適切な選択的重合方法が、米国特許出願公開第2002/0080464 Alに開示されている。この出願の記載内容全体が、特に当該の方法を説明するため参照により本明細書に組み入れられる。
【0031】
好ましい光学素子は、望遠鏡、顕微鏡、走査型共焦点検眼鏡や眼底カメラなどの眼科用診断機器といった光学部品において収差を補正するために使用することができる。このような場合、検査機器は一般に、レンズなどの屈折素子、ミラーやビームスプリッタなどの反射素子、ならびにグレーティングや音響光学結晶および電気光学結晶などの回折素子を含んでいる。好ましい実施形態では、安価な光学部品を用い、上述の如き補正素子を使用して付随する残存収差を補正することにより、当該の装置の製造コストを下げることができる。好ましい実施形態においては、図1に示した光学素子10は、患者の眼の欠陥が原因で生じる収差を矯正するための、例えば眼鏡レンズの構成を示す補正素子である。
【0032】
上述のプロセスに対しては本発明の精神から逸脱することなく、様々な省略、追加、および修正を実施できること、及び当該の修正および変更はすべて、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内に入るものであることは、当業者によって充分に了解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】好ましい光学素子を概略的に示す断面図である。
【図1b】好ましい光学素子を概略的に示す断面図である。
【図1c】所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有するポリマーを形成する選択的重合を概略的に示す断面図である。
【図1d】図1cに示した選択的重合の結果もたらされる屈折率プロファイルを概略的に示す図である。
【図2】光学素子を製造する好ましい方法を示すフローチャートである。
【図3】波面における収差を示す概略図である。
【図4】図3に示した収差を補償する好ましいレンズの屈折率プロファイルを示す概略図である。
【符号の説明】
【0034】
10 光学素子
12 第1光学カバー
14 第2光学カバー
16 ポリマー材料
18 障壁
20 第1モノマー
22 第2モノマー
30 波面
32 仮想断面
34 交点
36 交点
38 交点
42 頂点
44 投影点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光学カバーと、第2光学カバーと、前記第1光学カバーと前記第2光学カバーの間に挟み込まれたポリマー材料の層を含む光学素子であって、前記ポリマー材料は、第1ポリマーと第2ポリマーの混合物からなり、前記第1ポリマーは、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有しており、そして前記第2ポリマーは、前記屈折率プロファイルが安定化されるように硬化されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1光学カバーおよび前記第2光学カバーは、透明プレートであることを特徴とする、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1光学カバーおよび前記第2光学カバーは、眼鏡レンズである、請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第1ポリマーおよび前記第2ポリマーが、ポリアクリレート/エポキシ、ポリアクリレート/ポリビニルエーテル、チオール−エン・ポリマー/ポリエステル、チオール−エンポリマー/エポキシ、およびポリビニルエーテル/エポキシからなる群より選択される一対を形成している、請求項2に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1ポリマーが、チオール‐エンポリマー、エポキシ、ポリアクリレート、およびポリビニルエーテルからなる群より選択されたものである、請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2ポリマーは、エポキシ、ポリエステル、ポリアクリレート、およびポリビニルエーテルからなる群より選択されたものである、請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
第1モノマーを重合させて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成させ、かつ、前記第1ポリマーの存在下で第2モノマーを重合させて、前記第1ポリマーに混入するように第2ポリマーを形成させ、該第2モノマーが前記屈折率プロファイルを安定化させることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2モノマーの重合中、前記第2モノマーおよび前記第1ポリマーは、第1カバープレートと第2カバープレートとの間に挟み込まれている、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1カバープレートおよび前記第2カバープレートは、眼鏡レンズである、請求項8に記載の光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1モノマーの重合を、前記第1モノマーの、第1照射源への暴露により行う、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1モノマーを、光開始剤を要するものである、請求項10に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2モノマーの重合を、前記第1照射源とは異なる第2照射源へ前記第2モノマーを暴露することにより行うことを特徴とする、請求項10に記載の光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1モノマーが、エポキシ、チオール、エン、アクリレート、ビニルエーテル、およびこれらの混合物からなる群より選択されたものである、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記第2モノマーが、エポキシ、アクリレート、エステル、およびビニルエーテルからなる群より選択されたものである、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記第1モノマーの重合に先立って前記第1モノマーと前記第2モノマーを混合することを特徴とする、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記第1ポリマーがチオール−エンポリマーであり、前記第2ポリマーが、エポキシポリマーおよび不飽和ポリエステルからなる群より選択されてものである、請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項17】
第1モノマー、第2モノマー、第1光開始剤、および第2光開始剤を含む混合物を調製し、この混合物を第1光学カバーと第2光学カバーの間に配置させ、この混合物を第1照射源に暴露し、それにより、前記第1モノマーを重合させて、所定の屈折率プロファイルが得られるよう空間的に変化する硬化度を有する第1ポリマーを形成させ、そして前記第2モノマーを第2照射源に暴露し、それにより、前記第2モノマーを重合させて、前記第2モノマーが前記第1ポリマーに混入している第2ポリマーを形成させることを特徴とする眼鏡レンズを製造する方法。
【請求項18】
前記第2モノマーの実質的に全てが、重合によって消費されている、請求項17に記載の眼鏡レンズを製造する方法。
【請求項19】
前記第2ポリマーが部分的に硬化している、請求項17に記載の眼鏡レンズを製造する方法。
【請求項20】
前記第1光学カバーおよび前記第2光学カバーが、透明プレート、平面型眼鏡レンズ、単焦点眼鏡レンズ、二焦点眼鏡レンズ、および累進多焦点眼鏡レンズからなる群より選択されたものである、請求項17に記載の眼鏡レンズを製造する方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−512704(P2008−512704A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530496(P2007−530496)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/031973
【国際公開番号】WO2006/029260
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(506265989)オフソニックス,インク (6)
【氏名又は名称原語表記】Ophthonix,Inc..
【Fターム(参考)】