説明

マイカテープ巻回性評価方法および装置

【課題】無機充填材をグラスクロス層の近傍に樹脂で固定したマイカテープにおいても、実機での巻回性、つまり切断の有無を評価できるようにすることである。
【解決手段】マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせ、その折り合わせたマイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにマイカテープに張力を加え、マイカテープの折り目部の引っ張り破壊強さを測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイカテープの回転電機のコイル導体への巻回性を検証するためのマイカテープ巻回性評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型の高電圧回転電機の電機子コイルは、集成マイカテープや剥がしマイカテープを用いたマイカテープを用いて絶縁されている(例えば、特許文献1参照)。マイカテープは、集成マイカシートあるいは剥がしマイカシートと補強材であるガラスクロスあるいはフィルム等とを樹脂で接着して形成される。
【0003】
例えば、大型の高電圧回転電機の電子コイルの主絶縁は、複数の絶縁被覆された絶縁電線の組み合わせからなるコイル導体に、マイカテープを複数回巻回し、その後に加熱・加圧成形および硬化処理をするか、あるいは樹脂を含浸して加熱・成形・硬化することによって形成される。この一連の工程のうち、マイカテープを導体に巻回する工程は、巻回の状態によって主絶縁の性能に大きく影響する重要な工程の一つである。特にマイカテープの巻回張力が少ない状態で巻回されるとマイカテープにシワが発生し、絶縁耐力を著しく低下させる場合があり、マイカテープはより高い巻回張力に切断することなく耐えることが必要とされる。
【特許文献1】特開2006−74859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、マイカテープには高い巻回張力に耐え得る必要があるが、マイカテープの工業規格であるJIS C2116「電気絶縁用マイカ製品の試験方法」では、巻回性に関連する項目として10項に引っ張り強さ、破断伸び、12項に耐折り曲げ性、13項に柔軟性があるのみである。この中で巻回張力に関連する項目は引っ張り強さであるが、前述の無機物を充填したマイカテープについては、マイカテープ引っ張り強さと、実際のコイル導体に巻回する際における巻回張力による切断(巻回性)に、必ずしも相関性がないことが判明した。
【0005】
図3は、従来方法によるマイカテープの引っ張り強さと、実機コイル導体におけるマイカテープ切断の有無との関係を示すグラフである。切断の有無としては、(1)完全に切断したもの、(2)一部切断したもの、(3)切断しないものに分類している。マイカテープ引っ張り強さ試験は、エポキシ樹脂を固着材として無機充填材をガラスクロス層に配置したマイカテープ(t0.19×w30mm)を用意し、JIS C 2116による引っ張り強さ試験を実施した。
【0006】
図3に示すように、引っ張り強さが90で切断するものがあり、引っ張り強さが160を超えても切断しないものがあり、引っ張り強さに関係なく、切断するマイカテープと切断しないマイカテープとが存在することが分かる。つまり、マイカテープの引っ張り強さは、実機コイル導体における巻回性(切断の有無)との相関が認められないことが確認できた。
【0007】
この結果、マイカテープ開発時には、マイカテープの引っ張り強さではなく、実際の回転電機用の電機子コイル導体で評価する必要がある。実際の回転電機用の電機子コイル導体で評価しようとすると開発期間の大幅な延長となり、また、マイカテープ購入時の受け入れ検査が困難になる。さらには、品質管理上ひいてはコイル絶縁耐力上の問題となるケースがあった。
【0008】
このように、無機充填材を配合したマイカテープにおいては、現行の引っ張り強さによる巻回性評価方法では、実機コイル導体での巻回性(切断の有無)を必ずしも反映しない場合があることが分かった。
【0009】
本発明の目的は、無機充填材をグラスクロス層の近傍に樹脂で固定したマイカテープにおいても、実機での巻回性つまり切断の有無を評価することのできるマイカテープ巻回性評価方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせ、その折り合わせたマイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにマイカテープに張力を加え、マイカテープの折り目部の引っ張り破壊強さを測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実際のコイル導体を用いることなく、材料試験でマイカテープの巻回性(切断の有無)を把握することができるので開発速度が向上し、さらにマイカテープ品質管理上の問題もなくなるのでコイル品質の安定性に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を説明する。まず、マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせる。すなわち、本発明で使用するマイカテープは、集成マイカ箔あるいは剥がしマイカシートとガラスクロスとを樹脂によって貼り合せてなり、さらに少なくともそのガラスクロス層に樹脂によって固定された無機充填材を有するものである。
【0013】
次に、折り合わせたマイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにマイカテープに張力を加える。そして、マイカテープの折り目部の引っ張り破壊強さを測定する。
【0014】
つまり、マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせたマイカテープの折り目部内側に第1の治具を配置し、当該マイカテープ両終端部を把持する第2の治具を配置し、第1の治具と第2の治具とを引っ張ることによってマイカテープに張力を加え、折り目部の引っ張り破壊部強さを測定する。その際に、その折り目部内側の第1の治具形状がマイカテープ幅方向に均一に応力が加わらず、マイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにする。
【0015】
従って、実機におけるマイカテープ巻回時の巻回状況、つまりマイカテープが折れ曲がり、かつテープ幅方向に不均一に応力がかかる状況を模擬することができる。これにより、実機での巻回性を反映したマイカテープ評価試験を適正に行うことができる。
【0016】
図1は本発明の実施の形態における第1治具の構成図である。図1に示すように第1の治具本体11は長方形の平板状に形成され、マイカテープを通す開口部12が設けられている。マイカテープは開口部12に通され、マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせ、開口部12の面取部13がそのマイカテープの折り目部内側に配置される。そして、マイカテープの折り目部の反対側は図示省略の第2の治具で把持される。第2の治具は、図1の左方向に配置される。そして、第1の治具と第2の治具とを引っ張ることによってマイカテープに張力を加え、折り目部の引っ張り破壊部強さを測定する。
【0017】
ここで、開口部12の面取部13は、図1では5角形の頂部である。5角形の頂部がほぼ中央部に位置するときは、マイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍に応力集中させることができる。この5角形の頂部を移動させることによって、マイカテープ幅方向の両端のいずれか一方に応力を偏らせることができる。また、マイカテープ折り目部内側の面取部13のマイカテープに接触する面の曲率半径をR0.6〜R1.0の範囲とすることにより、適正にマイカテープ幅方向に応力集中させることができる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態によるテープ巻回性評価試験(切断時荷重測定)について説明する。前述のマイカテープ(幅30mm、長さ30cm)と同じ製造ロットのものを用意し、一例として図1に示す第1の治具の開口部12に当該マイカテープを通してマイカ箔層が内側になるように折り、終端部で重ね合わせてもう一つの第2の治具で固定した。これらの第1の治具および第2の治具で固定したマイカーテープに対し、張力発生器としての万能試験機(インストロン5500R MODEL 1186)にマイカテープをセットした。そして、両治具に引っ張り方向の荷重を200mm/分の速度で加え、テープ切断時の荷重を測定した。
【0019】
一方、実機の固定子における電機子コイル導体による巻回性(切断の有無)試験も行った。まず、コイル直線部長が4300mm、コイル導体幅が19mm、コイル導体高さが75mmのタービン発電機用固定子の電機子コイル導体と、前述の試験に用いたマイカテープど同じ製造ロットのマイカテープ用意した。そして、マイカテープを巻状にしたマイカテープロールをマイカテープ自動巻回装置にセットして、張力を6kgとしてコイル導体への巻回を実施し、切断の有無を検証した。切断の有無は、(1)完全に切断したもの、(2)切断しないもの、そして(3)部分的に切断あるいは切断したりしなかったりしたものに分類した。
【0020】
図2は図1に示す治具を用いた本発明の実施の形態による巻回性評価試験結果と、実際の発電機固定子における電機子コイル導体へのマイカテープ巻回時における巻回性(テープ切断の有無)の試験結果のグラフである。本発明の実施の形態による試験方法による切断荷重と、実機固定子におけるコイル導体による巻回性(切断の有無)試験とを比較すると、切断荷重と実機コイル導体での巻回性は良い相関性を有することが確認できる。すなわち、実機固定子における電機子コイル導体による巻回性(切断の有無)試験で切断したものは、本発明の実施の形態による巻回性評価試験結果においても耐切断性が小さく、実機固定子における電機子コイル導体による巻回性(切断の有無)試験で切断しなかったものは、本発明の実施の形態による巻回性評価試験結果においても耐切断性が大きいという相関性を有する。
【0021】
本発明の実施の形態によれば、二つに折り合わせたマイカテープの折り目部内側に配置した第1の治具と、当該マイカテープ両終端部に配置した第2の治具とを引っ張ることによって、マイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにマイカテープに張力を加えて折り目部の強度を測定するので、マイカテープの回転電機の電機子コイル導体への巻回性を適正に検証できる。これにより、実際のコイル導体を用いることなく、材料試験でマイカテープの巻回性(切断の有無)を把握することができるので開発速度が向上し、さらにマイカテープ品質管理上の問題もなくなるのでコイル品質の安定性に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る回転電機の固定子におけるコイル絶縁用マイカテープの材料ベースでの巻回性試験結果と、実機コイル導体におけるマイカテープ切断の有無との関係を示すグラフ。
【図2】本発明に係る回転電機の固定子におけるコイル絶縁用マイカテープの材料ベースでの巻回性試験に用いる治具の一例。
【図3】従来方法によるマイカテープの引っ張り強さと、実機コイル導体におけるマイカテープ切断の有無との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0023】
11…第1の治具本体、12…開口部、13…面取部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせ、その折り合わせたマイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力が集中するようにマイカテープに張力を加え、マイカテープの折り目部の引っ張り破壊強さを測定することを特徴とするマイカテープ巻回性評価方法。
【請求項2】
マイカテープの折り目部内側のマイカテープ幅方向の両端近傍に応力集中することを特徴とする請求項1記載のマイカテープ巻回性評価方法。
【請求項3】
マイカテープ折り目部内側にマイカテープに接触する面の曲率半径がR0.6〜R1.0の範囲でマイカテープに張力を加えることを特徴とする請求項1または2記載のマイカテープ巻回性評価方法。
【請求項4】
マイカ箔あるいは剥がしマイカシート層を内側にして二つに折り合わせたマイカテープの折り目部内側に配置され張力が加わったときにマイカテープ幅方向の両端近傍の少なくともいずれか一つに応力を集中させる第1の治具と、当該マイカテープ両終端部に配置された第2の治具と、前記第1の治具と前記第2の治具とを引っ張る張力発生器とを備えたことを特徴とするマイカテープ巻回性評価装置。
【請求項5】
前記第1の治具は、張力が加わったときにマイカテープ幅方向の両端近傍に応力を集中させることを特徴とする請求項4記載のマイカテープ巻回性評価装置。
【請求項6】
前記第1の治具は、マイカテープに接触する面の曲率半径がR0.6〜R1.0の範囲であることを特徴とする請求項4または5記載のマイカテープ巻回性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−79416(P2008−79416A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255336(P2006−255336)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】