説明

ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法及びその処理システム

【課題】ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制したポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法及びその処理システムを提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビフェニル汚染物11を入れるプラズマ分解炉12と、プラズマ分解炉12に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチ13とを有し、プラズマ分解炉12内にポリ塩化ビフェニル汚染物11を入れ、プラズマ分解炉12内に酸素含有ガスを供給して、ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル汚染物、例えば、汚泥、ウェス、感圧複写紙、蛍光灯安定器、又は、局部排気浄化用として使用された廃活性炭等を無害化処理する方法及びその処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリ塩化ビフェニル(Polychlorinated Biphenyl、PCB)は、化学的に安定で、熱に強く、絶縁性に優れていることから、主にトランスやコンデンサの絶縁油や、各種工場の熱媒体油等に広く使用されていた。しかしながら、PCBは、自然物及び生体の中に蓄積されやすいため、現在使用が厳しく制限されており、PCB自体はもちろん、例えば、汚泥、ウェス、感圧複写紙、蛍光灯安定器、又は局部排気浄化用として使用された廃活性炭等のPCBで汚染された汚染物(PCB汚染物)を無害化処理する方法が必要となっている。
そこで、PCBの処理方法として、(1)1100℃以上で2秒間以上滞留させる高温焼却法、(2)金属ナトリウム等のアルカリ剤によってPCBから塩素を脱離させる脱塩素化分解法、(3)紫外線と触媒による光分解法、及び(4)PCBをプラズマアークによって分解するプラズマ分解法(例えば、特許文献1参照)等が開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−121801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高温焼却法では、PCBが完全に分解されない場合があると共に、PCBの分解物からPCB又はより毒性の高いダイオキシン類が生成する危険性があるという問題があった。また、脱塩素化分解法及び光分解法では、PCBから塩素を脱離させるだけなので、脱離した塩素がビフェニルと再結合し、新たにPCBが生成する恐れがあるという問題があった。更に、高温焼却法、脱塩素化分解法、及び光分解法では、PCBの付着した被汚染物をPCBとは別に処理しなければならないという問題もあった。
【0005】
また、プラズマ分解法では、PCB汚染物を収納する金属容器ごと処理可能であるが、PCB汚染物をプラズマ分解した際に発生する排気中に含まれる未分解のPCB及びPCBの分解物を1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解する恒温チャンバーと、PCBが完全に分解している排気からPCB又はより毒性の高いダイオキシン類が合成しないように排気を急冷する減温塔とが必要であった。更に、廃活性炭は熱的に安定であるため、プラズマ溶融方式をもってしても処理速度が上がらないという問題もあった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制したポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法及びその処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法は、プラズマ分解炉内にポリ塩化ビフェニル汚染物を入れ、前記プラズマ分解炉に設けたプラズマトーチから発生する高温状態のプラズマアークによって、前記ポリ塩化ビフェニルを熱分解するポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、
前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給して、前記ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させる。
【0008】
PCB汚染物としては、汚泥、ウェス、安定器、感圧複写紙、トランスコアやコンデンサ素子等のPCB含有電気機器の粗解体品、及び、局部排気浄化用として使用された廃活性炭等があり、通常これらは金属容器(例えば、ドラム缶)に密閉保存されている。なお、本発明では、PCB汚染物として、廃PCBや、PCBを含む廃油、廃酸、廃アルカリ等も含む。また、PCBには、副生成物である毒性の高いコプラナーPCBを含むダイオキシン類が含まれることがある。
【0009】
このような、PCB汚染物を封入している例えば金属容器をプラズマ分解炉内に入れ、更にプラズマ分解炉内に酸素含有ガス(例えば、空気、又は酸素等)を供給して、高温、例えば、15000℃以上のプラズマアークを発生させ、PCBを瞬時に原子レベルまで分解すると共に、プラズマアークの熱によってプラズマ分解炉内が1100〜1400℃程度となり、この熱によって、PCBを熱分解することができる。この際には、PCB汚染物に含まれるダイオキシン類も熱分解される。これらの分解物(例えば、ダイオキシン類の前駆体、ベンゼン、及び塩化物等)は、酸素含有ガス中の酸素により酸化され、安定した物質、例えば、二酸化炭素、水、及び塩化水素となり、無害化される。なお、プラズマアークとは、プラズマ放電によって発生するプラズマである。また、酸素含有ガスは、酸素の濃度が20容量%以上、すなわち、空気又は空気以上に酸素を含有するガスを使用する。
【0010】
第1の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記プラズマアークのガスに酸素含有ガスを使用してもよい。
第1の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記酸素含有ガスが酸素ガス(純酸素)であって、前記プラズマ分解炉内を実質的に酸素雰囲気にするのが好ましい。
【0011】
前記目的に沿う第2の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法は、プラズマ分解炉内にポリ塩化ビフェニル汚染物を入れ、前記プラズマ分解炉に設けたプラズマトーチから発生する高温状態のプラズマアークによって、前記ポリ塩化ビフェニルを熱分解し、その際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を、前記プラズマ分解炉にダクトを介して接続された恒温チャンバー内で1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解するポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、
前記恒温チャンバー内及び前記ダクト内のいずれか一方又は双方に酸素含有ガスを供給して、前記ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させる。
【0012】
PCB汚染物をプラズマ分解した際に発生する排気中に含まれる未分解のPCB及びPCBの分解物は、恒温チャンバー内で1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解されると共に、酸素含有ガス中の酸素により酸化され、安定した物質、例えば、二酸化炭素、水、及び塩化水素となり、無害化される。従って、通常、恒温チャンバーの後段に配置される減温塔は必要なくなる。
【0013】
第2の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、更に、前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給してもよい。
第2の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記酸素含有ガスが酸素ガスであるのが好ましい。
【0014】
第3の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムは、ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、該プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチとを有し、前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給する。
ここで、酸素含有ガスとしは、酸素の濃度が20容量%以上、すなわち、空気又は空気以上に酸素を含有するガスが使用でき、特に、酸素ガス(純酸素)を使用するのが好ましい。
第3の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記プラズマ分解炉内に直接供給されてもよい。
【0015】
第3の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記プラズマ分解炉の外側には、該プラズマ分解炉を囲む密閉容器が配置され、該密閉容器内は正圧に、前記プラズマ分解炉内は負圧になって、しかも、前記密閉容器内には前記酸素含有ガスが充填されてもよい。
第3の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記プラズマトーチを介して前記プラズマ分解炉内に供給されてもよい。
プラズマトーチには、プラズマ分解炉内に供給される酸素含有ガスの一部もしくは全部が供給される。
【0016】
第4の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムは、ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、該プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチと、前記プラズマ分解炉にダクトを介して接続され、該プラズマ分解炉からの排気を1100〜1400℃で1〜5秒間保持する恒温チャンバーとを有し、前記恒温チャンバー内に酸素含有ガスを供給する。
【0017】
第4の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記恒温チャンバー内及び前記ダクト内のいずれか一方又は双方に供給されてもよい。
第4の発明に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、更に、前記酸素含有ガスは前記プラズマ分解炉内に供給されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1〜3に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、ポリ塩化ビフェニル汚染物をプラズマ分解炉内に入れ、酸素含有ガスを供給して、プラズマトーチから高温状態のプラズマアークを発生させるので、ポリ塩化ビフェニル及びその分解物を酸化して、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制することができる。また、ポリ塩化ビフェニルの副生成物であるダイオキシン類の分解物、例えば、ダイオキシン類の前駆体、ベンゼン、及び塩化物等も酸化されるので、ダイオキシン類の再合成も抑制することができる。更に、通常、空気中でポリ塩化ビフェニルを分解すると、一酸化炭素及び炭素が生成するが、プラズマ分解炉内に供給される酸素含有ガス中の酸素によって二酸化炭素まで酸化することができ、一酸化炭素の生成が抑えられる。更に、熱的に安定した廃活性炭は、酸素含有ガスを供給することにより、一酸化炭素から二酸化炭素への反応速度を増す効果がある。
【0019】
特に、請求項2記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、プラズマアークのガスに酸素含有ガスを使用するので、より効率的に酸素プラズマを発生させることができる。
請求項3記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、酸素含有ガスが酸素ガスであって、プラズマ分解炉内を実質的に酸素雰囲気にするので、窒素酸化物の生成を抑えることができる。
【0020】
請求項4〜6に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、プラズマ分解炉内にポリ塩化ビフェニル汚染物を入れ、ポリ塩化ビフェニルを熱分解し、その際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を、恒温チャンバー内で1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解すると共に、恒温チャンバー内及びダクト内のいずれか一方又は双方に酸素含有ガスを供給して、ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させるので、ポリ塩化ビフェニル及びその分解物を酸化して、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制することができる。
【0021】
特に、請求項5記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、更に、プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給するので、プラズマ分解炉内でもポリ塩化ビフェニル及びその分解物を酸化することができ、より効率的にポリ塩化ビフェニル汚染物を処理できる。
請求項6記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法においては、酸素含有ガスが酸素ガスであるので、窒素酸化物の生成を抑えることができる。
【0022】
請求項7〜10に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチとを有し、プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給するので、プラズマ分解炉内が酸素雰囲気となり、ポリ塩化ビフェニル及びその分解物が酸化され、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制することができる。また、ポリ塩化ビフェニルの副生成物であるダイオキシン類の再合成も抑制することができる。
特に、請求項8記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、酸素含有ガスがプラズマ分解炉内に直接供給されるので、プラズマ分解炉を簡単な構造とすることができる。
【0023】
請求項9記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、プラズマ分解炉の外側にプラズマ分解炉を囲む密閉容器が配置され、密閉容器内は正圧に、プラズマ分解炉内は負圧になって、しかも、密閉容器内には酸素含有ガスが充填されているので、酸素含有ガスをプラズマ分解炉内に供給し易い。
請求項10記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、酸素含有ガスがプラズマトーチを介してプラズマ分解炉内に供給されるので、より効率的に酸素プラズマを発生させることができる。
【0024】
請求項11〜13に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチと、プラズマ分解炉にダクトを介して接続され、プラズマ分解炉からの排気を1100〜1400℃で1〜5秒間保持する恒温チャンバーとを有し、恒温チャンバー内に酸素含有ガスを供給するので、プラズマ分解炉内でポリ塩化ビフェニルを熱分解した際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を恒温チャンバー内で酸化して、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制することができる。また、ポリ塩化ビフェニルの副生成物であるダイオキシン類の再合成も抑制することができる。更に、恒温チャンバーの後段に減温塔を配置しなくてもよい。
【0025】
特に、請求項12記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、酸素含有ガスが、恒温チャンバー内及びダクト内のいずれか一方又は双方に供給されるので、酸素含有ガスを恒温チャンバー内に供給し易い。
請求項13記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいては、更に、酸素含有ガスがプラズマ分解炉内に供給されるので、プラズマ分解炉内でもポリ塩化ビフェニル及びその分解物を酸化することができ、より効率的にポリ塩化ビフェニル汚染物を処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図、図2は同処理システムのプラズマ分解装置の説明図、図3は本発明の第2の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図、図4は本発明の第3の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図である。
【0027】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム(以下、「PCB処理システム」ともいう)10は、ポリ塩化ビフェニル汚染物(PCB汚染物)11をプラズマ分解炉12内でプラズマ処理して無害化する装置である。PCB処理システム10は、PCB汚染物11を入れるプラズマ分解炉12、及びプラズマ分解炉12に設けられて、高温状態のプラズマアークを発生させるプラズマトーチ13を備え、PCBをプラズマアークで分解処理するプラズマ分解装置14と、プラズマ分解炉12内に酸素含有ガスの一例である空気を直接供給する酸素供給手段15と、プラズマ分解炉12から排出される排気を冷却する冷却器16と、冷却器16で冷却された排気の熱を熱交換するボイラー17と、排気に含まれる煤等の固形成分を捕集する電気集塵機18とを有している。以下、それぞれの機器について詳しく説明する。
【0028】
PCB汚染物11は、例えば、汚泥、ウェス、安定器、感圧複写紙、トランスコアやコンデンサ素子等のPCB含有電気機器の粗解体品、及び、局部排気浄化用として使用された廃活性炭等のいずれか1又は2以上であり、通常、金属容器であるドラム缶20内に密閉されている(図2参照)。
【0029】
プラズマ分解装置14には、プラズマ分解炉12に隣接して、プラズマ分解炉12内にPCB汚染物11が封入されたドラム缶20を投入する投入室21が設けられている。投入室21には、ドラム缶20を所定の個数、例えば1つずつプラズマ分解炉12内に順送りするための耐熱機能を有する仕切板22が設けられている。
【0030】
プラズマ分解炉12には、投入室21に連通し、投入室21から送られるドラム缶20をプラズマ分解炉12に搬入する投入口23が設けられている。また、プラズマ分解炉12には、プラズマ分解炉12内にプラズマアークを発生させる1又は複数、例えば、2つのプラズマトーチ13が設けられている。
【0031】
プラズマトーチ13は、図示しない陽極及び陰極の電極を備えた非移行型であり、陽極と陰極の間に連続的にガス(例えば、空気)を供給しながら通電し、高温、例えば、15000℃程度のプラズマアーク(空気プラズマ)を発生させ、このプラズマアークによってPCBのプラズマ分解を行う。なお、プラズマトーチとしては、プラズマトーチ内に陽極を設け、溶融する対象物を陰極とする移行型であってもよい。プラズマ分解炉12内の温度は、1100〜1400℃であり、金属製のドラム缶20も溶融することができる。また、プラズマトーチ13は、可動自在となっており、プラズマ分解炉12内を図示しないカメラによって観察し、未処理のドラム缶に向けてプラズマアークを照射するように、プラズマトーチ13を移動可能としている。
【0032】
また、プラズマ分解炉12の天井には、プラズマ分解炉12内でPCBが分解した際に発生する排気(例えば、二酸化炭素、水(水蒸気)、及び塩化水素等を含む)を、プラズマ分解炉12外に排出する排気口24が連接して設けられている。
更に、プラズマ分解炉12には、プラズマ分解炉12内で発生するドラム缶20やPCB汚染物11の溶融成分、例えば、土砂、金属、及びコンクリート等から生成するスラグ25をプラズマ分解炉12外に排出するスラグ排出口26が設けられている。
【0033】
プラズマ分解装置14には、スラグ排出口26から排出されるスラグ25をプラズマ分解炉12から搬出するスラグ搬出手段27が設けられている。スラグ搬出手段27は、プラズマ分解炉12の下部に設けられたスラグ排出口26の下方に配置され、所定量のスラグ25を収納可能な1又は複数のスラグ搬出容器28と、スラグ搬出容器28を順送りする図示しない移動手段(例えば、コンベア等)とを備えている。
【0034】
酸素供給手段15は、プラズマ分解炉12に設けられた図示しないガス供給口からプラズマ分解炉12内に直接空気を送るポンプ29と、ポンプ29からガス供給口に接続されるガス供給管30とを備えている。プラズマ分解炉12内に供給された空気中の酸素によって、プラズマアークで分解したPCB分解物(ダイオキシン類の前駆体、ベンゼン、及び塩化物等)及び未分解のPCBを完全に酸化して、安定した物質、例えば、二酸化炭素、水、及び塩化水素にして、無害化される。従って、PCBの再合成やPCBよりも毒性の高いダイオキシン類等の合成(生成)を抑制することができる。また、プラズマ分解によって生成する一酸化炭素やカーボンを酸化して、二酸化炭素とすることもできる。更に、PCBに含有される副生成物(ダイオキシン類)の再合成も抑制できる。
【0035】
このように、プラズマ分解炉12内に酸素含有ガスを供給する場合には、従来のように、プラズマ分解装置で分解したPCBの排気を、1100〜1400℃で5秒間維持して完全にPCBを分解する恒温チャンバーや、恒温チャンバーで分解したPCBの分解物からPCB等を再合成しないように急冷する減温塔が必要なくなる。なお、プラズマ分解炉12内には、空気の代わりに酸素を供給し、プラズマ分解炉12内を実質的に酸素雰囲気とし、窒素酸化物を生成させないようにしてもよい。
【0036】
冷却器16では、プラズマ分解炉12の排気口24から排出された1100〜1400℃の高温の排気を下流側に配置されたボイラー17の耐熱温度以下、例えば、1100℃以下に冷却している。また、ボイラー17は、既存のものが使用でき、1100℃以下の排気を、例えば、300℃程度まで冷却して、排気の熱を回収している。ここで、プラズマ分解炉12から発生する排気からは、PCB等が合成されないので、PCBの再合成する温度域である800〜400℃に冷却してもよい。更に、電気集塵機18によって、排気に含まれる固形成分を回収する。なお、排気の温度が200±20℃程度の場合にはバグフィルタを使用してもよい。更に、排気を図示しない触媒反応塔、活性炭槽を通過させて、大気に放散してもよい。
【0037】
次に、PCB処理システム10を使用したPCB汚染物11の処理方法について説明する。
まず、ポンプ29を駆動させて空気をプラズマ分解炉12内に供給しながら、プラズマトーチ13によって、15000℃程度のプラズマアークを発生させる。
次に、PCB汚染物11が封入されたドラム缶20をプラズマ分解装置14の投入室21に配置し、仕切板22を操作して投入室21内のドラム缶20をプラズマ分解炉12に供給する。
【0038】
発生したプラズマアークによって、プラズマ分解炉12内は1100〜1400℃程度となり、ドラム缶20が溶融すると共に、PCBが原子レベルまで分解される。更に、PCBの分解物は、プラズマ分解炉12内の酸素によって酸化され、例えば、二酸化炭素、水(水蒸気)、及び塩化水素を含む排気が生成し無害安定化される。また、プラズマトーチ13によって、酸素プラズマが発生した場合、PCB及びその分解物は、より効率的に酸化される。
【0039】
ここで、発生する排気はプラズマ分解炉12の排気口24から排出され、冷却器16で1100℃以下に冷却され、ボイラー17で熱回収された後、電気集塵機18で固形成分が除去される。また、プラズマ分解炉12内で発生するスラグ25は、プラズマ分解炉12のスラグ排出口26からスラグ搬出容器28に供給されて、プラズマ分解炉12外に搬出される。
【0040】
図3を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム40について説明する。なお、PCB処理システム10と同一の構成要素については同一の番号を付してその詳しい説明を省略する。
PCB処理システム40は、ガス供給管30が、ポンプ29からプラズマトーチ13に接続されている点がPCB処理システム10と異なっている。これによって、プラズマ分解炉12内では、空気プラズマ(特に、酸素プラズマ)が発生し、PCB及びその分解物を熱分解させた後、速やかに酸化させ無害安定化することができる。なお、プラズマトーチ13に供給する酸素含有ガスを酸素にした場合には、高効率で酸素プラズマを発生させることができ、PCB及びその分解物の酸化を促進することができる。
【0041】
図4を参照して、本発明の第3の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム50について説明する。なお、PCB処理システム10、40と同一の構成要素については同一の番号を付してその詳しい説明を省略する。
PCB処理システム50は、プラズマ分解炉12にダクト51を介して接続され、プラズマ分解炉12でポリ塩化ビフェニルを熱分解した際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を、1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解する恒温チャンバー52を備え、しかも、ダクト51にはガス供給管30を介してポンプ29が接続され、ダクト51内に空気(酸素含有ガス)が供給されている点が、PCB処理システム10、40と異なっている。
【0042】
これによって、恒温チャンバー52内では、プラズマ分解炉12内でポリ塩化ビフェニルを熱分解した際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を完全に酸化して、ポリ塩化ビフェニルの再合成を抑制することができる。従って、通常、恒温チャンバー52の後段に配置される減温塔が必要なくなる。
なお、PCB処理システム50では、ガス供給管30をダクト51に接続したが、恒温チャンバー52に接続して、直接酸素含有ガスを恒温チャンバー52内に供給してもよい。また、ダクト51と恒温チャンバー52の双方に酸素含有ガスを供給してもよい。更に、プラズマ分解炉12内に酸素含有ガスを供給し、プラズマ分解炉12内でもポリ塩化ビフェニル及びその分解物を酸化し、より効率的にポリ塩化ビフェニル汚染物を処理してもよい。
【0043】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法及びその処理システムを構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【0044】
例えば、前記実施の形態のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法及びその処理システムにおいて、酸素含有ガスをプラズマ分解炉に直接供給するためにポンプを使用したが、プラズマ分解炉の外側にプラズマ分解炉を囲む密閉容器を配置し、密閉容器内を正圧に、プラズマ分解炉内を負圧とし、しかも、密閉容器内に酸素含有ガスを充填してもよい。また、プラズマ分解炉内への酸素供給ガスの供給は、酸素含有ガスを直接プラズマ分解炉内に供給すると共に、プラズマトーチを介して供給してもよい。更に、ポリ塩化ビフェニルを分解処理して生成した排気を冷却器、ボイラー、及び電気集塵機で処理したが、この限りではなく、従来の装置を用いて排気の処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図である。
【図2】同処理システムのプラズマ分解装置の説明図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係るポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムの説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10:ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム、11:ポリ塩化ビフェニル汚染物、12:プラズマ分解炉、13:プラズマトーチ、14:プラズマ分解装置、15:酸素供給手段、16:冷却器、17:ボイラー、18:電気集塵機、20:ドラム缶、21:投入室、22:仕切板、23:投入口、24:排気口、25:スラグ、26:スラグ排出口、27:スラグ搬出手段、28:スラグ搬出容器、29:ポンプ、30:ガス供給管、40:ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム、50:ポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム、51:ダクト、52:恒温チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ分解炉内にポリ塩化ビフェニル汚染物を入れ、前記プラズマ分解炉に設けたプラズマトーチから発生する高温状態のプラズマアークによって、前記ポリ塩化ビフェニルを熱分解するポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、
前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給して、前記ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記プラズマアークのガスに酸素含有ガスを使用することを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記酸素含有ガスが酸素ガスであって、前記プラズマ分解炉内を実質的に酸素雰囲気にすることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項4】
プラズマ分解炉内にポリ塩化ビフェニル汚染物を入れ、前記プラズマ分解炉に設けたプラズマトーチから発生する高温状態のプラズマアークによって、前記ポリ塩化ビフェニルを熱分解し、その際に発生する排気中に含まれる未分解のポリ塩化ビフェニル及びポリ塩化ビフェニルの分解物を、前記プラズマ分解炉にダクトを介して接続された恒温チャンバー内で1100〜1400℃で1〜5秒間保持して完全に分解するポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、
前記恒温チャンバー内及び前記ダクト内のいずれか一方又は双方に酸素含有ガスを供給して、前記ポリ塩化ビフェニル汚染物を無害安定化させることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項5】
請求項4記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、更に、前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給することを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項6】
請求項4及び5のいずれか1項に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法において、前記酸素含有ガスが酸素ガスであることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理方法。
【請求項7】
ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、該プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチとを有し、前記プラズマ分解炉内に酸素含有ガスを供給することを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項8】
請求項7記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記プラズマ分解炉内に直接供給されることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項9】
請求項8記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記プラズマ分解炉の外側には、該プラズマ分解炉を囲む密閉容器が配置され、該密閉容器内は正圧に、前記プラズマ分解炉内は負圧になって、しかも、前記密閉容器内には前記酸素含有ガスが充填されていることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記プラズマトーチを介して前記プラズマ分解炉内に供給されることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項11】
ポリ塩化ビフェニル汚染物を入れるプラズマ分解炉と、該プラズマ分解炉に設けられ、高温状態のプラズマアークを発生するプラズマトーチと、前記プラズマ分解炉にダクトを介して接続され、該プラズマ分解炉からの排気を1100〜1400℃で1〜5秒間保持する恒温チャンバーとを有し、前記恒温チャンバー内に酸素含有ガスを供給することを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項12】
請求項11記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、前記酸素含有ガスは、前記恒温チャンバー内及び前記ダクト内のいずれか一方又は双方に供給されることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。
【請求項13】
請求項12記載のポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システムにおいて、更に、前記酸素含有ガスは前記プラズマ分解炉内に供給されることを特徴とするポリ塩化ビフェニル汚染物の処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−296415(P2007−296415A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69646(P2006−69646)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】