説明

ポリマー組成物及び該ポリマー組成物を含むノイズ抑制シート

【課題】高い周波数領域での不要な電磁波を効果的に抑制することができるとともに、難燃性を有するポリマー組成物及びノイズ抑制シートを提供すること。
【解決手段】(イ)高分子有機材料を100質量部と、(ロ)六方晶フェライトを110質量部〜4900質量部と、(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を1質量部〜5質量部と、を含むポリマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物及びノイズ抑制シートに関する。本発明は、具体的には、高い周波数領域において、電磁波ノイズを効果的に抑制することのできるポリマー組成物及び該ポリマー組成物を含むノイズ抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンや携帯電話等の電子機器に用いられる電子回路やCPU等の電子部材は電磁波を発生している。このような電磁波は、電子機器の内部で相互干渉して、電子機器の誤作動を引き起こす要因となっている。また、電子機器の内部で発生した電磁波が外部へと放射された場合、他の電子機器等へも影響を及ぼす恐れがある。
【0003】
上記のような問題を解決するために、従来より、金属微粒子やフェライト等の磁性体を樹脂に配合した複合材料からなる種々の電磁波ノイズ抑制材料が開発されている。
たとえば、特許文献1には、軟磁性金属酸化物粉末を用いた総厚100μm以下の薄型ノイズ抑制シートが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−19846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、情報通信の高速化と大容量化に伴い、パソコン、携帯電話等の電子回路の交流周波数や情報通信に用いる電磁波周波数は高くなりつつある。このため、従来から用いられてきたフェライトや軟磁性金属では電磁波を効果的に抑制することが困難な場合も生じてきている。
【0006】
特許文献1に開示されているノイズ抑制シートにおいても、用いられている軟磁性粉末はニッケル−亜鉛系フェライトであるため、この軟磁性粉末を用いた複合材料では、2GHz以上の高周波領域には対応できないという問題がある。
【0007】
また、パソコン等の電子機器は、CPUやコンデンサ等の異常発熱などによって、内部発火する恐れがあり、このような内部発火を防止するために、近年、パソコン等の電子機器に用いられる部材には難燃性が求められてきている。
【0008】
以上のような事情に鑑みて、本発明が解決しようとする課題は、高い周波数領域での不要な電磁波を効果的に抑制することができるとともに、難燃性を有するポリマー組成物及びノイズ抑制シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、高分子有機材料に対して、特定の量の六方晶フェライトと、特定の量の、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び/又は有機シリコーン系化合物と、を含むポリマー組成物とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下のポリマー組成物及びノイズ抑制シートを提供する。
[1]
(イ)高分子有機材料を100質量部と、
(ロ)六方晶フェライトを110質量部〜4900質量部と、
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を1質量部〜5質量部と、を含むポリマー組成物。
[2]
前記(イ)が、フッ素ゴム、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、[1]に記載のポリマー組成物。
[3]
前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[2]に記載のポリマー組成物。
[4]
前記フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーが、ブロック型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー及びグラフト型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[2]又は[3]に記載のポリマー組成物。
[5]
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、及びテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[2]〜[4]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
[6]
前記(ロ)が下記一般式(1)〜(3)で表されるM型、Z型、及びY型の六方晶フェライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
(M型)BaMXFe(12-X)19 (1)
(Z型)Ba3MβFe2441 (2)
(Y型)Ba22Fe1222 (3)
(上記一般式(1)〜(3)中、MはTi,Co,Ni,Zn,Mn,及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、上記一般式(1)中、Xは0〜12の整数であり、一般式(2)中、βは0.1≦β≦20の正数である。上記一般式(1)〜(3)中のBaの一部又は全てがSrで置換されていてもよい。)
[7]
前記(ロ)が下記一般式(4)で表されるM型六方晶フェライトを含む、[6]に記載のポリマー組成物。
Ba(Mα)2Fe1019 (4)
(上記一般式(4)中、MはTi,Co,Ni,Zn,Mn,及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、αは0.5≦α≦3.2の正数である。)
[8]
前記(ロ)が下記一般式(5)で表されるM型六方晶フェライトを含む、[6]又は[7]に記載のポリマー組成物。
Ba(TiACoBZnC2Fe1019 (5)
(上記一般式(5)中、Aは0.3≦A≦1.5の正数であり、Bは0.1≦B≦1.0の正数であり、Cは0.1≦C≦0.7の正数である。)
[9]
前記(ロ)が前記一般式(2)で表されるZ型六方晶フェライトを含み、βが0.5≦β≦2.6の正数である、[6]〜[8]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
[10]
前記(ロ)が下記一般式(6)で表されるZ型六方晶フェライトを含む、[6]〜[9]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
Ba3CoDZnEFe2441 (6)
(上記一般式(6)中、Dは0.4≦D≦2.0の正数であり、Eは0.1≦E≦1.0の正数である。)
[11]
前記(ロ)が下記一般式(7)で表されるY型六方晶フェライトを含む、[6]〜[10]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
Ba2(ZnF2Fe1222 (7)
(上記一般式(7)中、Fは0.35≦F≦1.35の正数である。)
[12]
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種を7質量部〜2400質量部、さらに含み、かつ、
前記(ロ)と、前記(ニ)と、の合計が、117質量部〜5100質量部である、[1]〜[11]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
[13]
前記軟磁性合金粉末がケイ素鋼、パーマロイ、及びセンダストからなる群から選ばれる少なくとも1種である、[12]に記載のポリマー組成物。
[14]
前記熱伝導性粉末が水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[12]又は[13]に記載のポリマー組成物。
[15]
前記導電性粉末が導電性カーボンブラック、及び導電性酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[12]〜[14]のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
[16]
[1]〜[15]のいずれか1項に記載のポリマー組成物を含むノイズ抑制シート。
[17]
前記ノイズ抑制シートの少なくとも一方の表面上に積層される粘着層をさらに有する、[16]に記載のノイズ抑制シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い周波数領域において発生する不要な電磁波を効果的に抑制することができるポリマー組成物を提供することができる。本発明のポリマー組成物から構成されるノイズ抑制シートは、高周波領域の不要な電磁波を有効に抑制することができるとともに、難燃性及び優れた柔軟性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施の形態のポリマー組成物は、(イ)高分子有機材料を100質量部と、(ロ)六方晶フェライトを110質量部〜4900質量部と、(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を1質量部〜5質量部と、を含むポリマー組成物である。
【0014】
本実施の形態で用いられる(イ)高分子有機材料は、特に限定されるものではないが、たとえば、フッ素ゴム、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。(イ)高分子有機材料として、分子鎖中にフッ素原子を有する高分子有機材料を用いることにより、難燃性、耐薬品性、低吸水性、及び誘電特性に優れるポリマー組成物とすることができる。
(イ)高分子有機材料としては、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
フッ素ゴムとしては、たとえば、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系ゴム等が挙げられる。
【0016】
フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーとしては、たとえば、ブロック型とグラフト型との2種類のフッ素ゴム系熱可塑性エラストマーが挙げられ、これら2種類のいずれをも使用することができる。フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーとして、好ましくはブロック型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーが用いられる。
【0017】
ブロック型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーは、フッ素系モノマーのラジカル重合において、ヨウ素化合物が示す特異な連鎖移動反応挙動(テロメリゼーション)を利用して、フッ素ゴム(ソフトセグメント)とフッ素樹脂(ハードセグメント)とがトリブロック結合したABA型熱可塑性エラストマーである。これらのソフトセグメント鎖とハードセグメント鎖は、一分子中で強固に結合しており、ソフトセグメントをハードセグメントで化学結合により補強する構造をとっている。また、ゴムと樹脂との両方の性格を有しており、熱可塑性を有しているため、架橋を経なくとも成形が可能であり、その成形体はゴム弾性を有している。
ソフトセグメントを構成するモノマーとしては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、及びヘキサフルオロプロピレン等が挙げられ、ソフトセグメントとしては、たとえば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド三元共重合体等が挙げられる。
ハードセグメントを構成するモノマーとしては、フッ化ビニリデン、エチレン、及びテトラフルオロエチレン等が挙げられ、ハードセグメントとしては、ビニリデンフルオロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、3,3,3−トリフルオロプロピレン−1、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピレン、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0018】
ブロック型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーは、−(ABA)n−として表すことができ、Aは樹脂相を、Bはゴム相を意味し、nは、1以上の整数を意味する。
【0019】
グラフト型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーは、フッ素ゴム(ソフトセグメント)へフッ素樹脂(ハードセグメント)をグラフト重合したもの、あるいは、フッ素樹脂(ハードセグメント)へフッ素ゴム(ソフトセグメント)をグラフト重合したものが挙げられ、これらのいずれをも用いることができる。
ソフトセグメントを構成するモノマーとしては、たとえば、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、プロピレン、及び含フッ素ビニルエーテル等が挙げられ、ソフトセグメントとしては、たとえば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド三元共重合体等が挙げられる。
ハードセグメントを構成するモノマーとしては、フッ化ビニリデン、エチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、及び含フッ素ビニルエーテル等が挙げられ、ハードセグメントとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン三元共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン三元共重合体、エチレン−トリクロロフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルキルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、3,3,3−トリフルオロプロピレン−1、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロピレン、及びパーフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
フッ素樹脂としては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、及びテトラフルオロエチレン−プロピレンン共重合体等が挙げられる。
【0021】
(イ)高分子有機材料として、上記のフッ素ゴム、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以外の高分子有機材料を含んでいてもよい。このような高分子有機材料としては、たとえば、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、及び塩素化ポリエチレン等の天然ゴム及び合成ゴム、並びにエチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−エチルアクリレート共重合体等の樹脂が挙げられる。これらのゴム及び樹脂は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本実施の形態において六方晶フェライトとは、c面内、c軸方向で磁気異方性を有することによって高い共鳴周波数を示す結晶格子が六角柱状の形態をとるフェライトを意味する。
一般的に、六方晶フェライトは組成や構造の違いによって、M型、Z型、Y型、W型、X型、又はU型に分類される。
【0023】
本実施の形態で用いられる(ロ)六方晶フェライトとしては、特に限定されるものではないが、たとえば、不要な電磁波(ノイズ)を抑制する効果、すなわち、電磁波吸収特性の観点から、下記一般式(1)〜(3)で表されるM型、Z型、及びY型の六方晶フェライトからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
(M型)BaMXFe(12-X)19 (1)
(Z型)Ba3MβFe2441 (2)
(Y型)Ba22Fe1222 (3)
上記一般式(1)〜(3)中、MはTi、Co、Ni、Zn、Mn、及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、上記一般式(1)中、Xは0〜12の整数であり、上記一般式(2)中、βは0.1≦β≦20の正数である。
上記一般式(1)〜(3)中のBaの一部又は全てがSrで置換されていてもよい。
【0024】
(ロ)六方晶フェライトが上記一般式(1)で表されるM型六方晶フェライトを含み、上記一般式(1)においてXは2である場合、Fe成分とM成分のモル比をFe成分:M成分=10:α’で表すとき、α’は1.0≦α’≦6.4の範囲内の正数であることが好ましく、下記一般式(4)で表されるM型六方晶フェライトであることが好ましい。
(M型)Ba(Mα)2Fe1019 (4)
上記一般式(4)中、MはTi、Co、Ni、Zn、Mn、及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、αは0.5≦α≦3.2の範囲内の正数であることが好ましい。
一般式(4)において、αが0.5以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物とすることができ、αが3.2以下であることにより、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができる。
【0025】
上記一般式(1)又は一般式(4)中のMは、ノイズ抑制効果の観点から、少なくともCoを含んでいることが好ましく、より好ましくはTiとCoの組み合わせであり、さらに好ましくはTi、Co、及びZnの組み合わせである。
【0026】
上記一般式(1)又は一般式(4)中のMが、Ti、Co、及びZnの組み合せである場合、下記一般式(5)で表されるM型六方晶フェライトであることが好ましい。
Ba(TiACoBZnC2Fe1019 (5)
上記一般式(5)中のAは0.3≦A≦1.5の範囲内の正数であり、Bは0.1≦B≦1.0の範囲内の正数であり、かつCは0.1≦C≦0.7の範囲内の正数であることが好ましい。A、B、及びCの各々の範囲が下限値以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物とすることができ、各々の範囲が上限値以下であることにより、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができる。
【0027】
(ロ)六方晶フェライトが上記一般式(2)で表されるZ型六方晶フェライトを含む場合、Fe成分とM成分のモル比をFe成分:M成分=24:βで表すとき、βは0.5≦β≦2.6の範囲内の正数であることが好ましい。βが0.5以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物とすることができ、βが2.6以下であることにより、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができる。
【0028】
上記一般式(2)中のMは、ノイズ抑制効果の観点から、少なくともCoを含んでいることが好ましく、より好ましくはCoとZnの組み合わせである。上記一般式(2)中のMがCoを含む場合、さらには、MがCoとZnを含む場合、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数が高くすることができるとともに、ノイズ抑制効果も大きくすることが可能となる。
【0029】
上記一般式(2)中のMがCoとZnの組み合わせである場合、下記一般式(6)で表されるZ型六方晶フェライトであることが好ましい。
Ba3CoDZnEFe2441 (6)
上記一般式(6)中のDは0.4≦D≦2.0の範囲内の正数であり、かつEは0.1≦E≦1.0の範囲内の正数であることが好ましい。D及びEの各々の範囲が下限値以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物とすることができ、各々の範囲が上限値以下であることにより、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができる。
【0030】
(ロ)六方晶フェライトが上記一般式(3)で表されるY型六方晶フェライトを含む場合、上記一般式(3)中のMは、ノイズ抑制効果の観点から、Znを含んでいることが好ましい。上記一般式(3)中のMがZnを含むことによって、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができるとともに、ノイズ抑制効果も大きくすることが可能となる。
【0031】
上記一般式(3)中のMがZnの場合、下記一般式(7)で表されるY型六方晶フェライトであることが好ましい。
Ba2(ZnF2Fe1222 (7)
上記一般式(7)中のFは0.35≦F≦1.35の範囲内の正数であることが好ましい。Fが0.35以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物とすることができ、Fが1.35以下であることにより、ノイズ抑制効果が最大となる共鳴周波数を高くすることができる。
【0032】
本実施の形態で用いられる(ロ)六方晶フェライトの構造は、蛍光X線分析(XRF)によって特定することができる。具体的には、波長分散型蛍光X線分析装置を用い、Fundamental Parameter法による定量分析により測定することができる。
【0033】
(ロ)六方晶フェライトの粒子形状は、特に限定されるものではないが、粉末状、球状、板状、及び扁平状等が挙げられる。
【0034】
(ロ)六方晶フェライトの形状が粉末状である場合、(ロ)六方晶フェライトの粉末粒子の平均粒径は、好ましくは1μm〜50μmであり、より好ましくは1μm〜10μmである。平均粒径が1μm以上であることにより加工時の作業性を高めることができ、平均粒径が50μm以下であることによりポリマー組成物をシート化する際の加工性を高めることができ、引張強度や柔軟性等に優れるノイズ抑制シートとすることができる。
【0035】
(ロ)六方晶フェライトとして、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
2種以上を組み合わせて用いる場合には、平均粒径の大きい六方晶フェライトと、平均粒径の小さい六方晶フェライトとを組み合せる等、粒径の異なる少なくとも2種以上の六方晶フェライトを組み合わせて用いることもできる。平均粒径の異なる六方晶フェライトを組み合せて、(イ)高分子有機材料と混合した場合に、混合物中の(ロ)六方晶フェライトの粒子間の空隙を減らすことができる。また、(イ)高分子有機材料に対する(ロ)六方晶フェライトの充填率を高くすることができる。
本実施の形態において、(ロ)六方晶フェライトを組み合わせて用いることにより、ポリマー組成物のノイズ抑制効果を向上させることが可能となる。
【0036】
(ロ)六方晶フェライトの粒子形状が球状である場合、加工性が容易となる。
【0037】
六方晶フェライトの粒子形状が板状又は扁平状である場合、ポリマー組成物をシート化する場合において、(ロ)六方晶フェライトを容易に配向することができる。シート表面に対して平行な方向に板状又は扁平状の(ロ)六方晶フェライトを配向させることができれば、得られたノイズ抑制シートのノイズ抑制効果を容易に向上させることができ、シート厚みを薄くすることが可能となる。
【0038】
(ロ)六方晶フェライトが板状又は扁平状の場合、(ロ)六方晶フェライトの粒子の厚みは、好ましくは0.05μm〜5μmであり、より好ましくは0.1μm〜1μmである。(ロ)六方晶フェライトの粒子の厚みが0.05μm以上であることにより、(イ)高分子有機材料との混合等の加工時に受ける機械的な応力によって(ロ)六方晶フェライトの板状又は扁平状の形状を維持することができる。(ロ)六方晶フェライトの粒子の厚みが5μm以下であることにより、シートの厚みを薄くすることが可能となる。
【0039】
(ロ)六方晶フェライトの比表面積は、好ましくは、0.3m2/g〜2m2/gである。比表面積が0.3m2/g以上であることにより、柔軟性に優れるノイズ抑制シートとすることができ、比表面積が2m2/g以下であることにより、(イ)高分子有機材料と(ロ)六方晶フェライトを混合する際の加工性を高めることできる。また、(イ)高分子有機材料に対する(ロ)六方晶フェライトの充填率を高くすることができるので、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物を得ることができる。
【0040】
(ロ)六方晶フェライトの表面をカップリング剤で処理してもよい。六方晶フェライトの表面をカップリング剤で処理することによって、(イ)高分子有機材料と(ロ)六方晶フェライトとの相溶性を向上することができ、(ロ)六方晶フェライトの加工性、分散性を容易に向上することができる。
(ロ)六方晶フェライトをカップリング剤で処理する方法としては、特に限定されるものではないが、機械的又は化学的な方法によって、あらかじめ(ロ)六方晶フェライトの表面にカップリング剤を処理する方法や、(イ)高分子有機材料と(ロ)六方晶フェライトを混合する際に、カップリング剤を同時に混合することによって、(ロ)六方晶フェライト表面にカップリング剤を処理する方法等が挙げられる。
【0041】
本実施の形態で用いられるカップリング剤としては、たとえば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、及びイソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート等のチタン系カップリング剤:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシ−プロピルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシ−シクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)ウレア、メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシララン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ポリアルキレンオキサイドシラン類、及びパーフルオロアルキルトリメトキシシラン類等のシランカップリング剤:アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートのようなアルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、クロム系カップリング剤、鉄系カップリング剤、及びスズ系カップリング剤:等が挙げられる。カップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(ロ)六方晶フェライトの配合量は、(イ)高分子有機材料100質量部に対して、110質量部〜4900質量部である。
(ロ)六方晶フェライトの配合量は、好ましくは330質量部〜1900質量部であり、より好ましくは450質量部〜1000質量部である。(ロ)六方晶フェライトの配合量が110質量部以上であることにより、ノイズ抑制効果が大きいポリマー組成物を得ることができる。(ロ)六方晶フェライトの配合量が4900質量部以下であることにより、加工性に優れるポリマー組成物とすることができ、また、シート化した場合に、柔軟性に優れるシートとすることができる。
【0043】
本実施の形態で用いられる(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種としては、特に限定されるものではなく、(イ)高分子有機材料と相溶性を有するとともに、(イ)高分子有機材料に滑性を付与する効果や、潤滑剤としての効果、又は(ロ)六方晶フェライトの分散性を改善する効果等を有するものであれば、使用する(イ)高分子有機材料に応じて適宜選択することができる。
【0044】
脂肪酸エステル及び脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数3〜30の直鎖又は分岐の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸が挙げられ、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、アラキジン酸、及びアラキドン酸等が挙げられる。上記脂肪酸は、化合物中、1種でもよく、2種以上の混合物として含まれていてもよい。
脂肪酸エステルを構成するアルコールとしては、たとえば、炭素数10以下の直鎖状、分岐状、又は環状の低級アルコール等を挙げることができる。
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、たとえば、Zn、Na、Mg、Ca、Co、Ni、Ba、Fe、Al、Cu、及びMnから選ばれる少なくとも1種である。
【0045】
有機シリコーン系化合物としては、たとえば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル等のシリコーンオイル、エポキシ、アルキル、アルキルアラルキシ、アミノ、カルボキシル、アルコール、フッ素、アルキルアラルキシポリエーテル、及びポリエーテル等で各々変性された変性シリコーン化合物、フロロシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。
【0046】
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0047】
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物は、キャリアーとしての無機化合物粉体を含んでいてもよく、無機化合物粉体に、(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物が担持されていることが好ましい。
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物が、無機化合物粉体に担持されていることにより、(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の分散性をポリマー組成物において向上させることができる。
【0048】
無機化合物粉体としては、ポリマー組成物の物性やノイズ抑制効果等に影響を及ぼさないものであれば特に限定されるものではない。
無機化合物粉体としては、たとえば、シリカ、タルク、クレー、ケイ酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、及び珪藻土等が挙げられる。
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物が無機化合物粉体を含む場合、無機化合物粉体の含有量は、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物と、無機化合物粉体との合計質量に対して、5質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることがより好ましい。
無機化合物粉体の含有量が5質量%以上であることにより、キャリアーとしての効果を発揮させることができ、加工性を高めることができ、50質量%以下であることにより、(イ)高分子有機材料に対する(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の滑性効果や無機化合物粉体の加工助剤としての効果を発揮させることができる。
【0049】
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の配合量は、(イ)高分子有機材料100質量部に対して、1質量部〜5質量部である。
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の配合量は、好ましくは1質量部〜5質量部であり、より好ましくは1質量部〜3質量部である。(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の配合量が1質量部以上であることにより、加工性や押出成形性を向上することができる。(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン系化合物の配合量が5質量部以下であることにより、コストと性能の観点から、容易に、ノイズ抑制効果を維持することができる。
【0050】
本実施の形態のポリマー組成物は、(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末は、1種で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0051】
軟磁性フェライトとしては、たとえば、MnFe24、CoFe24、NiFe24、CuFe24、ZnFe24、MgFe24、Fe34、Cu−Znフェライト、Ni−Znフェライト、及びMn−Zn−フェライト等が挙げられる。
軟磁性合金粉末としては、たとえば、Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、及びFe−Pt等が挙げられる。軟磁性合金粉末としては、ノイズ抑制効果の観点から、ケイ素鋼、パーマロイ、及びセンダストが好ましい。
軟磁性フェライトや軟磁性合金粉末をポリマー組成物がさらに含むことにより、ポリマー組成物が抑制することのできる電磁波の周波数領域を広げることが可能となる。
【0052】
熱伝導性粉末としては、たとえば、シリカ、酸化チタン、ジルコニア、ベンガラ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、黒鉛、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ベリリア、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、グラファイト、及びカーボンブラック等の無機化合物系粉末、並びに銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、鉄、錫、ステンレス鋼、及び銅合金等の金属粉末等を挙げることができる。
熱伝導性粉末をポリマー組成物がさらに含むことにより、ノイズ抑制効果と熱伝導性の両方の性能を兼ね備えるポリマー組成物とすることが可能となる。
熱伝導性粉末としては、熱伝導性の観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び酸化亜鉛が好ましい。
【0053】
導電性粉末としては、たとえば、銅、銀、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、及びステンレス鋼等の金属粉末、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、導電性酸化亜鉛、導電性酸化チタン、及び酸化インジウム等の無機化合物粉末、並びにステンレス繊維等の金属繊維フィラー等が挙げられる。
導電性粉末をポリマー組成物がさらに含むことにより、ノイズ抑制効果と導電性の両方の性能を兼ね備えるポリマー組成物とすることが可能となる。
導電性粉末としては、導電性及び作業性の観点から、導電性カーボンブラック及び導電性酸化亜鉛が好ましい。
【0054】
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量は、(イ)高分子有機材料100質量部に対して、7質量部〜2400質量部であり、かつ、(ロ)六方晶フェライトの配合量と、(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量と、の合計が、(イ)高分子有機材料100質量部に対して、117質量部〜5100質量部であることが好ましい。
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量が7質量部以上であることにより、該(ニ)の有する所望の性能を十分に得ることができ、2400質量部以下であることにより、高い周波数領域におけるノイズ抑制効果を高くすることができる。
(ロ)六方晶フェライトの配合量と、(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量と、の合計が117質量部以上であることにより、ノイズ抑制効果を高くすることができ、また、(ロ)六方晶フェライト及び該(ニ)の有する所望の性能を十分に得ることができ、5100質量部以下であることにより、作業性、加工性を高くすることができ、柔軟性に優れるノイズ抑制シートとすることができる。
【0055】
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量は、(ロ)六方晶フェライトの配合量と(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量との合計重量に対して、3質量%〜55質量%であることが好ましく、5質量%〜50質量%であることがより好ましい。(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末の配合量が、3質量%以上であることにより、該(ニ)の有する所望の性能を十分に得ることができ、55質量%以下であることにより、十分なノイズ抑制効果を得ることができる。
【0056】
本実施の形態において、ポリマー組成物に難燃性を付与することを目的として、有機ハロゲン化物、金属水酸化物、及びりん化合物等の難燃剤を配合してもよい。
難燃剤としては、たとえば、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモベンジルフェニルエーテル、デカブロモベンジルフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノール、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモビスフェノールA、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリアリルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、含ハロゲン縮合りん酸エステル、ホスファゼン、塩化パラフィン、パークロロペンタシクロデカン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ほう酸亜鉛、臭化アンモニウム、及びりん酸チタン等が挙げられる。
【0057】
本実施の形態において、ポリマー組成物には、軟化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄又はその他の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等の添加剤を、必要に応じて適宜配合することができる。
【0058】
本実施の形態のポリマー組成物は、上記(イ)〜(ハ)の各成分及び必要に応じて上記(イ)〜(ハ)以外の他の成分を加圧ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押し出し機、一軸押し出し機、及びロールミキサー等の混練機を用いて混練することにより製造することができる。
【0059】
本実施の形態のノイズ抑制シートは、ポリマー組成物を含むノイズ抑制シートである。
ノイズ抑制シートは、ポリマー組成物を射出成形、トランスファー成形、プレス成形、Tダイ押し出し成形、カレンダー成形、及びロール圧延等の方法によりシートとすることにより製造することができる。これらの成形加工は必要に応じて、磁場又は電場存在下で行ってもよく、超音波、電磁波、又は紫外線を照射しながら行ってもよい。
【0060】
本実施の形態のポリマーの組成物を溶剤と混合して均一に分散させた後に、支持体に塗布、乾燥させることによってノイズ抑制シートを形成してもよい。ポリマー組成物を溶剤と混合して均一に分散させて得られるワニスを布、紙、ガラスクロス等の繊維状シートに含浸させた後、溶剤を揮発させることによって、繊維状シートとポリマー組成物の複合体としてノイズ抑制シートを製造してもよい。
【0061】
ノイズ抑制シートは、ノイズ抑制シートの少なくとも一方の表面上に粘着層を積層して有していてもよい。ノイズ抑制シートが少なくとも一方の表面上に粘着層をさらに有することによって、容易に所望の個所に貼り付けることができる。
ノイズ抑制シートの少なくとも一方の表面上に粘着層を積層する方法としては、特に限定されるものではなく、両面テープをノイズ抑制シート表面に貼り付ける方法や、粘着剤をノイズ抑制シート表面に塗布する方法、あらかじめ粘着剤を塗布したシート又はフィルムとノイズ抑制シートを貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0062】
ノイズ抑制シートの厚みは、0.05mm〜3mmであることが好ましい。ノイズ抑制シートの厚みが0.05mm以上であることにより、ノイズ抑制効果を高くすることができ、3mm以下であることにより、電子機器等の小型化が要求される対象物に適用する上で好適である。
【0063】
本実施の形態のポリマー組成物及び該ポリマー組成物を含むノイズ抑制シートは、高い周波数領域における電磁波を有効に抑制することができる。
本実施の形態において、高い周波数領域とは1GHz以上の領域を意味し、特に、2.5GHz以上の領域を意味し、本実施の形態のポリマー組成物及びノイズ抑制シートは、高い周波数領域において顕著に電磁波を抑制するという効果を示す。
【実施例】
【0064】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
表1〜表4に、実施例及び比較例で使用した各材料を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
(実施例1〜5及び7〜31及び比較例1〜5)
表5〜9に示す配合処方にしたがい、60ccラボプラストミル(東洋精機(株)製)を用いて、100℃の条件下で20分間混練して、ポリマー組成物を得た。
そして、得られたポリマー組成物を、プレス成型機を用いて、180℃、10MPaの条件下でプレス成型し、厚み2mmのポリマー組成物のシートを得た。
【0071】
(実施例6)
表5に示す配合処方にしたがい、150℃の条件下で30分間混練した以外は、実施例1と同様にしてポリマー組成物及びシートを得た。
【0072】
実施例及び比較例で得られた各シートを用いて、下記(1)〜(5)に示す方法で評価を行った。評価結果を表5〜9に示す。
【0073】
(1)第1のノイズ抑制効果の評価
第1のノイズ抑制効果の評価は、Transmission attenuation power ratio法に従い、測定した。具体的には、線路幅2.2mm、特性インピーダンス50Ωのマイクロスプリットライン(MSL)上に、MSL基板サイズである幅100mm、縦50mmのシートを用いて基板全体を覆い、ネットワークアナライザーを用いてS11,S21のSパラメータ値を求め、下記式(1)により、5GHz及び10GHzにおける各シートの電磁波吸収量(R)を求めた。
(R)=10×log〔10S21/10/(1−10S11/10)〕[dB] (1)
【0074】
(2)第2のノイズ抑制効果の評価
第2のノイズ抑制効果の評価は、Sパラメータ方式反射法同軸管タイプを用いて測定した。具体的には、サンプルを挿入しない空の状態で、ネットワークアナライザーを用いてS11パラメータ値を測定して、S11(標準)とした。次に、外形7mm、内径3mmのリング状の試験片を同軸菅に隙間が生じないよう挿入し、この同軸菅の端を短絡させた状態で各シートのS11パラメータを測定して、S11(試験片)とた。下記式(2)から各シートの反射減衰量を算出した。反射減衰量が最大となる周波数及びこの周波数での反射減衰量を、ピーク周波数及びピーク周波数での反射減衰量として求めた。
〔反射減衰量〕=〔S11(試験片)〕−〔S11(標準)〕[dB] (2)
【0075】
(3)柔軟性試験
10cm四方の組成物シートを図1に示すように曲げ半径が2cmとなるよう折り曲げ、折り曲げてから30秒後に手を離してシートの状態を観察した。亀裂の発生などがなく、折り曲げる前の元の状態に復元されていれば○とし、亀裂が発生し、元の状態に復元しなければ×とした。
【0076】
(4)燃焼性試験
長さ125mm、幅13mm、厚み0.5mmの短冊状の試験片にガスバーナーの炎を10秒間接炎した後、ガスバーナー炎を試験片から離して、燃焼時間を測定した。消炎後、直ちに、再び試験片にガスバーナー炎を10秒間接炎した後、ガスバーナー炎を試験片から離して、燃焼時間を測定した。1回目と2回目の有炎燃焼時間及び無炎燃焼時間の合計が10秒以内であれば○とし、10秒を超えた場合は×とした。
【0077】
(5)熱伝導率
熱伝導率は、迅速熱伝導率測定計 KEMTHRM QTM−D3型(京都電子工業製)を用いて測定した。具体的には、熱伝導率が既知の標準試料の上に測定対象であるシート試料を載せて、標準試料とシートを併せた全体の熱伝導率(Q1)を測定した。基準試料の熱伝導率を(Q2)として、下記式(3)から偏差(ε)を求め、偏差(ε)をlog(Q2)に対してプロットして、偏差(ε)がゼロになるときの熱伝導率を内挿により求めた。なお基準試料には、シリコーンゴム(Q2)=0.241(W/m・K)、ゴム板(Q2)=0.536(W/m・K)、石英ガラス(Q2)=1.416(W/m・K)、ジルコニア(Q2)=3.277(W/m・K)を用いた。
(ε)=[(Q1)−(Q2)]/(Q2) (3)
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
表5に示すように、実施例1〜4では、六方晶フェライトの配合量が多くなるほど、ノイズ抑制効果が向上する傾向にあった。また、実施例5では、(ハ)として異なる種類の加工助剤を用いた場合も、ノイズ抑制効果、柔軟性、及び難燃性は良好な結果が得られた。さらに、実施例6及び7では、(イ)高分子有機材料の組成を変更した場合においても、ノイズ抑制効果、柔軟性、及び難燃性は良好であった。
一方、比較例1では、(ロ)六方晶フェライトの配合量が110質量部未満であるため、十分なノイズ抑制効果が得られなかった。また、比較例2では、(ロ)六方晶フェライトの配合量が4900質量部を超えているため、シートの柔軟性が損なわれてしまった。(ハ)を配合しない比較例3では、シートの柔軟性が劣っていた。
【0084】
表6に示すように、実施例9〜16では、(ロ)六方晶フェライトとして、異なる組成のM型六方晶フェライトを配合してもノイズ抑制効果、柔軟性、及び難燃性は良好な結果が得られた。なお、(ロ)M型六方晶フェライトの組成を変えることにより、反射減衰量が最大となる周波数(ピーク周波数)を変化することが確認できた。
【0085】
表7及び表8に示すように、実施例17〜25では、(ロ)六方晶フェライトとして、Y型六方晶フェライト及びZ型六方晶フェライトを配合した場合も、ノイズ抑制効果、柔軟性、及び難燃性は良好な結果が得られた。また、Y型六方晶フェライト及びZ型六方晶フェライトの組成をそれぞれ変更することによって、反射減衰量が最大となる周波数(ピーク周波数)を変化することが確認できた。
【0086】
表9に示すように、実施例26〜31では、(ニ)熱伝導性粉末を適当量配合することによって、ノイズ抑制効果、柔軟性、及び難燃性を低下させることなく、熱伝導率を向上させることができた。
一方、比較例4では、(ロ)六方晶フェライトの配合量が110質量部未満であるため、十分なノイズ抑制効果が得られず、また、(ロ)六方晶フェライトと(ニ)熱伝導性粉末の配合量の合計が117質量部未満であるため、熱伝導率の向上は見られなかった。また、比較例5では、(ロ)六方晶フェライトの配合量が4900質量部を超え、かつ(ロ)六方晶フェライトと(ニ)熱伝導性粉末の配合量の合計が5100質量部を超えているため、シートの柔軟性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、高い周波数領域での不要な電磁波を効果的に抑制することができるとともに、難燃性を有するポリマー組成物及びノイズ抑制シートを提供する。
本発明のポリマー組成物及びノイズ抑制シートは、パソコンや携帯電話等の電子機器に用いられる電子回路やCPU等の電子部材として産業上利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本実施の形態における柔軟性試験の評価方法を示す。
【符号の説明】
【0089】
1 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)高分子有機材料を100質量部と、
(ロ)六方晶フェライトを110質量部〜4900質量部と、
(ハ)脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、及び有機シリコーン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を1質量部〜5質量部と、を含むポリマー組成物。
【請求項2】
前記(イ)が、フッ素ゴム、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、及びフッ素樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル系ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーが、ブロック型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー及びグラフト型フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2又は3に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、及びテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記(ロ)が下記一般式(1)〜(3)で表されるM型、Z型、及びY型の六方晶フェライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
(M型)BaMXFe(12-X)19 (1)
(Z型)Ba3MβFe2441 (2)
(Y型)Ba22Fe1222 (3)
(上記一般式(1)〜(3)中、MはTi,Co,Ni,Zn,Mn,及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、上記一般式(1)中、Xは0〜12の整数であり、一般式(2)中、βは0.1≦β≦20の正数である。上記一般式(1)〜(3)中のBaの一部又は全てがSrで置換されていてもよい。)
【請求項7】
前記(ロ)が下記一般式(4)で表されるM型六方晶フェライトを含む、請求項6に記載のポリマー組成物。
Ba(Mα)2Fe1019 (4)
(上記一般式(4)中、MはTi,Co,Ni,Zn,Mn,及びCuからなる群から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、αは0.5≦α≦3.2の正数である。)
【請求項8】
前記(ロ)が下記一般式(5)で表されるM型六方晶フェライトを含む、請求項6又は7に記載のポリマー組成物。
Ba(TiACoBZnC2Fe1019 (5)
(上記一般式(5)中、Aは0.3≦A≦1.5の正数であり、Bは0.1≦B≦1.0の正数であり、Cは0.1≦C≦0.7の正数である。)
【請求項9】
前記(ロ)が前記一般式(2)で表されるZ型六方晶フェライトを含み、βが0.5≦β≦2.6の正数である、請求項6〜8のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記(ロ)が下記一般式(6)で表されるZ型六方晶フェライトを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
Ba3CoDZnEFe2441 (6)
(上記一般式(6)中、Dは0.4≦D≦2.0の正数であり、Eは0.1≦E≦1.0の正数である。)
【請求項11】
前記(ロ)が下記一般式(7)で表されるY型六方晶フェライトを含む、請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
Ba2(ZnF2Fe1222 (7)
(上記一般式(7)中、Fは0.35≦F≦1.35の正数である。)
【請求項12】
(ニ)軟磁性フェライト、軟磁性合金粉末、熱伝導性粉末、及び導電性粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種を7質量部〜2400質量部、さらに含み、かつ、
前記(ロ)と、前記(ニ)と、の合計が、117質量部〜5100質量部である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記軟磁性合金粉末がケイ素鋼、パーマロイ、及びセンダストからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
前記熱伝導性粉末が水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項12又は13に記載のポリマー組成物。
【請求項15】
前記導電性粉末が導電性カーボンブラック、及び導電性酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項12〜14のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリマー組成物を含むノイズ抑制シート。
【請求項17】
前記ノイズ抑制シートの少なくとも一方の表面上に積層される粘着層をさらに有する、請求項16に記載のノイズ抑制シート。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111812(P2010−111812A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286842(P2008−286842)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】