説明

ポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体およびその製造方法

【課題】 透明で、耐熱性に優れたポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体とその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とからなるポリ乳酸ステレオコンプレックスを成形してなる成形体であって、190℃以上での結晶融解熱量が20J/g以上であり、その割合が全結晶融解熱量の90%以上であり、ステレオコンプレックス由来の融点が205〜240℃の範囲にあり、荷重0.98MPaにおける熱変形温度が120℃以上であり、かつ3mm厚みで測定したヘーズが45%以下であることを特徴とするポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および透明性の改良されたポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保全に対する社会的要求の高まりに伴い、微生物などにより分解可能な生分解性を有し、コンポストでの堆肥化処理が可能な生分解性樹脂成形体が要望されている。
生分解性樹脂成形体を製造するための原料樹脂の中で、特にポリ乳酸は、各種でんぷんや糖類などを発酵して得られる乳酸を重合した植物由来の樹脂であり、最終的には再び炭酸ガスと水になって地球的規模で環境リサイクルされる理想的な樹脂として、各種用途に利用され始めている。
ポリ乳酸は他の生分解性樹脂に比べて透明性が高く強靭であるが、融点はおよそ170℃であり、汎用樹脂として用いるには、十分であるとは言い難く、さらなる耐熱性向上が要求されている。
【0003】
従来、L−乳酸単位のみからなるポリL−乳酸(PLLA)と、D−乳酸単位のみからなるポリD−乳酸(PDLA)とを溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが形成されることが知られている(特許文献1参照)。すなわち、ポリL−乳酸は左巻き螺旋構造を有するのに対し、ポリD−乳酸は右巻き螺旋構造を有するところから、これらを均一に混合すると、2成分間に立体特異的な結合が生じ、ポリL−乳酸あるいはポリD−乳酸単独の場合に形成される結晶構造よりも緊密、かつ強固な結晶構造(ステレオコンプレックス)を形成することが知られている。その結果、このようにして得られたポリ乳酸ステレオコンプレックスは、PLLAやPDLAホモポリマーに比べて高融点、高結晶性を示す。
【0004】
また、L−乳酸単位を70〜95モル%有する分子量20万程度の非結晶性ポリマーと、D−乳酸単位を70〜95モル%有する分子量20万程度の非結晶性ポリマーとを溶融ブレンドして、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを製造する方法も開示されている(特許文献2参照)。しかしその融点は194℃程度であり、耐熱性に改良の余地がある。
【0005】
さらに、L−乳酸単位を90〜99モル%有する結晶性PLLAと、D−乳酸単位を90〜99モル%有する結晶性PDLAとを溶融ブレンドして、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを製造することも開示されている(特許文献3参照)。しかし、このステレオコンプレックスを形成するには、270〜300℃の高温での溶融ブレンドが必要であり、この溶融ブレンド温度は、ほぼPLAの分解温度に相当するため、分解により分子量が低下したり、着色することがあった。
【0006】
以上のように、光学純度が70〜95モル%程度の非結晶性ポリL−乳酸と非結晶性ポリD−乳酸とを用いると、生産性には支障がないものの、高融点のポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られないという問題点があり、また、光学純度が100%に近い結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とを用いて高分子量のポリ乳酸ステレオコンプレックスを製造する方法では、樹脂の物性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特許第3610780号公報
【特許文献2】特許第3687354号公報
【特許文献3】特開2006−36808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、前記問題点を解決し、透明で、耐熱性に優れたポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこのような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体を成形後に熱処理することにより、透明性と耐熱性に優れたポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体が得られることを見出し、本発明に達した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とからなるポリ乳酸ステレオコンプレックスを成形してなる成形体であって、190℃以上での結晶融解熱量が20J/g以上であり、その割合が全結晶融解熱量の90%以上であり、ステレオコンプレックス由来の融点が205〜240℃の範囲にあり、荷重0.98MPaにおける熱変形温度が120℃以上であり、かつ3mm厚みで測定したヘーズが45%以下であることを特徴とするポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体。
(2)ポリ乳酸ステレオコンプレックスの成形が、射出成形、ブロー成形、押出成形、またはインフレーション成形であることを特徴とする(1)記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体。
(3)ポリ乳酸ステレオコンプレックスの成形後に、190〜210℃で熱処理することを特徴とする(1)または(2)記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性及び耐熱性に優れた、生分解性ポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体が提供される。この成形体は、例えば食品包装用途や農業用途等に適用することができ、廃棄する際にはコンポスト化可能であるので、ゴミの減量化、肥料としての再利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とを混合して形成されたものである。
上記結晶性ポリL−乳酸とは、L−乳酸90〜99モル%と、D−乳酸又はD−乳酸以外の共重合物1〜10モル%とから構成されるものであり、一方、結晶性ポリD−乳酸とは、D−乳酸90〜99モル%と、L−乳酸又はL−乳酸以外の共重合物1〜10モル%とから構成されているものである。
【0011】
結晶性ポリL−乳酸や結晶性ポリD−乳酸を構成する、L−乳酸やD−乳酸以外の共重合物としては、乳酸やラクチドと共重合が可能なオキシ酸、ラクトン、ジカルボン酸、多価アルコール等のモノマーや、また、これらモノマーから構成され、かつエステル結合形成性の官能基を有する各種ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等のポリマーを挙げることができる。
【0012】
結晶性ポリL−乳酸や結晶性ポリD−乳酸の重量平均分子量は8万〜30万であることが好ましく、9万〜25万であることがさらに好ましく、10万〜20万であることがより好ましい。重量平均分子量が8万未満であると、良好な強度の成形体を得ることができず、また、30万を超えると、成形性などが著しく低下するので好ましくない。
【0013】
本発明において、ポリ乳酸ステレオコンプレックスを構成する、結晶性ポリL−乳酸(PLLA)と結晶性ポリD−乳酸(PDLA)との質量比(PLLA/PDLA)は、特に限定されるものではないが、10/90〜90/10であることが好ましく、25/75〜75/25であることがさらに好ましく、40/60〜60/40であることがより好ましい。PLLA/PDLAがこの範囲を超えると、ホモ結晶化が優先してしまい、ステレオコンプレックスを形成し難くなるので好ましくない。
【0014】
ポリ乳酸ステレオコンプレックスを製造する方法としては、結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とを2軸押出機などを用いて混合溶融・混練する方法が挙げられる。溶融・混練温度は210〜230℃が好ましい。溶融・混練温度が210℃未満であると、ステレオコンプレックスの形成が不充分となり、230℃を超えると分解や着色がおきることがある。
【0015】
ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、構成する重合体成分種あるいは組成比、並びにそのステレオコンプレックスの調製条件、及び形成状態に応じて、通常は、ポリL−乳酸やポリD−乳酸に由来する190℃未満の結晶融解相と、ステレオコンプレックスに由来する190℃以上の結晶融解相との少なくとも2つの結晶融解相を示す。
【0016】
本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体は、示差走査熱量計(DSC)による昇温過程の測定おいて、190℃以上での結晶融解熱量が20J/g以上であり、その割合が全結晶融解熱量の90%以上であり、ステレオコンプレックス由来の融点が205〜240℃の範囲にあることが必要である。成形体の190℃以上の結晶融解熱量やその割合、ステレオコンプレックス由来の融点の範囲が上記範囲外であると、成形体は耐熱性が劣り、荷重0.98MPaにおける熱変形温度を120℃以上とすることができない。
また、本発明のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体は、3mm厚みで測定したヘーズが45%以下であることが必要である。成形体のヘーズが45%を超えると、成形体の透明性が劣るので、好ましくない。
【0017】
本発明の成形体は、下記製造方法によって製造することができる。
上記方法によって結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とから調製したポリ乳酸ステレオコンプレックスを用いて、これを、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形などの成形法によって、成形体を製造する。成形温度は220〜240℃であることが好ましく、成形時間は、30〜60秒であることが好ましい。成形温度が240℃を超えると、分解や着色がおきることがあり、220℃未満であると、ステレオコンプレックスを溶融することが困難であり、成形することができない。
次いで、得られた成形体を190〜210℃で熱処理を行なう。この熱処理を施すことによって、成形体の結晶化を進行させることができるので、成形体の190℃以上の結晶融解熱量やその割合などを本発明の範囲とすることできる。そして、その結果、得られた成形体は耐熱性が優れ、熱変形温度を120℃以上とすることができる。なお、熱処理時間は30〜90分であることが好ましい。
上述のように、本発明では、210〜230℃で溶融・混練したステレオコンプレックスを用いて、これを220〜240℃で成形した後、190〜210℃で熱処理することによって成形体を製造する。したがって、ステレオコンプレックスや成形体をポリ乳酸の分解温度付近まで加熱することがないので、ポリ乳酸の分解による着色を防ぐことができ、透明性に優れ、3mm厚みで測定したヘーズが45%以下である成形体を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。また、実施例における測定、評価は、下記の方法で行った。
(1)熱特性:
パーキンエルマー社製パイリス(pyris)1を用い、昇温速度20℃/分で自動計測したDSC曲線より、結晶融解熱量や融点を求めた。これより190℃以上の結晶融解熱量の割合を算出した。
(2)熱変形温度:
ASTM規格D−648に準拠し、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片を用いて、荷重0.98MPaで熱変形温度を測定した。
(3)曲げ強度、弾性率:
ASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片を用いて、ASTM−790に準じて変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ破断強度を測定した。
(4)透明性:
日本電色社製ヘーズメーター(NDH 2000)を用い、JIS K 7105に準じて、厚さ3mmの成形体のヘーズの測定を行った。
【0019】
実施例1
ポリL−乳酸(カーギル・ダウ社製、ネーチャーワークス、D体含有率1.0モル%、残留ラクチド量0.2質量%、重量平均分子量20万)50質量%と、ポリD−乳酸(カーギル・ダウ社製、ネーチャーワークス、L体含有率1.0モル%、残留ラクチド量0.2質量%、重量平均分子量20万)50質量%とを、2軸混練押出機(池貝製二軸押出成形機PCM−30、ダイス直径4mm×3孔、押出ヘッド温度220℃)を用いて溶融混練し、水中にストランド状に押し出しカッティングすることにより、ステレオコンプレックスチップを作製した。得られたステレオコンプレックスチップは、透明なアモルファス状態であった。DSC測定を行ったところ、170℃にホモポリマーの融点、210℃にステレオコンプレックスの融点が観察された。
得られたステレオコンプレックスチップを、射出成形機(東芝機械社製IS−80G型)を用いて、シリンダ温度230℃、金型温度10℃、射出圧60%、射出時間20秒、冷却時間20秒、インターバル2秒の条件で、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片用金型を用いて射出成形して、成形体を得た。
次にこの成形体をASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片用プレス金型に入れ、200℃に加熱した熱プレス成形機にて0.1MPaにて60分間熱処理を行い、さらに冷却プレスにて冷却し、厚さ3mmの成形体を得た。
【0020】
実施例2、比較例1、2
表1に記載した温度にて熱処理した以外は実施例1と同様にして成形体を得た。
【0021】
実施例3、比較例3
ポリL−乳酸とポリD−乳酸の質量比率を表1に記載した比率に変更した以外は実施例1と同様にしてステレオコンプレックスチップや成形体を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に得られた成形体の特性を示した。
実施例1〜3で得られた成形体は、透明性を有し、耐熱性に優れるものであった。
一方、比較例1では熱処理温度が低いため、得られた成形体は190℃以上での結晶融解熱量の割合が低く、耐熱性に劣るものであり、また、ステレオコンプレックスの含有量が低いため、透明性に劣るものであった。
比較例2では熱処理温度が高いため、得られた成形体は190℃以上での結晶融解熱量の割合が低く、耐熱性に劣るものであり、また透明性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリL−乳酸と結晶性ポリD−乳酸とからなるポリ乳酸ステレオコンプレックスを成形してなる成形体であって、190℃以上での結晶融解熱量が20J/g以上であり、その割合が全結晶融解熱量の90%以上であり、ステレオコンプレックス由来の融点が205〜240℃の範囲にあり、荷重0.98MPaにおける熱変形温度が120℃以上であり、かつ3mm厚みで測定したヘーズが45%以下であることを特徴とするポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体。
【請求項2】
ポリ乳酸ステレオコンプレックスの成形が、射出成形、ブロー成形、押出成形、またはインフレーション成形であることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体。
【請求項3】
ポリ乳酸ステレオコンプレックスの成形後に、190〜210℃で熱処理することを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸ステレオコンプレックス成形体の製造方法。

【公開番号】特開2008−163111(P2008−163111A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352205(P2006−352205)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】