説明

ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末及びその製造方法

【課題】本発明は、水への溶解性や分散性に優れたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物粉末を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を製造する方法であって、
(1)光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して該単量体混合物を光重合させてポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造する工程、並びに
(2)上記(1)で製造されたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を乾燥及び粉砕し83メッシュパスの粉末とする工程、
を含むことを特徴とする製造方法、該製造方法により得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末、その製造方法及び該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を含有するパップ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤などに有用なものである。
【0003】
一般的に、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液、または(メタ)アクリル酸を含む単量体に水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムなど酸を中和させる化合物を混合させた混合水溶液をラジカル重合させて製造されている(特許文献1)。
【0004】
得られたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、通常、乾燥及び粉砕を経て粉末とされ、その粉末を水乃至水とグリセリンの混合液に溶解又は分散させてゲル状としたものが湿布剤やハップ剤等の基剤として用いられている(特許文献2)。
【0005】
しかし、パップ剤製造会社では、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末とグリセリンと水を混合、攪拌する工程において、過度に粘度が高まって撹拌器のモーター負荷が大きくなったり、攪拌、混合が不均一になったりして安定した製造が困難となる問題があった。また、撹拌経過時間とともに粘度が変化するため、最終製品であるパップ剤の品質が不安定となる不具合も発生していた。
【特許文献1】特開昭58−18319号公報
【特許文献2】特開平7−223938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、従来のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末は、水溶液とした場合に経時的な粘度の変動が大きく、水に対する溶解性や分散性が十分ではなかった。そこで、本発明は、水に対する溶解性や分散性に優れたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して該単量体混合物を光重合させてポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造した後、該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を乾燥及び粉砕し83メッシュパスの粉末とすることにより、水に対する溶解性や分散性に優れたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造できることを見出した。かかる知見に基づき更に研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物、その製造方法及び該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を含有するパップ剤を提供する。
【0009】
項1. ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を製造する方法であって、
(1)光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して該単量体混合物を光重合させてポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造する工程、並びに
(2)上記(1)で製造されたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を乾燥及び粉砕し83メッシュパスの粉末とする工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
【0010】
項2. 前記工程(2)において、83メッシュパス〜100メッシュオンの粉末とすることを特徴とする項1に記載の製造方法。
【0011】
項3. 項1又は2に記載の製造方法により製造されるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末。
【0012】
項4. (メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体を構成単位として含む光重合で製造された(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であって、83メッシュパス〜100メッシュオンの粉末であることを特徴とする粉末。
【0013】
項5. 項4に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であり、下記の性質を有する粉末:
(1)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒撹拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・sの範囲であり、
(2)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分撹拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・sの範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1の範囲である。
【0014】
項6. 項3〜5のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を含むパップ剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明で得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末は、水に対し溶解性や分散性に優れるため、水溶液での取り扱いが容易であり、かつ安定した品質の水溶液が得られる。この水溶液は、医薬用の湿布剤やハップ剤の基剤等として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。この発明はこれらに限定されるものではなく、この発明の要旨を変更しない限りにおいて、適宜変更して実施可能なものである。
【0017】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は83メッシュパスの粉末であり、次の工程(1)及び工程(2)を含む製造方法により製造される:
(1)光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して該単量体混合物を光重合させてポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造する工程、並びに
(2)上記(1)で製造されたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を乾燥及び粉砕し83メッシュパスの粉末とする工程。
【0018】
(メタ)アクリル酸部分中和物を83メッシュパスの粉末状とすることにより、水に対する溶解性や分散性が飛躍的に向上する。
【0019】
工程(1)で用いられる(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリル酸塩とは、(メタ)アクリル酸の中和物を意味し、(メタ)アクリル酸をアルカリ金属、アンモニア、有機アミン等で中和してなる中和物であり、例えば(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムなどが例示され、これらは単独でも2種以上を併用してもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸ナトリウムが好ましい。本発明において、あらかじめ酸部分を中和した(メタ)アクリル酸塩を原料として使用してもよく、また、(メタ)アクリル酸を重合した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどにより部分的に中和させてもよい。
【0020】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物には、この発明の目的とする効果を阻害しない範囲で、他の単量体を共重合させることも可能である。かかる単量体としては、例えば、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸、及びそれらの塩などが挙げられる。これらは、必要により1種または2種以上を、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩の合計量に対して、20モル%以下の範囲で用いることが可能である。
【0021】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物における、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩の割合は、通常、モル比で10/90〜90/10程度、好ましくは30/70〜70/30程度、より好ましくは40/60〜60/40であればよい。この割合はポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の用途等に応じて適宜選択することができる。(メタ)アクリル酸塩のモル割合が90%を超える場合は、水溶液における不溶解分が増加する傾向にある。また、全単量体を基準とした(メタ)アクリル酸塩のモル割合は10〜90%であることが好ましい。
【0022】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、及び必要に応じその他の単量体混合物をラジカル重合させることで得られる。なお、(メタ)アクリル酸及びその他の単量体と、酸を中和させる化合物であるアルカリ金属水酸化物、アンモニアなどとの混合物を重合させることも可能である。
【0023】
重合方法としては、水溶液重合法、スラリー重合法、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合法が挙げられるが、溶剤除去、溶剤の安全性、界面活性剤の混入の問題から、水溶液重合法が好ましい。
【0024】
水溶液重合法は、前記単量体の水溶液を所定の濃度に調整し、反応系内の溶存酸素を十分に不活性ガスで置換した後、ラジカル重合開始剤を添加し、必要により、加熱や紫外線などの光照射することによって重合反応を行う方法である。本発明においては、低温でも重合反応が可能で、反応進行率も良好であり、低重合物やゲル状物を低減できる光(紫外線など)照射による光重合が好ましい。
【0025】
前記ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の製造における光重合方法は、前記単量体混合物、光重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する混合水溶液に紫外線等の光を照射する方法が好ましい。
【0026】
光重合開始剤としては、特に制限はなく、公知の光重合開始剤を適宜目的に応じて選択して使用する。例えば、2、2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス(N、N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などのアゾ系光重合開始剤、1−ベンゾイル−1−ヒドロキシシクロヘキサンおよびベンゾフェノン等のケトン、ベンゾインおよびそのアルキルエーテル、ベンジルケタール類、ならびにアントラキノン誘導体等が例示されるが、これらの中でもアゾ系光重合開始剤が好ましい。
【0027】
光重合開始剤の使用量は、全単量体に対して、10〜10000ppmであることが好ましく、より好ましくは10〜5000ppmである。光重合開始剤が10ppm未満の場合は、充分に重合が起こらず、また、10000ppmを超える場合は得られる重合体の重合度が低下する。
【0028】
前記連鎖移動剤は、得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の分子量及びその水溶液粘度の調整のため、また不溶解分の減少のために使用するものである。
【0029】
連鎖移動剤としては、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール類、チオ酢酸などの硫黄含有化合物、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、亜燐酸、亜燐酸ナトリウムなどの亜燐酸系化合物、次亜燐酸ナトリウムなどの次亜燐酸系化合物が挙げられ、これらを単独または2種類以上併用してもよい。これらの連鎖移動剤の中でも、硫黄含有化合物が好ましく、さらに好ましくは、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸およびチオグリコール酸のいずれかである。
【0030】
連鎖移動剤の使用量は、全単量体に対して1〜500ppmであることが好ましく、より好ましくは1〜300ppmである。連鎖移動剤が1ppm未満では充分な効果があげられず、500ppmを超えると重合度が低くなり好ましくない。連鎖移動剤は得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の水溶液不溶解分に影響するので、その使用量は適宜調整することが望ましい。
【0031】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の典型的な重合方法である光重合反応について説明する。光重合する際に照射する光としては、紫外線及び/又は可視光線が用いられ、この中でも紫外線が好ましく用いられる。紫外線照度は、単量体の種類、光重合開始剤の種類や濃度、目的とする重合体の粘度、及び重合時間を考慮して決定されるが、一般に0.01〜1000mW/cm2であることが好ましく、より好ましくは0.05〜100mW/cm2であり、更に好ましくは0.1〜10mW/cm2である。紫外線照度は、重合反応中一定であっても、又は重合途中で変化させてもよい。光源としては、単量体を光重合させ得る紫外線及び/又は可視光線を放出し得るものであれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード、捕虫器用・光化学用蛍光ランプ、蛍光青色ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ブラックライト蛍光ランプ、ブラックライト水銀ランプ、ブラックライト電球形蛍光ランプ等を使用することができ、これらの中でも、発光ダイオード、ブラックライト蛍光ランプ等を使用することが望ましい。光源は1種であっても、2種以上を用いても良い。
【0032】
なお、光開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して光重合する際に、光源と単量体混合物の水溶液の間に、波長330〜370nmの範囲の紫外線の透過率が80%以上の光透過性材料を介在させて光照射することが好ましい。つまり、光源からの光が光透過性材料を透過して単量体混合物の水溶液に到達するようにする。これにより、波長330〜370nmの範囲の紫外線を有効に利用して光重合でき、単量体からポリマーへの転化率を大幅に向上させることができる。しかも、光の照度が大きくなるため、重合度にバラツキの少ない分子量分布の狭いポリマーを製造することができる。そのため、得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水溶液とした場合に溶解性及び分散性に優れ経時的な粘度変化が大幅に少なくなり、不溶解分も大きく減少することになる。
【0033】
光重合反応は、酸素の存在による重合阻害を防止するために、窒素、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気で行われる。このうち、窒素雰囲気が好ましい。光重合反応は、通常、この不活性ガスが充填ないし供給された気密室中で行われる。
【0034】
上記したように、光透過性材料としてはホウ珪酸ガラス、石英ガラス等が挙げられ、特にホウ酸(B)を5〜20%(特に10〜16%)、SiOを65〜90%(特に70〜85%)含有するホウ珪酸ガラスが好ましい。なお、透過率とは、分光放射照度計(例えば、ウシオ電機(株)製USR−40V)を用いて測定した値である。
【0035】
この光透過性材料は上記の気密室の上面に設けられ、該気密室外部に設置された光源からの光を透過して内部の単量体混合物に照射できるようにしている。光透過性材料の形状は特に限定はなく通常平板状であればよく、その厚さも特に限定はないが、光の透過性、強度等の点から0.7mmから21mm程度であればよい。
【0036】
更に、重合反応開始時においては、反応液を0〜80℃に保持することが好ましく、より好ましくは0〜30℃であり、更に好ましくは5〜15℃である。温度を保持するために冷却を必要とする場合があり、この冷却方法は特に限定されないが、通常、反応容器の外周を冷媒(例えば、冷水、冷メタノール等)等により冷却する。上記単量体混合物の水溶液の光重合反応は、バッチ式でも連続式でもいずれでもよい。光重合反応をバッチ式で行う場合には、光照射時間(重合時間)は1〜240分であることが好ましく、より好ましくは5〜120分であり、更に好ましくは15〜60分である。
【0037】
本発明の製造方法はバッチ式でも連続式でも行うことができるが、生産性に優れることから、連続重合方法を採用することが好ましい。
【0038】
連続重合方法の装置の作動は、具体的には以下の通りである。可動式ベルトの一方より、単量体混合物水溶液を目的の深さを維持する様に連続的に供給する。この場合、気密室内には、酸素による単量体混合物の重合阻害を防止するため、窒素等の不活性ガスを連続的に供給することが好ましい。当該ベルトは単量体混合物水溶液と共に連続的に移動し、固定された光源の下に単量体混合物水溶液が供給される。単量体混合物水溶液は、当該光源から照射される光により重合させる。
【0039】
ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を連続重合方法により製造する装置として、例えば、特開2002−3509号公報の図1に記載の装置が例示される。
【0040】
光重合により得られたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、常法に従い、切断、粉砕、乾燥され、粉末製品とすることができる。粉砕は特に限定されないが、衝撃式或いは回転式粉砕機を用い、乾燥は70〜140℃の条件での条件で熱風式乾燥機等で行えばよい。
【0041】
粉末製品の粉砕の程度は、83メッシュパスとする。かかる範囲にすることにより、水溶液とした場合に経時的な粘度の変動が小さくなり、水に対する溶解性や分散性が飛躍的に向上する。なお粉末が83メッシュオン品の場合には、溶解及び分散性が悪くなり不溶解分が増加するため好ましくない。特に、83メッシュパスかつ100メッシュオン品とすることにより、粉末粒子が均一(粒度分布がシャープ)になるため、水に対する溶解性や分散性も均一となるためより好ましい。逆に、100メッシュパス品は、いわゆる「ままこ」が発生したり、水溶液粘度が低下することがある。また、粉流動性が悪くなるため、輸送配管中で閉塞する恐れがある。
【0042】
なお、上記粉末のメッシュは、JIS-Z8801-1「試験用ふるい 金属製網ふるい」の規定に従う。また、メッシュパスとは、当該メッシュ(篩目開き)の篩を通過することを意味し、メッシュオンとは当該メッシュ(篩目開き)の篩を通過しないことを意味する。よって、83メッシュパスとは篩目開き0.180mmの篩を通過すること、100メッシュオンとは篩目開き0.150mmの篩を通過しないことを意味する。
【0043】
上記のようにして製造された本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の20℃における0.2重量%水溶液の粘度は、200〜600mPa・s程度であり、好ましくは300〜550mPa・sである。0.2重量%水溶液の粘度が200mPa・s未満であるか、600mPa・sを超える場合は、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を水溶液で使用する場合の作業性が著しく低下する。なお、0.2重量%水溶液の粘度とは、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を水に十分に溶解して粘度が一定となるように溶解開始から24時間放置した後に、(株)東京計器製のBM型粘度計で、20℃、30rpmの条件で測定した値である。
【0044】
さらに、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、従来のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物と異なり、水溶液とした時の粘度の大幅な変動を生じない点に特徴を有している。具体的には、次のような物性を有している。
(1)ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒撹拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・s(好ましくは300〜700mPa・s)の範囲であり、
(2)ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分撹拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・s(好ましくは300〜700mPa・s)の範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1(好ましくは0.92〜1.08))の範囲である。
【0045】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、水溶液とした直後の粘度と一定時間撹拌した後の粘度との差が極めて小さいことが分かる。換言すれば、撹拌時間に影響されることなく該水溶液の粘度はほぼ一定となる。これは、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物粉末は粒径がそろっているため、水に対する溶解性や分散性に優れており速やかに均一な水溶液となるためであり、これにより、工業的な取り扱いが容易となり作業性が飛躍的に向上する。
【0046】
従来のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物0.2重量%のグリセリン水溶液では、粘度が1000mPa・sを超える場合は、撹拌初期の粘度が増大するなどして作業性が著しく低下していた。しかし、本発明の製造方法により得られるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、0.2重量%水溶液粘度が450〜600mPa・sと比較的高い場合であっても0.2重量%グリセリン水溶液の15秒後の粘度(A)は600〜800mPa・sと十分に低く、経時的な粘度変動も少ないため、パップ剤製造メーカーの作業性向上、不良率低減を期待できる。
【0047】
なお、一般に、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物をそのまま水に溶解させた場合には、いわゆる「ままこ」状態となり均一の溶液とならないため、再現性に乏しく、撹拌直後の粘度の測定精度が低くなる。そのため、上記したように、水溶液にグリセリン6.7重量%を添加してポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の水への溶解性を向上させて、「ままこ」を防止することで、粘度測定溶液を均一にすることにより撹拌直後の粘度の測定精度を高めたものである。また、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物は、その加工工程において、上記した組成のグリセリン及び水の混合溶液に溶解されて使用されることが多いという事実も存在する。この様な理由から、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%、及び水93.1重量%の混合液を基準として粘度を測定することとした。
【0048】
なお、上記の粘度(A)及び(B)は、(株)東京計器製のBM型粘度計で、20℃、30rpmの条件で測定した値である。具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を最初にグリセリンに投入し、30秒間攪拌後、水を投入し、15秒間攪拌後及び20分撹拌後に(株)東京計器製のBM型粘度計で、20℃、30rpmの条件で測定した値である。
【0049】
また、本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の平均分子量は特に限定されないが、通常100万以上が好ましく、より好ましくは500万以上である。
【0050】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を、架橋剤、グリセリン、水、顔料、充填剤、薬効成分等の各種添加剤と混合・調製することにより湿布剤又はパップ剤の基材を製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、単に%の記載は重量%を意味する。
【0052】
試験例1(光重合、中和率50%)
反応槽としてポリプロピレン製トレーに、98%アクリル酸138g(1.88モル)、36%アクリル酸ナトリウム491g(1.88モル)、純水411gを含む単量体混合物の水溶液を入れ、該水溶液の温度を10℃に保持しながら、窒素にて溶存酸素を追い出した。その後、窒素気流下で、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を0.29g(単量体に対して950ppm)、2−メルカプトエタノール0.0031gを純水に希釈して1%水溶液として0.47g(単量体に対して15ppm)投入して単量体混合物の水溶液を調製した。
【0053】
次に光透過性材料として厚さ5mmのホウ珪酸ガラス(コーニング製、商品名:パイレックス(登録商標))を介して、ピーク波長352nmである300〜450nmを放射する東芝製ブラックライト蛍光ランプ(紫外線照度0.4mW/cm)により、光を照射して重合を開始した。重合温度がピーク(60℃程度)となった後、300〜450nmを放射する東芝製ブラックライト水銀ランプ(紫外線照度6.0mW/cm)に切り替え、30分照射し含水ゲル状物質を得た。該含水ゲル状物質をひき肉機を用いて粉砕した後、乾燥し、衝撃式(又は回転式)粉砕機を用いて粉砕して粉体を得た。
【0054】
なお、中和率とは、アクリル酸及びアクリル酸塩(ナトリウム塩)の合計モル数に対する、アクリル酸塩(ナトリウム塩)のモル数の割合(%)を意味する。
【0055】
得られたポリアクリル酸部分中和物粉体を、JIS-Z8801-1「試験用ふるい 金属製網ふるい」に従い篩にかけて分級して各粉末を調製し、各粉末の水溶液の粘度を次のようにして測定した。測定結果を表1に示す。
【0056】
<0.2%水溶液粘度の測定>
500mlコニカルビーカーに純水399.2gを入れ、ポリアクリル酸部分中和物0.8gを投入し、マグネティックスターラーで2時間攪拌し、0.2重量%水溶液を調整した。調整液をB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
【0057】
<0.2%グリセリン水分散液粘度の測定>
500mlビーカーにグリセリン10gを入れ、次にポリアクリル酸部分中和物を0.3g投入し、30秒間攪拌した。その後、純水140gと投入し、15秒間攪拌
し、ポリアクリル酸部分中和物0.2重量%、グリセリン6.7重量%、純水93.1重量%の分散液を調製した。調整液をB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
【0058】
その後、ジャーテスターにて150rpmで撹拌を継続し、10分後、20分後にB型粘度計にて、20℃、30rpmの条件で粘度を測定した。
【0059】
<0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化の算出方法>
経時変化=(20分後の粘度/15秒後の粘度)
【0060】
【表1】

【0061】
試験例2(光重合、中和率50%)
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を0.62g、1%メルカプトエタノール水溶液を0.31gに変更した以外は、試験例1と同様の操作をした。
【0062】
各粉末の水溶液の粘度測定結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
試験例3(光重合、中和率50%)
2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を0.78g、1%メルカプトエタノール水溶液を0.47gに変更した以外は、試験例1と同様の操作をした。
【0065】
各粉末の水溶液の粘度測定結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
試験例4(光重合、中和率45%)
98%アクリル酸154g(2.09モル)、36%アクリル酸ナトリウム448g(1.71モル)、純水438g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を0.28g、1%メルカプトエタノール水溶液を0.37gに変更した以外は、試験例1と同様の操作をした。
【0068】
各粉末の水溶液の粘度測定結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
試験例5(レドックス重合、中和率50%)
反応槽としてステンレス製ジュワー瓶に98%アクリル酸199g(1.81モル)、36%アクリル酸ナトリウム708g(1.81モル)、純水593gを含む単量体混合物の水溶液を入れ、該水溶液の温度を10℃に保持しながら、窒素にて溶存酸素を追い出した。その後、窒素気流下で、t−ブチルハイドロパーオキシドを0.0135g、蟻酸ナトリウムを0.135g、過硫酸ナトリウムを0.0675g、エリソルビン酸ナトリウムを0.027g投入した。次に12時間放置した。その後、含水ゲル状物質を粉砕した後、乾燥、粉砕し粉体を得た。得られた粉末を表に従い、篩で分級した。
【0071】
各粉末の水溶液の粘度測定結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
以上のように、実施例の0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化は、いずれも92以上108の範囲であり、撹拌時間に影響されることなく該水溶液の粘度はほぼ一定となることが明らかとなった。一方、比較例の0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化は、いずれも0.9未満又は1.1を超えており、経時的な粘度変化が大きいことが分かった。
【0074】
試験例5に見られるように、熱重合で製造されるポリアクリル酸部分中和物の粉末は粒度を調節しても0.2%グリセリン水分散液粘度の経時変化が大きくなり好ましくなかった。
【0075】
従って、実施例のポリアクリル酸部分中和物の粉体は、水に対する溶解性や分散性に優れており、作業性が飛躍的に向上する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末は、水への溶解性や分散性に優れており、水溶液での取り扱いに優れたものである。医薬用の湿布剤やパップ剤の基剤などに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を製造する方法であって、
(1)光重合開始剤の存在下、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体混合物の水溶液に、紫外線を含む光を照射して該単量体混合物を光重合させてポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を製造する工程、並びに
(2)上記(1)で製造されたポリ(メタ)アクリル酸部分中和物を乾燥及び粉砕し83メッシュパスの粉末とする工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、83メッシュパス〜100メッシュオンの粉末とすることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されるポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸塩を含む単量体を構成単位として含む光重合で製造された(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であって、83メッシュパス〜100メッシュオンの粉末であることを特徴とする粉末。
【請求項5】
請求項4に記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末であり、下記の性質を有する粉末:
(1)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を15秒撹拌した後の20℃における粘度(A)が200〜800mPa・sの範囲であり、
(2)該ポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末0.2重量%、グリセリン6.7重量%及び水93.1重量%の混合液を20分撹拌した後の20℃における粘度(B)が200〜800mPa・sの範囲であり、及び
(3)粘度Aに対する粘度Bの比(B/A)が0.9〜1.1の範囲である。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のポリ(メタ)アクリル酸部分中和物の粉末を含むパップ剤。

【公開番号】特開2008−56754(P2008−56754A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233083(P2006−233083)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】