説明

ポリ乳酸ナノファイバー

【課題】耐熱性が向上した生態的合成樹脂からなる微細繊維とその安定した品質でかつ安価な製造方法を提供する。
【解決手段】L−乳酸単位70〜99モル%と,D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位A、D−乳酸単位70〜99%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位B、とを10:90〜90:10の重量比でブレンドし、ステレオコンプレックス結晶化した生体適合性の熱可塑性樹脂を島成分とする海島繊維であって、海部溶割後の島多平均繊維径が10〜1000nmの微細繊維束からなる繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸ステレオコンプレックスからなるナノファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、地球環境保全の見地から、土中や水中に存在する微生物の作用により自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目されており、様々な生分解性ポリマーが開発されている。これらのうち溶融成形が可能な生分解性ポリマーとして、例えばポリヒドロキシブチレートやポリカプロラクトン、コハク酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分と、エチレングリコールやブタンジオールなどのグリコール成分とからなる脂肪族ポリエステルおよびポリ乳酸などがよく知られている。
【0003】
なかでもポリ乳酸は、比較的コストが安く、融点もおよそ170℃と耐熱性を有していることから、溶融成形可能な生分解性ポリマ−として期待されている。また、最近ではモノマーである乳酸が微生物を利用した発酵法により安価に製造されるようになり、より一層低コストでポリ乳酸を生産できるようになってきたため、生分解性ポリマーとしてだけでなく、汎用ポリマーとしての利用も検討されるようになってきた。
【0004】
さらに、ポリ−L−乳酸(以下、PLLAと称する)とポリ−D−乳酸(以下、PDLAと称する)を混合することにより、ポリ乳酸ステレオコンプレックスが得られることが知られており、このことについては特開昭61−36321号公報、特開昭63−241024号公報、Macromolecules,24,5651(1991)および特開2000−17163号公報などに記載されている。そして、ポリ乳酸ステレオコンプレックスは、高融点および高結晶性を示し、繊維やフィルム、樹脂成形品として有用な成形品を与えることが知られている。
【0005】
また一方で近年、人毛の1000分の1以下に相当する太さのナノファイバー繊維束が開発されており、従来の繊維技術の延長では不可能とされた細さを実現し多くの特徴的性質が見いいだされ、産業上の利用が大きく期待されている。
【0006】
中でも表面積の増大に伴う性能変化は、従来の合成繊維製造法の延長上では発見できなかった性質で、色々な物質の吸着や集塵、濾過、繊維表面での物質交換や化学反応などを行う事が可能となっている。
【0007】
しかしながら従来のナノファイバーは汎用合成繊維に用いられる一般的な高分子材料で、自然界で分解されにくく環境に配慮されたものであるとは言いがたい。そのため耐熱性が高められたポリ乳酸ステレオコンプレックスからなる生分解性ポリ乳酸ナノファイバー及びその製造技術の開発が大いに望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−36321号公報
【特許文献2】特開昭63−241024号公報
【特許文献3】特開2000−17163号公報
【非特許文献1】Macromolecules,24,5651(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、高分子量かつ高融点を有するポリ乳酸からなる繊維径1000nm以下のナノファイバー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、即ち、本発明によれば、
下記要件を満足するポリ乳酸ナノファイバー
1)繊維軸に直交する断面における平均繊維径が10〜1000nmであること。
2)ポリ乳酸が、
(A)L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位A
(B)D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位B
とを、(A):(B)=10:90〜90:10の重量比でブレンドされたものであること。
3)ポリ乳酸単位Atoポリ乳酸単位Bがポリ乳酸ステレオコンプレックスを形成していること。
が提供される。
【0011】
ここでポリ乳酸ナノファイバー単糸の引張強度が1.5cN/dtex以上であることが好ましい。又島成分が特定のポリ乳酸からなる海島型複合繊維とし、海成分を溶解除去してナノファイバーとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明ポリ乳酸ナノファイバーは、繊維直径の平均値が10〜1000nmで且つ高耐熱性、高強度となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明における繊維の形態としては、短繊維、マルチフィラメント、紡績糸のいずれも含まれるが、取扱い性の観点からマルチフィラメントが好ましい。
【0014】
本発明のポリ乳酸ナノファイバーは、
(A)L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位A
(B)D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位B
とを、(A):(B)=10:90〜90:10の重量比でブレンドされた組成を持つポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーであり、10〜1000nmの平均繊維直径をもつ。
【0015】
本発明におけるポリ乳酸単位Aは、L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とで構成されたポリ乳酸である。L−乳酸単位が70モル%未満となると、結晶性のポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーが得られにくくなる。一方、L−乳酸単位が99モル%を超えるとポリ乳酸単位Aが結晶性のものとなり好ましくない。
【0016】
ポリ乳酸単位Bは、D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とで構成されたポリ乳酸である。ポリ−D−乳酸におけるD−乳酸単位が70モル%未満となり、L−乳酸単位が30モル%を超えると、結晶性のポリ乳酸ステレオコンプレックスポリマーが得られにくくなる。一方、D−乳酸単位が99モル%を超えるとポリ乳酸単位Bが結晶性のものとなり好ましくない。
【0017】
ポリ乳酸単位Aおよび/またはポリ乳酸単位Bにおける乳酸以外の共重合モノマー成分としては、乳酸モノマーまたはラクチドと共重合可能な他のモノマー成分であり、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、およびこれら種々の構成成分よりなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0018】
又ステレオコンプレックスを形成させるにはポリ乳酸単位Aとポリ乳酸単位Bからなる特定の結晶性ポリマーとを、上記の重量比で共存させ高温で熱処理することにより、高分子量で、高結晶性で、高融点のステレオコンプレックスポリ乳酸が得られる。又公知の燐酸エステルを併用することにより容易にステレオコンプレックスとすることもできる。
【0019】
また平均繊維直径は10〜1000nmであることが必要であり、10nm未満であると、分子間力の影響が強くなるためか繊維構造自身が不安定で個々のナノファイバーの分繊性が悪く、ナノファイバーが均一に分散された繊維構造体とすることが困難である。また平均繊維径が1000nmを超えると、ナノファイバーとしてのしなやかさや柔軟性が得られず本発明が目指すような機能を有する優れた繊維は得られない。特に好ましい範囲は50〜900nmである。
【0020】
本発明の繊維は引張強度が1.5cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が1.5cN/dtex未満の場合には、繊維としての強さが不十分であり、好ましくない。引張強度は好ましくは2.0〜7.0cN/dtexであり、より好ましくは2.0〜6.0cN/dtexである。
【0021】
さらに、本発明の繊維は以下の式で定義される繊維直径変動係数(CV)が0〜0.3を満たすことが好ましい。
繊維直径変動係数(CV)=σ/X
但し、ここでいう繊維直径は、繊維断面の最大径と最小径の平均値をいい、σは繊維直径分布の標準偏差、Xは平均繊維直径を示す。
【0022】
ここでCVが0.3を超えると、繊維の品質のばらつきが大きくなることがある。また、繊維直径変動係数(CV)は好ましくは0〜0.20の範囲にあることがナノレベルの構造制御が可能な繊維の変動係数として好ましい。
【0023】
また本発明のポリ乳酸ナノファイバーは撚りをかけたものが好ましく、撚数は50〜1000T/Mであることが好ましい。さらに好ましくは100〜800T/Mである。撚数50T/M未満ではナノファイバーが集束せず、取扱い性が悪くなる。一方撚数1000T/Mを超えるとナノファイバー特有の柔軟性が乏しくなり取扱い性が悪くなる。
【0024】
また、本発明のナノファイバーは、複数のマルチフィラメントを合わせて求められる引張り強度を満たすようなマルチフィラメント束として用いることも好ましい。また、マルチフィラメント束を組みひも状に編込むのも好ましい。
本発明のナノファイバーを構成するポリマーにおいて、生体ポリマー以外の成分の含有は抑えることが好ましい。
【0025】
本発明のポリ乳酸ナノファイバーの製造方法としては、海島型複合紡糸法により、平均島径が10〜1000nm且つ島数が100以上の精密な海島型複合繊維を製造する工程、合糸工程、加撚・撚止め工程、海成分を溶出または分解する工程といった、大きく分けて4つの工程からなるプロセスが挙げられる。ここで、4つの工程の順番については、海島型複合繊維を製造する工程の後に海成分を溶出または分解する工程がくること以外は特に限定されない。加撚・撚止め工程は1)海成分を溶出または分解する工程の前に入れるもしくは、2)海成分を溶出または分解する工程の後に入れてもどちらでもよい。適宜使い分ければよい。合糸工程の順番は海島型複合繊維を製造後であれば、特に限定されない。合糸本数はJISの繊維の規格に合わせて適宜調整すればよい。
【0026】
加撚工程では、50〜1000T/Mで加撚することが好ましい。さらに好ましくは100〜800T/Mである。撚数50T/M未満ではナノファイバーが集束せず、取扱い性が悪くなる。一方1000T/Mを超えるとナノファイバー特有の柔軟性が乏しくなるために取扱い性が悪くなる。さらに加撚・撚止め工程を海成分の溶解・分解除去工程の前に行う場合には、海成分の溶解・分解除去にむらが生じるために、繊維としての品質のばらつきも大きくなることがある。
【0027】
本発明で使用する海島型複合繊維の製造方法について述べる。その海島比率は特に限定されないが、海島比率を10:90〜80:20の範囲にすることが好ましく、特に海:島=10:90〜70:30の範囲が好ましい。海成分の割合が70%以上であると、海成分溶解に必要な溶剤の量が多くなり、安全性や環境負荷、そしてコストの面で問題がある。また、10%未満の場合には島同士が膠着する可能性がある。
【0028】
島数は100以上であることが好ましい。島数が多いほど海成分を溶解除去してナノファイバーを製造する場合の生産性が高くなる。ここで、島数100未満の場合には、海成分を溶解除去しても繊維径の小さい微細繊維が得られないため、本発明の目的とする柔軟性に優れた繊維とならないことがある。特に、島数は500以上にすることが好ましい。又島数の上限は特に限定されることはないが、紡糸口金の製造コストが高くなるだけではなく、加工精度自体も低下しやすくなるので1000以下とするのが好ましい。
【0029】
海成分ポリマーと島成分ポリマーの必要条件は、以下の2点を満たしていることが好ましい。即ち1)溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分の溶融粘度よりも高い、2)特定溶剤への溶解速度において、島成分の溶解速度に対し海成分の溶解速度が200倍以上である。
【0030】
また、ここで、易溶解成分と難溶解成分としているのは、海島複合繊維を形成する2種のポリマーに対して、同じ溶解条件下で、一方のポリマーは溶出または分解し、他方のポリマーは溶出または分解されにくいような溶剤を選ぶ、あるいはそのようなポリマーの組合せを選択し、その易溶解成分を海成分として選択することを意味する。島成分の溶解速度に対し、海成分の溶解速度が200倍以上であることにより、島分離性が良好となる。
【0031】
溶解速度比が200倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や溶剤侵食による引張り強度劣化が発生して、繊維の品質のばらつきが大きくなるため、取扱い性が悪くなる。
【0032】
海成分ポリマーは上記の2点を満たしていればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良いポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーを用いることも好ましく、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。ここでアルカリ水溶液とは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム水溶液などを言う。また、ナイロン6はギ酸に溶解し、ポリスチレンはトルエンなど有機溶剤に溶解するので、これらを用いてもよい。
【0033】
島成分は丸断面に限らず、異形断面であってもよい。溶融紡糸に用いられる口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。好ましく用いられる紡糸口金例を図1および2に示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
ポリ乳酸ポリマーの重合は以下の方法で行った。
L−ラクチドとD−ラクチド(いずれも株式会社武蔵野化学研究所製)を所定の配合割合になるように計300部をフラスコに加え、系内を窒素置換した後、ステアリルアルコール0.4部、触媒としてオクチル酸スズ0.02部を加え、190℃、2時間、重合を行い、最後に減圧にてモノマーを除去し、ポリ乳酸単位A、Bを得た。D−ラクチド主体の場合はステアリルアルコール0.59部とした。
【0035】
1)溶融粘度測定
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
【0036】
2)海島断面形成性
光学顕微鏡を用いて海島状態を観察し、2段階評価した。
○:島膠着部分なし
×:島膠着部分あり
【0037】
3)溶解速度測定
海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、83dtex/24filのマルチフィラメントを作成する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
表中では海島溶解速度差が200倍以上の場合を○、200倍以下の場合を×とした。
【0038】
4)ナノファイバーの繊維径、および径の均一性
海成分溶解除去後のナノファイバーの30000倍TEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した50本の微細繊維の繊維繊維径データにおいて、平均繊維径(X)と標準偏差(σ)を算出し、 以下で定義する繊維径変動係数(CV)を算出した。
繊維径変動係数(CV)=σ/X
【0039】
5)ナノファイバーの繊度、引張強度、伸度
海成分溶解除去後のナノファイバーの10000mの重量をn=3回測定して平均値から繊度を求めた。
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割った値を引張り強度とし、破断時の伸長値を伸度として強伸度曲線を求めた。
【0040】
6)撚数
試長10cmの微細繊維についてn=5回捲撚機にて測定し、これの平均値から撚り数を求めた。
【0041】
[実施例1]
Lラクチドが90モル%(Dラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを50重量部と、Dラクチドが90モル%(Lラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを50重量部の比率で配合した後に、混練式エクストルーダーにて溶融押し出ししペレット状の成形物を得た。このポリマーの溶融粘度は285℃で1200poiseであった。このポリマーを島成分に用い、海成分に285℃での溶融粘度が1400poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコールを3wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを海:島=30:70の比率で、島数900の口金を用いて285℃で溶融紡糸し、1000m/minで巻き取った。ここで、島成分に対する海成分のアルカリ減量速度差は1500倍であった。得られた未延伸糸を延伸温度60〜90℃、表2記載の倍率でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。この際に延伸糸が22dtex/10fになるように紡糸吐出量を調整した。この延伸糸を筒編みし、溶媒で海成分比率相当分を溶解処理した。原糸断面をTEM観察したところ、海島断面形成性は良好であった。延伸倍率4.7倍で延伸した延伸糸を4本合糸した後、4%NaOH水溶液で95℃にて海成分を30%減量した。繊維断面を観察したところ、繊維径が450nmでCV値=0.18の超極細島群を形成していた。ナノファイバーを300T/Mで加撚し、その後75℃×30分間スチームでセットした。糸の引張り強度は4.5cN/dtex、伸度は22%、撚数290T/Mであり、ナノファイバー特有の柔軟性がある糸が得られた。結果を表1に示した。
【0042】
[実施例2]
Lラクチドが90モル%(Dラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを10重量部と、Dラクチドが90モル%(Lラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを90重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が450nmでCV値=0.20の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は4.3cN/dtex、伸度は20%、撚数290T/Mであり、微細繊維特有の柔軟性がありる糸が得られた。結果を表1に示した。
【0043】
[実施例3]
Lラクチドが70モル%(Dラクチド30モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを10重量部と、Dラクチドが90モル%(Lラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを90重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が440nmでCV値=0.23の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は4.0cN/dtex、伸度は19%、撚数270T/Mであり、微細繊維特有の柔軟性がある糸が得られた。結果を表1に示した。
【0044】
[実施例4]
Lラクチドが90モル%(Dラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを50重量部と、Dラクチドが70モル%(Lラクチド30モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを50重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が430nmでCV値=0.22の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は3.5cN/dtex、伸度は19%、撚数260T/Mであり、微細繊維特有の柔軟性がある糸が得られた。滅菌処理後の糸強度は3.5cN/dtex、伸度は21%であった。結果を表1に示した。
【0045】
[実施例5]
Lラクチドが90モル%(Dラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを30重量部と、Dラクチドが70モル%(Lラクチド30モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを70重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が430nmでCV値=0.28の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は2.4cN/dtex、伸度は19%、撚数260T/Mであり、微細繊維特有の柔軟性がある糸が得られた。結果を表1に示した。
【0046】
[比較例1]
Lラクチドが60モル%(Dラクチド40モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを50重量部と、Dラクチドが90モル%(Lラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを50重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が420nmでCV値=0.32の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は2.0cN/dtex、伸度は17%、撚数220T/Mであり、強度が不十分で脆く、繊維に適さないものであった。結果を表1に示した。
【0047】
[比較例2]
Lラクチドが90モル%(Dラクチド10モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Aを50重量部と、Dラクチドが60モル%(Lラクチド40モル%)の原料から作製されたポリ乳酸単位Bを50重量部の比率で配合した以外は実施例1と同様に行った。繊維断面を観察したところ、繊維径が410nmでCV値=0.35の超極細島群を形成していた。スチームセット後の糸の引張り強度は1.2cN/dtex、伸度は17%、撚数200T/Mであり糸段階での強度が不十分で脆く、繊維に適さないものであった。結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
高強度で耐熱性が高められたポリ乳酸ステレオコンプレックスからなる生分解性ポリ乳酸ナノファイバーが提供され、環境に優しく且つ実用性の高いので衣料、資材等の分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】海島型複合繊維の紡糸口金の例。
【図2】海島型複合繊維の紡糸口金の例。
【符号の説明】
【0051】
1.分配前島成分ポリマー溜め部分
2.島成分分配用パイプ
3.海成分導入孔
4.分配前海成分ポリマー溜め部分
5.個別海/島構造形成部
6.海島全体合流絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件を満足することを特徴とするポリ乳酸ナノファイバー。
1)ポリ乳酸ナノファイバーの繊維軸に直交する断面における平均繊維径が10〜1000nmであること。
2)ポリ乳酸が、
(A)L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位A
(B)D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位B
とを、(A):(B)=10:90〜90:10の重量比でブレンドされたものであること。
3)ポリ乳酸がポリ乳酸ステレオコンプレックスであること。
【請求項2】
ナノファイバー単糸の引張強度が1.5cN/dtex以上、伸度が8%以上で、以下に定義する繊維径変動係数(CV)が0〜0.3である請求項1に記載の繊維。
繊維径変動係数(CV)=σ/X
(繊維径は繊維断面における長径と短径の平均値とし、σは繊維径分布の標準偏差、Xは平均繊維径を示す。)
【請求項3】
撚数が50〜1000T/Mである請求項1〜2いずれかに記載の繊維。
【請求項4】
海島型複合繊維の海成分を除去して島成分からなるナノファイバーをえるナノファイバーの製造方法であって、下記要件を満足することを特徴とするポリ乳酸ナノファイバーの製造方法。
1)海島型複合繊維の島径が10〜1000nmであること。
2)島成分が下記ポリ乳酸からなり、
(A)L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位A
(B)D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位B
とを、(A):(B)=10:90〜90:10の重量比でブレンドされたものであること。
3)ポリ乳酸がポリ乳酸ステレオコンプレックスであること。
【請求項5】
海成分がポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングリコール系化合物共重合ポリエステル、およびポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合ポリエチレンテレフタレートから選択される少なくとも1種のアルカリ水溶液易溶解性ポリマーである請求項4記載のポリ乳酸ナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
海成分が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルボン酸成分中6〜12モル%含み、分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを全ポリマー中3〜10重量%含む共重合ポリエチレンテレフタレートである請求項4に記載のポリ乳酸ナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6記載の海島型複合繊維を合糸した後、海島型複合繊維から海成分を抽出除去し、その後50〜1000T/Mで加撚する工程を含むことを特徴とするポリ乳酸ナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
請求項4〜6記載の海島型複合繊維を合糸し50〜1000T/Mで加撚した後海島型複合繊維から海成分を抽出除去することを特徴とするポリ乳酸ナノファイバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65325(P2010−65325A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229819(P2008−229819)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】