説明

ポリ(エチレングリコール)の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルの調製のための方法

【課題】活性化ポリ(エチレングリコール)誘導体およびこのような誘導体の調製方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、アミン塩基および有機溶媒の存在下で、水溶性の非ペプチド重合体の末端ヒドロキシ基を、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)と反応させることによって水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを調製するための方法を提供する。この重合体の骨格は、ポリ(エチルグリコール)であり得る。次いで、この1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルは、生物学的に活性な因子と直接的に反応させて、生物学的に活性な重合体結合体を形成し得るか、またはアミノ酸(例えば、リジン)と反応させて、アミノ酸誘導体を形成し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、活性化ポリ(エチレングリコール)誘導体およびこのような誘導体の調製方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
親水性重合体ポリ(エチレングリコール)、略名PEG(また、ポリ(エチレンオキシド)、略名PEOとして周知である)の分子および表面への共有結合的付着は、生物工学および医薬においてかなり有用なものである。これらの最も一般的形態において、PEGは、各末端がヒドロキシル基で終わる直鎖状重合体:
HO−CHCHO−(CHCHO)−CHCH−OH
である。
【0003】
上記の重合体、α−,ω−ジヒドロキシルポリ(エチレングリコール)は、HO−PEG−OHのような簡単な形態で表現され得る。ここで、−PEG−という記号は、以下の構造単位:
−CHCHO−(CHCHO)−CHCH
を表す。ここで、nは、典型的には、約3から約4000までの範囲である。
【0004】
PEGは、通常、メトキシ−PEG−OH(または、簡単には、mPEG)として使用される。mPEGにおける一方の末端は、相対的に不活性なメトキシ基であるが、他方の末端は、予め化学的な修飾に供されるヒドロキシル基である。mPEGの構造は、以下に与えられる。
【0005】
CHO−(CHCHO)−CHCH−OH
以下に示される、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのランダムまたはブロックコポリマーは、コポリマーの化学においてPEGに密接に関連し、そして、コポリマーは、多くのPEGのてきにおいてPEGの代わりをし得る。
【0006】
HO−CHCHRO(CHCHRO)CHCHR−OH
ここで、各Rは、独立的にHまたはCHである。
【0007】
PEGは、水および多くの有機溶媒において可溶性、無毒性ならびに非免疫原性の性質を有する重合体である。1回のPEGの使用は、不溶性分子に重合体を共有結合的に付着し、得られたPEG−分子「結合体」を可溶性にする。例えば、不水溶性薬剤のパクリタキセルは、PEGに結合される場合、水溶性になることが示される(Greenwaldら、J.Org.Chem.,60:331〜336(1995))。
【0008】
PEGを、分子(例えば、タンパク質)に結合するために、しばしば、PEGの末端に官能基を有するPEGの誘導体の調製によってPEGを「活性化」する必要がある。官能基は、タンパク質上の特定の部分(例えば、アミノ基)と反応し得、従って、PEG−タンパク質結合体を形成する。
【0009】
米国特許第5,650,234号において(これは、本明細書中に全体が参考として援用される)、ポリ(エチレングリコール)の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルが記載されている。PEGの1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルの形成のための’234号の特許に記載される多段階方法は、PEG塩化ギ酸の中間体を形成するために、揮発性かつ危険な化合物(ホスゲン)とPEG分子との反応を含む。この方法におけるホスゲンの使用は、HClの形成を生じる。HClは、PEGの骨格の分解を起こし得る。ホスゲンの揮発性の性質、ならびにホスゲンの使用に関連する安全性の問題および質的な問題の発生のために、ホスゲンを使用せずに、PEGの1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを調製する方法が、当該分野において必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、重合体を炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)と反応させることによる水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルの調製のための方法を提供する。本発明を使用して、1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルは、1段階でかつホスゲンを使用せずに形成され得れ、それによって、この化合物の使用に関連する安全性の問題および質的な問題を避け得る。
【0011】
本発明の方法は、少なくとも1つの末端のヒドロキシル基を有する水溶性の非ペプチド重合体を提供する工程、および水溶性の非ペプチド重合体の末端のヒドロキシル基を、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)と反応させ、水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを形成する工程を包含する。適切な水溶性の非ペプチド重合体の例としては、ポリ(アルキレングルコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)。ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスホファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)、ならびにそのコポリマー、ターポリマー、およびこれら混合物が挙げられる。1つの実施形態において、この重合体は、約200Daから約100,000Daの平均分子量を有するポリ(エチレングリコール)である。
【0012】
この反応工程は、有機溶媒または塩基の存在下で行われ得る。適切な有機溶媒の例としては、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、テトロヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびこれら混合物が挙げられる。塩基としては、例えば、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリアルキルアミンおよびこれら混合物が挙げられ得る。
【0013】
本発明の方法は、さらに、水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを、複数個の1級アミノ基(例えば、タンパク質、ポリ(エチレングリコール)、アミノ炭水化物またはポリ(ビニルアミン))を有する第2の重合体のアミノ基と反応させ、架橋重合体を形成する工程を包含し得る。さらに、1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルは、アミノ酸(例えば、リジン)と反応させて、重合体アミノ酸誘導体を形成し得るか、または生物学的に活性な因子と反応させて、生物学的に活性な重合体結合体を形成し得るかのいずれかの反応を起こし得る。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1) 水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを調製するための方法であって、以下:
少なくとも1つの末端ヒドロキシル基を有する水溶性の非ペプチド重合体を提供する工程;および、
該水溶性の非ペプチド重合体の該末端ヒドロキシル基を、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)と反応させて、水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを形成する工程、
を包含する、方法。
(項目2) 前記水溶性の非ペプチド重合体が、以下:
ポリ(アルキレングルコール)、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)、ならびにそのコポリマー、ターポリマー、および混合物、
からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記水溶性の非ペプチド重合体が、ポリ(エチレングリコール)である、項目1に記載の方法。
(項目4) 前記ポリ(エチレングリコール)が、約200Daから約100,000Daまでの平均分子量を有する、項目3に記載の方法。
(項目5) 前記水溶性の非ペプチド重合体が、約2から約300の末端を有する、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記水溶性の非ペプチド重合体が、R’−POLY−OH構造を有し、かつ該水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルが、以下の構造:
【化1】


を有し、ここで、POLYは、水溶性の非ペプチド重合体の骨格であり、かつR’は、キャッピング基である、項目1に記載の方法。
(項目7) POLYが、ポリ(エチレングリコール)である、項目6に記載の方法。
(項目8) 前記ポリ(エチレングリコール)が、約200Daから約100,000Daまでの平均分子量を有する、項目7に記載の方法。
(項目9) R’が、メトキシである、項目6に記載の方法。
(項目10) R’が、以下:
ヒドロキシル基、保護されたヒドロキシル基、活性エステル、活性カーボネート、アセタール、アルデヒド基、アルデヒド水和物、アルケニル基、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド基、活性スルホン酸、保護されたアミン基、保護されたヒドラジド基、チオール基、保護されたチオール基、カルボン酸基、保護されたカルボン酸基、イソシアネート、イソチオシアネート、マレイミド基、ビニルスルホン基、ジチオピリジン基、ビニルピリジン基、ヨードアセトアミド基、エポキシド基、グリオキサール基、ジオン基、メシレート基、トシレート基、およびトレシレート基、
からなる群から選択される官能基である、項目6に記載の方法。
(項目11) 前記水溶性の非ペプチド重合体が、HO−POLYa−R(POLYb−X)q構造を有し、かつ前記水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルが、以下の構造:
【化2】


を有し、ここで、POLYaおよびPOLYbが、同じか、または異なり得る水溶性の非ペプチド重合体骨格であり:
Rが中心核分子であり;
qが2から約300の整数であり;そして
各Xがキャッピング基である、項目1に記載の方法。
(項目12) POLYaおよびPOLYbが、ポリ(エチレングリコール)である、項目11に記載の方法。
(項目13) POLYaおよびPOLYbがそれぞれ、約200Daから約100,000Daの平均分子量を有する、項目12に記載の方法。
(項目14) 各Xが、以下:
アルコキシ基、ヒドロキシル基、保護されたヒドロキシル基、活性エステル、活性カーボネート、アセタール、アルデヒド基、アルデヒド水和物、アルケニル基、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド基、活性スルホン、保護されたアミン基、保護されたヒドラジド基、チオール基、保護されたチオール基、カルボン酸基、保護されたカルボン酸基、イソシアネート、イソチオシアネート、マレイミド基、ビニルスルホン基、ジチオピリジン基、ビニルピリジン基、ヨードアセトアミド基、エポキシド基、グリオキサール基、ジオン基、メシレート基、トシレート基、およびトレシレート基、
からなる群から独立的に選択される、項目11に記載の方法。
(項目15) 前記反応させる工程が、有機溶媒中で行われる、項目1に記載の方法。
(項目16) 前記有機溶媒が、以下:
塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、テトロヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびこれら混合物、
からなる群から選択される、項目15に記載の方法。
(項目17) 前記反応させる工程が、塩基の存在下で行われる、項目1に記載の方法。
(項目18) 前記塩基が、以下:
ピリジン、ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリアルキルアミンおよびこれら混合物、
からなる群から選択される、項目17に記載の方法。
(項目19) 炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)の前記水溶性の非ペプチド重合体に対するモル比が、約30:1か、またはそれ未満である、項目1に記載の方法。
(項目20) さらに、以下の工程:
複数個の1級アミノ基を有する第2の重合体を提供する工程;および、
前記水溶性の非ペプチド重合体の前記1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを、該第2の重合体の少なくとも2つの該アミノ基と反応させて、架橋重合体を形成する工程、
を包含する、項目1に記載の方法。
(項目21) 前記第2の重合体が、タンパク質、アミノポリ(エチレングリコール)、アミノ炭水化物およびポリ(ビニルアミン)からなる群から選択される、項目20に記載の方法。
(項目22) さらに、前記水溶性の非ペプチド重合体の前記1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを、アミノ酸と反応させて、アミノ酸誘導体を形成する工程を含む、項目1に記載の方法。
(項目23) 前記アミノ酸が、リジンである、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記アミノ酸誘導体が、以下の構造:
【化3】


を有し、ここで、PEGが、ポリ(エチレングリコール)であり、かつZが、H、N−スクシンイミジルおよび1−ベンゾトリアゾリルからなる群から選択される、項目23に記載の方法。
(項目25) さらに、前記水溶性の非ペプチド重合体の前記1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを生物学的に活性な因子と反応させて、生物学的に活性な重合体結合体を形成する、項目1に記載の方法。
(項目26) 前記生物学的に活性な因子が、以下:
ペプチド、タンパク質、酵素、低分子薬物、色素、脂質、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、細胞、ウイルス、リポソーム、微小粒子およびミセル、
からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(項目27) 項目1の方法に従って調製される、水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステル。
(項目28) 水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを調製する方法であって、以下:
末端ヒドロキシル基を含み、かつ約200Daから約100,000Daまでの平均分子量を含む、ポリ(エチレングリコール)分子を提供する工程であって、該ポリ(エチルグリコール)分子が、R’−PEG−OH構造を有し、ここで、R’は、キャッピング基である、工程;および、
該末端のヒドロキシル基を、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)と反応させて、以下の構造:
【化4】


を有する前記ポリ(エチレングリコール)の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを形成する工程であり、ここでR’は、上で定義されるとうりである、工程、を包含する、方法。
(項目29) R’が、メトキシである、項目28に記載の方法。
(項目30) R’が、以下:
ヒドロキシル基、保護されたヒドロキシル基、活性エステル、活性カーボネート、アセタール、アルデヒド基、アルデヒド水和物、アルケニル基、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド基、活性スルホン、保護されたアミン基、保護されたヒドラジド基、チオール基、保護されたチオール基、カルボン酸基、保護されたカルボン酸基、イソシアネート、イソチオシアネート、マレイミド基、ビニルスルホン基、ジチオピリジン基、ビニルピリジン基、ヨードアセトアミド基、エポキシド基、グリオキサール基、ジオン基、メシレート基、トシレート基、およびトレシレート基、
からなる群から選択される官能基である、項目28に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
用語「官能基」、「活性な部分」、「活性基」、「反応性部位」、「化学的に反応性の基」および「化学的に反応性の部分」は、分子の明確な、定義可能な部分または単位もことをいうために当該分野および本明細書中で使用される。この用語は、化学分野において多少同義であり、そしていくつかの機能または活性を生じかつ他の分子と反応する分子の部分を示すために本明細書中で使用される。官能基との結合において使用する場合、用語「活性な」とは、反応するために、強力な触媒または極めて非現実的な反応条件を必要とする官能基とは対照的に、他の分子上の求電子性基または求核性基と容易に反応する官能基を含むことが意図される。例えば、当該分野で理解されるように、用語「活性なエステル」は、アミンのような求核性基と容易に反応するエステルを含む。典型的には、活性なエステルは、数分足らずで、水性媒体中でアミンと反応するが、特定のエステル(例えば、メチルエステルまたはエチルエステル)は、求核性基と反応するために強力な触媒を必要とする。
【0015】
用語「結合」または「リンカー」は、通常、化学反応の結果として形成され、そして典型的には共有結合する基または結合をいうために本明細書中で使用さる。加水分解に安定な結合は、結合が、実質的に水中で安定であり、そして(例えば、恐らく無制限でも、長期間、生理学的な条件下で)有用なpHで水と反応しないことを意味する。加水分解に不安定な結合または分解性の結合は、この結合が、水中または水性溶液中(例えば、血液を含む)で分解性であることを意味する。酵素学的に不安定な結合または分解性の結合は、この結合が1つ以上の酵素によって分解され得ることを意味する。当該分野で理解されるように、PEGおよび関連する重合体は、重合体骨格と重合体分子の1つ以上の末端官能基との間に、重合体骨格中またはリンカー基中の分解性の結合を含み得る。
【0016】
用語「生物学的に活性な分子」、「生物学的に活性な部分」または「生物学的に活性な因子」は、本明細書中で使用される場合、生物(ウイルス、細菌、真菌、植物、動物およびヒトが挙げられるがこれらに限定されない)の任意の物理的性質または生化学的性質に影響を与え得る任意の物質を意味する。特に、本明細書中において使用される場合、生物学的に活性な分子は、ヒトまたは他の動物における疾患の診断、治療の軽減、処置または予防のための意図された任意の物質、または別の、ヒトまたは動物の身体的なまたは精神的な健康を増強する任意の物質を含む。生物学的に活性な因子としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ペプチド、タンパク質、酵素、低分子薬物、色素、脂質、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、細胞、ウイルス、リポソーム、微小粒子およびミセル。本発明での使用に適切な生物学的に活性な因子の分類としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:抗生物質、殺菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗腫瘍剤、心血管性薬剤、抗不安剤、ホルモン、増殖因子、ステロイド性薬剤など。
【0017】
本発明は、水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステル(BTCエステルともいわれる)の調製のための方法を提供する。ここで、水溶性の非ペプチド重合体の末端のヒドロキシル基は、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)(この構造は以下に示される)と反応し、1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを形成する。炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)(これは、試薬として有意な安全上の問題または取り扱いの問題を引き起こさず、そして重合体骨格の分解を引き起こさない)は、Milwaukee,WIのFluka Chemical Corporationから1,1,2−トリクロロエタンを含む70%(w/w)混合物として購入され得る。
【0018】
【化5】

水溶性の非ペプチド重合体の重合体骨格は、ポリ(エチルグリコール)(すなわち、PEG)であり得る。しかし、他の関連する重合体もまた、本発明の実施の際の使用に適切であり、そして用語PEGまたはポリ(エチルグリコール)の使用は、この観点において、限定的および非限定的であることが意図されることが理解される。用語PEGは以下を含む:アルコキシPEG、二官能性PEG、マルチアーム(multiarmed)PEG、分枝した(forked)PEG、分枝した(branched)PEG、ペンダントPEG(すなわち、重合体骨格にぶら下がっている1つ以上の官能基を有するPEGまたは関連する重合体)、あるいはPEG中に分解性の結合を有するPEG。
【0019】
PEG(典型的には、無色透明、無臭、水溶性、熱安定性、多くの化学薬剤に不活性である)は、加水分解または変質せず、そして一般に無毒性である。ポリ(エチレングリコール)は、生体適合性があると考えられている。生体適合性は、PEGが害を与えずに、生きている組織または生物体と共存し得ることを言う。より具体的には、PEGは、実質的に非免疫原性である。非免疫原性は、PEGが、体内において免疫応答を生じる傾向がないことを言う。体内でいくつかの所望の機能を有する分子(例えば生物学的に活性な因子)に付着される場合、PEGは、この因子をマスクする傾向にあり、そして任意の免疫応答を減少または排除し得る、その結果、生物体は、この因子の存在に耐性となり得る。PEG結合体は、実質的な免疫応答を起こさないか、または凝固または他の望まれない効果をおこさない傾向にある。式−CHCHO−(CHCHO)−CHCH−(ここで、nは約3から約4000、典型的には約3から約2000である)を有するPEGは、本発明の実施において1つの有用な重合体である。約200Daから約100,000Daの分子量を有するPEGは、特に重合体の骨格として有用である。
【0020】
重合体の骨格は、直鎖または分枝鎖であり得る。分枝した重合体の骨格は、一般に当該分野で公知である。典型的には、分枝した重合体は、中心の分枝核部分、およびこの中心の分枝核部分に結合した複数個の直鎖状の重合体鎖を有する。PEGは、通常、分枝した形態で使用され、これは、種々のポリオール(例えば、グリセロール、ペンタエリスリトールおよびソルビトール)へのエチレンオキシドの添加によって調製され得る。中心の分岐核部分はまた、いくつかのアミノ酸(例えば、リジン)由来であり得る。分枝したポリ(エチレングリセロール)は、R(−PEG−OH)のような一般形態で表され得る。ここで、Rは中心部分(例えば、グリセロールまたはペンタエリスリトール)を表し、mはアームの数を表す。マルチアームPEG分子(例えば、米国特許第5,932,462号に記載され、これは本明細書中にその全体が援用される)はまた、重合体の骨格として使用され得る。
【0021】
他の多くの重合体はまた、本発明に適切である。水溶性の非ペプチドである重合体の骨格(2から約300の末端を有する)は、特に本発明に有用である。適切な重合体の例として、以下が挙げられるがこれらに限定されない:他のポリ(アルキレングリコール)(例えば、ポリ(プロピレングリコール)(「PPG」))、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマーなど、ポリ(オキシエチル化ポリオール)、ポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスホファゼン、ポリオキサゾリン、ポリ(N−アクリロイルモルホリン)(例えば、米国特許第5,629,384号に記載され、これは、本明細書中でその全体が参照として援用される)、ならびにそのコポリマー、ターポリマー、およびこれら混合物。重合体の骨格の各鎖の分子量は、変化し得るが、典型的には、約100Daから約100,000、しばしば、約6000Daから約80,000Daの範囲にある。
【0022】
当業者は、実質的な水溶性の非ペプチド重合体の骨格のための上記のリストが、決して網羅的でなく、単なる例示あり、そして上記の質を有する全ての重合体の材料が意図されることを理解する。
【0023】
例示目的のために、本発明の方法のための簡略かした反応スキームを、以下に示す。
【0024】
【化6】

ここで、BTは、
【0025】
【化7】

であり、Lは、酸素原子と結合する点である。
【0026】
1つの実施形態において、重合体とジBTC間の反応は、有機溶媒中かつ塩基存在下で起こる。適切な有機溶媒の例としては、以下が挙げられる:塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、テトロヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびこれら混合物。アミン塩基(例えば、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、キノリン、トリアルキルアミン(トリエチルアミンを含む)およびこれら混合物)は、適切な塩基の例である。本発明の1つの局面において、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)の水溶性の非ペプチド重合体に対するモル比は、約30:1か、またはそれ未満である。
【0027】
1つの実施形態において、水溶性の非ペプチド重合体は、R’−POLY−OH構造を有し、そして水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルは、以下の構造:
【0028】
【化8】

を有する。
【0029】
ここで、POLYは、水溶性の非ペプチド重合体の骨格(例えば、PEG)であり、そしてR’は、キャッピング基である。R’は、この型の重合体についての当該分野で公知の任意の適切なキャッピング基であり得る。例えば、R’は、比較的不活性なキャッピング基(例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ基)、であり得る。あるいは、R’は、官能基であり得る。適切な官能基の例としては、以下が挙げられる:ヒドロキシル基、保護されたヒドロキシル基、活性エステル(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステルおよび1−ベンゾトリアゾリルエステル)、活性カーボネート(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートおよび1−ベンゾトリアゾリルカーボネート)、アセタール、アルデヒド基、アルデヒド水和物、アルケニル基、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド基、活性スルホン、保護されたアミン基、保護されたヒドラジド基、チオール基、保護されたチオール基、カルボン酸基、保護されたカルボン酸基、イソシアネート、イソチオシアネート、マレイミド基、ビニルスルホン基、ジチオピリジン基、ビニルピリジン基、ヨードアセトアミド基、エポキシド基、グリオキサール基、ジオン基、メシレート基、トシレート基、ならびにトレシレート基。官能基は、代表的に、生物学的に活性な因子上の官能基への付着について選択される。
【0030】
当該分野で理解されるように、用語「保護された」は、特定の反応条件下で化学的に反応性の官能基の反応を防止する保護基または保護部分の存在をいう。保護基は、保護される化学的に反応性の基の型に依存して変化する。例えば、化学的な反応性の基が、アミンまたはヒドラジドである場合、保護基は、ブチルオキシカルボニル(t−Boc)および9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)の基から選択され得る。化学的に反応性の基が、チオールである場合、保護基は、オルトピリジルジスルフィドであり得る。化学的に反応性の基が、カルボン酸(例えば、ブタン酸またはプロピオン酸)またはヒドロキシル基である場合、保護基は、例えば、ベンジル基またアルキル基(例えば、メチルもしくはエチル)であり得る。当該分野で公知の他の保護基もまた、本発明において使用され得る。
【0031】
別の実施形態において、水溶性の非ペプチド重合体は、HO−POLYa−R(POLYb−X)q構造を有し、そして水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルは、以下の構造:
【0032】
【化9】

を有する。
【0033】
ここで、POLYaおよびPOLYbは、水溶性の非ペプチド重合体の骨格(例えば、PEG)であり、これらは、同じであっても異なってもよく;
Rは、中心コア分子(例えば、グリセロールまたはペンタエリスリトール)であり;
qは、2から約300の整数であり;そして
各Xは、キャッピング基である。
【0034】
このXキャッピング基は、R’について上記したのと同じであり得る。
【0035】
別の局面において、水溶性の非ペプチド重合体の二官能性BTCエステルまたはより高い官能性BTCエステルを、複数個の1級アミノ基を有する第2の重合体(例えば、アミノPEGまたは他の多官能性アミン重合体(例えば、タンパク質、アミノ炭水化物、またはポリ(ビニルアミン))の少なくとも2つのアミノ基と反応させて、架橋重合体を形成する。アミン重合体は、一般に3以上の利用可能なアミノ基を有する。このような重合体は、ヒドロゲルを形成する;すなわち、このようなヒドロゲルは、水性媒体おいて高度に水和されるが、溶解しない。これらのヒドロゲルは、通常、生体適合性であり、かつ分解性であり得るので、多くの生物医学の適用が、薬物送達、創傷の回復および癒着予防の領域において可能である。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、水溶性の非ペプチド重合体のBTCエステルをアミノ酸と反応させて、アミノ酸誘導体を形成することを含む。1つの実施形態において、PEG−BTCエステルを、リジンと反応して、重合体のリジン誘導体を形成する。例えば、1つのこのようなリジン誘導体は、二重PEG化リジン(doubly polymeric lysine)である。ここで、2つのPEGが、以下に示すように、カルバメート結合によってリジンアミンに結合される:
【0037】
【化10】

ここで、PEGは、ポリ(エチレングリコール)であり、およびZは、H、N−スクシンイミジルまたは1−ベンゾトリアゾリルからなる群から選択される。
【0038】
リジンのこのようなPEG誘導体は、タンパク質のPEG誘導体を調製するための試薬として有用である。これらのPRG誘導体は、しばしば、非PEG化タンパク質を越える利点(例えば、インビボでのより長い循環半減期、タンパク質分解速度の減少、および免疫原性の低下)を提供する。別の局面において、PEG BTC誘導体は、カルバメート結合を介するタンパク質へのPEGの付着に直接使用され、そしてこのリジンPEG誘導体について記載される利点と同様の利点を提供し得る。
【0039】
水溶性の非ペプチド重合体のBTCエステルはまた、生物学的に活性な因子と反応させて、生物学的に活性な重合体結合体を形成し得る。生物学的に活性な因子の例としては、以下が挙げられる:ペプチド、タンパク質、酵素、低分子薬物、色素、脂質、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、細胞、ウイルス、リポソーム、微小粒子およびミセル。
【0040】
本発明はまた、上記のプロセスに従って調製される水溶性の非ペプチド重合体の1−ベンゾトリアゾリル炭酸エステルを含む。上で言及されるように、本発明に従って調製される重合体の誘導体は、ホスゲンによって起こされる重合体の骨格の分解が避けられるため、より高い質を示すと考えられる。さらに、本発明の方法は、たった1つの工程およびわずかな反応物を必要とするだけであるので、プロセスの効率は増大され、そしてコストは軽減される。
【0041】
以下の実施例は、本発明の例示のために提供され、これらが、本発明の限定として考えられるべきでない。
【0042】
(実施例)
(実施例1:mPEG5000BTCの調製)
アセトニトリル(30ml)中のmPEG5000−OH(分子量5000、15g、0.003モル)、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)(4.0gの70%混合物、0.000945モル)およびピリジン(2.2ml)の溶液を、窒素存在下、室温で一晩攪拌した。この溶媒を蒸留によって除去し、残留物を、80mlの塩化メチレンに溶かし、そして得られた溶液を、850mlのエチルエーテルに加えた。この混合物を、0〜5℃に冷却し、そして沈殿物を、濾過によって回収した。次いで、この沈殿プロセスを、白色の固体が得られるまで繰り返した。この白色の固体を、室温で真空下において乾燥し、13.5gの生成物を得た。この生成物は、H nmrによって100%置換されていることが示された。H nmr(dmso d−6):3.23ppm、CHO;3.51ppm、O−CH−CH−O;4.62ppm、m、mPEG−O−CH−OCO−;7.41〜8.21、複雑なマルチプレット(complex mult.)、ベンゾトリアゾールプロトン。
【0043】
(実施例2:mPEG20,000BTCの調製)
アセトニトリル(40ml)中のmPEG20,000−OH(分子量20,000、20g、0.001モル)、炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)(3.4gの70%混合物、0.00803モル)およびピリジン(3.0ml)の溶液を、窒素存在下、室温で一晩攪拌した。この溶媒を蒸留によって除去し、そして残留物を、80mlの塩化メチレンに溶かし、そして得られた溶液を、800mlのエチルエーテルに加えた。この沈殿物を、濾過によって回収し、そして室温で、真空下において乾燥し、16.8gの生成物を得た。この生成物は、
nmrによって100%置換されていることが示された。H nmr(dmso d−6):3.23ppm、CHO;3.51ppm、O−CH−CH−O;4.62ppm、m、mPEG−O−CH−OCO−;7.41〜8.21、複雑なマルチプレット(complex mult.)、ベンゾトリアゾールプロトン。
【0044】
(実施例3:mPEG20,000BTCでのリジンの誘導体化)
リジンHCl(0.0275g、0.000151モル)を、26mlの0.1M ホウ酸緩衝液に溶かし、そしてpHを0.1MのNaOHで8.0に調整した。得られた溶液に、15分かけてmPEG2000BTC(7.0g、0.00350モル)を加え、そしてpHを、0.1MのNaOHの添加によって8に維持した。得られた溶液を3時間攪拌後、15gのHOおよび4gのNaClを加え、そしてpHを10%のリン酸で3.0に調整した。この生成物を、塩化メチレンで、抽出し、そして抽出物をMgSO上で乾燥させた。溶液を30mlに濃縮した後、この溶液を、300mlのエチルエーテルに注ぎ、そして、生成物を濾過によって回収し、そして室温で、真空下において乾燥させ、白色の固体として5.9gの生成物を得た。ゲル透過クロマトグラフィー(Ultrahydrogel250、カラム温度75℃、水性緩衝液pH7.2)による分析は、この生成物が、ジ−N−PEG化リジン(分子量約40KDa、63.05%)、モノ−N−PEG化リジン(分子量約20KDa、36.95%)およびmPEG20,000の混合物であることを示した。
【0045】
(実施例4:mPEG5000BTCでのリゾチームの誘導体化)
4mlのリゾチーム溶液(50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)中に3mg/ml)に、20.3mgのmPEG5000BTC(5倍過剰のmPTG5000BTC)を添加し、そしてこの混合物を連続的に室温で攪拌した。4時間後のキャピラリー電気泳動(57cm×76cmカラム;30mMのリン酸緩衝液;作動電圧25kV)による分析は、6.94%のリゾチームが未反応のままであったが、33.9%のモノ−PEG化リゾチーム、43.11%のジ−PEG化リゾチーム、13.03%のトリ−PEG化リゾチーム、および2.92%のテトラ−PEG化リゾチームが形成されたことを示した。
【0046】
(実施例5:PEG2KDa−α−ヒドロキシ−ω−プロピオン酸、ベンジルエステル)
無水塩化メチレン(100ml)中のPEG2KDa−α−ヒドロキシ−ω−プロピオン酸(10g、0.0050モル)(Shearwater Corp.)の溶液に、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.30g)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(1.0g)、ベンジルアルコール(10.8g、0.100モル)および1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(塩化メチレン中に1.0Mの溶液、7.5ml、0.0075モル)を添加した。この反応混合物を、室温でアルゴン存在下において一晩攪拌した。次いで、この混合物を、約50mlに濃縮し、濾過し、そして800mlの冷ジメチルエテールに添加した。沈殿させた生成物を、濾過し、そして減圧下で乾燥した。収量8.2g。NMR(d6−DMSO):2.60ppm(t、−CH−COO−)、3.51ppm(s、PEG骨格)、4.57ppm(t、−OH−)、5.11ppm(s、−CH−(ベンジル))、7.36ppm(m、−C(ベンジル))。
【0047】
(実施例6:PEG2KDa−α−ベンゾトリアゾールカーボネート−ω−プロピオン酸、ベンジルエステル)
アセトニトリル(82ml)中のPEG2KDa−α−ヒドロキシ−ω−プロピオン酸、ベンジルエステル(8.2g、0.0025モル)の溶液に、ピリジン(0.98ml)および炭酸ジ(1−ベンゾトリアゾリル)(1.48g)を添加し、この反応混合物を、アルゴン雰囲気下において、室温で一晩攪拌した。次いで、この混合物を濾過し、そして溶媒を乾燥するまでエバポレートした。この粗生成物を塩化メチレンに溶かし、そしてイソプロピルアルコールで沈殿させた。この湿った生成物を、減圧下で乾燥させた。収量6.8g。NMR(d6−DMSO):2.60ppm(t、−CH−COO−)、3.51ppm(s、PEG骨格)、4.62ppm(m、−CH−O(C=O)−)、5.11ppm(s、−CH−(ベンジル))、7.36ppm(m、−C(ベンジル))、7.60〜8.50ppm(4m、ベンゾトリアゾールの芳香族のプロトン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明

【公開番号】特開2012−122080(P2012−122080A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−65779(P2012−65779)
【出願日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【分割の表示】特願2001−546734(P2001−546734)の分割
【原出願日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【出願人】(500138043)ネクター セラピューティックス (32)
【Fターム(参考)】