説明

ポリ乳酸複合材料

【課題】 本発明は、ポリ乳酸中に層状珪酸塩が十分に均一に剥離分散した生分解性樹脂複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、多官能エポキシ化合物と正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩との双方をポリ乳酸に添加した場合に、当該正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩のみを添加した場合に比べて、ポリ乳酸マトリックス中での層状珪酸塩の剥離分散性が飛躍的に向上することを見出し、本発明のポリ乳酸複合材料を完成するに至った。すなわち、ポリ乳酸と、正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩と、多官能エポキシ化合物とを含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂複合材料及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、ポリ乳酸と層状珪酸塩とを含有する生分解性樹脂複合材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
層状珪酸塩を高分子にとナノメートルレベルで複合化したナノコンポジットは、その優れた機械的性質やガスバリヤ性などから様々な高分子について開発が進められている。この場合、分散層のアスペクト比(縦横比)が大きいほど剛性、耐熱性そしてバリヤ性などの改善効果が大きくなると考えられているため、層状珪酸塩が単層レベルまで剥離したナノコンポジットが求められている。
【0003】
ポリ乳酸は、微生物や酵素の働きにより分解する性質、いわゆる生分解性を示すことが知られていると同時に、原料に植物由来のものを用いることができるため、環境に対する負荷が低い樹脂のひとつである。しかし、ポリ乳酸単独では、1)結晶化速度が遅いため成形加工性に劣る、2)より高い温度において使用すると変形する、3)透明性に優れているが、ガスバリヤ性が著しく乏しい、などの欠点をもつことからその用途に制限があった。それらの課題を克服する目的で、層状珪酸塩の1種である粘土鉱物の陽イオンを有機イオンでイオン交換して得られる有機変性粘土鉱物をポリ乳酸に添加した生分解性樹脂複合材料が提案されている。
【0004】
例えば、ポリ乳酸等の乳酸系ポリエステルと膨潤性無機フィラーとを含む皮膜材料を用いて肥料の溶出速度を制御した徐放性肥料が開示されており(特許文献1)、膨潤性無機フィラーとして、12−アミノドデカン酸アンモニウム塩等で膨潤化された層状珪酸塩が例示されている。
【0005】
また、生分解性樹脂と、生分解性樹脂中に分散されている有機化剤により有機化された層状粘土鉱物とを含み、有機化された層状粘土鉱物の平均粒径が1μm以下である生分解性樹脂組成物も開示されている(特許文献2)。このような生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂の成形体の剛性を十分高く維持すると共に生分解速度を高めることができる。ここで、有機化剤は、第一級、第二級、第三級、又は第四級アンモニウムイオンを含む有機アンモニウム化合物、有機ホスホニウム化合物、有機ピリジニウム化合物、及び有機スルホニウム化合物のような陽イオン界面活性剤から生じる有機陽イオン化合物である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−256087号公報
【特許文献2】特開2001−89646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の生分解性樹脂複合材料であっても、ポリ乳酸中に層状珪酸塩の剥離は必ずしも十分とは言えず、積層した層状珪酸塩が残された状態であり、その添加による剛性やバリヤ性の向上効果は十分に改善できているとはいえない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリ乳酸中に層状珪酸塩が十分に均一に剥離分散した生分解性樹脂複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、多官能エポキシ化合物と正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩との双方をポリ乳酸に添加した場合に、当該正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩のみを添加した場合に比べて、ポリ乳酸マトリックス中での層状珪酸塩の剥離分散性が飛躍的に向上することを見出し、本発明のポリ乳酸複合材料を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のポリ乳酸複合材料は、ポリ乳酸と、正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩と、多官能エポキシ化合物とを含有するものである。
【0011】
また、本発明の成形体は、上記本発明のポリ乳酸複合材料を用いて得られるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩及び多官能エポキシ化合物のそれぞれとポリ乳酸との間の高い化学的親和性により、従来、十分に達成されていなかった層状珪酸塩のポリ乳酸中への剥離分散を実現した。これによって、力学特性、耐熱性、並びにバリヤ性などを高水準で改善することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用されるポリ乳酸 としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができる。このポリ乳酸 の融点には特に制限はないが、160℃以上であることが好ましい。融点が160℃未満では、樹脂組成物や得られる成形体の機械的特性や耐熱性が劣る傾向にある。
【0014】
ポリ乳酸 の重合方法は特に制限されず、D−乳酸、L−乳酸の直接重合でもよく、乳酸の環状2量体であるD−ラクチド、L−ラクチド、meso−ラクチドの開環重合であってもよい。また、ポリ乳酸 が上記D−体原料とL−体原料との共重合体である場合、D−体原料又はL−体原料のうちの一方の含有割合が90mol%以上であることが好ましく、98mol%以上であることがより好ましく、99mol%以上であることがさらに好ましい。D−体又はL−体のうちの双方が90mol%未満であると、立体規則性の低下により結晶化が阻害され、本発明により得られる効果が十分に発現しない傾向にある。
【0015】
このようにして得られるポリ乳酸 は光学異性を示すが、当該ポリ乳酸 はD−体、L−体、DL−体のいずれであってもよい。また、構成成分の主体がD−体であるポリ乳酸 と、構成成分の主体がL−体であるポリ乳酸 とが任意の割合でブレンドされたものを用いてもよい。
【0016】
さらに、本発明にかかるポリ乳酸においては、乳酸又はラクチドに加えて、グリコリド、カプロラクトン等の他の重合性単量体を更に重合させて共重合体としてもよい。また、当該他の重合性単量体の単独重合により得られるポリマーをポリ乳酸とブレンドしてもよい。なお、当該他の重合性単量体に由来する重合鎖がポリマー全量に占める割合は、モノマー換算で50mol%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の層間化合物は、層状珪酸塩の層間に正電荷有機化合物をインターカレートさせることにより得られる。本発明に用いる正電荷有機化合物としては、特にその種類に限定されないが、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機ピリジニウム塩、有機スルホニウム塩、ヨードニウム塩等のオニウム塩などが挙げられ、好ましい例として炭素数が8〜50の第一アミン,第二アミン,第三アミン及びそれらの塩化物、第四級アンモニウム塩、アミン化合物、アミノ酸誘導体、窒素含有複素環化合物等が挙げられる。
【0018】
具体的には、オクチルアミン、ラウリルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アクリルアミン、ベンジルアミン、アニリン等に代表される第一アミン;ジラウリルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、N−メチルアニリン等に代表される第二アミン:ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等に代表される第三アミン;テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリエチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、N−メチルジエタノールラウリルアンモニウムイオン、ジプロパノールモノメチルラウリルアンモニウムイオン、ジメチルモノエタノールラウリルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン、アルキルアミノプロピルアミン四級化物等の第四級アンモニウムが挙げられる。更に、ロイシン、システィン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、6−アミノヘキシルカルボン酸、12−アミノラウリルカルボン酸、N,N−ジメチル−6−アミノヘキシルカルボン酸、N−n−ドデシル−N,N−ジメチル10−アミノデシルカルボン酸、ジメチル−N−12アミノラウリルカルボン酸等のアミノ酸誘導体;ピリジン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、プロリン、γ−ラクタム、ヒスチジン、トリプトファン、メラミン等の窒素含有複素環化合物などが挙げられる。
ポリ乳酸と層間化合物の複合化はポリ乳酸の融点以上、およそ180〜230℃で混合される。その混合温度に層間化合物内の正電荷有機化合物の蒸発温度(沸点或いは昇華点)が近づいたとき、層間化合物と高分子との親和性が高まる傾向がみとめられることから、前記正電荷有機化合物の中でも、最も炭素数が大きい置換基の炭素数が6〜16のものがより好適となる。
【0019】
さらに好適なのは水酸基を有する正電荷有機化合物であり、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表される有機アンモニウム塩が例示される。これらの有機アンモニウム塩は、1種を単独で用いてもよく、両者を併用してもよい。層状珪酸塩を有機化してその層間距離を広げると共に、水酸基を介してポリ乳酸と層状珪酸塩との親和性を良好にせしめるものである。
【0020】
【化1】




[式中、R1、R2及びR3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、lは2〜20の整数を表す。]
【0021】
【化2】



[式中、R4及びR5は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はアルキル基を表し、R4とR5との合計の炭素数は6以上であり、m及びnは同一でも異なっていてもよく、1〜20の整数を表す。]
【0022】
上記一般式(1)中、R1、R2又はR3は水素原子又はアルキル基を表す。かかるアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、直鎖又は分岐鎖状のペンチル基、直鎖又は分岐鎖状のヘキシル基、直鎖又は分岐鎖状のヘプチル基、直鎖又は分岐鎖状のオクチル基、直鎖又は分岐鎖状のノニル基、直鎖又は分岐鎖状のデシル基、直鎖又は分岐鎖状のウンデシル基、直鎖又は分岐鎖状のドデシル基、直鎖又は分岐鎖状のトリデシル基、直鎖又は分岐鎖状のテトラデシル基、直鎖又は分岐鎖状のペンタデシル基、直鎖又は分岐鎖状のオクタデシル基等が挙げられる。
【0023】
前記有機オニウム塩の最も炭素数が大きい置換基の炭素数が6〜16のものが更に好ましい。有機オニウム塩の置換基のうち最も炭素数が大きい置換基の炭素数が6未満であると、層状珪酸塩の層間距離が十分に広げられず、層状珪酸塩をポリ乳酸中に均一に分散することが困難となる傾向にある。有機オニウム塩の置換基のうち最も炭素数が大きい置換基の炭素数が16より大きくなると、ポリ乳酸との混合温度、およそ180〜230℃では、層間の正電荷有機化合物が蒸発する温度に達しないため十分に剥離分散させることができない。
【0024】
正電荷有機化合物の含有量は、層状珪酸塩100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、20〜50質量部であることがより好ましい。正電荷有機化合物の含有量が前記下限値未満であると、層状珪酸塩の層間距離が十分に広げられず、層状珪酸塩をポリ乳酸中に均一に分散させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限値を超える場合には物理吸着によって導入される正電荷有機化合物の量が増加して樹脂組成物の物性が損なわれる(例えば耐熱性の低下)傾向にある。
【0025】
本発明にかかる層状珪酸塩としては特に制限されないが、具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイトに代表されるスメクタイト、マスコバイト、フロゴパイト、テニオライト、バイオタイト、マーガライト、クリントナイト、四珪素雲母などの雲母(マイカ)とその変質鉱物である2−八面体型バーミキュライト、3−八面体型バーミキュライトなどのバーミキュライト類、イライト、セリサイト、グロコナイト、セラドナイトなどの雲母粘土鉱物等が挙げられる。これらの層状珪酸塩は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成物であってもよい。また、本発明では、上記の層状粘土鉱物のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
スメクタイトや膨潤性フッ素マイカのような易イオン交換性、膨潤性の層状珪酸塩の場合、カチオン交換容量(CEC)の1〜5倍当量の比較的低い濃度の正電荷有機化合物溶液中でイオン交換処理することで、層間化合物を容易に調製できる。CECの測定方法には、カラム浸透法(参照:「粘土ハンドブック」第二版日本粘土学会編 第576〜577頁 技報堂出版)やメチレンブルー吸着法(日本ベントナイト工業会標準試験法、JBAS−107−91)等の方法が例示できる。しかし、層間にカリウムイオンなどを有する非膨潤性の層状珪酸塩の場合、層間のカチオン量の5〜20倍当量の高濃度正電荷有機化合物溶液中で60℃以上の高温度条件下でイオン交換処理することが必要となり、原料の組み合わせによって反応条件の調整が必要になる。この場合の層間のカチオン量は化学組成の分析により見積もることになる。具体的には、プラズマ分光(ICP)分析、蛍光X線分析(XRF)、X線マイクロアナライザー(EPMA)などが用いられる。
【0027】
本発明に用いられる1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物 としては特に制限はなく、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールAのノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、ビキシレノール型エポキシ化合物、N−グリシジル型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、アルコールエーテル型エポキシ化合物、臭素型エポキシ化合物、3,5−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、グリセロールプロポキシレート トリグリシジルエーテル、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキセン−メタジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヒダントイン、2,2−ビス−(4−グリジジルフェニル)プロパン等の脂環式エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物等が挙げられ、好ましくは脂環式エポキシ化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、1種もしくは2種以上を併用することができる。エポキシ化合物の使用量は任意であるが水酸基を含有する正電荷有機化合物で有機修飾された層状珪酸塩の場合、その水酸基に対して同当量用いると好適である。
【0028】
また、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物の分子量は、好ましくは1,000以下であり、より好ましくは100〜900である。当該低分子化合物の分子量が1,000を超えると、ポリ乳酸との相容性が低下して、分散性が低下したり成形体からブリードアウトしたりする傾向にある。
【0029】
前記層間化合物において正電荷有機化合物と多官能エポキシ化合物の少なくともその一部が層間にて共存することにより、更に層状珪酸塩の分散性を改善する効果がみとめられる。その際、多官能エポキシ化合物の一部を層間に共存させる方法としては、第一段階で正電荷有機化合物を層状珪酸塩にインターカレートさせて疎水性の層間化合物を調製し、第二段階にて多官能エポキシ化合物を層間化合物と直接接触させることにより調製可能となる。第二段階を分散媒体中にて多官能エポキシ化合物と層間化合物を混合するとより均一に複合化でき、多官能エポキシ化合物を該層間化合物中に挿入することができる。その場合は最後に前記分散媒体を除去する必要がある。
【0030】
前記分散媒体としては、特に限定されないが例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、α−テルピオネール等のアルコール類;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸シクロヘキシル、乳酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸プロピレン等のエステル類;及びトルエン、ミネラルスピリット及びこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0031】
層間化合物における多官能エポキシ化合物の含有量は、層間化合物100質量部に対して0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましい。多官能エポキシ化合物の含有量が前記下限値未満であると、分散性の改善が殆どみとめられず、他方、前記上限値を超える場合には、可塑剤的作用が過剰に強く発現するようになるため、結晶化を阻害することにより、ポリ乳酸複合材料の剛性や耐熱性が低下する虞がある。
【0032】
上記本発明の層間化合物は、ポリ乳酸中に分散させる高分子複合材料の充填剤に供される。ポリ乳酸複合材料中の層間化合物含有量は1〜40質量%であり、好ましくは2〜10質量%の範囲である。1質量%未満では高分子材料への十分な補強効果、性能向上が得られず、40質量%を超えると層間化合物の分散性が損なわれる虞がある。
【0033】
前記ポリ乳酸と、正電荷有機化合物を層状珪酸塩にインターカレートした層間化合物と、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを複合化する方法としては、溶融混練することが好ましく、例えば、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、ロール、単軸もしくは多軸の押出機及びコニーダーなどの公知の混練方法を用いて溶融混練することにより製造することができる。
【0034】
また、本発明の成形体を製造するに際し、その成形方法は特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等のいずれにも好適に使用することができる。本発明の成形体の形状、厚み等も特に制限されず、射出成形品、押出成形品、圧縮成形品、ブロー成形品、シート、フィルム、糸、ファブリック等のいずれでもよい。
【0035】
(実施例)
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(分散性の評価)調製した試料をミクロトームで切り出して超薄切片を作製した。この切片について、透過型電子顕微鏡TEM(JEM1010、日本電子(株))にて100kVの加速電圧で珪酸塩層の分散状態を観察し、以下の基準で評価した。
A:分散状態が非常によい。珪酸塩層がほぼ単層ごとに微分散している。
B:分散状態は比較的よいが、珪酸塩層は5〜20層積層した凝集粒子が観測される。
C:分散状態が悪い。珪酸塩層は10層以上凝集している。
【実施例1】
【0037】
層状珪酸塩として、酢酸アンモニウム法で測定したCECが107meq/100g四珪素雲母(コープケミカル(株)製 「ソマシフME−100」)200gを蒸留水4000cc中に混合し、十分に膨潤させた。この層状珪酸塩水溶液に正電荷有機化合物としてドデシル(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド「ライオンアクゾ(株)製 エソガードC/12」をCECに対して1.5当量添加して、十分に攪拌し、イオン交換反応を行った。この懸濁液を濾過して、洗浄、濾過を繰り返し、フリーのアンモニウムイオンを除去して、乾燥、粉砕して層間化合物を得た。X線回折測定の結果、底面間隔は2.4nmに拡大していた。熱重量測定から推定される層間化合物中の正電荷有機化合物含有量は30質量%であった。この層間化合物を2−プロパノール中に分散して懸濁液を調製し、そこに3官能エポキシ化合物として、グリセロールプロポキシレート トリグリシジルエーテル(分子量428、アルドリッチ)を正電荷有機化合物の1.5倍当量加え、攪拌、混合した後、2−プロパノールを除去して微粉末試料を得た。X線回折測定の結果、底面間隔は 更に3.3nmに拡大していたことから、層状珪酸塩の層間に正電荷有機化合物と多官能エポキシ化合物の一部が共存していることが確認できた。
【0038】
この多官能エポキシ化合物の一部を層間に共存させている層間化合物をポリ乳酸(テラマックTE−4000,ユニチカ(株)製)と混合し、二軸混練装置(S1−KRCニーダ、(株)栗本鐵工所)を用いて200℃で溶融混練して高分子複合材料を調製した。この高分子複合材料中の層状珪酸塩の含有量は3質量%である。更にこの試料を200℃で加圧プレスして厚さ200μmのフィルム成形体を調製した。
【0039】
このフィルム試料から超薄切片をウルトラミクロトーム(ULTRACUT UCT,ライカ(株))で調製し、透過型電子顕微鏡TEM(JEM1010、日本電子(株))にて100kVの加速電圧で層状珪酸塩の分散状態を観察した。その結果、単層レベルで珪酸塩ナノシートがポリ乳酸マトリックス中に剥離して分散している状態が確認された(図1)。分散性の評価は、Aである。
【0040】
(比較例1)
多官能エポキシ化合物を用いなかった以外はすべて実施例1と同様の処理を行った。TEM観察の結果を図2に示す。単層レベルの剥離も観測されるが、一部珪酸塩層が積層している凝集粒子(図中矢印)が観測される。分散性の評価は、Bである。
【0041】
(比較例2)
正電荷有機化合物としてトリメチルオクタデアンモニウムクロライドを用い、ME−100とイオン交換処理をして層間化合物を調製した。多官能エポキシ化合物は用いず、実施例1と同様の処理を行った。TEM観察の結果を図3に示す。珪酸塩層の積層した凝集粒子が多く観測される。分散性の評価は、Cである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、環境低負荷材料であり、機械物性、耐熱性に優れるだけでなく、層状珪酸塩の分散性、外観に優れた樹脂組成物および樹脂成形体が提供される。また本発明の樹脂成形体が提供されることによって、生活雑貨、包装容器、産業資材、構造材料をはじめとして広範な用途において、環境負荷の低い製品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図2】比較例1で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。
【図3】比較例2で得られた試料のTEM像を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)と、正電荷有機化合物を層状珪酸塩にインターカレートした層間化合物(B)と、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物(C)を含有するポリ乳酸複合材料。
【請求項2】
前記正電荷有機化合物が最も炭素数が大きい置換基の炭素数が6〜16であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸複合材料。
【請求項3】
前記正電荷有機化合物が水酸基を有することを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載のポリ乳酸複合材料。
【請求項4】
前記層間化合物の層間に正電荷有機化合物と多官能エポキシ化合物(C)の一部が少なくとも共存していることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれかに記載のポリ乳酸複合材料。
【請求項5】
前記多官能エポキシ化合物(C)の分子量が1,000以下である請求項1〜4に記載のポリ乳酸複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のポリ乳酸複合材料を成形して得られる成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63405(P2008−63405A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241421(P2006−241421)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】