説明

ポリ乳酸系樹脂組成物、押出成形シート及び容器

【課題】 得られる成形品の耐衝撃性と靭性とに優れ、包装容器等に好適に用いることができるポリ乳酸系樹脂組成物、およびそれを用いて得られる成形品を提供すること。
【解決手段】 乳酸系重合体(A)と、耐衝撃性ポリスチレン(B)と、スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成されるブロック共重合体(C)と、を含有する樹脂組成物であり、該樹脂組成物中における前記乳酸系重合体(A)の含有割合が25質量%以上であり、且つ、ブロック共重合体(C)中に含まれる共役ジエン系重合体ブロック(c2)と耐衝撃性ポリスチレン(B)との質量比(c2)/(B)が、0.09以上であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸系重合体と耐衝撃性ポリスチレンとスチレン系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックから構成されるブロック共重合体とを含有する樹脂組成物、およびその樹脂組成物を用いてなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にプラスチック製包装容器は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートといった材料で構成されている。しかしながら、これらのプラスチックは、化石資源を原料として使用していることや、使用後焼却処分する際には燃焼カロリーが大きいことから、近年の環境保護の観点からは環境負荷の少ない材料への転換が求められている。
【0003】
このような背景から、化石資源を原料とせず、植物由来原料からなる樹脂や、天然素材から得られる材料が、所謂「カーボンニュートラル」の観点から、二酸化炭素の排出量を低減できるとして注目されている。その代表的な材料として、トウモロコシやサトウキビ等から得られるポリ乳酸樹脂が特に注目されている。ポリ乳酸樹脂は、既に商業生産も始まっており、包装容器等への応用研究が精力的に行われている。
【0004】
ポリ乳酸樹脂成形品は、耐衝撃性が低く単独では実用的な強度の成形品を得ることは困難である。そこで、ポリ乳酸樹脂成形品の耐衝撃性を改善するために、耐衝撃性ポリスチレン樹脂を混合して用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような耐衝撃性ポリスチレン樹脂を併用する系では耐衝撃性の改善効果は認められるものの、靭性が低く、包装容器等へ応用する際に必要となる比較的長時間負荷がかかるような用途での実用性に欠けるものであり、更なる改良が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−264086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、得られる成形品の耐衝撃性と靭性とに優れ、包装容器等に好適に用いることができるポリ乳酸系樹脂組成物、およびそれを用いて得られる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、乳酸系重合体と耐衝撃性ポリスチレンと、スチレン系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックとから構成されるブロック共重合体と、を特定割合で含有する樹脂組成物が、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、乳酸系重合体(A)と、耐衝撃性ポリスチレン(B)と、スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成されるブロック共重合体(C)と、を含有する樹脂組成物であり、該樹脂組成物中における前記乳酸系重合体(A)の含有割合が25質量%以上であり、且つ、ブロック共重合体(C)中に含まれる共役ジエン系重合体ブロック(c2)と耐衝撃性ポリスチレン(B)との質量比(c2)/(B)が、0.09以上であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、前記樹脂組成物を用いて得られる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、植物由来樹脂である乳酸系重合体を25質量%以上含むため、二酸化炭素の排出量を抑制することができ、該樹脂組成物を用いて押出成形したシートは、耐衝撃性と靭性とを高レベルで兼備するものである。従って、該シートを容器状に成形した容器は、実用的な強度を有しており、食品等の包装容器に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔乳酸系重合体(A)〕
本発明で用いる、乳酸系重合体(A)は、乳酸を主たる成分として重合して得られる樹脂であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、あるいはこれらのブレンド物、ジカルボン酸およびジオールをエステル反応させて得られたポリエステル成分と乳酸との共重合体等が挙げられ、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、主たる構造単位がL−乳酸であるポリ乳酸を用いることが成膜安定性の点から特に好ましい。
【0012】
上記ヒドロキシカルボン酸、ジオールおよびジカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカプロン酸類、カプロラクトン、ブチロラクトン、ラクチド、グリコリド等の環状ラクトン類などのヒドロキシカルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0013】
前記乳酸系重合体(A)としては、押出成形時に良好な流動性を有する点から、該乳酸系重合体(A)のメルトフローレートが190℃において、好ましくは0.5〜20g/10min、より好ましくは2〜15g/10minである。このようなメルトフローレートの範囲であると、押出成形が容易であり、後述する耐衝撃性ポリスチレン(B)及びスチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)から構成されるブロック共重合体(C)と溶融混練したときの分散性も向上する。
【0014】
〔耐衝撃性ポリスチレン(B)〕
本発明の樹脂組成物で用いる耐衝撃性ポリスチレン(B)は、ゴム状重合体の存在下、スチレン系モノマーと必要に応じて併用されるその他のモノマーとを、様々な方法により重合して得られるものである。具体的には例えば、ポリブタジエンゴムをスチレンに溶解し、これを塊状重合、又は塊状−懸濁重合することにより、耐衝撃性ポリスチレンを製造することが出来る。
【0015】
耐衝撃性ポリスチレン(B)中のゴム状重合体の量としては、得られる成形品の耐衝撃性を向上させることができる点と、重合時の高分子量化を容易に行うことができ、且つゲル化に由来するブツの発生を抑制できる観点から、3〜12質量%が好ましく、より好ましくは5〜11質量%、さらに好ましくは7〜10質量%である。
【0016】
〔ブロック共重合体(C)〕
本発明で用いるスチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成される共重合体(C)としては、
1)スチレン系単量体の重合体ブロックと共役ジエン系単量体の重合体ブロックとからなるジブロック共重合体、
2)スチレン系単量体の重合体ブロックと共役ジエン系単量体の重合体ブロックと、さらにスチレン系単量体の重合体ブロックとから構成されるトリブロック共重合体(樹脂の両末端が何れもスチレン系重合体ブロックである重合体)、
3)前記トリブロックコポリマーの水素添加物、
4)複数のスチレン系単量体の重合体ブロックと共役ジエン系単量体の重合体ブロックとからなるトリブロックを越える複数の重合体ブロックから構成される多ブロックコポリマー、及び
5)スチレン系単量体の重合体ブロックと共役ジエン系単量体の重合体ブロックに加え、ランダム共重合部分を有するブロック共重合体、
等が挙げられ、何れも単独で用いても、複数種を予め混合して用いても良い。
【0017】
ここで、前記ブロック共重合体(C)における、スチレン系重合体ブロック(c1)を構成するスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−ブロムスチレン、m−ブロムスチレン、p−ブロムスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられ、なかでもスチレンが好ましい。
【0018】
前記ブロック共重合体(C)における、共役ジエン系重合体ブロック(c2)を構成する共役ジエン系単量体としては、例えば、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等のジエン系単量体が挙げられる。これらの中でも該重合体ブロックによって発現されるゴム弾性に優れ、最終的に得られる本発明の成形品に優れた衝撃強度を付与できることから、ブタジエン重合体ブロックであることが好ましい。
【0019】
従って、前記共重合体(C)は、所謂スチレン−ブタジエンジブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体であることが好ましい。
【0020】
また、ブロック共重合体(C)中の共役ジエン系重合体ブロック(c2)の量が多くなると、ブロック共重合体(C)のゴム的性質が強くなり、成形加工時に塑性変形し難くなるため、ブロック共重合体(C)中における共役ジエン系重合体ブロック(c2)の含有率は20〜60質量%が好ましい。
【0021】
以上詳述したブロック共重合体(C)は、スチレン系単量体と共役ジエン系単量体とを乳化重合や溶液重合等の様々な方法によって製造することができる。特に、前記トリブロック共重合体を製造する場合は、炭化水素系有機溶媒中で、有機リチウム化合物等のアニオン系重合開始剤の存在下にスチレン系単量体及びジエン系単量体を溶液重合し、トリブロック共重合体を製造する方法が、ブロック共重合体(C)の高分子量化の調整が容易な点から好ましい。
【0022】
尚、ここで共役ジエン系単量体に由来する構造単位とは、該共役ジエン系単量体が付加反応したアルキレン構造部位をいい、例えば、共役ジエン系単量体として、1,3−ブタジエンを用いた場合には、ブタ−2−エン−1,4−ジイル、及びブタ−3−エン−1,2−ジイルをあらわす。また、該構造単位のブロック共重合体(C)中の含有率は、13C−NMRの測定における各構造単位に特徴的な炭素原子に対応するケミカルピークの面積比から求めることができる。例えば、ブタ−3−エン−1,2−ジイルの場合、1,2−ビニル基を構成する末端炭素原子のケミカルシフト114ppm、ブタ−2−エン−1,4−ジイルの場合、末端炭素原子のケミカルシフト125〜132ppmのピーク面積比からこれらの構造単位の含有率を求めることができる。
【0023】
また、前記乳酸系重合体(A)、耐衝撃性ポリスチレン(B)及びスチレン系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックから構成されるブロック共重合体(C)とを溶融混合する具体的方法は、例えば、両者をミキサーで均一にドライブレンドした後、この混合物を押出機に投入し、溶融混練する方法が挙げられる。
【0024】
具体的には、乳酸系重合体(A)と、耐衝撃性ポリスチレン(B)、スチレン系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックとから構成されるブロック共重合体(C)のペレット若しくはパールをバンバリーミキサー等のミキサーで予めドライブレンドし、得られた混合物を押出機に投入するか、又は、前記ペレット若しくはパールを直接押出機に投入し、押出機にて190〜240℃で溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練した混合物はそのままシート化しても良いし、一旦ペレット化した後に、再度押出機で溶融シート化しても良い。また、これらの方法を組み合わせることもでき、例えば、乳酸系重合体(A)と耐衝撃性ポリスチレン(B)とを先に混合しておき、その後、ブロック共重合体(C)を混合する方法や、耐衝撃性ポリスチレン(B)とブロック共重合体(C)とを押出機で溶融混練して一旦ペレット化したものと、乳酸系重合体(A)のペレットとをドライブレンドし、押出機に供給して溶融混練する方法で組成物を調製してから、シート化してもよい。
【0025】
溶融混練する方法としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ニーダーにより溶融混練する方法が挙げられる。尚、押出時の樹脂温度は、樹脂の分解、ゲル生成を抑制し、成形品外観を良好にするために230℃以下であることが好ましい。
【0026】
〔添加剤〕
本発明の樹脂組成物は、乳酸系重合体(A)と、耐衝撃性ポリスチレン(B)と、スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成されるブロック共重合体(C)を各原料成分から重合する際、或いは、両者を溶融混練する際に、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、熱安定剤、可塑剤、染料等の各種添加剤を混合しても良い。この様な添加剤は、具体的には、ミネラルオイル、エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等の可塑剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸の金属塩、シリコンオイルなどが挙げられ、これらを単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
〔その他の熱可塑性樹脂〕
本発明の樹脂組成物は、乳酸系重合体(A)と、耐衝撃性ポリスチレン(B)と、スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成されるブロック共重合体(C)の他に、本発明の効果を妨げない範囲で、例えば、樹脂組成物中20重量%未満で、適宜、その他の熱可塑性樹脂を混合しても良い。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ブタジエンゴム変性スチレン/メタクリル酸エステル共重合体等のスチレン系共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、天然ゴム等のゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体等のエチレン系共重合体、その他、プロピレン系重合体、芳香族及び/又は脂肪族ポリエステル共重合体などが挙げられ、これらを単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
〔乳酸系重合体(A)の使用割合〕
本発明の樹脂組成物中における乳酸系重合体(A)の使用割合は、植物由来原料の樹脂を使用することによって、二酸化炭素の排出量を低減しようとする本発明の意義から、25質量%以上であることを必須とする。乳酸系重合体(A)の含有割合が25質量%未満であると、二酸化炭素排出量低減の効果が低く、環境負荷低減の効果を満足するものではない。さらに、生分解性プラスチック研究会が運用しているバイオマスプラスチック識別表示制度においても、25質量%以上の植物由来プラスチックの使用を必須要件として、「バイオマスプラスチックマーク」表示を許可していることなどからも、この含有割合は有意義である。
【0029】
〔耐衝撃性ポリスチレン(B)とブロック共重合体(C)との混合比率〕
本発明において、樹脂組成物中の耐衝撃性ポリスチレン(B)と、スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)から構成されるブロック共重合体(C)との使用割合は、該ブロック共重合体(C)中の共役ジエン系重合体ブロック(c2)と耐衝撃性ポリスチレン(B)との質量比(c2)/(B)が、0.09以上であるよう混合して用いる。共役ジエン系重合体ブロック(c2)と耐衝撃性ポリスチレン(B)との質量比(c2)/(B)が0.09未満であると、得られる成形品の耐衝撃性と靭性とのバランスが不足する。成形品の耐衝撃性と靭性とを更に高レベルで両立させ、且つ、シートの異方性が少なく、実用的な成形品が得られる観点からは、該質量比(c2)/(B)が0.12以上0.52以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、種々の射出成形法や押出成形法によって、各種の成形品とすることができる。
【0031】
〔押出成形シートの製造方法〕
本発明の樹脂組成物からなる押出成形シートの製造方法は、特に制限されるものではなく、各種の方法が利用できる。例えば、樹脂組成物の一部又は全部を予めコンパウンド化した後、シート化しても良いし、予備混合後、シート化しても良い。コンパウンド方法は、特に制限されるものではなく、様々な方法が利用でき、例えば、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、ニーダー等の一般的な混合機で溶融混練することができる。シート化は、上記方法により均一に混合した後、押出機にて溶融後にTダイから押出す方法や、インフレーション押出成形方法等が一般的である。中でも厚み精度が良いTダイ法が特に好ましい。このとき、複数台の押出機を用いて、フィードブロック法、マルチマニフォールド法等の様々な方法で共押出する方法や、表面層をあらかじめ単独で成膜し、基材層を押出しシート化する際に、その表面層を熱ラミネートする方法を用いて、多層化しても構わない。また、単層あるいは積層シートに関わらず、シート表面にシリコーンや、帯電防止剤等を塗布することにより表面特性を向上させることも可能である。
【0032】
〔シート厚さ〕
本発明の樹脂組成物を用いて得られたシートの厚さは特に限定されるものではないが、真空成形、圧空真空成形、圧空成形、プレス成形、マッチモールド成形等の方法で、包装容器等を成形するには、0.1mm〜5.0mmの厚さが好ましく、なかでも0.15〜3.0mmの厚さがより好ましい。
【0033】
本発明の押出成形シートは、耐衝撃性と靭性とのバランスの観点から、デュポン衝撃強度が0.25J以上、好ましくは0.3J以上であり、TD(幅方向)の引張破断伸度が20%以上、好ましくは50%以上であり、且つ、シートの異方性を示す指標である引張破断伸度のMD(流れ方向)とTDとの比率MD/TDが5〜0.5の範囲であること、特に該比率が3〜0.6の範囲であることが好ましい。この様な物性値を有する押出成形シートを用いることによって、二次加工品の強度がより優れたものとなり、実用性が高くなる。
【0034】
〔容器成形方法〕
本発明の樹脂組成物を用いて成形した押出成形シートは、シート状のままで使用できることはもちろんのこと、様々な成形加工方法により二次加工を行うことができる。例えば、真空成形、圧空真空成形、圧空成形、プレス成形、マッチモールド成形等の熱成形により、トレーやカップ等の容器状に成形することが出来る。特に、本発明の樹脂組成物を用いた容器は耐衝撃性と靭性とのバランスに優れたものとなる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例と比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例および比較例で使用したスチレン−ブタジエンブロック共重合体は、次の通りである。
(i)シェブロンフィリップス社製SBS(商品名「KレジンDK11」)
スチレンに由来する構成単位の含有率(c1) : 75質量%
ブタジエンに由来する構成単位の含有率(c2) : 25質量%
メルトフローレート: 7g/10min
(ii)JSR社製SBエラストマー(商品名「TR2003」)
スチレンに由来する構成単位の含有率(c1) : 43質量%
ブタジエンに由来する構成単位の含有率(c2) : 57質量%
【0037】
実施例1
乳酸系重合体(A)としてL−乳酸を主体とする乳酸系重合体「三井化学株式会社製レイシアH−400」(メルトフローレート3g/10min;以下PLAという。)を、耐衝撃性ポリスチレン(B)としてハイインパクトポリスチレン「大日本インキ化学工業株式会社製ディックスチレンGH8300−1」を、ブロック共重合体(C)として、「シェブロンフィリップス社製Kレジン DK11」とを、(A)/(B)/(C)が75/15/10の質量割合になるようにドライブレンドし、Tダイを具備した40mmφの単軸押出機に供給し、60〜80℃に調節された鏡面の冷却ロール上に押出し、厚さ0.45mmの厚さの実施例1の本発明のシートを得た。得られた実施例1の本発明のシートの物性を表1に示す。
【0038】
実施例2
(A)/(B)/(C)が60/20/20の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、実施例2の本発明のシートを得た。得られた実施例2の本発明のシートの物性を表1に示す。
【0039】
実施例3
(A)/(B)/(C)が40/40/20の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、実施例3の本発明のシートを得た。得られた実施例3の本発明のシートの物性を表1に示す。
【0040】
実施例4
(A)/(B)/(C)が35/35/30の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、実施例4の本発明のシートを得た。得られた実施例4の本発明のシートの物性を表1に示す。
【0041】
実施例5
(A)/(B)/(C)が25/25/50の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、実施例5の本発明のシートを得た。得られた実施例5の本発明のシートの物性を表1に示す。
【0042】
実施例6
ブロック共重合体(C)として、「JSR社製SBエラストマー:TR2003」を使用し、(A)/(B)/(C)が45/45/10の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、実施例7の本発明のシートを得た。得られた実施例7の本発明のシートの物性を表2に示す。
【0043】
実施例7
(A)/(B)/(C)が25/60/15の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例6と同様にして、実施例8の本発明のシートを得た。得られた実施例7の本発明のシートの物性を表2に示す。
【0044】
実施例8
(A)、(B)及び(C)に加えて、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体「大日本インキ化学工業株式会社製クリアシストTS−10」(以下MSという。)を、(A)/(B)/(C)/MSが35/35/15/15の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例6と同様にして、実施例8の本発明のシートを得た。得られた実施例8の本発明のシートの物性を表2に示す。
【0045】
実施例9
(A)、(B)及び(C)に加えて、ブタジエンゴム変性スチレン/メタアクリル酸エステル共重合体「大日本インキ化学工業株式会社製クリアパクトTI−300S」(以下MBSという)を、(A)/(B)/(C)/MBSが35/35/15/15の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例6と同様にして、実施例9の本発明のシートを得た。得られた実施例9の本発明のシートの物性を表2に示す。
【0046】
比較例1
L−乳酸を主体とするPLAと、GH8300−1とを、75/25の質量割合となるようにドライブレンドし、実施例と同様の方法で、厚さ0.45mmの厚さの比較例1のシートを得た。得られた比較例1のシート物性を表3に示す。
【0047】
比較例2
L−乳酸を主体とするPLAと、GH8300−1とを、50/50の質量割合となるようにドライブレンドした以外は、実施例と同様の方法で、厚さ0.45mmの厚さの比較例1のシートを得た。得られた比較例2のシート物性を表3に示す。
【0048】
比較例3
L−乳酸を主体とするPLAと、GH8300−1とを、25/75の質量割合となるようにドライブレンドした以外は、実施例と同様の方法で、厚さ0.45mmの厚さの比較例1のシートを得た。得られた比較例3のシート物性を表3に示す。
【0049】
比較例4
乳酸系重合体(A)としてL−乳酸を主体とするPLAと、GH8300−1と、Kレジン DK11とを、(A)/(B)/(C)が45/45/10のとなるような質量割合でドライブレンドした以外は実施例と同様にして、比較例4のシートを得た。得られた比較例4のシート物性を表4に示す。
【0050】
比較例5
(A)/(B)/(C)が25/65/10の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、比較例5の本発明のシートを得た。得られた比較例5のシート物性を表4に示す。
【0051】
比較例6
(A)/(B)/(C)が20/60/20の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、比較例6の本発明のシートを得た。得られた比較例6のシート物性を表4に示す。
【0052】
比較例7
(A)/(B)/(C)が20/55/25の質量割合になるようにドライブレンドした以外は実施例1と同様にして、比較例7の本発明のシートを得た。得られた比較例7のシート物性を表4に示す。
【0053】
[物性評価方法]
前記の各実施例及び比較例におけるシートの物性評価方法は以下の通りである。
【0054】
(デュポン衝撃強度の測定)
デュポン衝撃試験機(東洋精機製作所製)を用い、重錘300g、撃芯先端半径6.3mm、受台半径6.3mmの条件で、厚み0.45mmのシート試験片の50%破壊エネルギーを求めた。
【0055】
(引張破断伸度の測定)
シートの引張破断伸びは、東洋精機製作所製ストログラフAPIIを用い、JIS K7127に準じ、タイプ5試験片により、引張速度50mm/minで測定した。
【0056】
実施例1〜8では、何れもデュポン衝撃強度が0.25J以上となり、実用的な耐衝撃性を示すシートであり、TDの引張破断伸度が20%以上であり、靭性の高いものであった。引張破断伸度のMD/TD比も4以下と小さく、異方性の少ないシートであった。
一方、表3、4に示した比較例2〜6では、樹脂組成物中の共役ジエン系重合体ブロックを含有しないか又はその含有割合が低いことにより、デュポン衝撃強度が0.25J未満であり、実用的な耐衝撃性が得られていない。また、比較例1〜5では、TDの引張破断伸度が20%未満であり、靭性の低いものであった。更に、比較例2〜6では引張破断伸度のMD/TD比も5を超えており、異方性の大きなシートとなり、実用性に欠けるものであった。尚、比較例6〜7で得られたシートは、PLAの含有率が20%と低くなっており、「バイオマスプラスチックマーク」表示を許可されない成形品である。特に比較例7では、耐衝撃性や靭性面において実用的な物性値を有するものであるが、環境保護の観点からは使用できないシートである。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
実施例1及び比較例1で得られたシートを、三和工業株式会社製PLAVAC TV−33型真空成形機を用いて、ヒーター温度370℃で15秒間、シートの両面から間接加熱し、直径110mm、深さ50mmの円筒型の雌型金型によって真空成形した後、フランジ部分50mmを残してトリミングし、直径約110mm、深さ約50mm、フランジ幅5mmの円筒状容器を得た。得られた容器に、ポリエチレン袋に入れた150gの樹脂ペレットを充填し、容器側面を下にして、高さ1mから鉄板上に落下させて、容器の破損の有無を確認した。
ここで、落下したときに、容器の全部あるいは一部が破損した場合を×、変形があったものの、目視で破損が発見できなかったものを○とした。結果を表5に示す。
実施例1のシートを用いて成形した容器は、落下させても容器が変形したもの、破損しなかったが、比較例1のシートは、落下によって容器のフランジ部分が破損し、包装容器の実用強度に欠けるものであった。
【0062】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系重合体(A)と、
耐衝撃性ポリスチレン(B)と、
スチレン系重合体ブロック(c1)と共役ジエン系重合体ブロック(c2)とから構成されるブロック共重合体(C)と、
を含有する樹脂組成物であり、該樹脂組成物中における前記乳酸系重合体(A)の含有割合が25質量%以上であり、且つ、ブロック共重合体(C)中に含まれる共役ジエン系重合体ブロック(c2)と耐衝撃性ポリスチレン(B)との質量比(c2)/(B)が、0.09以上であることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする成形品。
【請求項3】
請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする押出成形シート。
【請求項4】
デュポン衝撃強度が0.25J以上であり、TDの引張破断伸度が20%以上であり、且つ引張破断伸度のMD/TD比が5〜0.5である請求項3記載の押出成形シート。
【請求項5】
請求項3又は4記載の押出成形シートを用いて得られることを特徴とする容器。

【公開番号】特開2008−297389(P2008−297389A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143307(P2007−143307)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】