説明

ポリ乳酸樹脂組成物とそれを用いた成形品

【課題】ポリ乳酸樹脂の結晶化による耐熱性を有し、かつ耐候性および耐衝撃性も改善することができるポリ乳酸樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂、カルボジイミド化合物、フェニルホスホン酸金属塩、およびコアシェルゴムを含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂組成物とそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性樹脂であるポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ、芋等を由来とする糖分から、発酵法によりL−乳酸が大量に作られ安価になってきたこと等を背景として、現在その利用が期待されている。また、剛性が強く透明性が良いこと、原料が自然農作物であるため総酸化炭素排出量が極めて少ないこと、そして生分解性を有すること等から、環境調和型の成形用樹脂として注目されている。
【0003】
ポリ乳酸樹脂は、例えば、従来汎用樹脂が用いられてきた家電、OA機器等の分野において、植物由来のプラスチック、すなわち省石油プラスチックとしての利用が期待されている。
【0004】
ポリ乳酸樹脂は結晶化速度が遅く、延伸等の機械的工程を行わない限り成形後は非晶状態である。しかし、ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度(Tg)は60℃と低く耐熱性に劣るため、温度が55℃以上となる環境下では用いることができないという問題点があった。
【0005】
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を改善する方法の1つとして、ポリ乳酸樹脂の結晶化を高める方法がある。すなわち、ポリ乳酸の結晶化速度を高めることにより高い結晶化度を得ることができ、耐熱性を向上させることができる。
【0006】
ポリ乳酸樹脂を結晶化させる場合、例えば、成形加工時に金型温度をポリ乳酸樹脂の結晶化ピーク温度の付近に設定して金型での保持を長時間行うか、あるいは成形後に成形品を熱処理する方法を用いることができる。
【0007】
しかしながら、成形時における長時間の冷却工程は実用的でなく、かつ結晶化が不十分になり易い。また、成形後の熱処理による結晶化は成形品が結晶化する過程で変形するため、寸法安定性が得られず、実用面ではひび、割れ等が生じ易くなる。さらに結晶化により透明性が著しく悪化するという問題点があった。
【0008】
そこで、従来よりポリ乳酸樹脂の結晶化速度を高める方法として、無機系または有機系の結晶核剤を配合する方法が検討されてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/108501号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、結晶核剤によりポリ乳酸樹脂の結晶化を促進することで耐熱性を改善することができるが、耐久性、特に耐候性、耐衝撃性に問題点があった。すなわち、ポリ乳酸樹脂を結晶化しても加水分解による劣化を抑制できず、また耐熱温度と剛性が向上する一方で柔軟性が失われる。
【0011】
このようなポリ乳酸樹脂の脆く、硬く、可撓性に欠ける特性のために、その使用が硬質成形品分野に限られていた。例えば、射出成形品に成形した場合は、柔軟性、耐衝撃性が不足したり、折り曲げたときに白化やヒンジ特性の低下等の問題点があり、軟質や半硬質の分野に用いられていないのが現状である。
【0012】
例えば、包装容器では、輸送・保管の際の変形、熱殺菌や電子レンジ用途等の高温使用分野への展開、成形サイクル性等といった課題があり、ポリ乳酸の市場展開を進めるうえで大きな障害となっている。従って、ポリ乳酸固有の優れた剛性等を損なうことなく、前記のような問題点を改善することが強く求められている。
【0013】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸樹脂の結晶化による耐熱性を有し、かつ耐候性および耐衝撃性も改善することができるポリ乳酸樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、カルボジイミド化合物、フェニルホスホン酸金属塩、およびコアシェルゴムを含有することを特徴としている。
【0015】
このポリ乳酸樹脂組成物においては、フェニルホスホン酸金属塩は、フェニルホスホン酸亜鉛であることが好ましい。
【0016】
このポリ乳酸樹脂組成物においては、コアシェルゴムは、ジエン系単量体を重合したコア構造のゴム質重合体に、アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、およびこれらのうち少なくとも1種の単量体を重合して得られる重合体から選ばれる少なくとも1種の不飽和化合物がグラフトされてシェル構造を形成した共重合体であることが好ましい。
【0017】
このポリ乳酸樹脂組成物においては、カルボジイミド化合物の含有量がポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.1〜4質量部、フェニルホスホン酸金属塩の含有量がポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部、コアシェルゴムの含有量がポリ乳酸樹脂100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明の成形品は、前記のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形したものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂の結晶化による耐熱性を有し、かつ耐候性および耐衝撃性も改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物に用いられるポリ乳酸樹脂は、トウモロコシ、芋等を由来とする糖分を分解して得られる乳酸をモノマーとして、縮重合により製造されるポリエステル系樹脂である。
【0022】
ポリ乳酸樹脂は、原料のモノマーとして乳酸成分のみを縮重合させて得られるポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、原料のモノマーとして乳酸成分と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸成分(以下、単に「ヒドロキシカルボン酸成分」という。)とを用い、これらを縮重合させて得られるポリ乳酸樹脂を用いることもできる。
【0023】
乳酸には、L−乳酸(L体)、D−乳酸(D体)の光学異性体が存在する。本発明では、乳酸成分として、いずれかの光学異性体のみを用いてもよく、両方を用いてもよいが、成形性を考慮すると、いずれかの光学異性体を主成分とする光学純度が高い乳酸を用いることが好ましい。
【0024】
なお、ここで「主成分」とは、乳酸成分中の含有量が50モル%以上である成分のことをいう。
【0025】
乳酸成分のみを縮重合させる場合の乳酸成分におけるL体またはD体の含有量、すなわち、前記光学異性体のうちいずれか多い方の含有量は、80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましく、99〜100モル%がさらに好ましい。
【0026】
一方、ヒドロキシカルボン酸成分としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0027】
また、本発明においては、前記の乳酸およびヒドロキシカルボン酸化合物の二量体がそれぞれの成分に含有されていてもよい。
【0028】
乳酸の二量体としては、例えば、乳酸の環状二量体であるラクチドを用いることができる。ヒドロキシカルボン酸化合物の二量体としては、例えば、グリコール酸の環状二量体であるグリコリドを用いることができる。
【0029】
なお、ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド、およびD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができるが、ポリ乳酸樹脂組成物の強度と可撓性の両立、耐熱性、および透明性を考慮すると、D−ラクチドおよびL−ラクチドが好ましい。
【0030】
なお、乳酸の二量体は、乳酸成分のみを縮重合させる場合の乳酸成分、および乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分とを縮重合させる場合の乳酸成分のいずれにも含有させることができる。
【0031】
乳酸の二量体の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の強度と可撓性の両立を考慮すると、乳酸成分中、80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。
【0032】
ヒドロキシカルボン酸化合物の二量体の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物の強度と可撓性の両立を考慮すると、ヒドロキシカルボン酸成分中、80〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましい。
【0033】
乳酸成分のみの縮重合反応、および乳酸成分とヒドロキシカルボン酸成分との縮重合反応は、特に限定されず、例えば、公知の方法を用いて行うことができる。乳酸の縮重合反応は、乳酸の有するカルボキシル基および水酸基をエステル化反応させる方法である。例えば、L−乳酸、D−乳酸、またはこれらの混合物を高沸点溶媒存在下、減圧下にて共沸脱水させる方法を用いることができる。
【0034】
また、ラクチドを用いた開環重合法として、開環したラクチド同士をエステル化反応する方法、例えば、重合調節剤および重合触媒の存在下でL−ラクチド、D−ラクチド等を開環させる方法を用いることができる。
【0035】
ポリ乳酸樹脂は、成形加工が可能であれば分子量や分子量分布は特に限定されないが、良好な成形加工性や機械的特性を維持することを考慮すると、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)による標準ポリスチレン換算で、重量平均分子量が50,000〜400,000の範囲であるものが好ましく、重量平均分子量が100,000〜400,000の範囲のものがより好ましい。
【0036】
また、本発明では、ポリ乳酸樹脂として、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸樹脂からなるステレオコンプレックスを用いてもよい。
【0037】
ステレオコンプレックスを構成する一方のポリ乳酸(以下、「ポリ乳酸(A)」という。)は、L体90〜100モル%、D体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。他方のポリ乳酸(以下、「ポリ乳酸(B)」という。)は、D体90〜100モル%、L体を含むその他の成分0〜10モル%を含有する。なお、L体およびD体以外のその他の成分としては、2個以上のエステル結合を形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等を用いることができる。また、未反応の前記官能基を分子内に2つ以上有するポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等であってもよい。
【0038】
ステレオコンプレックスにおける、ポリ乳酸(A)とポリ乳酸(B)との質量比(ポリ乳酸(A)/ポリ乳酸(B))は、強度と可撓性の両立、耐熱性、および透明性を考慮すると、10/90〜90/10が好ましく、20/80〜80/20がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。
【0039】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、カルボジイミド化合物が配合される。カルボジイミド化合物を配合することにより、ポリ乳酸樹脂組成物の耐加水分解性を向上させることができ、耐候性を向上させることができる。
【0040】
カルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を持つものであれば特に限定されないが、例えば、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物等を用いることができる。
【0041】
モノカルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド等を用いることができる。ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド等を用いることができる。これらは、分子内に各種の複素環または官能基を持つものであってもよい。
【0042】
また、カルボジイミド化合物として、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有しないカルボジイミド化合物のいずれも用いることができる。
【0043】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、例えば、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等を挙げることができる。
【0044】
脂環族モノカルボジイミドとしては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を用いることができる。
【0045】
芳香族モノカルボジイミドとしては、例えば、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等を用いることができる。
【0046】
脂環族ポリカルボジイミドとしては、例えば、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド等を用いることができ、より具体的には、例えば、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド) 等を用いることができる。
【0047】
芳香族ポリカルボジイミドとしては、例えば、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド等を用いることができ、より具体的には、例えば、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼンおよび1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等を用いることができる。
【0048】
なお、ポリカルボジイミドは、その分子の両端または分子中の任意の部位がイソシアネート基等の官能基を有するものであってもよく、あるいは分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていてもよい。
【0049】
カルボジイミド化合物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート化合物を原料に製造する方法等の公知の方法を用いて行うことができる。
【0050】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物におけるカルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1〜4質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。カルボジイミド化合物の含有量が少な過ぎると、耐加水分解性が低下する場合がある。カルボジイミド化合物の含有量が多過ぎると、ポリ乳酸樹脂との反応が増加して高粘度化しペレット化が困難になる場合がある。
【0051】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、フェニルホスホン酸金属塩が配合される。フェニルホスホン酸金属塩を配合することにより、ポリ乳酸樹脂組成物の結晶化速度を向上させることができ、耐熱性、剛性を向上させることができる。
【0052】
フェニルホスホン酸金属塩は、置換基を有していてもよいフェニル基とホスホン基(−PO(OH)2)とを有するフェニルホスホン酸の金属塩である。フェニル基の置換基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸として、例えば、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等を用いることができる。これらの中でも、耐熱性の向上等を考慮すると、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0053】
フェニルホスホン酸金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩等を用いることができる。これらの中でも、亜鉛塩が好ましく、フェニルホスホン酸亜鉛が特に好ましい。フェニルホスホン酸亜鉛を用いることで耐熱性を大きく向上させることができる。
【0054】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物におけるフェニルホスホン酸金属塩の含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。フェニルホスホン酸金属塩の含有量が少な過ぎると、結晶化速度が遅くなる場合がある。フェニルホスホン酸金属塩の含有量が多過ぎると、成形品の軟質化や、機械物性、特に耐衝撃性、耐熱性等の低下を生じる場合がある。
【0055】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、コアシェルゴムが配合される。コアシェルゴムを配合することにより、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。
【0056】
コアシェルゴムとしては、例えば、ジエン系単量体、アクリル系単量体、およびシリコーン系単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体を重合したコア構造のゴム質重合体に、アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、およびこれらのうち少なくとも1種の単量体を重合して得られる重合体から選ばれる少なくとも1種の不飽和化合物がグラフトされてシェル構造を形成したコアシェル構造の共重合体等を用いることができる。
【0057】
ジエン系単量体としては、例えば、炭素数4〜6のジエン系単量体を用いることができ、ブタジエン、イソプレン等を用いることができる。中でも、ブタジエンが好ましい。ジエン系単量体を重合したゴム質重合体としては、例えば、ブタジエンゴム、アクリルゴム、スチレン/ブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)等が挙げられる。
【0058】
アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この際、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート等を用いることができる。
【0059】
シリコーン系単量体としては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、およびこれらの少なくとも1種によるシクロシロキサン化合物等を用いることができる。
【0060】
ゴム質重合体の平均粒径は、耐衝撃性等を考慮すると、0.4〜1μmが好ましい。
【0061】
ゴム質重合体にグラフト可能な不飽和化合物のうち、アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、無水物、アルキルまたはフェニルN−置換マレイミド等を用いることができる。ここで、アルキルは、炭素数1〜10が好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等を用いることができる。中でも、メチル(メタ)アクリレートが好ましい。また、無水物としては、酸無水物等を用いることができ、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸無水物を用いることができる。
【0062】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、炭素数1〜10のアルキル置換スチレン、ハロゲン置換スチレン等を用いることができる。アルキル置換スチレンとしては、例えば、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、α−メチルスチレン等を用いることができる。
【0063】
不飽和ニトリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等を用いることができる。
【0064】
コアシェルゴムとして、ジエン系単量体を重合したコア構造のゴム質重合体に、アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、およびこれらのうち少なくとも1種の単量体を重合して得られる重合体から選ばれる少なくとも1種の不飽和化合物がグラフトされてシェル構造を形成した共重合体を好ましく用いることができる。中でも、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムをコアとしアクリル系単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体をシェルとするコアシェルゴムが好ましい。このようなコアシェルゴムは、ポリ乳酸樹脂との相溶性およびゴムによる衝撃吸収性に優れ、耐衝撃性を高めることができる。
【0065】
コアシェル共重合体を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、公知の方法を用いて行うことができる。
【0066】
前記のグラフト可能な不飽和化合物は、コアシェルゴム100質量部に対して40質量部以下で含まれることが好ましく、5〜30質量部で含まれることがより好ましい。このような範囲内とすることで、ポリ乳酸樹脂との相溶性に優れたものとすることができ、耐衝撃性を高めることができる。
【0067】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物におけるコアシェルゴムの含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、3〜9質量部がより好ましい。コアシェルゴムの含有量が少な過ぎると、耐衝撃性が低下する場合がある。コアシェルゴムの含有量が多過ぎると、成形品の軟質化や、耐熱性の低下を生じる場合がある。
【0068】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、顔料、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、内部離型剤、抗菌抗カビ剤等を用いることができる。
【0069】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物には、必要に応じてその他の樹脂等を配合することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の汎用樹脂、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、酢酸セルロース等の生分解性樹脂、ポリエチレンオキサイド、メタクリルブチレンスチレン樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリルブチレンスチレン樹脂(ABS樹脂)等を用いることができる。
【0070】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記の各成分を混練することにより製造することができる。各成分の混練は、特に限定されず各種の方法により行うことができる。例えば、各成分をタンブラー、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘルシェルミキサー、タンブラーミキサー等に仕込み混練するドライブレンド法、さらにドライブレンド物を一軸または二軸押出機、ニーダー、ロール等で溶融混練し冷却、ペレット化する方法、各樹脂を溶媒に溶解し、混合した後に溶媒を除去する溶液ブレンド法等を用いることができる。
【0071】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、成形加工性に優れるため、各種の成形品を得ることができる。成形品の製造方法としては、特に限定されず、例えば、一般のプラスチックと同様の射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、インフレーションブロー成形、発泡シート成形、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等を用いることができる。
【0072】
このような方法により、成形品として、例えば、射出成形品、押出し成形によるフィルムやシート、これらフィルムやシートを加工した成形品、ブロー成形による中空体、この中空体を加工した成形品等を得ることができる。
【0073】
本発明においては、特に射出成形が好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形法、射出プレス成形法等を用いることもできる。射出成形条件としては、シリンダ温度をポリ乳酸樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは170〜250℃、より好ましくは200〜230℃の範囲とし、また、金型温度は(樹脂組成物の融点−40℃)以下とするのが適当である。シリンダ温度が低過ぎると、成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になる場合や過負荷に陥る場合がある。シリンダ温度、すなわち成形温度が高過ぎると、ポリ乳酸樹脂組成物が分解して得られる成形品の強度が低下したり、着色したりする場合がある。
【0074】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、成形の際に結晶化を促進させることにより、その耐熱性をさらに高めることができる。
【0075】
例えば、金型より取り出された成形品を、改めてガラス転移温度以上かつ(融点−40℃)以下で熱処理することにより、結晶化を促進することができる。
【0076】
また、射出成形時に金型内で結晶化を促進させることもできる。その場合には、ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移温度以上かつ(融点−40℃)以下に保たれた金型内で、一定時間、成形品を保持した後、金型より取り出す方法が好ましい。
【0077】
これらの方法により結晶化を促進させる場合には、ポリ乳酸樹脂組成物のガラス転移温度〜140℃の範囲が好ましく、80〜120℃がより好ましい。
【0078】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物としては、例えば、セイコーインスツル株式会社製の示差走査熱量測定装置「DSC220C」を用いて、10mgのポリ乳酸樹脂組成物を測定容器に入れ、窒素ガス流量50mL/分、加熱速度10℃/分で20℃から210℃まで昇温した際に観察される結晶化ピーク温度が、110℃〜ポリ乳酸樹脂組成物の融点の範囲に観察されるものが、耐熱性に優れることから好ましい。
【0079】
また、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、DSCを用いて、10mgのポリ乳酸樹脂組成物を測定容器に入れ、窒素ガス流量50mL/分、加熱速度10℃/分で20℃から210℃まで昇温し、この後、210℃で3分間ホールドさせた後、冷却速度20℃/分で−100℃まで降温し、再度、2次昇温を200℃まで行う。この時、2次昇温時で描かれたDSC曲線の融解熱量ピーク面積(ΔHm)と1次昇温時に描かれたDSC曲線の結晶化熱量ピーク面積(ΔHc)を用いて、次式から算出される結晶化度αは20〜100%の範囲であることが好ましい。
結晶化度α=〔(ΔHm−ΔHc)/ΔHm〕×100(%)
【0080】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の結晶化速度、結晶化度を向上させることが可能で耐熱性が高く、かつ優れた透明性を保持し、耐候性、耐衝撃性、成形加工性にも優れることから、各種の用途に好適に用いることができる。
【0081】
本発明の成形品の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品;コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品等が挙げられる。
【0082】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品や中空成形品等とすることもできる。そのような成形品の具体例としては、農業用マルチフィルム、工事用シート、各種ブロー成形ボトル等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1の配合量は質量部を示す。
【0084】
表1に示す配合成分として、以下のものを用いた。
(ポリ乳酸樹脂)
重量平均分子量160,000〜180,000の乳酸系重合体(米国、Nature Works社製「3001D」、L体含有量98.5%、D体含有量1.5%)のペレット
(カルボジイミド化合物)
ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド(ドイツのラインヘミー社(Rheim ChemieRheinau GmbH/Germany)製「スタバクゾールP」)
(フェニルホスホン酸金属塩)
無置換のフェニルホスホン酸亜鉛(日産化学工業株式会社製「エコプロモート」)
(コアシェルゴム)
ブタジエンゴムをコアとしメチルメタクリレート・スチレン共重合体をシェルとするコアシェルゴム(三菱レイヨン株式会社製「C223A」)
【0085】
ポリ乳酸樹脂、カルボジイミド化合物、フェニルホスホン酸金属塩、コアシェルゴムを配合し、タンブラーでドライブレンドした。これを二軸押出機の根元供給口から供給し、バレル温度210℃で押出して加熱混練し、ストランド形状に押出した後に水中でストランドが50℃になるまで冷却後、ペレタイザーで2〜4mmに切断してペレット粒状のポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0086】
得られたペレットを十分に乾燥して水分を除去した後、射出成形を行い一般物性測定用試験片(ISO型)を作製した。成形条件は射出シリンダ内での樹脂の熱分解を避けるため、溶融樹脂温度を200〜230℃の範囲とし、金型温度は40℃とした。
【0087】
次に、金型から取り出した試験片を温度100℃、処理時間10分で熱処理して結晶化処理を行った。
【0088】
この試験片について次の評価を行った。
【0089】
[引張り強さ]
ISO 525に準拠して引張り強さ(MPa)を測定した。試験片の一部は、60℃95%RHの高温高湿環境に300時間曝した後に測定を行った。
【0090】
[荷重たわみ温度]
ISO 75に準拠して荷重たわみ温度(0.46MPa)を測定した。液体伝熱媒体中の試験片を曲げ応力下で昇温し、軟化が始まり規定のたわみ量になった時の温度(℃)を測定した。
【0091】
[シャルピー衝撃強さ]
ISO 179に準拠してシャルピー衝撃強さを測定した。試験片ノッチ背面をハンマー打撃して、破断に要したエネルギー(kJ/m2)をもって衝撃性を評価した。
【0092】
評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
表1より、実施例1〜4ではポリ乳酸樹脂の結晶化が促進されて耐熱性を高めることができた。また高温高湿環境に曝した後も引張り強さは低下することなく耐候性を有し、耐衝撃性も高いものであった。
【0095】
これに対してカルボジイミド化合物を配合しなかった比較例1では高温高湿度環境に曝した後に引張り強さは大きく低下し耐候性が低下した。フェニルホスホン酸金属塩を配合しなかった比較例2では結晶化が遅く耐熱性等が低下した。コアシェルゴムを配合しなかった比較例3では耐衝撃性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂、カルボジイミド化合物、フェニルホスホン酸金属塩、およびコアシェルゴムを含有することを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェニルホスホン酸金属塩は、フェニルホスホン酸亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェルゴムは、ジエン系単量体を重合したコア構造のゴム質重合体に、アクリル系単量体、芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、およびこれらのうち少なくとも1種の単量体を重合して得られる重合体から選ばれる少なくとも1種の不飽和化合物がグラフトされてシェル構造を形成した共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
前記カルボジイミド化合物の含有量が前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.1〜4質量部、前記フェニルホスホン酸金属塩の含有量が前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部、前記コアシェルゴムの含有量が前記ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、1〜10質量部であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載のポリ乳酸樹脂組成物を射出成形したものであることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2012−126871(P2012−126871A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282202(P2010−282202)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】