説明

ポンプ

【課題】異方性ボンド磁石及び環流穴を備える回転子の機械強度を確保し、欠けや割れが回転子に生じることを防ぐ。
【解決手段】コイルを備えるステータ4と、永久磁石7及び羽根車8を備えて回転自在に支持されている回転子2とを有して、射出成形で形成された上記回転子2の永久磁石が異方性ボンド磁石からなる。内周が軸受9を介して回転自在に支持される上記回転子は軸方向に貫通する環流穴11を備え、該環流穴11は、回転子の射出成形の際に生じるウェルド部13と異方性ボンド磁石である永久磁石の磁極間15とに重ならない位置に設けられている。割れや欠けが応力のかかりやすい環流穴付近で生じてしまうことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性ボンド磁石で形成された回転子を有しているモータを搭載したポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のDCブラシレスポンプの一例を図4に示す。特許文献1に開示された該ポンプ1は、軸10に軸受9を介して回転自在に支持されている回転子2に羽根車8が一体に形成されているとともに、永久磁石7を備える上記回転子2の外周側に分離板6を介して巻線3が施されたステータ4が配されているもので、制御部5による制御のもとにステータ4で発生させた回転磁界によって永久磁石7を有する回転子2を回転させることで、回転子2の羽根車8による吸排水を行う。
【0003】
この種のポンプにおいては、羽根車8が一体に形成された回転子2が配されたポンプ室20内に空気や異物または熱が滞留することを防ぐために、内周側に軸方向に貫通する還流穴11を設けて、ポンプ室20内に滞留する液体が給排水される際に現れる圧力差で移動して排出されてしまうようにしている。
【0004】
ところで、DCブラシレスモータの回転子2に設ける永久磁石7としては、回転子2の外形寸法の精度や、製造工数及び部品コストの削減の点から、特許文献2にも示されているように異方性ボンド磁石を用いることが多くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−200427号公報
【特許文献2】特開2008−172965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記異方性ボンド磁石は、配向用磁石を配した金型内にゲートから永久磁石の粉末と樹脂とのコンパウンドを注入して射出成形するために、特許文献2にも記載されているように、射出成形で現れるウェルド部及び着磁成形で現れる磁極と隣接する磁極との中間部である磁極間は機械的強度が低いものとなる。
【0007】
ここにおいて、前記ポンプの回転子2の本体部分と羽根車8と永久磁石(異方性ボンド磁石)7、更には軸受9を一体で成形したものとした場合、前述の環流穴11は、機械的強度が弱いウェルド部や磁極間が存在する部分に設けられることになるために、環流穴11付近の機械的強度が大きく劣るものとなり、特に軸受9が一体成形されたもののように熱線膨張係数の違う部分が存在しているものでは還流穴11付近の薄肉部から割れなどが生じ易くなる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、異方性ボンド磁石及び環流穴を備える回転子の機械強度を確保し、欠けや割れが回転子に生じることを防いだポンプを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、コイルを備えるステータと、永久磁石及び羽根車を備えて回転自在に支持されている回転子とを有して、射出成形で形成された上記回転子の永久磁石が異方性ボンド磁石からなるポンプであって、内周が軸受を介して回転自在に支持される上記回転子は軸方向に貫通する環流穴を備えているとともに、該環流穴は、回転子の射出成形の際に生じるウェルド部と異方性ボンド磁石である永久磁石の磁極間とに重ならない位置に設けられていることに特徴を有している。
【0010】
前記還流穴は、回転子における着磁されて永久磁石となっている部分よりも内周側に設けられていることが好ましく、また前記還流穴は、回転子の周方向において複数個が等間隔に設けられていることが好ましい。
【0011】
そして前記回転子は、再着磁用機材とのラジアル方向の位置決めのための位置決め部を備えるものである場合、上記位置決め部は、上記ウェルド部と上記磁極間とに重ならない位置に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明においては、回転子を射出成形して永久磁石を異方性ボンド磁石で形成したものにおける強度の低くなっている部分を避けて環流穴を設けているために、割れや欠けが応力のかかりやすい環流穴付近で生じてしまうことがなく、割れや欠けに起因する羽根車のロックや異常停止のないポンプとすることができる。
【0013】
そして請求項2記載のポンプにおいては、請求項1の効果に加え、環流穴によるポンプ室内の空気や異物、または熱のポンプ外への排出をより効果的に行うことができる。
【0014】
また、請求項3記載のポンプにおいては、請求項1または請求項2の効果に加え、還流穴による回転子のアンバランスを防ぐことができるために、ポンプ性能の向上及び騒音・振動の低減を図ることができる。
【0015】
また、請求項4記載のポンプにおいては、請求項1〜3のいずれかの効果に加え、再着磁の際のラジアル方向の位置決めができるために安定した着磁ができるものであり、しかも位置決め部の存在が回転子の機械強度の低下を招くことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の一例における回転子を示すもので、(a)は正面図、(b)は断面図、(c)は背面図である。
【図2】他例の回転子の背面図である。
【図3】更に他例の回転子を示すもので、(a)は断面図、(b)は背面図である。
【図4】従来のポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を図に基づいて詳述すると、図1は本発明の実施の形態の一例における回転子2を示している。なお、ポンプ1の全体構成については、図4に示したものと同様であるために説明を省略する。
【0018】
図示例の回転子2は、その内周側に位置する軸受9と、軸方向一端側に位置する羽根車8とを一体成形したものであるとともに、磁石粉末と樹脂とのコンパウンドを磁場配向金型内で成形したものであるために、図1(b)にLで示す領域内が図1(c)に示すように配向用磁石によって着磁されて永久磁石(異方性ボンド磁石)7となっている。そして内周側に軸受9がインサートされているフランジ部分に環流穴11が形成されている。
【0019】
ここにおいて、上記磁場配向金型内に上記コンパウンドを注入するにあたっては、複数のゲート12から注入することになるが、これらゲート12が図1(a)に示す位置にある時、射出されたコンパウンドはその磁石粉末が異方化されながらウェルド部13で接合し、羽根車8と軸受9の一体化が完了する。このときコンパウンドは冷え固まりながら接合するためにウェルド部13はその強度が低いものとなる。
【0020】
また磁場配向によって磁石粉末は極異方に配向され、極の変わり目である磁極間15が磁極数だけ現れるとともに、磁極間15は磁極中心に比べて磁石粉末の配向方向が原因で機械強度に劣るものとなる。
【0021】
この時、機械強度が低いウェルド部13と、同じく機械的強度が弱い磁極間15の位置とが一致しないようにすることで、回転子2に機械的強度が大きく劣る部分ができてしまわないようにしているのであるが、周囲に集中応力がかかることになる上記環流穴11も、回転子1における周方向において、上記ウェルド部13が位置しない部分で且つ磁極間15ではない部分に配置している。また、磁場配向によって磁石粉末が配向されて永久磁石(異方性ボンド磁石)7となる部分よりも内周側のところに環流穴11を設けている。
【0022】
このために、環流穴11に強い応力がかかることがあっても、環流穴11が設けられているのは機械的強度が低くなっている部分ではないために、割れや欠けが環流穴11を起点として生じてしまうことがないものである。なお、環流穴11は応力集中の起こり難い断面円形のものとしておくことが好ましい。
【0023】
また、図示例では、4箇所のゲートから射出するためにウェルド部13が都合4箇所に形成されるとともに、磁極数が8極となっているものを示したが、この構成に限定されるものでないことはもちろんである。ただし、ゲート数と磁極数とが同じであると、強度の低い部分が重ならない部分に環流穴11を設けることが困難となる。
【0024】
図2に他例を示す。前記実施例では1つであった還流穴11を、ここでは2つの環流穴11を回転子2の周方向に等間隔で且つウェルド部13と磁極間15とに重ならない位置に設けている。還流穴11はその断面積さえ確保しておれば幾つあってもよく、この時、環流穴11が周方向において等間隔で存在すれば、還流穴11の存在が重さのアンバランスを招いてしまうことがなくなるために、回転による騒音・振動を防止できるほか、軸から軸受9にかかる荷重を均等にできるために軸受9の磨耗も減少し、ポンプとしての寿命が長くなる。なお、還流穴11が3つ以上であってもよいのはもちろんである。
【0025】
図3に更に他例を示す。これは回転子2の成形後に所定の磁力を確保するために再着磁を行う場合を想定したもので、この再着磁が成形時の磁場配向に沿ったものとなるようにするための位置決め部16を上記成形時に回転子2の内周面に設けている。
【0026】
再着磁用のヨークを備えた再着磁機材側にも、位置決め部16と係合する位置決め部材を設けておくことで、磁場配向によって形成した磁極を同極に再着磁することができる。なお、図示例のように回転子2の内面に設けた溝を位置決め部16とする場合、位置決め部16の存在が回転子2のその部分の強度を低下させることになってしまうために、この位置決め部16も環流穴11と同様に、ウェルド部13が位置しない部分で且つ磁極間15とならない部分に配置している。
【0027】
図示例では位置決め部16を矩形の溝として4箇所に設けている例を示しているが、ウェルド部13の間で且つ磁極間15と重ならない位置にあり、且つ再着磁に必要な位置決めが可能な配置となっておれば、位置決め部16の断面形状や数は図示例に限るものではない。
【符号の説明】
【0028】
1 ポンプ
2 回転子
7 永久磁石(異方性ボンド磁石)
8 羽根車
9 軸受
11 環流穴
13 ウェルド部
15 磁極間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルを備えるステータと、永久磁石及び羽根車を備えて回転自在に支持されている回転子とを有して、射出成形で形成された上記回転子の永久磁石が異方性ボンド磁石からなるポンプであって、内周が軸受を介して回転自在に支持される上記回転子は軸方向に貫通する環流穴を備えているとともに、該環流穴は、回転子の射出成形の際に生じるウェルド部と異方性ボンド磁石である永久磁石の磁極間とに重ならない位置に設けられていることを特徴とするポンプ。
【請求項2】
前記還流穴は、回転子における着磁されて永久磁石となっている部分よりも内周側に設けられていることを特徴とする請求項1記載のポンプ。
【請求項3】
前記還流穴は、回転子の周方向において複数個が等間隔に設けられている設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記回転子は、再着磁用機材とのラジアル方向の位置決めのための位置決め部を備えるとともに、上記位置決め部は、上記ウェルド部と上記磁極間とに重ならない位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポンプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−270655(P2010−270655A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122398(P2009−122398)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】