説明

ポンプ及びメカニカルシールのクエンチング構造

【課題】単純な構成で長い装置寿命を確保することが可能なポンプ及びメカニカルシールのクエンチング構造を提供する。
【解決手段】モータとインペラとを連結するモータ軸12と、前記モータ軸12の外周に装着されるメカニカルシール21と、前記メカニカルシール21のシール部分周辺に形成され溶液を保持可能な溶液保持部27と、前記溶液保持部27の外部に設けられ、前記溶液保持部27に連通するとともにその内部に溶液を収容可能な溶液収容部34と、前記溶液収容部34と前記溶液保持部27とを連通する通路35と、を備え、前記溶液収容部34は開放されたことを特徴とするポンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ及びメカニカルシールのクエンチング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプにおいて、インペラを駆動するモータ軸に防水構造としてメカニカルシールを外装することが行われている(例えば、特許文献1参照)。このようなポンプでは、マイナス溶液での運転時に湿気などによりメカニカルシール近傍が氷結し、メカニカルシールの摺動部に隙間を発生させる不具合がある。この対策としてクエンチング方式が知られている。クエンチング方式として、メカニカルシールの周囲に溶液封入部を構成し、この溶液封入部に不凍液等の溶液を満たす方法が知られている。通常、溶液封入部としては構造上簡単な密閉構造が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−161283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上述の技術では以下の問題がある。すなわち、溶液封入部が密閉構造であると、溶液封入部内部が大気圧以上となり、メカニカルシールの摺動面に析出物が堆積しやすい。このため、堆積した析出物によってメカニカルシールの摺動面に面あれが発生するなどの問題が発生し、装置寿命を縮める原因となる。
【0005】
そこで、本発明は、単純な構成で長い装置寿命を確保することが可能なポンプ及びメカニカルシールのクエンチング構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るポンプは、モータとインペラとを連結するモータ軸と、前記モータ軸の外周に装着されるメカニカルシールと、前記メカニカルシールのシール部分周辺に形成され溶液を保持可能な溶液保持部と、前記溶液保持部の外部に設けられ、前記溶液保持部に連通するとともにその内部に溶液を収容可能な溶液収容部と、前記溶液収容部と前記溶液保持部とを連通する通路と、を備え、前記溶液収容部は開放されたことを特徴とする。
【0007】
本発明の他の一形態に係るポンプは、前記溶液収容部の開放部は、下方に設けられたドレン部に案内されることを特徴とする。
【0008】
本発明の他の一形態に係るポンプは、前記溶液収容部と前記溶液保持部とは、透明な可撓材料で構成されるチューブで連通されることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の一形態に係るポンプは、前記溶液収容部は、前記モータ軸を収容するケーシングの上面に取り付けられ、前記溶液保持部よりも上方に配置されることを特徴とする。
【0010】
本発明の他の一形態に係るポンプは、モータとインペラとを連結するモータ軸と、前記モータ軸の外周に装着されるメカニカルシールと、前記モータ軸の周りに溶液を保持可能な溶液保持部を形成するシールカバーと、を備え、前記溶液保持部は、その外部に連通し、外部にて開放されたことを特徴とする。
【0011】
本発明の他の一形態に係るポンプは、前記メカニカルシールは、前記モータ軸の外周部分に配置される固定環と、前記モータ軸に外装され前記モータ軸と共に回転し前記固定環に対して摺動する回転環と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の一形態に係るメカニカルシールのクエンチング構造は、軸の外周に装着されるメカニカルシールのクエンチング構造であって、前記メカニカルシールのシール部分周辺に形成され溶液を保持可能な溶液保持部と、前記溶液保持部の外部に設けられ、前記溶液保持部に連通するとともにその内部に溶液を収容可能な溶液収容部と、前記溶液収容部と前記溶液保持部とを連通する通路と、を備え、前記溶液収容部は開放されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るポンプ及びメカニカルシールのクエンチング構造によれば、単純な構成で長い装置寿命を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係るポンプのメカニカルシール周辺部の構成を、一部切欠して示す側面図。
【図2】同ポンプのメカニカルシール周辺部の構成を一部切欠して示す図1のAーA矢視図。
【図3】同ポンプのメカニカルシールの構成を示す説明図。
【図4】同ポンプのシールカバーの構成を示す平面図。
【図5】本発明の他の実施形態に係るポンプのメカニカルシール周辺部の構成を示す説明図。
【図6】本発明の他の実施形態に係るポンプのメカニカルシール周辺部の構成を一部切欠して示す図5のBーB矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態にかかるポンプ1について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して概略的に示している。図中矢印X,Y及びZはそれぞれ互いに直交する3方向を示す。
【0016】
図1は、本実施形態に係るポンプ1の一部を示す側面図であり、図2はポンプの内部構造を示す説明図である。図1及び図2において一部切欠して断面で示している。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態にかかるポンプ1は、例えば渦巻きポンプであり、ケーシング11内に水平方向に延びるモータ軸12を備えている。ケーシング11はケーシングカバー13を有して構成されている。モータ軸12は、その一端側12aに連結された図示しないモータから、ケーシングカバー13を貫通して水平方向に延設され、他端側12bに連結された図示しないインペラを回転駆動する。図2に示すように、ポンプ1の下方には排水構造としてのドレン部Dが設けられている。ケーシング11の一端側には軸受箱15が形成されている。
【0018】
図3はメカニカルシール21の断面図、図4はメカニカルシールカバー25の平面図である。図3及び図4に示すように、モータ軸12の外周部分には、防水構造としてのメカニカルシール21が装着されている。メカニカルシール21は、モータ軸12に外装されモータ軸12とともに回転する回転環22と、モータ軸12の外周部分に設けられケーシングカバー13側に固定された固定環23と、回転環22を固定環23に向けて軸心方向に押圧付勢するスプリング24と、一端部に配されるメカニカルシールカバー25と、オイルシール25dと、他端部及び側部を覆うカバー部材26と、を備えている。
【0019】
固定環23は例えばケーシングカバー13の背面の貫通孔近傍の凹部に嵌めこまれ、スプリング24及び回転環22はモータ軸12に巻装され、回転環22が固定環23に軸方向において対向配置されている。モータ軸12の回転に伴い、ケーシングカバー13側に固定された固定環23と、モータ軸12側に固定された回転環22との対向面が摺動するようになっている。この摺動面(対向面)29をシール部分として、モータ軸12を回転可能としつつインペラ室の圧力流体が漏れないように封止される。
【0020】
メカニカルシールカバー25は、メカニカルシール21の軸方向一端部においてモータ軸12の外周に配置されている。メカニカルシールカバー25は、軸方向一端側の第1端壁25aと、他端側の第2端壁25bと、これらの間においてモータ軸12の周りを囲むように配された筒壁25cと、を一体に有している。第2端壁25bがメカニカルシール25の軸方向一端部を閉塞するように配置されている。さらに、メカニカルシールカバー25の第1端壁25aに隣接してモータ軸12の周りにオイルシール25dが装着されている。メカニカルシールカバー25(シールカバー)及びオイルシール25dにより、シール部分である摺動面29の周辺において、軸心側(内側)に溶液を封入可能な空間である溶液封入部27(溶液保持部)が形成されている。溶液封入部27はメカニカルシール21の劣化を防止する不凍液28で満たされている。この構造によってメカニカルシール21の回転環22と固定環23との摺動面29の周囲を不凍液28で満たし、メカニカルシール21の凍結や劣化を防止する。
【0021】
図1及び図2に示すように、ケーシング11には不凍液28を収容する供給カップ31が設置されている。供給カップ31は、ケーシング11の上面に載置され、例えばボルト32によって、ケーシング11に直接固定されている。供給カップ31は上方が開口する有底円筒状であって内部に溶液を収容可能な収容部33(溶液収容部)と、収容部33上部の開口を塞ぐ蓋部34とを備えて構成される。
【0022】
収容部33の内部と溶液封入部27の内部とは通路を構成する透明チューブ35によって連通している。すなわち、図2に示すように、供給カップ31及びメカニカルシールカバー25の側部にはそれぞれ貫通孔31a、25eが形成され、これら貫通孔31a,25eに継手35a,35bを介して透明チューブ35の両端がそれぞれ接続されている。この透明チューブ35内に形成される通路を通って、上方の供給カップ31から必要な量の不凍液28が下方の溶液封入部27に供給される。
【0023】
蓋部34には開口部34a(開放部)が貫通して形成され、この開口部34aには接続管36が連結されている。接続管36は、上方に延びた後屈曲して側方に延び、上方からの異物の混入を防ぎ、かつ、大気に開放可能な構成になっている。接続管36の先端には可撓性材料からなる接続チューブ37が連結されている。この接続チューブ37の先端はポンプ1の排水構造としてのドレン部Dに案内され、ドレン部Dの上方において大気圧に開放されている。この構成により、不凍液が接続管36から漏れることがあっても、ドレンに案内されるため、不凍液の飛散が防止される。
【0024】
上記のように構成されたポンプ1は、防水構造としてのメカニカルシール21に、クエンチング構造として、不凍液28を収容可能であるとともに大気に開放される供給カップ31と、溶液封入部27と供給カップ31内部とを連通して供給カップ31内の溶液を溶液封入部27に供給する透明チューブ35とを備えている。
【0025】
このような構成において、モータ軸12の回転によりメカニカルシール21の摺動面29には、析出物が発生する場合がある。このとき、摺動面29付近に設けられた溶液封入部27は密閉構造でなく、外部において大気圧へ開放されていることにより、析出物が摺動面29に留まることなく、溶液封入部27内において摺動面29から離れた他の部位へ移動するようになっている。
【0026】
本実施形態によれば以下のような効果が得られる。すなわち、溶液封入部27を密閉構造とせずに、大気に連通して開放する構造としたことにより、析出物が摺動面29に堆積せず、摺動面29から他の部位へ移動することが許容される。すなわち、大気圧に連通する溶液封入部27内において析出物が摺動面29よりも外側の圧が弱い方に移動するため、析出物がメカニカルシール21の摺動面29に残存するのを防止できる。
【0027】
この結果、メカニカルシール21の摺動面29に面あれが生じることを防止し、メカニカルシール21の性能を維持し、漏れ等を防止することができ、メカニカルシール21の寿命を延ばすことが可能となる。
【0028】
例えば溶液封入部27を密閉構造とすると封入部の圧力が大気圧よりも高くなり析出物が移動せずに摺動面29に留まり堆積するため、メカニカルシール21の摺動面29に面あれ等が発生し、摺動面29に隙間が生じ、メカニカルシール21の性能が低下し、漏れ等の原因となり得る。これに対し、本実施形態に係るポンプ1では、上記のように堆積を防止することにより、メカニカルシール21の性能低下を防止し、長寿命化を図ることが可能となる。
【0029】
また、不凍液28の通路を透明チューブ35で構成したことにより、外側からの目視により容易に溶液の残量が把握できる。したがって、封入液量の確認が容易となり点検作業の負担が低減できる。すなわち外側から視認できない場合には供給カップ31を開けて内部を確認する必要があったが、この手間を省略することができる。言い換えれば通路を構成する透明なチューブがオイルゲージの代わりとして機能するのでオイルゲージが不要となり装置構成を単純化できる。
【0030】
さらに、可撓性材料で通路を構成したことにより、金属配管等により通路を形成した場合に比べ、ポンプ1の形状や周辺部品の形状に応じて容易に変形させることが可能である。したがって、装置の設計変更に容易に適応できるので、汎用性が高い。例えば、ポンプのサイズが変化しても、透明チューブ35の長さと、メカニカルシールカバー25の径を変更するだけの簡単な変更で対応できる。
【0031】
供給カップ31の開放部の端部をドレン部Dに案内することによって、たとえ溶液が漏れることがあってもドレン部Dで受けることができ、液体が飛散することを防止できる。
【0032】
さらに、ケーシング11の上面のデッドスペースに供給カップ31を設置したことにより、デッドスペースの有効利用が可能となり、ポンプ1の小型化を図れる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、供給カップ31をボルト32によってケーシング11に取り付ける構造を例示したが、これに限られるものではない。例えば図5に示すように支え40を用いてケーシング11に穴を開けて取り付ける構造としてもよいし、図6に示すように支え40を用いて軸受箱15に取り付ける構造としてもよい。
【0034】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1…ポンプ、11…ケーシング、12…モータ軸、13…ケーシングカバー、
21…メカニカルシール、22…回転環、23…固定環、24…スプリング、
25…メカニカルシールカバー(シールカバー)、25d…オイルシール、
27…溶液封入部(溶液保持部)、28…不凍液、29…摺動面、
31…供給カップ、32…ボルト、33…収容部(溶液収容部)、
34a…開口部(開放部)、35…透明チューブ、
37…接続チューブ、D…ドレン部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータとインペラとを連結するモータ軸と、
前記モータ軸の外周に装着されるメカニカルシールと、
前記メカニカルシールのシール部分周辺に形成され、溶液を保持可能な溶液保持部と、
前記溶液保持部の外部に設けられ、前記溶液保持部に連通するとともにその内部に溶液を収容可能な溶液収容部と、
前記溶液収容部と前記溶液保持部とを連通する通路と、
を備え、前記溶液収容部は開放されたことを特徴とするポンプ。
【請求項2】
前記溶液収容部の開放部は、下方に設けられたドレン部に案内されることを特徴とする請求項1記載のポンプ。
【請求項3】
前記溶液収容部と前記溶液保持部とは、透明な可撓材料で構成されるチューブで連通されることを特徴とする請求項1または2記載のポンプ。
【請求項4】
前記溶液収容部は、前記モータ軸を収容するケーシングの上面に取り付けられ、前記溶液保持部よりも上方に配置されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載のポンプ。
【請求項5】
モータとインペラとを連結するモータ軸と、
前記モータ軸の外周に装着されるメカニカルシールと、
前記モータ軸の周りに形成され溶液を保持可能な溶液保持部と、を備え、
前記溶液保持部は、その外部に連通し、外部にて開放されたことを特徴とするポンプ。
【請求項6】
前記メカニカルシールは、前記モータ軸の外周部分に配置される固定環と、前記モータ軸に外装され前記モータ軸と共に回転し前記固定環に対して摺動する回転環と、を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載のポンプ。
【請求項7】
軸の外周に装着されるメカニカルシールのクエンチング構造であって、
前記メカニカルシールのシール部分周辺に溶液を保持可能な溶液保持部を形成するシールカバーと、
前記溶液保持部の外部に設けられ、前記溶液保持部に連通するとともにその内部に溶液を収容可能な溶液収容部と、
前記溶液収容部と前記溶液保持部とを連通する通路と、
を備え、前記溶液収容部は開放されたことを特徴とするメカニカルシールのクエンチング構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−153612(P2011−153612A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17314(P2010−17314)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000148209)株式会社川本製作所 (161)
【Fターム(参考)】